紗夜のBはBitchのB!   作:黒マメファナ

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Sの挑戦/デュアルなあの子

 それは唐突にやってきた。というか嵐はいつも突然だよね。花音も燐子も、なんなら紗夜との出逢いだって運命的といえば聞こえはいいけどめちゃくちゃ、嵐のようなものだもんねあのビッチたちは本当に。

 

「そういえば」

「どうかした友希那」

「とあるバンドから出演したいと言われたのだけれど」

「へぇ」

 

 ライブハウスの外にあるカフェで会話をしていると、そんなことを言われた。友希那がとても勢いがあっていいバンドよ、なんて言うからびっくりしちゃったけど、それって俺も知ってそうだよね。

 確認すると友希那はうなずいた。やっぱり、名前の売れたバンド……どこだろう。ポピパとAfterglowはもう出演決まってるけど、まさかハロハピ(かのん)とか? 

 

「いいえ」

「じゃあどこ?」

「わたしたちに決まってるじゃな~い」

 

 そうやって言う声がする方へ顔を向けるとネコミミヘッドホンが目に入った。

 あれこの子めっちゃ見たことあるよ。あれでしょRAISE_A_SUILENのDJやってる子だ。名前は確か……そうチュチュ。

 

「イエス! お初にお目にかかりマ~ス、Mr.カンベ?」

「知っててくれたんだ」

「トーゼン! 特に最近はメキメキと実力を付けてる、大ガールズバンド時代に現れたボーイズロック! センサイかつゴウタンな──」

「──チュチュ、前置きが長いわ」

「Oh.ソーリーソーリー……パレオ!」

「はい、チュチュ様!」

 

 そう言ってチュチュがキーボード担当であるメンバー、パレオちゃんの名前を呼ぶとジャーキーが出てきた。ジャーキー……好きなんだ。たまにはジャーキー以外にも食べるのですがとパレオちゃんがあきれ顔をしていた。

 

「湊友希那! 夏のライブ、三バンド合同にできないの!?」

「主催は無理よ。もう大樹……ワンドルのリーダーと話を決めてしまったもの」

「ぐっ……ならせめて客を奪ってやるわ!」

 

 そうだったRASさん方は確かRoseliaとはライバル関係のようなものなんだっけ。大ガールズバンド時代、なんて言われるガールズバンド最盛期に現れたバンドの最高峰二バンドは去年のRAS結成からずっと続く因縁の関係みたいなものだ。

 

「ご、ごごごごめんなさい!」

「謝る必要なんてないわよロック」

「えぇ……なんでそうなるんやろ……」

 

 後から、ギターのロックさんに謝られたけど、チュチュちゃんがすぐ煽ってくる。大丈夫大丈夫、このくらいで怒るほど友希那も俺も短気じゃないからさ。

 そういうとロックさんはあこちゃんに抱き着かれわたわたしていた。そっか学校も学年もおんなじなんだっけ。

 

「そ! ロックはすごいんだよ」

「そ、そんなこと……!」

「知ってる」

 

 RASのライブは行ったことあるし、その時にこれはと唸るくらいのギターテクを見せつけられたよ。ドラムもベースもキーボードも、そしてDJだって、ひとつひとつのレベルがめちゃくちゃ高いのにそれをがっしり纏めていて、なによりレイヤさんの歌声に惹き込まれるんだよねぇ。

 

「お目が高いわねカンベ」

「呼び捨て……」

「す、すみません」

「いやいいけどさ……三月の俺たちだと思わないでよ」

「……あわわ」

 

 ぶっちゃけ下に見られてるよねワンドル。だからこんなワガママなことまで言ってくるし高飛車なんだ。まぁ元来からそんなものいいだと言われればそうなんだけど。三月までの俺たちは正直、お遊びみたいなところはあった。部活の軽音部みたいなところね。

 でも、俺はモテたくてバンドをやっていた。タイクーンは友希那に憧れてバンドをやっていた。トーマはなんとかしてリサと同じものを見たくてバンドをやってきた。アイスとランスはよくわからないけど、二人にも目標みたいなものがあった。でも俺たちは三月までに全員が一度、目標を差はあれど達成していたんだ。だから三月のライブ前に俺たちは話し合った。

 ──解散するかどうか。俺たちはここで歩みを別にしていくのかどうか。

 

「……それで? その軽音部(ママゴト)を続けて、なにか得られたってゆーのかしらね?」

「チュチュさん……それ以上は、やめて」

「……ロック?」

 

 けんか腰になった俺とチュチュちゃんを止めたのは立ち上がった友希那ではなくて、眼鏡の青髪の少女だった。意外な声にチュチュちゃんも俺と同じようにロックちゃんを見た。

 そして俺の方にずんずんと歩み寄り、簡素なCDを差し出してきた。これは? 

 

「サ……サインください!」

「はい?」

「わたしっ、ずっとカンベさんのファンでして……楽しそうにベースを弾く姿が、その……カッコいいなぁ、と思ってました!」

「あ……ってことはライブにも」

「去年東京(こっち)来た時からずっと!」

 

 キラキラした瞳をレンズ越しに向けられ、俺はぼーっとしてしまった。友希那はそんな幼馴染である俺の様子にふっと笑って、よかったじゃない、と珍しく俺のことをカンベと呼んで

 きた。いや、サインを求められるなんて……練習しといてよかったなぁ。ひまりちゃんとつぐみちゃん以来だ。ってことはあれ、俺たちが三月に出したアルバムかぁ……ホントにずっと追いかけてくれてたんだな。

 

「あのあの! ぜひこの後時間ありますでしょうか!?」

「え……えっと」

「いいじゃない。お話しくらい、付き合ってあげなさいよ」

「友希那?」

「ろ、ロック!? まだハナシは終わってないわよ!?」

 

 チュチュちゃんの制止を振り切り、俺はロックちゃんと逃避行……ではなくスタジオにはいった。

 というかタイクーンをなんとかしよう会議の途中だったのに! 

 

「チュチュさんがすみませんでした」

「いや、お遊びバンドだったのは十分俺たちがわかってるし」

 

 そう、なにせ友希那にもそんな中途半端な覚悟でやってるバンドとは一緒に演奏できないって去年言われてるしね。

 でも、逆にそんなことを言ったはずの友希那がこうして一緒に企画までしてくれるってことの意味を実感できるんだけど。

 

「五月の箱ライブも見ました」

「ありがと」

「はい……あれはまさしくトーマさんが言っていた通りの、新生ワンドルだーって」

 

 ライブハウスで数曲やってるくらいだからあれだけど、大学生になった俺たちはほとんどが音楽系に行ってることもあり、また新しい目標を設定したからね。

 ──最高のバンドになろう。いつか、アリーナライブで観客を満員にできて、その客をわっと驚かせるくらいのビックなバンドに。誰かが路上で俺たちの曲をカバーした時に、道行く人たちが彼らに一ドルを投げ入れていくれるくらいに! 

 

「Wonderersは最初は道行く人たちをあっと驚かせて一ドルを出させちゃおう、せめて一ドルの価値のあるバンドだと思わせようってつけた名前だったのにね」

「カンベさんは……音楽が大好きなんですね」

「うん、大好き」

 

 なんか言ってて恥ずかしいけど、モテたいって始めたバンドも、ベースも、いつの間にか本気になってた。練習してみんなで音合わせて、笑いあってケンカして。

 なにより紗夜や燐子、花音に出逢わせてくれた音楽を、俺は大好きでしかないよ。

 

「ポピパさん……私の尊敬するバンドも、それをたくさん押し出しています」

「音楽が好き、その気持ちはなによりも純粋で、なによりも高みに飛び立つ翼……みたいなことを友希那が言ってた」

「飛び立つ翼……」

 

 まぁ、向こうは本当に飛び立っちゃってるけどね。なにせRoseliaはもう既にアリーナライブやってるんだよ。うちの目標既に達成してるってどんだけ実力に差があるんだって話なんだけど。音楽にすべてを懸ける覚悟、それは本気だってことだ。

 

「はぁ……すごいです」

「ロックちゃんは、なんかイメージ違うね?」

「へ? あ、ああ……えっと、私、ギター持つと……」

 

 あー、燐子タイプか。普段は柔らかくて……胸の話じゃないよ? おっとりしていてかわいらしい雰囲気なのに、Roseliaのキーボード担当は伊達じゃないからね。

 というか楽器演奏する人って多かれ少なかれそういうとこない? 楽器持つと人変わるよね。

 

「チュチュさんにもパフォーマンスはジャンジャンやりなさいって言われてるから……思いつくままにやるんですけど」

「ああ……アレね?」

 

 ロックちゃんがうなずいた。そう、俺が言ってるのもアレのことね。正直派手さと盛り上げと煽りでいくと紗夜より上手いと思う。紗夜は紗夜で盛り上がると別のことするんだけど、まぁそれは置いとくとしても。

 

「ひ、引きます、よね……私があんなの」

「いやいや、カッコいいじゃん!」

 

 ぱっとロックちゃんは笑顔を浮かべてくれた。うーん、にしてもこんなかわいい子がねぇ。小柄で童顔なのにやってることえげつなさすぎるってトーマが言ってたけど、知り合ったら流石にアイツは引きそう。

 

「……少し、いいですか?」

「ん?」

 

 そう言うと、おもむろにロックちゃんは眼鏡をはずしてシュシュをほどいた。するとまるで別人かというくらいに雰囲気が変わって、俺の目の前でギターを弾き始めた。間近で見ると本当にすごいよね。指の動きとか……なにより幾分か大人びて……ううん、とあれですね俺、久しぶりにこの鳥肌、二重の意味の鳥肌を感じた。もちろんギターテクの鳥肌、それとあれだよ。捕食者を見つけたんだよ。

 

「連絡先」

「え……?」

「カンベさんは、カノジョいるの?」

「います」

 

 ヒエッ、眼鏡がないから多分至近距離に来てるんだろうけど隣に座って脚を触る必要はないと思いますロックちゃん? そう思っていたらスマホを盗られた。図られた……メッセージアプリの上にいる紗夜はよりによって俺とのツーショットなのですぐわかるんだよね。

 

「氷川紗夜さん……そっか」

「うん」

「私にしない? セフレでもいいけど」

 

 うーんロリ体型はなぁ……ってそうじゃなくて。セフレ、セフレですか。間に合ってます。俺、実はカノジョ三人いるからね。何言ってんだろうね俺。

 けど結局連絡先は交換させられて、腕を組まれ……っ!? なん……だと。ふに、と当てられた感触、意外とあるんだけど。油断していたら頬にキスまでされた。

 

「それじゃあ……()()()

 

 いやまたねって……どうしようこれは俺お説教タイム始まる。搾り取られる……だって今週のお相手は燐子だからね。

 とはいえ黙っていれば浮気扱いでもっとひどいことになるので外であこちゃんと談話している燐子と紗夜を呼ぶ他ないんだけど。

 ──まぁ結果どうなったかはお察しください。燐子は怒るとサキュバスになります。

 

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