紗夜のBはBitchのB!   作:黒マメファナ

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Bは振り回す/切れない二人

「最近、カンベさんが他のギタリストの女にかかりっきりなのが許せません」

 

 大学の食堂にて、リサと俺、それとトーマがいるところで急にそんなことを言い出すウチのハジメテに定評のあるカノジョさん。むん、といつものクールな雰囲気はどこへ行ったのやら、かわいらしい腕を組んだ不満げな仕草で隣の俺を見てきた。なに、他の女のギタリストって。

 

「ああ、ロックのこと?」

「ロックって、RASの?」

「そそ、羽丘(ウチ)の後輩なんだよねー」

 

 そうするとお前もロックちゃんのこと知ってるんだね。そもそも去年からさんざん目の敵にされてきたRoseliaにとってRASメンツはもはや顔なじみみたいなところがあるらしいからそうなのか。紗夜だって知り合いだったもんね。

 

「その朝日さんのことばっかり考えてるのよ、浮気かしら」

「いや~、三人カノジョ囲っといて浮気はヤバいっしょ」

「カンベ、四人目か?」

「違うよ」

 

 トーマまでそんなこと言ってさ。恋愛的なヤツじゃないんだって。いや向こうのベクトルとしては恋愛的なヤツなのかもしれないけど、俺はそれで悩んでるんじゃないしなんなら断ってるんだけど。

 

「けれど最近、そればっかりなんです。浮気よこれは」

「浮気じゃない」

「だったら」

「浮気だったら花音が許してくれないと思うんだけど」

 

 そうだよ。この間は花音もその場にいたんだから浮気判定入ったら俺ひどい目に遭ってるはずだからね。それがちゃんと花音に強制的におうちデートでご機嫌で帰っていったんだから。白鷺さんにはちゃんとごめんなさいをしておいた。今度香りのいいお茶の葉とか贈った方がいいのかもしれない。

 

「それで、ロックの何が気になるの?」

「なんか……焦ってる? 感じがしてさ」

「焦っている……ですか」

 

 そう。幾らなんでも脈絡が無さすぎるでしょ? 会っていきなりファンだったってところから飛躍してセフレでもいいよとか言い出して、でも女誑しはダメって言ってた。わけわかんないでしょ。完全に矛盾してる。

 

「確かにな。誠実な男じゃないとダメならセフレじゃダメだろうな」

「そだね、ましてカノジョいるの知ったらフツーは手出そうとはしないよね」

「そうなんだよ。だから謎すぎて気になってるんだよ」

「ですが」

 

 不満げな紗夜をリサがはいはい、と宥めてくれていた。最近の紗夜は俺以外でも俺が近くにいると割と俺の知ってる紗夜が出てくるようになった。リサもトーマも問題なく受け入れてくれてるし、逆にどこか作ってる紗夜じゃない方が俺も安心するしね。

 

「ところで、友希那とタイクーンは?」

「二人でメシ、友希那さんが誘ってたよ」

「……やはり、カンベさんの言う通りだったのかしら」

「アタシとしては両片思いなんだから、くっつけばいーのに、って思うケドね」

「確かになー」

 

 その両片思いに自信が持てなくて俺やタイクーンがフォローしたこと忘れてないかな? いや多分今のカノジョとの関係を取り持ってフォローしてくれた比率としては十分に俺の方がフォローしてもらってるけどさ。

 

「きっと、タイクーンさんは戸惑っているのね」

「まぁ、雲の上のような憧れの存在だったから、友希那は」

 

 タイクーン……吾妻大樹(あづまたいき)にとって友希那ははるか上位の存在だった。まだRoseliaができる前、孤高の歌姫だった頃からあの透き通った宝石のような、けれど琥珀のように色々なものが固まってできた歌声に惚れ込んでたんだから。

 

「それが大学になって急に、身近になったからな」

「その前からよーたやアタシとのかかわりで身近になってたのに、大学一緒だもんね~」

 

 そうなんだよね。大樹は知っちゃったんだよ、友希那の本質や本性を。ボーカルとしてだけでないアイツを。緑黄系の苦いもの、特にゴーヤが嫌いだとか、逆にコーヒーには砂糖が欠かせないくらいに甘党だとか、猫が好きでよく戯れに行ってるだとか、そういう友希那のパーソナリティに触れて、大樹の気持ちが憧れからゆっくりと変わっていったんだと思う。

 それは、なんとなく二人を引き合わせていた俺たちにも責任はあるけどさ。

 

「いやー、でもさアタシらはどっちかってゆーと友希那にタイクーンのいいとこ知ってもらおう的なヤツだったじゃん?」

「そうね。まさかこうなるなんて……誰も予想できなかったわ」

「友希那、Roseliaで随分昔に戻ってる感じするから」

 

 クールっていうかあの仕事しない表情筋は相変わらずだけど、その奥にいる友希那は昔の、歌が好きで笑っていたあの子になってる。元々素直なヤツだしな。

 歌にも憧れにもまっすぐなタイクーンのこと、それだけ気に入ったんだろうなぁ。

 

「湊さんも案外ああ見えて熱い性格ですから」

「俺たちが出しゃばらなくてもいいようなことを願うかな」

 

 いつの間にか友希那たちの話に花が咲いて昼が終わった。ところで紗夜、まだ拗ねてるっぽいけどホントに浮気じゃないのはわかってくれたんだよね?

 釘を刺すような俺の物言いが嫌だったのかわかっているけれどそれはそれとしてヤキモチくらい妬かせてほしいと言われてしまった。

 

「妬きたい……その心は?」

「振り回したいの」

「俺を?」

「ええ」

 

 つまり特になんでもないけどわがままが言いたいだけってこと? えー理不尽だしそれめちゃくちゃな理論だと思うんだよ。そもそも俺、普段から花音やら燐子やらに振り回されていて紗夜と一緒の時がそれがなくて安心できる場所なのに。

 

「……ですよね」

「いいけど」

「はい?」

「いや、わがまま言っていいよって」

 

 どうしてその会話の流れでいいことになるのかって、だからこそだよ。紗夜ってほら、恋愛下手だから……ってそれは俺もなんだけど、いざ付き合ってみてわがまま的な、そういう振り回しはしてこないんだよね。そりゃ二人きりの時の下ネタや紗夜さんの性講座はたびたびあるけど、それこそどっかのクラゲビッチさんよろしく恋愛感情で殴ってこないじゃん。

 

「俺は、言葉にしてくれないと……ホラ察するの下手クソだし」

「そうね……下手クソ素人童貞だものね」

「余計なものつけたね」

 

 油マシマシじゃねーか。ラーメンでいったらこってりじゃねーか。

 けど、まぁそのくらいご愛嬌だよ。そんなことでいちいち紗夜にイライラなんてしない。俺は紗夜のことちゃんと好きだから。

 

「……そういうスキルは身に着けたのね」

「紗夜が身に着けさせたんでしょう」

「そうやって侍らす女を増やしていいとは言ってませんが」

「言われてないし、やってないね」

「ヤってたら全員であなたを搾り取ります」

「意味が違う!」

 

 全員はマジでヤバいからやめて。一対一ですらアレなのに二人、三人って増えるのホントに怖いから。

 そもそもね、そもそもの話、俺がそこまで手を出せるように見える? いや三人って言ってる時点で全く信用ないかとは思うけど。

 

「陽太」

「ん?」

「帰りに……どこか寄り道をしたいわ」

「いいよ」

 

 寄り道、紗夜と俺があんまりしないこと。そして俺が花音や燐子とはよくするもの。しかもどこかってところがポイントだと思う。

 具体的じゃない、何も決めてない行き当たりばったり。紗夜の好きなところに行って、いろんなものを見たり食べたり、日が暮れるまでそうやって二人で過ごすこと。紗夜が求めてるものだった。

 

「あ、そういえばほしいものが」

「なに?」

「ローション、リモコンバイブ、ディルド……は新しいのはいらないから」

「一人で行って」

「冗談よ」

「紗夜が言うとイマイチ冗談に聞こえない」

「私は道具を使わない派なのよ」

「知らないよ」

 

 知っておいてほしいわとか言われても知りません。道具派なのは花音ってことくらいしか。あとローションとかピンクのファーがついた手錠とか謎のアイテムは割と燐子が持ってることは知ってるけど。

 

「あとは陽太の気に入りそうなAVとか」

「なんで俺まで巻き込むの?」

「カノジョとしてカレシのオカズは把握しておきたいので」

「してるでしょ」

「ええ」

 

 ええじゃないが。これは俺が冗談のつもりだったんだけどいつの間に把握されていたの? というか隠し場所バレてます?

 紗夜は童貞の隠し場所なんてすぐわかるわよとドヤ顔をしていた。絶対嘘でしょ把握してるなんて。

 

「だってオカズは部屋には隠してないから……でしょう?」

「えっ」

「そうよね、最強の精神童貞でもある陽太にアダルト雑誌やAVが買える度胸なんてないものね」

「ひどくない」

 

 その通りだけどさ。けどやっぱり俺だって男なんだからムラっとすることはあるわけだけど、その時の発散してるツールを……把握してるんだな紗夜は。すごい言いたそうな顔してるけど言わせねーよ?

 

「スマホ」

「そりゃそうでしょ」

「松原さんのオナニー動画」

「……は」

「白金さんのハメ撮り」

「待ってホントにどこまで知ってるの?」

 

 というかこんなピンク色な会話を講義室内でするのはどうかと思う。人がまばらで俺くらいにしか聞こえてないだろうけどさ。

 そうだよ基本的にカノジョでヌいてるよちくしょう! 恥ずかしいんだけど? 肯定するのも地獄なんだけど。

 

「というわけで楽器店に行きたいわ」

「さっきまでのくだりはなんのために?」

「さぁ……? そうそう、弦が」

「さては俺に買わせる気だな? 脅迫? 脅迫なのそれ?」

 

 ああ、これが振り回されるってことなのかな。紗夜のストーカーじみた俺への把握能力は問い詰めてもあなたのハジメテなのだからとか言ってはぐらかしてくれちゃうし。アンプやら楽譜やらを手に意地悪な笑みを浮かべた紗夜が俺の腕を引いてこれが欲しいあれが欲しいって言うんだろうことは容易に想像ができた。

 まぁ、だけどそんな楽しそうな紗夜が見られるなら……わがままに俺を振り回して満足気な紗夜がありがとうって言ってくれるなら、いいかなって思ってしまうところあたりもう、俺は紗夜から離れられない気がしてならないよ。

 ──やっぱり紗夜には、勝てそうにはないかな。

 

 

 

 

 

 

 

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