「我のこの手が漆黒の炎に燃える……えーっと、えーっと」
「あこちゃん……」
「りんりんさすがー!」
「あこっ」
なにやってんだお前らと言いたくなる野次馬たち。まぁ俺も野次馬の一人なわけだけど。
あこちゃんがスマホを構えて厨二セリフを相変わらずの語彙力で言い淀んで燐子に入れ知恵されていた。あのね、たぶんあこちゃんが原因なんだと思うけど。薔薇咲く時を切り取れと轟叫ぶは色々アウトだからやめようね? 爆熱しちゃってるから。
「神の指……って、なんだか……えっちですよね」
「燐子……」
リサにガチで引かれてるからやめなさい。え、でも……と燐子がって、中指と薬指をカクカクさせないの! ゴッドなフィンガーでヒートエンドねとか紗夜なら言い出しかねないからやめて!
「ヒートエンドするのは私たちですが」
「イっちゃうからね」
「二人揃って!」
「よーたシャラップ」
す、すいません……なんだかとっても理不尽な気がするけど謝っておこう。確かにうるさかったしね。そしてこの人たち下ネタのバリエーションが上がって……なんというか全員がこういうくだらないギャグ的な下ネタも披露してくれるようになった。披露せんでいいっての。
「──さぁ大樹」
「む、無理で、だって……こんな場所で」
「こんな場所でないなら、どこなら大樹は私が望む二択に答えをくれるのかしら?」
おお、タイクーンが完全に論破されている。友希那は純然と事実で押しつぶす感じだもんな。感情的にも先に言いたいこと吐き出している友希那の方が優位か。惚れた弱み的にはここでフられたらすごくいたたまれなくなるけど。
「そういえば聞いたことがあるわ」
「なに?」
「テーマパークのような衆人環視の場で派手なパフォーマンスとともにプロポーズをすると、成功率はどれくらいか、わかるかしら?」
「え……知らないけど」
あーそれともあれか? そのパフォーマンスをするくらいまで仲が進展しているから100%とか? こういうたくさん人がいる場でデートするんだから基本的に押せば大丈夫、つまりあの二人も両想い、って言いたいのかな?
「いいえ」
「え、じゃあ」
「100%成功する、よねそれ」
「はい」
リサがそう答えを言い、紗夜がうなずいた。やっぱ100%じゃん! と思ったけど燐子が何かに気付いたようにきっとそれは……確率しか合っていません、と首を横に振られた。え、じゃあどういうこと?
「
「だよねえ。みんなが見てる前で告白されちゃったらさ、成功したら道行く人も祝福してくれるだろうけど、フったら完全に悪者でしょ?」
「それが嫌なら受けるしかない、だから100%ってトコでしょ」
ん? つまり? 告白してもオッケーって
「つまり~、ここでタイクーンさんがお返事しても……?」
「ま、言わされただけになるってことだな。タイクーンもそれが嫌で拒否ってんだろ」
あーなるほどね完全に理解したわ。
アイツはめちゃくちゃ律儀な男だからな。ちゃんとした場で、誰に流されるわけでもない場所で……そんな風に思ってんだろうな。
けど甘いな、名誉童貞だが友希那がどう動くかは俺の方がわかるらしい。ぐいぐい来る系はそんな雰囲気がーとか、テンプレがーとか気にするようなヤツじゃない。
「とりあえずみんなの合流しよう」
「嫌よ」
「友希那さん」
「嫌よ」
「頼むから……友希那」
おおーと思わずあこちゃん、リサ、俺、トーマの四人から感嘆の声が出た。あの友希那を遂にタイクーンが呼び捨てにしたよ。勇気を持って彼女へ一歩踏み込んでいったタイクーンはもうそれだけであの時の俺よりもずっとずっとカッコよくてスゲーヤツだと思う。
「踏み込めなかったせいで現状だもんね?」
「やめて花音」
ああそうですよ! もっと前に素直に紗夜か燐子の手を取っておいてついでに童貞もあげておけばハーレムクソ野郎にはなりませんでしたよ! 守ったよ! 守りましたよ必死に! その結果がこれなんだからもういいでしょ! プライドと戦った俺が悪かったよ!
「それじゃあ、一つだけ訊かせて」
「なんで……なに?」
「私はあなたが憧れる……歌だけにすべてを懸けたつまらない女かしら?」
「──っ!」
あーあ、と花音が声を漏らした。地雷を踏んだなタイクーン……俺はわかるぞ、俺もよくやるからそれ。
友希那の場合、地雷は最初の印象という呪いに似た何かだ。彼女は復讐のために歌を歌い続けていた。ひたすらに心を閉ざし、親の成しえなかったものという籠から抜け出せない翼の折れた鳥だった。
でもRoseliaの仲間と出逢い、他のバンド仲間と出逢い、色々なものを見てきた彼女はいつの間にか大きく育った翼で目指す頂点へ羽ばたいていった。そしてなにより友希那を変えたのは、そのための翼は歌以外を切り捨てることじゃなかったってことなんだから。
「私は、すべての私を誇っていたい。それは歌だけではないわ」
「……うん」
「でもあなたがもし、私に抱いているものが憧れだけなのだとしたら……私も諦めるわ」
全てを見せたつもり。それでも憧れ以外の感情が抱けなかったのだとしたら、自分の隣に相応しくはなかった。そういう厳しさがある。いやお前から惚れたんじゃないのとツッコミたいけどこれが友希那のスタンスなんだろう。パートナーってなるとアイツの歌姫じゃない姿も見なくちゃいけないってことだもんな。それが受け入れられるか受け入れられないか……そこが友希那にとって大事なことなんだな。
「どうなの?」
「最初は、言う通り憧れしかなかった。そもそもボーカル目指したのも、友希那さんの歌が衝撃だったからだし」
中学の時にソロで歌う彼女を知ったタイクーンはこんな風に堂々と自分の声で自分の音楽を表現したいと目を輝かせて言ったっけ。その時から、俺と
「大学で一緒になって、ボーカルの湊友希那じゃない姿をたくさん見た。一緒に猫カフェにも行った……その時の衝撃は今も忘れてないよ」
ちゃっかりデートしてんねぇ! と茶化す場面ではないですね失礼。おそらく口にしたらリサに殴られるので。
まぁ友希那は猫を前にするとアレだから、人格変わるから。昔飼ってたせいかホントに好きなんだよなぁアイツ。
「それで、どうだった?」
「──かわいいと思った」
「……そう。ならいいわ。答えは今夜、またゆっくり二人きりの時間に訊かせてくれるかしら?」
「わかった……今夜?」
それなタイクーン。俺も思ったよそれ。今夜? と首を傾げるとあちゃーとリサがやらかしたという顔をしやがった。おい、まさかお前……今日はサプライズでホテルで一泊だよって言おうと思ったんじゃないよなぁ!?
「バレちゃった☆」
「俺も聞いてないぞリサ」
「だって男子陣にはヒミツだったもん」
「あこも!」
「大丈夫、バッチリ許可取ってあるよ!」
「流石リサ姉~」
「誰が誰と相部屋?」
流石にこの近くのホテルに男三人で泊まれるところはあれど女子六人はないでしょ。ド高いんだけど三部屋も借りれたの?
するとリサは花音にお願いしたから大丈夫だよね? と確認した。
「うん四部屋♡」
「は? どうやって?」
「こころちゃんに頼んで」
「弦巻家!」
そうだった、花音のバンドのボーカルってあの弦巻さんちの一人娘なんですってね。俺あんまり顔合わせたことないからすっかり忘れてたよ。んで? 四部屋……ってことはまさかアレか? 部屋割りが事案では?
「アタシとトーマ、紗夜と花音とよーた、あこと燐子……あとは」
「湊さんとタイクーンか」
最低な組み合わせだなおい! 燐子が愕然としてるけど大丈夫? あなた生理中だから我慢しなさいと紗夜に言われ、しゅんとした。どうやらゲーミングPCを用意……どうやってとかはもう訊かないことにして二人で思う存分ゲームできる仕様にはなってるらしい。俺の部屋も考えたくないなぁ……絶対クイーンサイズとかだろ。
「ちゃんとアッチの二人はフツーのベッド二つの部屋だよ」
「流石にそこは……ね?」
「俺とカンベの部屋はそうじゃない、と」
「予想はつくけど」
あこちゃんが後ろでいっぱいゲームしよ、ね? と必死にしょんぼり燐子を宥めてる。どっちが年上なんだか……それにしてもサプライズ大成功と喜び合う花音とリサの用意周到さには舌を巻くよ。失敗してるけどねサプライズ。
「ささ、とりあえずブロードウェイへご案内~ってことで! 友希那たちに気付かれる前に迂回して向かうよ」
「ラジャー!」
「ふふ、なんだか初々しくていいなあ」
「そうですね」
「……青春、ですね……」
「なんかどっと疲れた」
しかもしれっと買わされたし、クッソ高いなそのぬいぐるみ! ストラップ型の小さい奴ですら四桁どころか3000円優に超えるし! マジかよ。
ただぱっと会計するには一人で払う方が都合がよかったからと後でお金は返されたんだけど。いやいいよって言ったもののこの中で一番お財布事情がピンチなのは誰でしょうと言われてぐうの音もでなかった。羨ましい限りである。
「最後に」
「まだあるの?」
「もう一回……大樹の口から呼んでほしい」
「ゆ、友希那……」
「ありがとう大樹」
最後に聴こえてきた会話はあっまあまで、いいなぁ羨ましいなぁと思いながらもそういう恋愛を送ってこなかったことに全く後悔していない自分がいることに気付いた。そりゃそうか。なんだかんだで、俺は充分に、というか充分すぎるくらいに満たされていますとも。ちゃんとそのことを確かめられたという意味では俺としても成果のあるトリプルデートだった。
──というわけでここから合流してメシ食って、また遊んで、ホテルについて……というシーンは割愛させていただきますね。後はもう全編三人の見目麗しい女性たちによる下ネタが当たり前にある世界なので。花音の豪華なラブホみたいという言葉を俺は多分しばらく忘れないと思います。