ライブハウスCiRCLE。ガールズバンドの新たな時代、新たな伝説を築いたバンドたちがライブをしているという評判から超人気のライブハウスであり、地下に箱が、上階はスタジオがあり、外にはおしゃれなカフェスペースまである素敵な場所だった。
「いらっしゃい、ってリサちゃんと……? 男の人連れてるなんて珍しいね?」
店番をしていたのはそんなに年が離れていなさそうな……二十代くらいの女の人、って当たり前かガールズバンドの箱だもんな。
そんなリサは常連さんだから当然その人、月島まりなさんに名前を憶えてもらってはいるが、俺が中に入ったのはこれが初めてのことだった。月島さんも目をパチパチと閉じたり開いたりして驚いている。
「んーっと、コイツはまぁ、ただの幼馴染ですよ」
「ただの……怪しいなぁ」
「いやいや本当ですって」
合ってる合ってる。コイツとはただの幼馴染でリサのカレシは別だし俺のカノジョも別にいるからね。一応短い間だけどお世話になりそうなので自己紹介しておく。なんでもRoseliaが武道館ライブをできたのは彼女のおかげらしい。
「それだけじゃないよ~、アタシら
「……月島さんのおかげってこと」
「そそ!」
「それは言い過ぎだよリサちゃん……!」
すごいな月島さん。彼女はけど期末すぐ後だから暇なんだよねぇ、と読んでいた本に栞を挟んで溜息を吐いた。あーそっか。あこちゃんが唸ってたなぁ。俺もあんまりテストとか得意な方じゃないからなんとも言えないけど。
「あこはヤマがバッチリだったって」
「それでいいの?」
「ダメだけどさ。そこまで口出しするの、なんか変じゃない?」
アタシはリサ姉だけどさぁ、とちょっと苦笑いをする。そんなやり取りにやっぱり仲良しだと月島さんがふふふと笑ってから、今日はどういう用事なの? と話を切り替えていく。そうそう、俺は会いたい人がいたんだよ。リサが知り合いって言うからね、伝手を頼らせてもらった。
「こんにちは」
「あ、レイヤちゃん」
「どうも、ご無沙汰してますまりなさん」
「こっちこっち」
「リサさん」
そう、RASのベース&ボーカル、レイヤこと和奏レイさん。俺が
友希那が歌姫、って呼ばれてるけどそういう感じじゃなくて、マグマのような熱量を持った……ううん、表現が難しいな!
「とにかく、会えて嬉しいです」
「私も、カンベさん、でいいですか?」
「もちろん!」
ベーシストが三人で座談会のようなイメージである。思ったけど俺ガールズバンドのベーシストの知り合い少ないんだよね。えっとリサは幼馴染でしょ、後はファンですーって言ってくれるひまりちゃんでしょ、後は音楽繋がりじゃないけど花音の保護者である白鷺さんくらい? 男性の方も中々連絡先まで知ってるベーシストいないんだよね。だからこうやって知り合えるのめちゃくちゃ嬉しかったりする。
「それで、お話しって……? 対バンに問題がありましたか?」
「ああ、違う違う、よーた……こっちのカンベがさ、ロックについて知りたいんだって」
「ロック? うちのLockですか?」
「うん」
六月中頃にあったロックちゃんとのひと悶着を彼女に一通り語ると、レイヤさんは少し神妙な顔になった。というか月島さんも聞いてるからびっくり仰天してる。そうなんです、あなたの常連さんのうち三人俺のカノジョです。レイヤさんは……あんまりびっくりしてないね。
「驚いてはいますけど、一度見かけた時にはそんな雰囲気だったから」
「あーよく出没するから」
「大体二人侍らせてね」
「あの時もそうだった、だから三角関係かな? って」
いやあれで三角関係はないよと俺がツッコミを入れると恋愛はよくわからないからと恥ずかしそうに笑うレイヤさん。なんだかステージで見るのとは印象が違うよね……そんなこと言うと違わないのチュチュくらいだけど。
「そうかな?」
「レイヤ、無自覚だから」
「マジ?」
「マジマジ」
強気でかかってきなって感じの歌声だし歌詞もなんか力強いじゃん? なのにこう普段の彼女を見る限りクールビューティーっぽいのにちょっと天然系な感じの残念美人って言ったら悪いけどそういう感じ。あれだよ、友希那のファンにネコを与えた時の友希那を見せたらおんなじような感想抱く気がする。
「それで、ロックはなんでそんなにこのバカに固執するの?」
「バカって」
「カンベさんに……うーん。好き、というか憧れてたのに裏切られた、みたいな感じかな?」
「憧れてたのに……?」
「例えば、カンベさんが憧れるような子がいたとして、その子の援助交際帰りを目撃したり、オフパコ、みたいなのをしてたとか、セフレがいたとかなったら、同じなんじゃないでしょうか?」
うーん!
──うんと話がそれましたね、明後日へ。ええっと、つまりロックちゃんは最初期の俺の感情をなぞってるかもってこと?
「こんなので何かヒントになればいいんだけど……」
「いや、十分すぎるよ」
「私だけだと不安だから、他のメンバーも紹介しておきます」
チュチュはアレだけど他の二人は私よりもそういう話には敏感ですからと笑うレイヤさん。パレオちゃんはなんとなくわかる。わかるけどマスキングが? 嘘だと言ってほしい。冗談だと笑い飛ばしてほしい。あれはヤンキーでしょ。スカジャン着てあの雰囲気でバイク乗ってるの見たこともあるのに? 意外すぎるんだけど。なに、ここのメンツは意外性ないと生きていけない世界なの?
「ますきは特に少女マンガとか好きだしかわいいの好きだし色恋好きだし」
「……ますきってマスキングのことだよね?」
「うん」
うんじゃない。これを異常だと感じてくれよリサ! まぁ紗夜や燐子や花音を見てる俺がこれを言うのはおかしいかもしれないけどさ。
それからはちょっとベース談義をして、好きな曲の話をした。レイヤさん、やっぱり洋楽が好きらしくてスマホの中めちゃくちゃ洋楽入ってた。俺モテたくてやってたロックにわかだから邦楽しかわからんのだ。因みに湊パパの影響かリサも案外洋楽好きなので俺だけが話題から置いていかれた。ローリングストーンズとかメタリカとかクイーンとかディープパープルとかマジで名前は聞いたことあるし曲もサビはああーってなるけどそこまでなんだよなぁ。
「私でよければ教えますよ。歌詞とか意味がわかれば多少ついていけませんか?」
「う、うん……ガンバリマス」
「アタシが一回勧めても全然ダメでさ~」
「音楽のカッコよさ、みたいなのがわかれば絶対伝わると思いますから」
ロックもかなり洋楽オタクですよと言われて、しゃーねぇと二人による洋楽解説を延々と聴くことになった。今度紗夜にも訊こう。ウチのカノジョは俺にゲロ甘だから興味ないの知ってて勧めてこないんだよね。燐子はゲームBGMやアニソンやボカロ特化だし、花音はV系とかメタルが好きだからね。お互いの好みのジャンルは干渉しないんだよ。
そして次はマスキングを紹介してもらえることになって、レイヤさん……レイヤの連絡先をもらって解散となった。
──ロックちゃんに一歩近づけた気がする。このまま、彼女の問題もなんとか解決できたらなぁと紗夜に怒られるようなことを考えながら、その日は眠りにつくのだった。