紗夜のBはBitchのB!   作:黒マメファナ

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Lを解け/キングで乙女なドラマー

 さて、次なる相手は……とレイヤさんが相手をしてくれた先に俺は背筋が伸びてしまう。いや、いやいや、いやいやいやいや。

 やっぱ帰っていいですか? ここロックちゃんが働いてるライブハウスですよねぇ!? 

 

「あー、そうだねえ」

「……花音。俺を裏切ったの?」

「あ、今のNTR(ネトラレ)のしょうもなくチャラ男にカノジョ寝取られる童貞カレシくんみたいでいいかも」

「冗談でもやめて」

 

 マスキングと知り合いなのは意外にも花音だった。やっぱガールズバンドしてて同パートだとなんらかで関わりがあるのだろうか。あこちゃんも知り合いだったし、アイスもなんかそんなような雰囲気出してたから訊いたら頷いてた。

 

「ますきちゃん、ここのライブハウスのオーナーさんの娘さんなんだよ?」

「……なるほど」

 

 つまり家か! ご自宅ですか! 今日はロックちゃんはお休みだそうなので地下への階段を下っていく。CiRCLEとかには人数は劣るが割といい感じのハコのようだ。おお、八百屋が経営してるとは思えないくらいなんか本格的な設備だった。いいなここ。

 

「うっすカンベさん! 花音さんも!」

「……あ、うん?」

「こんにちは」

「ささ、座ってください! なんか飲みますか!? つかカンベさんは甘いもん平気っすか!」

 

 え、え~なにこれ、なになに? と思ってるうちに折角なんでクッキー作ったんすよとすごくキラキラした笑みで紅茶とクッキーを置いてくれた。うわ、アイシングクッキーだ。俺知ってるよ。だって紗夜も作るし、その紗夜に作り方を教えたのはうちの塩対応ギャルだからね。

 

「ギター型、かわいい」

「光栄っす!」

 

 というかなんかマスキング、後輩系になってるんだけどどういうこと? このクッキーを作った? 謎が多くて混乱してると花音が落ち着いて~といつものふわふわましゅまろスマイルをくれる。外向きの花音ってホント癒されるなぁ。内向き、というか二人きりの時も大抵の場合は癒されるけど。

 

「今はロックちゃんのこと、でしょ?」

「……ウチのロックがなんかやらかしたんすか?」

「いや、やらかしたのは実質俺なんだけどね」

 

 ひとまずはレイヤさんにもしたけど一通りの事情を説明していく。マスキングはちょっと俺の恋愛関係の話に顔をやや赤くしながら聞いていた。ホントに色恋に敏感なんだ……というかお菓子づくりが趣味なことといい、ギャップすごすぎでは? 

 

「あー、確かにロックは怒ってんだと、思います」

「そうだよね、私も好きな男の人が複数囲っていちゃいちゃしてたらムカっとしちゃうもんね」

「……え?」

 

 ごめんねマスキング。コイツビッチなくせに恋人はめちゃくちゃ束縛したいタイプだから。かなり独占欲あるし、時折見せる私のものにしたいって気持ちはある種燐子より重たい愛情だと思う時もあるもん。

 

「あとあれだよ、雰囲気的に童貞くんかと思ってたんだけど最近別の子と仲良いなぁって思ってたら倉庫から喘ぎ声が──」

「──ストップ花音!」

 

 マスキングが茹蛸になってしまわれているのでしばらくお待ちください。というかなにそのビックリエピソード。流石の花音も倉庫でバイト中にヨロシクヤってるのはアウトだったらしく店長に通報、あえなく二人は辞めさせられることになったんだとか。

 

「その辺はちゃんとしないとね」

「……で? 話それてる気がするんだけど、花音は何が言いたいの?」

「印象って案外覆らないよってことかな?」

 

 にっこりとマスキングを指すようにも聞こえる言葉を向けられ俺は背中に汗を掻いてしまう。俺のこと言ってるよねそれ……ごめんね。

 俺は確かにその覆らない印象に固執して、ビッチって名前に固執して紗夜や燐子を傷つけてきた。花音はそんな俺をずっと怒ってくれていた。今日のマスキングだってそうだ。彼女の見た目は明らかにヤンキーだし、雰囲気も怖いけど少女マンガが好きでお菓子作りが趣味で、かわいいものが好き。そんな印象とは違うことだからって目くじらを立てる世界なんて……窮屈でしかないんだ。

 

「クラゲってあんなふわふわしてかわいい見た目なのに、肉食なんだよ?」

「……確かにそうっすね」

「確かめちゃくちゃ獰猛なんだっけ」

「うん」

 

 そんな意外性について語る中で、マスキングが納得したように正直な話、カンベさんにカノジョがいる印象がないっすねと苦笑いをした。ああうん、それ自己評価でもそうなんだから遠慮しなくていいよ。なんなら未だにカノジョ方から名誉童貞の称号をゲットしてるくらいなんだから。いや童貞奪ったのアンタだろとツッコミを入れたい。

 

「ロックも、そうかもしれねぇっす」

「え?」

「アイツ、ずっとカンベさんのファンだったらしくて……高校卒業してからワンドルがガチになった時は、スッゲー喜んでて」

「……そんなカンベくんの印象は、そんなことはしない、誠実な人だと思ってた、ってところかな?」

「っす。だから正直ロックが尻の軽いヤツだってのはありえねぇっす」

 

 やっぱりそうなのか、つまりあのセフレ云々でとかのは俺を試していただけって側面もあったりするのかな。

 後は……微かに引っかかった棘があるけど、それを問うてもマスキングがいやわかんねぇっすと首を横に振るだけだった。ううん、ダメか。

 

「……パレオなら、なんか知ってるかもしんねぇっす」

「パレオちゃんか」

「それじゃあ次はパレオちゃんかな?」

「あたしから連絡しときます」

「ありがとう」

 

 でも今回もちゃんと収穫があった。また一歩ロックちゃんの秘密、俺に対する憧れが反転したという秘密が紐解かれていったことで気分が少しだけ軽くなった。花音はちょっとだけ心配そうにはしていて、それからしばらく談笑した帰り道に思い切って問いかけてみた。

 

「どうかした?」

「……ロックちゃんの想いに応えたり、しないよね?」

 

 手を握られ、むうっと眉を八の字にする花音。そんなこと心配してたんだね。確かにね、認めるよ? ロックちゃん好みに刺さる女の子だって。静かな雰囲気もあるんだけど、かわいらしい元気さがあって、頑張り屋で、満面の笑顔を向ける守りたくなるような女の子、俺の好みだね。

 

「でしょ? その点実は私たち……誰も違うからね」

「あー、確かに」

 

 俺の好みは違うね。燐子が割かし近いんだけど言動が違う。好みからは遠く離れてる。紗夜は俺の苦手なタイプだし花音も結構……その、考え方とかが異次元だから。

 だから不安なんだと花音は下を向く。そっか、好みか。

 

「全然気にしてなかった」

「……そうなの?」

「うん」

 

 確かに前の俺だったら好みの女性のタイプが云々って言ってたかも。でも最近俺も好みが変わってきたみたいだ。

 相変わらずつぐみちゃんには思わずデレっとしてみんなに怒られますけどね。

 

「でも好みとかじゃなくて最近ホントに、()()()()()()()好きって感じなんだよね」

「……私、だから?」

 

 恥ずかしいこと言っちゃってるけど、珍しくしょんぼりとしているふわふわ彼女に甘い言葉を吐いていく。

 今までは性格の好みだとか、童貞の捨て方や彼女の作り方なんかに拘ってたけど、こうやってそれも全部達成してそれを振り返って、違うんだって思った。

 ──理想のカノジョなんていないんだ。いるのはただ、俺とおんなじように悩んで恋して、その上で俺を選んでくれる大切なカノジョがいるだけ。俺はその選んでくれたということを大事にしてるんだ。

 

「ポエミーだね、いつも以上に」

「うるさいな」

「でも、ありがとう……好きでいてくれて、ありがとう」

 

 こちらこそだよそのセリフはさ。こんなに俺のことを好きでいてくれてありがとう花音。そしてだからこそハッキリ宣言してあげるよ。

 大丈夫、浮気も四人目もないから。そういう意味だと俺の現在の好みの女性はアレだな。

 ──紗夜に出逢ってからの一年間で傷ついて、傷つけて、笑って泣いて、最後に愛してくれた人、になるのかな。またちょっとクサイこと言っちゃったけど、だから安心してね、俺の大切な人。

 

 

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