紗夜のBはBitchのB!   作:黒マメファナ

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Kを探せ/キュートでクールなキーボーディスト

 本日わたくしカンベこと赤坂陽太は、マスキングとの邂逅の後パレオちゃんにロックちゃんのことを訊けないかと連絡してもらったところすぐさま折り返しで俺の電話にアポイントならこっちに取りなさいとお怒り気味の言葉が飛んできまして……RASの本拠地であるビルの前にやってきた。

 

「おっきいね」

「……おっきいんですか?」

「あの、燐子? すぐさま下ネタはやめようね?」

 

 そして今日の同伴は燐子です。同伴っていうとアッチ系のお店みたいになるね。同行者です、はい。そんなことはさておき、マスキング曰くチュチュの家らしい。家? 部屋がある、じゃなくて?

 

「あ、お待ちしておりましたカンベさん!」

「パレオちゃん、わざわざ出迎えありがとうございます」

「はい!」

 

 ビルの前で二人してぼーっと立っていたら、会いたかった本人であるパレオちゃんが出てきてくれた。恰好は普通なんだけどその腰の折り方や口調はさながらメイドさんである。そして素直でかわいいって雰囲気が伝わってくる。

 

「……やっぱり、メイドさんとか、好き……なんですね」

「やっぱりってなに?」

「今度……着て、あげますから」

 

 あースイッチ入った。若干ヤキモチもあるんだろうけど、このコスプレしてもいいんだってなった時の燐子はいつもよりも生き生きとしてくる。けどキャラクターとか別人にはなろうとしないあたり燐子のこだわりが見え隠れするけど。

 

「ロリータ系とかパレオも挑戦してみたいのですが、少し背が高すぎてしまって」

「あー、確かにパレオちゃん背、高めだもんね」

「ですね」

 

 エレベーターに乗りながら、そんな雑談を交わす。ううん、パレオちゃんに用事だから別に彼女に会いにいかずともいい気がするんだけど。でもそれはよくないことらしく、最上階の部屋へとやってきた。最上階の部屋はガラス張りになっており、プールがある。なにこれ、というかやっぱり部屋じゃなくてフロアまるまるじゃん。

 

「一部屋ではなくビルすべてが彼女、チュチュ様のものです」

「よく来たわねカンベ! それに白金燐子!」

「……お久しぶりです、チュチュさん」

「どうも」

 

 パレオちゃんと比べると更にこじんまりしていることがわかる低身長、そして特徴的なネコミミヘッドホンをつけた少女にしてRASのマネージャー兼DJのチュチュが腕組みをして出迎えてくれる。うーん今パレオちゃんがサラっととんでもないこと言ったね、ビル全部か……超金持ちじゃん。

 

「今お茶を出しますので、どうぞお掛けになってください」

「失礼……します」

 

 燐子にならって、隣に座る。向かい側にはチュチュ、そして紅茶を出してくれたパレオちゃんがその隣に座ってくる。そしてやっと話ができるね。チュチュ様はなるべくなら黙っててほしいんだけどね、と思っていたらそれじゃあ作業があるから、とどこかへ行ってしまった。気を遣われたのだろうか。

 

「いえ、単純に作業の予定でしたので」

「……あ、そう」

「それで……ロックさんの件、でお話しがあると」

「はい……」

「うん。レイヤさんとマスキングには話を訊いて、パレオちゃんにも訊いた方がいいって」

「あの日、どうかされたのですか?」

 

 これまた同じパターンなんだけど、流石に相手が中学生なのでちょいちょいぼかしながら伝えていく。セフレ云々とかビッチがどうとかね。

 そして数分後、言いたいことを言い終えた俺はパレオちゃんの反応を待つ。

 

「つまりカンベさんは三人とセックスするので手一杯だしそこまでの甲斐性がなく、かつロックさんがセフレになりたいと言いながら他の女性をフッてほしいというちぐはぐな言動の理由を知りたいと」

「せっかくのオブラートが!」

 

 全部剥がしてきた。オブラートって一緒に食べるものなんだけどね。そして前半なんだかやや毒素があった気がする。あ、ダメだこの子花音と同じタイプだ。甘い笑顔の下から毒吐いてくるタイプね。

 

「俺の事情はさておき、ロックちゃんに関して言えばそんなところ」

「絆してヤってしまえばいいのではないですか?」

「……ダメです」

 

 これには燐子が返事をした。というか二の句が告げなかった俺の代わりに答えてくれた形だけど。

 というかパレオちゃんが怖いんだけど、この子まさかのうちのカノジョ組と同タイプな気がしてきた。ビッチ怖い、ビッチ苦手。

 

「どうかしたのですか、カンベさん?」

「カンベさんは……非処女ムーブを、嫌う傾向に……あるので」

「……三人囲ってヤりたい放題なのに、でございますか?」

 

 そうだよ悪いか! 俺はいつまで経っても童貞ムーブをやめらんねぇんだ! とキレたい気持ちを抑えて腕を組んで斜め下を見るのに留めておく。というか中学生ですよね? 今年十五歳って伺ったんですけど? 

 

「パレオ、処女でございますよ?」

「……へ?」

「疑うのであればカンベさんが、お試しになりますか? あ、でもそうすると処女ではなくなってしまいますね」

 

 ──なに言ってんのこの子!? びっくらポンだよ! アタリが出てなんかよくわからない景品もらってビミョーな気持ちになるくらいにびっくらポンなんだけど!? なんで処女って言葉がサラっと出てくるうえにお試しにでスカートちょっと持ち上げたの? 今チラっとパンツ見えたからね!? 

 

「……処女膜は、手で拡げれば、目視もできますが……」

「ならそれで確認していただきましょう。脱ぎますので少々──」

「脱がなくていいから! もうわかったから!」

 

 燐子? 止めてほしいところで余計な豆知識を植え付けないでもらえます? というかアレって漫画だけの表現じゃなくて見えるんだ。ちょっと一瞬感心しそうになったのは間違いなくもう一人のカノジョさんの性講座を聞き過ぎたせいだな。もっとも形状を知らないとみてもわからないと言われて微妙な顔をしてしまった。

 

「ご存知ないのでしたらやはりご覧になりますか?」

「いいです、いいから話を進めて」

「かしこまりました」

 

 なんか、なんかもうお腹いっぱいになりかけたけどまぁいいや。あの処女ビッチは今後ほとんど関わり合いになりたくないんだけど、と思っているとパレオちゃんは紅茶を置いてそうですね、と見解を伝えていく。

 

「ロックさんは、とっても繋がりを大事に……シモの意味ではありませんが人と人との和を大事にされる方です」

「一言余計だね」

「ですからWonderersやPoppin'Partyのように音楽で繋がった心というものに惹かれるのだと思います、またそれは日常生活の秘密や嘘を苦手とする傾向にある、ということでもあるのでしょう」

 

 一転して真面目な雰囲気でパレオちゃんなりのロックちゃんの分析を語ってくれる。秘密や嘘を嫌う……だから俺の後ろめたいものを嫌うのか。音楽には誠実さが必要……そんな風に考えているのかな。まっすぐな気持ちで、まっすぐな想いで奏でるもの。それこそが音楽だと。

 

「……耳が、痛いですね……」

「燐子さんも、そうなのですか?」

「以前……SNSなどで、オフ会の際に……ちょっと」

「オフパコ、というやつですか?」

 

 頷く燐子はちょっとだけ下を向きながら、それでもあの日の認められているという思いが自分に勇気をくれていたことも事実だと、それを正当化するわけではないけれどそんな毎度違う男性に抱かれて、お金をもらうような生活にも意味があったのだと言った。

 

「きっとそんな日々がなければ、この人には白金燐子でありたい、と感じることも……なかったのだと思います。わたしがオフパコ、で……ビッチと呼ばれるようなことを、繰り返してきたのは、すべて……陽太さんに逢うためだったんだとすら……思うくらいに」

「燐子」

 

 燐子は俺との出逢いを正しく導かれたようだったと言っていた。こうして愛してもらうために、愛するために、今まで生きてきたのだと思うとまで言ってくれる……ちょっと重いけど、それは紛れもなく、俺じゃなきゃ、燐子じゃなきゃいけなかったってことだ。

 燐子は燐子で、それだからこそ燐子は俺を愛してくれる。オフパコビッチのベルさんという認識じゃ絶対に、今こうして隣にいることはなかったんだから。

 

「だから……陽太さんの、今を否定することは……ダメなんです」

「……うん。ありがとう燐子」

 

 いくら傍から見て汚いものだったとしても、それには意味がある。俺の状況がロックちゃんにとって最悪だったとしても、俺とっては自分のために必要なものだったんだから。

 ──うん、状況も感情もわかった。俺がロックちゃんに伝えることもわかった。これで大丈夫だね。

 

「パレオには、少し……わかりかねます」

「まぁ、そうだよね。俺も、前までは紗夜や燐子のことわからなくて、それで傷つけちゃったこともあったけどさ」

 

 それでも、今はみんな笑顔でいてくれる。一緒にいてよかったって言ってくれる。それだけじゃない。バカばっかりやってる友達もできた、色んな人と知り合えた。色んなものを知ることができた。ワンドルのカンベでよかったって、バンドやっててよかったって思えるこの今を、否定されたくはない。

 

「もう帰るの? レコーディングとか聴いていきなさいよ」

「いやそれロックちゃんいるでしょ」

「……そう。じゃあまた今度、私のプロデューサーとしての力を見せてあげるわ!」

 

 うん……? つまりどういうことなんだ? と首を傾げていると燐子がくすくすと笑いパレオちゃんと顔を見合わせ、なによとチュチュが顔を赤くしながら叫んでいた。なんぞ? なにこの暖かな雰囲気。

 

「チュチュ様は、また来てくださいとおっしゃっているのです」

「パ、パレオ~!」

「……なるほどね。じゃあまた来る」

「……っ! わ、わかればいいのよ!」

 

 そのままパレオちゃんとチュチュに見送られながら俺と燐子はエレベーターを降りていく。いや、それにしてもパレオちゃん……もう二度と会いたくはなくなってしまった。ビッチ怖いもん。

 

「やはり……」

「ん?」

「メイド服、調整すれば、まだ使える……かも、です」

「調整って……手作りなの?」

「……はい。市販では、どうしても……」

 

 そこは拘るんですね。ウチらなんて手先の器用な人いないからライブTと黒スキニーだよ?

 そういえば衣装どうすんの? お揃いのTシャツで行くの? それともいつものゴシック系を燐子が作るの? 

 

「……ん、ワンドルの衣装づくりも……考えてます」

「え、そうなの?」

「はい……なので、楽しみにしていて、くださいね」

 

 それは楽しみだけど……メイド服の約束も一緒に取り付けられてしまった。メイド服か、確実に燐子がノリノリでマゾプレイを望んでくるやつね。ドМ自称してるもんね燐子は。次はいよいよロックちゃんと直接お話をするわけだけど……やばい、緊張してきた。

 

 

 

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