唐突だけど、俺はカノジョたちの瞳の中にロマンスを感じることがある。未だ抜けきらない童貞の感性だけどさ。
例えば、花音は花だと思う。安直な気がするけど、ふわりと咲くちょっと目立つ紫色の花のような感じ。
「陽太くん、おはよお」
「おはよ」
そんな花音との待ち合わせてのデートで待ち合わせ場所はほとんどが家の前である。理由は至極単純で確率は低いものの、とあるガールズバンドを取り扱ったリズムゲームガチャで単発回したら星四が当たるくらいの確率で駅前までの道を迷う。そんな恐ろしいことだけは避けようと迷子になることのない花音の家か俺の家で待ち合わせることにしていた。
「それでは……また練習で」
「うん」
「またね、燐子ちゃん」
「……はい」
練習帰りにほぼ無理やり泊まっていた燐子も同じタイミングで出てきて、花音と手を振っていく。普段だったら送ってくんだけど、今日はごめんねと言うと無言でその分の埋め合わせは必ずしてもらうからと訴えられている気がした。
「ふふ」
「……どしたの?」
「いやあ? またちょっとカッコよくなったなあって」
「なにそれ」
急にカッコよくなった、なんて花音に言われるとムズムズする。顔とかじゃなくて、って補足されると余計にね。俺はまだまだカッコ悪いよ、じゃなきゃ燐子を泣かせたりしないだろうしさ。でも、花音はそれでいいんだよって笑い飛ばしてくれる。ふわりとした笑顔で俺を包んでくれる。
「それより本番近いのに、デートしてて大丈夫?」
「大丈夫……って言えたらいいんだけど」
正直大丈夫じゃないんだよね。ただここでデート入れとかないと次がいつになるかなんてわかったものじゃないからね。
俺にとって音楽は大事だけど、それと比べられないくらいに花音のこと大事だから、どっちか選ぶんじゃなくてこうしてデートしてその分たくさん練習をするんだけどさ。
「じゃあ私も気にしない」
「ありがと」
「もっとデートしてーって言っちゃおうかなあ」
「それはやめて」
そうして始まる、変わらないデート。でも水族館って案外色々やってるんだよね。水槽の配置変えてみたり、特集とかもあってみたりと色々。これは花音と一緒に通ってなかったら気付かなかったことだよね。
「今日はなに買ってもらおうかなあ」
「……え?」
「たまにはいいでしょ?」
偶にはね、いつもは嫌だよ? 俺バイトとかしてないんだからさ。基本的にバンド関係でお金使ってていっつも金欠なんだからさ。
ケチな男は嫌われるって言われるけど花音が今更ケチなことで嫌ってくれたら俺は振り回されずに済んでると思う。
「確かに」
「でも花音も資金源がいなくなって困ってるんじゃない?」
「そうでもないよお」
あの、そのそうでもないはどういう意味? いなくなってないって意味かいなくても困ってないって意味? どっち? どっちかによっては俺、流石に嫌な顔する自信あるんだけど。俺はずっと変わらず、セックスを愛情表現以外で利用することとする人を苦手としてはいるんだからね?
「あー、この間紗夜ちゃんの元セフレに会ったんだっけ」
「そう。正直別次元のイキモノな気がしてさ……やっぱり理解できないんだよね」
恋愛以外でセックスしてきた人の前で言うのはどうかとも思ったけど、花音はそういうのも全部知った上で一緒にいてくれるからね。それに……これは全員そうなんだけど、今や花音は自らセフレの関係やらなんやらを断ち切ったようなヒトだし。
「安心していいよ。陽太くん以外とはシてないから」
「……貢いではもらってるってこと?」
「ううん。それも大丈夫」
断ってるからと微笑む花音。いや、それはいいんだけど……いいの? そういう生き方が理解できるわけじゃないけど、前に服とかバッグとかは買ってもらってたって。でも花音はいいんだよと明るく笑ってくれる。
「贅沢しなきゃいいだけだし、私には陽太くんがいるから」
「……なんか、責任感じちゃうなぁ」
「ふふ、愛で支払ってくれれば平気」
やっぱり、花音の微笑みは花のような美しさがある。ふわりと優しく咲く花のような目を引く美しさって言ったらいいんだろうか。
可憐って言葉が似合っちゃうよね、ビッチだけど!
「花音?」
「……んー?」
そんな花のような美しさを感じてしまうのはほかにも色んな瞬間がある。割と作らない素の表情をしてる時とか、ぼーっとしてる時にドキっとしてしまうことが多いと思う。いやこの場合はアレに心を奪われてるんだけどさ。
「口空いてる」
「……あ、えへへ」
その指摘をしながらちょっと周囲を見渡すと刺さっていた視線が逸れていく。クラゲ見ろお前ら、ウチのカノジョは見世物じゃねぇ……いやまぁ俺もちょっと見惚れたけどさ。クラゲを見る時の花音、なんでか知らないけど妙にエロティックなんだよなぁ。
「私ばっかり見てない?」
「それはない」
「えー、さっきから……陽太くんの熱視線、感じちゃうなあ」
熱はこめてないからなこのビッチ! と叫びたくなるが水族館なので我慢。でも今日の花音は
「最近構ってもらえなかったから、タマってるかも?」
「う……やっぱり気にしてる?」
「まぁ、陽太くんが音楽バカなのはわかってるけど」
「ごめん」
「謝んなくていいよお……好きにまっすぐなのも、素敵なトコロ♪」
振り回される。振り回されて、幸せになる。こう言ったら他二人に怒られるんだろうけど、花音は恋愛をしてきてるから、こういう感情表現は安定してるよね。恋愛観もあっさり……いやあっさりしてるようで実は味付け濃いんだけど、それをちゃんと自分で制御できてるんだよね。経験値の違いっていえばいいんだろうか、俺含め、燐子や紗夜にはない余裕がある。
「ちょっとトイレ行ってくる」
「私とする分は取っといてね?」
「そっちじゃないです普通にトイレです!」
大体カノジョとのデートの最中にもよおすってアレすぎない? そんなツッコミは花音には伝えず用を足そうと思ったけど、個室が埋まってる……ううん、もうちょいかかりそうと連絡をしておく。絶対後でヌいたとかどうのって話に展開してくるな。
「……あれ?」
それから十分ほどしてから花音と分かれたところに行くけど彼女の姿が見当たらない。トイレかな? と思いながら一応待つことにしたけど、五分経過し不安になって連絡をする。けど既読にすらならないんだけど、え? なに? どういうこと?
「すみません」
「はい、どうかされました?」
「連れがいなくなっちゃって、水色のサイドテールに……」
素早く近くにいたスタッフさんに訊いてみるけど、見てないですと言われてしまう。うーん、トイレにしては遅いし迷子の星に生まれた花音が移動する際に連絡してこないのもおかしい。うろうろと探そうにもやっぱり迷子スキル持ちの花音のことを考えて離れるのはなぁと悩んでいるところだった。
「あ、あの~? ワンドルのカンベさん、ですか?」
「はい? あ、そうですけど……」
どうやらワンドルのファンらしい女性に声を掛けられる。こんなところでもファンに出会えたのは嬉しいんだけど今はそれどころじゃないんだよな。
──と思ったら、どうやらこの女性は前々から俺が花音、恋人と水族館によく出没するのを知っていて……というか何度か見かけていたらしい。
「それで、そのカノジョさん……さっき見かけて」
「え、どこで?」
「アッチの方で……その、男の人三人くらいに……囲まれながら」
「……マジかぁ」
あーあ、まぁ花音の自業自得と言えばそれまでなんだろうけど、そもそもそんなにガラの悪いカレシと付き合ったことはないはずなんだよね。そもそも花音の好みのタイプが童貞だし? 雰囲気が童貞なのがいいって時点でチャラチャラしてたりオラついてる人とは関わんないよねぇ。
「ありがとう」
「い、いえ……」
パターンとしては、花音に食べられちゃった童貞さんがチャラチャラかオラオラのグループに属した大学デビューパターン。あとはその童貞さんがどっちかのグループに目を付けられていて、巻き添えをくらったパターン。残りはシンプルに集団にモノ言わせてのナンパかな。
勘弁してよね。俺にケンカで勝てる力なんてまずないし、またはヒーローのように颯爽とヒロインを助ける力なんてあるわけないんだから。
「よっぽどじゃなきゃ大丈夫だと思うけど……花音だし」
これが燐子だったらまず間違いなくもっと焦ってるけど、相手はあのメンタル激強お姉さんこと松原花音ですよ。俺未だに花音に言葉で勝ったことないってレベルなんだからな。
それにしたって俺、最近いいことなくない? この間の燐子のことといいついにカミサマが本命三股を許してくれなくなる時が来たの? ロックちゃんの一件以来ロクな目に遭ってない気がするんだけど。