紗夜のBはBitchのB!   作:黒マメファナ

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Vの花弁/変わらない愛情

 はあ……これを自業自得って言うのかなあ、と私は肩に組まれた手を払いながらその男を見上げる。

 私の好みの男は基本的に……童貞? っていえばいいのかな? あんまりヤりなれてる人は好きじゃない。例外だったのは私のハジメテのヒトと一番長かったセフレさんくらいかな? 少なくとも後者は性欲以外は割とマトモな人だったけど。

 

「ホント、ユウジがこんなかわいい子と付き合ってたなんてなぁ」

「コイツ、クソビッチだけど」

「いやいや、いーじゃん。ヤらせてくれりゃ、なんでも」

 

 スマホ出して連絡しちゃダメかなあ。うーん、テンプレすぎてちょっとだけ面白いかもしれない。というか全然、以前の私から見てもよさそうとは思えないような男三人。そのうちの一人は元カレなんだから見る目ないなあ私。

 

「私、これでもセックスする人は選んでるんだけど。あと複数人はキライだし」

 

 こういうガタイのよくてチャラい男は大抵乱暴にシてくるからキライだし、複数人で囲むと気が大きくなるからそれだけでも暴力的になる。殴れば言うこと聞いて無理やりヤってもいいって頭の悪さまであるから。

 ──陽太くんはセックスを愛情表現以外で使うヒトのことを理解できないって言ってたけど、セックスを暴力に使う人種は私も論外かなあ。

 

「カレシとデートだったんだけど?」

「ハハ、カレシ! どうせ俺の時みたいにセフレとヤってたり浮気してんだろうが!」

「あーあ、せっかく楽しいデートなのに、それ暴露されちゃうんじゃね?」

「カレシくんかわいそー、カノジョがそんなクソビッチとか知ったらオレだったらソッコー別れるけどな!」

 

 下品な笑い声が響いてくる。バカだなあホント。そんなことが理解できない相手と付き合ってたなんて、まさかこうして、付き合ったことすら後悔する日が来るとは思わなかったよ。そもそも、私はあなたにそれでもいい? って訊いてるはずなんだけど。それでもいいから付き合いたいって言ったのはあなただった気がするんだけどなあ。

 

「あ、いた」

「あ?」

「陽太くん、遅いよお」

「いや遅いんじゃなくて花音がどっか行ってたんだけど」

「ごめんねえ」

 

 防御しようとしてきた男の腕を握力まかせに掴んで振り払って陽太くんのところに向かう。ドラマーの握力は伊達じゃないんです、なんてね。

 ただこの人は私のヒーローにはなりえないんだよね。この三人に立ち向かったら陽太くん、ボコボコにされちゃうんだあ。

 

「こんな陰キャみたいなのがクソビッチのカレシくんか」

「初対面でクソビッチは言い過ぎだと思うなあ、相手もしてあげてないのに」

「相手を煽らないでよ花音……」

 

 弱気じゃダメだよ陽太くん。こういうのは毅然とした態度でいっとかないと、ナメられちゃうんだよ? うんなんかもう遅い気がするというかなんというか、そもそも私が女でキミがカレシって時点でナメられてる気がするけど。

 

「ソイツ、浮気性でセフレ持ちらしいぜカレシくん」

「え、セフレまた作ったの?」

「ううん、情報が古いだけ」

「あ、そういうこと?」

「うん、今は陽太くんだけだよ」

 

 思ってたよりもあっさりしたリアクションをされて相手も困惑していた。これで終わりなんだよねえ陽太くんは。けど陽太くん、その能天気なリアクションは空気を読めて敢えてやってるのか空気が読めてないのかわかんないから私が煽るのよりある意味危ない気がするんだけど。

 

「え、そうなの?」

「うん、そうなの」

「うわ……ごめんなさいした方がいい?」

「うーん、それはしなくていいかなあ?」

 

 むしろ私と陽太くんに対してごめんなさいしてほしいくらいなんだけど、デートの邪魔だからバイバイしたいなあ。

 だけど元カレが苛立ちながらなんだそれ、と顔を歪めている。きっと俺の時にはそんな風に夢中になってくれなかったのに、って言いたいんだろうなあ。

 ──私はキミのこともちゃんと好きだったんだけどなあ。

 

「なんで、平気なんだよ。浮気してるんだぞ?」

「してないよ」

「はっ? なんでそんなこと」

()()()()()()()()()()

 

 彼の視線から私を隠すように立ってくれて、その背中が思いの外おっきく見える。

 無意識でこういうことできるんだから、本当にいつまでも童貞クンやってるのは勿体ないんだよねえ。私としてはいつまでも飽きない理由なのかもしれないけど。

 

「おいユウジ、もうやめとけって」

「……なんでだよ。なんで俺の時は浮気したクセに! ()()()()()()!」

 

 あ、カチンときちゃった。本当に心の底からかつて好きだったはずの記憶が薄れていく。私の前で私が大好きなカレをそんなヤツ呼ばわりすると流石に怒れちゃうなあ? 浮気したのは私が満足できなかったから。浮気してないのは陽太くんで満足できちゃうから。つまり、こういうことじゃないかな? 

 

「愛され足りなかったからかな?」

「……は?」

「言った気がするけど言っても理解できなかったのかな? 私にとって恋人はお金やカラダの関係()()のものを求めていただけって」

「……それは」

「それがわかんないから、あなたは怒ったんでしょ? 私も怒ってるよ。絶対忘れないからね、誕生日……祝ってくれる約束破ったの」

 

 セックスの快感は、恋人じゃなくても得られる。お金も、別にデート代とか出してもらわなくたって私は構わない。割り勘の方が経済的に楽ならそうしたいし、なんなら別に私が全部払ってあげてもいい。私が求めていたのはそうじゃないの。だってキミ、私が満足できないのに疲れたーって寝ちゃってたよね。無理に奢る奢るって言ってたのに偶には払えよって怒ったよね。私はキミをずっと好きって言ってたのに、キミは私への不満ばかりだった。

 

「バイバイ、虚勢と見栄だけのヒト」

「……花音っ」

「──それでも好きだったよ」

 

 行こ、と陽太くんの腕を取る。キミが我慢できてれば、私も知らなかった本当の私の扱い方に気付いていれば、ここで腕を組まれていたのはキミだったのかもしれなかったのに、それをしてこなかったのは……キミだから。

 だから、さよなら。でもキミには最後に泣かされたから、こうやってヒドいフリ方をしてやるんだ。

 

「ごめんね、デートの続きしよ……陽太くん?」

 

 ぎゅっと腕を抱き寄せて胸を押し当てながら甘えると、ちょっとだけ反応が悪かった。反応が悪かったというか……なんか怒ってる気がする。陽太くん、怒ってるのと悲しんでるのを隠すのは上手なんだよねえ。他はダメダメなんだけど、いつも笑って過ごそうとしちゃうから。それでも、カノジョになってから気づけるようになったんだけど。

 

「怒ってる?」

「怒ってはない」

「……あ」

 

 なるほど、怒ってはないけど不機嫌ではあるってことかあ。つまり……ヤキモチ、ってことかな? 実は私は陽太くんをカンベさん、カンベくんって呼んでた時代からずうっと、ただの一度もヤキモチをされたことがないんだよね。元カレの話をしても、セフレの話しても、もう慣れちゃったとでも言いたげな感じで流してくるの。

 

「……今は陽太くんだけだから、ね?」

「わかってるけどさ」

「うん」

「……好きだったって、過去形だったとしても……モヤっとした」

 

 きゅんとしてしまう。愛されてるんだなあって思うと口許が緩んじゃいそうだった。ああもう好き、大好き。

 目の前にカタチとして表れて、自分にわからない昔の話をされて、ヤキモチ妬いちゃう陽太くんがかわいい。あ、ダメ、その顔されると……嫉妬で、どうにかなりそうな顔が、それでも手が届くところにいるからって葛藤の表情をされるのは、ダメ。

 

「か、花音……?」

「なあに……?」

「あの、わざとやってますよね?」

「なんのこと?」

 

 繋いだ手を腰の当たりに抱き寄せて手の甲に押し当てていく。スカートの下、ショーツの感触をわざとさせて、戸惑いながらもちょっとだけそういう展開を頭に浮かべる、というか私が性欲出してくることに気付いてる。

 

「暗いから……痴漢してもバレないかもね?」

「しない……って力強いなホント!」

「愛の力かな?」

「性欲の力の間違いでしょ!?」

 

 間違ってないけど、それでもこの手が欲しいって思うのはもう陽太くんだけなんだけどなあ。この手も、唇も、私といる時は私だけのモノにしたい。今は特に、私にしては珍しくデート中なのにえっちしたいって気分だった。

 

「ちょ、かの……っ!?」

「濡れてるから……ゆっくり、ね?」

「いやその待ってせめてホテルで、今ここではまずいでしょ色々」

 

 その提案に私は頷いた。触られただけでもう身体が熱くなって、今日はきっと激しくなっちゃうだろうなあということを思いながら、もう行きつけになっちゃってる水族館近くのホテルに移動することにした。陽太くんに買ってもらった大きな縦長のペンギンのぬいぐるみは抱き枕に決定した。

 

「帰ろっか」

「うんっ!」

 

 これからまたしばらくデートはお預けになっちゃうけど、今日のでしばらくは我慢できそう。前はこういう時、浮気相手探してセックスしちゃってたんだけど、これからもちょくちょく陽太くんの家に突撃する予定なので大丈夫かな? 何がすごいって陽太くんは三人付き合っててほぼ毎日セックスしてるのにそれを平然と受け入れるバイタリティーがあるところだと思う。本人には言わないようにしてる。なんでかってそれが陽太くんにとってアイデンティティの崩壊を意味してるから。精神的に童貞だからその辺は黙っておかないと陽太くんしばらく相手してくれなくなっちゃうんだよね。

 

 

 

 

 

 

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