紗夜のBはBitchのB!   作:黒マメファナ

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Dは休息する/第一回会員会議【特別編】

 その日、わたしは幼馴染のひまりちゃんに呼ばれ、商店街のお店の一つ、銀河青果店の地下にあるライブハウスGalaxyにやってきています。そこではわたしやひまりちゃんと同じ学校の後輩である朝日六花(ロック)ちゃんが、黒縁メガネを光らせて表には予定表やらが書かれているであろうホワイトボードの裏側に大きな文字を書いてバンと力強く叩いてみせた。

 

「……カンベさん更生計画?」

「ってどういうこと?」

「どうもこうもないですっ! やっぱりウチ、納得できんの!」

 

 あー、カンベさんかぁ……確かにロックちゃんはカンベさんのファンでありまた一人の女性として惚れちゃったんだっけ。その辺は夏休み入ったくらいからちょこちょこと話を聞いてる。カンベさんのカノジョさんたち、みんな常連さんなんだよね。

 ──そうして集められたメンバーは通称カンベさんファンクラブ、わたし、ひまりちゃん、ロックちゃん、そしてあこちゃんの四人。

 

「はい!」

「あこちゃん!」

「こーせーって具体的にどーするの?」

「──カノジョを、私だけにします」

 

 ロックちゃんが唐突に妙に劇画タッチになったように錯覚される。まるで背景にドンってつきそうなやつ。確かワンドルメンバーが好きだって燐子さんが教えてくれてたマンガの雰囲気だった。

 

「ねぇ、それ無理ない?」

「ええですから……そのための作戦を今、先輩がたやあこちゃんに、聞いているんじゃあありませんか」

 

 きっとこんなのを紗夜さんにリークしたら面白がって覗きにこないかなぁと思っているとロックちゃんはいそいそとホワイトボードの文字を消して、まずはこの三人と別れさせなければいけないんですけど、と話を進めてきた。ほ、本気なんだね……ロックちゃん。

 

「うぅ、ろっかの恋も応援したいけどー、りんりん、最近すっごく幸せそうだからなぁ」

「花音さんに恨まれたくない、怖いし」

「紗夜さん、いっつも楽しそうにカンベさんのお話してくれるし……」

「それじゃあ、ダメなんや! そんな弱気じゃ、もうウチらに勝ち目はあらへん!」

 

 勝ち目……ってと顔を見合わせたわたしとひまりちゃんに向かってロックちゃんはいいですか! と語調強めに向けてから新しくわたしやひまりちゃんの名前を自分の名前の近くに書き足して紗夜さんたちとの間に黒い線を引いた。

 

「ここにおっきな溝があるんです! わかりますよね?」

「ビッチかビッチじゃないか?」

「ちゃうよ!?」

 

 ひまりちゃんの爆弾発言にロックちゃんが口を大きく開けて驚く。その間にあこちゃんにびっちってなに? と問われて困ってしまう。というかあこちゃん、まだ気づいてなかったんだ……さすがにそろそろ気づいてるもんだと思ってたよ。

 

「んんっ、カンベさんが相手の場合は性経験の有無はこの際対象外だと考えてください。そうじゃなくて、ここのみなさんが経験してきた一年間で、我々はあくまで物語でいうところの脇役だったことが問題なんです!」

「脇役、かぁ」

 

 確かにそうだね。カンベさんと紗夜さんが出会った去年の春、そこから始まったカンベさんと紗夜さん、そして燐子さんや花音さんがかかわってきた一年間の中で、わたしとひまりちゃん、あとついでにあこちゃんはそれを脇で見ていただけ、ロックちゃんに至ってはカンベさんと出会ってすらなかった。

 

「だからこそ、ここの溝を、なんとかして埋めんといかん! そうせんといつまで経っても勝ち目があらへんどころか四番目にもなれん!」

「あ、本音出た」

 

 やっぱりそうなんだ。ロックちゃん的には三番目までいるならってことなんだろうけど、そのポジションに収まるにはその一年間で主役を張らなきゃいけなかった。だけどもう過去は変えられないからせめて明日を変えようってところだね。

 

「つぐみさんもひまりさんも、カンベさんと付き合えたらって思ったことありませんか!?」

「……うーん、まぁ」

「なくは、ないけど」

 

 でもわたしなんかが……というのも事実だ。大体そのメンバーを見れば自信もなくしちゃうよ。

 紗夜さんはすっごく足がすらっと長くてモデルさん並みにスタイルいいし、花音さんはおっとりふわふわに相応しい引き締まってるところはきゅっとしてるのに出るところは出てるうらやましいプロポーションだし、燐子さんは……なんていうかもう女性のわたしから見ても暴力的なまでのマシュマロボディである。いやいや勝てるわけないよね? 

 

「えー、でもカンベさんのタイプ、あこ知ってるよ?」

「ほ、ほほほほホントですか!?」

「うん」

「え、どんなタイプ?」

「つぐちんみたいな子がタイプだって」

 

 だけど、あこちゃんからもたらされたその報せに視線が一気にわたしに向く。え、ええ!? わ、わたし? あでも、なんか前に同じようなことを本人に言われたような気が……あの時はわたしを褒めてくれるためのお世辞かと。

 

「カンベさんは精神的には永遠に童貞なのでそんな口説き文句はパッと出ませんよ」

「く、詳しく聞いてもいいっ?」

「お、ツグってきたね~」

 

 そうしてあこちゃんが聞いたカンベさんの好みの女性に耳を傾けていく。どうやら紗夜さんと話していた時の内容を覚えていたらしい。

 それによると明るくて清涼剤のようでありながら小動物のようなかわいげのある女性が好き、とのこと。あと実はあんまり女性らしさが際立つと委縮してしまうからというのも追加され、ひまりちゃんは確かにつぐがぴったりだと口にした。

 

「……ならウチにもまだチャンスは、あるんやろか」

「ロックもどっちかというとイケるんじゃない? 私は……もっと痩せなきゃダメだろうなぁ」

 

 いや、えっと……言いづらいんだけどひまりちゃんはかなり、燐子さんにプロポーションが近いからね。だからわたしとひまりちゃんで話しかけに行くと若干ひまりちゃんから距離取ってたんだなぁっていうのはわかった。

 

「あこは恋とかじゃなくて今はトーマ兄にかわいがられてるからいいかなぁって」

「トーマさんカッコいいよねっ」

「どっちなんですかひまりさん」

「え、どっちとかないって! だってトーマさんはリサさんだし、めっちゃラブラブだし」

「そんなの、カンベさんだって……!」

 

 なんだか変な雰囲気になったところで扉が開かれ、香澄ちゃんたちポピパが入ってきた。どうやら帰りに寄り道、ということらしくロックちゃんがポピパさんモードに入ってしまう。その小動物のような後ろ姿を眺めながら、きっと彼女もカンベさんの好みのタイプなんだろうなぁと思った。

 

「……ってことがあったんです」

「はぁ……ロックさんはまったく」

「ですよね……あはは」

 

 その日の夕方、お茶にやってきていた紗夜さんにちょっと申し訳ないと思いながらもバラすことにした。呆れ顔はするけど別に怒っているどころか少しだけ誇らしげにすら見れるような表情で、もう一度だけまったくとつぶやいた。

 

「信じているのよ、彼のこと」

「三人も……カノジョさんをつくっているのに、ですか?」

「それも込みで、私と彼だけにしか伝わらない信頼があるものですから」

 

 なんだかキラキラと……なんだろう全面に信頼というか前よりも強固になった絆、みたいなのを感じて、ああ勝てないんだなぁと思い知らされた。

 ちょっとだけ、あのロックちゃんの熱にアテられていたのかも。なんでわたしにもチャンスがあるのかな、なんて思っちゃったんだろう……恥ずかしいな。

 

「ロックさんには靡かないと信じています。彼女は彼のツボを絶妙に外していますし」

「……そう、なんですね」

「ですが、私は一人だけ警戒しています。彼のツボを絶妙に突いて尚且つ、何かがあったら確実に手を伸ばしてしまう人を、あと一人だけ知っているんです」

「……?」

 

 その言葉の意味が分からずに首をかしげていると、まぁいいわと微笑まれもう一杯コーヒーをもらえるかしらとすごく優しい声で言われて、はっとなって慌てて追加の伝票に書き記す。それから少しして紗夜さんは会計の時に一言だけ美味しいコーヒーに免じてのヒントですよと耳打ちしてくれた。

 

「彼はいつも好みの女性の話をするとき、一人の人物を挙げます。その人こそ、唯一可能性のあるヒト、じゃないでしょうか」

 

 ──好みの女性の話をするときの特定の人物。そんな大ヒントを出されたのに、あこちゃんに言われたこともすっかり忘れていたわたしは、誰なんだろうとぼーっと考えていた。

 身近にそんな子がいるなんて、きっと紗夜さんたちもホントはヤキモチ妬いたりするんだろうか、そんなことばっかり考えていた。

 

「じゃなくて、よし! まだまだ頑張ろう!」

 

 わたしはまだ、恋というものを知らない。まだ処女なのかと言われたりすることもないけどもし問われたとしてもどういう経緯で行為をするのかということすら、想像の域を出てはいないのに。でもそういうことをするんだってハッキリ認識したのは中学生の頃だったかな、その時はそんなに深く考えていなかったっけ。高校生になったら自然に恋をして、そういうことの雰囲気も掴めるんじゃないかなーって、そんな感じ。だから興味なんてあるとは言えないほどだ。今は幼馴染や友達と笑って、バンドやって、カッコいい演奏をするバンドマン見つけて応援して……それがわたしだった。そのままもう高校生も最後の年なんだけど、わたしは今一度思ってしまうんです。

 

「……恋って、どうしたらできるのかな?」

 

 きっとこんな悩み、カンベさんたちはしてないんだろうなぁ。あの人たちはわたしにとってはキラキラして雲の上のようで、特にカンベさんはここに顔を出してくれるとまるで有名人に会ったみたいに舞い上がってしまうくらいなんだから。でもわたしもいつか、彼の見ている景色が少しでも知れたらいいなぁ。

 ──カンベさんのように、とはいかなくても一年間頑張れちゃうような恋をしてみたいなぁ。

 

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