紗夜のBはBitchのB!   作:黒マメファナ

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Lの始まり/なれそめの二人【特別編】

 ──今井リサ。

 身長158センチ、8月25日生まれの乙女座O型で、イマドキのギャルのような女子高生(JK)。性格は至って社交的で、ウェーブがかった髪、アクセサリ、喋り方といった雰囲気や見た目に反して乙女な一面もある。

 総評すると……まぁ、誰もが一度は恋をしてしまうくらいはいい女ってところだろうか。

 

「……なに? じーっとコッチ見てさ」

「なんもない」

「えー、ゼッタイなんかあるやつじゃん」

 

 コンビニでバイトの面接を受けて、俺はコイツに出会った。分け隔てなく、本人はそれすらも意識にないのかもしれないけど、分け隔てなく、イケてない俺にまで話しかけてくる。同い年だからって敬語じゃなくて、いやそもそも年上にも敬語じゃないヒトには敬語じゃないけど。

 とにかく、女子とはあんま関わらずにダチとバカやってばっかの俺にとってみれば遠い存在だ。唯一の共通点といえばバンドをやってるってくらいか。

 

「暇だねー」

「まぁ、こんな中途半端だとな」

 

 バイトのキャリア的には俺の方が後輩だけど、敬語は禁止されたからこうやってタメ口でしゃべる。それが俺にとってどれだけ勇気と覚悟がいる行為だったか、なんてこの女は知りもしないで、だねー、とレジに頬杖付きながら笑った。こんな仕草でもむちゃくちゃかわいい。

 

「で~? なんでアタシのこと見てたの? おねーさんに教えてみ~?」

「は? さては自信過剰でしょうか?」

「あー、今のカチンと来ちゃった~」

 

 そんなじゃれあいをしているが、それで肩に触れられると、正直ドキドキしすぎててどうにかなってしまうんだよ。というか近いですおねーさん。

 見た目はほら、楽器弾いてるのにはビジュアルも必要でしょ! とタイクーンとカンベのやつに押し切られ三人で高校デビューを果たしたが、中身はなーんにも変わっちゃいない。

 

「いや、バンドやってる時と、やっぱ雰囲気違うな~、と、思いまして」

 

 我ながら嘘が下手だ。けど、あながち思ってもないことじゃないから彼女も食いついてくる。彼女の顔がずずい、と近づかれて、またちょっとドキドキしながら後ろに下がる。こんなのをもう一年程繰り返しているわけだが、ちっとも変わらないんだよなぁこれ。

 

「そう?」

「自覚ないんだ」

 

 本人には言えないけど、バンドやってる時の彼女はなんというか妖艶だ。エロティシズムも感じる。そんなこと言ったら引かれるから口にしませんが。

 だがうーんと唇の下あたりに手を当てた彼女はしばらく間をおいてからそうかも、と結論をつけた。

 

「まぁメイクもあるし、やっぱみんなに見られてると違うんだろーなぁ、とは思うけど」

「やっぱそういうもん?」

「いや斗真(トーマ)くんだってそうでしょ!」

 

 アタシは見たことないからわかんないけどさ、と苦笑いをして、俺もそれに少しだけ苦い顔をしてしまう。そりゃそうだ。ワンドルにはアイツが……カンベがいるからな。カンベは俺が今井と一緒にバイトをしてることを知らない。今井がアイツのことをまだ好きだってことを知らない。その話題はお互いにとってキツいから話を戻して……つまり今井はみんなに見られるとエロティシズムが出る……うん、なんか余計いかがわしくなったな。こっちもやめておこう。

 

「ちゃんとRoseliaのこと見てくれてるんだ」

「まぁ、バンドマンやってれば一度くらいは」

「やっぱ?」

 

 少しだけ誇らしげに今井は微笑んだ。こうしてみればただのどこにでもい……たりはしないだろうけど、年相応で、でも大人で美人で、優しい女の子だ。俺みたいなやつに話しかけてくるところあたりはもうほんとに。

 

「アタシじゃなくて、すごいのは友希那とか紗夜とか……他のみんななんだけどさ」

「そうなの?」

「そうなんだって、友希那とか紗夜とかめちゃくちゃストイックで、燐子もあこも、そんな二人に認められるくらいでさ」

 

 そうなんだ。でも、俺から見たら、今井も同じだと思う。

 ワンドルは正直、遊びのレベルだ。アマチュアだからって言われればそうだけど、とにかく、遊びや部活、仲良しごっこの域を出ない。

 だけど今井やRoseliaは違う。どんだけ練習したんだってくらい作りこまれた世界観みたいなのが、あのバンドにはあるから。

 そんなバンドのベーシストを務めてる今井がすごくない、なんてことはありえない。アマチュアに甘えず、プロ意識みたいなのを持てるバンドのベーシストなんて、並大抵のことじゃないから。

 

「──驚いた。案外熱く語ってくれるじゃん」

「いや、ただ……今井はもっと自信、みたいなのが必要だなって。だって、あんなにもカッコいいのに」

「カッコいい……か。それ、よーたにも言われたよ。リサのベースはカッコよくて俺の憧れなんだから、もっと自信を持ってくれーってさ」

 

 またアイツの話だ。でも、カンベもじゅーぶんスゲーと思う。リサがベース弾いてりゃカッコいいしモテるってと言い出すほどには。そんな男に俺は本当に肩を並べるギタリストなのか……少し悩むレベルでな。

 そしてそんなカンベがリスペクトする師匠がそれじゃあもったいない。折角そのチカラがあるんだから、もっと、自分がみんなを引っ張っていく、みたいな心意気があった方がうまくいくと思う。

 

「そういう意味だと、今井って、あんまり自分の意見言うの苦手?」

「あー、空気読んだり、友達に合わせたりであんまりかも」

「やっぱり、わがままでいいのに」

「そーかな」

 

 そうだよ。少なくとも男性目線だと、多少わがままなきらいがあった方がかわいいって思えちゃうところもありそうだし。いや個人的意見だけど、別に俺にそう言ってほしいわけじゃなくて、みたいな言い訳をしようか悩んでいると今井はポツリと声を漏らした。

 

「……わがまま、かぁ」

「そうそう、今自分で、ホントはこうしたいのになぁってこと、ねーの?」

「んー、あるよ?」

 

 へぇ、なに? と問いかける。すると、コッチと今井は奥へ引っ込んでいってしまった。なになに? サボりたいとかそういうの? と思ったら、次の瞬間、今井は俺の首に手を回して、耳元でささやいてきた。

 

「斗真くんともっと話してたい……とか?」

「は?」

「あはは~、照れてる~!」

「今井……!」

「リサ、でいいよ! そっちのが呼びやすいでしょ? そっちもずっと思ってたケドね☆」

 

 パチン、とウィンクをされ、俺はくらっとした。

 ──今井リサは、かわいい。男女年齢問わず、話した人を笑顔にしていく、なんていうかこう、陽だまりみたいな温かさのある人だから。

 そんな人が俺にだけ見せた、少しの熱。俺はそれに顔の熱がつられていくのがわかった。

 

「やっぱいいなぁ、一緒にいて退屈しない! って思えるしね」

「なにが?」

()()と一緒のバイト」

「からかうなよ」

「えー、ホントだって」

 

 だけどこの時の俺は気づいてなかった。どこまでも今井リサって人物は自分の気持ちを隠すのが上手で、どこかで甘えん坊でわがままな一面があること。俺がそれを知るのはもう少し後、この桜が散って、秋雨の時期になる頃になるんだけど。

 

「り、りさ……!」

「い、いやーそーやって改まって呼ばれちゃうとおねーさん照れちゃうなぁ」

「……リサも照れてるでしょ」

「それは言わなくていーんですケド?」

 

 今はただ、バイト先が同じの同じ年、どこか違う世界に住む、魅力的な女性。

 誰もが一度は恋をする彼女の魅力は、まだまだ、俺にも底が見えないところがある。でもそれが、俺という音楽をより極めていくのにちょうどいい気がしていた。

 

「あ、そうだ! 今度さ、弁当作ってこうかなぁって、コンビニ弁当ばっかじゃ、飽きちゃうでしょ? 斗真もどう?」

「ありがたいけど、いいの?」

「トクベツ、にね?」

 

 料理が得意。家庭的で胃袋を掴んでくるところとか。しかも得意なのは和食と素朴な料理、以外過ぎるギャップもそうだ。

 虫が苦手なところもそう、ギャップだ。あとおばけや夜道が苦手らしい。なにそれお化け屋敷とかぜったいムリじゃん。あと意外と涙もろいところもある。

 恋バナが好きで、でも自分に自信がないから、恋はしたことないんだ、って言うのも、なんだか、かわいいと思う。

 

「ふぅ、なんとか出てったねぇ」

「……怖かった、なんで急にハチが……」

「季節だからな」

「はぁ……よかった、斗真がいてくれて」

 

 俺の背中に隠れながら、そうやって安堵する彼女のことを、俺が意識してないか。もちろん……してるに決まってる。でもリサはカンベが好きで、カンベはモテたいモテたいって言う割にはリサを女性として扱わないらしい。そんな縺れた糸みたいな関係を、俺が解いてあげたい。

 

「あ~、またいちゃいちゃしてんすか~?」

「も、もかぁ」

「どしたんです~?」

「いや、さっきハチがさ……」

 

 でも、今はまだこのバイトの居心地がいいから。ちょっとだけ暇で、リサがいて、そんなリサが俺だけに笑いかけてくれるこの瞬間が。

 緋色と陽だまりの、どこにでも……はやっぱりいない今井リサ。なんだかんだ言葉を並べるけど、総評するならやっぱり……今井リサはキュート(かわいい)、ってところだよな。キュートのC、それが今井リサだ。

 

「キュートのCって、え? なんでアタシのブラのサイズ知ってるの?」

「は?」

「お~、やっぱりおふたりは~、もう揉み揉まれの~」

「違う、誤解だ!」

 

 胸を隠すように身体を逸らし、サイズを暴露してしまったことに気づき顔を真っ赤にするリサ。心底面白そうに意地の悪い笑みを浮かべる青葉。店長があきれ顔で半笑いを浮かべ、俺はその誤解を解くためにひとまずひたすらに頭を下げる。

 騒がしくて、愛すべき日常がそこにはあった。そして半年経ち、俺はリサと恋人同士になり、それから一年半、リサと初めて会った日から四回目の夏休みが始まっていた。

 

「とーまぁ」

「んー?」

「すき~」

「なんだよ急に」

「きゅうに言いたくなったんだよ、とーまが好きって」

「知ってる」

「照れてよー」

 

 俺はすっかりリサがくっついてくる柔らかくて悩ましい感触も甘ったるくてけどかわいい声も、突然の愛の告白にも慣れてこうして対応できるようになった。それを彼女はやっと外面に内面が追いついたよねとか言い出すもんだからそれには怒るけど。

 

「俺だって、リサが好きだよ」

「知ってる」

「お前だっておんなじリアクションじゃんか」

「アタシはいーんです~」

 

 じゃれてくるところはあの時とは変わらず、変わったのは俺がちゃんと受け止める余裕ができたってこと。ちゃんとカンベの気持ちも清算してくれたし、そのあと改まって告白してくれた時は律儀だなって笑うこともできた。なにせリサのハジメテは俺だ。俺のハジメテもリサだけど。

 

「あ、でもファーストキスは中三の時にココで受験勉強して疲れたからーって仮眠してたよーたにしたのかな」

「なぁ俺今妬いてもいいよな? ブチ切れてもいいんだよな?」

「どこまでやっていいのかわかんなくて勢いで舌入れたせいで起きちゃってさ~、ごまかすのに──」

「──リ~サ~! 色々と台無しじゃねーか!」

「あは、ごめーん☆」

「反省しろよ!?」

 

 いやー言ってなかったわ~と笑えるようになったのはとてもいいことなんだけど俺がカレシだからな! 他の男の話されて妬かないわけねーんだよな! 

 つかキスもしたことないって言ってただろカンベ! あの野郎! なんでごまかされてんだよ! 

 

 

 

 

 

 

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