紗夜のBはBitchのB!   作:黒マメファナ

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太陽のD/あの日の誓いを

 身体を揺さぶられる。起きる時間よと優しくもキリっとした声がする。だがそれでも眠気に抗えずにうんうんと言いながらも寝返りを打った俺を、彼女は仕方ないわねとため息をつき、俺の上に跨ってズボンを脱がせていく──って。

 

「なにしてんの!?」

「起きないから、起こしてあげようと思ったのよ」

「何を?」

「ナニをよ」

 

 起こしてどうするの? 起きる時間ってそういうことなの? 朝ごはんの時間とかじゃなくて? というか朝起きぬけにツッコミさせないでもらっていいですかね!?

 そんなボケをかましてくるのは氷川紗夜。俺のカノジョさんで、ビッチのBそのヒトであります。今となってはプラスワンサイズなんだけど。

 

「ごはん、作ってくれてたんだ」

「ええ」

 

 実は去年まで彼女は料理があまり得意ではなかったのだが、俺という存在ができたがために必死で学んできたらしい涙ぐましいうえに最高のカノジョだよねうん、これは惚気ても許されるポイントだと思ってる。

 

「食器片付けるわ」

「それくらい俺がやるよ」

「なら、一緒にでどうかしら?」

 

 このやり取りはもはや新婚さんの領域である。なんでこんな新婚ごっこをしているのかというと、前回の事件が関わって、結論から言うと紗夜は家に帰れない状態になってしまっていた。

 犯人は捕まった。花音がなんとかしてくれたらしいけど、どうやってやったかは怖くて訊けなかったんだよ。

 だけどその男が、詳しいことはわからないんだけどどうやら紗夜になりすましてかつての援助交際相手に連絡を取っていたらしい。それがきっかけでファンに援助交際をしていたことがバレて炎上、住所まで特定されてひどいことになっていた。

 

「でもアイツらそこまでする度胸ないからあたしが睨んだだけでどっか行っちゃったけど」

「日菜さん強いね……」

「まぁ結局今悪いことしてるの向こうだし」

 

 双子の妹、日菜さんがやってきてそんな風に明るく世間話をしてくれる。ところでなんですけど日菜さんってアイドルじゃなかったっけ? 俺としてはアイドルが家にやってくるという状況にスキャンダルを感じるんだけど大丈夫? 

 

「だいじょーぶ」

「日菜のこういう時の大丈夫はなにも考えてない時よ」

「大丈夫じゃないねそれ」

 

 やめてよ、これで俺が特定されたら四股にクラスチェンジだよ。せめて事実関係のある三人だけで勘弁してもらえませんかね。

 日菜さんはあはは、と明るく笑い、あたしともシしちゃう? とヒトの顔を覗き込んでくる。あの、あなたのおねーちゃんが修羅の形相をしちゃうからやめようね。

 

「ダメよ」

「あはは、おねーちゃん顔怖い~! じょーだんだよ~」

 

 おかげでホラ、紗夜が腕をつかんだまま離さなくなっちゃってるんだけど。普段の紗夜からは考えられないくらいに頬を膨らませて、必死に妹に取られないようにしていた。なにこのヒトかわいい。むしろグッジョブじゃないかなって思えてきた。

 

「大丈夫だから、紗夜」

「……陽太が、そう言うなら……ん」

 

 うーんもう日菜さんが見えていないようで両手を広げてハグしてのポーズ。ちょ、止めてよと思って日菜さんの方を見たらにやにやしてるだけ。なんか小悪魔っぽい仕草ですね! いたずらっ子のようで、まぁ確かに彼女のイメージには合ってるかな。

 

「でもさ、バンドはどうするの?」

「練習は当然非公開だし学祭はなんとかなると思うけど……」

 

 待っているのは夏休み最後にあるライブ。紗夜はもちろん、ついでに俺も危ないんだよなぁ。学祭、なんと講堂を明けてくれるらしいし、それならステージと客席でそれなりに距離が離れてるから。

 でもCiRCLEはマジで危ないと思う。だからその辺どうにかした方がいいんだろうけど。

 

「ハコおっきくしちゃえば? ポピパにRASもいるんだしdubでもラクショー埋まるでしょ」

 

 確かにそうだね。dubはRASのホームだし、キャパは千人と二階席まであって広々してるし。ただなぁ、CiRCLEさんにもう頼んじゃってるし、今からハコを抑えて費用とか云々考えるとキツいんだよね。

 

「んー、武道館でやろう!」

「無理ね」

「やろう! で出来たら苦労しないね」

 

 日菜さんがえーと抗議する。武道館って、あの武道館でしょ? バンドやアーティストが一度は夢見る場所。聖地とも言うべきステージ。

 あでも、Roseliaは立ったことあるんだよね。紗夜に確認するとええ、とうなずいた。

 

「前回は近所のライブハウス合同で費用を捻出したんだっけ」

「らしーね」

 

 だけど今回はそうはいかない。どうするかな、と日菜さんを送りついでスタジオへと悩みながら歩いているところだった。あらら? と能天気そうな、明るい声が俺の耳を打った。

 ──パッと前を向くとそこには、今にもあふれ出しそうな真夏の太陽が俺を覗き込んでいた。

 

「弦巻さん。先日はどうも」

「いいのよ! それよりも彼が花音のコイビトなのね」

「私の、でもありますが」

 

 そうなのね、とニコニコ笑顔を崩さないその子は……花音のライブを見に行った時にセンターで散々に踊って笑顔を振りまいていた、弦巻さんだった。とはいえ俺は初対面であるため、花音がお世話になってますと挨拶をする。

 

「花音から話は聴いていたわ。あなたが花音のヒーローなのね!」

「ひ、ヒーローって」

 

 俺がヒーローだなんて言われてはいそうです、とは言えないけど、彼女はどうやら俺たちと同じくCiRCLEに用事があったようで一緒の道を歩くことになった。ところで紗夜、先日はどうもってどういうこと? と気になったことを質問してみる。先日って言うとどうしてもあの事を思い浮かべちゃうし。

 

「彼女が、弦巻さんこそ松原さんの言っていた最終手段です」

「……どういうこと?」

「よくわからないけれど、あたしがそうお願いするとその通りになるのよ! 前も紗夜や花音を助けて、とお願いしたの!」

 

 はい? なにどういうこと? なにかの能力者? なんか昔のアニメキャラにそういうのいたよね。無意識に願ったことがなんでも叶っちゃうカミサマみたいな女の子がフツーの男子高校生に恋しちゃうやつ。原作が未完で終わってて──っていうのをなんかで見たし劇中歌は有名で俺でも知ってたよ。

 

「いえそうではなく」

 

 そんな風にいつの間にかファンタジーな世界観に取り込まれてしまったのかと思ったら、紗夜が補足してくれる。彼女は弦巻家の一人娘なのだと。そういえば弦巻ってアレだよね、幅広い事業やってる大富豪のおうち。財界、政界、そんなところにもコネクションがあるんだとか。

 

「つまり」

「権力、というやつですね」

 

 気にいらねぇな、気にいらねぇ……とでもいえばいいんだろうか。えーっと花音が弦巻さんにお願いして、それを使ってものの数時間で捕まったのか。恐ろしいこの国の闇を見た気がした。気のせいだと思っておこう。

 

「それで今はもう大丈夫かしら?」

「あーうん。でも今問題が──」

「──よ、陽太あまり迂闊なことは」

「え?」

 

 だが時すでに遅し。俺はバカ正直に話してしまった。紗夜を取り巻く現状、そしてライブハウスがもっと広かったらなぁということまで、全部。

 でも俺は悪くないでしょ。誰だって想像しない。それを訊いた彼女がそういうことね! と笑顔を浮かべるなんて。

 

「ならまりなと相談してくるわね! それじゃあ!」

「あ、ちょ……行っちゃったよ」

「知らないわよ、どうなっても」

 

 どうなっても知らない、そんな風に言われてしまうとなんとも言えない。まさか翌日に連絡が来て、会場を建ててると聞いた時にはもうどうしようかと思ったレベルだった。しかもでかい。バカでかいんだけど。

 

「だから言ったのよ」

「……まぁこころだし?」

「弦巻家の力ってスゲー……」

 

 トーマ、それで済ませていい話じゃないと思うんだよね。ただ純粋に俺がやらかしたからそう言えないってだけなのかもしれんけど。

 それから数日しないうちに会場が完成してしまった。怖いよね、俺は今ものすごい奇妙な体験をしているよ。

 

「……紗夜?」

 

 だけど俺はちゃんと予定通り紗夜たちと、Roseliaとライブができるんだって思うと嬉しいんだけど……なんだか紗夜が元気なくて、心配になってしまう。どうしたんだろうと思っていると、紗夜はまるで迷子になったかのように俺にすがりついてきた。

 

「私は、やっぱり()()()()()にとって……重荷になるわ」

「どうして? そんなこと」

「そんなことあるわよ。だって今、私はあなたに迷惑をかけ続けているから」

 

 初めからそうだった、と紗夜は暗い顔で訴える。都合のいい存在になれなかったと泣いたあの日と同じ顔で、紗夜はゆっくりと俺の腕の中に顔をうずめていく。それでも一緒にいたい、そんな本音が聞こえてきそうだった。

 

「あなたの理想を踏みにじったわ」

「うん」

「踏みにじって、私と同じ名前を与えてしまった」

「うん」

「過去が付きまとって、迷惑をかけた、だから」

「迷惑なんかじゃないし、紗夜のそのことで嫌だって思ったこともない」

 

 紛れもない真実だった。俺にとって紗夜はハジメテのヒト。それ以外になんにもいらない。紗夜と一緒なら、なんと言われようと俺は幸せだよ。それは紗夜によって歪められたものなんかじゃない。心からの言葉だから。

 

「俺は紗夜が好き。大好き……それじゃあ、ダメ?」

「……ダメ、なわけ……ないわよ」

「じゃあ傍にいて。前に言った気がするけど言いたいこと言えばいいよ。俺は紗夜に好きって言われるの、めっちゃくちゃ嬉しいんだから」

「……陽太は、本当にバカね」

 

 バカってなんですかね、というと褒めてるのよと言われてしまう。いやどこに褒める要素あるのかな。

 ただ、ふふふと嬉しそうに笑う紗夜にキスをされ、お返しにとキスをするとちょっとだけ驚いたような顔をしながらもすぐにまた破顔される。

 

「そういうことは、できるようになったのね」

「そりゃあ、初めて紗夜とキスしてからもう一年くらい経ってるからね」

「そうだったかしら?」

「奪ったの紗夜でしょ」

 

 ソファで肩を寄せ合い、キスをしながらこれまでのことを、そしてこれからのことを話していく。恋人なんだから、俺は紗夜のことを放っておけないし、おけたとしてもそのつもりはない。

 俺と紗夜のこと、そして燐子や花音のことも、そんな幸せな時間を奪おうとするすべてから、俺は戦ってやるんだ。もう、三人と付き合ってることに悩んだりしない。そういう態度が隙を生んだって言うなら俺は……俺は変わってやるんだ。

 

 

 

 

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