紗夜のBはBitchのB!   作:黒マメファナ

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Tの世界/変わらないものの中で

 バンドの練習が終わった俺たち……俺と燐子と紗夜は花音によって呼び出されていた。場所は弦巻さんのおうちだとか。お泊りの用意もしてねという突然の言葉に俺たち三人は首を傾げていた。

 

「まったくもって謎ですね。なんでしょう」

「わざわざ……弦巻さんの、おうちで……」

「とりあえず行ってみることに変わりはないし」

 

 そんなことを話し合いながら豪邸の前にやってくる。まるでお城か宮殿かと見紛うような屋敷、その門の前には黒い服の人たちがいて俺たちを案内してくれる。客間、なんだろうか、たぶん客間に通されそこには花音がいつものふわふわ笑顔で俺たちを迎えてくれる。

 

「みんな来てくれてありがとう」

「いいけど、何かあったの?」

 

 最近ほんとにここのところ問題続きでようやくひと安心かと思ったところだったから、正直これ以上何も起こってほしくないんだけど。俺がそんな風にちょっと切羽詰まった感じに花音に問いかけたせいか、きょとんとされてから大丈夫だよお、とほほ笑まれた。

 

「そういうシリアスなアレじゃないから」

「……それならよいのですが」

「じゃあ……どうして……?」

 

 二人がほぼ同時に疑問を挟んだところで客間のドアが勢いよく開け放たれ、そこに太陽の化身が見つけたわよ、花音! と満面の笑みでやってきた。

 ──弦巻こころ。大富豪・弦巻家の一人娘で花音が所属するバンドのボーカル兼リーダーでもある。そして、なにより彼女を簡単に表すのが……バンドの目標でもあり彼女の夢のようなもの。世界を笑顔に。

 

「少し時間がかかったけれど、バッチリよ!」

「見つかった? ごめんね難しい条件で」

「お安い御用よ! 花音たちを笑顔にするためだもの!」

 

 んん? 話が見えないんだけど、たぶんその花音が頼んで弦巻さんが探したものこそが俺たちの疑問に応えるものだということはわかった。なんだろうと顔を見合わせていると、さっき門の前で案内してくれた黒服さんがやってきて……ってなんかプロジェクターとか色々機材運んできたんだけど。

 

「コホン、それじゃあみんな座って」

「え、ええ……」

「……なにが、始まるんでしょう」

「さぁ……?」

 

 ホワイトボードにはプロジェクターによって映し出された文字がある。ホワイトボードのある場所だけ部屋の明かりが消え、プロジェクターの文字が俺たちにも読めるようになった時、そこにある言葉に俺はものすごい数の疑問符を浮かべることになってしまった。

 ──どう頑張っても、目をこすってもそこには共同生活を送る前に、という文字が見える。同時に黒服さんたちによって資料が配られた。プレゼン? なにプレゼンが始まるの? 

 

「というわけでまず場所なんだけど、資料を開いた四ページ目に概要が載ってるから参考にしてね」

「……冗談、ではなさそうですね」

 

 いやいや冗談でしょ。そこには駅前にある、俺たちが通う大学の使われなくなった学生寮の場所が示されていた。

 そしてパワーポイントの方を見ると大学から離れすぎていない。音楽活動ができるなどなどの要素を盛り込んだうえでの最適な物件を見つけて改築、四人で共同生活を送れるようにするということが書いてあった。

 

「次に一枚捲ってもらって内装計画、なんだけどここは私だけの一存じゃなくてみんなで決めたいんだけど、どうかなあ?」

「そうですね、スタジオはそれぞれ個室にもできる方が適していると言えばそうですね」

「だよね。一応取り外しができる防音の間仕切りっていうのもあって──」

 

 あれ、順応してる!? 紗夜がスラスラと要望やら問題点を指摘してらっしゃる。ああそうだよねこういう時に紗夜は似合いますね。会議とかプレゼンとか得意そうだもんね。得意そうではなく得意だと燐子に訂正されてしまうけど。

 

「部屋数が多すぎるのもまた、掃除が大変かと」

「確かに」

 

 この寮がもともと何人で生活することを想定されてたのかはわかんないけど、明らかに四人だと隅々まで掃除が行き届いていかないよね。ハウスキーパーさん雇うのもありだよね、と俺が言うけど紗夜としては共同生活である以上無駄な出費は抑えたほうがいい、という意見らしい。

 

「幸い放置しても部屋が汚くなりそうな方は……松原さんは大丈夫ですか?」

「大丈夫」

「それは俺も保証する。とうかみんな部屋キレイだよね」

 

 俺はほら、紗夜たちが来る前から結構リサが来てたりしてたから部屋はキレイにする習慣がついてるんだよね。だけど問題は廊下とか使われない部屋、まぁ客間とかにする予定って書いてあるけど、そういう部屋をどうするかってことなんだよね。

 

「休みはとことん合いませんし」

「……バンドとか」

「主にバンドだけど」

 

 ただ、俺もみんなもこの共同生活自体に反対はしなかった。特に俺以外の二人はやけに積極的になっていく。あと思ったんだけど俺の部屋だけ二階にあってなんでぶち抜く予定なの? しかもなぜ大浴場が地下にあるのに俺の部屋に広めのお風呂あるの? 

 

「そりゃあ、ねえ?」

「汗かくから必要でしょう?」

「……一緒に入りましょうね、またアレ、シたいです……」

 

 まさかの俺以外満場一致で必要、と。あの俺、大浴場とやら使えますかね? 俺も広いお風呂入りたいなぁ! 地下は浴室とシャワー室。あとは練習のできるスタジオ。地下室はお庭がある予定の場所までぶち抜いてるので広々空間である。というか地下から二階までか。一階が三人の部屋と客間、そしてリビングとキッチンがあって、これはもともとの寮でもそうだったみたいだ。

 

「エレベーターも実装しましょう! って言われたけどさすがにそこまではいらないかなあと思ってて、どう?」

「エレベーター……」

「いりませんね」

 

 そんな風に意見を出し合い、完全な案が決定した。というかみんな実家から離れるのはもういいんだという思いがあったけど、そっか。いっつも誰かひとりが一緒に帰るというのを見て、その想いが三人には積み重なってたんだろうな。

 

「それで、住むんですか?」

「うん」

「ああ……と、遠のいていっとる。そんな……」

 

 ロックちゃんにはごめんねだけど。というか諦めてなかったんだねって意外性の方が強かった。結構ヒドいフリ方した気がしたんだけど。ロックちゃんにはそうですか? と首を傾げられてしまうのでどうやらそうでもなかったらしい。

 

「同棲……かぁ」

「どうしたのつぐみちゃん?」

「ひゃ! い、いえっ!」

 

 こっちはこっちでなんだか下を向いて照れたと思ったら上向いて……なんか今までのつぐみちゃんのイメージがぶっ壊れるくらい恍惚の表情してる。嘘だろマイエンジェルッ! その表情はッ、花音がクラゲみてたり燐子がシチュエーションでセックスしてる時の表情に近いんだッ! 

 

「変態さんや」

「ごめんなさい」

「少なくともお茶の誘いを受けたのにその女の子放っておいて看板娘に鼻の下伸ばしとるのはいかん! と思います!」

 

 眼鏡状態のロックちゃんは怒り顔も愛らしくて癒しである、こんなこと考えてるのがバレたら怒られるけど。ただ、ロックちゃんにたまたま会って紗夜待ちなんだよって教えたらじゃあそれまでお茶してくださいって誘われていいよって言ったのは俺だし。ごめんね。

 

「わかればいいんですよ」

「う、うん」

「……カンベさんが羽沢さんのような子が好みなことも知ってますし」

「なんで?」

 

 それはぁと目が泳ぐロックちゃん。なに? キミは何をしたの? だがロックちゃんは頑としてその答えは教えてくれなかった。嘘でしょ、ただそれを丁度コーヒーを持ってきたつぐみちゃんはめちゃくちゃ驚いて危うくコーヒーをひっくり返すところだった。

 

「ご、ごごごめんなさい……っ!」

「ど、動揺しすぎだよ」

「だ、だ、だって……カンベさんの、好みが……って」

「ああ、えっと……前に言った気がするんだけどな」

 

 いやあの時は冗談として処理されたんだっけ。そもそもそんなナンパみたいな器用な話術を俺が使えるわけないんだよな。だから百パーセント本音なわけで……とそんな言い訳どころか恥の上塗りをしまくっていると紗夜に怒られそうだからやめておこう。

 

「とにかく、俺は前からずっとつぐみちゃんみたいな子が好みのタイプだから」

「は、はい……ありがとう、ございます」

 

 うわ、恥ずかしい。なんかつぐみちゃんが真っ赤になってしまって俺まで恥ずかしくなってきた。うーん、紗夜たちに好きだって言っても微笑んでくれるだけだしまぁそれがめちゃくちゃかわいかったり嬉しそうだったりするもんだから恥ずかしいってよりはホントに心の底から好き! ってなるんだけど。

 

「お待たせしました」

「あ、紗夜」

「さて帰りましょうか」

「うん」

 

 一応ロックちゃんの分も出してあげて寂しそうに手を振る彼女とまだ真っ赤になってるつぐみちゃんに手を振って羽沢珈琲店を後にした。

 ──まだ、帰ると言っても俺の家だ。完成は夏休み終わった頃らしいし、ってそれでもめちゃくちゃ早いのは気にしないほうがいいのかな。それまではこうして誰かが寂しそうにする日々が続く。だったらせめて、俺は嬉しそうにしてる誰かがもっともっと嬉しいって思ってくれるようにするだけだ。

 

「紗夜」

「なに?」

「好きだよ」

「私も」

 

 ほら、やっぱり紗夜は照れてくれない。ワンチャンあるとしたら花音かなぁとか思ってると紗夜は普段からたくさん伝わっているから、と俺が照れてしまうようなことを笑顔で言ってきた。俺だってそうだよ。紗夜が俺のことを好きって気持ちは嫌というほど伝わってるから。

 

「そうね」

「だから、これからもよろしくね紗夜」

「こちらこそ、陽太」

 

 紗夜を照らせる太陽に、俺はなれてるだろうか。そんなこと考えるまでもないことだった。だってあの日、弦巻さんにあなたはあたしとおんなじなのねと言われたんだから。世界なんて大きな規模じゃなくて、俺を好きでいてくれる愛おしくも困ったビッチたちに、極上の笑顔を届けていたいから。

 

 

 

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