ソードアート・オンライン《黒の剣士と白い悪魔》   作:海苔塩イモ

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今回はちょっと短めで、一利があんまり主人公していません。今回は、シノンとある人がメインの話ですので!

それではお楽しみください!


第2章 Phantom Bullet
第 Ⅰ 話 動き出す2つの善意


2025年12月2日

 

私ことシノンはダイン率いるスコードロンに参加することになった。

参加すると言っても今回限りの契約。私はあの忌まわしい過去に打ち勝つためにも、私一人の力で強くならなくちゃならない。誰の力も借りずに。

でも、ソレはソレとしてコンビを組んでいるノバの強さも知り、その上でノバに勝つことができれば私は……シノンはもっと強くなれる。

 

そうすれば……彼の奥底に“ある感情”も判るかも知れない。

 

そう言えば、最近のノバはまるで探し物を見つけたかのような目をしたけど……あの瞳は普通では無かった。

それなりの月日やクエストをこなして来た相棒だからこそ分かってしまった。

アレは明らかに優しい彼がしていい瞳ではなかった。

まるで本当の悪魔に取り憑かれたかの様な目だった。

コワイ……彼が彼でなくなってしまう……そんな不安が私の頭の中を覆っていく。

 

ダメよ…このままだとまだ弱い詩乃のまま!

今の私はシノン!

 

「シノン…狙撃準備に入ってくれ」

「……了解」

 

 

私は氷、冷たい氷でできた機械。

 

 

そうして心の中の不安を奥底に沈め、敵を倒すためヘカートと心を同化させていく。しかし、彼女の予感は最悪な形で現実のものとなってしまうことを、この時のシノンは思いもしなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

2025年12月7日

俺こと桐谷和人は、菊岡さんから死銃(デス・ガン)なる人物の凶行を止めるべくガンゲイル・オンラインへの調査に赴くことを了承した。勿論、調査費として15万円も貰えることで菊岡さんへの不信感がガク下がりしたのは内緒ではある。

 

「それからキリト君には、警告をしておくことがある」

「何だよ。撃たれて来いって言った癖に、余計な仕事をさせる気かよ」

 

「彼……一利くんのことだよ」

「っ!?」

 

菊岡さんからアイツの名前が出たことで漸く気付くことが出来た。そうだ、俺みたいな頼んでいるんだ。アイツにだってこの事件に不審に思っている違いにない。そして、この菊岡さんの先程よりも真剣な顔付きになっていることから相当なことがアイツの身に起きようとしていることになる。

 

「彼は……今でもなお彼らと、実際には生きていた君達を見殺したという事実に囚われている。そして、コレは僕の予想だけど、彼はこの死銃(デス・ガン)と闘い、その果てに殺される或いは心中することを望んでいる」

「おいおい、菊岡さん幾ら何でも冗談がすぎるぞ?」

 

「いつもの冗談を言っている様な顔に見えるかい?」

「…………悪い。菊岡さん、アイツにも俺と同じくらいの安全は保障しているのか?」

 

「ソレは充分に保障する。でも、明らかに一利くんはSAO事件から帰って来ても、その心を影に落としている。このままだと、彼は本当に取り返しのつかない道へ踏み外す可能性がある」

 

アイツは、大切な人であるアオイと親友であるクロトを同時に目の前で失った。それに加えて、死のうとしたアイツをなんとか立ち直らせたオレやアスナまであの時……茅場晶彦との一騎討ちの時も生きていたとは言え俺達を見殺しにしたという現実に対し、後悔の念を抱き続けているのか。

 

今のアイツのことを思うと俺は、この事件への介入への決意がより一層固めることができた。

 

「だから、キリトくん。彼を止めるためにも、この事件を終わらせるのに協力してくれ」

「ああ、勿論だ。菊岡さん、改めて俺はこの事件を止める。そして、あのバカの目を覚まさせる。どんなことをしても」

 

こうして、俺と菊岡さんの話は終わり、アスナとの待ち合わせ場所へ行く。その道中に、アイツ……一利からメールが来ていた。内容は、今回のGGO内での打ち合わせ内容であった。それに俺は了承のメールを送ると共に、『お前を救う』という言葉を送るのだが、それ以降の返信はなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

六畳間の安アパートの一室。

そこに設えたユニットバスの中で、私は力尽きていた。

 

学校からの帰り道、クラスメートの待ち伏せにあい、そこを助けてもらった新川くんと喫茶店に入り、先日死闘を繰り広げた≪ベヒモス≫というプレイヤーが、集団戦では無敵とまで呼ばれた人だと聞き、そんなプレイヤーを倒したい今の私ならば『銃』へのトラウマも乗り越えられるかもと思ったのだ。

しかし、その結果は残念な形となった。

 

私は、11歳の頃、人を殺した。

東北の小さな郵便局を襲った強盗を『銃』で撃ち殺したのだ。それ以来、銃に類するものを見ると激甚なショック症状に襲われ、酷い時には嘔吐してしまうことまであった。

 

そんな弱い私の例外は、あの≪ガンゲイル・オンライン≫の世界だけだった。あの世界で戦い続ければ、いつの日か、このトラウマとも向き合えるとそんな風 淡い期待を持っていた。なのに………私は…詩乃はどうしてこんなにも弱いのか……

 

「お願い……助けて…誰か……たすけて…」

 

視界が涙で歪み、うわごとのように呟きながら、私は『銃』に触った手を何度も洗い、最後に顔を洗った。部屋に戻って忌まわしいモデルガンをタオルでくるみ、再び引き出しの奥底へとしまった。そして、制服を脱ぎ、ベッドで横になろうとしたところで、玄関の呼び鈴が鳴った。のろのろと力のない足取りで、玄関まで近付くと、ドアの向こうから聞き慣れた“あの人”声が聞こえてきた。

 

『おい!朝田!何かあったのか!?』

 

それは、このアパートに引っ越してから何かと助けてくれる隣人の声だった。なぜ、とも思ったが、すぐに自分の悲鳴を聞きつけて心配してくれたのだと察した。

 

「あ…ぁ…大丈夫です。ごめんなさい私の声、迷惑だでしたよね?」

『そんなのは気にするな。あと…出来れば、開けてくれか?流石にドア越しは……ちょっと』

 

「え…あ!す、すいません」

 

促されるままドアを開ける。この時には、まだ私は思考能力がちゃんと戻っていなかったため自分の状態をしっかりと把握していなかった。ドアの隙間から見えたのは、小さな瞳をした赤ん坊の顔であった。

 

「しーちゃ!しーちゃ!」

「立華ちゃん?」

「おう、また預かることになったな。あの時みたいに、あのアホどもがいるわけじゃないんだな」

 

私の顔を見て、キャッキャッ!と嬉しそうな表情をするのは私の隣人仙石一利さんの姪っ子の仙石立華ちゃんであった。数ヶ月前に遠藤さん達が私の部屋を遊びの場や喫煙場所に利用し、夜中にも関わらず騒いでいたことで、立華ちゃんが大泣きしてしまった。その結果、堪忍袋が切れた仙石さんが、私の部屋に注意をしに来た際に遠藤さん達が暴力で黙れらせようとしたが、彼の方が圧倒的な身のこなしで全員撃退した。そして、大泣きをする立華ちゃんを仙石さんと一緒に何とか宥め寝かせつけることを条件に許してくれた。

また、この時の仙石さんの話では、叔母がどうしても外せない学会の発表があるため甥っ子である彼が数日間娘の立華ちゃんを預かるという内容だった。そして、どういうわけか私は立華ちゃんに凄く懐かれる様にもなったため、まだまだ言葉を話せないにも関わらず、私のことをしーちゃと呼んでくれている。

 

「はい、あの時仙石さんが私の合鍵を拾ってくれておかげで、入られる心配はなくなりました」

「そうか。顔が真っ青だが大丈夫か?」

「ぶかー?」

 

立華ちゃんをおんぶ紐で抱えていながら心配げな表情を浮かべる仙石さんを部屋に入ってもらう。

 

「立華ちゃんの顔を見たら元気が出たから大丈夫よ」

「しーちゃ!ぱいぱい!!」

「ぱい?……はっ!お、おい朝田!いいか!ようく!落ち着けよ!!」

 

立華ちゃんの言葉を聞いて何かに気づいた仙石さんは慌てた様子でスーパーの袋を持っている両手を私の前に突き出し、落ち着くように静止の体制を取り始めて行く。そして、立華ちゃんの視線を追い、自分の制服へと目をやると、自分が制服を半分脱いだ状態だったことを思い出した。

 

「―――ッ!!」

 

声にならない悲鳴をあげ、急いで身支度を整えた。そうしている間は、仙石さんに向き直ると、律儀というか何と言うか、ちゃんと後ろを向いてくれていた。

 

「…………み、見ました?」

「見てしまったので、気の済むまで殴ってくれ」

 

流石にお世話になっている相手を殴るなんて出来ないから、せめてとして両頬を数十秒間引っ張ることとした。何故か、仙石さんは納得しなかったので、立華ちゃんを抱っこしながら往復ビンタをして貰った。そして、立華ちゃんにトドメとして『いーちゃん!ちらい!』(※一利!嫌い!の意味)を言って貰った。すると、数分間仙石さんはその場に崩れ落ちた。しばらくしてから、復活した仙石さんに立華ちゃんを戻す。

 

「本当に大丈夫なのか?」

「ぶかー?」

 

何も言われはしないが、心配げな仙石さんを見ていると、自分はやはり酷い顔をしているのだろうと察する。本当に優しい人なんだなと改めて理解する。

 

「はい大丈夫。本当に、大丈夫ですから」

 

やせ我慢だと自分でも分かっているけど、なんとなく目の前の仙石さんにこれ以上の心配はかけたくは無かった。

 

「でも……何も、聞かないんですね」

 

この人は、私が起こした五年前の事件については、何も知らない。私とは隣人という知人であるのに、自分のトラウマやショック症状については、本当にベストなタイミングで助けてくれる。

 

「……お前が話して楽になれるのなら聞く。でも、ツライことを話すだけでも相当な覚悟や時間がいる。お前が、本当に話したくなったら聞くさ。これでも、色々と人生経験が豊富な隣人さんではないからな」

「なぁー!」

 

……本当に、そんな少しばかりの心遣いが、今の私には本当に心地よかった。でも、同時に、目の前の彼に多大な迷惑をかけているという申し訳ない気持ちにもなってしまう。そんな私の気持ちに反して、口から溢れるのは甘えの言葉だった。

 

「いつか、気持ちの整理がついた時……聴いて下さい」

「相談くらいには乗るさ」

「るさー!」

 

私は私自身の力で強くならなくちゃいけないのに。

 

私の過去を知ったらこの人も離れていってしまう。

 

でも、この人なら……大丈夫…そう勝手に思ってしまう。

 

いつか私も仙石さんやノバのような強さを手に入れることが出来たら、絶対に今までの恩返しをするんだ。

 

そう密かに決意した私は、仙石さんと立華ちゃんと別れてから、今日も BoBに向けて強くなるためにGGOへ赴く。

 




余談として、一利の家族構成は、オカマの叔父が1人、バツイチの叔母が1人、ゲイの父が1人、祖父母が健在という感じです。
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