ソードアート・オンライン《黒の剣士と白い悪魔》   作:海苔塩イモ

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第 Ⅲ 話 再開のデスゲーム

2025年12月13日

千代田区の病院内で、2人の少年は会合していた。

 

「よぉ、コッチで会うのは初めてだな。キリト」

「あぁ、おまえがずっと着拒していたおかげだよ」

 

1人は真っ黒なジャケットに真っ黒のジーンズという全身黒一色にした少々中性的な顔立ちをした少年キリトこと桐谷和人。

もう1人は、水色のTシャツの上に紺色のジャケットを羽織り、ベージュ色のストレートパンツを履いた高身長の青年ノーバディこと仙石一利。

嘗て、SAOで肩を並べていた筈の彼らだったが、一利の心の内に眠る深い後悔によって袂が別れていた。しかし、今はこうして1つの事件を解決するためにまた肩を並べて闘うこととなった。

 

「相変わらずの真っ黒だな。モヤシ」

「うるせぇ、廃ゲーマー」

 

「お前程じゃない」

「どうだか?」

 

2人の仲を知らない第三者からすれば仲良さげに聴こえるが、2人の仲を知っている者達からすれば明らかに2人の間には太い壁が存在している。

 

「念のために言っておくが、GGO(あっち)に着いてもウロチョロせず、俺に連絡しろよ。迷って参加無しなんてモノになればお笑いモノだからな」

「わ、分かってるって!それから、この大会が終わったらアスナ達に絶対に会ってくれ!!」

 

一利の念押しに思うところがあるのか言葉を濁しつつも、キリトは改めて一利と向き合うために約束を取り付けようとする。

 

「さぁな、俺が生きていたら考えてやるよ」

「おい、ふざけるなよ!いい加減に前を向いて生きろ!アオイやクロトもそんな風に苦しむオマエを望んでいないんだぞ!!」

 

「俺が望んでいるからいいんだよ。俺みたいな殺人鬼に構うよりも、やることが多いだろ。さっさとログインするぞ」

「おい!待てぇ!」

 

後ろでナニカを言うキリトの言葉を無視し、一利はそのまま振り返ることなく自分が用意された病室へ入る。すると、

 

「あら、来たわねカズ」

「おや随分とお肉が付いたね、仙石くん」

「なんでいんの、叔父貴に美久さん」

 

薄紫色の長髪に、肌年齢は二十代と思えるほど若々しい一件女と見間違うほどの詐欺メイクを施している叔父こと仙石道隆と、太ましいながらも母性感を滲み出す特徴的な看護婦こと新島(にいじま)美久(みく)さんがいた。新島美久は、SAOから帰ってきた一利のリハビリ担当をしていた看護婦でもあるため一利や彼の身内である道隆とは親しい仲でもある。因みに、三児の母でもある。

 

「何よ、甥っ子が危ない仕事するから心配で来てあげたのよ。あっ!総弦(そうけん)兄さんや美空(みそら)姉さんは来させてないからね。私よりメンドくさいし、遠いし」

「私はあの菊岡って言う怪しいお兄さんに頼まれたからよ」

「納得。いくら彼氏にフラれたからって甥っ子の俺にニャンニャンするなよ、叔父貴」

 

「うっさいわね!フラれたんじゃなくて、私がフッたよ!!ソコ間違えるんじゃないわよ!!あの人とはお互いに反りが合わなくなったのよ!!あと、寝言は彼女作ってから言いなさい」

「まぁまぁ、そこは私が見張っておくから頑張って来なさい!」

「うーす。それじゃあ美久さん、男に飢えたモンスターを見張っておいてくださいね」

 

病室なのにギャーギャーうるさい叔父兼叔母の道隆を尻目に、電極パットを貼り付けるために服を最低限脱いだ一利は、ベッドへ横へなると用意していたアミュスフィアは装着する。

 

「気を付けて行きなさい、カズ」

「good luckだよ!仙石くん!」

「うーす。リンクスタート!」

 

こうして、自分を見守る2人の女性?の言葉を受け取ると、一利は恐ろしいデスゲームへと変わろうとするGGOへログインする。

 

 

 

 

 

 

 

キリトside

 

潜ったら一利……ここでのアイツ……ノーバディに連絡して、合流後にBoBへエントリーして……あと装備も整えなきゃいけないのか。前途多難だな、コレは。

 

データをコンバート、アバターは自動生成。

首都のグロッケンに転送され、周囲を見渡すと周りはイカついアバターのソルジャー達ばかりに加えて、街もゴツゴツとしていてファンタジーのALOとはまるで違い、どこか殺伐としてるな。

 

さてと、無事にコンバートできたしノーバディに早速連絡をーー

ん!?ちょっと待て待て!!

ウィンドウを開こうと腕を伸ばしたとき、なにか違和感を感じた。

まずは自分の手。周囲を見渡してもゴツい男たちみたいに全然太くない。と言うか、ここまで細くはないどころかどちらかと言えば華奢だ。いつも握るアスナの手みたいに。

 

すぐ側の鏡に映る俺を見れば、俺のコンプレックスだった女顔がより女の子らしいものに、いやいやソレよりも体の方もなんか華奢で細木のようだぞ!アスナみたいに!!

 

「なぁ、ネェちゃんそのアバター売らねぇか?」

 

ね、ネェちゃん?えっ!?ま、まさか……。

 

胸を触るがアスナのような柔らかさはない。

10割筋肉の感触に文字通りに胸を撫で下ろす。

 

「悪い。俺、男なんだ」

「何!?ソレはまさかm9000番か!?超レアじゃないか!!売ってくれ!」

 

しつこくアバターの売却を勧めてくる男には何とか断りを入れ、街の中に逃げ込む。この時は俺は選択を初めて間違えた。

ノーバディに連絡を取るためにウィンドウを開こうとしたときキリトの目に入ったのは、この殺伐としたゲームには珍しい女性プレイヤーであった。

 

「あの、すいません。ちょっと教えて欲しいことが」

 

見た目は女の子だし、第一印象は悪くないはず。

声に気を付ければ大丈夫、ちょっと道を教えてもらうだけし。

打算10割の考えだったけどあとから考えれば、大人しくノーバディに連絡すれば良かったと後悔した。コレが2つ目の選択ミスだ。

 

そして、俺を女性と思っている女性プレイヤーのシノンに手っ取り早く金を稼ぐ方法を教えてもらい、弾避けゲームをクリアし、28万くらい稼せがせてもらった。その後、装備を整えるために武器屋にも案内してもらい、光剣(フォトン・ソード)を購入。これだけで7割くらい飛んだ。高ぇーな、この世界の剣って。

 

それにしても、『あのバカみたいに躊躇いなく買うわね』って呆れたようにシノンは言ってたけど、誰のことだろ?

後、完全にナニカを忘れている様な気が……気のせいにしておこう。

その後も、牽制用のハンドガン《ファイブセブン》とホルスターにプロテクター、簡単な服を購入し、光剣を腰のカラビナに《ファイブセブン》を左手で抜けるように後ろ腰の左側にホルスターをベルトで固定して、俺の装備はもう完璧だ!ちょっと足りなかったお金を出してもらったのは流石に申し訳ないけど。この大会が終わったら絶対返そう!

 

ヤバいさっきからノーバディからの呼び出しのメールがマジでヤバい。

成り行きとはいえ、すっぽかしたんだ。コレは後でマジで殺されそうだな。いや待てよ……アイツも俺を着拒しているんだからコレでお相子にしてもらおう………。

 

 

side out

 

 

 

 

 

 

 

「あの野郎……コロス。これでエントリー完了か」

 

キリトにメールを全部無視されているノーバディは流石に堪忍袋が切れたのか、1人でブツブツと呟き、入力ミスがないか確認して《SUBMIT》と書かれたボタンを押していた。表示されるエントリー完了のウィンドウを消し、5分もかかる予選エントリー手続きをようやく完了させた。

めんどくさいディスプレイ作業を終え、腕を1人でに伸ばしながら、死銃(デス・ガン)なる人物の情報を頭の中で整理しながら、ホログラムディスプレイの一つを一瞥する。

それはこの大会第三回《バレットオブバレッツ》が始まるまで残り十五分を表していた。いつものGGOの三倍増しで目に飛び込んでくる人の群れを前に、どう暇潰ししようかと思案していると、

 

「へぇ〜やっぱりノバちゃんも出るんだ♪」

「シット!」

 

後ろからかけられた声に対し、咄嗟にナイフを振り抜きながら振り返るとそこにはーーー

 

「なんだ痴女かよ」

「失礼ね!誰が痴女よ!」

 

痴女―――もといピトフーイは、このGGOの中でもノーバディと並ぶほどに最古参であり、ステータス状ほぼ全ての武装を使いこなすことができるファッキンプレイヤーでもある。

 

「来るな寄るな土に還れ露出狂の変態。変態が移る」

「そこまで嫌うことないじゃなーい。ほらほら、今回は着てるっしょ?」

 

そう言ってくるりとその場で一回転してみせた後、可愛くウィンクをするピトフーイ。飛んでくるウィンクを死んだ顔のノーバディははたき落としつつ、目の前にいる彼女の姿を拝見する。黒髪のポニーテールが追従するように靡き、健康的な肌の長身美女はそのスレンダーな体を覆うボディースーツを披露する。しかし、身体のラインはくっきりである(御馳走さまですbyエム)。

 

「前のよりはまだマシだ」

「イェーイ☆」

 

「いい加減にストーキングはヤメロ」

「あは、ムリ!」

 

「マジでその内ハラスメントコードで訴えるぞ」

「ドンと来なさい!!」

 

 

にゃはははと笑う痴女兼男前を睨みながら俺はふしゃー!と唸って威嚇する。

 

この《ピトフーイ》という名前のプレイヤーは、SAOに憧れるもののリアルの事情によってSAOをプレイすることが叶わなかったSAO失敗者(ルーザー)なのである。そのため彼女は事あるごとに誰よりも、人の殺し合いを体験したノーバディに執着している。

 

「あ、そうそう!昨日ねぇ親切な人がなんとこの《レミントンM1100》を譲ってくれたんだけど〜どうかしら?」

「死に去れ!氏ねじゃなくて死ね!」

 

「にゃははは!ノバちゃんも札束で人をビンタする快感を知りたいかね?」

「最低だな!流石はピトフーイ!!大魔王が!!」

 

思い出したかの様にショットガンを見せつけるピトフーイに殺意が湧いてしまうのは自然の摂理である。ちなみに、レミントンM1100は俺のアラストラルほどではないが、ショットガンの中でも上位に位置するレア度である。

ったく、なんだってRMT(リアルマネートレード)なんてものをゲームに搭載しているんだよ。こういう金持ちがめちゃくちゃ美味しい思いをするだよ!何故こんなシステムをつけたのか声を大にしてザスカーに問いたいよ。

ちなみにアラストラルのリアルマネー変換の金額を見た際にかなり揺らいだ彼が言えた義理ではないのは余談である。

また、他のVRゲームではこうはいかないのだが、GGOは唯一ゲーム内の通貨と現実の電子マネーの交換が公式に可能なVRゲームである。このため、GGOにはゲームをやり込むことで"ガチで売れる"アイテムを手に入れ、販売することで生計を立てることも可能だ。そのためグロッケンでガンショップを開いているノーバディもそれなりに稼いでいたりする。

 

そして、札束で相手の顔面をぶっ叩く廃プレイヤー筆頭のピトフーイは、性格的な意味ではとても腹が立つことが多いが、新人の頃は楽しくやっていたので無我にできないのが、ノーバディの弱点でもある。また、その腕もまた確かなものなのだ。

具体的に言えば、得意なレンジである近接戦のノーバディが勝率8割を切る程度に彼女は強い。中距離だと4割にも満たない。そのため彼女はプレイヤースキルの高い上に、課金厨という死角がないノーバディにとって天敵に近い存在でもあるのだ。

 

「露出狂!痴女!貧乳!課金中毒!!」

「あぁん♡ソッチに目醒めちゃいそう〜」

 

「ヤメロ!!ドMはテメェの彼氏だけで充分だ!」

 

先ほどと同じくふしゃー!と唸りながら威嚇するノーバディに、ピトフーイは呆れた風に苦笑する。

 

「ま、いいわ。今回は初っぱなからあんたとぶち当たるみたいだし。精々首どころか大事な所も洗っときなさいよ」

「はぁ?おい、マジかよ?」

 

「マジもマジ。ほら、上にあるじゃない」

 

彼女の言う通り上空に無数に浮かぶホログラムディスプレイへ視線を向ける。その中でも一際大きいものに表示されているトーナメント表には、なんということでしょ〜栄えある一回戦のお相手には毒鳥(ピトフーイ)の名前が輝いていたではありませんか〜。

 

「Jesus!!」

「いやーノバちゃん相手は久しぶりだわ。何がいいかなー? レミントンM1100(新しいこの子)の試し射ちでもしようかなー?」

 

「やってみろや、コラ」

「あらヤダ。殺意ギラギラね」

 

激闘の予感しかないものの負ける理由にはならないことを理解しているノーバディは、交戦的な瞳をギラギラと輝かせていく。

 

「ふーん。ノバちゃん、何がなんでも勝ちたいんだ?」

「……それはそうだろう」

「いやいや、そうじゃなくてさ。なんかいつものノバちゃんと違うような気がするんだよね〜」

 

意外そうに眉を上げるピトフーイの心情を分かっているノーバディはわざとはぐらかす様にそう返すと、今度はピトフーイが苛々とした風に頭を掻くとイキナリ吠えた。

 

「うがーーーーー!!わっかんないわ!!ま、なんでノバちゃんがそんなマジモードなのかはスッゴイ気になるけど、いいわ!今回は狙撃なしで、剣でやりましょう」

「はぁ?」

 

意味がわからない。何故いきなりそんなことを言い出したのか全くわからなかった。剣……つまりはフォトンソードを使うと言うことだ。ならば、勝率はより上がる。

たが、理解できない。

突然吠えたり、攻撃手段を教えるピトフーイにノーバディは思わず目を白黒させる。それほどなまでにピトフーイの行動の真意を測りかねている。

 

「本気ガチで殺し合いましょ。紅の暗殺者(スカーレット・アサシン)?」

「アサシン言うな。まぁいい。元から、お前程度に躓いてなんかいられないからな。こっちもこっちで俺のアラストラルで斬り殺してやるよ。毒鳥」

 

「あは、それはそれで何よりよ!白い悪魔さん?」

「…………おい、オマエがその名を口にするな」

 

僅かに紅く光る瞳をするノーバディの本気とも言える殺意を前に、ピトフーイは目の前に大好物を置かれた獣の様な獰猛な顔付きで変わる。そして、数秒間無言でそれぞれ視線を交差させていたが、やがてピトフーイの方が投げキッスをしてからノーバディに背を向けて歩き出していく。放たれたピトフーイの投げキッスをはたき落としたノーバディは今度はゲンナリした表情に変わる。そして、キリトと自分を相棒と呼んでくれる少女の姿を探すべく、歩き出す。

 

 

しばらく歩いていると、見知った少女を発見する。

 

「ようシノン、遅かったな?」

「まぁ、色々あったのよ。そこの変態のせいでね」

 

ちょっと不機嫌そうなシノンの後ろに黒い長髪をした何か顔に紅葉が咲いている女性プレイヤーが一緒にいた。

 

「変態はやめてください。死んでしまいます」

「で?変態は何したんだ?」

 

「い、いえ不幸な擦れ違いがーー」

「なにが不幸な擦れ違いよ。大方、私があんたを女だと勘違いしてるのを分かってたんでしょ?その上、装備のお金まで……!」

 

またなんとも、このアバターで男とは難儀なことだ。割とかなりビビったわ。ここまで女に寄った見た目なら、そりゃ勘違いするわな。だが、何だろうこの顔を見ているとフツフツと怒りが湧き上がる。

そして。シノンが怒っている理由とは、目の前の男が少女ではなく少年であると知らないまま、手取り足取りレクチャーしたようだ。それに加えて、それをそいつは、シノンが女だと勘違いしていることを承知だったにも関わらず、何も言わなかったようだ。また、装備を整えるためにちょいと資金も出してもらったとも言う。それは怒るわ。

 

「で変態、名前は?」

「うっ、キリトです……」

 

キリトだと!?

コイツはアレか!?

俺と落ち合うよりもシノンとデートするのを優先したわけか?

 

「ノーバディだ。クソ虫め。浮気確定だな」

「うぅ、ごめんなんか連絡するタイミングが掴めなくて」

 

「後でエギルに報告して、嫁と娘に告げ口して貰うわ」

「ヤメテくれ!他意はなかったんだよぉ!」

 

腰にすがりつくキリトに、不機嫌なシノンをそれぞれ交互に見たノーバディは、それはもう真っ黒な笑みを浮かべ始める。

 

「どっしよかなぁ〜〜」

「おい!オマエのその顔は至って悪いことを企んでいる時の顔だぞ!!」

「なんなのアンタたち知り合いなの?」

 

「まぁな。話は変わるが、シノン……もしかして裸でも見られたりしたのか?」

「女々しいアンタにデリカシーなんてものを期待した私が馬鹿だったわ!」

「うぅ………不可抗力なんだよ……」

 

「浮気か・く・て・い・Death!!」

「NO!!」

「うっさいわね(何なのよ……まるで私が除け者みたいじゃない。相棒なのに)」

 

こうして、恐ろしい事件を止めるために、

 

黒の剣士と白い悪魔が銃の世界で騒がしくも再開したのであった。

 

2人の再会をある人物は、鋭き視線で見つめていたことには、誰も気付きはしなかった。




ピトフーイさんをようやく登場させることができました。
お待ちしていた皆様、大変お待たせいたしました!

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