ソードアート・オンライン《黒の剣士と白い悪魔》 作:海苔塩イモ
それでは、ボス戦後半です!
お楽しみください!
羽を広げ、制空権を手にしたボスモンスター——————
パラサイト・デーモンの猛攻によって、シノンとノーバディは追い詰められていく。空中から降り注ぐ高温高圧のガスによる爆撃の雨が降り注ぎ続いていることにより、シノンは次々と狙撃ポイントを変えざるを得ず、ノーバディはカスティーゴの射程が届かないため回避以外の選択肢が存在しない。そのため、2人は一方的に防戦一方となっている。
「あ゛あぁぁクソ!マジでヤバいな!こりゃ!!」
『どうするのよ!私の方も、あの攻撃の所為でヘカートが撃てないんだけど!』
「仕方ない。シノンはそのまま物影で待機。でも、一旦俺は足を止めて、グレネードを投げる動作を取るからあのキモ虫が攻撃態勢を取った瞬間、羽を狙ってくれ。割とガチで」
『……仕方ないわね。意地でも当てるから、なんとかしてよね。撃った後、私は暫く別の狙撃ポイントに移動するからあまり援護に回らないからね』
大きめの溜め息がインカムから聴こえて来てたのだが、聴こえないフリをし、カスティーゴをセミオートで1発だけ自分に注意を引きつけるために撃った。すると、案の定パラサイト・デーモンは此方に残っている視線を向ける。予想通りの反応に挑発的な笑みをノーバディは浮かべながら、グレネードを投げる構えを取ろうとするのだが、パラサイト・デーモンによる爆撃によって投げることは叶わなかった。パラサイト・デーモンはノーバディの攻撃を阻止した事で、気をよくしたのか凶悪かつ鋭利な顎で彼を切り裂くべく急降下していく。
凄まじいスピードで突進してくるパラサイト・デーモンに対し、ノーバディはその場から動く事もなく、最後の1発のグレネードランチャーの弾丸を装填する。
グレネードランチャーの威力を思い出したのか、パラサイト・デーモンは先程と同様に凄まじい怒号を発しながら、大口を開けて突進していく。そして、とうとう銃口を向けているノーバディが目前に迫った所で、突然パラサイト・デーモンは自らの意思に反し、急速に真っ逆さまへ落下していく。突然の事態の急変に困惑するパラサイト・デーモンは、遅れた来た銃声によって、ようやく自分が狙撃されたのだと気付いた。
「ッ!!?!?!」
「ナイスショット」
いったい何処を撃たれたのかと地面に落下したパラサイト・デーモンは、自分の身体を確かめると、そこには片羽に大穴が空いているのを発見する。
本来なら、高速に動くパラサイト・デーモンを狙撃するのは至難の技となるのだが、ノーバディが囮となった上に、ワザとパラサイト・デーモンの目の前でカスティーゴのグレネードランチャーの弾を装填し、その銃口を向ける様に挑発行為を取った。これによりノーバディのカスティーゴに正面から対抗するべく、パラサイト・デーモンは彼の正面に突進する形で、シノンが予測する射線上にタイミングよく入って来てしまい、片羽をヘカートⅡの12.7x99mm NATO弾によって、大穴を開けられてしまったのだ。
そんな見事な狙撃を成功させたシノンに小さく礼を述べつつ、ノーバディは迫りくる触手を撃ち落としながら、残った羽をムラマサM7で斬り捨てた。
そして、その場でのたうち回るパラサイト・デーモンに最後のEGLMタイプグレネードランチャーのトリガーを引こうとする。
「KISYAaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaa!!」
「ちっ!」
しかし、先程と同じくパラサイト・デーモン口の中から伸びて来た芋虫型の幼体であるパラサイト・ベビーは、その口からなんと冷気のガスを吹き出した。さっきまでとは違う攻撃に対し、なんとかバックステップで躱すのだが、追撃と言わんばかりにパラサイト・デーモンもカマキリの様な鎌を振り回し、ノーバディを吹き飛ばしてみせた。
「ガハッ!?」
凄まじいパワーによって、カスティーゴは破壊され、ノーバディは十数mまで吹っ飛ばされてしまう。大岩に激突する形で止まったが、痛みの代わりであるVR特有の不快感が全身に襲ってきた上に、せっかくシノンが作った隙を不意にした自分への怒りによってノーバディは、ムラマサM7をダブルセイバー状態にして立ち上がる。
「Gurraaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaa!!」
「……うるせぇなクソ虫が!」
猛スピードで向かって来たパラサイト・デーモンの顎の挟撃をノーバディは空中に飛び上がって回避する。しかし、背中から生えている触手が一切にノーバディへ襲いかかってきた。空中により逃げ場が無いが、ノーバディは慌てる素振りを見せず、左手に持っているプラズマグレネードを投げる。すると、時限式によりタイミングよく起爆したプラズマグレネードによって触手は大半焼かれ、残っていた触手もノーバディの剣撃でバラバラに斬り裂かれる。
その後、シノンと自分の合わせ攻撃によって、甲殻が一部剥がれている部位に対し、ムラマサM7の光刃を一刺しし、一旦距離を取る。
その時、ノーバディ……
『オマエは……オレタチ…と同じ………殺戮者だ!』
あの時……俺の手から逃れ、生き残った
いつも……いつもいつも…オレが……ノーバディが危機的状況に陥ると、奴の声がまるで耳元で囁いているかの様な錯覚になる。
「………お前じゃ、俺は殺せない」
誰に言ったかのは定かで無いが、この時、ノーバディの瞳は彼の脳裏に巣食う“赤い眼の男”に酷似した血の様な紅の光がまるで彼の心を写しているかの様に輝き始めていく。
その姿は正しく悪魔にでもなったかのように見えるほどに荒々しく、禍々しい剣撃へと変貌していく。
さっきまでの動きが嘘の様に…彼……ノーバディは次々とあのボスモンスターの攻撃を回避していく。
そして、まるで本当の暗殺者にでもなったかの様な感覚を覚えるほどに剣の斬撃のキレが増し、ドンドン敵を圧倒していく。
「……なん…なの……アレ?」
この時の私は、彼の強さにウチに秘められた怒りと哀しみを全く感じ取れてはいなかった。
ただ、ただ彼の純粋なまでの目を離せなかった。
分厚い甲殻の鎧で覆われていない関節部を的確に狙い、斬り落としいく彼の動きは、明らかに先までの彼とはかけ離れていた。
どうしたら、アレ程なまでの強さを………。
そう思っていると彼の冷たい声がインカムを通じて、私の耳へと入っていく。
『シノン…そっちは今どんな所にいる?』
「え?あぁ、そっちから見て二時方向にある小型宇宙船の残骸の影にいるわ」
『了解。悪いが、さっきから十数回ほど切り付けている左の鎌を撃ってくれないか?お前とヘカートなら、もうぶち抜ける筈だ』
「分かったわ。20秒後に狙撃するから、絶対離れて」
了解と彼は短く返事をすると同時に、さっきから鬱陶しく口の中から出たり、入ったりを繰り返していた芋虫型の幼体を、巧みなまでの手首の返しを使い、フォトンソードを回転させ、斬り捨ててみせた。身体を2つに斬られ、その場で数秒間のたうち回っていたが、呻き声を上げながらポリゴンとなって四散した。幼体をヤレたことでブチキレたボスモンスターは彼を串刺しにするべく、尻尾と両鎌を同時に振り下ろした。
チャンス!!
「くらいなさい」
ちょうど彼が毒のない尻尾を蹴って、後退したことで隙ができた。
その隙を私は見逃さず、ノバが何度も斬り付け続けていた左の鎌をヘカートで撃ち抜く。すると、見事に命中したことで、鎌はバラバラに崩れ去り、ボスモンスターの攻撃力は半減した。
よし、畳み掛ける!!
シノンの狙撃への反撃としてパラサイト・デーモンは高温高圧のガス爆撃を浴びせようとするのだが、
「コッチだ、バカやろう」
真下あたりから、ノーバディが事前に仕掛けた最後のプラズマグレネードによって、上空へ打ち上がらせてしまう。打ち上がったガスはノーバディの真上で爆発したが、彼はそんなものに一切目もくれず、パラサイト・デーモンの側面に再び回り込むと、無数に並ぶ脚へムラマサM7の光刃を振い続ける。左右に6本ずつあったパラサイト・デーモンの脚は、度重なるノーバディの攻撃によって右側が3本、左側が2本まで斬り落とされたこと加え、シノンのヘカートⅡの狙撃によって既に節々の甲殻はボロボロとなり、鋭い鎌も残り右しかなく、最早満身創痍となる。
「Pi………gigi……aa…a……!!」
無数にあった体力ゲージも最後の一本となりながらも、最後の力を振り絞るかのようにパラサイト・デーモンは、自分の周りを駆け回るノーバディの動きを制限するべく残った右の鎌を広範囲に振るう。カスティーゴを一撃で破壊されてしまったため、鎌の威力を危惧しているノーバディはすぐさま回避を取ると、その回避場所を見計らっていたのか、パラサイト・デーモンは限界まで尻尾を伸ばす。
「ちっ!メンドクサイな!!」
その言葉通り、ノーバディの眼前に迫って来ている尻尾の先端から無数の毒針が射出される。咄嗟に、ムラマサM7の両刃を巧みに回転させ、無数の毒針をはたき落とすのだが、ムラマサM7自身にも刺さってしまう。
「あっヤベ」
『一旦離れて!』
「いや、このままヤる!」
『ちょっと!ノバ!?』
何か言おうとしているシノンの言葉を無視し、ノーバディは針によってスパークを発生し始めているため、もうムラマサM7の耐久時間がもう持たないことに気付く。そのため、早期決着をつけるべく全速力で駆け抜けていく。迫り来る鎌の斬撃や顎の挟撃を巧みにムラマサM7で逸らし、牽制として最後に残った武器である銃剣の拳銃へ改造したベレッタM92FS————デリッタの引き金を引く。デリッタから放たれた弾丸は、残った目玉へ向かって行くのだが、パラサイト・デーモンは何とか身体を捻ることで躱そうとする。
しかし、
『しっかりと決めてよ、アサシン』
遠方から放たれた弾丸が見事にパラサイト・デーモンの顎に命中したことで、捻ろうとしていた上体は、ヘカートⅡの狙撃による凄まじい衝撃を受けたため逆方向へと本人の意思など関係なく戻される。
「バーロー、俺は……悪魔なんだよ」
戻って来たパラサイト・デーモンの上体へ詰め寄ると、ノーバディら急所である目玉に向けて、デリッタの銃剣を突き刺した。そして、痛みで悶えるパラサイト・デーモンへとどめを刺すためにデリッタに残った8発の弾丸を総て撃ち込んだ。撃ち込まれた弾丸はやがて脳へと達し、残ったパラサイト・デーモンの体力ゲージを完全に0にした。体力ゲージが無くなったことで、パラサイト・デーモンは悲鳴に似た叫び声を上げながら、ポリゴンとなって四散した。
すると、
「ふぅー疲れたぁぁ……ん?」
「どうかしたの?」
クエストクリアの文字が出現したことを見たノーバディは、走ったり吹っ飛ばされたりして疲れたのか、その場に大の字に寝転がる。そして、ボスモンスターであるパラサイト・デーモンへのラストアタックを決めたことによって、ドロップアイテムがストレージに出現した。どんな武器なのかを確かようとしていると、いつのまにか埃まみれのシノンがノーバディの近くへ寄って来ていた。
「いや、ドロップアイテムが入って来てたんだ…えーっとナニナニ『フォトンブレード アラストル』?」
「フォトンブレード?ソードじゃなくて?」
「割と初期の頃からGGOをやっているが、こんな武器は聞いたことはないな。まぁ、このアラストルの意味は分かるけどな」
「どういう意味なの?その…アラストルって?」
「……アラストルって言うのは、ギリシア語で復讐者、復讐するの意味だ。アラストルとは、ギリシア神話の海神ネレウスの息子で、アルゴスの王クリュメノスの娘ハルパリュケと結婚したが、ハルパリュケの実父が娘であるハルパリュケを強姦してした上に実の娘を妊娠させた。愛する妻を辱め、悲しませた義父クリュメノスに対し、憎悪に燃えたアラストルは復讐と称して、ハルパリュケに実父であるクリュメノスとの間に出来てしまった子を殺させ、その肉をクリュメノスに食べさせたという。後に、その恐ろしい事実を知ったクリュメノスは絶望し、まるでアラストルへの復讐として実の娘と共に無理心中してしまった。この神話から、アラストルは復讐の神または、復讐の悪魔と称される存在となったという逸話だ。愛する妻のため、はたまた自分のための復讐をしても結果は皮肉なエンディングが待っているんだよ。復讐劇なんてものは。ふふっ、悪魔の俺には御誂え向きな武器だ」
「…………そう……なんだ」
この時、アラストルの話をしている彼の…ノバの背中はとても哀しそうなモノを背負っているように感じとれてしまった。まるで、アラストルと自分を重ね合わせているかのようにも、私は見えてしまった。
先ほどまで、アレほどの強さを持っていたのに。
今は……とても…とても弱々しい背中をしている。
まるで……あの過去に怯える私…朝田詩乃とよく似ている。
「なるほどなるほど。フォトンソードよりも威力は強い上に、出力調整ができるのか……なに!鞘にはバッテリー機能があるからバッテリー交換しなくて済むとか神かよ!」
そう言ってノーバディは早速入手したフォトンブレードを取り出す。すると、短剣サイズだったモノが、引き金によく似たトリガーを引くことで変形し、中々フォトンソードよりもら重力感のある紅色の光刃を持つ剣となった。
「いや、悪魔なんでしょソレ」
今度は何処か子供のように武器の性能を確かめつつ、そこら辺でブンブンと剣を振るいながら少年の様に瞳をキラキラさせる彼は一旦どれが本当の彼なんだろう。
悪魔の様な荒々しい剣士のノーバディ。
飄々とした雰囲気を出すノーバディ。
何かに押し潰されそうなノーバディ。
ねぇ、本当のアナタは、
一旦誰なの?
何処にいるの?
「はっ!そうだった。まぁ、ムラマサM7はさっきの戦闘で壊れたしな。よし、シノン今から何個かのスコードロンを襲撃しに行くぞ!」
「はぁ!?今から行くの!?」
「ったりめぇーだ。こんなレアな武器をゲットできたんだぞ!!試し斬りしてぇーんだよ!なっ!なっ!!イコーゼ!!ヤッタろーぜ!!」
「分かった!分かったわよ!!、その代わりコレからは私とコンビを組んでもらうわよ!いいわね!返事は、YESかはいよ」
もっとこの人の近くで、この人の強さを知りたい。
そして、どうして彼は自分のことをずっと『悪魔』と呼ぶのか。
私はアナタを知りたい。
私は私に何処か似ているのに少し違うアナタの強さを知りたい。
アナタとなら私は……シノンはもっと強くなれる気がする。
「えぇ〜〜〜、まぁいっかぁ最近は1人でのスコードロン狩りもちょっと限界だったしな。良い機会だ、オーケー。これから宜しくな、相棒ちゃん?」
「あんまり不甲斐ないと吹っ飛ばすわよ、相棒さん?」
シノンとノーバディはお互いの拳をコツンと合わせあうと、その場を後にする。
この時のシノンの選択によって、
2人の運命の歯車は回り始めいく。
その先に何が待ち受けているのかは、
まだわからない。
余談として、今回ノーバディが手に入れた武器は、キングダムハーツ3に登場したヨゾラのレーザーブレードです。
今回限りで、ダブルセイバーのフォトンソードの活躍はここまでです。今の所は、もっと見たい!という感想があれば出すかもしれませんので。