書き途中の長編幾つもあるのに何やってんだって感じですが、FF7リメイクの記念に遅まきながらやっちゃいました……(汗)
そして私にしては珍しく完全一人称な文章!
全く書き慣れない……!(滝汗)
途中から、また普通に三人称の文章に戻ると思います。
「――……だからさぁ~、ここは危ないわけよ。お兄さんたちと一緒の方が安心だよ」
「そうそう、悪い奴らがいっぱいいるからねェ。怖い思いをするのは嫌だろう?」
「ついでにお兄さんたちが良いところに案内してあげるよ」
目の前で見上げるほどの長身の男たちが先ほどから行く手を阻んで酷い猫なで声で煩く話しかけてくる。
俺は薄暗い路地裏のど真ん中で、不良といって良いのか分からないほどにそれなりに歳食った成人男性三人組に絡まれている真っ最中だった。
どうしてこうなったのかと頭を悩ませ、すぐにこんな道を選んだ自分が悪いと結論に至って頭が痛くなる。なるべく目立ちたくないという思いが先行しすぎた自分自身に、お前は馬鹿なのか……と思わず心の中で悪態をついた。こんな子供が一人薄暗い路地裏を歩いていれば、カモにしてくれと言っているようなものだ。
正にネギを背負ったカモ状態。これは100%自分が悪い。
無言のまま己を叱責して反省している中、それを怯えているとでも判断したのか、男の一人が徐にこちらに手を伸ばしてきた。
瞬間、俺は反射的にその手を叩きはらっていた。
パシッ……という軽くも鋭い音が薄暗い路地裏に響き渡る。
一拍後、怒りに顔を歪めた三人の男たちに、俺はため息を抑えることができなかった。
全くもって非常に面倒臭い……。
相手は自分のことを弱い存在だと判断した上で声をかけてきたのだろうし、俺自身、自分の容姿が一見全く強そうには見えないことは自覚しているので反撃を食らって相手が苛立つのも分からなくはない。けれど残念ながら俺の中には『大人しくする』という選択肢はないわけで、加えて俺には三人の男たちを同時に相手取っても余裕で勝てるだけの力もあるわけで……。
自分たちの目が節穴であることを呪え、と心底言ってやりたかった。
とはいえ、そんなことを言えるような雰囲気ではないし、かといって変に大人しくして時間を長引かせるのも相手が可哀想だろう。
俺は男たちが何かしらの行動を起こす前に、瞬時に
どこからともなく姿を現した、身の丈以上に長い美しい白刃。これならば、この狭い路地裏であれば容易に端から端まで一気に攻撃することができる。
こんな狭いところで長い得物など逆に難しくないか、コンクリートの壁に刃が当たれば刃こぼれをしたり折れてしまうのではないかと思う人もいるかもしれないが、心配するなかれ、この白刃はそんな軟な代物ではない。相手がコンクリートであろうが鉄の塊だろうが岩石だろうが、この白刃はまるでバターを切るナイフのように容易く真っ二つに切り裂いてしまえるほどの強靭さと鋭さを兼ね備えていた。刃こぼれすることもなければ折れることもないし、実際、白刃を出現させたことによって既に壁の片側がすべらかに切り裂かれているのが見てとれる。因みに白刃には一切の摩耗は見られない。
そんな常識離れした光景に、三人の男たちは誰もがギョッと目を見開かせていた。汚らしい顔に、更に油じみた汗が大量に滲み始める。
非常に汚らしい。出来れば今すぐにでもどこかに行って視界から消えてほしい。
心の中でぼろくそ言いながら、しかし同時に、見開かせた目を動揺にオドオドと揺らしている男たちの様子に、これでよく他人を脅せたものだと呆れを通り越して一種の感心すら胸に湧き上がらせた。
「お、おい、そんなのどこから……!?」
「いやいや、それよりも…! こ、こんな危ないものを子供が持つもんじゃないぞ~。良い子だから、お兄さんたちにそれを渡そうな~」
「……失せろ」
「……へ……?」
こちらの声が聞こえなかったのか、はたまた聞こえていても意味を理解できなかったのか、目の前の男たちは一様に動きを止めて呆けた声を上げる。
しかし、こんな男たちに気を遣うほど俺は優しくない。
威嚇の意味を込めて持っている白刃を少し振るえば、白刃はまるで自身の手足のようにすべらかに動いて壁を尚も切り裂き、一人の男の頬の直前でその動きを止めた。あと数ミリでも動けば男の頬はパックリと切れて赤い液体を流すことになるだろう。男もそれが分かっているのか微動だにせず、ただ恐怖の色を浮かべてこちらを見つめていた。
「………もう一度言うぞ。さっさと俺の目の前から消え失せろ」
口から零れ出たのは、俺自身でも低く凄みの効いたものだと思えるほどの声。
それに気圧されたのか、男たちはビクッと大きく身体を震わせると、次には弾かれたように踵を返した。微妙に腰でも抜かしたのか、妙な態勢になりながらも小さな悲鳴を上げて我先にと路地裏の奥の闇へと逃げていく。
どんどんと遠くなっていく三つの気配に、俺はもう一度大きなため息を吐いた後に持っていた刀を
余計なところで時間を食わされたことに思わず顔が歪む。
しかしここでぐずぐずしていてはもっと時間を食わされることになる。恐らく……というか確実に、遅くなっては面倒なことになるだろう。帰ってきた時に大騒ぎになるのも嫌なため、気を取り直してさっさと用事を済ませることにした。
直立不動だった足を動かし、そのつま先を大通りへと向ける。
本当は人混みの多い場所はあまり好きではないのだが、先ほどのこともあるため諦めることにする。さっさと用事を済ませて帰るのが吉だと判断すると、足早に歩を進ませて薄暗く静かな路地裏から光と音と気配がごった返す大通りへと足を踏み出した。
ザワッと一気に耳を打つ数多の大きな音と大量の気配。襲いかかってくる大量の熱気に、思わず足を止めて小さく眉間に皺を寄せた。多くの人間が集まることで発せられるある種の威圧感に、思わず気圧されて半歩後ろに後退る。
しかしその時不意に何かが感覚に引っかかり、反射的に足を止めて大通りの奥へと顔を向けた。人混みに塗り潰されている遥か遠くを睨むようにじっと凝視する。
その状態が数秒、十数秒、数十秒と続いた後、漸くといったように唐突な変化が訪れた。
キャァァアアァァアアァアァァアァアァアァアアァァァッッ!!!
まず聞こえてきたのは空間を切り裂くような高い叫び声。
大通りを歩いていた人間たちが何事かと叫び声が聞こえてきた方を振り返り、次々と顔色や表情を変えていった。
「どけぇぇぇっ!!!」
「きゃあぁぁっ!!」
「なんだっ!?」
「
「きゃぁっ、何なのよ!!」
「逃げるぞ、早くしろ!!」
「ヒーローはどこにいるんだ!?」
口々に騒音を撒き散らしながら、人間たちが我先にと怒声と破壊音が聞こえてくる方向から逃げ始める。怒声と破壊音は徐々にこちらに近づいてきており、度々上がる土煙も徐々にこちらに近づいてきているようだった。
「逃げろっ! 怖がれェっ!! 俺様に恐怖しろォォ!!!」
汚らしい濁声を上げながら“それ”は周りにいた人間や建物を容赦なく破壊していく。
誰もが助けの叫びを上げながら逃げ惑う中、俺だけはただ呆れながらじっと“それ”を見つめていた。
大の大人が何を騒いでいるのか……。というか、こんな事に“力”を使うなんて馬鹿なのか?
上空へと漂う土煙や時折飛ぶ瓦礫などが視界に映り、呆れを通り越してげんなりとさせられた。
不良に絡まれるのが嫌で路地裏から出てきたというのに、またこれか。だから外に出るのは嫌なんだ。
内心でぶちぶちと文句を言いながら、そっと周りへと視線を巡らせる。
出来れば完全に巻き込まれる前にこの場を離れたいが、視線の先ではまるで肉食獣に襲われたヌーの群れの様に逃げ惑っている人間たちがおり、どうしようもない状況に思わず大きなため息が零れ出た。
俺の身長はまだ成長途中ということもあって大人に比べれば大分小さい。よってこの人混みの中を同じように逃げればもみくちゃにされて最悪潰されかねなかった。ならばこの場を離れようと努力するよりも端によって嵐が過ぎ去るのを待った方が良いかもしれない。
俺はこの場を離れることを諦めると、さっさと壁際に寄って、そのままのんびりと“それ”が近づいてくるのに任せた。
やがて数分後に人混みを裂くように現れたのは、異様な体形の一人の男だった。
二メートルに迫るほどの長身に、鍛えられた逞しい体躯。一見普通の体形に見えるものの、唯一腕の長さと太さだけが異常だった。両腕の長さが異様に長く足元にまで及び、肘から下が一気に大きく肥大している。しかし脂肪によって肥大している訳ではなく、大きな筋肉の起伏が皮膚の上からでもはっきりと見てとれた。加えて皮膚も硬質化しているのか、壁のコンクリートや地面のアスファルトを拳や腕で破壊しているというのに拳も腕も一切ダメージを受けている様子がなかった。
「俺が最強なんだ……!! 嘗めんじゃねェェぞおォォォっ!!!」
何が気に入らないのか必要以上に喚き、怒声を上げて暴れ回っている。
男との距離は今や目と鼻の先にまで近づいており、ふと男と視線がバチッとかち合った。
あっ、これはヤバい……。
「………あ゛ぁん…?」
こちらの存在に気が付き、男が動きを止めて濁声と共に鋭く見下ろしてくる。ゆっくりとこちらに歩み寄ってくる男に、今日は厄日か……と内心で舌打ちを零した。
しかしここで下手に動いては相手を刺激しかねない。
どうしたものかと考え込む中、その態度が気に入らなかったのか、男のこめかみがピクッと小さく痙攣したのが視界の端に映った。
「……なぁに見てんだぁぁ、クソガキがぁぁ……」
まるで威嚇する猛獣のように唸り声を上げ、大きな背を丸めて顔を近づけてくる。
正直に言えば、こんな醜い顔をこちらに近づけないでほしかった。出来ればさっさと興味を失って顔を遠ざけてほしい。というか、今日はやけに醜い連中に絡まれないか?
内心でグチグチと愚痴をこぼしながら、しかし当然のことではあるが、そんなことを正直に口に出せるわけがない。
とはいえ、もしかしたら口に出さなくても表情にはバッチリとその心情が浮き出ていたのかもしれない。こちらの瞳を覗き込んでいた男の顔が一気に大きく強張った。
「……っ!! ……俺様をっ、そんな目で見てんじゃねェェっ!!!」
どうやらこの男は俺に怯えてもらいたかったらしい。
期待に応えられなくてすまん。でもぜんっぜん怖くなかったんだ、悪いな。
心の中で軽く謝罪するもそれが男に届くはずもなく、男は怒りのままに再び暴れ始めた。長く太く大きな腕を振りかぶり、勢いよくこちらに振り下ろそうとしてくる。
遠くから女の高い悲鳴が聞こえてくる。多くの人間が驚愕と恐怖の表情を浮かべ、俺と男を見開いた目で見つめている。
しかし誰も動こうとはしない。逃げることも……、助けようとすることもない。ただ息を呑んで、身体を硬直させて、まるで唯の
周りの反応に俺は内心で大きなため息をつきながら、どうしたものかと呑気に考え、振り下ろされる拳をじっと見つめた。
先ほどの路地裏のように対処することは可能だが、しかしこんな人混みでそんなことをしたら一層大騒ぎになりかねない。どこか他所で騒ぎが起こるのは敵わないが、それに自分が巻き込まれるのだけは御免蒙りたかった。
取り敢えず避けるか……と片足を一歩分後ろに引いて身体の向きを変える。
その時……――
「――……私がぁぁ、来たぁぁぁっ!!」
突然の声と共に、俺と男が立っている場所を大きな衝撃が襲った。土煙が朦々と立ち込めて視界を遮り、次に土煙が晴れた頃には新たな影が俺と男の間に割って入っていた。
影の正体は、全体的に蒼色のぴっちりとしたスーツを着込んだ一人の大男。
大男は暴れていた男と俺のすぐ傍に立っており、振り下ろされようとしていた男の腕を片手でがっしりと強く掴んでいた。
暴れていた男は勿論のこと、周りにいた人間たちも驚愕の表情を浮かべる。
しかし、次に浮かべた表情は両者で全く違うものだった。
「…オ、オール……マイトォ……!?」
「……オールマイトだ」
「オールマイトが来てくれた!」
「きゃー、オールマイトぉっ!!」
暴れていた男は焦りにも似た表情を浮かべ、街の人間たちは歓喜の笑みを浮かべて歓声を上げる。
オールマイトと呼ばれた大男は堀が深すぎる顔に満面の笑みを浮かべると、男の腕を掴んでいる手に力を込めた。
「子供に暴力を振るおうとするなど言語道断! さぁ、大人しく降参しろ!!」
大きな手で掴まれている男の腕がギリリッと軋んだ音を立てる。男は思わず情けない悲鳴を上げると、次には当然のように暴れ始めた。何とか掴まれている腕を取り戻そうともがき、掴まれていない方の腕を振り回す。
オールマイトは尚も男の腕をしっかりと掴むと、もう片方の腕ですぐさま振り回されている男の腕を容赦なく掴み取った。両手で両腕を拘束し、一度身体を前屈みに曲げる。何をするのかと疑問に思う間もなく、オールマイトはその状態のまま勢いよく地面を蹴った。宙に浮かんだ両足はぴっちりと揃えられ、その足はそのまま男に向かって鳩尾へと綺麗に吸い込まれていった。しかし男は両腕を掴まれているため逃げることも、威力を殺すために身構えることもできない。
ドロップキックにも似た蹴りが勢いよく男を襲い、男は成す術もなく白目をむいて泡を吹きながら意識を飛ばした。そのまま背中から後ろの地面へと倒れ込む男と、男の腹の上に何事もなく着地するオールマイト。
完全に気絶してのびきっている男の様子を確認すると、オールマイトは漸く掴んでいた腕を離した。徐に男の腹の上から降り、次には周りに立っている人間たちへと目を向ける。
オールマイトは拳を握った右手を頭上に突き上げると、輝かんばかりの濃い笑顔を満面に浮かべた。
瞬間、爆発的な歓声が湧き上がる。人間たちは我先にとオールマイトへと駆け寄ると、次には口々に称賛や感謝の言葉を送り始めた。
それは一種のお祭り騒ぎ。
もはや人間たちの意識は地面にのびている男になど目もくれず、一心に自分たちを救ってくれた英雄にのみ向けられている。
俺はそれを数秒間眺めた後、すぐにこの場を離れることにして踵を返した。
こんなに大きな騒ぎになったのだ、もう間もなく警察がこの場に到着するだろう。男から攻撃されそうになった以上、早くこの場を去らなければ警察に捕まるとも限らない。別に捕まったところで痛む腹などないのだが、時間が無駄に消費されることは嫌だった。
できるだけ不自然に見えない程度に身を屈め、人混みの間を縫うようにこの場から離れる。
こういった時にはこの小さな身体は役に立つのだが、やはり早く身長を伸ばしたいとも思う。まぁ、大人になれば結構な長身になることは分かっているため焦る必要はないのだが、しかしいつ頃からあそこまで伸びるようになるのだろうか……。
何とも呑気なことを考えながら、俺は用事を済ませることだけに集中することにして、さっさとこの場を後にした。
本日のスーパーの安売りで手に入れた食材を片手に、もう片方の手でポケットから鍵を取り出して目の前の扉の鍵を開ける。分厚い扉を身体で支えるようにして開けると、無言のまま靴を脱いで室内へと足を踏み入れた。
無人で静かな空間が無言のまま出迎え、漸く慣れた家の空気が柔らかく包み込んでくる。
俺は一つ小さな息をつくと、手に持った鍵をテーブルの上に置いて、すぐにキッチンへと直行した。
まずは手洗いとうがいを済ませ、買ってきた食材を冷蔵庫の中へと突っ込んでいく。既に冷蔵庫の中に入っていた物と見比べ、今夜の夕飯の献立をあれこれと頭に思い浮かべた。
とはいえ、一口に献立と言ってもなかなかに難しい。なんせ
基本、胃を全摘出しても食べられる食材の変化はあまりない。とはいえ、一回の食事でもよく噛んで食材を細かく刻む必要があるため、硬いものよりかは柔らかいものの方が良いとされていた。後は肉や魚や卵などのたんぱく質源を多くとること。逆にあまりとらない方が良いのは香辛料といった刺激物や野菜や海藻類らしい。
となればメインは焼き魚にして、後は米とお吸い物でも作ろうか。魚は確か今日買ってきた食材の中に鮭があったはずだ。
大体の献立を決めたその時、まるでタイミングを見計らったかのように玄関から物音と声が同時に聞こえてきた。
「――……ただいま~」
間延びしたような声と、こちらに近づいてくる一人分の足音。
暫くすれば、骸骨かと思うほどに痩せすぎな長身の男がキッチンに入ってきた。
「ただいま、セフィロス君」
直接目を見て挨拶することに何か拘りでもあるのか、律儀にもにこっとした笑顔付きで帰宅の挨拶を再度繰り返してくる。俺もできれば挨拶を返してあげたい気持ちは山々なんだが、それをしては俺のイメージを壊しかねないので、心の中で謝りながらも無言のまま頷くだけで返しておいた。
男は懐がとてつもなく広い人物で、俺の不遜な態度にも少しも気分を害した素振りを見せない。変わらぬ笑顔を浮かべたまますぐ近くの洗い場で手を洗うと、そこで何かを思い出したかのような素振りと共にまた声をかけてきた。
「あっ、そういえば、あの時は大丈夫だったかい? あんなところに君がいるとは……、それも襲われる寸前だったのを見て、流石の私も驚いてしまったよ!」
「問題ない」
“あの時”というのは、100%先ほど大通りで巻き込まれた騒ぎのことだろう。
何故この男がその騒ぎのことや、実際に俺が巻き込まれたことを知っているのかというと、その場にこの男もいたからに他ならない。それも、今の姿からは全く想像ができない存在として……。
「本当に大丈夫なのかい? どこか怪我をしたりなどは……」
「俺の事よりも自分のことを心配したらどうだ。実際にあの姿を晒して戦ったのはお前だろう」
「ま、まぁ、それはそうなんだけど……。私なら大丈夫さ! 私は“オールマイト”だからね!!」
骨と皮しかないような細い腕でマッスルポーズを取って男が笑う。
そう、このガリヒョロな男こそ、大通りで英雄だともてはやされていた大男“オールマイト”本人なのだ。
つまり、俺は同居人であるこの男に暴漢に襲われているところを目撃され、ついでに格好よく助けられたと言う訳だ。
では何故大通りで暴漢を退治した時の姿と今目の前に立っているこの姿がこんなにも別人かと思えるほどに違うのかというと、それはこの世界に存在する“個性”という能力が関係していた。
“個性”……、それは
因みに何故先ほどから“この世界”という言葉を使っているのかというと、そもそも俺はこの世界の住人ではなかったからだ。
俺は元々はこの世界とは違う別の世界の人間で、そこで不慮の事故と世間では言われるものに遭遇して命を落とした。そして気が付けばこの世界で新たな人生を送っていたと言う訳だ。言うなれば、転生というやつだな。
しかもこの新たな人生がまた波乱万丈というか奇天烈というか……。とにかくいろんな部分で普通ではなかった。
まず一つに、この記憶と人格だろうか。
普通、生きている人間は誰一人として前世の記憶も人格も持ってはいない。前の世界で時々『前世の記憶を持った少年』などのテレビ番組が放送されていたのを覚えているが、それも前世の記憶は同じ世界で生まれ育った人物のもので、人格については皆無。そしてその記憶も年を追うごとに薄れて消え失せるというのが通例だった。しかし俺にはバッチリと前の世界の記憶も残っているし、人格なんてそのままだ。これだけでも普通とは違うと言えるだろう。
そして第二に、この世界での自分の容姿と名前だ。
髪はサラサラのストレートで、色は白銀色。瞳は青とも緑ともつかない翡翠色で、何故か瞳孔が猫のように縦に長い。肌は多くの女性が恨むような輝かんばかりの色白。顔のパーツはどれも形よく、その配置も完璧で、自分で言うのもなんだがそこらの芸能人なんて目じゃないほどの美少年ぶりである。
極めつけは“セフィロス”という名前。
これは偽名でもなければあだ名でもなく、正真正銘の本名だ。
そう、ここまで言えば俺の前世と同じ世界に生きる人であれば気が付く人も多くいるだろう。何を隠そう、何と今の俺は完全に彼の有名な『ファイナルファンタジー7』というゲームのラスボスことセフィロスそのものになっていたのだ!
いや、良いんだけどね……! 俺、前の世界では結構ゲームばっかりしてたし、中でも『ファイナルファンタジー・シリーズ』は全部プレイしてたし、FFキャラの中では“セフィロス”は三つの指に入るくらい大好きだったし! でも大好きだからこそ、“セフィロス”のキャラクターを壊したくないっていうか、俺なんぞが“セフィロス”と同じ容姿と名前を持つなど恐れ多すぎるっていうか……。好きなキャラを穢したくないって言えば分かってもらえるかな。
あと、何気に原作の“セフィロス”みたいに何かの拍子に闇落ちしないか怖かったりもしているんだよな。この世界の俺は原作の“セフィロス”と違って宇宙人の細胞を埋め込まれたわけでもなければ、研究施設で育ったわけでもないから大丈夫だとは思うんだけど……。
因みに、容姿以外の身体能力や頭脳といったスペックについては原作の“セフィロス”に比べると多少劣っていると思う。
とはいえ、今の俺はまだ十五歳の子供。恐らく成長して大人になれば原作とほぼ同じになるのではないだろうかと思われる。
割と普通な経歴であるはずなのに何でこんなハイスペックになっているのか不思議でならない。
まぁ、今はそれは置いておくとして……。
これだけでも十分普通でないことが分かってもらえると思う。
後は自分の中の普通ではない部分としては、やはり先ほどもあった“個性”についてだろうか。
“個性”とは先ほども言ったように、この世界の人類の約8割が持っている超常能力のことだ。大きく分けて三つの種類があり、それぞれ『変形型』『異形型』『発動系』に分類される。
『変形型』は通常の人間の身体から、自分の意思で肉体を変化させる“個性”のことを言う。例えば自分の意思で腕を刃物に変えたり、自分の意思で身体を水のような液体にする……といったような感じだ。ここで重要なのは“自分の意思で肉体を変化させる”という部分だ。つまり、通常は普通の見た目をしており、一目ではどういった“個性”を宿しているのか分からない。逆に、一目でどういった“個性”を宿しているのか分かるのが『異形型』の“個性”だ。
『異形型』は『変形型』と違い、生まれた時から常に“個性”が発動している。つまり、例えば熊の“個性”であれば常に二足歩行の熊の見た目をしている……といった感じだ。中にはグロテスクなものや人間離れし過ぎている見た目の者もいるらしく、差別対象となることも多くあると聞いたことがある。
どうやら見た目で差別が生まれるのはどの世界でも共通であるらしい。……と、そんな皮肉はさておき。
最後の『発動系』は“個性”の中でも一番スタンダードな種類で、宿している者の割合も一番多い“個性”だ。
多種多様で、自分の意思で能力を発動させる。見た目は『変形型』と同じで、普通の人間と変わらない。また、『発動系』の“個性”は更に種類が細分化されており、『増強系』や『拘束系』といったものもあるらしい。
因みに俺や目の前の男が持つ“個性”も、この『発動系』に分類される。
この男の持つ“個性”は、名前を『ワン・フォー・オール』。『増強系』の“個性”で、簡単に言えば力などが格段に上がるらしい。それにより、“個性”を発動させると目の前のガリヒョロ男が一気にマッスルマンに変貌すると言う訳だ。他にも特殊な能力というか、他の“個性”にはない特徴があるらしいが詳しい内容はここでは割愛させてもらおう。
そして、俺の持つ“個性”が、名前を『
それだけ聞けば便利で凄い“個性”のように思えるかもしれないが、実はそうでもない。
まず第一に、具現化するためには鮮明で事細かなイメージが必要だ。そしてここで言わせてもらうと、俺は想像力が壊滅的によろしくない。
これだけで大体の人は俺が何を言いたいのか分かってくれるだろう……。
つまり、俺の壊滅的な想像力では、この“個性”で具現化できるものは非常に限られてくるということだ。
そして第二に、何かをしたり作ったりするためにはそれ相応の何か……言うなれば代償が必要になる。俺の“個性”の場合は、体力や生命力といったものがそれに該当する。そうだな……、ゲームで言うところのHPやMPやスタミナのゲージがガリガリと削れていくイメージだろうか。
つまり、この“個性”はものすっっっごく疲れるのだ。
力を使えば使うほどゲージが削れていき、死にはしないが最終的には戦闘不能に陥る。セフィロス・スペックでも相当なのだから、具現化に必要な力がどれほど大きいのかはある程度想像できるだろう。しかも具現化するものが大きければ大きいほど消耗も激しくなるから、使う時には前もっていろいろと考えておかなければならない。
だから俺は、できるならこの“個性”は使いたくない。誰かに“個性”について知られることも嫌だし、誰かに言うこともしたくなかった。唯一、俺の“個性”について知っているのは、この目の前のガリヒョロの同居人くらいだ。
「うん? どうかしたかい?」
俺の視線に気が付いたのか、男が不思議そうに首を傾げてくる。しかし、俺の中には説明する言葉もなければ、説明する意思も存在しない。
無難に『何でもない』と首を横に振ると、さっさと夕飯を作るべく男から視線を外した。