第21実験小隊ソフィア隊 (ソフィアはギリシャ語で知恵の意)
轟雷改型評価試験型5機で編成される実験小隊。5機とも西軍本部評価試験部隊から同時期に配属されたため新設の小隊である。活動地域は主に地球の極地、永久凍土が覆う地域に派遣されることもあり本部からはかなり離れている。しかし元々が本部評価試験部隊であるために装備品や配給品は手厚くなっており武器も最新鋭である。(実験小隊と呼ばれている所以は最新鋭の装備を極地に配備するための理由であるとする説もある。)
ソフィア隊はAEWブリーズメーカーと連携して任務を行っている。任務中はコールナンバーで、Sof1(ソフワン)、Sof2(ソフツー)などで呼称される。
構成はSof1:鶯(うぐいす)、Sof2:雲雀(ひばり)、sof3:燕(つばめ)、sof4:梟(ふくろう)、Sof5:鷲(わし)
試製対TCS砲弾搭載磁気火薬複合砲“プロトディス”
(プロトディスはギリシャ語で反逆者の意)
セグメントライフルの理論を検証するために製作された武器。
TCS貫通弾などの機構が小型化できなかったことに加えそれにともなって反動が大きくななり、マニューバでの反動制御が難しいと判断されたために通常轟雷型の滑空砲装備位置に装備される。
さらに轟雷型であるために完全電力供給方式によるレールガンでは射程が足りず、磁気火薬複合とすることで射程問題の解決を計った。しかし火薬の使用により砲寿命は短く、運用は装備品が潤沢に届けられる“実験小隊”などに限られている。
轟雷改評価試験型現地改修仕様
轟雷改の装備装甲に加え、極地運用が前提とされており両足の前面には展開型のソリが装備されている。これを後部履帯と組み合わせることによってスノーモービルのように雪上での高速移動を可能としており、轟雷型で問題視されていた安定性の解決にも一役買っている。
不使用時には折りたたむことができ、一応の増加装甲としての役割も持つ。
AEWブリーズメーカー
AEWを運用するのは人間であり、ブリーズメーカーはソフィア隊直属である。
ブリーズメーカー使用機体はE-2ホークアイに極地改修を施したものである。
厚着のフレズヴェルク(コードX)
ソフィア隊が極地に派遣された元凶。“厚着”と呼ばれる所以はウェットスーツのように全身が覆われており露出がないと襲撃された生存者が語ったためである。出現地域は極地であることしか共通点が無く、活動理由は不明。西軍本部は単独で行動する彼女で対TCS理論の検証を行おうとしている。
私たちは「彼女」を追っている。
その彼女は“厚着の”フレズヴェルク。他の機体とは違い肌の露出はない。それもそうだろう、ここは極地。日照時間は短いし、何より寒いのだ。
しかし物資は潤沢にある。他部隊の連中は優遇だえこひいきだなんだと難癖を付けているが彼彼女らは私たちが何を相手にしているか理解しているのだろうか。コードXと呼ばれる彼女はすでに防衛機構の基地を襲撃し甚大な被害を与えている。確認されたフレズヴェルクはたった1機。当然迎撃に数多のFAガールや一般兵が出撃したはずなのに損害率8割らしい。
『特異点』の称号すら本部はコードXに与えていた。そしてその特異点を消滅させるのが私たち“第21実験小隊ソフィア隊”の任務である。
数回コードXとの接敵はあった。しかしながら轟雷型というのは実に非力で轟雷型の中からできる者が選ばれて先行的に改修を受け、本部では評価試験型と銘打ってもてはやされておきながら彼女のTCS…分かりやすく言うならば彼女のバリアには傷一つ付けることができなかった。
そこで実験小隊の“名前”の出番である。本部はつい先日ロールアウトしたばかりの対TCS砲弾搭載磁気火薬複合砲を本部が実践データの記録という名目で送り付けてきた。非公式名称は“プロトディス”というらしい。
この荷物を運んできた技官によれば、コードXに対TCS砲弾を命中させることができれば理論上撃破可能であるらしい。ただどうやってあのXにこの砲弾を命中させるのだ。轟雷型の非力さは先に述べた対TCS性能だけじゃない。空戦能力がないのだ。フレズヴェルクは当然空戦能力を備えている。スティレットに搭載すればいいじゃないかと私は技官に詰め寄った。しかし技官は彼女らのフレームでは反動制御がうまくいかずに下手をすると空中分解すると反論した。結局、エースだ武神だと担ぎあげられておきながらこんな砲弾1発も搭載できないなんて…。
「ソフィア隊、出番だ。レーダーに高速で移動する機影を捉えた。おそらくコードXだと思われる。」
この極地の基地司令が私たちを呼びに来た。
「わかりました。ソフィア隊出撃します。」
《こちらAEWブリーズメーカー、貴機らをレーダーで捉えた。》
雪上を滑走しながら上を見るとはるか上空の雲の合間に航空機の影が見える。彼らが私たちソフィア隊専門の早期警戒機であり私たち唯一の空中の眼だ。彼らがいなければ私たちはコードXと接触することすら難しい。
《Sof1からSof5へ、コードXとの会敵予想時刻まで3分。会敵予想地点まで2分だ。待ち伏せできないか?》
「ブリーズメーカー、それは無理です。1分じゃまともに待ち伏せすることはできない。せいぜい先制攻撃のチャンスがこちらにある程度ですね。」
《そうか。私たちには陸のことはわからん。君たちが頼りだ。》
「ええ、逆に私たちには空のことはわかりませんから。」
《ああ、お互い得意分野で補いあおう。》
「Sof1から各機へ、散開。これ以降会敵予想時刻までの無線封鎖を徹底してください。射撃開始は各自のタイミングに任せます。」
「Sof2、ウィルコ」「Sof3、コピー」「Sof4、コピー」「Sof5、コピー」
5機の轟雷型が道を外れ、森林の中へと飛び込んでいく。私たちソフィア隊所属の轟雷は極地の雪上で戦うことがほとんどであるために脚部前面に展開式のソリが取り付けられている。これは私が初期轟雷型だったときから不満だった安定性の問題を解決してくれたし、プロトディスを使用するときにも一役買ってくれる。
遠方に機影。間違いない、コードXだ。5発の砲弾が森林の中から打ち上がった。偏差も完璧で全弾直撃するはずである。しかし砲弾はすべて空中で消滅した。一筋縄には行かないとは思っていたが不意打ち、それも5発の砲弾をすべて無に返したのだ。
「あの特異点がっ!」
Sof4が短気を起こして身を敵に晒しながら再装填を済ませ、発砲した。
「Sof4!早く回避運動を!」
「…愚かな。」
コードXがそう呟いた時にはSof4の左腕が宙を舞った。
「うわぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」
Sof4は悲鳴をあげながらその場に崩れ落ちた。
《Sof1以下4機、作戦は続行だ。Sof4には回収チームを送る。》
「ブリーズメーカー、了解です。」
「…つまらん。轟雷型、それも5機か。」
コードXは空中で静止したまま手に持つライフルで私たちを撃った。
「高いところから見下しやがって!」
私たちは雪の上を滑走しながら何発も対TCS砲弾を放った。コードXはそれを最小限の動作で避けて見せる。
「…もう少し“特別な奴ら”だと思っていたんだがな。実験小隊の名が泣こう。」
(私たちが実験小隊であることを知っている!?)
「…残念だ。」
「待て!」
コードXは彼女の直下に弾丸を放ち、衝撃で雪を舞いあげた。火力が凄い…やはりフレズヴェルク型…。そして視界が元に戻った時、彼女の姿はそこになかった。
「ブリーズメーカー!コードXは!」
《すまん、こちらでも見失った。…司令部からの通達だ。戦闘終了。ソフィア隊は基地へ帰還せよ。》
「…了解。」
また逃がした。今回はあのTCSを打ち破る装備を持っていたはずなのに手も足も出なかった。それどころかSof4は左腕を失う損害を被ったのだ。FAガールは人間と異なり装甲を身にまとい操るシステムが搭載されている他にもアンドロイドであるために神経中枢区画が破損しない限りは部品の交換でどうとでもなる。だから率先して戦場に駆り出されるのだ。そうやって人間より先に機能を停止させていった仲間を何人も看取った。
疑問はまだ残っていた。どうしてコードXは私たちが実験小隊であると知っていたのか、何が目的でどこへ向かっているのか。この時の私には理解ができなかった。