対TCS砲弾をどう命中させるか、それが私たちに課された課題であった。
「何?先日コードXに襲撃された基地から部隊の現状を教えろと通達が来た?適当にあしらっとけ、奴らにこちらの手の内を見せるわけにはいかないんだぞ!」
この基地司令は今日も通信機に向かって怒鳴っている。
「すまない鶯、どうもあのコードXに襲撃された基地の連中は彼女に興味深々らしくてな。ただ、お前たちの情報を向こうに渡すわけにはいかない。」
「そう…ですか。それはそうと私だけを呼び出した要件はなんです?」
「ああ、うちも実験小隊を騙る以上はそれなりの報告をあげなくてはいけないのでな。プロトディスの運用状況についての問い合わせが本部開発陣から来ている。それでだ、小隊長のお前に使用した感想を聞こうと思ってな。」
「そういうことですか、率直に申し上げるなら砲弾を小さくしてスティレット型でもなんでも飛べる機体に装備するべきだとは思いますね。」
司令は怪訝な顔つきのまま私の発言を記録していた。
「私はあの対TCS砲弾は轟雷型の名誉を回復させる切り札になると思うのだが。」
「…司令も轟雷型部隊の出身でしたね。お気持ちは分かります。しかしあの砲を轟雷の一般部隊に配備したところで命中させることは難しいでしょう。となれば逆に恥さらしになる。」
「それもそうだな、貴重な意見を感謝する。嘘でも真実を混ぜればそれらしく見えるものだな。実践での数値なんて直撃した試しがないからほぼシュミレーションのものだ。」
軽く笑いながら司令はそういって元の場所へと戻っていった。
「直撃した試しがない…か。」
ここの基地司令は最初期のFAガール部隊の時からそれらを指揮する隊長であったという。轟雷型を従えていたがために彼の戦果はスティレット部隊の影に霞んでいた。
そういう意味では彼もまた苦労人なのだ。だからこそ彼についていきたい。
数日の平穏の後、再びコードXと思われる機影が映った。真っ直ぐにこちらへと向かってくる…だと?
「スクランブル!スクランブル!出撃できるFAガールをすべて出せ!」
「馬鹿スティレット隊!貴君らの装備にはまだミサイルが搭載されてない!」
「何もできないよりましです!機関砲で迎撃します!」
「ソフィア隊も出ろ!貴君らしかあのTCSは破れないんだぞ!」
「非戦闘員は退避しろ!この区画だってあのコードXのことだ。破壊されかねないんだぞ!」
「何をしている!非戦闘型のマテリアもとっとと引っ込んでろ!」
「私たちだって武器を支えて引き金を引くぐらいできます!」
「貴様らの予備部品はここにはないんだぞ!」
基地の中は怒号や走り回る人々であふれていた。滑走路は上空退避する航空機で溢れ、ミサイルや弾薬を屋外投機する整備員の姿も見える。
それでも建物を巻き込んだ火柱がいくつも上がったその中心にいるのは…やはりコードXか。
「鶯!」
声のしたほうを見るとソフィア隊2番機の
「よかった、他のメンバーは?」
「わかりません、おそらくは迎撃に出てるはずです。」
「しかしまだどうやって砲弾を命中させるか…。」
「通常武装で誘導するにもまずTCSに効力がない時点でたかが知れてる。」
「…光。」
雲雀が何かを思いついたように呟いた。
「何?」
「光ですよ!彼女もFAガールならば私たちと同じ光学センサで周囲の状況を把握してるはずです。それを狂わせることができれば…」
「考えたな、確かに…。それもここは私たちの基地だ、サーチライトの一つや二つあるぞ。」
「行きましょう、他のメンバーにも通信で送ってみます。」
「頼む、こちらはサーチライトの場所まで急ごう。」
こういうとき轟雷型の無限軌道は役に立つ、特に舗装された直線通路ならなおさらで走るよりも早い。急激なバランスの変更がない移動に限られるが。
基地の無線のチャンネルに切り替えれば聞こえてくるのは爆音と悲鳴と怒号だけ、応戦こそしているようだが雑に砲弾や銃弾をどんな矛さえも通さない盾に向かってばらまいているだけだ。その盾を貫通する矛盾なき矛を持っているのは私たちだけだというのに…。
「あった、これです。」
そこにあったのは寸胴な筒だった。雲雀はすでにその筒をコードXへと向けはじめている。
「この距離ならなんとか命中させられそうな距離ね…。」
「頼みます。ただ1発で仕留められるでしょうか?」
「それは当ててからの話よ、とにかく1発命中させないと。」
「わかりました。よし…照射タイミング、いつでもどうぞ!」
「照射始め!」
一本の光が空中に浮遊するコードXを正面から捉えた。彼女はすぐに目を腕で隠す。
「安全装置解除!発砲!」
その隙を逃すことなく私はプロトディスから対TCS砲弾を発射した。砲弾は空中に描かれた1本の路をなぞり、無敵の盾を貫く。
「よし、命中!!」
命中したのはコードXの背面ユニットのエアインテークパーツのような形状の部位であり、パージと爆発閃光を視認した。さらに追い風のように基地の別の場所から光の筋が現れ、2発の砲弾が膝のユニットを破壊した。
「今度は命中させたぞ。」
「梟か、雲雀の通信が届いたんだな。」
「そうです、私たち3機でそちらが行った作戦を実施しました。」
コードXは自機の損傷に驚きを隠せずにいる中で何かを呟いていた。
(何を話している…?)
「鶯、今ならコードXを撃破できるはずです!」
「よし、第二射はっぽ…」
「回避!回避!高熱源体が来ます!」
雲雀の警告で私たちは地面に伏せた。それと同時にサーチライトが爆散する。
「何…高熱源体…ミサイル!?」
「鶯のほうは大丈夫ですか?私たちの方もサーチライトが破壊されて…。」
「ミサイルの発射予測方向から接近する機影多数…。識別は味方です!」
「雲雀それはどういうこと!誤爆というの?」
「分かりません、しかし識別信号は味方…。第二波来ます!」
次々と降り注ぐミサイルに唖然としていた。どうして味方であるはずのFAガールが私たちを攻撃しているのか、敵味方識別信号の偽装…。いやありえないだろう。そうなるとクーデターだと言うのか。たとえそうだとしても私たちの基地を襲う理由が見当たらない。
「スティレット型だと?味方じゃないのか!おい、応答せよ!」
「撃つな!識別は味方になってる!」
「馬鹿野郎、あいつらはすでに攻撃してんだよ!!」
コードXを迎撃するために出撃していたはずのFAガール達はいつしか味方と識別される者からの攻撃に混乱していた。それも奴らやり方が汚い。混乱のさなかに飛び込んでゲリラのような戦闘を行っている。
「部隊識別用のマークを見て分からないの?」
「鶯、それはだめみたいです。襲撃者の塗装は本基地の部隊と酷似するものになっていると…。」
「侵入したと思われる機種は?」
「あの速度での襲撃となるとスティレット型だけかと。」
それならば…解決できるかもしれない。
「雲雀、司令に通信つないでもらえない?」
「え?」
「早く!」
「分かりました!」
《どういうことだ鶯、なぜ識別が味方の奴らが私たちを撃つ。》
「それはわかりません。しかし味方と敵を区別する方法があります。識別さえしていただければ後はこちらで撃ち落とします。」
《味方を撃つのか…?》
「でなければ全滅です。おそらく基地の各所の映像記録があれば反乱を証明できます。」
《考えたな…、それで方法というのは?》
「今出撃しているスティレット型に編隊飛行をさせてください。」
《何?》
「この基地独自の周波数で呼びかければ私たちの基地のスティレット型は編隊飛行をするはず、しなかった機体が現在襲撃を行っている機体ということです。」
《分かった、やってみよう。》
「なんとかなりそうですか?」
「結果はすぐにわかる、ソフィア隊。砲撃準備。」
少しづつスティレットが編隊飛行を始めた、思った通り基地命令がなければ戦場の中でお行儀よく編隊飛行に加わるような馬鹿はいない、それどころかその編隊に攻撃を加えている者さえいる。
「よし、うちにいるスティレット型と数があってる。発砲!」
コードXを追っていた私たちにすればスティレット型など止まっているも同然。さらにTCSがないならば容易に撃墜できる。数機は撃ち漏らして撤退して行ったもののそのほとんどを地面へと引きずり落したが、コードXの姿はなかった。
その後の始末は他の隊や基地の人員によって行われ、私たちにはその報告書が渡された。報告書の内容で特に重要な部分を抜き出すとするならば
『コードXに対して命中した対TCS砲弾が彼女の装甲を貫通したことから対TCS理論の有効性が確認されたこと。加えて襲来したスティレット型はコードXに襲撃された基地の機体だったことも判明した。これによりその基地には本部からの監査官が送られることになった。』
一件落着とはよく言ったもので、結局私たちの基地が被った被害も大きかった。人的な被害は少ないが他部隊用の武器庫、弾薬庫は執拗に破壊されており当分の出撃はできないだろう。幸い実験小隊の試験用装備の倉庫だけは別にあるため被害を免れていた。つまり私たちしかコードXを追うことができないということだ。戦力を削る…その意味では彼女の企ては成功したのだろう。
今度こそ決着をつけてやる。