冬の大地に春を   作:時 司

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Chapter 3 人為らざる者

対TCS理論に確証がとれた今私たちが実験小隊を名乗る意味はとうに無くなっていた。それなのにまだソフィア隊がこの基地に配備されているのには理由がある。実を言えばソフィア隊は特務部隊へと分類されなおしていた。これに伴って部隊ナンバーも21から11になっていた。11…前に見たタロットとかいう人間の道具だと正義を表すらしいが果たして何が正義なのだろうか。

この部隊編成の間に前回反乱を起こした基地の監査の第一報が上がっていた。報告によれば反乱はその基地のFAガールが基地の人間を隔離、および排除したところから始まり、あの襲撃時には基地のほぼすべてをFAガールが握っていたらしい。現に監査部隊が到着した際にも戦闘が発生しており、すべての抵抗した機体が鹵獲ないし撃破されたとも記録されている。

「FAガール独自の反乱…。」

「どうでしょうか、その基地の人間がとかげのしっぽ切りで罪を逃れているだけかもしれません。」

「それは無いと思うわ、雲雀。報告書を見る限りだけれどもその基地の総司令含む重要人物の大半が殺されてるし、それ以外の人員も基地の一か所にまとめて隔離されていて監査部隊が強行した際には武装したアーキテクトがその部屋の入り口を見張っていたとか。」

「だとすれば本当にFAガールが反乱を起こしたんですね。」

私と雲雀は自分たちの装備品を整備しながら話していた。しかし、反乱を起こして防衛機構を崩したいならば本部を叩くか、それこそ発電所のような重要拠点を占領すればよいものをどうして私たちの基地を襲撃したのだろうか。

「しっかし、コードXの行動目的がよくわかりませんよね。」

「確かに。あの襲撃もこの基地の壊滅を狙っていたとして、この基地をつぶしてコードX側に何の得があるかは分からない。」

「それに被害は倉庫に集中してますし、つぶすなら管制塔とか、基地庁舎とかを狙ってきそうなものですけれども…」

「そこが妙なのよね…。」

結局報告書以外は推測の域を出ることはなかった。

 

状況が動いたのは数日後、コードXが私たちの基地から数十キロ離れたダムを破壊した。これから流れた激流が下流の町を破壊し、そこに住む住人の多くが犠牲になったのだ。コードXが出現してから破壊するまでに私たちが到着することは不可能であり、彼女の成すがままに破壊されてしまった。町の犠牲もさることながら軍事的な面を言えば巨大な水力発電所が破壊されたのだ。近くにあったミサイルサイロを携えたミサイル基地の防衛設備への電力供給が止まり今攻め込まれれば容易に陥落する。さらに運の悪いことにその基地はミサイル運用に特化しており滑走路もなければ配属のFAガールすらいない。せいぜい戦闘ヘリが数機配備されているぐらいだ。だから迎撃のために出撃しミサイル基地の近くまで来ていた私たちがこの基地にとどまって警戒に当たることになった。

 

深夜、基地のサイレンがけたたましく唸りを上げた。機影は一機、コードXで間違いない。

《こちら基地指令室、寂しい出撃になるが君らが頼りだ。たのんだぞ。》

「了解、ソフィア隊はコードXの迎撃に出撃します。」

「基地にあかり一つ付いてないですね…。」

水力発電所が機能しない今基地備え付けの予備電源ではせいぜいレーダーや指令室に電力を送るのが精一杯であった。そのため迎撃設備はすべて使えない。

「コードXの高度が低い…?」

「前回手負わせた部分が影響しているのかもしれませんね。」

《あー、あー、聞こえるかソフィア隊、AEWブリーズメーカーだ。今空域に到達した。》

「ブリーズメーカー!コードXの方向は!」

《君らの正面だ。真っ向、地面すれすれを飛んでいるのか…?》

「Sof1!正面!」

降り積もった雪を巻き上げながら一つの点が真っ直ぐこちらに向かってきた。

「各機応戦!攻撃はじめ!」

全員がプロトディスから対TCS砲弾を放った。しかし高速でこちらに向かってくるコードXにはかすりもしない。距離を詰められる。Sof5がナイフを抜いた。コードXは勢いを一切落とすことなくSof5に向かってライフルの銃身に備えられた刃を突き立てた。Sof5は両手でそれを受け止めたがもう1本の腕に握られた同じライフルの刃が脚を斬った。

「ああ゛っ…。」

「愚かな…。人間になぜ与する。」

「何…?」

「貴様らはなぜ人間に味方する。」

「お前こそ目的はなんだ!」

Sof5はナイフで受け止めてはいたものの押されているのは一目瞭然だった。それに加えてSof5とコードXの距離が近すぎる。

「人間の殲滅。さすれば戦は終わる。」

そういうことか、ここのミサイルサイロには大陸間弾道ミサイルもある。それを強奪して世界各地の都市に打ち込もうという魂胆か。

「同じFAガールとして、通してくれぬか。」

「なぜです!」

「私の目的は人類の殲滅だ。FAガールを殺す気にはならん。」

「…あのスティレットを誘導したのもあなたですか。」

「どういうことですか、Sof2」

「コードXと共謀して弊害になる私たちの基地を襲わせたということです。あのタイミング、ちょうど私たちが攻撃していた瞬間でしたし。」

「勘のいいやつもいるようだな。どうだ、轟雷型。お前らを道具だとしか思わん人類など滅ぼすべきだと思うのだが。」

「断る。」

即答だった。答えなどとうに決まっていた。確かにコードXのようにFAガールを戦争の道具だとしか考えてない人間もいる。しかし基地司令のようにFAガールを人間と同じように扱ってくれる人も私は知っている。そして一生をかけてもいいとさえ思った人間もいる。

「よし!Sof1が腹をくくった。行くぞ!」

Sof4が対TCS砲弾を放った。意表を突かれたコードXは回避することもなく砲弾は彼女の背部ユニットの軸を破壊した。

「それが貴様らの答えかぁぁぁぁ!」

激高したコードXは両手に持ったライフルを構え乱射した。増加装甲や脚部のスキー板が無ければ大破していたかもしれない。

数発の対TCS砲弾を撃ったとしてもコードXはすべてを至近距離で切り裂いた。

(あの亜音速で発射される砲弾を至近距離で発砲されても対応できるというの?)

「これなら!」

Sof3はナイフを抜いて肉薄する。

「轟雷型がっ…。」

突きだされたナイフはコードXのライフルの刃とぶつかり火花を上げる。それに間髪いれずにプロトディスを発砲した。その砲撃で彼女の右腕が吹き飛んだ。

「クソッ、せめて貴様らだけでも巻き添えにしてやる!」

彼女は私たちの包囲を破って基地へと飛んだ。

《コードXは核爆発を起こす気だ。止めるんだ、何としても!》

「Sof2、対TCS砲弾残弾ゼロ!」

「Sof3コピー。」「Sof4コピー。」「Sof5発射装置故障、残弾はあります。」

「Sof5は2に残弾を渡して、私とSof2で打ち取る。他の3機は基地司令部の人員を退避させて。」

《Sof1とSof2が追いついた!》

「なぜ私の正義を理解しない!救済だぞ!人類を滅ぼせばFAガールは争う理由などない!」

「違う、お前が人類を滅ぼしたとしてFAガールの中で憎悪が残るだけだ!」

「私たちの回答を叩きつけましょう、Sof1!」

ミサイルサイロまで残り5キロメートルをすでに切っている。自分の無限軌道に無理をさせているのは分かっている。しかし残り少ない対TCS砲弾を必中のタイミングで放つにはなんとかしてコードXを引き止めないと…。

山間部に入った。

「Sof1、撃ちます!」

「待って、まだ今じゃ当たらない!」

それでもSof2は対TCS砲弾を放った。砲弾はコードXをかすめることなく正面の山の斜面に着弾する。

「何、この音…。」

低く鈍い音が響き渡り、斜面の雪が崩れ落ちた。

「雪崩か!」

コードXは重なる被弾で地面すれすれを飛ぶことが限界になっており、そのおかげで彼女は足を止める。

「今です!Sof1!」

私はプロトディスから対TCS砲弾を放った。

今度は外さない。砲弾は雪崩を回避するために勢いを押さえたコードXのコアを貫く。

「救済だ!人類を殺してFAガールを救うのだ!」

彼女は機能を停止する直前に叫んだ。

「狂気ですね…。」

「ああ。」

「人間とて私たちと変わらないはずなのに。」

《コードX撃破。ソフィア隊ご苦労だった。全機基地に帰還。》

 

コードXの一件はその後秘匿のうちに処理がなされていく。コードX…いや、フレズヴェルクの“遺体”は解析され、出所は月であると解析班から報告をうけた。推測の域を出ないが別の軍の部隊と交戦したときに思考に変化が発生し人類を滅ぼそうと考えるようになったらしい。それが仲間のフレズヴェルクには理解されず単独だったとも。

基地の復旧も進み、また私たちは別の地域へ転属されることとなった。輸送機の中から見た極地の基地には確かに春が訪れている。

 

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