ドラゴンボールZ 真・超サイヤ人   作:カンナム

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悪魔と呼ばれたサイヤ人と純粋な戦士ブロリーの戦い。

地球育ちのサイヤ人と宇宙最強の対決です。

楽しんでください( *´艸`)



誰が為に限界(かべ)を超える?

 

 

誰が為に、限界(かべ)を超える?

 

 超サイヤ人ブルー界王拳を発動した悟空とフルパワーを開放したゴールデンクウラ。

 

 両者の頂上決戦は、どちらも一歩も譲らぬ好勝負を繰り広げていた。

 

「グゥッ!」

 

「ガハァッ」

 

 互いに交互に顔を後ろに仰け反らしながらも脚は大地を踏みしめて一歩も退かない。

 

 正に究極のバトルを繰り広げている。

 

 強烈な打撃を交換していた両者は、一際強めの右ストレートを互いの顔に同時にぶつけて後方にのけ反り、距離が離れて止まった。

 

「ク、とんでもねぇ強さだ……! 一気に押し切るつもりだったのに、超サイヤ人ブルーの20倍界王拳でやっと互角かよ…!!」

 

 オーラを解除して肩で息を始める超サイヤ人ブルーの孫悟空に対し、クウラは息一つ乱さずに腕を組んで立っている。

 

「どうした? まさか、スタミナ切れ等と言う腑抜けた結末では無かろう?」

 

(コイツ。フリーザのように変身を身体に慣れさせる前に戦うなんて真似はしねぇ、か。全然パワーが落ちねぇのは分かっちゃいたが、ブルー界王拳でも押し切れねぇ。まさか、これ程とはな)

 

 様々な孫悟空の記憶を見て来た今の悟空からすれば、クウラもまた慢心によって己の身を滅ぼす敵だった。

 

 だが、今のこの男には一切の慢心が無い。徹底的に己を鍛え上げて目の前に現れている。

 

「20倍界王拳を発動した状態で超サイヤ人ブルーを使うのは、そろそろ限界でしょうねぇ。肉体をいくら鍛えても界王拳は長時間の使用には不向きです」

 

 どうするのか、とウイスは孫悟空と言う自分の弟子を見守っていた。

 

「……どうやら、クウラ様の勝ちのようだ」

 

「当たり前だろ、あのサイヤ人も相当ヤバいがクウラ様に敵う奴なんて居る訳がない!」

 

「ああ、一時はどうなるかと思ったが。流石はクウラ様だぜ。あの化け物みたいなサイヤ人相手に優勢だからな」

 

 戦闘力が高過ぎてまったく機械(スカウター)が役に立たないが、サイヤ人は肩で息をし始めている。

 

 その時点で、まだ余裕があるクウラの方が有利であるのは間違いない。

 

「…ちくしょう。オラが押されてる、か」

 

「そのようだな。それで、いつ超サイヤ人になるのだ?」

 

 クウラの問いかけに悟空は鋭い目を丸く見開いた。

 

「? コイツは超サイヤ人ゴッドのパワーを持ったサイヤ人の超サイヤ人だ。普通の超サイヤ人より上だぞ」

 

 そう返す悟空にクウラは静かに腕を組む。

 

「ーー本当にそうか?黄金に燃える髪、翡翠に黒の瞳孔が現れた瞳。ヤツから聞いたものとは、非なるようだが?」

 

 その問いかけに悟空はニヤリと返す。

 

「そうか。オメエ、ターニッブを知ってるんだったな」

 

「話で名前を聞いたくらいだがな。俺を負かしたヤツが宿敵(とも)と呼んでいた。そのターニッブが変身するのが真の超サイヤ人だともな」

 

 悟空はいったん、息を吐くと超サイヤ人ブルーを解除して黒髪に戻る。

 

「…ふう。真の超サイヤ人は、オラの中にある最強のオラの姿さ。オラが強くなればなるほどに、オラの先に真の超サイヤ人は立ってる。コイツを使うんは、絶対に負けらんねぇ時だけだ。基本的には、な」

 

「ならば今が、例外ーーか?」

 

 赤く光る目を細めるクウラに悟空もニヤリとなる。

 

「そうだな。オメエに勝ったターニッブを宿敵(とも)と呼ぶヤツのことーー知りてぇしな」

 

 悟空の黒眼が翡翠に黒の瞳孔が現れた眼に変わる。

 

 同時に黒い髪が天に向かって逆立ち始め、全身から黄金の炎が吹き上がり始める。

 

「ーー! なるほど、コイツは確かに。変わったな」

 

 先程から戦っていた時とは明らかに雰囲気が変わった。

 

 気の量などは先程の赤と青の気を纏う変身よりは低い。

 

 だが、今の悟空と目が合うだけでクウラの背には冷たいものが流れ始めた。

 

「ハァッ!!」

 

 逆立った黒髪は悟空の気合いと共に黄金に燃えた。

 

「天に逆立つ黄金の髪、翡翠に黒の瞳孔が現れた瞳。なるほど、コイツか!!」

 

 真の超サイヤ人と化した悟空にクウラもマスクの中で笑みを浮かべている。

 

「これが俺のーー超サイヤ人孫悟空の本気だ」

 

「孫悟空か。その名、覚えておこう!超サイヤ人よ!!」

 

 灼金色のオーラを纏うゴールデンクウラに、真・超サイヤ人が黄金のオーラを吹き上げる。

 

「さあ、派手にやろうぜ。クウラ!!」

 

 クウラは構えると一気に悟空の目の前に現れる。巨体に似合わぬスピードとパワーで拳を振り抜く。

 

 悟空は片手でクウラの拳を止め、ニヤリと笑みを浮かべてきた。

 

「なるほど。先程のような無理をした末の強化ではない。これが、貴様の真の姿か!!」

 

 強烈な迫力を目から放つ悟空にクウラもニヤリと返すと互いに拳を握って振りかぶる。

 

 肉薄する両者。強烈な拳と蹴りを応酬しながら、三度氷の大陸を飛び回る。

 

(リーチが長い分、接近戦では俺が不利ーーか)

 

 懐に入られて連打を打ち合うと腕が長い分、接近戦での回転率が低くなる。慎重に相手の動きを見切ってカウンターを狙い、仰け反ったところを追撃して懐に入られないようにしなければ。

 

 そう考えるクウラの想像を上回るものを、超サイヤ人は見せつけて来た。

 

(なにぃ!? 攻撃のモーションが、無いだと!?)

 

 拳を見切って避けようとするも、攻撃が見えないのだ。

 

 先ほどまでのような光速の攻防を繰り広げたクウラの目にも拳が、蹴りが、映らない。

 

「こ、コイツーー! 限界まで己の攻撃に無駄がなくなる様に削ぎ落としてやがるのか!?」

 

「ーーまだまだ、だけどな。真に変身しねぇと俺は、まだこの攻撃を使えねえ」

 

 自分の中の最強の自分が教えてくれるのだ。どのように打てば良いのか、どのように動けばよいのか。

 

 見ただけでーー。

 

 悟空の発想力を更に一歩、上回る真・超サイヤ人。それは孫悟空のセンスを限界以上に引き出しているからだ。

 

 クウラが攻撃を止められずに、一方的に仰け反り始める。ダメージも、先ほどの超サイヤ人ブルー界王拳に比べれば低いはずだと言うのに、身体の芯を捕らえるが故に重く硬いように感じられる。

 

「これがーーこれが、真の超サイヤ人か!!」

 

 強烈なボディを叩き込まれ、前のめりになるクウラの左右の目には、超サイヤ人ブルーと赤い体毛を生やした剥き出しの上半身を持つ長い黒髪の超サイヤ人が半透明で映っている。

 

 クウラは知る由もないが、その二つの孫悟空こそ彼の最強の姿である。

 

 真の超サイヤ人とは、孫悟空が変身したあらゆる次元の超サイヤ人の力を引き出せるのだ。

 

 幻影のような二人の孫悟空は真・超サイヤ人に重なる様にして消え、一気に纏うオーラが爆発する。

 

「ーーこ、これは!?」

 

 拳を返すも打ち合いにさえならない。

 

 さっきの20倍界王拳の超サイヤ人ブルーに匹敵、あるいは凌駕する勢いで気が上昇している。しかも先ほどのような無駄な動きは一切ない。

 

 いかに効率よくダメージを与えるか、洗練された動きで拳と蹴りを急所に正確に打ちこんでくる。

 

 野生の暴力と勘。神域の洞察力が兼ね合わさり、爆発的に気を上げてくる。しかも、その上限は無い。

 

 理不尽ーーこれを体現しているかのような強さ。

 

(ーーいや。そうではない。確かに、真・超サイヤ人の能力は凄まじい。だが、最も恐るべきは、この男だ)

 

 攻撃を敢えて体で受け止め、敵の攻撃パターンを読むクウラ。

 

「クウラ様!!」

 

「ちくしょう、汚ねぇぞ!!」

 

「おかしな変身しやがって!!」

 

 ほとんど捨て身の行為にサウザー達が悲鳴を、罵倒の声を上げる。

 

 しかし、当人たちは目を全く逸らさない。強烈な右のハイキックがクウラの顎を蹴り抜き、後方へ血を吐きながら仰け反らせる。

 

「……どうする? このまま、続けるか?」

 

 冷徹な悟空の声にクウラは、ゆっくりと仰け反らされた顔を戻しその瞳を見据える。

 

(なんという、冷徹な瞳だ。だが、分かるぞ……! この拳のーー貴様の魂の熱さが。それほどの力に飲み込まれずに己を磨き抜こうとする信念を感じる。何よりもーー! 誰よりも悔しいのは貴様自身なのだろう?)

 

 問いかけるのは、あくまで胸の内に留める。だが、その声が届いたかのように悟空の目が鋭く細まる。

 

(貴様は、先の赤と青のオーラを纏う技で決着を付けたかったのだ。真・超サイヤ人になり、己のセンスが磨き抜かれるのは分かっている。だが、それは”今の”貴様の力ではない。そう感じているのだろう?)

 

 その問いかけに、悟空は笑みを返してきた。

 

 その笑みは、明らかにクウラの心を読んだかのようなもの。冷徹な表情が鋭さを残しながらも穏やかに緩んで笑っている。

 

「そうか。その姿は、貴様にとって超えなければならぬ壁、か」

 

「……ああ! 俺は、この姿になる度に思い知らされんだ。自分の未熟さをな…! 強くなればなるほどに、この姿は俺に思い知らせて来る」

 

 超サイヤ人ブルーの20倍界王拳でも、クウラを押し切れなかった。なのに、ほとんど変わらないパワーとスピードの真・超サイヤ人でなら圧倒できる。

 

 センスが磨き抜かれ、相手の隙がアッサリと見える。

 

 悔しくてたまらない。超サイヤ人ブルーの状態では攻めきれなかったものが、今なら簡単に押し切れる。

 

 言われている気がする。その程度か、と。お前の力は、その程度か?

 

 お前の中に秘められた力は、能力は、こんなものではないぞ。これぐらいならば、簡単にできるぞ。

 

 真・超サイヤ人に、悟空は言われている気がするのだ。

 

ーー 俺に成らなければ、まだ勝てないのか? と。

 

 白い道着の自分と同じ顔の男と同じように、孫悟空は進んでいる。己の中の限界を極め続けている。その先に居る己の真・超サイヤ人に打ち勝つために。

 

「真・超サイヤ人に変身して、オメエと互角なら俺は納得いったんだけどな……!」

 

「フンーー! 勝手なことをぬかすな」

 

 一方的に自分に打ち勝っているくせに、その現状が不満だと言う悟空にクウラは毒を吐きながら愉快そうに笑っている。

 

「弟に勝つわけだーー! いや、そんなレベルではない。貴様は、ヤツが語っていたターニッブとやらによく似ている」 

 

「ありがとよ。俺も、オメエにターニッブの名を告げたソイツを知りてぇんだよ。でなけりゃ、こんな気に食わない勝ち方を選びやしねぇ」

 

 クウラの真紅の瞳が笑みを浮かべて強烈な気を纏い、闘志を燃やす。

 

「気が早いぞ、孫悟空。俺はまだ、負けを認めていない!!」

 

「……!!」

 

 これに穏やかさが消え、鋭さを宿す悟空の表情。満足そうに笑い、クウラは両手を大きく広げて頭上に巨大な金色に輝く太陽のようなエネルギーの塊を生み出した。

 

「ーー超サイヤ人孫悟空よ。貴様の強さ、確かに本物だ。ならばーー俺の最高の技を、貴様に撃ちこもう。戦士としての全力の一撃、よもや避けるなどとは言わないだろうな?」

 

「……クウラ、熱くさせてくれるじゃねぇか!!」

 

 黄金の炎を全身から噴き上がらせて、孫悟空は更に天井知らずの気を爆発的に高めていく。

 

 両手を上下に合わせて右腰に置いてたわめ、青い気を練りあげる。

 

「いいぜぇ、オメエの最強の技を。俺のとびっきり最強の技で打ち破ってやる!!」

 

 悟空の練り上げた青い光は赤く変色し、更に輝いている。その重圧にクウラの頬に冷や汗がつたう。

 

「行くぞーー孫! 悟空ぅううううう!!」

 

 その言葉に悟空は不敵な笑みを浮かべて構える。

 

「10倍ぃいい! かぁぁあ、めぇぇえ、はぁああ、めぇえええっ!!!」

 

 極限まで高められた両者の光が、互いに向かって全力で放たれる。

 

「勝負……!!!」

 

「波ぁあああああああああっ!!!!」

 

 巨大な灼熱の光玉と野太い真紅の光線が、互いの中央で真正面からぶつかり合った。

 

 クウラは両腕で力を必死に練り上げる。黄昏のような真紅の光は、神秘的でありながらも圧倒的な力を持っている、自分の全力を持って簡単に打ち破られてなるものか、と叫ぶ。

 

 一瞬の拮抗の後、自分の放った光玉に白い線が一本走るのをクウラは見た。

 

 光の球に走る白い筋は、幾本も生まれてガラス細工のように砕け散る。

 

 その向こうから圧倒的な力を放つ真紅の光がクウラに向けて真っ直ぐに走ってくる。

 

「! うぉおおおお!!!!」

 

 両腕を顔の前で交差して、防ごうとするクウラだが光はクウラの眼前に迫ると急激に狙いを反らして上空へと向かって昇っていく。

 

 光が通り過ぎた衝撃が発生するだけで、クウラは耐えようとした体勢のまま後方へ吹き飛ばされ地面に叩きつけられた。

 

 仰向けになったクウラの目の上に広がる青空を一瞬で真紅の光が撃ち抜いた。

 

 そのあまりの威力に呆然と目を見開くクウラ、そして離れた位置から見ていたサウザー達。

 

 ゴールデン化を解いて最終形態に戻りながらクウラは見上げる。黄金の炎を身に纏い、不敵にして冷徹な笑みを浮かべている戦士ーー。

 

 自分を相手に圧倒した戦士ーー真の超サイヤ人を。

 

「クウラーー! これが、真になった俺の全力の技だ!!」

 

 呆然としていたクウラがゆっくりと起き上がり、最終形態から通常形態に戻っていく。マスクを外し、角や隆起物を納めて、彼は血のような色の瞳を孫悟空へと向けた。

 

 自分と似た冷めたようで、その実ーー熱い魂を燃やす漢の目を。

 

「フ、フフフ。これほどとはなーー俺の負けだ。孫悟空よ」

 

 これに悟空も白い歯を見せて笑った。

 

 サウザーが拳を地面に叩きつけている。

 

「勝っていた……! クウラ様は、勝っていた!!」

 

「そうだ、納得いかねぇ!! あの黄金に変わらなければ……!!」

 

「ちくしょう!! ちくしょぉおおおおおっ!!!」

 

 ドーレもネイズも憤りを見せて、真・超サイヤ人を見つめている。

 

 クウラを一方的に蹂躙した、あの悪魔のような黄金の戦士を。だが、敗北した当のクウラ本人はサウザー達にさえ見せたことのない穏やかな笑みを浮かべていた。

 

 それが何よりも、クウラ機甲戦隊の者たちにとって悔しい事実だった。

 

ーーーー

 

 ベジータは静かに、敗北を認めたクウラを見つめて目を細める。

 

「……あのフリーザの兄貴にしては、正々堂々とした強さだ。あんな奴が居るとはな」

 

 悟空の真・超サイヤ人を引き出したことも素直に称賛できる。悟空は、基本的に真・超サイヤ人になりたがらないからだ。

 

 自分たちサイヤ人を除けばーーだが。

 

 よほど自分とのレベル差がある相手で、かつ負けられない相手にしか使わない。

 

「カカロットを真・超サイヤ人に変身させたあの強さ、本物だ」

 

 その悟空の強さを目の当たりにしたパラガスは、震えあがっていた。

 

「な、何だと言うんだ? なんで、あんな化け物がーー! 俺たちと同じサイヤ人だというのか? し、信じられない。こんなこんな馬鹿なことが……!!」

 

 自分の息子ブロリーを鍛え上げれば、どんな存在にも負けるはずがない。

 

 事実、息子は王の戦闘力を簡単に上回り、パラガスの知る限りのサイヤ人の限界戦闘数値をアッサリと越えていたのだ。

 

 だが地球育ちだと言う名も知らぬサイヤ人は、フリーザの兄であるクウラさえも寄せ付けなかった。

 

 自分が育て上げた息子は、よく似た悪魔のような男に押されている。

 

 ベジータ王子に復讐するどころではない。自分たちが、殺されるかもしれない。

 

 事ここに至ってパラガスは、自分がいかに身の程を知らなかったかを思い知らされていた。

 

「べ、ベジータ王子! 申し訳ありません!! わ、私が悪うございました!! ど、どうか命だけは!!」

 

 土下座をして謝罪する。命乞いをすることしか、今のパラガスにできることはない。

 

「……パラガス。貴様の処遇については後だ。まずは、貴様の育てた息子の答えを見せてもらう」

 

 ベジータは、それを横目で見た後で自分の仲間である悪魔のような超サイヤ人に変身した男と、自分に土下座する老サイヤ人に育てられた戦士を見据えていた。

 

ーーーー

 

 ブロリーは猛烈な勢いで後方へ吹き飛ばされていた。

 

 黒髪を逆立たせて、金色に黒の瞳孔が現れた瞳をしたブロリーは、必死に抗っていた。

 

 目の前に高速移動し、拳と蹴りを打ち込む。だが、大男に変身した悪魔は両腕を胸の前で組んだままブロリーの拳と蹴りを紙一重で躱していき、軽くその場から掌を突き出され首元を押されただけで吹き飛ばされる。

 

 地面に両足を叩きつけ、獣のように四つん這いになりながら着地するブロリーを悪魔は白目で睨みつけてくる。

 

「ぐぅううう!!」

 

「……フン」

 

 牙を剥き出しにしてブロリーは悪魔に吠えつけた。

 

「……雑魚が。父親がどうだと言ったところで、所詮雑魚は雑魚なのだ……!」

 

 悪魔は嘲り笑いながらブロリーに告げてくる。

 

「それとも、これがサイヤ人の英才教育の賜物かぁ? マヌケ共!!」 

 

 わざわざ、パラガスに顔を向けた後で自分にマヌケと言ってくる悪魔にブロリーの怒りが更に上がる。

 

「……!! お父さんを、馬鹿にするな!!」

 

 再び、ブロリーが突っ込む。

 

 悪魔の動きを学習して己の動きに取り込みながら、ブロリーは急速に闘い方が上手くなっていた。

 

 それでも、圧倒的な差を悪魔は見せつけてくる。まるで、ブロリーが成長してくることさえも見抜いているかのように。

 

 打ち込めば打ち込む分だけ、手痛い反撃を叩きつけられている。

 

 悔しかった。父をバカにした存在に、何もできないのが悔しくてたまらなかった。

 

 目の前の悪魔は色んな事を知っている。

 

 自分が出来ないこと、知らないことを軽々とやってくる。

 

 ブロリーにはパラガスしかいない。

 

 父から教わったこと以外は、直接敵から吸収するしかなかった。だけど、目の前の悪魔は違う。

 

 積み重ねている。自分のようにその場で吸収して自分のモノにするのではない。動きを吸収し、それを何度も繰り返すことによって磨き抜かれている。

 

 彼には技を、武術を、磨き合える誰かが居るのだ。

 

 自分には”バァ”しかいなかったのに。バァは二度と自分の味方にはなってくれないのに。

 

 悔しさと、もどかしさーー。ブロリーは初めてその感情を味わっていた。 

 

 胸がモヤモヤしている。

 

 自分が知らないことを目の前の男が知っているのが羨ましくて。知らない自分が寂しくて、悲しくてーー複雑な心の波がブロリーを襲っていた。

 

 彼は知らない。

 

 その感情こそ、人間が争うキッカケになり、他者と己の違いを認識するものであること。

 

 嫉妬と呼ばれるものであることを。

 

(届かない。なんでーー?)

 

 自分が強くなっている自覚はある。

 

 見えなかった攻撃も、出来なかった動きも、構えの意味も理解して吸収している。

 

 それでもなお、3メートルを越える悪魔の男に拳が届かない。その事実が、ブロリーを苛立たせる。

 

 踏み込みが遅いなら、更に速く鋭く動いている。

 

 それなのに、アッサリと目の前の悪魔にカウンターを取られている。

 

 相手のフェイントにかかったフリをしてフェイントをかけても、自分の意図を読まれているかのように、踏み込む度に目の前に拳が置かれている。

 

 どれだけ打ち込んでも、どれだけ動いても、どれだけ殴りかかっても、岩のような拳に阻まれている。

 

 それが、悔しかった。

 

 闘志は衰えない。むしろ燃え上がっていた。どれだけいなされても、どれだけ吹き飛ばされても、ブロリーは立ち上がる。

 

 退くことなく、挑んでいく。

 

ーーーー

 

 離れた位置からブロリーを見守っているのは、チライとレモという非戦闘員だった。

 

「…ブロリー。泣いてる?」

 

 チライの耳には、猛り狂うブロリーの声が泣いているように聞こえた。

 

 レモの目には、荒れ狂うブロリーが普通ではないように映っている。

 

「あの暴れ方、普通じゃないな。だがーー」

 

 レモは不思議に思う。

 

 自分がどれだけ傷付こうとも、お構い無しに突っ込んでは吹き飛ばされるブロリーを見て本来なら恐怖を感じるはずだが。

 

 レモの心にはブロリーの叫び声が響いてくる。

 

 父親をバカにされ、必死に挑んでなお、嘲笑われている歯が立たない自分への悔しさ。

 

 どれだけ叫んでも、傷付いても、父親には届かない孤独の中にいる悲しみ。

 

 そして何より向こうのーーブロリーにそっくりな男には友がいるのだ。

 

 闘いの中で肩を並べて、笑い合える友が。

 

「…辛いよな。自分と似ているのに、まったく違うんだからな。アイツは、ブロリーが欲しいものを全部持ってる。だからブロリーはアイツにこだわっちまうーー!」

 

「何言ってんだよ、レモさん! あんな悪魔、ブロリーに似てるもんか!! あんなの、顔が似てるだけだよ。中身は正反対だ!! あの優しいブロリーが、あんな悪魔と同じなわけ、あるもんか!!」

 

 眦を吊り上げて怒るチライを見た後、それでもレモはブロリーと対峙するブロリーによく似た悪魔を見て呟いた。

 

「似てないーーか。確かに、正反対だ。何もかも、まるで今のブロリーの在り方を否定するかのように、な」

 

「ーーえ?」

 

 チライは半笑いの表情でレモに言い寄る。

 

「じ、じゃあ何? まさかあの悪魔は、ブロリーを否定する為に正反対の事をしてるだけって言うの?」

 

 そう口から出た自分の言葉を耳が拾い、頭の中で反芻させた瞬間、チライの怒りが爆発した。

 

「ふざけんじゃないよ!! あんな悪魔がブロリーと同じわけない!! いけ好かない親父を必死になって助けてるブロリーが、簡単に人殺しをしようとする奴と同じなわけないじゃないか!!!」

 

「……そうだ、な。確かに、そのとおりかもな」

 

「そうに決まってる!! かも、じゃないよ!!」

 

 怒りに身を任せて叫ぶチライに静かにレモは頷いた。似てるなんて、ふざけるなとチライは怒る。

 

 彼女の頭の中には、笑いながらパラガスを殺そうとした悪魔の姿が焼き付いている。ブロリーに似てるからこそ、その光景が許せなかった。

 

 たとえ友達を失っても父親を慕い、守ろうとするブロリーと。心無い言葉でパラガスを侮辱して殺そうとした悪魔が似ていると思ってしまった自分にも腹が立っていた。

 

 見えてしまったのだ。

 

 優しいブロリーが、パラガスを殺そうとしたように。

 

 だから、チライは否定した。受け入れられなかった。あの悪魔と同じなわけがない。たとえどれほどブロリーが強くなっても、恐ろしくなっても。

 

 あの悪魔と同じなわけがない、と。

 

ーーーー

 

 何度目になるか分からない攻防の果てに、ついにブロリーは四つん這いになって止まっていた。

 

 肩で息をしながら見上げるブロリーを見下す悪魔。

 

 悪魔はニヤリと笑いながら、言ってきた。

 

「フン。よく頑張ったが、とうとう終わりの時が来たようだな?」

 

「……グウ、ウゥアア…!!」

 

 腕が震えて膝が揺れ、体重を支えられずに氷の地面に顔からついてしまう。

 

「ブロリー!!」

 

 チライの叫び声が響いてくる中、ブロリーは必死に悪魔を見上げる。

 

 悪魔は歯を剥き出しにして笑いながら、左手に光の球を生み出して周囲から気を取り込んで高めている。

 

「さあ、楽にしてやろう…!!」

 

「う、グウァアアア?!」

 

 立とうとするも、力が入らない。身体が言うことを聞かないのだ。悪魔の左手には強烈で禍々しい光の塊が生み出されている。

 

 消される。

 

 あの光に飲まれれば自分は消えて無くなる。そこまで理解した上でブロリーは尚、睨み上げた。

 

「…きぃ!」

 

 笑みを浮かべて奇声を発しながら、悪魔が光を放つ左手を振りかぶる。

 

「やめろぉおおおおっ!!!」

 

「な、よせ! チライ!!」

 

 ブロリーの耳に、チライとレモの声が届く。茫然とした彼の目の前には両手を広げて悪魔の前に立ち、自分を庇うチライの背中があった。

 

「チ、ラ、イ! ダメだ、チライ!!」

 

 ブロリーの声が響く中、悪魔が値踏みするようにチライと自分を見つめてくる。

 

「…獣なら獣らしく、言葉など発さずに唸っていれば良いものを。所詮、半端なマヌケか…!」

 

「やめろ!!ブロリーは、何も悪くない!!ブロリーは、必死でクソ親父の願いを叶えようとしたんだ!!応えようとしたんだ!!マヌケなんて、そんなことない!!」

 

 悪魔に対し、ブロリーを庇いながらチライが叫ぶ。

 

 これにブロリーは黒目に戻った瞳を見開いてチライを見る。

 

「このブロリーはね、親父に友達を傷付けられて。親父の命令を聞かないと酷い目に遭わされて。それでも、親父を庇うヤツなんだ!!ブロリーは優しいんだ!!間抜けなんかじゃない!!取り消せ!!!」

 

「…チ、ライ…!!」

 

 目を見開くブロリーの前で白目の悪魔は笑みを消してジッとブロリーを覗いてきた。

 

「友ーー?」

 

 瞬間、ブロリーの脳裏には一つの光景が浮かんでいた。保育用のベッドに寝かされた2人の赤子。

 

 ナイフを持った男が、髪の長い赤子の胸を刺した。

 

 自分の父親に似たサイヤ人が赤子の手を掴みながら瀕死の状態でゴミ捨て場に捨てられていた。

 

「ーーお、お父さん?俺ーー?」

 

 目を見開きながら、ブロリーは今の光景を脳裏に浮かばせる。ハッキリと見えた。

 

 自分達を捨てたサイヤ人の王の姿も。

 

 悪魔の男ーーその白い目の奥にあるのは、赤子の頃に殺されかけた記憶。

 

 ブロリーには、ハッキリと見えていた。

 

「どう、してーー?お、前ーー!?」

 

 悪魔の男は、自分を睨みつけている。その顔が、徐々に歪み始めた。笑みではなく、忿怒に。

 

「貴様。友を傷付けられて、何故怒らない?」

 

「ーーえ?」

 

 意味が分からずに問い返すブロリーに悪魔はチライを高速移動で躱すと、ブロリーの目の前に現れて顔を踏み付けてきた。

 

「アグゥ!?」

 

「ブロリー!?」

 

 悪魔は怒りの形相でブロリーの腰巻を睨みつける。

 

「マヌケではなくーーフヌケか。オマケに未練がましく身体に身に付けるのか? 傷ついた友に手を差し出さず、傷付けたヤツの言葉を鵜呑みにしてーー!」

 

 頭を踏み付ける右脚が更に強く押し込まれ、地面が割れてブロリーの頭に衝撃がジワジワ痛みと共に現れ、意識を飛ばす。

 

「何が、友だ? 友の為に怒りもしなかった。友が仲良くしてくれないのは、誰のせいだ?親父か?違うなぁーー」

 

 睨み下ろす悪魔は、本気で怒っている。

 

「お前だ、ブロリー。お前が、バァを傷付けた。親父に傷付けられたバァを見捨てたのは、お前だ!!」

 

「ーー違う!俺は、俺はバァと仲良くなった!!でも、お父さんがバァを傷付けたから、二度と仲良くなってくれなくなった。だから、俺はバァの耳と一緒にーー!」

 

「違わん。傷付けられた友の為に怒らず、裏切られた友の気持ちを理解しようとせず、親父の顔色だけを伺って。挙句にバァの耳と一緒に居る、だと?」

 

 悪魔の男は、全身から黄金の炎を吹き出し始めた。その白い目には翡翠に黒の瞳孔が現れた瞳が浮かび上がる。

 

 逆立った髪は更に天を突き、悟空やベジータのようなシルエットに変わった。

 

「虫唾がはしる!!!」

 

 3メートルを越える巨大な筋肉の塊の胸から黄金の炎が爆発した。

 

 爆発が収まると、ブロリーの目には無駄のない引き締まった2メートルを越える長身の肉体、翡翠に黒の瞳孔が現れた瞳を持つ、逆立った黄金の髪の男が映っていた。

 

「う、嘘ーー!ブロリー!?」

 

 チライが茫然とした表情で呟く。無理もない。

 

 今の悪魔の姿は髪や目、肌の色こそ異なるも、髪型や体格、顔付き全て先程、金色の瞳になって黒髪を逆立てて暴れていたブロリーと瓜二つだった。

 

「……!!」

 

 だが、その目を見ただけでチライは震えが止まらなくなった。レモは、寒くないのに寒さを感じた。

 

 ブロリーの表情には怯えの色が浮かんでいる。

 

「分かるか?お前と俺の違いが…?」

 

「お、前ーー。お、父さん、をーー!?」

 

 浮かぶのは小型の丸型宇宙船。それを頭上に掲げて両手で握り潰す悪魔の姿。中に居たのはーーパラガス。

 

 ブロリーは頭を右手で掴まれ、宙吊りにされる。

 

「親父を殺したか、だと? 虫ケラのように捻り潰してやったぞ。それが、どうした?」

 

「な、んで?お前にとって、お父さんはーー」

 

「俺を洗脳し、コントロールしてくれた礼に楽にしてやった。有り難く思ってもらいたいものだーー!」

 

 笑う男は、パラガスを殺めたことなど何とも思っていないようだった。

 

 信じられないとばかりにブロリーは、自分に瓜二つの姿になった恐ろしい黄金の髪の悪魔を見上げる。

 

「親だろうが、子どもだろうが、同じサイヤ人だろうと関係ない。俺を洗脳しようとする奴は皆殺しだ。俺は、俺の意志で生きる!誰にも邪魔はさせん!!」

 

 冷徹な瞳の奥には狂おしい程に猛る意志がある。

 

 そのあまりの強さに、ブロリーは目を逸らそうにも逸らせなかった。

 

「親父に怯えて、バァを見捨てたお前には分からんか?友の大切さが。友の熱さが!!」

 

 悪魔だと思っていた男には、意志がある。それも何人にも侵せない強烈な意志が。

 

「お前は孤独だったんじゃない。孤独を選んだんだ。それをさも寂しげに哀しげに、未練がましく拘る様が俺には許せん」

 

 恐怖に目を見開くブロリーを男が睨み付けてくる。

 

「サイヤ人としても、戦士としても。何より友を持つ身として許せん。それで何が羨ましい?何が妬ましい?自分で変えようともせんお前が、他人を妬む資格があるのか?苦しんだ?苦しんでいる、だと?それを甘んじて受けたのは貴様だ!!!」

 

 怒りーー。圧倒的な怒りの意志が男から溢れている。

 

 自分のような形のない怒りではない。ハッキリと何かを見据えて生きるが故の怒り。

 

 悔しかった。それを持ってない自分が悔しいと感じた。

 

 恐怖の感情を、悔しさから生まれた怒りが飲み込む。再びブロリーの目がーー虹彩が金色に輝き始め、髪が逆立っていく。

 

 全身から緑色の光を溢れさせてブロリーは男の手を払って着地し、バックステップすると構えた。

 

「俺、お前ーー倒す!!」

 

「ようやく闘う意志を見せ始めたか。お前が、このまま戦う意志を見せなければ、お前の仲間を一人ずつなぶり殺しにしてやるだけだがなぁ……!」

 

 これに男も、はじめて構えを取る。

 

 その姿はまるで、ブロリーを鍛えようとしているようにレモには見えた。

 

「頑張れ、ブロリー。お前さんなら、出来る!!」

 

 はじめて自分の意思で闘おうとするブロリーにレモは自然と激励の言葉を送っていた。

 

 

 




________________________________________

次回も、お楽しみに( *´艸`)
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