ドラゴンボールZ 真・超サイヤ人   作:カンナム

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さぁ、いよいよターニッブが登場します〜(´ー`* ))))

 楽しんで下さい(´ー`* ))))
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道を求める者 力を求めし者

 

 

 白い上下の道着に黒い帯、黒のブーツを履いた黒髪の男が肩に白いザックを背負って歩いている。

 

 左右非対称に跳ねた髪型に物静かだが熱く燃える真っ直ぐな黒目をしている。

 

 彼の歩く足取りは力強く、一歩、一歩とまるで地面の感触を味わうように踏みしめている。

 

 世界は氷の結晶に覆われ、極寒の大陸と海から成り立っている。

 

 およそ、人が生きていくには不向きなその場所を肩口まで破れた道着一つで歩く様は、修行僧のようだ。

 

「…へへ、見つけたぜ!」

 

 凍える空気を切り裂くような明るい声に目を向ければ、男と同じ容姿をした山吹色の道着に青い帯とブーツを履いた人物が立っている。

 

「ーー久しぶりだな」

 

 男ーーサイヤ人・ターニッブは朗らかな笑顔で言った。

 

「オス! 元気そうだなぁ!」

 

 すると目の前の彼ーーサイヤ人・孫悟空も明るい笑顔で片手を上げて応える。

 

 彼の隣には、2メートルを越える長身に筋骨隆々とした肉体を持ち、赤と黒の身体にフィットしたスーツに白いブーツを履いた灰色の肌の男が立っている。

 

「…孫悟空。お前と瓜二つのこの男が、俺に合わせたい奴ーーか?」

 

「ああ。オメエと戦わせてぇ、強ぇえ奴だ!」

 

 明るい悟空の言葉に訝し気にターニッブの眉が動く。

 

「ーー?」

 

 静かに目を細めるターニッブに悟空が頷いた。

 

 彼の目の先にはジレンと呼ばれた男が立っている。

 

「……確かに。ただ者ではないようだ」

 

 拳を握りしめるジレンに対し、ターニッブの黒い瞳が鋭く細まると同時、左手で掴んでいたザックの紐を離して拳を握りしめた。

 

「…話が早そうだな」

 

「お前の目が雄弁に語っている。ーーならば、後は拳で語り合うだけだ」

 

「面白い!!」 

 

 無表情だったジレンの口許が笑みを浮かべて赤い気を纏う。

 

 同時にターニッブの足元から渦巻く青い波動の風が吹きすさび、静かに燃える黒い目。

 

 数瞬、無言で睨み合う。

 

「いくぞっ!!」

 

「来いっ!!」

 

 一言を告げあうと、ジレンとターニッブは同時に前に踏み出す。

 

 右の拳が、両者の中央でぶつかった。 

 

 その一撃だけで、どれほどの言葉が交わされたのかは分からない。完全に相殺した両者の拳。

 

 凄まじい衝撃が起こった後、静かな世界に戻る。

 

 その時には、互いに相手を理解したかのような笑みを浮かべていた。

 

(この打撃の威力、重さ。確かにーー俺に匹敵している。なるほど、ベルモットから聞かされた時は半信半疑だったが……。そこの孫悟空といい。これほどまでに自己を研鑽し、修練している男が俺以外に二人も居たか!!)

 

 ターニッブの左肘とジレンの右膝がぶつかる。

 

 光の波紋が世界に生まれて広がり、大地が割れて槍衾のように突き立っていく。

 

 瞬間、両者は両の拳を握って放ち、脚をうならせて蹴りを放つ。

 

 言葉は語らず、拳と蹴りで互いの想いを伝えあうかのように。

 

 どれほどの修練を積んだか、どれほどの道を歩んできたか。

 

 ほんの数瞬の攻防で互いに理解し合っていく。

 

 言葉では伝わらない経験が、拳や蹴りーー相手の動きを通して互いに理解できる。

 

「ーーヌン!!」

 

 ジレンの右拳に灼熱の光が纏わり、放たれる。

 

「波動拳!!」

 

 同時にターニッブも両手を腰でたわめてから青い光を放った。

 

 両者の一撃は互いの中央でまともにぶつかり、完全に相殺した。

 

 強烈な気が相殺されたことに、お互い表情を微動だにせずに拳を構えて相手に向かって突っ込む。 

 

 その言葉の意義は、口から出るものよりも遥かに有意義であろう。

 

「さすがだ、ターニッブ。通常の状態で、あのジレンと真っ向から打ち合えてる。真・超サイヤ人抜きでもオメエの力は半端じゃねぇ」

 

 ジレンと真っ向から打ち合うターニッブを見て、悟空がニヤリと嬉しそうに笑う。

 

 期待以上だと、彼は笑っている。

 

 いつも、そうだ。

 

 ターニッブは自分の想像をいつでも一歩、上回ってくる。

 

 まるで自分の中に居る真・超サイヤ人のように。

 

 悟空にとって、それは何よりも嬉しいことだった。

 

 同時に後方へ吹き飛ぶ首、脚を地面に擦り付けながら下がる両者はいったん、間合いが開く。

 

「……なるほど。孫悟空の言葉も理解できる。お前はーー強い」

 

 普段は無口な男が饒舌に語る。語らせる。

 

 それほどの強さを、研鑽を目の前の格闘家はしている。

 

「だからこそ、問おう。ターニッブと言ったな? お前は、何を求めている」

 

 打たれた箇所を右手で押さえてから、ゆっくり拳を握りしめてジレンは語る。

 

 その問いかけは続いた。

 

「お前のその拳、そこら辺にいる凡百の格闘家とは訳が違う。技に込められているものも、お前の見つめる先も。だからこそ問いたい。お前は俺と同じように力を求めるものか?」

 

 ジレンの問いかけにターニッブは構えていた拳を自分の顔の前に出して見つめる。

 

「…俺は、答えを知りたいだけだ」

 

「答え、だと?」

 

「真の強さとは、何か。その答えを探している」

 

 圧倒的なーー純粋なまでの想い。だからこそ、ジレンは叫んだ。

 

「強さとは正義だ!! お前ほどの男が、何を言っている!!」

 

「ジレン、お前は力を求めていると言ったな。何故だ?」

 

「何故だーーだと? 力は全てを許してくれるーー、そうだろう!?」

 

 ジレンの黒い瞳の奥に炎が宿る。

 

 憎しみと言う名の炎だった。

 

 彼の脳裏に浮かぶのは、弱かったが故に失った多くのモノだ。そして、裏切られた事実。

 

「ーー俺は、力が無かった。だから失った」

 

「……」

 

「俺は、仲間と言う他人を信頼していた。だから裏切られた!!」

 

 能面のような表情の奥にあるのは激情。

 

 それも、全てを焼き尽くさんとする強烈なもの。

 

「聞かせてやろう。ターニッブ、孫悟空。お前達になら、いや。むしろ、お前達ほどのモノでなければ、この話をするに値しない!!」

 

 語りだす。

 

 弱かったがゆえに失った己の過去を。

 

「俺の両親は穏やかで優しい、どこにでもいる普通の親だった。俺が生まれた村も、どこにでもある小さな集落だった。だが、その穏やかな日常はある日、突然奪われた。俺は、いつものように水を汲みに村を離れーー帰ったときには、村は火の海になっていた。今朝まで俺を愛してくれた両親は、笑顔で挨拶していた村人たちは、誰一人! 何も言わない肉塊にされていた!!」

 

 何もかもを失い、自分自身も殺されかけた。

 

 絶望の中で最後に自身に残された命すらも失いかけたジレンを救ったのは、緑色の肌を持った男ーー。彼は武術の達人であった。

 

 そしてジレンは彼の下で多くの弟子達の独りとして修業を受けるようになる。

 

 もう失わないために。

 

 誰よりも強くなろうと、決めたのだ。

 

 だが、そんな生活もすぐに失われる。

 

 ジレンの故郷の村を滅ぼした悪人が再びジレンの前に立ちはだかった。

 

 ジレンの目の前で彼を含む弟子達を庇い残った師匠は単身で挑み、悪に敗れた。再び安住の地を奪われたジレンを更に襲ったのは、仲間の裏切りだった。

 

「師の仇を討とうとする俺に対し、誰もが首を横に振った。我が身可愛さに、師を殺した仇を見逃したんだ!!」

 

 忘れはしない。

 

 あの時の想いを、あの時の絶望を。

 

 彼は二度、同じ悪人に大切な場所を、人を奪われた。

 

 だからこそ、彼は悪を憎む。同時に己の弱さを憎んだ。

 

「俺が悪に師を奪われたのは弱いからだ!! 力があれば、そうはならなかった!! 力は、全てをーー俺の弱さをも許してくれるんだ!!」

 

 吠えるジレンを静かにターニッブが見据える。

 

 彼もまた、その瞳を静かに閉じる。

 

 果てなき荒野ーーどこまでも続く逢魔が時のような空、その下で濃紺の空手着を着た鬼に倒された己の師を思い返す。

 

 彼らの戦いは、純粋な強さを極めんとする上での勝負であった。

 

 ほとんど自爆に近かった師を、己の拳で敢えて葬った鬼の漢。

 

 力なき自分では、到底止めることなど許されなかった。

 

 それでも、ターニッブには認められなかった。

 

 鬼の漢が歩む、その道をーー。

 

 その覚悟を知りながら。

 

「……ジレン。俺はそうは思わない」

 

「なんだと!?」

 

「本当に強い者は、力に縋りはしない」

 

 今まで出会って来た多くの人を思う。魔族という力に虐げられてもなお、抗おうとしていた人々を。

 

 自分と共に歩もうとしてくれた炎のような親友を。

 

 祈るしかないと嘆いていた姫を。

 

 若くして王の座につかされた友を。

 

 そしてーー力に飲み込まれた己を諫めた帝王を。

 

「ジレン。真の強さは、力をも超える心だーー!!」

 

「詭弁だ!! 力が無ければ踏みにじられる!! 何故、否定する!! 貴様のその眼ーー、貴様も俺と同じだろうが!!」

 

 ジレンの叫びにターニッブの眼が見開かれる。

 

「気付かないと思ったか? お前も力が無かったから奪われた過去を持つ身だろう? だからこそ、強さを力を求めたはずだ!! それを何故否定する!?」

 

 激情を露わにするジレンを前にターニッブは静かに燃える瞳を向けた。

 

「俺の求めるものは、力の。ーーその先だ、ジレン」

 

 その言葉にジレンの表情が激しく燃えるように変わる。

 

「ふざけるな!! そんなものはない!! そんなものは、ただのお為ごかしだ!! そんな子どものような夢を見たまま、お前はそれだけの強さと力を得たと言うのか!!? そんなはずがあるものか!!!」

 

 悟空は静かにジッとジレンを見た後、ターニッブを見つめる。そしてニッと笑った。

 

 ターニッブは自分の見つめていた拳を前に突き出し、腰を落として構えている。

 

「ならば、俺の歩んできた道は。ーーこの拳で応えよう!!」

 

「望むところだ!!」

 

 赤い炎のようなオーラを更に燃やして、ジレンが前に出る。

 

 その踏み込みは先ほどまでの比ではない。

 

「うぉおおおお!!」

 

 吼えるジレンに合わさる様に、見えない拳が飛んでくる。

 

 振りかぶるモーションすらない。

 

 それまで互角に戦っていたターニッブが、捌き切れずに一撃をもらい、そのまま身体中に拳打を叩き込まれる。

 

「がっ、ぐっ! がぁ!!」

 

 のけ反るターニッブの顎に強烈な拳が叩き込まれる。

 

「どうした!? 大口を叩いておきながら、本気の俺に手も足も出ないのか!? それで力の先だと!? 笑わせるな!!」

 

 凄まじいラッシュに、ターニッブが一気に追い詰められる。

 

 防戦一方のターニッブに、拳と蹴りが雨のように叩き込まれる。

 

 両腕のガードを吹き飛ばす強烈な右の前蹴り。

 

 その威力にターニッブはまるで万歳するように腕を上げ、上体を大きく後ろにのけ反らせる。

 

 ジレンの右拳に赤い光が満ちていき、振りかぶる。

 

「ーー終わりだ!!」

 

 強烈な右ストレート。まともに喰らえば、砕け散るのは間違いない。

 

 ガードは、間に合わない。

 

 だがーー。仰向けにのけ反ったターニッブの眼がジレンを向いている。

 

「今だーー!!」

 

 同時に悟空の目が見開かれる。

 

 彼の脳裏によぎるのは、惑星サイヤでの本気の勝負。

 

 凄絶なラッシュ(連打)からの強力無比なスマッシュ(強打)を放とうとした悟空を一瞬で切り返した、あの一撃。

 

「ーー来る! ターニッブの!!」

 

 思わず拳を握りしめて叫んだときには、ジレンと記憶にあった自分がトレースするように右ストレートを放ち、その拳の下を寸分たがわずにかいくぐるターニッブの姿がある。

 

(コイツ!? 俺が止めを刺しにくるのを見計らって、自分から踏み込んでくるだと!?)

 

 それは、ジレンの拳を前に一片たりとも恐怖を感じていないことになる。

 

 並みの度胸と判断力、洞察力ではない。

 

 右の拳が青い風の波動を纏い、ジレンの腹に叩き込まれている。

 

「ーー真!!」

 

「うぐぉ!?」

 

 思わず目を見開くジレン、その一撃は重い。

 

 先ほどまでの戦いで交換した拳の重さの比ではない。

 

 指先にまで力が入らないほどの一撃。

 

 鍛え抜かれたジレンの肉体をもってしても、防ぎ切れない拳の重さが其処にある。

 

(このーー俺が? 動けない、だと!?)

 

 目を見開く彼の前で、ターニッブが左拳を振りかぶっている。

 

「バカな!?」

 

「昇! 龍!! 拳ぇええええんっ!!!」

 

 跳び上がりながら左のアッパーカットがジレンの顎を打ちぬき、そのまま天に向かって突き上げられていく。

 

 くるりと身を翻しながらターニッブは着地し、構えを取る。

 

「ぐはっ!?」

 

 その数瞬後に、ジレンが背中から地面に叩きつけられた。

 

(たった、一撃? たったの一撃で、この俺が動けない、だと!? なんだ、コイツの拳は!?)

 

 立ち上がろうとする気力毎持っていかれた、それほどの一撃。

 

 並の格闘家ならばともかく、破壊神をも超えるとされる域に達したジレンをして、そんなものを浴びたのは初めてのことだった。

 

「ジレン。これが俺のーー答えだ!!」

 

 はっきりと告げるターニッブにジレンの眼が見開かれていた。

 

 認められない。認めてなるモノか。

 

 こんな強さを認めたら、自分の今まで歩んできた道が否定されている。

 

 ジレンの心に芽生えたのは、焦燥と嫉妬だった。

 

「ふざけ、るな……! こんな、何も失わない力など認められるものか!!」

 

 ジレンには見えたのだ、その拳の意味が。

 

 多くの友と繋がり、歩んだターニッブの道の意味が。

 

 何も持とうとしなかった自分とは正反対の道を歩んだうえでの強さ。

 

 許せなかった。

 

 自分は諦めるしかなかったのに、この男は諦めなかったのだ。

 

 この男は、立ち上がったのだ。

 

 何度も、何度も挫折し、絶望を味わって尚、立ち上がって歩いてきたというのだ。

 

「認められるものか!! お前の”強さ”など!!」

 

 それは、ジレンの弱さを露呈させる強さだ。

 

 そんなもの、認められるはずがない。

 

 それを認めたら、今まで歩んできた道を。

 

 今まで自ら斬り捨てて行った多くのモノーーその行為が、無駄だと言われている。

 

 自分が歩み、自己研鑽して来た道が、苦悩と弱さと、何よりもそれらの代わりに得た自分の力が、間違いだと言われている。

 

 だがーーそう感じたジレンを前に格闘家(オトコ)は真っ直ぐに見つめて来た。

 

「……ジレン。俺はお前の強さも、正しいと思っている」

 

 怒りの気力で震える足腰を無理やりに動かして立ち上がったジレンを前にターニッブが静かに燃えるーーあの瞳で告げた。

 

「……!!」

 

 否定されていると感じていたジレンの眼が、その声に。その瞳の真っ直ぐな力強さを前に見開かれている。

 

「戦いとは、孤独なモノだ。格闘家は常に自分と戦っている。自分の弱さと!!」

 

「!!!」

 

 同じなのだ。

 

 この男は、自分と同じだ。

 

「俺の道は、ここまで育ててくれた師と。これまで拳を交えた友たちによって築かれたものだ。自分自身と向き合い、強くなるために!!」

 

 だけどーー決定的に違う。

 

 それがーーその違いが、ジレンには許せなかった。

 

「ターニッブ! 貴様の強さーー!! 俺は、絶対に許せん!! 許すわけには、いかないんだっ!!!」

 

「そうか。ならば、受けて立とう!!」

 

 瞬間、黄金の炎がターニッブの両足の下から燃え上がり、彼の髪を天に向けて逆立てていく。

 

 逆立った黒髪は黄金に燃えあがり、真っ直ぐな黒目は瞳孔は黒のままーー翡翠眼へと変わっていった。

 

「コレは、孫悟空の変身と同じか」

 

 無限の闘気、黄金のオーラ、青く光る風。

 

 圧倒的な力の顕現と、その力を身に纏いながら真っ直ぐに見つめてくる意思の強さ。

 

「ああ。真・超サイヤ人という」

 

 脚で大地を踏みしめて拳を握り、ターニッブは構えた。

 

「ジレン、お前の本気に俺も全力で応えよう」

 

 言葉の熱さがジレンに届く。

 

 胸に響く。

 

 あの時の孫悟空に似てるが非なる、強い意志。

 

「ーーかかって来い!!」

 

 ターニッブのその言葉を最後に、ジレンは格闘家の本能が求めるまま全力で彼に打ち込んでいた。

 

「うぉおおおおっ!!」

 

 求めるままに打つ、打たれる。

 

 目には見えない打撃を放つジレンに、ターニッブは心眼で捌きながら重い一撃を返していく。

 

 どちらも譲らず、両の脚を地面に叩きつけて踏ん張りながら打撃を放ちあう。

 

 同時に吹き飛ぶ顔と顔。

 

 それでも次の瞬間には顔を突き合わせて殴り合う。

 

「…どっちも凄ぇな。こっから一歩も引かねぇって意志を感じっぞ!!」

 

 打撃を肉体で受け止めた上で勝つ。

 

 ターニッブという男は、そんな気にさせてくれる男だ。

 

 フットワークやフェイント、駆け引き、無論そんなものを否定する気は悟空はない。

 

 だが、頭の中を空っぽにして只々、全力で殴り合えるのは一人だけだ。

 

 この男だけーーターニッブだけが、自分の拳に真っ向から打ち合ってくれる。

 

 受けて立ってくれるのだ。

 

 そして真っ直ぐな瞳を代弁するかのような真っ直ぐな拳打を放ってくる。

 

 負けたくないという気持ちが生まれるのだ。

 

 積み重ねてきたものを惜しげもなく晒す格闘家に自分の全てを晒した上で勝ちたいと思うようになる。

 

 同時に、負けてくれるな、とも思う。

 

 まだ自分は、こんなものじゃない。

 

 まだまだ、自分は強くなれる。

 

 ターニッブの拳は、相手にそう思わせ、更に高みへと向かわせる。

 

 楽しくて仕方がない。

 

 見ているだけで物足りる訳がない。

 

「そんでも、今回は我慢しねぇとな。本番じゃねぇんだからよ」

 

 呟く悟空には、未練がある。

 

 出来れば、戦いたい。

 

 全宇宙の強者が集まる武道大会で、ターニッブと全力で向かい合い、殴り合えたなら。

 

 ジレンの強さもさることながら、悟空はターニッブが自分と同じチームであることが不満だった。

 

「なんとかして、ターニッブと別チームに別れらんねぇかな。最近じゃ、組み手さえさせてくんねぇしよ」

 

 ビルスもウイスも、悟空とターニッブが組み手しようとすると止めにくる。

 

 ベジータやブロリーに続いて最近では悟飯にピッコロまでもだ。

 

 唯一、父のバーダックだけが立ち会いの下でならと許可をくれるが、大抵の場合はバーダックも参戦して3人揃って動けなくなる。

 

 それはそれで楽しいのだが、やはり一対一で楽しめるなら越したことはない。

 

 ターニッブの拳を前に力を引き出されているジレンを見て悟空は頷く。

 

 やはりターニッブとは別チームになれないものか、と。

 

 そんな彼の思惑を他所に、ターニッブとジレン。二人の闘いは苛烈を極めていた。

 

(この俺が、押し切れないだと? 力で全てをねじ伏せてきたこの俺が、たった一人の男を相手に押し切れないというのか? 何一つ捨ててこなかった男を相手に!!)

 

 それは怒りだった。それは失望だった。それは裏切りだった。

 

 自分が歩いてきた道に対する裏切りでしかなかった。

 

「ターニッブ! 俺は貴様を絶対に認めんぞ!!」

 

 認めるわけには行かない。認めてはならない。何故ならそれは敗北だからだ。

 

 今までの自分の弱さに対して敗北を認めなければならなくなる。

 

 それだけは出来ない。

 

 それは師匠ギッチンと出会う前と。

 

 両親を失った頃と今の自分が何も変わらないことになるからだ。

 

「俺は、貴様を認めんぞ!!」

 

「そうか。それもまた、一つの強さへの答えだ。ジレン」

 

 だが、必死に否定するジレンとは対照的にターニッブは淡々とした表情で真っ直ぐに見つめて認める。

 

 その言葉が嘘、偽りのないモノだと理解してジレンはますます表情を歪める。

 

「何故、お前は認められた? 何故、お前は俺を認められるんだ!?」

 

 必死に否定しなければ、自分は自分に押し潰されそうだというのに。

 

 この男は、何故自分を認められるんだ。

 

「ジレン。答えは一つじゃない。俺にも歩いてきた道があるように。お前にも信じて歩いた道がある。俺の求める強さへの道と、お前の望む強さへの答えが違っていても構わない。構わないはずだ、違うか?」

 

「違う!! 正しいのは俺だ!! 力を得るために全てを捨ててきた俺が、正しいんだ!! 友に、仲間にすがるお前が正しい訳がない!!」

 

 否定する。

 

 認めてはならない。

 

 認めれば、それまでだからだ。

 

「…ジレン。オメエの抱えてるもんは、それか」

 

 拳を交えた時に、明らかに重たいものが伝わってきたのだった。

 

 悟空自身が感じたのは、強固な壁だ。 

 

 その壁を打ち崩せば、ジレンは更なる高みへと至るだろうに、自ら枷を強いている。

 

 悟空には、そう見えた。

 

「そいつの枷をぶち破れんのは、オメエだけだ。ターニッブ!!」

 

 強く眼を見開いて告げた悟空の声に応えるように、ジレンの顔が後方へ仰け反って脚が引き下がる。

 

「グゥ……っ!」

 

 顔を戻して睨みつけた先には、ターニッブが静かに構えを取っている。

 

「何故攻め込んで来ない!? 俺を見くびるのか、ターニッブ!!」

 

「ーーいや」

 

 そう応えるとターニッブは身に纏う黄金の炎(オーラ)を更に燃やし、手足に青い雷光を発生させる。

 

 電刃錬気ーー。

 

 練り上げた気を波動の力で雷光に変化させる術。

 

 ジレンの目が鋭く見開かれる。

 

「ターニッブよ。貴様は言ったな、力の先にあるものを求めていると。だが、そんな言葉を吐けるのは貴様がそれだけの力を持っているからに他ならない!!」

 

「……」

 

「俺と違う道などない!!認めろ、ターニッブ!!力は全てを許してくれるんだ。仲間すら不要になる!!」

 

「俺は、力があったから格闘家をやめようと思っていた」

 

 ジレンの言葉を遮るのは強い意志を込めた声だった。

 

「俺は、ただ格闘家であれば良かった。こんな力、望んでいなかった」

 

「バカな!! 貴様は何も失わなかったのか!? そんなはずはあるまい!! 俺と貴様は同じだ!! 大事なものを奪われたから強い力を望み、手に入れて、己の望みを叶えたーーそのはずだ!!」

 

「ーージレン。俺は、師を殺した男を師と同じくらい尊敬していた。だが、だからこそ認められなかった」

 

 瞳を閉じて告げられた言葉にジレンが押し黙る。

 

「この力は、その認められない男が振るうものと同じだ。格闘家には不要だ、そう思っていた」

 

 ターニッブは語る。

 

 力に振り回された事も、一度や二度ではない。

 

 自分の意志に関わらずに全てを破壊し、滅ぼす。

 

 自分の身体でありながら、何一つ言うことを聞かず目の前で人が木っ端のように吹き飛び、物が積み木のように崩れて行く。

 

「…正気に戻れば確かにある手足に残った感触。その感触が俺を心の芯から震えさせる。何もかも、滅ぼしてなお治らない力の波動に悩まされ、拳を捨てようとした」

 

「……!」

 

 ターニッブの身に纏う青い雷光が、波動があるからこそ恐ろしさはないが。

 

 確かに凄まじい威圧が感じられる。

 

 孫悟空と対峙した時に感じた、あの剥き出しの冷徹な殺気と重圧こそが真・超サイヤ人なのだとジレンは悟る。

 

「ターニッブ、貴様はーー!」

 

 嘘ではない。

 

 力が無いから苦しんだ自分と違い、目の前の男は力があったから苦しんだのだ。

 

 彼には、想像できなかった。

 

 力があれば全て許されると思っていたのに、その力が自分を蝕むなどと。

 

 自分が力に振り回され、守ろうとしたものを壊すなど考えた事もない。

 

 その恐怖は、想像しただけで震えてくる。

 

 自分も、あの悪魔のような男と同じになるのか、と。両親や師を殺したあの男と同じになるなど、ジレンは想像すらできなかった。

 

「…何故、拳を握れる? 何故、お前は、闘える。いったい、お前に何があったのだ?」

 

「俺は、一人じゃなかったからだ」

 

 訝しむ。

 

 仲間が居たなら、その仲間すら傷付ける程の力を感じるからだ。仲間など足手まといにしかならない。

 

 そんなジレンの心の中の疑問に答えるようにターニッブは続けた。

 

「確かに、闘いとは孤独なものだ。だが、それでも一人では闘うことはできない。自分が居て、相手が居てはじめて闘える。それがーー宿敵(とも)だ」

 

「……っ!」

 

 目を見開く。

 

 敵は、ただ倒すしかなかった。

 

 それ以上の意味などない。力を持ってねじ伏せる、それだけの存在だ。

 

 もっと言おう、闘いに意味などない。闘いは手段でしかないはずだ。

 

 格闘家でありながら、ジレンは自分と目の前の男の決定的な違いを悟る。

 

「俺の拳は、相手を倒すのでなくーー相手に”勝つ”為の拳。それがーー俺の一撃必殺だ!!」

 

 知らねばならない。

 

 自分の先を歩く男の力を、拳を。

 

「だからこそ、ジレン。俺は、お前ともーー宿敵(とも)として心ゆくまで闘いたい!!」

 

 何という晴れやかな表情か。

 

 何という、天晴れな男か。

 

「く、くくく、は、はははは! はぁーはっはっは!!」

 

 自然と笑みになり、高笑ってしまう。

 

「来たぜ。ジレンのヤツ、自分の枷を破った! 流石だ、ターニッブ!!」

 

 拳を握り、頷く悟空の言うとおりだ。

 

 今まで悩んでいた事も、こだわっていたものも、何もかも自分が放つ力強い笑い声に軽く吹き飛んでしまう。

 

 ジレンは、心底楽しそうに笑い、拳を握っている。

 

「…いいだろう、ターニッブ。行くぞ!!」

 

「来い!!」

 

 真紅と黄金の炎のようなオーラを纏う両者。

 

 ぶつかり合う右拳と右拳。

 

 衝撃が、光の波紋を生み出して世界に光の粒子が降り注いでいく。

 

 ニヤリと笑みを浮かべるジレン。

 

 爽やかな笑みを返すターニッブ。

 

 即座に連撃を繰り出し合う二人、打たれて打つ。

 

 申し合わせたかのように、互いに拳と蹴りを交互に放っている。

 

 その激しさと熱に、悟空の黒い瞳も燃えている。

 

「スゲェ、打ち合いだ。僅かに芯を外れてるだけで、まともに入ったら一撃で決着がつく。それを何度も繰り返してやがる! オラよりも上かもなーー!」

 

 ニヤリと笑みを浮かべて悟空は、告げる。

 

 何時間も繰り返し、全力でぶつかり合う両者の体力は、そろそろ限界だ。

 

 次の一撃で、決着がつく。

 

 肩で息をしながら、ジレンがニヤリと構える。

 

 ターニッブも静かに拳を握る。

 

「ぬぉあああ!!」

 

 ジレンの瞳が赤く光り、咆哮が響き渡り、ターニッブのガードの上に見えない拳を叩きつける。

 

 瞬間、ジレンの目には雷光が一閃し、腹に衝撃。

 

(な、何だと!?)

 

 膝から力が抜け、前のめりになる。見れば右の正拳突きがジレンの鳩尾に入っていた。

 

「はぁぁ、チェイサァアアア!!」

 

 瞬間、ターニッブの足刀蹴りがジレンの顎を打ち抜き、天高く吹き飛ばす。

 

 強烈な根っこから引き抜くような一撃に思わずジレンの目が閉じ、刹那で見開いた先には風を纏いながら飛び回し蹴りを放つターニッブがいた。

 

「真空ぅ!竜巻旋風脚ぅぅう!!」

 

 極々小規模だが強力無比な竜巻が発生し、ジレンの全身を連続で蹴り手繰りながら巻き上げていく。

 

「ぐ、あああ!!」

 

 天頂で吹き飛びながら、悲鳴を上げて背中から叩きつけられるジレン。

 

 着地するターニッブ。

 

 彼の両手には雷光が走っていた。

 

「電刃ーー!!」

 

 練り上げる強力な一撃は、倒すのでなく勝つ為の拳。

 

「小賢しい。どんな技も、俺の力の前には無力だ。それを証明してやる!!」

 

 ジレンもまた、右拳に己の全身の気を凝縮して構える。

 

「終わりだ、ターニッブ!!」

 

 その場で突き出された右拳から、矢のような灼熱の弾丸が飛ぶ。

 

「ーー波動ぉお拳ぇえええん!!!」

 

 瞬間、ターニッブも両手を突き出し青い雷光の刃となった波動を放った。

 

 ぶつかり合う瞬間、ジレンの目が見開く。

 

 自分の光がターニッブの波動に無効化され、撃ち抜かれていくのが見え、波動は一気にジレンの前に現れた。

 

「おのれ!!」

 

 全身の赤い炎のようなオーラを纏い、両腕をクロスさせて波動拳を受ける。

 

 だが、雷の波動はジレンの作り出した光の壁すらも透過するように擦り抜けて、彼の肉体を突き抜ける。

 

「なーー!?」

 

 身体が痺れて動かないジレンをーー巨大な青い光線が飲み込んでいった。

 

 波動に飲み込まれていく中で、ジレンは目を見開いていた。

 

(コレがーー貴様の目指す、勝つ為の拳か)

 

 完敗だ、とジレンは笑い心地よさげに瞳を閉じた。

 

 光が晴れた向こうには仁王立ちする白い道着を着た黄金に燃える髪の男と、大の字になって満足そうに笑って眠る赤い服を着た灰色の肌の男が居た。

 

 黄金の炎が散り、白い道着を着た男は黒髪黒目に戻る。

 

 コレに悟空は、ニヤリと笑って歩いていった。

 

ーーーー

 

 ジレンが目を覚ました時には悟空が一人、目の前に居るだけでターニッブは居なかった。

 

「よう、ジレン。ターニッブは、強ぇえだろう?」

 

 明るく問いかけてくる悟空には、負けたジレンを侮るような気配はない。

 

 純粋に目の前で繰り広げられた激闘が嬉しいのだろう。

 

「……あの男。大会には出るんだろうな?」

 

「ああ、絶対に参加してもらう!」

 

「そうか。それなら、構わん」

 

 笑みを浮かべ、第11宇宙最強の戦士ーー灰色のジレンは闘志に目を見開いていた。

 

 もう一度、あの男と拳を交えるために。

 

 




________________________________________

次回も、お楽しみに(´ー`* ))))

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