ーーパオズ山。
孫悟空の家では、ベジータやブルマ、クリリンにヤムチャ、天津飯、チャオズ、亀仙人にブロリー 、ピッコロも参加した食事会が行われていた。
本来ならば、家の中の食卓が活躍するのだが。様々な料理は屋外に置かれた巨大な卓に並べられている。
「うんめぇ! やっぱチチの飯は、サイコーだぜ!!」
「…悟空さ、うんと食べてけろ!」
バクバクとものすごい勢いで食べていく幼い容姿の悟空にチチが頷きながらコップに水を注ぐ。
「本当にボク、ソックリだなぁ。未来のお父さん!!」
「だな。オラも、こうして見っとビックリだぁ」
仲良く笑う悟空(GT)と悟天。
後ろでは、この世界の悟空が悟空(GT)から離れて仲間達に料理を配っていた。
彼なりの配慮を感じ、悟空(GT)はニコリと笑う。
悟空もニッと笑い返してきた。
「カカロット! 寿司を寄越せ!!」
「そらよ、ベジータ! ブロリーの方は、空じゃねえか。ラーメン、お代わりいっか?」
配膳していた悟空に向かってベジータが注文してくる。隣のブロリーのラーメン鉢は汁まで飲み干されていた。
「ん。いや次は、チャーハンがいいかなぁ。ん? ピッコロ、なんだぁ?」
「……少しは噛めよ、サイヤ人ども」
ベジータ、ブロリーが食事を平らげていくのをピッコロが冷めた目で注意する。
楽しそうな皆の様を悟空(GT)は嬉しそうに笑みを浮かべて眺めている。
そんな彼の周りには、クリリンやチチ、ブルマや地球人達が集まっていた。
「大変だったみてえでねぇか。地球を守るって言っても、死んじまったら意味ねぇだよ」
「そうよ! アンタ達サイヤ人は、無茶ばっかりして。少しは奥さんや家族のことを考えなさい!!」
左右からチチとブルマに言われて悟空(GT)は嬉しそうに笑う。
「はは、悪りぃ。オラの世界のチチやブルマにも言われそうだな」
この世界の悟空ならば、弱った顔をして謝ってくるだろうが未来の悟空(GT)は嬉しそうに明るく笑っているのが印象的だった。
「おかしな野郎だ。そんなヤベエ目に遭って、チチ達にも叱られてんのにーー嬉しそうにしてやがる」
「……父さん。本当に色々、あったんですね」
バーダックと悟飯の呟きに、悟空(GT)は白い歯を見せて笑顔を返す。
こんな会話ができること自体が、彼にとってかけがえのない喜びだった。
「それにしても、お前はどんな姿になっても変わらないなぁ。なんだか、懐かしいよ〜」
「何言ってんだ、クリリン。オメエも変わんねぇぞ!」
クリリンに応える悟空(GT)を見て、ヤムチャが声を掛ける。
「懐かしいと言えば。また尻尾が生えたんだな、悟空」
「おお、ヤムチャ。この尻尾があっから超サイヤ人4になれんだ! にしても。オメエやクリリンも天津飯もーーオラの知ってるオメエ達よか、ずっと強ぇみてぇだな」
悟空(GT)の言葉に天津飯がニヤリと笑って応えた。
「ターニッブという、お前やお前の親父にソックリな顔のサイヤ人に鍛えられた。奴と闘うだけで、俺は自分の未熟さや鍛え方、新しい自分を次々と発見した。一度は武道を退いたクリリンやヤムチャも、アイツと戦っただけで昔以上に燃えているんだ」
「ーーターニッブ、か。この世界のオラやオメエ達が、そこまで首ったけになる奴。いっぺん見てみてぇなぁ」
丼を置いて、悟空(GT)はベジータ達と食い合いをしている悟空を見つめた。
「なあ、昔のオラ。そのターニッブって奴に会わしてくんねぇかな?」
悟空は骨付き肉にかぶりつきながら、応える。
「はは、言うと思ったぜ! でも、その前にオメエの身体を戻さねえとな」
「? この世界にゃ究極ドラゴンボールは無ぇんだろ?」
「ああ。けんど、色んなことができる天使さんや本当に何でも願いを叶えちまう超ドラゴンボールが、この世界にゃあっからよ。多分、大丈夫だ。まず、オメエにゃ元の大人の身体になってもらわなきゃな! けど、今日は遅いかんな。天使さんに会いに行くのは、明日でいいだろ?」
意味ありげに笑う悟空に悟空(GT)がジッと彼の目を見つめた後、ニコリと笑った。
「よっしゃ! なら、今は腹ぁ一杯飯食うぞ!!」
「その意気だ! おし、オラも食うぞ!!」
明るい二人の悟空の声に引っ張られるように宴は夜が更けるまで続いたーー。
ちなみに寝る部屋はチチと悟天が同じ部屋に、二人の悟空が同じ部屋を使うことになるのだが。
仲間達との話が弾んで明け方まで騒ぎ、ウイスが修行に迎えにきた時、皆が寝不足で目の下にクマが出来た有様になっていたのはーーここだけの話である。
ーーーー
血のような赤黒い空に浮かぶ、黒い光の太陽。
真っ黒な岩の大地と枯れた森。
血のような赤い池は、猛毒を示唆するように気泡をいくつも水面に絶え間なく生み出している。
ここは魔界。
人間界とは一線引かれた次元にある魔族が住まう世界。
広大な土地に建てられた巨大な城ーー人間が考える戦略面や戦術面、立地条件などを度外視した不気味な城。
白い大理石の床と柱。
巨大なホールでは、着飾った美しい男と女達が上品な笑みを交わしてダンスを踊っている。
それらを二階の観覧席とも呼ばれるテラスから見下ろして3人の頭に動物の角を生やしてローブを着た老人達が会話をしていた。
ヤギの角をした老人が語る。
「知っておるか? 近頃魔界を、暗黒帝国軍なるものが侵略し始めているということを」
これにモノクルを付けた牛の角をこめかみから生やした老人が頷く。
「たしか…、ダ―ブラの一族がこぞって参加している魔術師の軍だったな?」
「時の界王神の候補でもあった芯人ーーメチカブラを頭目にあげ、本気で魔界を統一した暁には人間界や神界に攻め入るつもりらしいな」
小太りの鹿の角を生やした男が続ける。
これにヤギの角の老人が頷いた。
「そうだ。時の界王神によって封じられていた魔導士メチカブラが復活を果たしたらしい」
「……フン。たかだか魔導士無勢の指揮下に収まるとは。所詮ダ―ブラは、魔王の器ではないな」
吐き捨てる牛の老人に鹿の老人が声をかける。
「待て。メチカブラが本当に復活したと言うのであれば、理解できる話だ」
「確かにの。メチカブラは、その才能だけで時の界王神候補に選ばれる程の魔力の持ち主。一部では、ヤツを魔界の界王神と呼ぶ者が居るくらいだ。更には得体の知れぬ世界を創造する神ーーハーツに、元々は界王神の見習いだった者が魔神に変わったドミグラ、最後に元は銀河パトロール隊員でありながら、初代タイムパトローラーであったシーラスなど、裏で糸を引くものが後を絶たぬ」
「我らがお嬢様を差し置いて、ふざけたことを!」
語り合う老人達だが、ふとヤギの角の老人が気付いたように他二人に問いかける。
「それで、お嬢様の姿が先ほどから見当たらぬが。何処へ行かれた?」
「ん? そう言われれば。おい、お嬢様はどちらだ!」
近くにいた給仕係のタキシードを着た男に問いかけると、男は恭しい礼をした後に応えた。
「お嬢様でしたら、早々に舞踏会を切り上げてご自室へと」
「なんだと!? 何のための婿選びを兼ねたパーティだと思っている!?」
怒鳴り散らす牛の角の老人を尻目に、鹿の角の老人がため息を吐く。
「……広大な魔界を。もっとも多くの土地を統べる我らがクマク一族の当主が、なんとも」
「まだ、お転婆が治らないのか。あのお嬢様は……!」
奇しくも老人たちは皆、同時にため息をついていた。
豪奢なカーテンが寝室の窓にかけられ、血のように赤い絨毯が敷き詰められた部屋から窓の外を眺める女。
豊かな丸みのある胸元を広げた白いドレスシャツに身体の線をハッキリと浮かび上がらせる黒いレザーパンツを履いた青い髪の美女。
引き締まった手足に胸と尻が大きく丸みを帯びており、陶器のように白い肌を持っている。
その美貌と相まって毒と分かっていながらも、手を出さずには居られない甘い果実のような妖艶な色香。
彼女は、切れ長で美しい青の瞳を憂いげに細めて呟いた。
「ーー退屈ね」
手に持ったワイングラスには赤い液体が入っている。
それはワインと呼ぶにはあまりにも赤い。
魔界の覇権を握るために勢力を拡大していると言う暗黒帝国軍。
魔王ダ―ブラの一族を取り込んだメチカブラの進撃に備えるために、こちらも魔族の中でも有数の権力と土地、魔力と血統を持つ者との見合いをさせられる。
「支配支配……! 誰もかれも、皆ワンパターンでつまらないわ」
液体を口に含み、その甘美な味に微笑む。
彼女の周りには、多くの干からびた骸が倒れていた。
人間ーー魔族に似た見た目をしながらも非力で脆弱、この魔界では魔物の餌になるか。魔族の玩具となるしか選択肢のない哀れな生き物。
搾取され、卑屈に笑いながら死ぬしかない人間という種族を見ていると彼女は愛おしくてたまらなかった。
「人間は支配するのではなく、楽しませてこそでしょうに。快楽に溺れ、絶望に染まるときの彼らの顔とその身体に流れる血は、何よりのご馳走なのだけれどね」
彼女の眼には、また一人。
魔界へと迷い込んだ人間の姿が映っていた。
たまに居るのだ、魔界で畜産されている人間(養食品)と違って扉から運悪く迷い込んでしまう犠牲者(天然物)が。
「……でも、今回の男。ただの餌とは違うみたいね!」
漆黒の髪は左右非対称に跳ね、逞しい肉体の上に白い道着を着た男が一人、魔界の荒野を歩いている。
一歩、一歩。
その歩みに迷いはなく、その瞳に陰りはない。
魔界に満ちた瘴気に当てられ、ものの数分で正気を失うはずの人間。
しかし、彼は明らかに違う。
「何者かしら? イイ男の予感がするわ……!」
何百年ぶりか分からない胸の高鳴りーー予感に従って、クマクの頭首である彼女は妖艶で気品な笑みを浮かべて全身を無数のコウモリに変えてテラスを飛び立って行った。
ーーーー
荒野を巨大な真紅の月が照らす中、白い道着に身を包んだ男が真っ直ぐな目で歩んでいる。
その一歩一歩は力強く、逡巡も迷いもない。
「……!」
男の眼が、微かに細められて立ち止まった。
目の前に、身体の線がハッキリと映るようなタイトなレザーパンツと豊満な胸を露わにした白いドレスシャツを身に付けた青い髪の美女が立っている。
美女は妖艶な笑みを浮かべて男に話しかけた。
「こんな月の綺麗な夜に、何処へ行こうと言うのかしら?」
「……」
真っ直ぐな黒い目で自分を見てくる男に美女は面白そうに笑っている。
魔族に比べればアリのような存在である人間が、その頭首と言われる自分を前に怯えも迷いも、誘惑(チャーム)にかかったような色も見えない。
(なんて……。屈伏させがいのある男かしら)
血のように紅い舌で唇の周りを思わず舐め、瞳を興奮で潤わせる。
「俺はーー俺より強い奴に会いに来た」
男は真っ直ぐに美女の目を見返し、そう告げた。
それだけを告げて男は左手に持っていたザックを手放し、赤いオープンフィンガーグローブを付けた拳を握る。
「……へぇ? それがたとえ、魔界の王を相手にしてもそう言えるのかしら?」
怪しげな美女の笑みだが、瞳は鋭く刃のようにギラついている。
「魔界の王か。この気ーー只者ではないと思っていたが、なるほどな」
これに男は口元を緩ませ静かに燃える炎を黒い瞳に宿して爽やかに微笑む。
コウモリが美女の全身に纏わり、闇夜になびく長い髪の頭と背中に悪魔のような羽が生える。
豊かな胸の開いたレオタード風の衣装を着用し蝙蝠柄で紫色のタイツとヒールを履いた衣装へ変わった。
「……どう? 綺麗でしょ?」
美女は己の戦衣を身に纏うと微笑みかけた後、構えを取った。
「あなたの夢は何? それは私の抱擁よりも素敵なのかしら?」
「……確かめてみろ!!」
白い気を纏って男が叫ぶと同時、美女に向かって踏み込んだ。
ーーーー
パオズ山では、悟空(GT)が悟空に誰も来ない山の空地へと連れてこられた。
そこには、荒野を埋め尽くさんばかりの巨大な大根やトマト、キュウリといった野菜畑が広がっている。
「すっげぇ!」
「へへ、だろ? オラ、コイツ等のおかげで飯ぃ食えてんだ」
そう言う悟空が紹介したのは、畑で作業をしている百人ほどの山吹色の道着を着た同じ背格好の男達。
「いぃ!?」
悟空(GT)の眼が見開かれる。
それは当たり前だ。
燻んだ逆立った金髪に死人のような白い肌、血のような赤い瞳をした彼らの顔は自分にそっくりだったから。
正確にはーー超サイヤ人になった自分に、だ。
「よ、壱悟!」
そのうちの一人に向かって悟空が語り掛けるのを悟空(GT)が呆然と見ている。
壱悟と呼ばれた超サイヤ人の自分にソックリな一団の一人(左胸に「壱」の文字が書かれている)が振り返って声をかけて来た。
「兄さん」
「!? 兄さん!!?」
仰天する悟空(GT)にいたずらな笑みを浮かべて悟空が笑う。
「へへ、紹介すっぜ。未来のオラ! コイツ等は、オラの弟だ!!」
「な、何がどうなってんだ?」
心当たりがまったくない超サイヤ人の自分にそっくりな集団を見て、悟空(GT)は混乱していた。
これに悟空がニッと笑った後、説明を始めた。
その様子を遠巻きに呆れたような半目で見るのは、破壊神ビルスと天使ウイス、そしてバーダックやベジータ達ビルス星での修行参加組だった。
「同じ悟空みたいだが、ウチのよりもまともに見えるね」
「……どうでしょうね? 悟空さんですし」
そんな会話をしている破壊神と天使の言葉を聞いたように悟空(GT)が腕を組んで頭を悩ませる。
「サッパリ分かんねぇ。オラの弟が百人いて、そいつらの正体がクローンっちゅうんか??」
そう言いながら、しばらく悩んだ後、悟空に向かって明るい笑顔を向けた。
「ま、いっか!」
「んだ!」
それに頷き返す悟空を見て、その光景を見ていた全員が音を立ててひっくり返った。
なんやかんや、仲のいい二人に呆れながらウイスが起き上がり皆に向かって言う。
「ハイハイ、それじゃ皆さん。今日も修行ですよ~」
彼の構えた杖から光が生まれて、この場に居る全ての人間を包み込むと、一気に地球から飛んでいった。
地球から何億光年を離れた神の領域。
菱形をしたいびつな星は、破壊神ビルスや予言魚や天使が住む美しい世界。
悟空(GT)は、知らない惑星を見て興味深そうに幼い体で見回している。
「へぇ~? これが破壊神さまの星かぁ」
「ああ。ここでオラ達は修行してんだ。真の超サイヤ人を使いこなして更に上に行くためにな」
その悟空の答えに悟空(GT)が目を鋭く細めた。
「おい、そっちのカカロット。そろそろ、そのふざけた格好から戻してもらったらどうだ?」
「そうだな。ウイス、やれるか?」
ベジータが悟空(GT)に声をかけ、ブロリーがウイスに顔を向ける。
ウイスは微笑むと悟空(GT)に向けて自らの杖をかざした。
「では。早速はじめましょうか」
「……おう!」
悟空(GT)が応えると同時に杖の先端に付いた水晶玉から光が溢れて悟空(GT)の身体に降り注ぐ。
光に当てられた悟空(GT)は、しばらくボーっと眺めていた。
特に変化が無く終わるとウイスが杖をかざすのを止めて、コホンと咳払いする。
「終わりましたよ」
「? 特になんも変わってねぇぞ?」
悟空(GT)の言葉に悟空も首を傾げた後、ウイスを見上げる。
その時、バーダックの眼が鋭く細まった。
「……テメェら、そっちのカカロットから離れとけ」
「え? どういう意味ですか、おじいさん?」
悟飯が問いかけると同時、悟空(GT)の足元から黄金の炎が浮かび上がり、全身へと纏わっていく。
「え? な、なんだ? このパワーは? いってぇ、どうなってるんだ……!?」
悟空(GT)が驚きながら、目を見張る。
いきなり赤が混じった金色のオーラが放たれて、体が一気に大人に変わる。
剥き出しの上半身には赤い猿のような体毛が生え、赤い猿の尻尾が道着の尻から伸びている。
悟空とよく似た山吹色の道着のズボンに青い結び目のない帯を巻いた姿。
裾は青い布で締められ、漆黒の革靴を履いている。
「……! 超サイヤ人4? いや、違う……!!」
悟空が未来の自分の姿に目を見開きながら、口元に笑みを浮かべている。
背中まで伸びた黒髪が、金色の瞳が、黄金の炎に彩られていく。
黒髪は逆立って行き、超サイヤ人の髪型へと戻る。
赤い隈取りをした目の周りは、元通りの肌色へと戻り、赤い猿の体毛が生えた上半身は金色に変わると元の素肌へと縮毛していく。
赤色だった尻尾は、サイヤ人特有の茶色に変わって力強く尻から伸び、黒の瞳孔が開いた金色の瞳は、翡翠色へと変わっていく。
黄金の炎に真紅の光が交わり、更に燃え上がっていく。
気が爆発的に高まっていく。逆立った黒髪は黄金に燃え上がっていく。
「……! うぅぉおおおおぁああああああ!!!!」
黄金の大猿が浮かび上がって雄叫びを上げた時、孫悟空(GT)は真の超サイヤ人へと至っていた。
「……これが、この圧倒的な無限に湧いてくる力が! 真の超サイヤ人だっていうのか!?」
自らを見下ろして、目を見開く悟空(GT)に孫悟空が不敵な笑みを浮かべて目の前に立つ。
「……! もう一人の、俺」
「さあ、始めようぜ。未来のオラ……!」
黄金の炎を身に纏い、孫悟空は真・超サイヤ人へと至り、超サイヤ人ブルーと超サイヤ人4のパワーを一気に引き出してフルパワーとなる。
冷徹な瞳に燃え滾る闘志を宿して悟空は悟空(GT)を見つめる。
「これで、惑星サイヤでの借りを返せるな……!」
「……そうかもな」
その時、ベジータが告げた。
「おい、カカロット! 貴様一人でそっちのカカロットの潜在能力を全て引き出せると思ってやがるのか!?」
「……確かにな。そっちの悟空はフルパワーの悟空に基本戦闘力の時点で匹敵していやがる。そのまま戦ったところで限界まで追い詰めるのは難しいだろうな」
ピッコロがニヤリと牙を剥き出しにして笑う。隣でブロリーが邪悪な笑みを浮かべていた。
「この底知れぬ力。面白い……! 俺たちにもやらせろ、カカロット!!」
明らかに自分達よりも強い相手を前に楽しんでいる戦士達に向かって悟空がクールながらも穏やかな笑みを浮かべて振り返った。
「焦んなよ。俺が倒れてから交代すりゃ、いいじゃねぇか……!」
「……よく言うぜ。オメエ、俺に勝つつもりだろ。もう一人の俺よぉ?」
「まあな……! いくら未来の俺が相手でも、成り立ての真・超サイヤ人に負けるつもりはねぇ!!」
悟空のフルパワーを前に、悟空(GT)は構えを取らずに斜に立っているだけだ。
それだけだと言うのに、不敵な笑みを浮かべる悟空の頬には汗が1つ流れている。これに対峙する悟空(GT)の表情もまた、興奮を抑えつけるように不敵な笑みを浮かべていた。
「行くぞ!!」
「ーー来い!!」
悟空が地を蹴り、一気に悟空(GT)の目の前に移動、目にも映らぬ拳と蹴りを放つ。
その動きにビルスの瞳が静かに細まった。
「悟空の奴、成り立てに本気じゃないか」
「…それぐらい本気でないと、勝てないーーいや、勝負にならないのではありませんかね?」
「それほどだと言うのか、あっちの悟空はーー!」
凄まじい光の波紋が生まれ、轟音と衝撃が一拍子置いて世界に満ちる。
「あの見えない拳を捌いているーーだと!?」
「身勝手の極意ーー? 奴は、身勝手を素のままで使えると言うのか!?」
ベジータが目を見開き、ピッコロが叫ぶ横でビルスも歯をくいしばる。
「信じられん。あっちの悟空は、僕よりも身勝手の極意を完璧に使いこなしているーー! 正に天使の域だ!!」
「素晴らしい〜! 神の気を知らず、天使の修行を受けずして既に神の御業を肉体に浸透させている、どれだけの激戦と修行を積んで来れば、あれ程までに極められるのでしょうねぇ!!」
「たかが、100歳にも満たない人間の分際で。僕でも苦労した身勝手の極意を習得するとは。こっちの悟空が本気になるわけだな」
興奮するウイスの横でビルスも歯をくいしばり、牙を剥いている。
なるほど、強さの桁が違うようだ。
そう理解した破壊神やベジータ達の前で、ひたすらに拳と蹴りを打ちまくる悟空。
リストバンドとズボンの裾が、ささくれ始めている。
「…カカロットの連続攻撃を完璧に捌いてやがる。ターニッブ以上の見切りだ」
バーダックが鋭く目を細める。
「あんなことが出来るのは、リューベくらいのものだったんだがな。身勝手の極意ーー信じられん程に厄介だな」
ピッコロが拳を握り締める。
「…更に真・超サイヤ人は敵の強さに応じてパワーを引き上げる。身勝手の極意は、相手の動きに合わせて身体が動く」
ベジータが腕を組んで睨みつける。
「2つを組み合わせてしまえば、どうなるか。ブラックさんが時の狭間で使ったアレを、あっちの父さんは無理なく使いこなせてしまうーー!!」
そして、悟飯は己と二人の父との力の差を測っていた。
一際高い音を立てて、後方に距離を置いてバックステップし、構える悟空。
対峙する悟空(GT)は、あくまで構えを取らずに仁王立ちしている。
二人の悟空は理解しあったようにニッと同時に笑みを浮かべた。
「…流石だな。技も反応もオメエが上みてえだ。さぁて、どうすっかな?」
「真っ向勝負じゃ、俺を相手にするには分が悪りいぜ? そんな真っ直ぐな攻めじゃ同レベル以上を相手にすっと、すぐに対応されっちまうぞ」
「だよなぁ。だから、意味があんだよーー!」
「………?」
未来の自分からの忠告に嬉しそうに頷いた後、悟空は拳を握り正面に構える。
「なぁ、未来の俺。俺はさ、駆け引きを否定する気はねぇ。むしろ、ピリピリひり付く緊張感がたまらねぇくらいだ。だけどよーー!」
目に浮かぶのは、未来の自分と瓜二つの顔をした白い空手着のサイヤ人。
駆け引きなどとは無縁の、ただただ全力で愚直に放ってくるあの拳。
「アイツの拳を食らっちまったら、ダメなんだ。真っ向勝負じゃねぇと満足できねぇんだよーー!」
握り締めるーー。限界点を超えて、気が更に引き上げられる。対峙する自分と似て非なる孫悟空の様子に、悟空(GT)は黒の瞳孔が開いた翡翠の瞳を細めた。
(パワーが、圧力が、上がってやがる。なんだ、この気迫は……!?)
否応なく、心が滾る。
真っ向勝負を挑んでくる相手に、悟空(GT)は燃えてきた。
抑えが効かないほどに熱い炎が、自分の胸の奥から燃え滾り、黄金の炎を激しく震わせる。
「…オメエを、そこまで首ったけにしちまう野郎が居るのかよ? ちょっと妬けちまうぜ」
「ああ。オメエも、そうなる。孫悟空は、ターニッブに惚れ込んじまうんだ。どんな俺でもなーー!」
確信を持って告げられた言葉に、悟空(GT)の表情が嬉しそうに笑う。
「嬉しくなっちまうじゃねえか。オメエやベジータ達だけじゃねぇ。そんな、とびっきりの野郎まで居るなんてよぉ!?」
「だろ? これで燃えなきゃ嘘だぜ。なぁ、孫悟空」
「ああ、派手にやろうぜ! 孫悟空!!」
悟空の言葉に、闘志に導かれるようにーー悟空GTの炎が臨界点を一気に超えて爆発した。
理不尽とも言える圧倒的な気は、背後に緑色の鱗を持った龍を背負うことで極みへと至る。
その力は、あらゆる歴史、世界、宇宙にまで至るほどの無限のパワー。
「これほどか。面白いじゃないかーー!!」
「天使の域ーーもしかしたら、それすらも上回るかもしれませんね。今の、あちらの悟空さんのパワーは」
ビルスの表情が恐ろしい笑みに変わり、ウイスは冷淡な表情で興奮する己を隠そうと声を出す。
ビルスが、生唾を飲み込む。
瞬間、同時に消える二人の悟空。
真っ向勝負ーー、悟空(GT)は悟空の望みにハッキリと応えていた。
一気に距離を潰し、目の前に迫る相手に向かって拳と蹴りを打ちまくる両者。
圧倒的な力の差は、真・超サイヤ人が、そのレベルにまで一気に引き上げてくれる。
身勝手の極意で反応してもなお、打ち込まれる、打ち込めるスピードとパワー。
悟空の頭の中身は真っ白になり、ただただ楽しそうな笑みを口元に浮かべている。
火の出るような打ち合いを繰り広げ、周囲にいる者たちを圧倒させる迫力。
それでも、二人の悟空のぶつかり合いを獣は、動物は、植物は、生命はーー星は、祝福しているようだった。
ーー全王の間にて。
「すごいすごい、すごいのね、悟空〜!!」
二人の孫悟空のぶつかり合いを水晶で見つめて、全王が興奮に頬を染めて拳を握る。
その様子に微笑んだ後、大神官が二人の孫悟空を見つめる。
「素晴らしい戦いですね。ですが、技のキレと状況判断力を考慮すれば、あちらの上半身が裸の悟空さんの方が一枚も二枚も上手でしょう。天使の域にすら、その技のみで極めている」
「…ですが、大神官どの」
これに全王の付き人である一人が声を上げる。
「ええ、ですが。真・超サイヤ人は、その高みへと至る力です。こちらの悟空さんも、一気に引き上げられている」
「恐ろしい力だというのに、何故でしょうね。もっと見たいと思わせられる。あの強い輝きを」
別の付き人の言葉に頷き、先のターニッブとジレンの時のように全宇宙の破壊神と界王神、天使に映像を見せつける。
「本当に、羨ましいですよ。第七宇宙の方々がーー」
長年にわたり生きてきた大神官の心さえも、真・超サイヤ人は震わせる。
第七宇宙の戦士達は、とことんまで楽しませてくれる。
その事実が、大神官の貼り付けたような笑みを深く深く刻むようなーー本物の笑みに変えていた。
次回も、お楽しみに(´ー`* ))))