フリーザ達は出ませんが、この二人の男を書かずして真・超サイヤ人の話は成りませんので書かせていただきました。
よろしくお願いいたします!!(≧▽≦)
ーーー時の狭間。
そこは果てしなく続く黄昏の空と芝生のような短い緑の雑草が生えた荒野。
道が延々と続いている。
ナメック星人のラシフは、目の前を歩く濃紺色の空手着のサイヤ人を見つめる。
その男の歩みに迷いはなく、前方をただ見据えて歩いていく。
その力強さは、背中越しを通して伝わってくる。
(闇の力と呼ばれる波動を身に纏うサイヤ人は皆、己の命を賭けた死合いを求めてさまよい続けると言う。ならばカタッツが認めたターニッブという漢の欠片であるコイツは?)
目を閉じれば思い浮かぶ。
サイヤの波動の権化。
逆立った黄金の髪の隙間から覗く鬼を思わせるこめかみから小さく生えた紫の角、大猿の尖った耳、鋭い牙、赤い強膜翡翠に黒の瞳孔が浮かんだ瞳を持った化け物。
コンラッブと名乗ったバズニッブの影なるモノ。
(ターニッブと別れた闇が姿を変えたバズニッブ。そのバズニッブから別たれた影なるモノーーコンラッブ。かつて帝王カタッツがライバルとししのぎを削ったサイヤ人はリューベと呼ばれ、拳を極めし者と名乗っていた)
その時、前方を歩くバズニッブから声がかけられた。
「……いつまでついてくるつもりだ? ナメックのツワモノよ」
「フ、お前の選んだ道の行き先が見たくてな。それに、お前から別離(わか)れたコンラッブという超サイヤ人を倒さないと秩序を司るナメックの護人(もりびと)として、ゆっくり寝ていられないんだ」
「……」
「俺は昔、帝王カタッツと鬼神リューベの戦いを見たことがある」
そう告げるとバズニッブが立ち止まってこちらを振り返り目を見つめてくる。
その黒瞳に頷き返しながらラシフは語った。
「闘いは三日三晩続き、どちらも一歩も譲らぬ死闘を繰り広げていた。だが不思議ととてつもない覇気を放ちながら帝王は笑っていた。リューベと言う漢も凄まじい殺気こそ変わらぬが、笑顔だったように思う」
その凄まじい死闘を振り返りながらラシフは笑う。
強さとは極めれば極めるほどに果てしなく、遠く、何処までも続く道のようだと。
高みに至れば至るほどに更なる高みがあり、そこに到達しても更に上がある。
あの二人の闘いは、まさに真の格闘家同士のぶつかり合いであったと。
「ナメックの帝王、サイヤの鬼神。そんな二つ名も役割も無い。ただただ純粋で強烈な力と力、技と技の競い合いを見た。その時の感動はお前にも想像できるだろう? お前もまたリューベを目指しているのなら」
「……お前はナメックの帝王を超えるつもりか」
「そうだ。俺は俺のやり方で帝王を超える力を手に入れる。全てを護るためにな」
バズニッブは身体をラシフに向ける。
ラシフは彫りの深い厳つい顔に皮肉気な笑みを浮かべる。
「お前にとっては、気に入らんだろう。アイツ等のような純粋な強さを求める者たちの戦いを見た上での俺の意見がな」
カタッツやリューベ、ターニッブを利己的だと感じていた。
戦いは手段であって目的ではない。
今も昔もラシフにとっては、そうだった。
ナメックの帝王と呼ばれる男は、誰よりも利己的だ。
あれだけの力を自己研鑽のためにしか使わない。
その力を力なき虐げられた弱者たちの為に振るうことはない。
「はじめはな、帝王カタッツはナメックの星を護る為に留まっているのだと思っていた。多分それはそうなのだろう。だが、例えば俺やメッアがカタッツの域に達したとしてヤツは星を離れて他の星の人々を救いに行くかと言えばそうではない。ナメックの護人として我らが居てなお、ヤツは離れない。何故か?」
「……宿敵(とも)か」
「そうだ……! 約束だ、ナメックで待つという。その為だけに帝王は帝王として、自分に挑む者たちの為にもあの場に君臨している」
自分は、ナメックの護人として立っている。
だが、それでは救えない者も居るだろう。
正義、その言葉の重さを知るラシフは、軽々しく口にはしない。
だがーー救いを求める者が居るのならば己の力を使ってやりたかった。
それは、ラシフと言う漢の芯であった。
「俺は強くなる。カタッツをも上回る強き者となり、多くの無辜の人々を護る。そのためにも俺は強くならなければならない」
ラシフが語った瞬間、バズニッブが拳を握り赤い雷光を拳から噴き上げながら、黄金の炎を全身に纏う。
「……ならば、俺と死合え!!」
「フ……!!」
それ以上の言葉は要らない。
これ以上の語りは要らない。
お互いに、どちらが目標に近づいているのかを知り得るためにも、交わすべきは言葉ではない。
交わすべきは、互いの拳のみ。
「貴様の拳、見せてみろ!!」
「御託はいい、始めよう」
逆立つ黄金の髪、翡翠に黒の瞳孔が浮かんだ瞳、褐色だった肌は透き通るような輝く肌に変わり濃紺の道着の背面には「滅」の一文字が紅く輝く。
同時、ラシフの全身から青みがかった白金の炎が発生する。
互いに踏み込み、拳と拳がぶつかり合う。
衝撃が特異点である時の狭間の大地を割り、何処までも続く地平線と黄昏の空が揺れる。
それが合図だ。
凄まじい拳と拳、蹴りと蹴りが放たれ合う。
バズニッブの右ストレートをラシフは目の前に上げた右腕で横に流し、左の拳をバズニッブの顔に向かって放つ。
ミリ単位での見切りでバズニッブは拳の下に入り込んで交わすとすり足を行って前方に移動しながら左の拳を鳩尾に向かって放つ。
ラシフは上げていた右腕のガードを下げると鳩尾を狙って放たれた拳を受け止める。
強烈な勢いに身体が後ろにずり下がるラシフ。
(油断してると一気に持っていかれる。それほどの一撃だ)
接近したバズニッブの顔に左拳でフックを見舞う。
バズニッブは右腕のガードを顔の横に持ってきて受け止める。
拳が一つ入るほどの隙間しかない両者だが、関係ないとばかりに拳と蹴りを互いに向かって放っていく。
同時に両者の顔が互いの左フックで跳ねあがる。
右ストレートで互いに顔を打ち貫き、後方へのけ反る。
高速移動で立っている場から消え、後方に移動するラシフ。
バズニッブは首をそちらに向けると右拳を叩き込む。
鈍い音と共にラシフの左フックがバズニッブの拳を止めていた。
身長も体格もラシフはバズニッブよりも大きい。
それでも、バズニッブの拳はラシフをして重さを感じさせるものであった。
「レッツバトル!!」
気合い一閃、ラシフが吠えると同時に両腕に金色の光が螺旋を描いて纏わりつく。
姿が映らない高速移動と姿勢をそのままにして駆ける神速の運足法を織り交ぜるバズニッブに音速の拳と気弾を併せて放つ光刃。
「ソニックグレイブ!!」
連続で散弾銃のように放たれる小型の光刃、その間隙を縫うようにしてバズニッブはすり抜けてくる。
ーー 阿修羅閃空
「簡単に見切ってくれる!!」
強烈な右ストレートを放つラシフ、しかし捕らえたバズニッブは影。
本体は、拳をすり抜けて懐に。
「……絶!!」
紫色の波動を拳に纏わせて斜め下から突き上げながらボディとアゴを狙って両足で地面を強く蹴り、跳び上がりながらの一撃が放たれる。
必殺の一撃、昇龍拳。
だがそれよりも速く、バズニッブの顎が跳ね上がった。
「がっ!?」
上空へ弾き飛ばされるバズニッブの前に高速で縦に宙返りしながら蹴りを放つラシフの姿がある。
「サマーソルト!!」
後方へ吹き飛ぶバズニッブへ向かって着地したラシフは金色の気を両腕に纏わせると大きく袈裟懸けに広げて前方で交差し、金色の斬閃を残す。
そして更に両手を水平に広げてから前方にクロスさせて強烈な斬閃を放った。
「ソニックブーム!!」
着地したバズニッブの目の前に強烈な斬撃の気。
「ぬん!!」
両腕を顔の前でクロスさせ、黄金のオーラを全身から放って力を引き上げてから、まともに受け止める。
だがーーバズニッブは後方へはじけ飛んだ。
両腕を後方へ吹き飛ばされながら後ずさるバズニッブにラシフが駆ける。
「勝機……!」
瞬間、バズニッブは左を前に腰を落として左拳を前に右拳を後ろに腰に置いて気を一気に引き上げる。
「滅殺……!!」
一瞬バズニッブの肩から頭にかけて赤い陽炎のような光が放たれ、滅の文字を浮かばせる。
「豪ぉ波動ぉおおおっ!!」
「なにぃ!?」
ダッシュの勢いで突っ込んでいたラシフの眼に強烈な紫と紅の混じった火花を纏う青白い光線が放たれている。
咄嗟に今度はラシフが両腕を顔の前に上げて受けるーーも。
「ぬ…、うぉおおおお!!」
光の奔流に流されて後方へ吹き飛んでいく。
放たれた一撃は地平線を打ち貫いて世界の彼方を駆け抜けていった。
「まだ、立ち上がるのか……!」
視線を脇にやると、強大な一撃で発生した巨大な溝の脇にラシフが両脚を広げて両拳を顎の高さで構えて立っている。
「……滅殺の拳を受け切るとは」
「フフ、とんでもない一撃だ。戦闘の際中に感情に任せるなどプロ失格だが言わせてもらおう。おかげで、火が付いたぜ」
白銀の炎のようなオーラを全身に燃やして一気に突っ込むラシフ。
バズニッブも黄金の炎を身に纏って迎え撃つ。
拳と拳がぶつかり合い、地面が槍衾のように隆起する。
クールに笑みを浮かべて燃えるラシフに対して、翡翠に黒の瞳孔が浮かんだ鬼眼を向けるバズニッブ。
打たれたら即座に打ち返す。
高度なテクニックと駆け引きを繰り広げながら拳を、蹴りを、まともに身体で受けては返す両者。
瞬く間にボロボロになっていく二人。
真・超サイヤ人と究極ナメック星人。
半日以上も殴り合った両者は既に肩で息をし、ふらつく足下を無理やりに奮い立たせている。
大地がへこむほどに強く強く一歩を踏みしめて前に出るバズニッブ。
強烈なパワーと刃のようなキレを持って迎え撃つラシフ。
「昇龍拳!!」
「サマーソルト!!」
互いの必殺の一撃が、互いの顎を打ち貫いて頭上に舞いあげられる両者。
地面の固い感触を背に感じて、二人の意識は闇に包まれていった。
ーーーー数刻後。
仰向けに倒れていたバズニッブが立ち上がる。
自分の眼の前には同じくうつ伏せに倒れ伏しているラシフが居た。
まだ意識を取り戻していないことを理解したバズニッブは、ゆっくりと立ち上がり見下ろして告げた。
「……この力と拳に付いてくるとは。貴様の名ーーこの胸に刻んでおくぞ、ラシフ」
背を向けてバズニッブは道を歩き出す、すると天に向かって伸びる石階段の一つが天から降り注ぐ光によってスポットライトのように浮かび上がる。
それを見てバズニッブは理解する。
その先に居るのだ、己の拳に相応しい強者(ツワモノ)が。
「俺より強い奴はーー出て来たか」
そう呟くと、バズニッブは階段を昇っていく。
特異点と呼ばれる時の狭間から、違う世界へとつながる階段を。
ーーーー第7宇宙地球
孫悟空達名立たるサイヤ人とナメック星人が破壊神ビルスの星で凄まじい修行を繰り広げている中、バズニッブは立っていた。
「……」
周囲を見渡すと木々が生い茂っており、動物が木々の影や木の枝の上からこちらを覗いている。
自分を時の狭間が案内したということは、求める強者がここにいるということ。
だが、辺りにはそのような気配は一切ない。
「グゥオオオオ!!」
猛々しい獣の咆哮を受け、バズニッブがそちらを向くと牛のような角を持った黒い虎のような獣が居た。
鋭い牙を剥き出しにして、こちらを睨みつけている。
「俺と死合うか……?」
淡々と告げながら血のように赤いグローブを着けた拳を握りしめる。
紫のオーラと赤い稲妻を纏いながらバズニッブは、黒瞳を黒い瞳孔が現れた赤いものへと変える。
「……さもなくば、失せろ」
その眼力を前に猛々しい獣は、怯みながらも吼え返す。
バズニッブは、微かに視線を獣の後方へやると怯えながらも吼える小さな子どもの獣たちを見つける。
「フン……」
子どもに気を向けた瞬間、獣は咆哮と共に牙を剥いてバズニッブに襲い掛かる。
ーー昇龍拳!!
瞬間、大地を踏みしめながら跳び上がり、放たれた強烈な一撃。
獣の巨体は空中に舞い、後方へ宙返りしながら地面に叩きつけられた。
一拍子置いてバズニッブが着地する。
白目を剥いて倒れた獣を睨み下ろす赤い瞳。
それを数匹の子どもが震えながら吠える。
倒れ伏した親らしき獣と震えながらも吠える子ども達を睨み、バズニッブは静かに殺意を抑えて黒い瞳へと戻る。
「力が無ければ、何も守れはしない」
そう呟くと背を向ける。
倒れ伏した獣の胸が正常に上下しているのを確認したうえでバズニッブは己の拳を見下ろす。
「強さとは、この力……なのか?」
瞬間、金色の光弾がバズニッブに向かって走った。
その光弾を片手で弾くと目の前に黒い髪を肩まで伸ばしたアイスブルーの瞳をした男が立っていた。
「お前も密猟者の仲間か? 懲りない奴らだ」
「…俺に挑むか、ならば命を賭して来るがいい!!」
ターニッブから別れ鬼の道を征く可能性と孫悟空たちに救われた人造人間の出会いが、そこにあった。
ーーーーーーー
魔界ーー
魔族と呼ばれる上位種達が住まい、人間が奴隷や家畜として生きる世界。
そんな世界に運悪く現れれば本来、魔族クマクの王であるマーヤに食われるはずだった。
だが、白い道着に左右非対称に跳ねた黒髪黒目のサイヤ人の青年ターニッブは魔族の女王を逆に真っ向勝負で下したというのだ。
その情報は、老魔族たちにとって秘匿にしなければならない最重要事項だった。
「なんてことだ! あのお嬢様が人間などに負けたと言うのか!!」
「信じられん!! 人間如きにお嬢様の魔力が劣るだと!?」
使い魔のコウモリ達が嘘を吐くはずがないというのは分かっている。
しかし、先代の王テクマによって分けられた魔力を取り込んでも尚、負けたと言うのだ。
普通の人間でないのは明白だった。
「……それで、お嬢様はその男を連れて何処へ行ったと言うのだ?」
老魔族の一人が呟くように問いかけると、執事の姿をした魔族は狼狽え気味に応えた。
「それが自分を負かした人間に、この広大な魔界を案内すると言って……!」
「……まったく、退屈凌ぎとはいえ。今は魔界の行く末を決める時。人間如きに構っている暇はないはずだが」
ため息をついて頭を抱える老魔族たちであった。
ーーーー
そんな老魔族たちなどのことは興味もないとばかりに鼻歌交じりに青い髪のマーヤと紫の髪のクウマは白い道着に黒髪のサイヤ人ターニッブの前を歩いて魔界の荒野を案内している。
「ほら、ターニッブ。町が見えて来たわ。うまくいけば、あなたが望む強い者がいるかもしれないわよ?」
「面白くなりそうだね、ターニッブ!」
二人の美女からの言葉を受けて静かな黒の瞳を真っ直ぐ前に向ける。
石造りの塀に家、逢魔時のように薄暗い空の下に弱々しい町の明かりが光っている。
寂れた町の様子は、遠くから見てもよく分かる。
ターニッブの瞳には灯りの中に身を潜め、こちらを覗き見る痩せこけた貌の人間達が気配を通して見えていた。
皆が虚げな表情でありながら目をギラつかせてこちらを覗く様は、痩せたハイエナが獲物を狙うかのようだ。
「…フフ、中々楽しそうな町じゃない? 人間達の欲望や絶望が垂れ流しになっている」
「みんな、もっと楽しそうにすればいいのにね♪」
流れる血は、中々に美味そうだと二人の美女は妖艶に無邪気に微笑む。
そんな町の住民を静かに見やりながらターニッブは歩く。
ゆっくりと、町の中に足を踏み入れる。
魔界の障気を跳ね除ける強き肉体、その体躯に満ち溢れるエナジーは静かだが辺りを浄化していく一陣の風。
その様子にマーヤとクウマは笑みを強める。
魔界の障気をモノともしないその姿は、正に威風堂々としていた。
ターニッブの背を身ながらマーヤはクウマに問いかける。
「……どう思う? あの男」
マーヤの問いかけに己の分身であり魔力の一部である女は、にこやかに応える。
「強いよね! 心も体も!! 見たことが無いくらい!!」
「……そうね。先代の魔王スペールの全盛期に挑めるかもしれない程の力」
意味深に笑みを強めてウットリと眺めるマーヤを横から覗いてクウマは告げる。
「魔界ってマーヤのお父さんが統治していたのに、ダ―ブラ一族や暗黒王が余計なことしたせいでぐちゃぐちゃになってるんだよね?」
「興味がないわ。誰が支配者になるか、なんてくだらない話はね」
クウマはマーヤの急激に冷めた表情を見た後、ターニッブの背を見つめる。
「でも、あの人ならーーこの無意味で退屈な日常(こと)を終わらせてくれるかもしれないよ?」
クウマの表情と言葉は、どこか空虚で寂しそうなものであった。
ーーーー
町の中に入れば、ボロ衣を纏った男達が出てくる。
その右手には粗末な農具で使う斧や鎌を持っていた。
「…そこの女ども、良い服を着ているな? おまけに見たことがないくらいにイイ女だ」
一人が、そう宣えば別の男が口を開く。
「男の方は、ボロ衣を纏っているが。いい肉体をしているな?」
「奴隷として使えば問題無さそうだ」
「抵抗しても無駄だ、この町に足を踏み入れたことを後悔しな」
手に持つ鍬や鉈、鎌などは光を反射して輝く。
マーヤが呆れた表情に変わった。
「…たしか、ここの領地はビンゾの管轄ね。人間達を飼うのは良いけれど、教育くらいできないのかしら?」
「フフ、面白いおじさん達♪ あたし達が普通の人間に見えるんだ」
瞬間、二人の美女は黒いレオタード風の服装に身を纏い、コウモリの羽のような飾りを頭に付ける。
人の姿から本来の夢魔の姿へと変身したのだ。
「こ、コイツ等、魔族なのか……!?」
「な、なぜ人間が魔族と行動を共にできるんだ!?」
恐れおののく村人たちに二人の女魔族はニヤリと笑みを浮かべ、片方は舌なめずりを。
もう片方は背中からコウモリの羽を生やして足下から無数の小さなコウモリの影が浮かんだ紅い気を全身に纏う。
「運の無い人たちーー」
「力のないモノは、強者に食われる道理。私たちの血肉となって生きるのね……」
逃げ惑う男達を前に狩りを行おうとする二人を静かにーーしかし、武骨な男が振り向いて黒い瞳でジッと見つめる。
それだけで二人の魔族は止まる。
片方は興醒めしたように、もう片方はニコリと笑みを浮かべて愛想よく笑い返す。
男ーーターニッブは二人の気が散ることを確認すると再び前を向いて歩きだす。
その姿に迷いも惑いもない。
ただ前を見て歩いている。
その視線は、ただ一点のみを見据えている。
村の広間に真紅の月の光をスポットライトのように浴びて一人の男が立っていた。
「ひゃはははあ! 面白れぇえ! テクマ族の女王を人間なんぞの視線で黙らせるなんてよぉ!! やるじゃねぇの、お前!!!」
騒音のような激しい声と共にエレキギターをかき鳴らして、蒼い髪に青い肌の髑髏のような顔をした男が叫んでくる。
強烈な気の嵐を放つ髑髏の顔の男にターニッブは静かに左手に持ったザックの紐を離すとゆっくりと拳を握りしめる。
「久しぶりね、ビンゾ。相も変わらず五月蠅い騒音だこと」
マーヤの言葉にビンゾと呼ばれた骸骨のような顔の男はニヤリと笑みを返した。
空洞のようになった両目から紅い光の点を輝かせて。
「相変わらず綺麗な顔をしているが、音楽に関しちゃ絶望的なセンスだなぁ? 魔界の王女様ぁ!!」
呆れたような表情に変わるマーヤの横でクウマがニコニコと笑顔を浮かべる。
「? なんだぁ、オメエ。マーヤによく似てやがるが、姉妹でも居たってのか?」
骸骨の骨が剥き出た顎を撫でながら赤い目を明滅させてビンゾは訝しげに呟くと、改めてターニッブに向き直った。
「……お、なんだ? 俺とやろうってのか? カラテマン?」
「ああ」
一言だけ告げるとターニッブは構えを取る。
右拳を自分の顎の高さに、左拳を腰の辺りに置いて左脚を前に出して半身の構えを。
「フフン、人間が魔族とやり合おうって? 笑わせるぜ……!」
言うとビンゾは赤黒い気を纏って変身した。
蒼い髪を逆立たせ、青い肌の顔はほぼ骸骨。
腹部は空洞で、肋骨が牙のように突き出ている。
服装は上半身裸で裸足。指先が見えるグローブとイギリス国旗の入ったボロボロのジーンズに、3本の棘の生えた脛当てをつけている。
さらに手の指先の肉が無く、黄色く変色した骨が露出している。
「さぁ、ぶち殺してやるぜ! カラテマン!!」
「……受けて立とう」
応えると同時にターニッブの足元から青い光の渦が現れ、全身に纏わる。
淀んだ魔界の瘴気を浄化していく青い光の風。
「なんだぁ? こいつ、ムンク(武闘派僧侶)なのか……?」
瞳の無い空洞を見開いて訝しむ魔物ビンゾ。
「俺は、神仏に祈りはしない。俺には、この拳だけが全てだ」
瞬間、一気に踏み込むターニッブ。
ビンゾは咄嗟に指の骨を槍のように伸ばして突き出す。
ターニッブの眉間に放たれた一撃は、掠るようにして避けられ踏み込まれる。
「速いじゃねえかぁ! だがよぉ!」
伸ばした右腕の脇に踏み込んできたターニッブに浮き出た黄色のあばら骨を槍として突き出す。
両腕をクロスさせて受けるターニッブ。
後方へ下がるも骨は突き刺さることはなく、気によって硬化された腕は見事に受け切っていた。
「人間の戦い方じゃ、俺には勝てねぇぜ? カラテマン」
「あばら骨を武器にする、か。発想がなかった。これは良い修行になる……!」
「……変わった野郎だ」
少し呆れたような顔に声を上げながらビンゾはエレキギターを取り出す。
そしてニヤリと笑みを浮かべた。
「だが、テメエの魂は美味そうだ!! 気に入ったぜ! せいぜい俺様のノリに遅れんなよ!!」
ギターをかき鳴らしながら跳び上がるビンゾ。
ターニッブも足先に気を集中させて跳び上がる。
拳と蹴りを叩きつけ合う両者。
鍛え抜かれたターニッブの拳と蹴りは鋼よりも固く刃よりも鋭い。
「なんだぁ? こいつ、人間の力じゃねえ!!」
ビンゾが驚愕する程に強烈な拳と蹴りにマーヤがニヤリと笑みを浮かべる。
「当たり前でしょ? そのコは私を相手に勝ったのよ?」
「!! なんだとぉ? てめ、そう言う大事な事は、もっと早く言えよ!!」
間一髪で攻撃を躱しながら叫ぶビンゾに愉快そうにマーヤは言う。
「あら? この私がただの人間を貴方と戦わせると思うの? フフ、倒されて魂を消されないようにね、ビンゾ」
猫が獲物を弄ぶような笑みを浮かべて喜ぶマーヤと、彼女によく似たクウマが天真爛漫に声を上げた。
「頑張って、ゾンビさん!! ターニッブはホントに強いからね!!」
「るせえよ!! だから、もっと早く……!!」
左右の正拳突きからの左後ろ回し蹴りを首を左右に傾けて紙一重で拳を見切り、後方へ高速移動して回し蹴りを目の前で捌きながらビンゾは叫ぼうとして、目の前に蒼い光が凝縮されているのを確認する。
「波動拳!!」
「ちぃ、タルマァアアア!!」
咄嗟に叫びながら自分が抱えるギターに叫ぶと同時、ギターが緑色のスライムのような目玉のある魔物へと変化する。
スライムはビンゾの身体を守る様に半円形で盾となってターニッブの光を受け止めた。
空中で静止しながらターニッブはジッと黒い瞳を爆発の向こうに消えた男へと向けている。
「……流石だな。波動拳を受け切るとは」
煙の向こうからは無傷の状態でビンゾが現れる。
だが、その貌は先程までの無礼で粗野で軽薄なものではない。
邪悪で冷酷で残忍でーー真剣な貌でターニッブを睨みつけていた。
「マジでやってやるぜ。有難く思いな、人間!!」
瞬間、赤黒いオーラを全身に纏ってビンゾが右の手刀を放つーーそれを紙一重で捌こうとするターニッブだが、まともに横顔に入り後方へと仰け反る。
「なに!?」
肘の骨が伸びるのは知っている。
だが、今のは腕のリーチ自体は変わっていなかった。
では、何故ターニッブ程の男が見切りを破られたのか。
(足の位置も腕もリーチは変わっていない。では何処が伸びた!?)
ターニッブの瞳が鋭く細まると同時、ビンゾが一気に仕掛ける。
左ストレート、右裏拳、右のミドルキック。
ターニッブは、その全てを完全に読み見切ったーーはずだった。
だが、まともに左ストレートで顔を跳ね上げられる。
(背骨の胴の部分だけを鞭のように伸ばすことができるのか!?)
気付いた時には遅い、右裏拳で首を吹き飛ばされると右のミドルキックをまともに腹に突き刺さり後方へと吹き飛んでいく。
「! ターニッブ!!」
「うそ、あのおじさん。強くなってる!!」
瞬間、ビンゾがコマのように身体を高速回転しながら両肘の骨を角のように伸ばして迫る。
「ハラワタをぶちまけろやぁあああ!!!」
瞬間、ターニッブも空中で気を纏って制止すると同時に空中で身体をコマのように回転させ始める。
足先に青い光を散らしながら旋風脚を放った。
「真空……竜巻旋風脚!!!」
ぶつかり合う両者の回転、巻き込まれたのはビンゾ。
「なにぃいいい!? 俺様の技よりも速さと勢いで勝るだとぉおお!!?」
青白い光の竜巻と化したターニッブに巻き込まれたビンゾは全身を蹴り手繰られながら天頂高く舞い上げられる。
「……更に、来る!?」
マーヤが叫ぶと同時、竜巻は散りターニッブがビンゾに急接近している。
「……この一撃に、俺の全てを込める!!」
「なめんなぁあああ! 受け切って俺様の、勝ちだぁあああ!!!」
右の拳がボディに放たれるのをビンゾは両腕の骨をクロスさせて剣を交差させるようにして受ける。
「真!!」
衝撃は凄まじいが、両腕が痺れただけだ。
ゾンビの自分ならば、すぐに回復するーーそう思考していた時。
両のガードが自分の頭の上に万歳させられるように跳ね上げられていた。
「な、なんだとぉ!!?」
「昇ぉおお!!」
顎に突き刺さった左拳はビンゾの瞳を大きく輝かせている。
「て、てめええええ!! 人間がぁあああああ!!!!」
「龍ぅうう!! 拳ぇえええん!!!」
天を衝く昇り龍の如く舞い上がり、くるりと回転しながらターニッブは地面に着地する。
同時にビンゾが背中から地面に叩きつけられた。
仰向けに倒れ伏したビンゾを静かに見下ろし、ターニッブは構えをゆっくりと解いた。
「ふぅうう」
息を吐きながら張りつめた気を散らしていく。
それをクウマが見つめながらはしゃいだ。
「YOU WIN!! 流石、ターニッブ♪」
隣でマーヤが目を見開いてターニッブを見ている。
「まさか……、変身せずにビンゾを倒した。あれほどの力を、たかが人間が……!?」
自分を負かした黄金の炎を纏うことなく、その鍛え抜かれた力と技だけで倒した。
この戦士の底の見えない強さに、マーヤをして心から震える何かがあった。
次回もお楽しみに!(^^)!