彼によって追い詰められた惑星の意思は、ジュード王の肉体を得て真・超サイヤ人に変身した。
惑星の意思は、精神体となりベジータの体を乗っ取ろうと襲い掛かった。
それを庇ったサイヤ王・ジュードが肉体を奪われ、真・超サイヤ人と化した。
闘おうとするベジータを止めたのは、ブロリーだった。
ブロリーの言葉にベジータは目を見開く。
「出番は終わりだと? どういうことだ、ブロリー!?」
問いかけるベジータに、ブロリーは静かに真・超サイヤ人になったジュードを見据える。
「怨霊を払うのだろ? ならば倒すのではなく、勝つための拳を打たねばならん」
「…どういう意味だ?」
ブロリーの言葉を理解できず首を傾げるバーダックとは逆に、ベジータは押し黙る。
「わかるのか、王子?」
「……まあな。共に修行したターニッブの拳が必要ってわけか」
ベジータの言葉にブロリーがうなずく。
「奴と同じ拳を貴様は打てるのか?」
「打たねばならんのだろ? サイヤ王を死なせるわけにはいかんからな」
そう言いながら、ブロリーは伝説の超サイヤ人となった己の肉体を見下ろす。
「ターニッブと組んで修行したのは、この俺だ。奴からは動きや波動の練り方を学んだ。別の世界の俺のパワーとターニッブから学んだ拳があれば、サイヤ王に“勝つ”ことができるはずだ」
ごつい岩のような拳を握りしめ、ブロリーはジュードを睨みつけた。
「伝説の超サイヤ人・ブロリーか。果たして貴様にこの死者の都の力を得た俺が倒せるかな?」
言うと真・超サイヤ人となったジュードは、己の肉体に高まる黄金の気を一気に噴き上がらせる。
これに真・超サイヤ人から普通の超サイヤ人に戻り、体を休ませていたベジータが目を鋭く細めた。
「奴め、さっき俺が引き出した力と同等のレベルにジュードを引き上げやがった…! やはり真・超サイヤ人ってのは厄介だな」
これにバーダックが問いかける。
「おい、王子様よ。これだけ戦闘力が高まっちまったら、ぶっ倒すには時間切れしかないんじゃねえのか?」
「…いや、もう一つ方法がある。破壊神ビルスと同じように、力だけを破壊できれば。ターニッブが精神世界で完成させつつあった、あの拳ならできるはずだ」
そう告げるベジータは目をさらに鋭く細める。
「もっとも、ブロリーの奴が使えるかは全くの未知数だがな。一撃必殺の”風の拳”を!!」
思わずバーダックがそれは何だと問おうとするもできなかった。
ベジータが急に背後を振り返り、目を見開いて天を仰いだからだ。
「! この気は破壊神ビルス!? ウイスの野郎、ビルスの手綱を握りきれなかったか!!」
「? どうしたよ、王子」
「バーダック、貴様は一度死者の都を出て闘技場にいるカカロットと合流してくれ」
「話が見えねえな。死者の都の意思をぶっ倒すのが先じゃねえのか?」
問いかけるバーダックにベジータが鋭い目を合わせて告げた。
「よく聞け、今カカロットが足止めをしている奴の名はビルス。この世で最も恐ろしく、最も強い破壊の神だ。奴が死者の都に来れば、俺たちの都合などお構いなしにリューベを狙うはず。そうなったら、ここまでお膳立てしてやったターニッブとリューベの勝負が台無しだ」
「……」
ベジータのただならぬ様子にバーダックも瞳を鋭いものにする。
二人の超サイヤ人は互いの翡翠の瞳を見合う。
「…ターニッブとリューベの因縁の事は聞いちゃあいたが。まさかアンタやカカロット、ブロリーが他人の為にここまでやるとはな」
「甘い、と言いたいか? 戦闘民族に相応しくないと。それならば、それでも構わん。だが、ターニッブやジュード達の抱えているモノをバカにするならば命の保証はせんぞ」
バーダックは静かにベジータを見返した後、両手を胸の前で組んで兄が正気に戻るのを必死で祈るプリカを見る。
ベジータを庇ったが為に惑星の意思という怨念に肉体を奪われたサイヤ王は、真・超サイヤ人になりながらも両目からは血の涙が流れている。
「……うぉおおおお!!!」
それを見たブロリーが己の気を一気に引き上げて、爆発した。
煙の向こうから現れたのは3メートルを越える筋肉の塊の大男ではなく、ブロリーの本来の体型とも言うべき無駄な肉のない引き締まった体の2メートルを越える身長、しなやかな長い手足を持った超サイヤ人へと変化する。
その髪の色は先ほどまでよりも濃い黄金色。
白目だった目には翡翠に黒の瞳孔が現れた瞳があった。
「…そう言えば、貴様も真・超サイヤ人になれるのだったなブロリー。生まれながらにして真に至り、一度は理性をもなくしたほどの才を持つサイヤ人か、面白い。このサイヤ王の肉体が滅びたら、次は貴様の肉体を頂くとするかな」
ジュードや同じ顔のベジットも浮かべなかった邪悪でいやらしい笑みを浮かべた怨霊に、ブロリーが嫌悪の表情に変わる。
「……クズが。お前のような他人の肉体に頼らねばならん雑魚など、興味はない! ジュードを無事に返せば痛い目に遭わずに済んだものを…!!」
血の涙を見据え、ブロリーの気が一気に引き上がる。
バーダックはブロリーの怒りを見て、そして真・超サイヤ人を見て静かに目を細める。
(ブロリーの野郎も王子と同じように戦闘力を引き上げやがった。真・超サイヤ人ってのは、そういう使い方もできるのか)
ブロリーやベジータの真・超サイヤ人は、バーダックのそれのように気が無限に上昇するのではなく、戦闘力を安定させた状態であり、己の意思で力を一気に引き上げることができるようだ。
現に余計な体力の消耗が、先ほど変身していたベジータにはない。
それを見てバーダックはニヤリとする。
「で。どうなんだ? カカロットと合流するのか、しないのか。早く決めやがれ!」
「……いいだろう。破壊神だか何だか知らねえが、俺がぶっ潰してやらぁ!!」
「ば、バカ野郎!! 下手にビルスの機嫌を損ねてみろ、惑星サイヤごと消されるぞ!!」
焦ったベジータの言葉にバーダックは目に険しい光を宿す。
「なんだ? 破壊神ってのは、そんないけ好かねえ野郎なのか?」
「き、急に貴様を行かせるのが不安になってきたぞ」
思わず告げるベジータは、惑星の意思と睨み合うブロリーを見てぼやいた。
「ブロリーの方が、まだマシだったか。俺としたことが、人選をしくじるとは……!!」
惑星の意思がジュードの肉体を操り、一気にブロリーの懐に踏み込むと右の拳をぶつける。
まともに顔を殴られたブロリーは後方へ頭をのけ反らせた。
「……!」
勝ち誇った笑みを浮かべた惑星の意思が固まる。
ブロリーは、仰け反った姿勢のままニヤリと邪悪に笑いながら意思を見返していた。
瞬間、左の拳が惑星の意思の鳩尾に決まる。
「がはぁ!?」
目を見開き、息を吐く惑星の意思に構わず、ブロリーは素早い動きで右の上段回し蹴りを横面に当てて蹴り飛ばした。
長くしなやかな足から繰り出された一撃は強烈で、惑星の意思をはるか後方に吹き飛ばして見せた。
「……」
ブロリーは掲げた右脚を静かに軸足に戻し、立って見据える。
バーダックがコレに目を見張った。
ブロリーの動きに無駄が一切ない。
(野郎…。カカロットやターニッブと修行したせいか? 動きが変わった。前のように力でねじ伏せるだけじゃない。そこに技が組み込まれてやがる)
鋭く目を細めながらバーダックは、彼らに背を向ける。
「……じゃ、行ってくるぜ。王子様よ」
「ああ。カカロットを、頼む…」
その言葉にバーダックは静かに笑みを強くした。
「……クク。ギネや俺以外にも、甘ったるい野郎がいやがったみてぇだな。そういやさっきの質問だがよ、王子」
「……なんだ?」
「俺は、そういうの嫌いじゃねえ」
それだけを告げると、バーダックは自分が宮殿の闘技場に上がった階段に向かって飛んでいった。
バーダックを見送り、ベジータは一言吐き捨てる。
「貴様も甘いだろうが…。カカロットが似ているのか、貴様が似たのかは知らんがな」
プリカが静かにベジータの隣に歩み寄る。
「ベジータ様、どうして。そこまで兄やターニッブのために?」
「下らん質問をするな。俺が戦闘民族サイヤ人の王子・ベジータだからだ」
それだけを告げ、ベジータはブロリーと立ち上がってきた惑星の意思を見据えた。
「なかなか、いい蹴りだ。なるほど、ターニッブから動きを学んだか。ならばーー」
惑星の意思は笑みを浮かべながら言うと同時、ジュードの肉体を使って一気に踏み込んでくる。
体重を乗せた右拳の一撃をブロリーは左手で掴み止めた。
両者の地面に亀裂が走り、黄金の気が噴き上がる。
同時に両者が地を蹴り、目にも映らない高速移動で拳と蹴りを繰り出し合う。
これにプリカは瞳を閉じ、心の眼で二人の動きを追い始めた。
気が絶えず上昇するジュードの真・超サイヤ人に対し、ブロリーは安定した戦闘力のまま戦っている。
ジュードがあるレベルに達すれば自分もそのレベルに戦闘力を引き上げることで、エネルギーの消費を最小限にしているのだ。
「どうやら奴らの動きが見えているようだな、プリカ」
「……はい。私はサイヤの巫女ですから」
「ならば、良く見ておけ。貴様の兄・ジュード王の誇りとブロリーの強さを!!」
「…はい!!」
腕を組んだ状態で告げるベジータにプリカも眦をきりりと吊り上げて見据えた。
強烈な拳と拳をぶつけ合いながら、ジュードの全身から大量の汗が吹き出し始める。
「…チッ、限界がベジットよりも速い! 拳を鍛えているとはいえ、所詮ただの超サイヤ人か!!」
息切れはしていないが、肉体が悲鳴を上げ始めていることに意思は気づいた。
それを淡々と冷徹な翡翠に黒の瞳孔が現れた瞳でブロリーは見据える。
「…馬鹿め。それだけだと思うのか?」
「なんだと?」
意思は問い返した瞬間に、己に違和感が走るのを感じる。
「これは、肉体がうまく動かせぬだと?」
流れる血の涙が更に溢れてくる。
プリカには、その涙が兄であるジュードの必死の抵抗に見えた。
「お兄さま……!!」
惑星の意思は感じている。
不吉な予感を。
このままでは、己が取り込まれる可能性があると。
「おのれ。人間一人の意思に飲み込まれるほどに弱まったというのか……! さっさと決着をつけてくれる!!」
言うと同時、無限に引き上がる力を利用してジュード王が使ったことのない最高の技を構える。
右手を天に左手を地に向けて掌を相手に向け、腰を落として構える。
「あの構えはーー! サイヤ王家に伝わる究極の波動拳!!」
「究極の波動拳だと?」
「先祖代々に伝わってきた禁技・瞬獄殺と対を為す、もう一つの絶技です! 父さまは撃ち方を兄に教えていなかったはずなのに……!!」
ベジータに応えながら、プリカは大技を構えるジュードに目を向ける。
これに惑星の意思が笑って応えた。
「……愚かな。俺は数億年を生きる惑星の意思。貴様等の初代サイヤ王とは数百年に渡って争い続けてきたのだ。もはや、貴様等サイヤ人のすべてを知っていると言っても過言ではない!!」
絶句するプリカを置いて、対峙するブロリーは冷淡に告げた。
「御託は、それで終わりか?」
「吼えたな? ならば、受けてみるが良い!!」
上下に広げた両腕を時計回りに回す。
空気中から青い光の粒子が現れ、ジュードの両手に集められていく。
粒子は光の輪となって回り、上下がジュードが開いた腕を閉じるように手首を合わせて右腰に掌をたわめられる。
圧倒的な光球がジュードの掌に生まれていた。
「こ、こいつは…! カカロットの元気玉と同じように大気中から気を!? そいつを波動拳で撃てるだと!?」
驚くベジータに惑星の意思は笑う。
「無限に気が上がる真・超サイヤ人と無限に気を集められる波動拳。この二つを合わせた究極の一撃。これぞ、最強よ!!」
高笑う意思を前にブロリーも静かに両手を前方に突き出した後、手首を上下に合わせて右腰にたわめる。
「ーーギガンティック・オメガ!!」
強烈な緑色の光の球を創り出し、更に気を練って一気に引き上げる。
「うぉおおお……!! さあ、撃って来い! 此処がお前の死に場所だぁ!!」
「どこまでもフザケた男だ、ならば後ろの仲間共々消えるがよい! 波動ーー至高拳!!!」
両手を前方に突き出して放たれる惑星の意思の極大の青白い波動拳。
対するブロリーも両手を突き出して己の極限の気を放った。
「撃ち抜けぇええええっ!!!」
ブロリーの叫びに応えるように緑色の光線が大きさを増しながら、青白い光線とぶつかり合う。
互いに向かって押し合う両者の必殺技は互角。
いや、ブロリーが押されている。
「ぐ……!!」
「ほう? ただのハッタリではなかったか。だが、残念だったな。セルとかいう化け物の可能性を得た記憶が、俺にこの技の強化方法を教えてくれたぞ」
更にジュードが気を引き上げると同時に、周囲から光の粒子を吸収していく。
互角だった光は、ブロリーを一気に押し返していく。
「さあ、終わりだ!!」
気を高め一気に押し返してくる惑星の意思。
その血を流す目を見据えて、ブロリーが告げた。
「…辛いだろう、ジュードよ。誰かに操られるというのはな」
「……!! なんだ!? 波動が……!!」
語りかけるブロリーの声など静か過ぎて届きはしないのに。
それでもジュードの練っていた波動拳が弱くなる。
「ーー今、楽にしてやろう!!」
瞬間、ブロリーは自分の放った気を一度手放すと左腰に両手を再びたわめて青白い光球を創り出した。
「受けろ、惑星の意思!! これがーー真の波動拳だぁあああああ!!!」
放たれた神々しく輝く青白い光線は、惑星の意思が放った電刃波動拳を打ち砕き、一気にジュードの肉体を飲み込んだ。
「ーーお兄さまぁああああ!!!」
プリカの声が響く中、青白い気柱が天に向かって突き立った。
ーー 馬鹿な。この我が。惑星の意思が、消えるというのか。おのれ、サイヤ人どもめ ーー
恨めしげに響く声。
青白い光が晴れた時、前のめりに倒れたサイヤ王・ジュードの姿があった。
思わずプリカは駆け寄る。
抱き上げた兄は、光の粒子となって消えることはなく、安らかな寝息を立てていた。
「……これは。お兄さま」
ポカンとしたプリカがブロリーを振り返ると、彼は翡翠に黒の瞳孔が現れた瞳で見返し、静かにうなずいた。
「ーーありがとう、ござい、ます……!!」
気丈な巫女が、人前で初めて涙を流した。
そんな美しい女の涙をブロリーが見つめていると、背中を軽く叩かれる。
振り返れば、ベジータが真顔でブロリーに対し親指を突き立てている。
するとブロリーも真顔のまま、ベジータに親指を突き立て返してきた。
二人の超天才のサイヤ人は、同時にニッと口の端を歪めて笑った。
惑星の意思を相手に勝利したブロリー。
其処にターニッブとガーキンも合流する。
互いの無事に喜ぶのも束の間。
ついにターニッブの前に約束を果たそうと鬼が現れる。