彼らは一路、死者の都にて対峙するターニッブとリューベの決着を見んと闘技場の階段を下りていく。
はたして、勝つのはターニッブの風の拳か。
リューベの滅殺の拳か。
夕方のような、朝焼けのような幻想的な空。
地平線の彼方まで続く荒野の真っ只中で、二人の男が対峙する。
青白い雷光と真紅の光がぶつかり合う。
拳と拳、蹴りと蹴りをぶつけ合う両者。
ターニッブよりも一回り体格が大きいリューベは、掌も仁王のように分厚い。
伝説の超サイヤ人の重厚さを持ちながらも、通常の超サイヤ人と変わらない体格。
ターニッブとは、明らかに拳の大きさも一回り違う。
だが、ターニッブは変わらない。
足をどっしりと地面につけ、腰を落として迎え撃つ。
相手が自分より格上のリューベであっても変わらない。
互いに拳をぶつけ合う。
首がのけ反る。
顔が弾かれる。
体が前のめりになる。
それでも互いに退きはしない。
「…全くの互角かよ」
「ああ、ターニッブもリューベも。一歩も退かないな」
ガーキンの言葉にジュードも頷く。
隣のプリカは静かに祈りを捧げている。
彼が無事で居ることを。
ただ、祈っている。
同じように見ていたブロリーとベジータも、互いに語り合う。
「…ベジータ。気付いてるか?」
「ああ。何だ? 奴等は足を止め、殴り合いをしているだけなのに。それが何故、こんなにも俺の心を揺らす」
「…ターニッブとリューベの拳が振るわれる度に俺の心が響くようだ。こんなこと、はじめてだぞ」
互いに信念を拳に纏わせ、殴り合う両者の闘い。
ジュードやガーキンは神妙に目を細め、プリカは目に涙を溜めている。
ベジータにもブロリーにも、訳のわからない感覚が芽生えている。
悲しみ、寂寥。
言葉に現すならば、それが近い。
これほどまでに激しい殴り合いで、何故こうも悲しいという感情が胸を突くのか。
この場に居る者達には、彼らの殴る音。
殴られる音が、慟哭に聞こえてくる。
一撃を喰らえば、一撃を返す。
まるで互いに拳で語り合うかのような、やり取り。
ターニッブの踏み込みからの右ボディブローが、リューベの腹を射抜く。
衝撃に前のめりになるリューベだが、次にターニッブの首が左ストレートを食らってねじ切られる。
「…ハァッ!」
ターニッブの左フックが掛け声と共にリューベの顔にヒットし、仁王のような見事な肉体が揺れる。
リューベの右の膝蹴りがまともにターニッブの顎を蹴り上げた。
顔を跳ね上げられた彼の頭に、膝を伸ばして天から踵が振り下ろされる。
ギリギリでターニッブはバックステップすると同時に体を左にかわして見切り、左足刀蹴りでリューベの顎を蹴り抜く。
後方へ弾き飛ばされるリューベの着地点にターニッブはダッシュして先回りし、天に向かって体をひねって跳び上がりながら拳を突き上げる。
「昇龍拳!!」
しかし、その拳が完全に伸び切る前に、吹き飛ばされたリューベが背を丸めて右足踵を鉈のように浴びせ蹴りで振り下ろす。
「百鬼豪断!!」
「…ぐあ!?」
ターニッブの首を横から刈り、着地すると同時に頭から地面に叩きつける。
皆が悲鳴を上げそうなくらい、完璧な一撃だ。
「…まだだ!」
ターニッブは首の力だけで身を跳ね起こし、右手を前にして左拳を腰に構える。
「…阿修羅閃空」
その目の前に、阿修羅の如き摺り足で一気に距離を詰めて来るリューベ。
「…あの動き。やはり遠目でも捉えられんか」
「なんだ、奴の足捌きは? 見えているのに、実体を捉えられないだと!?」
淡々と言うベジータの横でブロリーが目を見開く。
ベジータのファイナルフラッシュをかわし、悟空と二人がかりで捉えきれなかった運足法ーー阿修羅閃空。
つま先で立ち、小刻みに振動させるようにして地面を滑るように移動する技だ。
「一瞬千撃! うぬに破れるか!!」
目の前に現れた鬼に向かいターニッブも拳を振りかぶって迎え撃つ。
「…瞬獄殺か。受けて立とう!!」
凄まじい打撃音が刹那の拍子に響き渡り、青白い雷が天から落ちて光のドームを作り上げた。
「これは、父がリューベに使った禁技!!」
「忘れもしねえ。瞬獄殺だ!!」
「刹那の拍子にリューベの殺拳が対象を葬り、殺された者は怨霊となって自らが殺された事を認識しないまま拳に宿りて他者を殺す。正に滅殺の拳」
ジュード、ガーキン、プリカの言葉を聞きながらベジータが目を鋭く細める。
「ブロリー、見えるか?」
「お前が見えないのを、俺が見える訳ないだろ」
互いに強くなったというのに、それでも鬼の拳を見切れない。
「…ぐ、う!」
光のドームから、やがてターニッブが全身から血を流し、踏ん張った姿勢のまま足を地面にこすり、後ろに引き下げられるような恰好で出てきた。
「打ち負けたというのか、あのターニッブが!!」
ベジータが拳を握り締めながら叫び、ブロリーが忌々しそうに歯を食いしばる。
「…おのれ。何て技だ…!!」
真っ向から向き合い、迎え撃つターニッブの拳が破られた事に共に修行したベジータとブロリーは信じられない思いだった。
目前にリューベが踏み込んで右拳を放って来るのを右膝で蹴り上げ、蹴り足をそのまま前に踏み込ませながらターニッブは左拳を放つ。
「電刃練気! 風の拳・不滅!!」
左正拳突きが、野太いガードの上に叩きつけられ後方に足を引きずられながら退がるリューベ。
「リューベの肉体をガード越しに吹き飛ばした? ターニッブ、貴方!!」
涙を流したまま、プリカは必死にターニッブだけを見ている。
「ターニッブ、これがお前が見つけた答えか!!」
「あの鬼をガード越しに吹っ飛ばすかよ」
ジュード、ガーキンが先の一撃に目を見張る。
互いに満身創痍でありながら、まるで気迫が衰えない二人の真・超サイヤ人。
ターニッブとリューベ。
互いに静かに見合い、拳を握って同時に踏み込み。
「おぉっ!!」
「ぬんっ!!」
雷鳴が轟くような音を立て、右の中段正拳突きをぶつけ合う両者。
凄まじい緊張感と緊迫感が場を支配する中、新たな気配がベジータとブロリーの下にやってきた。
「来たか、カカロット」
「よう、ベジータ…。ターニッブは?」
見れば真・超サイヤ人になったままの孫悟空が、黒髪になったバーダックと破壊神ビルス、そして付き人のウイスを連れてそこにいた。
「…なんだ、カカロット? 真・超サイヤ人に何故なったままなんだ?」
「万が一に備えてな。悪りいが、ターニッブを死なせるわけにはいかねえ」
ブロリーの問いかけに悟空は、翡翠に黒の瞳孔が現れた瞳ではっきりと告げる。
ベジータがビルスとウイスに向かって一礼した後、悟空に一言だけ告げる。
「…あの闘いを見て、止めれるなら止めてみろ。俺にはできん」
はっきりと拒否を告げるベジータを悟空は訝しげに見た後、ブロリーを見る。
ターニッブを友と呼ぶ彼もまたベジータの意見に同意しているのを示すように、腕を組んでターニッブ達を見ている。
「ブロリー、オメエもか?」
「…カカロット。あの闘いが始まるまでは俺もお前と同じ意見だった。だが、あの二人の闘いを見ればベジータや俺の気持ちが分かるはずだ」
ブロリーにまで否定され、思わず二人を見回す悟空は告げた。
「…ベジータ! ブロリー! ターニッブとリューベの覚悟は俺も知ってる。でも、俺はアイツを死なせたくねえんだ!!」
「…友だからこそ、理解してやらねばならんこともある。たとえ死なせたくなくてもだ。何より、貴様が奴の心を理解できんはずないだろう」
静かに諭すベジータを見返し、悟空は叫ぶ。
「分かってる! 今、俺が言ってんのはアイツの為になんねえことくれえ、理解してるさ!! 勝負に割り込まれんの、望んでねえこともな!!」
「そこまで分かっているなら、我慢しろ!! 貴様だけが辛い訳じゃない!! 俺たちやブロリーより辛い思いをしているジュードやガーキン、プリカが黙って見守ってるんだぞ!! 自分の我儘で奴らの勝負を汚すな!!」
その言葉に悟空は黙って歯を食いしばる。
自分に当てはめれば、ターニッブ達の気持ちが痛いほどに分かる。
分かっている。
悟空は何度も、そういう経験をしてきたのだから。
「…なるほどな。俺はこんな思いをチチや悟飯や悟天、クリリンやヤムチャ達にさせてきたんだな」
「ようやく分かりやがったか、バカめ!」
ベジータの言葉を聞きながら、悟空は静かにターニッブとリューベの闘いを見る。
少し離れたところから、悟空達を見ていたビルスが口を開いた。
「…フン。悟空がターニッブの勝負を止めたがるのは意外だったが、ベジータも良いことを言うじゃないか。ちょっと見直したよ」
「ヤツは惑星ベジータの王子だからな。プライドに関して語らせたら、右に出る者はねえだろ」
バーダックが腕を組んで答えながら息子を見た後、ターニッブ達を見据える。
「…大切な存在とは時に、己の中の信念さえ曲げてしまうこともある。悟空さんはターニッブさんをそれほどまでに大切な友だと思っているのでしょう。もっとも、彼の場合は仲間の命がかかったら、自分のことは棚に上げて手段を選ばないところもありますけどね」
「我儘なヤツだねぇ〜、ホントに」
「…ええ、貴方にソックリ」
失笑気味に言われ、ビルスの表情が歪んだ。
ターニッブとリューベは互いに右の正拳をぶつけ合ったまま、一歩も退かない。
同時に目を見開いて拳を引き、ターニッブは両手を左腰に置いて膝を曲げてたわめ、リューベは左右の腰に拳を置いて腰だめに構える。
ターニッブは青い雷の球が。
リューベには紫の雷の球が出来上がり、同時に両手を前に突き出して放つ。
「電刃ーー波動ぉお拳!! セイヤァ!!!」
「滅っ殺ぁつ!! ぬおりゃぁあああ!!!」
青い光の波動と紫の光の波動が、至近距離でぶつかり合い爆発した。
強烈な衝撃波が風となり、光のドームを作る。
ビルスが鋭く目を細め、ウイスも真剣な表情になって二人の闘いを見ている。
真・超サイヤ人の悟空もポーカーフェイスだった瞳を見開き、拳を握り締めている。
「…何て威力だ。凄ぇ。凄ぇぜ、ターニッブも。リューベも! こんな勝負をしてたんか!!」
「邪魔をするなと言った意味が分かったか? この勝負は見届けねばならん」
隣に並び立ち告げてくるベジータに頷くと、悟空の逆立った黄金の髪と眉が漆黒に変わる。
逆立った髪は下り、黒髪黒目の一般的なサイヤ人へと悟空は戻った。
「すまねえ、ベジータ。オラが間違ってた」
「…ターニッブを信じろ」
「…ああ、分かった!」
並び立つ二人の横にブロリーも立つ。
三人は真剣な表情で、爆心地から煙を上げながら現れる二人の真・超サイヤ人を見ている。
二つの波動が相殺し、再び始まる乱打戦。
リューベの拳がターニッブの頬を捉えて顔を吹き飛ばし。
ターニッブの拳がリューベの腹を打ち貫いて前のめりにさせ。
互いに空中に跳んで回転しながらの旋風脚を放って反対方向にふっ飛ばされる。
血が飛び散り、両者の放つ波動の光が宝石のようにキラキラと辺りを照らす。
「…何という。心にこれほどまでに訴えてくる戦いは、この私をしてもはじめてですよ」
「悟空には、ああ言ったが。やっぱり惜しいね。コイツ等の内どちらかとは二度と闘えなくなるんだからさ」
ウイスとビルスの会話を聞いて、戦いに見とれていたバーダックが鋭い黒瞳を二人に向ける。
「そいつぁ、どういう意味だ?」
「…直に分かるよ。後、一撃で勝負がつく。見ておきなさい、どちらが勝つかーー。僕も興味がある」
ビルスの言葉にバーダックは目を細めた後、闘う二人を見据える。
リューベは、空から着地すると同時にこちらに対峙するターニッブに向かって告げた。
「…見事。我が殺意、滅殺の拳にうぬの拳が並び立つか! 天晴れだ!!」
鬼の掛け値ない賞賛の言葉を聞き、険しい表情で闘いを見守っていたジュードとガーキン、プリカの表情が変わる。
「初代サイヤ王リューベ。父や悟空達の言うとおり。貴方は、人の心を捨てていなかったのか」
「…ターニッブを選んだのは、アンタと似て違う道をアイツが選んだからか?」
「…選ばせた、そういうの? だから、誤ちを知りながら殺意の拳を完成させたの? リューベ」
三人の惑星サイヤのサイヤ人は複雑な心境のままリューベを、そしてターニッブを見る。
ターニッブは静かに拳を握り、告げた。
「…この拳は、俺一人で作り上げたものではない。掛け替えのない出会いを重ねて得たものだ。貴方のように」
「ならば、超えよ! 我が拳を!! 今こそ、我はうぬに問う!!」
気合いを入れ、激しいオーラを纏いリューベが叫ぶ。
ターニッブも静かに拳を構え、目を細める。
「天(神)に向かって拳を突き上げる昇龍の拳。ならば天より降り落ちて地を砕く、この拳を何とする!?」
「………!!」
この場にいる誰もが見入る。
リューベの最強の一撃が、ターニッブに向かって放たれようとしている。
その一撃は、生半可なガードなど無意味。
その迫力に。
気合いに。
ベジータとブロリー、悟空が目を見開く。
「…リューベのヤツめ。まだ、こんな技を!!」
「あの、化け物め! ……いや、奴こそ鬼神だ」
「ターニッブ!! オメエがこの十数年で鍛え上げた拳を! そいつを作り上げるために出会った想いの力の全てを、リューベに見してやれぇえええええ!!!」
悟空の叫び声が響く中、リューベが己の気を爆発させた。
「ーー覚悟は良いか!!」
瞬間、リューベの肉体は乱反射するかのように構えたまま、左右三人に別れて姿を消す。
悟空がこれに目を見開いた。
「消えた!? オラにも感じられねぇ、リューベの気が!!」
「くそったれ、奴の動きが捉えられんだと!?」
「…ターニッブ、頼む! 勝ってくれ、友よ!!」
三人の惑星ベジータの友が、ターニッブを見る。
「ターニッブ。父がリューベを倒す者としてお前を選んだとき、俺はお前に嫉妬した。だが今は、お前を嫉妬した過去の俺を恥じている」
「間違いなくリューベの最大、最強の一撃だ。勝てよ、ターニッブ!!!」
「父様、歴代サイヤの王達よ。どうか、ターニッブに……!!」
三人の惑星サイヤの家族が、ターニッブを見つめる。
「どうなってやがる! 野郎の気配が完全に消えたぞ!!」
「…ビルス様!!」
「上かぁ!!!」
バーダックが左右を見渡す中、ウイスが閉じていた瞳を開けて、同時にビルスもターニッブの頭上を見る。
そこに強烈な黄金の光を纏った鬼が右手を頭上に掲げて現れ、手刀が振り下ろされる。
正に閃光の如き速さで降り注ぎ、強烈な衝撃波を放ちながら落雷と化したリューベはターニッブに降り注いだ。
悟空やベジータ達をして爆発した瞬間しか見えなかった。
誰もが口を開け、目を見開いて呆然とその一撃の行方を見るしかない。
もし、ターニッブ以外の者が闘っていたら。
先の一撃に反応することできずにまともに喰らい、命を散らせていただろう。
ビルスの頬に伝う汗が、雄弁にそのことを物語っている。
巻き上がった土煙が晴れていく。
そこには、右の手刀を振り下ろしたリューベが宙に浮いた姿勢で止まっている。
「ああ、タァアアーニッブゥウウウ!!!」
プリカが恥も外聞もなく、大きく彼の名を叫ぶ。
振り下ろされたリューベの手刀はターニッブの首の付け根に触れる寸前で止まり、ターニッブの右の拳がリューベの鳩尾を打ち貫いていた。
掠っただけのターニッブの額からは、真新しい血が流れ出ている。
その奥に、光輝く翡翠に黒の瞳孔が現れた瞳で、ターニッブはリューベを見据えて左の拳を硬く握る。
腹を打ち貫かれて尚、リューベは静かに燃えるような言葉を淡々とターニッブに告げる。
「ーー見事。天より注ぎし禊の一撃をこうも見事に…! よくぞ破った、ターニッブ!!」
ターニッブが目を見開き、気合いの声を上げながら黄金のオーラを激しく燃やし、左の拳を突き上げながら天に向かって跳躍する。
「ーー“真・昇龍拳!!”ーー」
リューベの正中線をなぞるように、真っ直ぐに突き上げられる拳の一撃。
天高く舞う昇龍の一撃は、鬼の顎をまともに捉えて空へ運ぶと、そのまま青い波動が体内で荒れ狂う。
鬼の肉体は空中で光に包まれて、爆発しながら後方へ弾き飛ばされ、地面に背中から叩きつけられた。
一瞬遅く、ターニッブがくるりと反転しながら着地して静かに構える。
悟空が思わず目を見開いたまま、つぶやいていた。
「な、何てヤツだ…! あんなとんでもねえリューベの一撃に、真っ向から拳を打ち返しやがった…!!」
「それだけじゃない…! あの気配が全く読めない一撃を相手にして、カウンターを取るだと!?」
「…く、クハハハハ! さすがだ、ターニッブ!! それでこそ、俺の友だ!!!」
隣でベジータとブロリーが思わずと言った具合に次々と己の心を口にする。
悟空は黄金のオーラを纏って雄々しく仁王立ちしている超サイヤ人・ターニッブを見据えて笑った。
「呆れるくれぇ、大したヤツだぜ。やっぱオメエ凄ぇよ、ターニッブ!!」
静かにターニッブは立ち上がって来たリューベを見据える。
身に纏っていた真・超サイヤ人のオーラが消え、リューベは瞳孔の消えた翡翠の瞳で静かにターニッブを見据えている。
「リューベ…! 俺は…」
語り掛けようとしてターニッブは目を見開く。
リューベの肉体が、徐々に先の惑星の意思のように崩壊を始めたのだ。
「な!? これはーー!!」
「どういうことなんだ、プリカ様!!」
「…おそらく、リューベの殺めてきた怨霊が。真・超サイヤ人でなくなったリューベの肉体をも喰らおうとしているのです」
その言葉に皆が目を見開く。
ウイスがプリカの言葉を継ぐように告げた。
「リューベは死者の都の意志ーー惑星の意思と闘う為に人間としての生を捨て肉体を作り変えた。リューベとしての人の意志を持ったまま。殺めた怨霊に取り込まれずにいる条件は真・超サイヤ人で在り続けること。サイヤの民を護るためとは言え、なんと業の深い拳でしょう…」
「サイヤ王を殺めたのも人間の魂を喰らわねば、人の姿を保っていられなくなるから、か…」
破壊神ビルスも静かな瞳でリューベを見据えている。
ジュード王とガーキンが思わず叫んだ。
「決着を急げ、ターニッブ!!」
「リューベが格闘家で居られる時間は、もうないぞ!!」
崩壊の始まったリューベを格闘家として倒すには、もう時間がない。
この闘いに決着をつけられるのは、ターニッブの拳だけだ。
だがーー。
「…俺達の戦いは、始まれば必ずどちらかの命が絶たれる。これは、そういう闘いだと。それは、分かっていた」
ターニッブは翡翠に黒の瞳孔が現れた瞳をリューベに向けると、その目から涙を流していた。
「だけど、終わりにしたくない…!! 貴方と、まだ闘っていたい! また闘いたい!! そう思う…!!!」
顔が崩壊し、既に左しかない目で、リューベは静かに泣いているターニッブを見据える。
既に着ている濃紺の道着も、褐色の肌の肉体と天を突く金色の髪も真っ白に染まり、翡翠の瞳も徐々に色を失くし始めている。
「ターニッブ! もう、もうリューベは闘えません!! これ以上はーーーー!!」
「バカやろう! どこまで甘い男なんだよ、ターニッブ!! リューベは、もう!!」
プリカとガーキンの言葉を遮り、悟空が微笑みながらターニッブに向かって顔を向けたまま言った。
「ーーいいじゃねえか、ガーキン。ターニッブは甘めぇ。それでよ!」
「そうだ。だからこそ、リューベとは違う道を歩めるのだ!」
悟空の言葉にベジータも頷いて、ターニッブを見ながら告げる。
「悟空。ベジータ」
これを惑星サイヤのサイヤ人達は呆然と見た後、対峙する二人の男を見据える。
静かにビルスがため息を吐いた。
「…ビルス様?」
「残念だ。リューベとは、良い友(強敵)になれる予感があった…」
「…そうですね。彼の肉体は、因果律を破壊したところで」
「ああ…。そこまで覚悟していたんだろう。残念だ…」
まるで黙祷を捧げるように、ビルスは瞳を閉じてリューベに顔を向けた。
リューベは静かにターニッブに語り掛けた。
「うぬが拳を見よ」
「……!」
ターニッブは自らの拳を見据える。
リューベはそのまま続けた。
「子を育てよーー! うぬが拳を継ぎ、絶やすことなき子をーー! その子が新たな子を育て、いずれは血塗られし我らサイヤの歴史を変える!!!」
「リューベ…!!」
「うぬが拳に生き、拳を振るう限り、種は相手の心に生まれ育つ。まこと、種を運び先(未来)に繋げし風の如き拳なり!!」
拳を握り締め、ターニッブは流れる涙をそのままにして、真っ直ぐにリューベの目を見据える。
リューベは静かに半壊する肉体を動かし、正拳中段突きの構えを取る。
「ーーいくぞ!!」
ターニッブも即座に同じ構えを持って相手の至近距離に立ち、応えた。
「応っ!!」
半壊する肉体を動かし、リューベは最後の正拳突きをターニッブの頬に向かって放った。
ーー 滅殺!! ーー
まともに顔で受け、首をのけ反らせるターニッブ。
その痛みを忘れないために。
その一撃の重みを忘れないために。
その想いを心に刻むために。
そして、万感の想いを込めてターニッブは左拳に満ちた青き風の波動をリューベの顔に向かって放った。
ーー 風の拳・不滅!! ーー
当たった瞬間、青い光の粒子が放たれ、崩壊するリューベの肉体を穏やかな波動が包み込む。
これにビルスが目を見開いた。
「なんだと!? 肉体を食らう怨霊の気を払った!!?」
「…これは、素晴らしい。まさに神武不殺の拳ーー! 破壊の力ではなく、相手を僅かに上回らんとする必殺の意志を感じますね」
「もはや、間違いない。リューベが鬼神ならば、ターニッブは武神。ーー見事だ!!」
ウイスとビルスをして感嘆するほどに美しい一撃だった。
手放しで褒めるビルスをウイスは微笑みながら見た後、二人の神の域に至りし超サイヤ人を向いて目を細める。
青白い超サイヤ人ブルーのような気が人型となって、崩壊するリューベの肉体を象る。
彼はそのまま、笑ってターニッブ達から背を向けた。
「我らの、なんと不器用なことよーー。さらばだ、ターニッブ」
ターニッブは静かに見送る。
流れた涙は乾き、口元には穏やかな笑みが浮かんでいる。
ーー いずれ、うぬの“子”とも闘いたいものよ ーー
死者の都ーー果てなき荒野を青き気炎の人型となったリューベは真っ直ぐに突き進んで行った。
それを見送り、ターニッブは穏やかな笑みを浮かべたまま告げる。
「さらばだ、リューベ。俺が超えるべき真の格闘家の象徴。“拳を極めし者”よ」
消えゆく背を見送ることをやめ、ターニッブは仲間たちに振り返るとゆっくりと真・超サイヤ人から黒髪黒目の通常のサイヤ人の状態に戻り、駆け寄ってくる彼らの下へ一歩踏み出したーー。
破壊神にまで、認められた強き鬼は逝った。
残されたのは、彼の意志を継ぎ。
世代を越えて拳をふるうことを約束したサイヤの青年。
彼を祝福するサイヤ人たちに、惑星の意思は最後の抵抗を試みる。
次回、最終回です!(^^)!
お楽しみに ^^) _旦~~