ドラゴンボールZ 真・超サイヤ人   作:カンナム

31 / 116
とりあえず惑星ジュエルのターニッブの旅路の話を一旦終わらせます。

もう一人の黒いターニッブの方は、出来上がり次第上げていきたいと思っています。!(^^)!




エピソード・オブ・ターニッブ 魔族

 とある惑星にて。

 

 白い道着に身を包み、指の開いた赤いグローブを両手につけ、ザックを肩に引っさげた若い男が黒いブーツで地面を踏みしめて歩いていた。

 

 男は左右に飛び跳ねた独特な髪型をしており、黒い目は静かに前を向いている。

 口元は固く引き結ばれ、如何なる風や雨も彼の歩みを妨げることはできない。

 

 彼は今、鬱蒼と木々が生い茂るジャングルを何の障害もなく淡々と歩いている。

 

 空を見上げれば、自分の居た惑星サイヤでは見たことのない幻想的なオーロラが幾重も発生している。

 

 ふと、彼の歩みが巨木の音を踏みしめて止まった。

 

「……人の声、か」

 

 一人呟くと、青年はそちらに向けて歩を進めた。

 

 彼の名は、サイヤ人・ターニッブ。

 

 強い相手を追い求めて様々な惑星を旅する、流浪の格闘家であった。

 

ーーーー

 

 腰まで伸ばした紅い髪。

 

 きめ細やかな褐色の肌に、健康的なへそを出した服装は露出が高い。

 

 豊かな乳房を布切れを背中に結んで隠し、ショートスカートに足にフィットするサンダルブーツと言った動きやすそうな出で立ちの美女が、数人の男達に捕らえられていた。

 

「……く、アンタ達なんかに負けるなんて!」

 

 勝気そうな紅い瞳で美女は、ツノの生えた紅い肌口から牙の生えた筋骨隆々な五人の男達を見据える。

 

 彼らは上半身に甲冑を着て腰に布を巻き、黒の短パンを履いて両足は裸足でいる。

 

 一際体の大きいリーダー格の男が、右手に持った金と宝石で出来た首飾りを掲げて笑う。

 

「…残念だったな、宝は俺たちが先に貰ったぜ。さあて、これからお楽しみの時間だ」

 

 下卑た笑いを漏らしながら近づいて来る男達に、美女は形の良い眉根を悔しそうに寄せる。

 

「こ、こんな奴らなんかに…」

 

 背後から腕を組み敷かれ、動けない美女の豊かな胸にリーダー格の男が手を伸ばす。

 

「…たっぷり可愛がってやる。こんなイイ女は久しぶりだからなぁ」

 

 口元からヨダレを垂らしながら、笑う男。

 

 嫌悪感から目を瞑り顔を背ける美女だが、捕まえられている為に大した抵抗はできない。

 

(こ、このままじゃ…)

 

 歯噛みする表情、身悶えする度に揺れる乳房は、男達の劣情を駆り立てる。

 

「…勝負は着いた、そのくらいにしておくんだ」

 

場にそぐわぬほどに淡々として落ち着いた声が辺りに響いた。

 

 男達と美女が振り返って見つめた先には、黒のノースリーブシャツの上に袖が肩口で破けた白い道着を黒帯で締め、黒のブーツを履いた独特な髪型をした黒髪黒目の青年がいた。

 

「誰だ、テメエこの辺りじゃ見ない顔だな」

 

 リーダー格の男の問いかけに、淡々とした表情で青年は応える。

 

「…俺の名はターニッブ。その娘を放してやれ」

 

「なんだ、テメエこの辺りじゃ有名な冒険者の俺を。このターコイ様一味を知らねえってのかぁ 」

 

 相手が一人であること。

 

 身体を見る限り鍛えてはいるが、中肉中背の域を出ない体格であること。

 

 そして、薄衣を纏ってるだけで碌な甲冑を着ておらず武器もない男に、ターコイはバカにした笑いを向ける。

 

「テメエもこの女を抱きたいなら順番待ちだ。先に俺たちが相手してたんだからなぁ」

 

「文句があんなら、言ってみろよぉ。殺されたいならな」

 

「俺たちに逆らうバカが、この惑星にまだ居るなんてなぁ」

 

 美女は静かにターニッブを見つめる。

 

 確かに並の村人よりかは強そうだが、多勢に無勢だ。

 

 残念ながら逃げられないか、とため息を吐く。

 

(…簡単なお宝探しをして、名前とお小遣いをコツコツと上げて。お金持ちの男に見初められて。玉の輿に乗って好き勝手にするつもりだったのに。なんで、こんな野蛮な奴らか、野暮ったい道着の奴しかいないのよ)

 

 その時、大爆笑する彼らをターニッブは静かに見つめた後、スッと無造作に踏み込むと、美女の体を拘束する男の懐に入り、手首を掴む。

 

「…ぐ、あ」

 

 あまりの痛みに呻き声を上げるしか出来ず、硬直する男の腕を軽く解かせ、美女を開放する。

 

「…すまないな、無理を聞いてもらって」

 

 淡々と告げながら、礼を言って来るターニッブに男が青褪めた顔のまま、呆然としている。

 

「情けねえ、何やってんだ」

 

 仲間内の誰かが青褪めた顔の男に叫ぶ。

 

「動けるな? 早く逃げろ」

 

 美女を後ろにやって庇いながら、ターニッブは静かに前に出た。

 

「ターコイと言ったな彼女は帰してやれ」

 

「…ふん。生意気な人間だ。どうしても欲しいなら腕尽くにしろ」

 

 ニヤリと残忍に笑う男達に向かって、ターニッブは静かに拳を握る。

 

「…挑まれたからには仕方ない。俺も格闘家の端くれ。この拳、確かめてみろ!」

 

 そう言って構えようとするターニッブの背後から、庇っていた美女が拳大くらいの黒い球を投げてきた。

 

「鼻と口を塞いで離れて」

 

 声と同時に、ターニッブが弾かれるように後方へバックステップする。

 

 球は地面に当たると煙を吐き出して、男達の目を防ぎ煙を吸って咳込んでいる。

 

「…ゲホ、なんだ煙球か?」

 

「チキショウ、女を逃がすな」

 

「あのアマ、やりやがった!! 宝を盗られたぞ!!」

 

 煙の向こうから騒ぎ立てる連中を無視して、美女はターニッブの正面に来ると可愛くウインクした。

 

「コレで貸し借りなしね、格闘家さん」

 

 屈託のない笑顔にターニッブも爽やかな笑顔を浮かべて返した。

 

「…ありがとう。助かった」

 

 共に逃げながら、素直に頭を下げるターニッブを見て美女は何処か拍子抜けする。

 

(さっきのターコイの手下をビビらせたのって、マグレ?)

 

 五人を相手に、しかも戦い慣れた冒険者を前にアレだけの度胸を見せたのだから、腕も相当なものだろうと考えていたからだ。

 

 ある程度離れてから、足を止めるとターニッブに美女は向き合う。

 

 細くスラリとした人差し指をターニッブの逞しい胸板に突きつけながら、美女は気の強そうな顔で告げた。

 

「助けてもらってなんだけど。命は大事にしなさいよあんな連中は人殺しなんて何とも思ってないんだから!」

 

「…ああ。君には本当に助けられたよ」

 

 悪びれもせずに穏やかな笑顔で静かに返すターニッブをジッと美女は見つめる。

 

「……?」

 

 首を傾げるターニッブに美女は真っ直ぐに彼の黒い目を見つめながら問いかけた。

 

「あなた、名前は?」

 

「……ターニッブだ」

 

「私、ルビー。誇り高き女傑族カーマの血を引いているトレジャーハンターよ」

 

 ウインクしながら、先の遺跡でターコイが手に入れていた首飾りを掲げて笑うルビー。

 

 先のどさくさに紛れて盗んだようだ。

 

 トレジャーハンターと言う言葉に首をかしげるターニッブを見て、ルビーは呆れた顔になる。

 

「あなた、何処の田舎の出身なの? カーマ族は、この惑星ジュエルだと結構有名な戦士の一族なのよ」

 

「…すまない。戦士の一族、か。光栄だな。良ければ、冒険者とは何か教えてもらえないか?」

 

 殊勝な態度のターニッブに気をよくしたのか、ルビーはどこか、ノリノリで応えた。

 

「仕方ないわね。助けてもらったお礼に、特別にタダで教えてあげるわ。本来なら女の素性を聞くんだから、お金もらうわよ冒険者はギルドって言う冒険者協会施設から様々な依頼を受けるの。冒険を通して富や名声を得ようとする賞金稼ぎや海賊、空賊、傭兵のことを一括して冒険者よ。私達は、命の危険のある依頼仕事、廃坑や廃墟の探索、兇暴なモンスターの討伐などを行う事で莫大な富や名声を築くことができるのよ。もちろん、決まり事を互いに守りながらね」

 

「では、先ほどの連中は?」

 

「奴らは、この星でそこそこ有名なゴーマン一味。乱暴で粗雑、ケンカっぱやくて好色な嫌われ者の集団だけど、腕は確かなのよね」

 

 ルビーは疲れたような溜め息を吐くと、続ける。

 

「小銭稼ぎに遺跡探索してたんだけどさ。あいつらと鉢合わせちゃって。売り言葉に買い言葉で、どちらが先に宝物を見つけるかの競争してたのよ。負けたら何でも言うことを聞いてやるって言っちゃったから」

 

「それは迂闊だったな」

 

「そうだけどさ、まさかゴーマンに宝探しの実力があるとは思えなかったのよ。確かにあいつらは実力は高いけど、宝探しとかはサッパリなんだから。専ら、用心棒とか強盗紛いな事して、名を上げてるの」

 

「…というと、奴らは他に依頼を受けているのか」

 

 問いかけるターニッブに、ルビーは少しだけ憂鬱そうな顔をしてみせた。

 

「多分、このジャングルの奥に集落があるんだけど。最近魔族と名乗る連中に襲われてるらしいのよ。だからーー」

 

「…その村の用心棒として雇われている、か」

 

「集落には私達みたいな女系一族が居るの。基本的に女しか生まれないから、多種族の男とまぐわって子を成す種族がね。一部を除いて非力なものよ」

 

 ターニッブは静かに拳を握ると、集落があるという方向を見据える。

 

「…強いのか、その魔族というのは?」

「相当なものらしいわ。ギルドの討伐クエストに選ばれてたけど何人もの冒険者を返り討ちにしてるらしい。噂だけど、魔王の一族らしいのよね。人間の魂を食いに、わざわざ魔界から来たって噂よ」

 

 ターニッブはそれだけを聞くと、静かに足を集落の方向に向けて進め始めた。

 

「ちょっと、話を聞いてたの? 女だらけの集落だからって、女を抱きたいならケチらずにお金払って他に行った方がいいわよ」

 

「…俺が知りたいのは、どれだけ強い奴がそこに居るのか。それだけだ」

 

「ターコイ一味から逃げるほど弱いくせに、何言ってんのよ。ちょっと、待ちなさいよ!」

 

 スタスタと歩くターニッブを何故かルビーは追いかけてくる。

 

(私、何をしてんのよ。こんな金も何もなさそうな男の後を追わずに、さっきの遺跡でお宝を手に入れないと)

 

 そんな心の声を体は無視して、ターニッブの背についていく。

 

 何故か、その背中を見るだけで。

 

 温かで安心させられるような気持ちが胸の奥から湧いてくるのだ。

 

(…熱でもあるのかな、私)

 

 ターニッブの背を追いかけながら、豊かな胸の奥で高鳴る鼓動にルビーは自問自答していた。

 

ーーーー

 

 ジャングルの奥にある平野。

 

 まるで森を天然の要塞に見立てたような奥地で、藁と木で作られた集落があった。

 

 皆が人形のように美しいが、個性のない似た顔立ちをしている。

 

 腰まで伸ばされた緑の髪、切れ長の美しい青目。

 

 透き通るように白い肌色。

 

「……ここが、噂の集落か」

 

「そうよ。セルリアン族と呼ばれてるキザでいけ好かない連中がいるわ」

 

 瞳を細めて嫌そうな顔をするルビーに、ターニッブは首をかしげる。

 

「カーマ族とセルリアン族は、仲悪いのよ。私達は砂漠に住む火の一族。あいつらは森に住む水の一族って訳」

 

「…そんなに相性が悪いのに、ついて来て良かったのか?」

 

「ケンカ売られやしないでしょ。ま、売られても私は冒険者だしね。そこいらのカーマ族の娘よりはーー」

 

 胸を張って告げるルビーに、透き通るように美しい声がかけられる。

 

「…よく言うわね。遺跡を狙って名前を売るコソ泥のルビー」

 

 見れば金色の甲冑で胸の上部分を隠し、ヘソを出したビキニタイプのパンツを履き、腰に細剣を刺した緑髪の美女が冷たい笑みを浮かべて立っている。

 

「…アンタ、この集落の出身だった訳風の剣術師エーメ。ってことは、妹の方もーー!」

 

「お久し振りですね、ルビー」

 

 声のした方を見れば、緑髪のエーメによく似た背格好の美女が、修道女のような格好のフードを被り、柔らかい笑みで立っている。

 

 修道女にしては胸元が開きすぎており、身体の線がはっきりと見える様な格好で、足先まである布は白い足が見える様に足の付け根から切れ込みが入っている。

 

「風の乙女ラルド。よりにもよってセルリアン族で最も会いたくない連中の集落とはね」

 

 ルビーが嫌そうに言うと二人のよく似た姉妹が笑う。

 

 片方は冷徹に、片方は柔らかく。

 

「トレジャーハンターの貴女が、集落に何の用まさか魔族を倒すつもりじゃないでしょ?」

 

「まさか! 私は比較的に安全な遺跡を回るだけよ。魔族討伐なんか専門外コイツが、魔族を見たいって言うから案内しに来ただけよ」

 

 ルビーがターニッブを指差すと、エーメは冷たい表情から肉食獣のような煌めきを青の瞳に宿して、桜色の唇を赤い舌で舐めて滑らせる。

 

「あら、そう。中々、鍛え抜かれた肉体に良い顔をしているわ。ターコイ達より余程、具合が良さそう。どう? 私と子を作らない?」

 

「あら、お姉さま。わたしにも作らせて下さいな」

 

 淑やかな笑みを浮かべながら、ラルドもメリハリのあるボディを見せつけるように身をくねらせる。

 

 そんな彼女らを気にもせずにターニッブは淡々と問いかけた。

 

「俺の名はターニッブ。修行の旅をしている。その魔族とはどんな奴なんだ? ルビーから聞いた話では魔王の一族という噂らしいが……」

 

「……本人がそう言っていたわ。本当かは私も知らないけれどね」

 

 男好きのする見た目の自分達に、ここまで無反応な男ははじめてだった。

 

 目を見開いた後、なんとなく面白くない表情になるエーメ。

 

 ラルドは逆に獲物を見つけたように瞳をきらめかせる。

 

「…ところで。金色の戦士をご存知かしら? 旅の人」

 

「金色の戦士?」

 

 やはり首をかしげるターニッブにラルドはニコリと笑い、横からエーメが答える。

 

「魔王の一族アブラという魔神を蹴散らしたって噂の戦士よ。金色の戦士を倒して魔界での名を上げるために、わざわざ現れたらしいわ。奴の話からするとね」

 

 エーメの言葉に頷き、ラルドが続ける。

 

「その話を聞いて金色の戦士を見つけ、村に居座る魔神カタブラを倒してもらおうと、わたしと姉さまはコバルト族の集落に向かいました。残念ながら、金色の戦士には会えませんでしたが、サーファとイーアという姉妹から面白い話を聞きました」

 

 ラルドはジッとターニッブに意味ありげな視線を向けて続ける。

 

「金色の戦士は普段は黒い髪に黒目。白い道着を着ていて赤いグローブを付けているとーー」

 

 ニコリと笑いながら、ターニッブの前に歩み寄る。

 

「戦士の名は、ターニッブと言っていましたわ。貴方のことですわよね?」

 

「…イーア達は元気にしていたか」

 

 これに肯定の代わりにターニッブは微笑むと、集落で会った娘の名を穏やかに呼んだ。

 

 思わずルビーがターニッブを見上げる。

 

 冒険者ギルドで一時期話題になっていた魔神アブラを倒せる人間。そんなものいる訳ないと思って最初から嘘だと切り捨てていた。

 

「ええ。貴方のこと、嬉しそうに話してくれましたわ」

 

 眩しそうに目を細め、口元に笑みを浮かべてラルドはターニッブの笑顔を見上げる。

 

 エーメも先のターニッブの穏やかな笑みに目を見張った後、淑女が浮かべてはいけない類の笑みを浮かべている。

 

「姉さま、族長に言ってターコイ達を解任しましょう」

 

「そうね。金色の戦士を見つけたのだから、あいつらには帰ってもらいましょ。女を欲望の吐け口くらいにしか思ってないんだから」

 

 冷たい美貌で笑みを浮かべ、姉妹はターニッブの腕を掴むと集落で一番大きな藁の屋根の家に向かった。

 

「ちょっタとーニッブはアンタ達に協力するなんて言ってないじゃない! そもそも魔神に人間が敵うはずないーーって話を聞きなさいよ!!」

 

 自分を無視してターニッブを家に連れ込む姉妹に、ルビーは形の良い眉を吊り上げて怒鳴りながらついて行った。

 

ーーーー

 

 セルリアン族の族長は、緩やかなウェーブを描いな緑髪を後ろでアップにして纏め、ベージュ色のローブを着た落ち着いた雰囲気の見た目は若く美しい女だった。

 

 やはりエーメ達によく似た顔立ちの美貌と、メリハリのある肉体をしている。

 

 スラリと長く白い足やうなじが見える様は、非常に艶がある。

 

 おそらく、どのような聖人であっても劣情を抱かずにはいられないだろう。

 

「エーメにラルド。彼が、そうなのね」

 

 姉妹が連れて着た青年を見据え、族長は一つ頷いた後に問いかける。

 

 左腕に抱きついていた姉のエーメ、右腕を捕まえている妹のラルドが答える。

 

「はい、族長様。彼がターニッブです」

「お母様。彼に間違いないと思いますわ」

 

 二人に頷くと静かに族長はターニッブを正面に見る。

 

「はじめまして。私はセルリアン族の族長をしています。早速ですが、報酬についてお話いたしませんか?」

 

 依頼を受けてもらえる前提で話を切り出した族長に対し、ターニッブは淡々と返す。

 

「では、旅路の路銀をもらいたい」

 

「白金貨や宝石ではなく? 銀でよいのですか?」

 

 キョトンとした族長に向かってターニッブは真っ直ぐな黒瞳で見つめた。

 

「ああ。過ぎた礼をもらうつもりはない」

 

 その燃えるような黒い瞳を静かに見据え、族長は微笑む。

 

 そして話を進めようと形の良い唇を開こうとしてーー

 

「おい待てよ。俺達、勇猛なターコイ一味よりこんな腰抜けを選ぼうってのか? 族長さんよ」

 

 族長の家の入口から、先ほどターニッブとルビーが撒いた赤肌の角を生やした筋肉質の男達が現れる。

 

 ターコイ一味だった。

 

「げっ」

 

「よぉ、また会ったな姉ちゃん」

 

 下卑た笑みを浮かべた後、こめかみをピクピクと動かしながらルビーを睨みつける。

 

「舐めた真似してくれたなぁさっさと宝を返して、今晩の俺達の相手をしてもらおうか?」

 

「……ちょっと。気安く触らないでよ」

 

 肩を抱こうとするターコイから逃れ、ルビーはターニッブの背に隠れる。

 

「随分と女にモテるじゃねえか、色男。両手と背中に花ってか?」

 

 静かに男達は己の腰に吊らされていた山刀を抜き、ターニッブに構える。

 

 それを淡々と見返し、ターニッブは腕に抱き着いていた姉妹を引きはがすと前に一歩出る。

 

「おい、族長この小僧をぶっ殺しても構わねえよなぁ? 用心棒をこいつに替えようって言っても、こいつが俺達より弱けりゃ話にならねえんだからよ……!」

 

 族長が形の良い眉をひそませる。

 

 ターニッブは自分に向けられた刃を気にする風でもなく、自然にターコイの前に出ると静かに口を開いた。

 

「分かった。表に行こう」

 

 それだけを告げ、一味の間を通って玄関ドアを開けて外に出る。

 

 一味の一人が刃を振り上げて、玄関から出ようとしたターニッブの背後から得物を振り下ろした。

 

「! タァーニッブゥウウッ!!」

 

 ルビーが思わず悲鳴を上げる程に危険な鋭い一撃。

 

 だが、鈍い音と共に倒れたのは、武器を振り下ろそうとした男の方だった。

 

 それまで余裕の笑みを浮かべていた一味が目を見開く。

 

「ここでは迷惑になる。表で相手をしよう」

 

 振り返りながら、ターニッブは静かに拳を握って告げた。

 

 これに狼狽えている一味の中、ターコイはニヤリと笑った。

 

「なるほど、まるっきり使えないクズって訳でもねえらしいなぁ……!」

 

 そう告げると、木造のドアからターニッブの後を追ってターコイが出て行く。

 

 一味も慌てて彼の後ろについて行った。

 

 屈強なターコイ一味の男を赤子をひねるように気絶させたターニッブ、その強さにルビーは胸が高鳴るのを感じた。

 

 族長の家の前は集落の人間が集まる広場になっており、ターニッブを中心にターコイ一味が取り囲んでいる状況だった。

 

 武器を持たず素手の人間を寄ってたかって武装した冒険者が取り囲む姿は、事情を知らずに見れば村人を襲う山賊のようにも見える。

 

「命が惜しいなら、この集落から出て行きな。最後の忠告だ」

 

 ターコイが見下すような瞳の色で告げてきた。

 だが、ターニッブは変わらない。

 

 静かに拳を握り締め、ザックの紐を離すと帯を一度締め直し、端的に告げた。

 

「かかってこい!」

 

「…後悔するぞ! やれ!!」

 

 ターニッブに向かい、山刀を持った四人の男達が殺到する。

 

(どれだけ強いのか知らんが、素手の格闘家一人。数で取り囲んで武器を使って押し潰せば簡単に黙らせられる)

 

 だが男達の目論見は完全に裏切られる。

 

 正面から右手の刀を振り下ろしてきた男を左に見切り、ターニッブはカウンターの右中段突きを腹に叩き込む。

 

 即座に背後に振り返り、左右から袈裟懸けに斬りかかってくる二人の一撃を拳の部分で左右に受け流し、右の回し蹴りで一人目の腹を、二人目の顎をそれぞれ蹴り薙ぐ。

 

 吹き飛んだ仲間を見向きもせず、左脇から刀を突き出してくる男に対しては身体を右に躱して振り返りざまの右後ろ回し蹴りを食らわせ、吹き飛ばした。

 

 この間、僅か数秒の出来事である。

 

「…てめえ」

 

 ターコイが目を見開きながら、ターニッブの動きを見て苛立つ。

 

 明らかに殺さないよう、傷つけ過ぎないように加減した動きだった。

 

 背中の刃渡り2メートルはあるような巨大な山刀を抜き、両手に持って青眼に構えるターコイ。

 

 ターニッブは静かに腰を落とし、拳を握って構える。

 

「……まだ、向かってくるか」

 

「うるせえんだよ! この俺様が、テメエ如き若造に負けてたまるかぁああ!!」

 

 上段から大きく振りかぶって刀を振り下ろしてくる。

 

 刃がターニッブの頭に触れようとした刹那。

 

 ターニッブは前に出していた左足をすり足の様に踏み込むと、左に斬撃を見切って紙一重でかいくぐり、懐にあっさりと飛び込む。

 

「ーーな」

 

 強烈な鈍い音と共に、ターニッブの拳がターコイの腹を打ち貫いた。

 

「ぐ、あ…」

 

 前のめりに倒れたターコイを見下ろすと静かにターニッブは構えを解き、拳を握って告げた。

 

「今度会う時は、もっと強くなってかかって来い!」

 

 その声が、ターコイが意識を途切れさせる寸前に聞こえた最後の言葉だった。

 

ーーーー

 

 夕方、族長の家の居間で目を覚ましたターコイ一味は、目の前に立つ白い道着の男を見上げた。

 

「気が付いたか」

 

 男達がターコイの下に駆け寄る。

 

 ターコイは首を振りながらターニッブを見上げた。

 

「…なんだ。用心棒の件はテメエの勝ちだろうが。あんだけ完璧に負けて今更ガタガタぬかすような真似はしねえよ。いいな、テメエら?」

 

 その言葉に一味の皆が頷く。

 

 ターニッブは静かに問いかけた。

 

「魔神について、お前達はどの程度まで知っているんだ」

 

「会ったことはねえよ。だが、相当の化け物らしいぜ 。せいぜい、命を落とさねえようにするんだなぁ」

 

「そうかーー。すまない、忠告ありがとう」

 

 皮肉気な笑みを浮かべるターコイに向かって、ターニッブは誠実に頭を下げると、静かに彼らから背を向ける。

 

 嫌味のない言葉と真っ直ぐな瞳にポカンとしたターコイは彼の背をジッと見据えた後、頭をガシガシと掻いてから告げる。

 

「まあ、何だ。ーー死ぬなよ」

 

「…ああ」

 

 振り返ることはないが、力強い言葉を置いてターニッブは居間から出て行った。

 

 ターコイは静かに自分の体に巻かれた包帯を見下ろし、問いかける。

「ーーお前らが、こんな包帯を巻けるわけねえな。誰が俺達を看病してくれた? この村の連中じゃねえだろ。奴らは俺たちを厄介者としか見ちゃいねぇし、それだけのことをしたからな」

 

「さっきの。た、ターニッブって野郎が…」

 

「そうかーー」

 

 一味の一人の言葉に、ターコイはターニッブが出て行った扉を見据えて呟いた。

 

「ーー負けたぜ」

 

 ターニッブが族長の部屋に戻るとルビーとエーメ、ラルドがそれぞれ立っていた。

 

「ルビー、まだ居たのか先に宿に帰ってくれて構わないと言っただろ」

 

 ターニッブは赤い髪に褐色の肌の女に向かって語り掛ける。

 

 ルビーは目を見開いて勝気な眉を吊り上げた。

 

「ちょっと! 貴方を待ってた女に、そんな冷たい言い方はなくない?」

 

「……ターコイ達の治療を時間の無駄だと言っていたから、先に帰ったと思っていた。すまん」

 

 その迫力に押されたのか、静かに頭を下げるターニッブにルビーは不満そうな表情で見上げてくる。

 

 そんな二人を割って入り、エーメがターニッブの前に来るとその胸に飛び込んだ。

 

 猫が匂いつけをするように頬を胸板にこすりつける。

 

「……なんだ?」

 

「あなた、噂通りね。やはりーー凄いわ」

 

 至近距離で見上げてくるエーメの青い目を見返し、ターニッブは静かに引きはがす。

 

 再び飛び込もうとするエーメの襟首をルビーとラルドがそれぞれが捕まえた。

 

「そんなことより魔神について教えてくれ。そいつは何処に居るんだ?」

 

 ターニッブは真っ直ぐな黒瞳を族長に向ける。

 

 すると族長は柔らかな笑みを浮かべた後、告げた。

「あなたになら、頼めます。どうか、この集落と生贄に捧げた娘達をお救いください」

 

「ーー生贄?」

 

 眉根を寄せて問いかけるターニッブに族長は淡々とした表情で語りだした。

 

「私たちの一族は男を生みません。そのため、時期が来れば森の奥にある湖の前で年頃の娘数名を生贄として湖畔の精霊を召喚するのです。精霊と交わうことで子を授かり、子孫を増やすことができます。もっとも、中には他種族の男と子を作りたがる者も居りますけれども」

 

 目を細めて、静かにエーメとラルドを見据える。

 

「私たちは冒険者として外に出ていたから、生贄にされずに済んだってわけ」

 

「精霊とは名ばかりのスライムよりも、生身の男の方が好みですから……」

 

 二人とも冷たい美貌を静かに微笑ませ、熱い瞳でターニッブを見ている。

 

 ルビーが極力二人の姉妹を見ようとせずに問いかけた。

 

「それで生贄が要るのは分かったけれど、どうして魔神がこの村に現れたわけ?」

 

 族長がその問いかけに頷きながら応える。

 

「魔神カタブラは、湖畔の精霊を召喚するエネルギーを食らって魔界から現れたのです。彼は湖畔の精霊を体内に取り込むと生贄の巫女達を捕らえてしまいました。そして、こう言ったのです」

 

 厳かな雰囲気で族長は魔神の言葉を紡ぎ出した。

 

「〝我こそは魔王の一族・カタブラ。人間どもよ、これよりお前達を魔界王神の名の下に支配する。手始めに生贄の巫女を我ら魔族が現界する為の苗床にしてやろう〞と」

 

 その言葉を聞いて、場に居た女性たちの表情が変わる。

 

 表情を青ざめさせるルビー。

 

 真剣な表情で歯噛みするエーメと、達観したような表情のラルド。

 

 彼女らを見た後、族長は静かに言葉を続けた。

「…苗床とは、おそらく彼女らの腹の中に魔族の子を宿すこと。このままでは彼女らは魔族を生む為の存在にされてしまうのです」

 

「もう、手遅れなんじゃないの」

 

「いいえ。魔族が子を宿すには、魔力が最も増すとされる魔凶星が現れていなければなりません。ですから、まだ巫女達は苗床にはなっていません。けれどーー魔凶星が現れるのは三日後の夜」

 

「時間の問題ってわけ」

 

 他種族の、それも自分の一族にとって不倶戴天の敵であるセルリアン族のこと。

 それでも年頃の娘として、生贄の巫女達に同情の念をルビーは禁じ得ない。

 

「ターコイ達は生贄の巫女達が苗床にされる儀式の夜に行動しようとしていたわ。子作りの最中なら隙も生じるだろうってね」

 

「実際、その方法は理に適っています。さしもの魔神も魔物の子を作る際には、意識をそちらに持って行かざるを得ないでしょうから」

 

 エーメとラルドの姉妹が淡々と告げるも、表情は冷たいままである。

 

 魔神と人間の力の差は明白だ。

 

 どれだけ強い冒険者パーティであっても、土台からしてレベルの違う魔神を相手にすれば勝ち目はない。

 

 限りなく低い勝率を少しでも上げるために、手段など選んでいる場合ではないのだ。

 

 そんな深刻な空気が部屋の中に積もる中、ターニッブが淡々と口を開いた。

 

「その湖の場所は、先の広場の奥にあった道か」

 

 族長が思わず目を見開いて問いかけた。

 

「さっきの戦いの中で、見つけていたのですか」

 

「ああ。あの奥から強烈な邪気を感じた」

 

 そう言ってターニッブは族長の答えに一人頷くと彼女らに背を向けて扉に向かって歩いていく。

 

 ルビーがやれやれ、と言った感じで後に続く。

「ようやく宿に行けるのね」

 

 問いかけるルビーに顔を向け、ターニッブは淡々と答えた。

 

「いや。魔神カタブラの所だ」

 

「ーーえ」

 

 驚愕に目を見開くルビーを置いて、ターニッブが前に進んでいく。

 

「俺は、強い奴に会いに来た」

 

 その真っ直ぐな黒い瞳は折れることがない意思を示していた。

 

ーーーー

 

淡々と森の中、細い道を歩くターニッブの後ろからルビー、エーメ、ラルドが付いてくる。

 

「まったく、ターニッブのヤツ。人の忠告くらい素直に聞きなさいよね」

 

「魔族をものともしない金色の戦士を、この目で見れるなんてラッキーよね」

 

「実際にカタブラを倒せるかはわかりませんが、確かに黄金の戦士の力は見ておいて損はなさそうです」

 

 女達は今後の冒険のためにも、ターニッブと言う男を見極めたかった。

 

 強い子孫を残すためにも彼は必要だが、最悪、彼の種族を調べて婿を取ろうという魂胆がセルリアン族の姉妹にはある。

 

 エーメとラルドは互いに目を見合い、頷く。

 

 程なくして、細道を抜ける。

 

 長い木のトンネルを抜けると、明るい日差しが彼女らの視界を一瞬奪い、森の中に抱かれた巨大な湖と漆黒の闇色を思わせる繭が現れた。

 

 繭の中には三人のセルリアン族の巫女が、虚ろな表情で胎児のように身体を丸めている。

 

「…これが魔族の苗床ってわけ」

 

 嫌悪感を露わにした表情で告げるルビーの横でエーメとラルド姉妹も己の武器ーー剣と杖を取り出す。

 

 ルビーも姉妹に倣い、腰に挿した短剣を抜き放った。

「…ふふ、勇ましい女達だな。この魔神カタブラに挑もうと言うのか」

 

 漆黒の繭から赤黒い光が放たれ、人間の姿を象る。

 

 血のように赤い髪は天に向かって逆立ち、眉はなく瞳も血のように赤い。

 

 土気色の肌をしており、長身であり逆三角の見事に筋肉質な体格をしている。

 

 服装は肉体の線がはっきりと分かるほどにぴったりとした白と赤のフィットスーツに、黒いマントとブーツを履いている。

 

 端正な顔の口元から覗くのは牙だった。

 

「…これが、魔神カタブラっ!」

 

「なんてこと。冒険者のわたしが動けない!」

 

「……これほどまで、力に差があるなんて」

 

 圧倒的な魔気に、ルビー達は全く動けなくなる。

 

 顔を青ざめて震える三人の女達に向かい、愉悦の表情で手を伸ばそ うとするカタブラを淡々とした声が遮る。

 

「…お前が、カタブラか」

 

 そちらを向くとただの人間の男だった。

 

 白いボロ衣のような道着を着た黒髪に黒目の男。

 

「…口の利き方に気をつけるんだな。私の相手に相応しいのは美しいものか、強いものだけだ」

 

「…俺はお前がどれぐらい強いのか、それを知りたい」

 

 拳を握り、構えを取るターニッブにカタブラは笑みを強くする。

 

 こんな強烈な気を浴びてターニッブは震えるどころか、淡々としている。

 

 その事実にルビーは、いよいよ例の噂の話を信じる気になってきた。

 

「私は強いさ、君の想像を絶するくらいにはね」

 

 カタブラも拳を握り、赤いオーラを身に纏いはじめる。

 

 ターニッブは、青白い波動をオーラにして身に纏う。

 

「ならば、この拳を試すのみ」

「…フ、私を倒して名声を手に入れたいのかと思えば。純粋に強さを求めているのか。ある意味、悪人よりもタチが悪い」

 

 呟きと同時、ターニッブが真っ直ぐに突っ込む。

 

「…速いっ!」

 

 思わずカタブラが呟くと同時、猛攻が始まった。

 

 左右の強烈なストレートを浴び、ピンボールのように首が弾け飛ぶ。

 

 仰け反った顔面に左の上段回し蹴りがまともに入って更に吹き飛ぶ。

 

 回し蹴りを放った勢いでクルリと身を翻したターニッブは、強烈な後ろ中段回し蹴りをカタブラの鳩尾に叩き込み、遥か後方に吹き飛ばした。

 

 空高く吹き飛ばされたカタブラは、地面に背中から叩きつけられる間際に強烈な風を纏って、ゆっくりと地面に降り立つ。

 

 彼は肩を揺らしながら拍手してきた。

 

「中々に素晴らしい動きだ。人間でありながら、この私の肉体に拳を入れるとはな」

 

 瞬間、音もなく陽炎のようにフッとカタブラが消える。

 

 鈍い音が辺りに響くと同時、魔神の右拳と武闘家の正拳がぶつかり合っていた。

 

「…生意気なっ!」

 

 牙を剥き出しにして叫ぶ魔神に、ターニッブは静かに見返すと拳を握って繰り出す。

 

 その場で強烈な打撃の応酬が始まった。

 

 魔神の人外とも言える音を鳴らさず、風を切らない拳を前に、ターニッブは互角の戦いを繰り広げる。

 

 ターニッブの右正拳突きをカタブラは見切り、魔力で出来た自分の肉体を霧散させて空振らせると。

 

 頭上にて肉体を具現させ、マントを羽織った強烈な飛び蹴りを放つ。

 

 地面をドリルのように穿つ強烈な一撃。

 

「…昇龍拳!!」

 しかし、ターニッブはコレに右の拳を跳び上がりながら突き上げて迎撃。

 

 爪先と拳がぶつかり合う。

 

 後方に吹き飛んだのはカタブラ。

 

「…おのれ! 小賢しい!!」

 

 無造作に左右に垂らした両手に青黒い炎をそれぞれ纏わせると、前方に突き出して赤い炎の熱線を放つ。

 

「燃え尽きるがいい」

 

 同時、ターニッブも腰だめに両手をたわめ紅の炎を纏った波動を生み出す。

 

「受けて立とう! 灼熱波動拳!!」

 

 青黒い熱線と真紅の熱線が中央でぶつかり、ターニッブの放った灼熱波動拳がカタブラの炎を撃ち抜くと、まともに魔神の肉体を飲み込む。

 

「ぐおっ!?」

 

 天に向かって炎が螺旋を描きながら登っていく。

 

 煙の向こうから、両腕を顔の前で交差させてガードしたカタブラが現れた。

 

 忌々しそうに歯を鳴らし、睨みつけてくる赤い目に対してターニッブは淡々と告げる。

 

「お前の力はそんなものか。悔しかったら、全力でかかって来い!!」

 

「ーー後悔するぞ、人間」

 

 瞬間、強烈な魔神の気を纏ってカタブラは前に出る。

 

 右の拳をターニッブの腹に入れ、身体が宙に浮いたのを見計らってその場で回転しながら、魔力で鋼のごとき強度をマントに持たせると、全身を切り刻みながら後方へ吹き飛ばした。

 

 同時、その場で肉体を霧散させると、宙に吹き飛んでいるターニッブの上に魔神は肉体を具現。

 

 マントを足先に纏わせて強烈な蹴りを真上から叩き込んで、地面に叩きつけた。

 

 ニヤリと勝ち誇る魔神の目の前に、ターニッブは即座に立ち上がって踏み込むと強烈な右の拳を腹に入れ、左のアッパーを顎に叩き込んで仰け反ったカタブラに更に技を繰り出す。

 

「竜巻旋風脚っ!!」

 

 右の上段回し蹴りを浴びせた後、左足で跳び上がりながら旋風脚を放ち、コマのように高速で回転しながら、右の跳び回し蹴りと左の跳び後ろ回し蹴りを交互に繰り返し叩きこむ。

 

「なんだと、こんなーーぐぁああ!!?」

 

 全身の骨を砕く勢いで無数に叩きつけられる打撃に、カタブラをして悲鳴をあげた。

 

「ぐはぁっ!」

 

 背中から地面に叩きつけられ、カタブラは怒りに震えながら立ち上がってきた。

 

「ーーよくも。薄汚い下等な人間無勢が、この魔神カタブラに土をつけてくれたな…!」

 

「……」

 

 血走った目を見開くカタブラにターニッブは淡々と拳を握り構える。

 

「ーー苗床に使うつもりだったが、ちょうど代わりが来た。貴様を殺すために巫女の命を使ってやろう!!」

 

 瞬間、巫女を捉えている漆黒の繭から、カタブラに向かって赤い光が放たれる。

 

 見る見るうちにカタブラはダメージを回復させ、力を漲らせていく。

 

 対照的に繭の中にいる巫女達は声もなく、静かに頰をこけさせて衰弱していく。

 

「これって、まさか! この卑怯者!!!」

 

「ターニッブに敵わないと見て、巫女の命を食らって力を上げている!?」

 

「ターニッブ、早目に決着を付けて! あなたなら、倒せるはずです!!」

 

 ルビー、エーメ、ラルドの三人からの言葉にカタブラがニヤリとする。

「人間が魔族に敵うわけあるまい! この男を殺したら、生贄の代わりに貴様らを苗床にして魔族の子を孕ませてやろう!!」

 

 ターニッブに向き直り、カタブラは笑いかける。

 

「どうした私を倒さねば三人の巫女は死ぬぞ! クククク、ヒャハははは!!!」

 

 カタブラは笑う。

 

「確かに貴様は強い! だが勝利とは、どんな手段を用いても得ねばならんものだ! このまま巫女の命を喰らい続ければ、私は簡単に貴様を葬れる!!」

 

 高笑うカタブラを見ず、ターニッブは静かにルビー達を振り返った。

 

「…彼女達を頼む」

 

 それだけを告げると腰だめに波動を練り、カタブラに向かって両掌を突き出して放つ。

 

「うぉおおーーー波動ぉお拳っ!!」

 

 カタブラは高笑いをやめて舌打ちし、肉体を霧散させて避けるも、背後にあった巫女を捉えた闇の繭に直撃する。

 

「…なんだと何の躊躇いもなく、巫女を犠牲にしたというのか 」

 

 目を見開きながら、ターニッブが人質を攻撃できないと思っていた己の目が見誤ったかと狼狽えるカタブラだが、ターニッブの放った青白い光線は繭を破壊すると、巫女達を護るように光の球となって包み込み、ゆっくりと彼女達を地面に下ろすと消えた。

 

「…なんだと?」

 

 あっさりと闇の繭が破れたこと。

 

 切り札の巫女達をあっさりと取り返されたことに、カタブラは目を見開いていた。

 

「…おのれ」

 

 生贄の巫女を奪われてなるものかと、そちらに体を向けるも目の前には、白い道着を着た黒髪の男が立っている。

 

 その間に、巫女達はルビー達によって救護されていた。

 

「…ターニッブと言ったな。貴様、何者だ」

「ただのサイヤ人だ」

 

 睨みつけるカタブラに淡々と返すとターニッブは両足を広げ、膝を曲げて右拳を前に突き出し、左の拳を腰に置いて構える。

 

 両掌からは、青白い雷光が迸りはじめた。

 

「…此処からだ! 電刃練気ーー風の拳!!」

 

 気合い一閃。

 

 瞬間、黄金の気柱が天に突き立ち。

 

 ターニッブの黒髪が逆立つと同時に黄金の色に染まる。

 

「……我、因果の狭間にて拳を振るうもの也」

 

 黒い目は翡翠に黒の瞳孔が現れたものになり、肌は透き通るような白い肌色に。

 

 全身には黄金のオーラを纏っている。

 

「黄金に変わる戦士だと? まさか、アブラを倒した人間とは!?」

 

 目を見開くカタブラに向かって、黄金の戦士。

 

 真・超サイヤ人と化したターニッブは、淡々と告げる。

 

「……来い!」

 

「おのれぇえええっ!!」

 

 その声に応えるようにカタブラが全身に炎を纏い、突っ込んでくる。

 

 周囲のものを飲み込みながら、燃やし尽くす赤い炎の塊と化したカタブラを、真正面からターニッブの左の正拳突きが迎え打った。

 

 突き出された拳から青白い雷光が迸り、赤黒い炎の球から白い光が放たれる。

 

「…なんだ、コレはぁああああ!!?」

 

 悲鳴を上げながら、カタブラは光の中に消えていった。

 

 ターニッブはソレを見送ると、拳を収めて黄金のオーラを消し、元の黒髪黒目のサイヤ人に戻る。

 

「………」

 

 彼はその黒い瞳を閉じて開くとルビー達に向き直った。

 

 そこには呆然とこちらを見る三人の女性がいた。

 

「急ごう。巫女達の手当てを」

 

 その言葉に我に返り、三人の女性はターニッブについていった。

 その夜。

 

 集落は無事に戻ってきた巫女達やルビー達を中心に宴会が行われていた。

 

 皆が楽しそうに笑い合う中、ルビーはターニッブの姿を探した。

 

 族長が用意した路銀を入れた袋を持って。

 

 右の腰には族長から、村を救ってくれた戦士を連れてきてくれた礼だと、白金貨が詰まった袋が差されてある。

 

「どこいったのよ、あいつ」

 

 探し回る自分の前にエーメとラルドが駆け寄ってくる。

 

「ターニッブを出しなさい!!」

 

「最悪、貴女の後でも良いですから!!」

 

 何か勘違いしている姉妹に向かってルビーは告げる。

 

「私も探してるんだけど?」

 

 その言葉に、姉妹は目を見開く。

 

「え? でも、彼ーー何処にもいなかったわよ」

 

「宿も、集落にいる者は全てこの場に集まってますよ」

 

 三人は互いに顔を見合わせると、必死になって村を探し回る。

 

 しかし、ターニッブという青年の姿は何処にもいなかった。

 

ーーーー

 

 天に満ちた月を見上げ、白い道着を着た黒髪黒目の男が荒野を歩む。

 

 その道の先にあるのは。

 

 彼が求めるものとは。

 

 真の強さとは、何か。

 

 彼は歩み続けるだろう。

 

 友との約束の為にも。

 

 




次回も、お楽しみに!!
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。