人間となって戦うことを選んだ。
変わった彼を見て、彼の師は何を思うのか……。
自分の中に居る孫悟空の激しい怒りが、ゼノを真・超サイヤ人に変身させた。
自分ではコントロールの効かない溢れ出したパワーと怒りを見事に力でねじ伏せた目の前の孫悟空に、ゼノは笑う。
「私とは役者が違うか。さすがですね、孫悟空」
「ん? あんたもオラ(孫悟空)なんだろ?」
「…なんと言えば良いのか悩むな。普段は、界王ザマスの性格と記憶が優先されている。超サイヤ人になった時は俺(孫悟空)が強く出ているから、君と同じだと言えたのだが」
「…ややこしいんだなぁ。でも、あんたの中の界王様とオラを合わせて、ゼノなんだろ?」
「ええ。別人格と言うよりは、記憶も意識も同一の存在。ゼノであることに間違いはない」
向かいあって会話をする同じ顔と声の二人。
感情豊かな悟空がしかめっ面で両腕を組み、眉根を寄せて考えた後、軽く告げた。
「…ま、いっか! 要はあんたの名前は孫悟空・ゼノって、話なんだからよ!!」
軽い悟空の様子にベジータとブロリーが互いを見合う。
「カカロットとは、やっとれん」
「…軽い奴め。まあ、ゼノとやらの事よりも優先することが山ほどあるがな」
呆れたような表情の二人だが、黒髪の巫女プリカと共に顔をトランクスに向ける。
トランクスは真っ直ぐに父親であるベジータを見据えて問いかけてきた。
「…あの、父さん。惑星の意思とは何者なんですか? 先程のザマスって奴や、悟飯さん達が見たって言うベビーと言う奴。別次元の俺達とは、どんな関係が?」
「ベビーだと? そいつは、未来の俺を乗っ取りやがったツフル人のクズじゃないか。ヤツが、この次元に来た? いや、惑星の意思がヤツの姿を模ったのか」
顎に手をやって考えこんだ後、ベジータはトランクスに告げる。
「…トランクス。事情を話してやりたいが、長くなる。先にブルマ達と合流するぞ。一箇所に固まった方が守りやすいからな」
「わ、分かりました」
頷くトランクスの横でプリカが手を上げる。
「すみません。まだ、界王神様達が合流していませんが」
「…そうだった! 何をやってるんだ、奴らは!!」
イライラするベジータの横で、ゼノが瞳を伏せながら告げる。
「いや。其処に来られる」
「い!?」
ゼノの言葉に悟空が目を見開くと、彼の指した空間に金色の光の球が生まれて界王神とキビト、更にもう一人の老人が姿を現した。
「お待たせしました、ベジータさん!」
焦った様子の界王神の横でキビトが静かに告げる。
「孫悟空の言った通りだ。お前達の時代の地球にも、惑星サイヤの意思は亡者を生み出していた。しかし、地球は無事だ。バーダックとターニッブ、彼ら二人の破壊神にも匹敵する者たちと地球の戦士達が力を合わせ、時空の狭間から出てこようとする亡者を一網打尽にしている。しかし、敵は無限に湧いて来るのだ」
キビトの言葉にブロリーが頷く。
「だろうな。全宇宙の死人の魂を亡者に変えているのだ。こんな短い時間では来れまい」
「おそらく、ターニッブ達はこちら側の地球に現れるはずの亡者達まで相手をしているはず。だから常世の理が満ちた状態でも、亡者が現れないのだと思います」
プリカの言葉にキビトも頷いた。
「うむ。確かに彼らの力は凄まじい。しかし、彼ら二人を持ってして拮抗しているのも事実。やはり、こちら側で因縁を断つしかあるまい」
そんな彼らの横でトランクスが目を見開く。
「界王神様にキビトさん…! お二人とも、過去の世界の?」
「そうです。この時代の我々をご存じなのですね、トランクスさん」
「え、ええ。ダ―ブラとバビディの時に手をお借りしましたから」
頭を下げながら告げるトランクスに、界王神も頷く。
そんな彼らから離れたところで、もう一人の孫悟空が界王神と向き合っていた。
「…ゴワス、様」
目を見開き、申し訳なさそうにしている孫悟空は無論ゼノである。
そんな彼をゴワスは威厳ある瞳で見つめていた。
「ザマス…。聞かせてくれ、何故こんな無茶をしたのだ?」
ゴワスは静かにゼノを見据えたまま、言葉を紡いでいく。
「お前には伝えたはずだ。何を見たとしても決して干渉してはならない、と。私との界王神の約を破ってまで、何故人間の肉体を復元させ、その魂と融合まで果たしたのだ?」
「…罪滅ぼしのためです。別次元の私ーーゴクウブラックは、孫悟空の肉体を手に入れるために、貴方や孫悟空の命を奪い、彼の妻と息子をその手で殺しています。いや、それだけではない。奴は界王神のポタラと時の指輪を使って、この世界に来た。直後、この次元のゴワス様を殺し、私をたぶらかし第1宇宙から第12宇宙の全ての界王神を皆殺しにして、人間を滅ぼし尽した」
「知っている。私もシン殿に頼み、お前の旅路が安全かを確認していただきながら、密かに見ていた」
だが、とゴワスは告げてゼノを見る。
「それならば、こちらの世界に帰った後で全王様に報告すれば良かったのだ。私と共に宮殿に行き、事情を話せば理解していただけただろう」
「では! この世界の生き残った地球人は、どうなるのですか!?」
「…ザマスよ、神は神だ。人間と神は同じではない。神は神の視点に立って物事を考えて判断せねばならないのだ。神は人間を見守るために居る訳でも、見下すために居る訳でもない」
静かなゴワスの言葉にゼノだけではない、皆が彼を向いた。
「では、神は何のために人間を観察するのですか?」
「…見届けるためだよ」
静かなゴワスの言葉に、ゼノが激しい表情に変わる。
「見届ける? 見届けろと仰るのですか!? 別の世界の私が、世界から神や人間を排除しているのを見届けろと!?」
激高したゼノは、右手でトランクスを指しながらゴワスに叫ぶ。
「いきなり死を与えに来た理不尽な存在と必死に闘い抗う、トランクスやブルマ。私に震えながら缶詰を差し出してくれた幼気な兄妹がブラックによって殺されるのを、黙って見届けろと言うのですか!?」
「…ザマス! お前は、神なのだ!! 人間の運命に神が関わってはならない!!」
ゴワスの言葉にゼノは静かに呟く。
「別次元の私も、界王と言う神だ。その神が理不尽に人間の肉体を奪い、妻と子どもを殺し、今も多くの人を殺そうとする事実を、神だからと無関係を装って、全て全王様に任せろと言うのか…!?」
「…装うのではない。お前の役目は、ここで人間と共に戦うことではない。人間を滅ぼそうと暴走する別次元のお前を全王様に報告し、判断を仰ぐことなのだ」
「その結果、誰が救われる…!!」
「……ザマス。神とて救えぬことはあるのだ」
静かな言葉で告げるゴワスに、ゼノが静かに瞳を閉じる。
脳裏に浮かぶのは、手を震わせるのを必死に隠して話しかけてきた小さな少女。
その兄もまた、自分を前に必死の形相で告げてきた。
彼らの両親は、既にない。
殺されたのだろうーー。
自分の顔を見て震える彼女の瞳を、ゼノは知っている。
それでも、缶詰を差し出してくれた彼女と兄の心をゼノは知った。
再び、ゼノは拳を握って左耳につけたポタラを外して叫んだ。
「救えぬのなら、私は神になどならん!! 今、この時を持って界王神見習いを破門にしていただきたい!!」
「頭を冷やせ、ザマス! 人間への一時の感情に任せて行動すれば、お前もブラックと同じことになるぞ!!」
「…たとえ、そうでも。私にはできない。ハルとマキ、二人の兄妹の未来をこのままにはできない…!!」
言いながら、ゼノは一礼してゴワスの右手に緑のポタラと時の指輪を渡す。
「ならん!! ザマスよ、界王神を捨てることなど私は許さん!!」
「…私は、界王神になるべきではない。そして、今はなりたいとも思っていません」
真っ直ぐにゴワスの目をゼノの黒い瞳が見据えてくる。
「確かに、最初は界王神になりたいと思っていた。人間をどうすれば、良く導けるであろうと考えていた。だが、それは間違いだ。人間は導かなくとも、孫悟空達のような美しいモノになれる。それに気付かず、滅ぼそうとする別次元の私ーーブラックから、孫悟空という存在を護るのが私の役目だと思った。しかしーー」
左の拳を胸に当ててゼノは胸元を見下ろして、静かに告げる。
「先程、別次元の孫悟空と手合わせして、俺(孫悟空)は名など護ってほしくはないと分かった。正直、ゼノとして生きようと決めた私(ザマス)には、ショックだった」
だが、とゼノは告げる。
「…私は、理解した。何故、孫悟空は人間を守ろうとするのかを! 闘いが大好きなサイヤ人、確かにそうだ。だが、それだけなら命をかけて何かを守ろうとはしない!」
「…ザマス」
「守りたいのだ。何もせずに、滅ぼされて行く彼らを見るのは、もう充分だ!! だから、私はゼノになった。ザマスでも孫悟空でもない。私は、孫悟空・ゼノなんだ!!」
真っ直ぐに告げるゼノは、ザマスと悟空の幻が重なって見える。
「…守りたいという意思が、奴らを一つにしている」
「そして、負けられない。絶対に“負けない為に闘う”という想いが奴らを強くする、か」
ブロリーが気を確かめ、ベジータが頷く。
今のゼノは、気がザマスでも孫悟空でもなく、新しい色に変わっている。
真っ向から見合うゼノとゴワス。
しばらくして、ゴワスはゼノに声をかけた。
「…ザマス。いや、ゼノよ。受け取りなさい」
そう言いながら、ゴワスは深緑のポタラを左耳から外して二つのポタラと指輪を今一度、ゼノに差し出してきた。
「できません。私は、神であることを捨てましたから」
「…私は認めておらん。何より、お前には私の後を継いでもらわねばならん。神と人の狭間にあり、人を導く者としてな」
「…私は見届けるなど、できない!」
ゴワスは優しい笑みを浮かべている。
「…ゴワス様」
「かつて、お前は人間の存在に疑問を感じ、神の行いに矛盾を見つけていた。今は、人間を愛するあまり、神を捨てて人間になろうとしている」
「…変わっていないと、言いたいのでしょう? それは私が一番、分かっています!!」
叫ぶゼノの両耳と指に光が集まり、ポタラと指輪が一瞬で付けられる。
物質の瞬間移動。
神の力ーー神通力である。
「…ザマス。お前の持つ悩み、行い。それは正に神でなく人のものだ。お前は神でありながら、人に近い心を持っていた。だから、私はお前に界王神になってもらおうと思ったのだ。正しさを望むが故に矛盾を孕む。人の事を何よりも考える。神としての視点を手に入れたお前こそが、本物の界王神だ」
「…ゴワス様、私には貴方の言葉が分かりません。今の私が、界王神を名乗れる訳がない。私はゼノとして生きると決めたんだ。人間を守る為に人間として、闘うと!!」
告げるゼノにゴワスは笑う。
「ははは、好きにしなさい。今からは、お前が界王神だ」
そんなゴワスにシンが焦った表情になる。
「ゴワス様! ザマスーーゼノ殿をまだ説得しきれていない内に界王神を譲っても!?」
「構わん。今のこやつなら、必ずや理解できる。やってみなさい、ゼノ」
笑いながら、ゴワスはゼノに告げた。
「お前が思うように。その結果、どうなろうと私が見届けよう」
「…ゴワス、様。ならば、せめて界王神の地位を今はゴワス様が持っていただきたい!」
「ダメだ。死ぬつもりであろう?」
「………っ!!」
ゼノの目が見開かれ、周りの視線がゼノに集まる。
「ゼノ、おめえ…!!」
「おい、ゼノ! 死ぬ覚悟を決めるのと、死を受け入れるのは違うぞ!!」
「お前が死んだところで、ブラックのした事が消えるわけではない」
悟空、ベジータ、ブロリーの言葉にゼノは苦笑する。
「君たちの言うとおりだ。だが、それでも私が咎めを受けない訳には行かん」
「ゼノ! ゴワス様の言う通りだ。おめえ、界王神様になれ」
「…っ?」
目を見開くゼノに悟空は静かに告げた。
「勘違げぇ、すんな。死ぬことは、責任を取ることじゃねえぞ」
悟空の真剣な言葉にゼノは動きを止める。
ゼノの隣からゴワスが笑った。
「…孫悟空殿の言うとおりだ。ゼノ、界王神を拒否する前に私が何のために界王神を譲ったのか、考えてみるのだな」
「だな! ゼノ! ゴワス様の判断、オラは間違ってねえと思うぞ!」
訳知り顔で笑い合う二人に、ブロリーが視線でベジータに問いかけると、彼も分からんと肩を竦めて返してきた。
こうして、界王神二人とキビトを含めた一行は、西の都から悟空とゼノの瞬間移動でレジスタンスのアジトに移動した。
ーーーー
誰も居なくなった街に、常世の霧が渦を巻いて一人の男を生み出す。
先程、悟空に追い詰められたザマスの肉体を得た惑星の意思だった。
「…界王神まで動き出したか。全王が出てくれば、流石にやられるな。早目に、この肉体の潜在パワーを全て引き出さねばなるまい」
言いながら惑星の意思に乗っ取られたはずのザマスは、静かに呟く。
「…神としての在り方、だと? 人間を見届けるのが神だと言うのか。ゼノは界王神を拒否した。何故だ? そうまでして人間になりたいのか? いや、そもそもゴワス様は何故、ゼノに界王神を譲ろうとする? 何故、孫悟空には分かるのだ?」
理解できない、とザマスは呟く。
ザマスは、いつの間にか正気に戻っている。
惑星の意思との融合によって、惑星サイヤの人間の歴史を見てきた。
サイヤ人が住み着くまで、名前が通ることはなく幾度と人間を滅ぼした意思。
人間の行いを見続けてきた中で、リューベやターニッブといったサイヤ人の力を見た。
孫悟空とベジータ、ブロリーの力を見た。
かつての自分ならば、その力を不遜かつ脅威と考えただろうに、今のザマスにはソレが美しいものに見えている。
「…人間の中にも居る。居たのか、美しいものが。だが、人間ゼロ計画を行えば消えてしまう。ブラックには悪いが惑星の意思との融合は、私にとっては好都合だったようだ」
惑星サイヤの記憶にある神をも唸らせる美しい拳に、ザマスは呟く。
あの拳は、取り込むに値すると。
「…残念だ、惑星サイヤよ。お前ともっと早くに出会えていれば。…滅ぼした人間の中にも取り込むに値する美しいものが居たかも知れんとはな」
人間は、取り込むに値しない無価値な存在。
その中の多数の人間が、滅ぼすに値する害ある存在。
そんな中で、希少な美しいものこそは、取り込むに値する存在だとザマスは見直した。
「美しいものは、世界ごと取り込み常世で永遠不変の存在となる。この次元は、我が力が全宇宙に広がり、常世と化している。後は、第7宇宙の中でも美しい北の銀河で、最も美しき、この星を手に入れればよい」
常世の力を取り込み、一気に力が引き上がっていく。
薄紅色のオーラが二周りほど大きくなり、圧倒的なパワーがザマスの肉体に満ちる。
先ほど、悟空と闘った10倍程度、いやそれ以上のパワーをザマスは引き出している。
「…流石は、界王ザマス。その天才的なセンスで我の力を理解したか。思考といい、我に近い者との融合は良い」
笑うのは、ザマスの肉体を得たサイヤだ。
「…こちらもだ。惑星サイヤよ、貴様の力は実に良い。圧倒的なパワーも去ることながら、サイヤ人の力を完全に模倣。多次元の存在も具現化できるなど、使い勝手の良いものが多いな。神としての力を合わせれば、なんと素晴らしい」
うっとりとしながらザマスは笑い、惑星サイヤの意思も笑う。
ーー では、しばらく我が力、其方に託すとしよう。絶対の神ザマスよ ーー
それだけを告げて、惑星サイヤはザマスの中に消えていく。
ザマスは満ち溢れた力を見下ろした後、気を消した。
すると、先程まで変身していた超サイヤ人ロゼの髪型が元のザマスの物にボリュームダウンし、服装も付き人の物に変化している。
「…ふふ。この力ともう一人の私が居れば、世界は全て常世となる、か!! そうなれば全王様ーーいや、全王も手を出せまい。く、ククク!!」
ひとしきり笑みを浮かべた後、ザマスは猛スピードで動くブラックの気を感じて笑う。
「…ゼノとの合体か。確かに、お前が真・超サイヤ人に目覚めるのであれば必要なことだ。しかし、今の私ならばお前に与えられるぞ。我が半身よ、我が力を見るがいい…!!」
邪悪な笑みを浮かべて笑うザマスは天を見上げて笑った。
ーーーー
西の都。
かつて栄華を誇った街も、今は廃墟に近い存在になっている。
其処を眼下に漆黒と紫のオーラを纏った黒衣の孫悟空ーーゴクウブラックが空を駆けていた。
「…奴らめ、派手な戦いをしていたようだが。今は、気を感じない。それに、先程孫悟空の気が二つに増えたと思ったのだが」
舌打ちをしながら気を感じ、空を駆ける。
瞬間移動をしようかとも思ったが、ゼノやトランクスはともかく、過去から来た孫悟空達は只者ではない。
気配に気付かれずに移動するには舞空術しか手はなかった。
「…奴らがいつも気配を隠す場所。其処が奴らの隠れ家へと通ずる道のはずだ」
煩わしさを感じながらも、空を移動するブラックの眼下はやがて岩場へと変化する。
天然の川が渓谷を流れる様にブラックは静かに目を細める。
「……美しい。この岩場の中に負けず、生命を育む小さな緑。強固な岩をも削る力強い水の流れ、素晴らしい」
そんな光景に微笑みを浮かべた後、ブラックは目の前に現れる強大な気を感じた。
「!? この気は!?」
常世の霧が空に満ち、漆黒の雲が全てを覆い尽くす。
その様に、ブラックは瞳を細めた。
「…美しい光景を汚しおって。亡者めが」
「ククク。まあ、そう言うな」
漆黒の雲から霧が渦を巻いて一つの肉体を象る。
その者の姿にブラックが目を細めた。
「……我が相棒を乗っ取るだけで飽き足らず。この俺をも、騙るか? 亡者よ!!」
漆黒の道着に赤い帯を巻き、白いブーツを履いた孫悟空がブラックの目の前に現れる。
そう、亡者の霧が象ったのは、ゴクウブラックとなったザマスの姿だ。
「…何を息巻いている? 神ならば、この程度の事で一々動揺するものではない」
残忍で冷酷な笑みを浮かべるブラックの姿をした亡者に、本物のブラックが構えを取る。
左手を顔の横に置いて前に出し、右の拳を腰に引きつける構えは孫悟空のものだ。
「動揺だと? 笑わせる…! 神の思考を貴様如き下等な精神体に理解できるものか」
不愉快気味に吐き捨てるブラックに、亡者は淡々と鏡に写った様に同じ構えを取ってから、告げる。
「……来い」
目を見開き、ブラックが亡者の前に現れる。
振り下ろされる右の拳を亡者も同じフォームから右拳で打ち返す。
全くの互角。
「…なんだと?」
「驚くには値しない。私は、お前だからな」
「ふざけたことを!! 神の姿と名を騙るなど、偽者が許されることではないぞ!!」
「ククク、そう。偽者ならば、許されることではないな。だが、私は本物だ」
言うと、互いに拳と蹴りを繰り出し合いながら空を駆ける。
同じ色のオーラが幾筋も漆黒の空に線を描いていく。
「おのれ…! 怨霊の塊風情が、ここまで俺の力を真似るとは…!!」
「何度も言わせるな。私は、お前だ」
「…フン。戯言は、其処までにしておけ…!!」
言うと同時、ブラックは薄紅と紫色のオーラを身に纏う。
逆立った髪は薄紅金に変わり、黒の瞳は灰色へと変化していた。
「…超サイヤ人ロゼ、か」
ブラックの姿をした亡者は静かに、ロゼとなったブラックを見据えて目を細める。
「どうだ、偽者よ。貴様に、この俺の美しさを模倣できるか?」
その余裕の笑みに向かって亡者は静かに微笑む。
ブラックと全く同じ顔、同じ笑みで。
「…超サイヤ人ゴッドの力を取り込んだサイヤ人が、超サイヤ人になれば変異することができるのだったな」
「神の魂を持つ者にしか、この輝きは出せない。貴様にできるかな?」
勝ち誇ったかのような笑みを浮かべるブラックに向かい、亡者は静かに蒼銀の炎を身に纏う。
逆立つ水金色に輝く髪と、翡翠の瞳。
「超サイヤ人ブルー、か。その力を模倣できるとは驚きだ。だが、やはり神の魂を持たぬ偽者には気高く美しいロゼには、なれんようだな!!」
「…そうかな?」
「…なんだと?」
ゆっくりと微笑んだ後、超サイヤ人ブルーのゴクウブラックに変身した亡者は笑う。
そして蒼銀の炎が薄紅の炎へと変化していく。
「……貴様、一体?」
「言ったはずだ。私は、お前だと。このセリフを私(ザマス)に告げたのはお前だったろう?」
「! ザマス、お前なのか? しかし、何故?」
目を見開くブラックに亡者ーーいや、その力を使うザマスは笑う。
「本体は別の所にある。中々に便利なものだぞ、魂を分離させてそれを覆う肉体を様々な存在に模倣できると言うのはな」
嬉しそうに笑う分身に、ブラックは瞳を細める。
「流石は、神だ。よくぞ、惑星サイヤの意思を取り込んで力を手に入れた」
「取り込んだわけではありません。互いの思想を理解し、分かり合ったのです」
「…思想だと? 世界を食らい尽くそうと言う惑星の意思に力を貸すと言うのか?」
瞳を鋭く細めるブラックに、分身はニヤリと微笑んだ。
「別の世界の私よ。お前は人間を滅ぼすことで、この美しい世界を護れると思っている。だがな、世界は変化ーーいや進化を求める。今いる全ての人間を滅ぼしたところで、再び世界は人間を生み出すのだ」
「……その度に、我々が間引いてやればよいではないか」
「もう一つ、手があるとしたら? それは全王でさえも手を出すことのできないものだ」
ザマスの分身の魂を核に持ち、ブラックの姿を模倣した亡者は語る。
「全王様、ではなく全王と呼んだのか? ザマス…!!」
目を見開くブラックに、分身は笑みを浮かべる。
「何を恐れる? 狼狽える? 私たちは唯一にして、絶対の神ではないか。全王など、消すことしかできない無能の極みだ」
「……聞かせてくれ、お前の話を」
真剣な表情で告げるブラックに分身ザマスは微笑んでから、告げる。
「この霧が、雲が何か分かるか?」
これに天を見上げた後、ブラックは自分と全く同じ姿をした分身に目を向けた。
「亡者共の塊ではないのか?」
「…これはな、特異点と呼ばれた、時空の狭間に惑星サイヤが満たした常世の理だ」
「! 常世ーー永遠不変の理だと言うのか!?」
動揺するブラックに向かって、分身は穏やかに微笑む。
「そうだ、同志よ。この力は、不死身となった私(本体)と同じ付与を世界に与えるのだ。見よ」
言うと同時、分身は眼下に力強く流れる川に向かって気を放った。
「何をする!?」
ブラックが見咎めて目を見開く。
爆発し、無残に吹き飛ばされる岩場と水。
その光景にブラックが非難の目を分身に向けるが、彼は微笑みながら視線で川を見ろと促す。
「……」
ブラックが川に視線を戻すと、まるでビデオの逆再生のように破壊された光景は元通りに修復されていった。
「……! これが、常世の理か!!」
「どうだ? この力があれば、人間ゼロ計画を推進した後の世界を管理することも造作ない。もう一つ言えば、この力は常世。この世界の存在には決して手が出せない存在のモノだ。たとえ、全てを消す力を持った者でもこの世界に生きるモノでは、消すことはできない。世界そのものを書き換える力なのだ…!!」
「素晴らしい…! この力があれば、全王様とて手は出せまい!!」
感動に打ち震えるブラックに向かって分身はニヤリと笑った後、告げた。
「では、この計画を進める為に。お前に足りぬモノを補ってやろう」
言うと同時、分身は超サイヤ人ロゼの姿から拳を腰に置いて気を高め始める。
「…? 何をするつもりだ?」
「惑星サイヤはな、何百年と渡ってお前の望む力と闘って来た。その経験と孫悟空とベジータがもたらした可能性が、ヤツに模倣させたのだ」
「……! まさか…!!」
目を見開くブラックに向かう分身は、黄金の炎を纏いはじめる。
「サイヤ人の魂が無ければ出来ぬのなら、取り込んだサイヤ人どもの魂を利用するだけの事よ」
「……素晴らしい。どこまで、素晴らしい力を手に入れたのだ! ザマスよ!!」
笑うブラックの前には、黄金の炎を身に纏い、薄紅の髪を黄金に変えて黒の瞳孔が現れた翡翠の瞳の自分が立っている。
ブラックは早速と言わんばかりに自分の左耳のポタラを外そうとするが、分身がそれを止めた。
「どうだ? この力、お前のモノにする前に試してみては?」
「何? 試すだと?」
「サイヤの記憶が告げている。この力は、強力ではあるが扱いにも注意がいるとな。この変身の長所と短所を客観的に理解したうえで、手に入れてはどうだ?」
静かな分身の言葉にブラックはニヤリと笑って告げた。
「面白い…! ロゼの力までも模倣できるお前の事だ。その姿になった純粋な俺の力を完璧に再現出来るはず。客観的にその力を振るう自分を見れると言うのは、素晴らしい修行となるだろう。真・超サイヤ人よ!!」
高らかに告げるブラックに、“真・超サイヤ人となったブラックの姿をした分身ザマス”は微笑んだ。
「では、美しい戦いを始めようではないか…!」
高らかに告げる言葉に対し、心地よさげにブラックは微笑み返した。
次回も、お楽しみに( *´艸`)