そこへ全王が突然の訪問。
彼がもたらすものは……。
第7宇宙の地球。
破壊神ビルスとラムーシが揃って震え上がる中、無邪気な幼子のような姿をした存在が首を左右に向ける。
「…ぜ、全王様。何故、第7宇宙の地球に?」
魔人ブウが、震え上がる破壊神達を差し置いて問いかけると、全王は無邪気に頷いた。
「うん〜! あのね、何だかね。悟空やターニッブの凄いパワーを感じたの。だからね、見に来たの!! そしたらね、君たちの話を聞いちゃった〜!!」
嬉しそうにはしゃぐ全王にビルスが震え上がりながら、声をかける。
「ぜ、全王様。いったい、どの辺りから聞いて?」
「全部!!」
「ぜ、全部…!?」
目を見開きながら、ビルスは両膝を地面について絶望したように呟く。
「…終わった。僕の破壊神としての役割も此処までか」
「ビルス様、少し諦めるのが早すぎなんじゃありませんか?」
ウイスが横から耳元に囁いてくる。
「うるさいな、ウイス! そもそも、全王様が来られるなんて僕は聞いてないぞ!!」
ビルスはヤケクソに叫び返しながら告げた。
ラムーシが気をつけの姿勢になりながら、問いかける。
「全王様、本日は…!!」
阿鼻叫喚の神々を他所に、全王は何か探し物をするかのように周りを見渡す。
コレに地球の神たるデンデが問いかけた。
「いかがなさいましたか、全王様?」
「うん。悟空は?」
「悟空さんですか?」
「ターニッブと戦ってるの、また見たいから来たの〜!」
問いかけるデンデに全王は無邪気に笑う。
楽しみにして来たらしい、頰が紅潮していた。
「悟空さんは今、修行中なんです。こちらで映像は見れますが…」
祭壇に鎮座された巨大な水晶に映される映像。
孫悟空やターニッブだけでなく、ベジータやブロリー達も身に溢れる力を振り回している。
「すご〜い! ねえ、デンデ君だよね? 悟空達に会いたいのね!!」
「…申し訳ありませんが、精神と時の部屋は僕が作り変えまして。本当なら、アレだけの人数を入れることはできないんです。だから、部屋に入るには、入った人間の誰かに扉を開けてもらわないと」
言い辛そうに返すデンデに、全王はニコニコ笑いながら告げる。
「話しかけられないの?」
「……悟空さん達は、修行に専念していますから。邪魔するわけにはいきません。二日後ならば、彼らはあの部屋から出て来ると思います」
瞬間、ビルスが叫んだ。
「うぉい、地球の神ぃ!! お前、自分が何を言っているのか、分かってーー!!」
「うるさい、ビルス」
「は、ははー!!」
アッサリと返され、土下座するビルスに構わず全王はデンデを見る。
「…君、面白いね。地球には、悟空達だけじゃなく楽しい人間や神がいっぱい居るのかな?」
本当に無邪気な瞳を向ける全王にデンデは、静かに瞳を閉じ、心を落ち着けると告げた。
「…よろしければ、お話させていただきましょうか? 全王様の友人となった優しいサイヤ人の冒険を」
「……うん!! 聞きたい、聞きたい!!!」
「二日では足りないかもしれませんが、よろしくお願いします。ポポさん、お持て成しを」
デンデの言葉にミスターポポは頷くと、全王をはじめとした神々を案内する。
「全王様、破壊神様。こっち、来てほしい」
上機嫌な全王の態度にビルスは目を見開きながら、付いていく。
「…地球の神様。中々、ご立派な方ですね〜」
「あ、ああ。大した度胸だよ。おかげで助かった」
ホッとするビルスに、ラムーシが話しかけてくる。
「しかし、二日後にはどうなるか分からんぞ? 話は聞かれていたんだろ?」
「…忘れてくれないかなー」
「…うむ」
破壊神達は二人して溜め息をつきながら、席についてワクワクして話を聞いている全王を見ていた。
デンデは、ミスターポポを交えながら話していく。
地球という星で繰り広げられた壮大な冒険譚。
孫悟空とドラゴンボールの物語を。
「…前の神様、言ってた。誰もが自分の欲のためにドラゴンボールを使おうとする中、悟空は違ったと。ポポも、そう思う」
「うん! 悟空は面白いよね」
「最初、ドラゴンボールは前の神様の悪の分身に壊された。前の神様、ドラゴンボールを壊された時に言ってた。自分の為でなく他人の幸せの為にドラゴンボールを使える悟空達みたいな人間の為に。誰かの希望となる為に、ドラゴンボールを残そうと」
ジッとポポの話を聞く全王は、楽しそうに笑った。
「希望? ねえ、ドラゴンボールは希望なの?」
「…ドラゴンボールは、確かに願いを叶えてくれます。ですが、本当に自分の願いや夢を叶えられる者は孫悟空さんのような強い人だけだと、僕は思います」
「…じゃあ、希望って?」
「自分の力が及ばない、強大な何かに全てを奪われ絶望した人々の。ほんの一握りだけでも、ドラゴンボールがあることで希望となれば良い。僕は、ドラゴンボールとは願いを叶える為のものではなく、希望の象徴なんだと先代の神や悟空さん達から教わりました」
「…凄いね、君たち。第7宇宙の地球には、君のような神や悟空みたいな人間が居るんだね。ねえ、デンデ君。希望の為に人間は、変われるのかな?」
全王の無邪気な問いかけにデンデは、それまでの無理をした表情ではなく、心から微笑んで告げた。
「…私は、信じています。あの強くて優しい方々ならば、必ず人々に勇気と希望を与えてくれる。それが、人間を変えてくれると」
ジッと全王はデンデを見つめた後、溜め息を吐くように告げた。
「君、いいね。界王神にならない?」
あまりの爆弾発言に、ビルスだけでなくウイスも目を見開く中、デンデは頭を丁寧に下げた。
「…僕は、地球の神です。第7宇宙の地球の神です。あの人達に救われたんです。だから、申し訳ありません」
「……残念だなぁ。ねえ、代わりに君が救われた話をしてくれる?」
「喜んで。聞いてください、全王様!」
デンデは落ち着いた神としての言葉をやめ、無邪気な子どものような表情になって語り出す。
宇宙の悪。
その帝王と呼ばれたフリーザに故郷たるナメック星が襲われた時のことを。
皆が殺され、星まで破壊された時のことを。
「穏やかな心を持ちながら怒りによって目覚めた伝説の戦士。超サイヤ人の誕生した時かぁ」
見たかったと両手足をバタ付かせて騒ぐ全王を、付き人二人が見ている。
ウイスが微笑みながらビルスに告げる。
「すっかり全王様に気に入られてしまいましたね、地球の神様」
「…ああ。なんだか、界王神のヤツが不憫に思えてきた」
話をいったんやめ、夜も遅いからと閨に案内するも、全王はデンデを手放さずに話している。
付き人二人が置物のように立つ中、デンデは全王と並んで床についた。
静かに眠りにつく中、全王は呟いた。
「…ねえ、デンデ。君は、悟空達ならどうにかできると思ってる?」
「未来時空の皆さんを救えるのは、悟空さん達を置いて他には居ません」
はっきりと告げたデンデに全王はアイマスクをしたまま、微笑んだ。
「…時間を動かすのはね、多くの世界に影響が出るからダメなんだ。でもね、面白いとも思ったの」
「全王様」
「…色んな可能性があるんだね、君たちには。それはーー面白いね」
また明日ね。
そう告げて、全王は深い眠りについて行った。
彼の眠りを見送った後、デンデは寝台から天蓋を見上げる。
「どうか、未来世界の人々よ。希望をーー忘れないでください」
希望は、此処にある。
必ずあなた方の所へと向かう。
だからーーどうか、生き延びてくれと。
Mr.サタンの豪邸。
サタンは家の周りを見渡していた。
いつもなら部屋のハンモックで昼寝しているブウが居なかったからだ。
もしかしたら、また黙って外に遊びに行ってしまったのかと探す中、中庭にブウは居た。
「おおー、ブウさん! 良かったぁ、また出かけてしまったのかと思っちゃいましたよ〜」
サタンの声にブウは、ニコニコした表情で振り返ってきた。
「サタン!」
「? なんですか?」
「…俺、一人じゃない!!」
「当たり前じゃないですか。ブウさんは私の家族だ。それに悟空さん達もブウさんを仲間であり、家族と思ってますよ」
嬉しそうなブウにサタンは首を傾げながらも、自分の思いを告げる。
するとブウは首を横に振って応えた。
「サタンは友達、悟空達も仲間。でも、俺。はじめて、敵じゃない。俺だけど、俺じゃない俺に会えたんだ。嬉しかった〜」
ニコニコ笑う魔人の姿に、サタンは首を傾げるしかなかった。
ーーーー
未来世界の界王神界。
穏やかな表情のザマスを、驚愕の表情で見据えるのは界王神の二人とキビト。
そして、もう一人のザマスであるブラックだった。
「ザ、ザマス。本気で分かっているのですか? 全王様の恐ろしさを…!!」
震え上がる第7宇宙の界王神シンに対して、ザマスは笑う。
「ええ。よく存知ておりますよ、あの無智にして無能な少年のような姿をした汚物をね」
「ザマス!! 全王様に向かって、何たる無礼な!!」
「ゴワス様、一つ質問です。全王を貴方達は何故、恐れるのです?」
「な、何!?」
問いかけにゴワスは目を見開く。
そして息を整えてから、静かにザマスの目に訴えかけた。
「全王様は、崇高にして純粋なーー非常に恐ろしい方だ。すべてを滅ぼしうる力を持ち、あの方に嘘は通じぬ」
「機嫌を損なえば、あっという間に宇宙ごと消されてしまう…ですか?」
微笑みながら紅茶を口元に傾けるザマスに、ゴワスが叫ぶ。
「その話は夢物語や嘘などでは断じてないぞ!! 考え直せ、ザマス!!」
「…ゴワス様」
静かにザマスはゴワスを目で黙らせると、続けた。
「人間が神を崇めるのは、己の力が及ばない絶対の存在だからだ。でなければ、人間は神にも抗おうとする。神が力以外も、人間より優れていなければ人間は神を崇めはしない」
「…な、何を言いたいのだ。まさか、ザマス…!」
「聡明な貴方のことだ。私が何を言いたいのか、既に理解しておられるはず。そう、私が全王を恐れないのは、奴が力だけの存在だからだ」
絶句するゴワスや界王神達を無視してザマスは両手を広げ、舞台俳優のように高らかに告げる。
「奴が全てを消すならば、我は奴の前に残ってみせよう。そして、生み出そう。全王の支配より抜け出た我が分身とも言える世界を!!!」
思わず、ゴワスが呟いた。
「ザマス。おまえは全王様を利用して、世界を己の分身に作り変えるつもりなのか」
「…ど、どういう事なんです?」
シンが思わずゴワスに問いかけると、彼は神妙な顔で告げた。
「…この世界は現在、全王様の支配下にある。それを全王様自身の手で一度、完全に消滅させて死者の都を生み出した惑星の力で己の支配下に作り変えるのだ。だが、それは生きたように見える常世の世界。生前と何ら変わらない姿をした存在が行き交うだけの、不死にして不変の世界」
告げるゴワスにザマスは微笑んで、ブラックは戦慄した表情で彼を見返す。
「ザマス、それは箱庭だ。世界を箱庭に変えてまで、お前は己の正義を信じるというのか」
「ゴワス様、私は己の正義を信じております。だからこそ世界を望むのです。私だけの世界を」
ザマスは静かにこちらを見る、孫悟空の肉体を持った別次元の自分ーーブラックに顔を向けた。
「…何か言いたいのか、私よ」
ブラックは静かにザマスを見返すと呟く。
「ゴワス達をみすみす見逃した挙句、全王様に全てを消させるだと? 正気の沙汰とは思えん。何より、人間は滅びても良いが世界を滅させるわけには行かん!!」
同時、黄金の炎のような激しいオーラを身に纏い、ブラックは真・超サイヤ人へと変身した。
身を縛っていた金縛りを自ら解き、席から立ち上がってザマスに構える。
「…考え直す気はないか? お前は私だ。私の目を覚まさせてくれた同士をわざわざ滅ぼすつもりはない。取り込めば済む話だが、それも味気ない故な」
「くどい!! 世界の美しさを理解しながら、全王様にわざと滅ぼさせた挙句、瓜二つの箱庭を作るなど。そんな偽りの世界など私は許さん!!!」
怒るブラックにザマスは微笑む。
「偽り? いいや、私という絶対の神にして法の象徴に管理され淘汰された素晴らしい世界だ。悩める者達に死ではなく、争いすら起こさぬ穏やかな生を与えようではないか? 共に理想を望もう、ブラックよ」
言いながらザマスは立ち上がり、右手を差し出す。
それを黒の瞳孔が現れた翡翠眼で睨み付け、ブラックは告げる。
「ザマスよ、世界を喰らうなど許さんと言ったはずだ。貴様のしようとしている事は、世界のーー命の美しさを変えるものだ。見逃すわけには行かん!!」
左手を顔の横に置いて前に突き出し、右拳を腰に置いて両膝を曲げてスタンスを広げる。
ザマスは静かに微笑むと、左手をブラックにかざした。
「ならば、紛い物のサイヤの魂は要るまい。返してもらおうか」
「…!?」
ブラックの胸から青い光の玉が生まれ、ザマスに吸い込まれる。
瞬間、黄金の炎のような激しいオーラは、薄紅色の緩やかな陽炎のようなモノに変化し、逆立つ黄金の髪は薄紅色へと変わった。
瞳孔が現れた翡翠眼は、灰色の瞳に変わっている。
「…これは!?」
超サイヤ人ロゼに戻らされたブラックは、自分の肉体を見下ろし、無限に上昇していた気が無くなったことを確認した。
「ブラックよ。真・超サイヤ人は確かに恐ろしい力だ。我と融合した惑星の意思を何度も退けた忌々しい力。だが、それを味方に付けられるならば好都合と思い、お前に与えたのだ」
「…逆らうならば、真の力を使わせぬと言いたいか? 舐めるなよ。真・超サイヤ人でなくとも、超サイヤ人ロゼになった私ならば貴様如きに!!」
薄紅色のオーラを吹き上げ、構えるブラックにザマスはニヤリとした後、呟いた。
「この神域を血で汚すような真似はしたくはないが。仕方あるまい」
ゆっくりと席を立ち、卓から離れると青みがかった紫色のオーラを纏い、両手を手刀の型にして腰の辺りに置き、重心を後方に置いて構える。
ブラックが一瞬で距離を詰め、拳を左頬に打ち込んだ。
間一髪、ザマスは左頬に放たれた拳を左手刀で叩き落としてから、摺り足で流れるようにブラックの脇に移動し、膝蹴りを放つ。
左手を脇腹の前に置いて受けるブラックは、即座に拳と蹴りを次々に放った。
ザマスもコレに応えるように右手刀に気を纏わせて、蹴りと手刀を次々に合わせる。
秒間、数百はくだらない打ち合いをしながら、両者は界王神界の空に幾筋もの線を描いている。
「はぁああっ!」
「…クッ!!」
強烈なブラックの右ストレートを受け切れずに吹き飛ぶザマス。
ブラックは高速移動で追いかけ、空に蹴り上げてから両手を頭上で組んで地面に叩き落とした。
衝撃に土砂が間欠泉のように天高く噴き上がり、頑強な界王神界の地面は砕けた。
「ゴワス様、ザマス達が争っている今がチャンスです! 早く此処から逃げましょう!!」
「…う、うむ」
シンの言葉に頷くゴワスだが、目の前には薄紅色のオーラを纏うブラックが立ちはだかっていた。
「…何処へ行こうと言うのだ? 貴様らは、私によって滅ぼされる運命にあるのだ」
「ブラック!!」
キビトとシンが構える中、ゴワスも冷や汗をかきながら睨み付ける。
「…やはり人間ゼロ計画を遂行するには、私しかいないようだ。ならば、私のみの力で成し遂げよう。世界を救うためにな!」
ニヤリと邪悪に笑うブラックに界王神達はジリジリと後退するしかない。
力の差があり過ぎる。
「世界を救う? ならば何故、私の邪魔をするのだ? これほどまでに素晴らしい力を持ちながら」
ブラックは、横から投げかけられた声に舌打ちしながら睨み付ける。
「…不死身の肉体とは、やはり厄介だな」
「お前の提案だったがな。神が滅びてはならない、と。そして神とは、絶対にして最強でなければならない」
言うと同時ザマスの肉体が虹色に輝き、ブラックの超サイヤ人ロゼと同じ形と色をしたオーラを纏う。
虹色に輝く肉体からは鱗粉が剥がれ落ち、ブラックの超サイヤ人と同じ髪型をしたザマスが現れた。
「…貴様!!」
その姿は、紛れもなくブラックとザマスの合体した可能性を取り込んだ姿。
そう、合体ザマスの姿だ。
「ふふ、この姿の我には勝てぬ。それをもう一度、お前に分からせてやろう!!」
二つの薄紅色のオーラを纏う戦士は、互いに高速移動で姿を消し、中央でぶつかり合った。
ブラックの強烈な右拳を、右の手刀を軽く顔の前に構えて受け止めるザマス。
左手は後ろ腰に置いている。
「…クッ!!」
超サイヤ人ロゼになったブラックでも、ザマスの肉体を押し返せない。
「…どうした? 私を倒すのではなかったか、ブラックよ」
ニヤリと笑うザマスにブラックは灰色の瞳を見開き、気を高める。
「はぁあああっ!!」
薄紅色のオーラが更に噴き上がり、力を増して周りのものを吹き飛ばすも、一向にザマスの手刀は退かない。
ならばとブラックは次々に拳と蹴りを繰り出していく。
それらを紙一重で次々と危なげなく避けるザマス。
「おのれ!!」
右中段回し蹴りからの左ストレートを放つブラックだが、簡単にザマスは左手を胸の前に置いて蹴りを止め、左ストレートを右腕で受け流しながら、滑るようにブラックの脇に移動する。
「な!?」
「甘いな、ブラック!!」
左ストレートを放った姿勢のまま、気がつけば自分の左脇に移動しているザマスにブラックは戦慄した。
同時に強烈な右ストレートがブラックの頰を打ち抜いて後方に吹き飛ばす。
「…まだだ!!」
「戦闘民族の肉体のせいか。真っ向から来る姿がヤケに馴染んで見えるな、ブラックよ」
「その余裕を悔いて詫びろ、貴様の命でな!!」
更に拳と蹴りを繰り出してくるブラックにザマスも拳と蹴りを返していく。
だが、首を仰け反らせるのは一方的にブラックだった。
瞬く間にボロ雑巾のようにされて行くブラックだが、彼は決して退かない。
その姿は奇しくも、幾度も世界を救ったサイヤ人のソレに酷似していた。
己が最も忌み嫌うサイヤ人の戦い方をブラックは、己よりも遥かに高みにいるザマスを相手にすることで開放したのだ。
考えるよりも先に身体が動く。
ブラックとなったザマスは無我夢中で拳と蹴りを繰り出して行った。
「…ザマス。惑星サイヤの力を完全に己のモノにしおったか。しかし、ブラックもまたサイヤ人・孫悟空の肉体を使いこなしつつある…!!」
「現状はザマスが圧倒的に有利ですが、悟空さんの肉体を使いこなしつつあるブラックも戦闘力が引き上がって行ってる。やはり、どちらのザマスも危険ですね」
ゴワスにシンが頷きながら応える。
だが、拮抗はすぐに破れた。
「…ぐ、おお…!」
高速移動と残像拳で狙いを散らしながら迫るブラックを、ザマスの強烈な裏拳が頰を射抜いて、後方に吹き飛ばしたのだ。
「神の力を思い知るがいい、ブラックよ」
バク転しながら右拳を握り、打ち込んでくるブラックを前にザマスは左掌を向けて掴み止める。
「…く!」
完全に止められた拳を睨み付けるブラックにザマスは静かに告げた。
「絶対の雷…!!」
「何ぃ!?」
紫色の雷が掌から放たれ、ブラックの全身を感電させる。
「…ぐぉおおっ!!」
ザマスは突き出すように掴み止めた拳を離し、たたらを踏んで下がるブラックの前に踏み込むと痛烈な左後ろ回し蹴りを腹に入れて、天高く蹴り上げる。
強烈な蹴りと雷に感電したブラックは、無防備な状態で宙に浮き上がる。
「…ザマス!!」
ゴワスが思わずブラックに叫ぶと同時、ザマスはブラックに向けて右手の親指と人差し指、中指を立てて剣指として太陽のような赤い光の玉を作り上げた。
「さらばだ、ブラック。お前はもう一人の私にして、我の目を覚まさせた師でもあり恩人でもあった。せめて苦しまずに逝くがいい。ーー聖なる逆鱗」
強烈な光の玉は無防備なブラックを飲み込み、更に天高く打ち上げる。
「…散れ」
ザマスの言葉に応えるように、紅の光弾は天頂で爆発した。
ゴワス達が息を呑む中、ザマスの目の前の地面に黒い影が激突した。
見れば、完全に気を失い白目を剥いた黒髪のブラックだった。
「…しぶとい男だ。まだ、辛うじて生きているか」
クスリと笑いながら、ザマスは静かに剣指を作って倒れたブラックにかざす。
その前にゴワスが立ち塞がった。
「…ザマスよ、もう良いであろう。お前の勝ちだ」
静かに告げるゴワスを前にザマスはニコリとしながら、剣指を下ろして言葉を返す。
「…自分を殺そうとしたブラックを庇うとは。貴方は、本当に神としては甘すぎる」
「慈悲の無い神等、誰が縋ると言うのだ?」
これにザマスは応えずに微笑むと、界王神達に背を向けた。
「全王の下へ行かれるのでしたら、消されぬようにお気をつけください。如何にゴワス様達と言えど、消された後の世界にまであなた方を象るつもりはありませんから」
同時に気絶したブラックの肉体が、界王神界から弾かれていく。
姿を完全に消したブラックをゴワスは瞳を細めて呟いた。
「あやつは、もう不要ということか。ザマス」
「ええ…。私の考えを理解できぬ愚神に成り下がったブラック等、用はありません」
「…良いだろう。お前の下に留まろう」
静かにゴワスはザマスの目を見つめて告げた。
これにシンとキビトが目を見開く。
「ゴワス様!? いったい、何を!!」
「なりません! こやつは、ゼノ殿とは明らかに違う!!」
当然、大反対する第7宇宙の界王神達に、ゴワスは深々と頭を下げた。
「頼む。別次元とは言え、私の弟子なのだ。最後まで見届けさせてくれ。愚かな弟子の末路を」
ゴワスの決意の固さに、思わず黙り込むシンとキビト。
当のザマスは、やはり彼らに背を向けたまま口許だけを柔らかく歪めた。
「……フ」
ーーーー
未来次元の地球。
レジスタンスのアジトにて、黒い道着に赤い帯を巻いた男が倒れている。
アジトの床に寝かされた彼を取り囲んでいるのは、トランクスとブルマにマイ、ガーキンとプリカだった。
廃墟と化した西の都を巡回警らしていたメンバーの二人が倒れていた男に気付き、トランクス達に向かって指示を仰いできたのだ。
ボロボロにされて虫の息となったブラックを前にトランクスは無表情のまま、呟いた。
「…間違いない。ブラックだ」
「みてえだな。なんでボロボロになってんのかは知らねえが、正直いい気味だぜ」
ガーキンが静かに口許を歪めながら呟く横で、ブルマがブラックを睨みつける。
「…こいつが、此処までボロボロにされるなんてね」
「でもチャンスだよ! 今のうちに止めを刺せば!!」
マイの言葉にレジスタンスのメンバー全員が頷くも、誰も銃を突きつけるだけで撃てない。
下手な攻撃は、敵を目覚めさせるだけだとメンバーは痛いほどに知っているからだ。
そんな中で、背中の剣を抜き放ってトランクスが前に出る。
「皆は下がってくれ、止めは俺が刺す!!」
「待ちなさい、トランクス」
「母さん?」
止めを刺そうとする息子を止めて、ブルマは静かに告げた。
「あんなに強かったブラックを此処まで叩きのめした。たぶんソイツは、ザマスって界王でしょ。このままコイツを殺したら、ゼノ君とガーキンの二人だけしか闘えなくなるわ。コイツも戦力になるなら、使わない手はない」
「何を言ってるんだ、母さん!! コイツが俺達の味方になるもんか!! コイツは、ゼノさんや悟空さんじゃない!! 大勢の人間を殺したんだ!! 許せるもんか、絶対に!!!」
瞳から涙をにじませながら叫んで剣を構えるトランクス。
その腕にブルマが必死で抱き着いた。
「こらえて! 今は、今はこらえて!! 皆を助けるために、私達が生き残る可能性を少しでも増やすために!! ここでコイツを殺すわけには行かないのよ!!!」
「…ブルマさんよ。悪いが、俺もトランクスと同じ意見だ。コイツは、此処で殺したほうが良い。ゼノと中身は似てるかもしれねえが、コイツは手の施しようがねえ。一思いに殺した方が安全だ」
淡々と静かな表情で告げるガーキンの瞳には、怒りが燃えている。
その表情を前にしてもブルマは気丈な瞳を返した。
「今、コイツを殺して! その結果、もっとヤバい展開が待ってるかもしれないのに!! それなのに、憎しみを優先しようって言うの!!?」
「母さん。母さんの言うことは正しいかもしれない。コイツを殺しても、誰も蘇りはしないし、それならコイツを戦力として加えた方がいいかもしれない。でも、そんなこと。たとえ、コイツが首を縦に振ったって俺は認められない!!!」
「トランクス!!!」
ブルマが必死に食い止めようとする中、静かで落ち着いた声が告げた。
「待ってくれ」
皆が目を向けた先には、ヤジロベーに肩を借りて立つ、黒い道着に赤い羽織に水色の帯を着けた青年がいた。
ブラックと同じ魂を持ち、孫悟空の肉体を持った男ーーゼノだった。
「ヤジロベー。ソイツを治してやってくれ」
「ゼノさん!!」
トランクスが制止の声を上げる中、ゼノは告げる。
「私だって許すつもりはない。コイツだけは。だけど、弱って抵抗できないコイツを殺すような真似はしたくないんだ。かつての私なら、トランクスの意見に賛同できたのだがな。厄介なヤツだ、孫悟空ってのは」
苦笑するように告げるゼノをポカンと見つめるトランクス。
ブルマが静かにゼノに問いかけた。
「傷は?」
「ヤジロベーのおかげで、すっかり治った。体力が戻ってないから、肩を借りなければならなかったがな」
「そう、良かったわ。それで、ゼノ君ーーううん、敢えて孫君と呼ばせてもらうわ。ブラックを治してどうするつもりなの?」
「……フルパワーのブラックと闘い、そして勝つ」
ハッキリと言い切ったゼノに皆があっけに取られる中、ブルマは高らかに笑った。
「あはははははははは! ホント、孫君て! ピッコロの時から変わってないんだから!! あはははははははははははは!」
遠慮なく元気に高笑うブルマをトランクスが呆然と見た後、自分のよく知る頼もしい笑みを浮かべたサイヤ人を振り返った。
界王神、破壊神、惑星の意思、過去、未来、現在の世界。
そして全王を巻き込んだ闘いは、更なる混迷を迎えていた。
次回もお楽しみに!(^^)!