しかし、満身創痍の二人の下へザマスからの刺客が送られる……。
廃墟のビルが並び立ち。
灰色の雲が空を覆う中、腰まである長い黒髪を靡かせて、一人の長身瘦躯の男が冷酷な笑みを浮かべる。
「貴様も惑星の意思が生み出した別時空の可能性だと言うのか…」
ボロボロの肉体を無理矢理に起こして立たせ、ブラックは男を睨みつける。
その横でゼノも、肩で息をしながら男に体を向けた。
男ーー究極の人造人間・超17号は淡々とした表情で、二人の孫悟空を見据えた。
「ーー俺の世界の孫悟空とは、随分と雰囲気が違うようだ。界王ザマス、だったか? 妙な奴に体を奪われたものだな」
冷たい美貌に侮蔑の笑みを浮かべ、超17号は告げた。
これにブラックが肩で息をしながら、残忍で冷酷な笑みを返した。
「惑星の意思の力で呼び寄せられた怨霊無勢が。神たる私の邪魔ができると思わんことだ」
笑みを強める相手に、ブラックが黒に近い紫の気を纏う。
「神を畏れぬ不届き者め! あの世で後悔するがいい!」
超17号は肩を軽くすくめて見せると、笑う。
「いいのか? そんな満身創痍の体では、俺の相手にはならんぞ」
「愚かな下等生物め。神の力を貴様の物差しで測るな!」
瞬間、ブラックが前傾姿勢で一気に踏み込む。
「待て! ブラック!!」
ゼノの制止の声も振り切り、高速移動で姿を消してブラックは超17号の目の前に現れる。
両の拳を握り締め、殴りかかった。
「はぁぁあっ!!」
顔面に繰り出した一撃は、簡単に左手で掴み止められる。
衝撃で瓦礫が舞い上がるも、超17号は笑みを絶やすことなくブラックに告げた。
「なんだ? こんな程度なのか? 力を使い切ったとはいえ、俺を倒した次元の孫悟空なら。もう少し楽しませてくれたんだがな」
超17号の脳裏に浮かぶのは超サイヤ人4を破られて尚、自分を倒した孫悟空の姿。
「私がヤツにーー孫悟空に劣ると言いたいのか? …貴様!!」
「ククク。違うというのなら、見せてみろ!!」
同時、両者は高速移動で姿を消す。
空と地を駆け巡り、地面を衝撃波で凹しながら、二人の拳と蹴りが次々とぶつかり合う。
その数十秒後に一際鈍い音が響いたと同時、地面に背中から叩きつけられて引きずられるように後方へ吹き飛ぶブラックの肉体。
「…やはり、こんなものか。超サイヤ人になれない状態でも、そこそこは強いと聞いていたが。期待外れだ」
「お、おのれ…! 本当に体力を使い果たしていると言うのか…!!」
ダメージを与えられた分だけ己の戦闘力に変えられる特性があったブラックだが、今はその力が発動していない。
どうやら、ゼノとの闘いでダメージ総量が肉体の限界を超えているようだ。
超サイヤ人ロゼの状態ならば、此処まで体力を使い切ることはない。
やはり真・超サイヤ人はサイヤ人の肉体能力を悟空以上に使いこなすブラックにとっても諸刃の剣だったようだ。
ダメージを与えられることなく、限界を超えた力を自分の意思で引き出せるのが真・超サイヤ人の利点だ。
しかし、代わりに体力と気力が根こそぎ奪われる。
今までは惑星の意思の力で、変身している間のデメリットが無かった。
また先程、真・超サイヤ人に変身した自覚のないブラックはゼノとの戦闘ダメージが肉体の限界を超えてしまい、疲労のピークに達しているのだと結論付けているが。
実際には、真・超サイヤ人で限界を超えた闘いをゼノと行ったが故、肉体だけでなく精神も限界に達しているから今までの比ではない疲労を感じているのだ。
不撓不屈の精神。
どれだけ劣勢になろうとも、決して諦めずに挑む心こそが真・超サイヤ人に最も必要な力だ。
それは正に、戦闘民族サイヤ人の理想である。
敵の強さに恐れを抱き、竦んだとしても決して絶やさぬ闘争心こそがサイヤ人の源なのだ。
悟空やベジータ、悟空の父・バーダックや息子の悟飯のように、どんなに絶望的な差があろうとも挑む心こそが真・超サイヤ人の源。
ブラックーー破壊神との戦いを避け、不意打ちで界王神を殺した次元のザマスの狡猾さとは無縁の猛々しさが求められるのだ。
忌々しげに睨みつけるブラックを前に、悠然とノーガードで立つ超17号。
ブラックの隣にゼノが並び立つ。
超17号は冷たい笑みでゼノを見つめる。
「お前もガス欠だろう? それで俺に勝つつもりか?」
「…やってみなければ、分からない!!」
「ーーフン。昔、そう言って顔の半分を吹き飛ばされた旧型がいた。そんなセリフを吐くヤツの末路は大概、決まっている」
嘲笑を浮かべる超17号に、ゼノが殴りかかった。
その悟空とザマスの融合した鋭い動きに超17号はニヤリと嬉しげに笑った。
「楽しませてくれそうだ!」
繰り出される拳を掴み止めるのではなく、超17号は正面から殴り返してきた。
衝撃が肩を射抜くも、歯を食いしばり耐えるゼノ。
そのまま、ゼノは突き出した拳を相手の拳の下に滑りこませ、剣術の巻き技のように円の動きで真下から上に跳ね上げながら、懐に滑るように踏み込む。
見事な動から静、剛と柔の兼ね合わさった動き。
「はぁっ!!」
超17号の顔に彼の右側面へ回り込みながら、懐に踏み込んだゼノの強烈な右ストレートが炸裂した。
顔で受け止めた超17号は、自らを襲った拳を前にしながらニヤリと笑う。
咄嗟にゼノは出した拳をそのままに、バックステップして距離を取った。
「…なるほど。お前はソイツと違って孫悟空本人でもあったな。素晴らしい動きだ」
パチパチと拍手する超17号に、ゼノは瞳を静かに鋭く細めて背中の如意棒を鞘から抜き放った。
「…気は尽き、体力も底だというのに。大した精神力だな、諦めが悪いことだ」
歯を食いしばり、如意棒を両手で持って構えるゼノ。
隣で肩を上下に移動させながら立ち上がり、ブラックは右手刀を構えて光刃を作り出した。
「まだだ…っ!!」
武器を構える両者に超17号は笑いかけた。
「涙ぐましい努力だな。黒い方はともかく、赤い方は気弾のひとつも使えないーーか」
ニヤリとする超17号にブラックは目を見開く。
笑顔のまま姿を消す超17号。
次の瞬間にはゼノとブラックの後方へと回り込んでいる。
「しま!?」
「なに!?」
肘と膝がまともに両者の振り返った顔に打ち込まれ、後方へ吹き飛んで瓦礫の中に叩き込まれ土煙が立ち上った。
ーーーー
「ゼノ君!!」
ブルマが思わず声を上げる。
あまりに一方的な展開だ。
ゼノとブラックが揃って何もできないでいる。
「これが、悟空さんの別次元の敵」
プリカが静かに呟く。
ストレートのつややかな黒髪をなびかせながら、彼女は目を細める。
「真・超サイヤ人となった戦士以外にも、世界にはこんなにも強い存在が居るのですね…!」
気を全く発しない存在でありながら、超17号の戦闘力は神の魂と戦闘民族の肉体を持つゼノとブラックの二人を一方的になぶっている。
いくら力を使い果たしたとはいえ、この二人がこれほどにまで一方的に追い詰められるなど、普通はない。
ヤジロベーがブルマとザンギャに声を上げた。
「おみゃあら、ヤバくなったら孫達を連れてくっから逃げ道を用意してちょーよー!!」
ヤジロベーの覚悟を決めた言葉にブルマも頷く。
「…分かったわ。この廃墟の都市にも避難経路は作ってあるから」
「…ヤジロベー、死ぬんじゃないわよ」
そっぽを向いたザンギャからの言葉に、ヤジロベーは振り返ってニィッと笑う。
「誰に向かって言ってるんでしょー!! 俺は天下無双のヤジロベー様だぎゃあ!!」
そう言って彼は廃墟のビルが立ち並ぶ道を駆け抜けていった。
(…なんでよ? なんで、あんな弱っちくて醜い男が。あの時のターレスと同じ顔をしてるのよ!?)
ザンギャは自分の胸の辺りに拳を握る。
胸騒ぎがする。
これから、もっととんでもないーー絶望的なことが起こるような。
そんな予感がすると、ザンギャは胸騒ぎを抑えるように更に強く拳を握った。
ーーーー
超17号は、淡々とした表情で自分の顔に垂れかかった前髪を両手で整え、オールバックに戻す。
「こんなものか? 孫悟空ゼノにゴクウブラック」
身を起こし、立ち上がる二人の孫悟空。
肩で息をしながらゼノは如意棒を支えにし前を睨みつけ、ブラックは瓦礫に背を預けて支えにして立つ。
「チッ! 肉体の体力が回復しなければ戦闘力も引き上げられん、か」
忌々し気に思う通りに動かない肉体を見下ろして吐き捨てるブラックを横目に、ゼノは如意棒を構える。
赤い棍を片手で回しながら、両手に持って相手に突き出し、手を先端に添える。
「…あきらめの悪い奴らだ」
闘う姿勢を止めないゼノとブラックを見下ろして、超17号はニヤリと冷酷に笑った。
このまま闘えば、殺される。
それを理解しても、ゼノは静かに構えを取る。
サイヤ人の闘争本能が彼に告げている。
奴よりも、もっと上に行け、と。
「…サイヤ人というのは、厄介だ。相手が強ければ強いほどに恐怖とーーそれ以上の闘争本能が腹の底から噴き上がってくる」
ゼノは静かに自分の胸元に拳を当て、気を高める。
白く透明な気を全身に纏い放ちながら高速移動で姿を消し、超17号の側面に回り込んで如意棒を振り上げながら現れた。
超17号は顔の前に小さく右拳を握って掲げ、振り下ろされる紅い棍を見事に受け止めた。
衝撃波が発生し、突風が舞い上がる中で超17号は涼しげにゼノを見る。
ゼノは着地と同時に振り下ろした根を順手から逆手に持ち替え、逆先端側の突きを放つ。
超17号は、まるでボルトで固定したようにゼノが突き出した分だけ後方に背を反らしながら下がって避ける。
「く! つぅおりゃあああっ!!」
避けられたのを悟り、気合いの声をあげながらゼノは棍の穂先が分身して見えるほどに速く無数の突きを放つ。
紙一重で体をかわしながら、超17号は無数に増えた棍の穂先の一つを選ぶと、右拳を開いて掌で軽々と止める。
「…な!?」
目を見開くゼノに笑いかけ、超17号は掌を突き出した。
鈍い音と共に後方に吹っ飛ぶゼノ。
否、吹き飛ばされる瞬間にゼノは自らバックステップする事で衝撃を半減させながら、距離を置いて着地したのだ。
カラカラと音を立てて転がる如意棒を見下ろし、ゼノは舌打ちする。
「…だけど、威力を殺しても如意棒を握ってた両腕が痺れちまったーーか」
冷静な声で淡々と告げるゼノの横から、ブラックが超17号に斬りかかる。
「もらったぞ、人造人間!!」
斬撃音が響く中、ブラックの右手刀から生じた光刃が超17号の体躯を袈裟懸けに斬りつけていた。
ニヤリと冷酷に笑うブラックだが、目の前の超17号は少しも動揺せずに笑みを返した。
「ゼノ(仲間)の体を死角にして斬りつけて来たか。孫悟空と違って勝つ為には手段を選ばないタイプのようだ。もっとも、その場凌ぎにもならない姑息な技だがな」
「なんだと?」
訝しげに眉を上げるブラックの目の前で光刃が粒子になって超17号の肉体に吸収され、斬り裂いた肉体は光刃が消えると同時に、ビデオの逆再生のように戻る。
「…ザマスの不死の特性が、貴様にもあるというのか」
咄嗟に距離を取り、構えるブラックに超17号は淡々とノーガードのまま見下ろして告げた。
「ザマス? 残念ながらハズレだ、ゴクウブラック。孫悟空を名乗るなら、俺の力を見抜くんだな。俺の居た次元の孫悟空も俺の能力に気付いたから、俺を倒せたんだ」
笑みを強める超17号。
次の瞬間には、ブラックの懐に強烈な右ボディが叩き込まれた。
「ぐぅお!?」
前のめりになって目を見開くブラック。
(コイツ。先程よりも攻撃の威力、スピードが桁違いだ! 一体!?)
前のめりの姿勢になった顔を左フックで首を後方へ仰け反らされ、槍のように強烈な右の前蹴りを腹に叩き込まれて、後方に吹き飛ばされる。
再び背中から地面に叩きつけられるブラックを見た後、ゼノは超17号に目をやって黒目を見開いた。
「そうか。貴様、気を吸収したな?」
ゼノの言葉に17号は応えず、ニヤリと笑いを強める。
その反応にゼノは確信した。
「ブラックや私の攻撃を吸収して戦闘力を変えれるのか」
「…フン。流石、孫悟空と言ったところだな。もっとも、ザマスとの融合のためか。お前の方が気付くのが早かったが。ザマスがゼノは“未知”の可能性だと言っていたが、本当にそのようだ」
鋭いアイスブルーの瞳を細めて笑う超17号に、ゼノも自分を支えていた如意棒を構える。
彼の後方で、吹き飛ばされたブラックが黒に近い紫のオーラを纏って立ち上がった。
「おのれ。人形風情が!!」
自分もまた、ダメージを負うごとに戦闘力を上げることが出来る肉体を持っている。
だが、相手はザマスのように肉体そのものを回復させながら、戦闘力を上げられるようだ。
これで気を放つような攻撃や刃での攻撃は、まったく意味を成さないことをブラックは理解する。
「…だが、今のお前達では肉弾戦で俺にダメージを与えることはできない。ジリ貧だな」
他人事のように言い放つ超17号に、ゼノとブラックは表情を同時に苦いモノに歪めた。
「ーーゼノよ」
「なんだ、ブラック?」
超17号から目を逸らさずにブラックに問い返すゼノ。
彼に向かってブラックが告げた言葉は、界王神の弟子であったザマスにしか知りえないことだった。
「合体するぞ」
「…合体? 断る」
「いいから、聞け! このまま闘ったところで私達は確実に奴に負ける。それでは本末転倒ではないか? 勝利のためにも此処はーー!!」
「私の中で一つとなったザマスと孫悟空が、ハッキリと言ってる。断るとな」
「…貴様、現状を理解しているのか!?」
目を見開いて怒るブラックにゼノは淡々とした表情で応える。
「お前こそ、ふざけるな。ザマスは、ポタラを使って一度合体すれば二度と分離することが出来ないことを知っている。孫悟空は、チチと自分の子どもを殺したお前と合体するなど御免だ。何より、どっちの私も罪のない者を殺し抜いたお前と合体などできん。真・超サイヤ人になれるよう体力を回復させた方が、まだ現実的だ」
言い切るゼノにブラックが吐き捨てる。
「愚かな。回復できる状況かどうかーー考えれば分かりそうなものを」
「…だったら私は、意地でも真・超サイヤ人になって奴を倒してやる!!」
白い気を纏い、一気に突っ込むゼノ。
ブラックはそれを見送って舌打ちをする。
「…馬鹿め。今の私達では、真っ向から行って勝てる相手ではないだろうが…!!」
超17号は静かに笑みを浮かべて両手を広げている。
顔に高速移動で姿を消した勢いのまま、右の拳を叩きつけるゼノ。
拳の下で超17号はニヤリと笑みを浮かべている。
「この、野郎ぉおおおっ!!」
ゼノは叫びながら、着地すると同時に左右の拳をボディに次々と叩きつける。
その拳威に、徐々に後ろに引きずられるように両足を後方に下げる超17号。
「つぅおりゃぁあああっ!!」
無数の拳打をボディに叩き込んだ後、強烈な後ろ回し蹴りを鳩尾に叩き込むゼノ。
超17号は、その場から更に数十メートル後方に下げられる。
だが、彼は前のめりの姿勢になるだけで立っていた。
静かに両手を乱れた前髪を整えるのに使い、ジッとアイスブルーの瞳でゼノを見据えてくる。
「どうした? 終わりか、孫悟空」
「…くっ!」
拳を握り、構えようとするゼノの目の前に超17号が踏み込んだ。
「しまっ!!」
強烈な拳がゼノの腹を打ち抜く。
ただの一撃。
「ぐぅおおおおっ!!」
だが、悲鳴を上げてゼノは後方へ吹っ飛ばされた。
背中から地面に叩きつけられ、そのまま後方へ引きずられて止まる。
横倒れの姿勢で地面に寝かされたゼノを、超17号はニヤリと見下した。
「軽く撫でたつもりだったんだが、手加減が上手く行かなかったようだ。すまんな」
ゼノは震える腕で地面を支え、ゆっくりと立ち上がる。
歯を食いしばり、敵を睨みつけるゼノの横にブラックが立った。
「これで分かったろう? 今の私でも、お前でも。奴を倒すことはできないと」
「黙れ。だからって誰が、お前などと…!!」
瞬間、ゼノの赤い羽織の胸倉を掴んで、ブラックが黒い瞳を見開いて叫んだ。
「だったら、皆揃って死にたいか!? このまま奴とやり合って俺達が死ねば、そこの子ども達もヤジロベーも、ブルマも! 皆、揃って死ぬことになるんだぞ!!!」
ゼノもブラックの灰色の上衣の胸倉を即座に掴み返し、叫ぶ。
「貴様が!! 貴様が言うな!!! この世界の人々を殺しまわった貴様が、そんなセリフを吐くな!!!」
「だったら他に手があるってのか!? 俺達が奴に勝つ方法が、オメエにあんのか!? 孫悟空!!!」
「チチと子どもを殺されて、挙句の果てにゃ自分の体を乗っ取っりやがった奴に手ぇ貸してーー。オメエこそ、一体何がしてぇ!? 孫悟空!!!」
互いに睨み合う両者だったが、ブラックが正気に戻った様に目を見開く。
「孫悟空? 孫悟空だと? まさか、私の肉体にーー!?」
そんな二人の孫悟空に向かって超17号は告げた。
「そう言えば、惑星ーーいや、今や世界の意思か。そいつの力が教えてくれたが、お前達はポタラで合体しても1時間しか合体は持たないらしいぞ? ゼノがゴワスよりきちんと界王神の座を受け継いでいれば、合体は一生ものだそうだが、今のゼノは界王神候補だ。界王神以外の者のポタラの合体は1時間しか保たない」
二人は互いに睨み合ったまま、超17号を見返した。
ブラックが驚いた表情で口を開く。
「な、なんだと? ポタラの効力が、そんなものだったと言うのか?」
「…1時間、か」
反対にゼノは激高した表情を落ち着かせて超17号を見据えながら、呟く。
まるで超17号の言葉に嘘がないかを確認するかのように。
究極の人造人間は興味がなさそうに肩を竦めてみせた。
「信じるも信じないも好きにしろ。だが、そっちの黒い方が言うとおりだ。今のお前達程度では、俺の暇つぶし程度の相手にもなれない」
ハッキリと告げられた言葉に、思わずゼノもブラックも屈辱に歯を食いしばる。
その時だった。
「おみゃあら! こっちに来んさい!!」
声をした方を振り返ると、強烈な光が17号の目の前で爆発した。
「……その声は。ぬ!?」
目を覆い隠す超17号の前を横切って、小太りの侍がゼノとブラックに駆け寄る。
「ヤジロベー!?」
目を見開くゼノの横から、ブラックが冷徹にヤジロベーを見下して告げた。
「何のつもりだ、人間? 貴様などが来たところで役に立つと思うのか? 邪魔だ、消え失せろ」
冷徹な声で告げるブラックを見上げ、ヤジロベーが胸を張って応える。
「俺だって、こんなヤベー所になんか来た〜かぁないでしょう! けんど、この状況でおみゃあらの内、どっちかが死んじまったら一巻の終わりだぎゃあ!! 此処は、撤退しかねえでしょ!!!」
自分を相手にも物怖じしないヤジロベーに、ブラックの心の内に今まで感じたことのない感情が芽生える。
そして、ザマスであるブラックが知らない記憶が、頭の中に思い起こされる。
ーー てめー、俺の魚を盗み食いしただろ!! ーー
ーー あ! オラのドラゴンボール! オメエ。やっぱ、さっきの化け物の仲間だな!? ーー
少年の頃の山吹色の道着を着た少年が、小太りの侍の少年と睨み合っている。
「ぐぅ!? な、なんだ、これは!?」
頭を抱え込むブラックを、訝しげにヤジロベーは見上げた。
「なんだぁ? ゼノ、ブラックのヤツどうしたぎゃあ?」
「…いや、私にも分からない」
そう言いながら、ゼノは冷静な表情で見据えている。
ヤジロベーが、思わずキョトンとしながらゼノを見上げた。
「おみゃあ。事情を知らねえって言うわりにゃ、冷静でしょう?」
「……それよりも、今の閃光弾はブルマの開発か。流石だな」
「人造人間に効くかは微妙だったけんど、なんとかなったでしょう!」
ニヤリとするヤジロベーに微笑みかけるゼノ。
だが、彼らの正面に静かに超17号は立っていた。
「!? どっひゃああああ!?」
「…フ、やはり効かないか。すまないな、ヤジロベー。悪いが、先に逃げてくれ」
「な、何を言ってるだぎゃあ!? おみゃあが、この世界の希望ってことくらいは分かってんでしょう!?」
叫び返すヤジロベーに向かって、超17号は一瞬黙って見下ろした。
「……義兄さん?」
「へ? お、俺はおみゃあのアニキじゃねえでしょう!?」
微かに冷徹な人造人間の表情が人間味を持ったことに、ゼノは目を見開く。
「ああ、そうか。お前か、ヤジロベー。この世界の義兄さんは、俺に殺されて死んでいるんだったな。声が似てるから、ややこしい」
「…!! おみゃあ、もしかして、あのパチンコ頭の事を言っとるだぎゃあか?」
ヤジロベーの頭の中にふと、坊主頭の亀仙流の道着を着た小柄な男が浮かぶ。
超17号は、ヤジロベーに懐かしさを感じているような声を上げた。
「…俺達にとって義兄(クリリン)は恩人だったからな。もっとも、俺もこの世界の俺と変わらずに恩人である義兄を、この手で殺してしまったが」
寂しげで悲しげな表情の超17号に、ゼノは思わず目を見開いて見入っていた。
自分(孫悟空)にとってクリリンは、一番の仲間だ。
それを義兄と呼び、慕ってさえいるような超17号の姿は、先程までの冷酷で邪悪な存在と同一とは思えなかった。
「17号。お前は、一体?」
だが、そんな人間味のある表情もゼノを向く頃には消えている。
冷徹にして冷酷な表情と笑みで、超17号は告げた。
「唯一の恩人だった義兄を殺し、実の姉さえも敵に回した俺に残された道は、お前を倒して宇宙最強を示すことだった。それは、今も変わらない。さあ、始めようか。孫悟空」
ゼノが表情を鋭いモノに変えて構えようとする前に、ヤジロベーが叫んだ。
「ちょっと、待ちんしゃい! ゼノは、回復し切ってないでしょう!? それで勝っても、おみゃあが最強だって示すことにはならねえでしょうが!!」
これに超17号は面白そうに表情を歪める。
「で? だから、どうしろって言うんだ?」
「体力が回復するまで、待ってちょぉよぉう! そうすりゃ、全力のゼノと闘えんでしょう?」
「悪くない提案だが、俺も時間が押していてな。ただ待つって言うのは性に合わない」
「そ、そんなイケズな事言わんといて欲しいぎゃあ。お、ね、が、い」
おねだりをするヤジロベーを、ブラックが表情を引きつらせながら見つめる。
「み、醜い」
一瞬の間。
超17号は静かに微笑みを返して右手を掲げた。
「ダメだ」
光弾がヤジロベーに放たれる。
「い、イケズぅううううう!!!」
光弾へ絶叫しながら成す術なく吹き飛ばされようとするヤジロベー。
「ヤジロベー!」
「避けろ、愚か者!!」
ゼノが動くよりも速く、ブラックがヤジロベーを横から蹴り飛ばした。
ヤジロベーを間髪入れずに助けて着地したブラックを、ゼノは呆然と見つめる。
「ぶぎゃっ」
と声を上げて地面に顔面から叩きつけられるヤジロベーを見据え、ブラックは不快げに自分の肉体を見下す。
(…今、体が勝手に。やはり、この肉体に宿ったのか? 孫悟空め)
自分の見たことのない景色が、先程から断片的にブラックの脳内に流れ込んでくる。
味わったことのない感情が、ブラックの胸の内に溢れてくる。
「私を乗っ取るつもりか、孫悟空め!!」
吐き捨てるブラックの前に、超17号が静かに立つ。
「意外だな? 人間をゴミ以下にしか見ていなかったブラックが、ヤジロベーを庇うなんてな。孫悟空らしいと言えば、それまでだが」
「…いずれ、人間は滅ぼす。だが、今は貴様が先だ。人造人間!!」
そう言って構えるブラックの肩を、ゼノが静かに掴み止めた。
「…何のつもりだ?」
ゼノはブラックに向かって決心がついたかのように告げた。
「一時間でケリを着けるぞ」
「…ようやく、その気になったか。私とて反吐が出る思いなんだ、我慢するんだな」
「ああ。今のお前なら、私と合体する資格はあるさ」
互いに憎まれ口を叩き合い、ゼノは左耳の深緑のポタラを外して懐に入れた。
(ゴワス様、今は貴方より譲り受けたポタラを使わせていただきます)
瞬間、ゼノの右耳のポタラとブラックの左耳のポタラが同時に輝くと、両者の肉体を光が包む。
「行くぞ、ブラック」
「よかろう、ゼノ」
そう告げると両者の肉体が胸元からぶつかり合い、一つの光に変化する。
これを超17号は黙って見つめていた。
「ーーフン。少しは楽しめそうだな」
ブルマ達が呆然と見上げる中、ゼノ(紅)とブラック(黒)の孫悟空が合体した存在が姿を現す。
天に向かって黄金に燃える髪を逆立たせ、翡翠に黒の瞳孔が現れた鋭い瞳を持った孫悟空。
その服は黒のインナーに紺色の道着。
その上から上衣のみ山吹色の道着を羽織り、腰の帯は金属製のベルトタイプに変わって「界王」と名前が刻まれている。
ブーツも黒に変化している。
孫悟空・ゼノとゴクウブラックの合体した存在が真・超サイヤ人となり、究極人造人間・超17号の前に立った。
「さて、合体して体力も回復したか。なら、遠慮はいらんな? 孫悟空よ、究極の人造人間の力を味わうがいい」
漆黒のオーラを身に纏い、初めて超17号が構えを取った。
これを前に“孫悟空”は静かに告げる。
「エボリューション・ポタラってところか」
ニヤリと不敵に笑って彼は告げた。
「俺は、ゼノとブラックというほとんど同じ存在の合体。孫悟空・デュオ」
ほとんど同じ存在の合体は、別の人間同士の合体よりも遥かに強力となる。
メタモル星人の使うフュージョンが、ポタラよりも短期決戦ならば優れるとされる理由がそれだ。
ならば神の宝具であるポタラによって、同じ存在だったゼノとブラックが合体すればどれだけの効力が得られるのか。
「人に造られ、その運命を弄ばれた哀れな存在よ。この俺のーー! 真の超サイヤ人の力を思い知れ!!」
孫悟空・デュオの叫びが、燃え盛る黄金の炎と共に廃墟の街に木霊した。