その強さは現代から鍛え上げられてきたバーダックや孫悟飯さえも一筋縄ではいかなかない。
一方、究極の人造人間を退ける為にゼノと合体したブラックの心にも孫悟空の魂が宿っていた……。
強烈な打撃音を響かせながら、金色のオーラを纏う四人の戦士は、白い巨漢に四方向から殴りかかっていた。
四方から同時に襲いかかる苛烈な連撃を紙一重で捌き切る巨漢。
「うぉりゃぁああああっ」
赤いバンダナを巻き、山吹色の道着の上にバトルジャケットを重ね着した超サイヤ人が、強烈な右ストレートを放つ。
轟音と共に太い丸太のような白い腕に軽く横に流されると同時、バンダナのサイヤ人は強烈な返しの右拳を受けて後方へ吹き飛ぶ。
「お祖父さん!! この、野郎ぉおおお!!!」
山吹色の道着を着た青年が両手を組んで白い巨漢の背後を取り、振り下ろすも、巨体に似合わぬスピードで姿を消した巨漢は青年の背後を取って蹴り飛ばした。
「ぐわぁあっ!!」
バンダナの男の上に叩き落される青年。
彼らとは別の方向から二人の男が殴りかかる。
「行くぞ、一星龍! 俺の拳、確かめてみろ!!」
「バケモノ如きが! 俺に勝てると思うのか!!」
白い空手着を着た男と黒を基調とした鎧を着た男が、左右から白い巨漢に殴りかかる。
巨漢は左右の拳で彼らの鋭く重い連撃を巧みに捌き切ると、空手着の男からは右正拳を、鎧の男からは右の廻し蹴りを選んで、それぞれ強烈な右ストレートと左サイドキックを叩き込んで吹き飛ばした。
「身の程知らずのバカというのは、貴様らのことだ」
土煙を上げながら地面に叩きつけられた四人の金色の戦士ーー超サイヤ人達は即座に立ち上がって構えを取る。
強烈な青黒い雷のようなオーラを纏い、白き人型の龍は邪悪に笑う。
向き合うのは、バーダックと孫悟飯、ターニッブとターレスの四人だった。
ベビーは彼らを廃墟ビルの高みから見下ろして、腕を組みニヤリと笑っている。
「四人がかりで、この有樣とは。拍子抜けだぞ、猿ども。所詮、この程度か?」
バンッと硬い金属の板を叩いたような音を立てて胸板を叩く一星龍。
血のように赤い瞳で、金色のオーラを纏う四人の超サイヤ人達を見据えてくる。
「確かに、お前等は強い。俺の世界の赤猿となった孫悟空やベジータに匹敵する強さだ。だが、その程度がお前等の限界なら俺には絶対に勝てん!!」
低い声で言い切る一星龍にバーダックが吐き捨てる。
「とんだバケモンが出て来やがったな。今の俺達四人がかりで、勝ち目がまるで見えねえとは…」
祖父の言葉に頷きながら、悟飯も構える。
今の悟飯は、未来悟飯の前髪と少年時代の超サイヤ人2の逆立った髪の特徴を持つーー父親の超サイヤ人2そっくりであった。
「……ええ。今の俺の力だって、奴が来た時空の俺とは比べ物にならないくらい、強くなってるはずなのに」
悔しそうに翡翠の瞳を細める悟飯に、一星龍が笑いかける。
「ほう貴様、俺の時空の孫悟飯の記憶があるのか?」
「……ああ。父さんを目の前で貴様に殺された記憶もな」
言うと同時、悟飯の気が震える。
父を殺された怒りの力と本来の激しい気性を、孫悟飯という戦士の勘が絶妙にバランスを取っている。
それほどの力を放ち、構えながらも動けずにいるサイヤ人達の中から一歩。
一星龍に向かって歩み寄るのは、白い空手着に赤いグローブを着けた超サイヤ人。
ターニッブだ。
「この俺の圧倒的な力を前にして、絶望せずに挑むというのか」
ニヤリと笑う一星龍を見上げて、ターニッブは静かに拳を握り構える。
「強いヤツに出会える。ただ、それだけで嬉しい」
「……フン。この一星龍様を前に大した余裕だな」
臆することなく告げるターニッブに、一星龍は咆哮すると拳を握って突き出した。
ターニッブも拳を前に突き出す。
両者の中央でぶつかる拳。
歯を食いしばるターニッブと、余裕の笑みを浮かべる一星龍。
両者、絶え間なく拳と蹴りを繰り出し合う。
「ほう大口を叩くだけあって、中々のものだな。これが拳を極めし者とやらが認めた、風の拳か! 」
「…っ!」
辛うじて拳を相殺し合っているが、ターニッブが押されている。
攻撃の重さの桁が違うのだ。
単純なパワーだけでもターニッブ達より、目の前の白い男は上だ。
加えて桁外れの打たれ強さはどうだ。
心の力ーー防御力を無効化するターニッブの拳を受けても、一星龍は平然としている。
一際、強烈な打撃の音が響き、互いに右拳を顔に交換し首を後方へ仰け反らせながら離れる。
「どうした? 俺の防御力に関係なくダメージを与えられるのではなかったのか? もっとも、この程度のパワーでは、いくら防御力を無効化しても俺にダメージ等与えられんだろうがな!!」
余裕の表情で笑う一星龍に、ターニッブは肩で息を切らせながら呟いた。
「強いな…これほどのヤツが惑星の意思以外に居たとは…!!」
「フハハハハハ! 怖気づいたか? 俺は邪悪龍の長、一星龍だ!!」
金色のオーラと青黒いオーラを全身から噴き立たせながら、両者は拳をぶつけ合わせた姿勢から高速移動で姿を消す。
目にも映らない超スピードで、二人の戦士が空と地を所狭しと駆け抜ける。
強烈な衝撃と発生する光の波紋が、二人のパワーの凄まじさを現している。
「…ぐぅ」
両足を地面に擦り付けながら、顔を後方へ仰け反らせた姿勢でターニッブが現れる。
目の前には一星龍が、邪悪な笑みと共に巨大な拳を振りかぶっていた。
「この程度か、サイヤ人!?」
放たれる拳。
体勢を整え、構えるターニッブ。
「させるかよ!!」
その強烈な拳を、左からバーダックが腕を蹴り込んで軌道を反らした。
「ぬぅ!?」
目を見開く一星龍の目の前に、孫悟飯とターレスが懐に踏み込んでいる。
「こいつら!?」
強烈な拳を同時に腹に打ち込む二人。
「合わせろ、小僧っ!!」
「ーー分かってるっ!!」
ターレスの言葉に悟飯も反応し、同時に拳と蹴りを一星龍の頑強で重厚な体躯に連撃で叩き込む。
「ぐ、お」
凄まじい連撃に、一星龍をして咄嗟に反撃できない。
一星龍の動きが止まったのを見たバーダックが、右手に強烈な蒼い光の球を生み出した。
「これで、ふっ飛ばしてやる…!!」
攻撃をガードしながら後ろに下げられる一星龍は、こちらに向かって強大な気を練るサイヤ人に気付き目を見開いた。
「なんだと!?」
同時にターレスと孫悟飯の強烈な廻し蹴りが腹に突き刺さり、一星龍は後方へ退けられる。
腹を押さえた一星龍の前に、蒼い光の球がオーバースローで投げられた。
「喰らいぃい、やがれぇえええ!!」
光の球が一星龍に直撃し、爆発した。
バーダックの左右に孫悟飯とターレスが高速移動で姿を現す。
彼らから少し離れた場所ではターニッブが拳を握り直しつつ、爆発点を見つめていた。
「…あの一星龍を一瞬とは言え退けたか。やはり、俺の知る孫悟飯達とは強さが違うようだ……!」
自分の世界の孫悟空やベジータにも匹敵する存在が今、目の前の四人の超サイヤ人だとベビーは理解する。
その上でベビーは笑みを浮かべた。
「だがーー」
煙の向こうから頑強な影が現れる。
まるで微動だにしていない白い巨漢が其処にあった。
「チッ! ダメージ無しかよ……!」
バーダックが吐き捨てるように告げる中、一星龍はニヤリと邪悪な笑みを浮かべた。
「なるほど、中々のものだ。だが、今のがお前達の最高の技だというのなら、俺には絶対に勝てんぞ!!」
拳を握り、青黒い気を纏いながら一星龍は力を高める。
「まだ気が上がりやがるだと!?」
歴戦の戦士バーダックすら驚きに目を見開く中、一人ターニッブが身に纏う気を炎のように燃やして奮い立たせ、突っ込む。
一星龍はニヤリと笑い、ターニッブの拳に拳をぶつけ合い始めた。
「…なるほど風の拳とは、相手の一撃を僅かに上回る為の拳。無限に気を上昇させる真・超サイヤ人があって初めて完成する境地か!」
ターニッブの身を纏うのは黄金の炎のように激しいオーラ。
ターニッブの瞳は翡翠に黒の瞳孔が現れたもの。
ターニッブの髪は黄金に燃えていた。
「…真・超サイヤ人か」
「ターニッブ。敢えて全力で行くのか」
ターレスが目を見開き、悟飯が瞳を鋭く細める。
圧倒的な力の差を前に、ターニッブは己の真の力を出したのだ。
「これが、俺の全力だ!!」
溢れる力と技を真っ向から叩きつけてくるターニッブに、一星龍はニヤリと笑う。
ターニッブの右正拳突きは、一星龍の首を後方へ吹き飛ばすほどのもの。
それを受けてなお、一星龍は余裕の笑みを浮かべている。
「…フン。孫悟空のような遊びや余裕を持たず、ただただ全力で相手と殴り合うことを望むサイヤ人か。お前のような人間が居たとは、驚きだぞ!!」
殴り返してくる一星龍にターニッブもガードを捨て、拳を固く握り締めて殴り返す。
最初は押されていたターニッブが、徐々に一星龍を元の位置まで殴り返して行く。
「ターニッブの力が、一星龍に届くってのか……!?」
バーダックが拳を握り叫ぶ横で、ターレスが腕を組む。
「…どういうつもりだ? なぜ奴は、力が引き上がると分かりながら真っ向からターニッブと殴り合う?」
「ああ。確かに妙だ。一星龍は、真・超サイヤ人の特性を知ってるはず。なのに何故……? 」
悟飯も首をかしげる中、バーダックが二人を呆れたような表情で見返してきた。
「テメエ等、ターニッブと闘(や)り合ったんなら分かんだろ? あいつの強さには、真っ向勝負で応えたくなるんだよ。自分の力を試したくなっちまうのさ……!」
自信満々に応えるバーダックに悟飯も一つ頷いた後、目を細める。
「……確かに、それはあるかも知れません。だけど、一星龍は惑星の意思から生み出されたもの。負けるかも知れない闘いを自らするとは思えない」
悟飯が真剣に周りを見渡しながら呟くと、ベビーがニヤリと笑い返してきた。
「そのとおりだ、孫悟飯。一星龍は貴様らの真・超サイヤ人の力を引き出させるのが目的なのだ」
「…何のためだ?」
ターレスが悟飯の横から静かに問いかけると、ベビーは更に深く笑う。
「この世界から弾くため、だと言ったら」
その言葉に、三人の超サイヤ人は目を見開く。
「どういうこった、そいつは?」
「……そうか。惑星の意思は世界と一つになってもなお、自分を倒す可能性のある真・超サイヤ人を排除しようとしているのか!」
バーダックが問いかける横で悟飯は静かに頷いた。
「相も変わらず、力はあるが臆病なヤツだ。それで俺たちサイヤ人の名を冠するつもりか、サイヤ!?」
ベビーを睨みつけてターレスが告げると、ニヤリと笑みを返してきた。
「勘違いするな。今の俺に惑星サイヤの意思は関係ない。今、世界を統治するのは神・ザマスだ 」
「なんだと? ベビー。貴様、自分から力を放棄したというのか?」
「世界の意思が俺よりもザマスを選んだと言うことだ。まあ、どちらでも構わん。全宇宙は我がツフル人と化すのだからな!!」
笑みを浮かべて支配をすることを喜ぶベビーに対し、ターレスは吐き捨てた。
「下らねえ…! お前も所詮、支配だけを望む低俗な輩か……!」
「享楽主義の猿に言われる筋合いはない」
構えを取るターレスとベビー。
「バーダック、小僧。貴様らは、其処で倒れてるガーキンとベジータ王子のガキを助けてやるんだな……!」
言うと同時、ターレスがベビーに襲い掛かった。
互いに右の拳をぶつけ合い、気を高め合う。
「…力しか持たなかった男が、よくも此処まで戦闘センスを高めたものだ……!」
「ベジータ王子の力とセンスを取り込んだだけの赤子が、俺に勝てると思ったのか!!」
ぶつけ合う拳と拳、蹴りと蹴り。
お互いに譲らない金色の戦士と銀髪の魔王。
サイヤ人とツフル王の闘い。
「フン、ターレスの野郎。やるじゃねえか!」
「…お祖父さん。!ここはターレスの言うとおり、俺たちはトランクスさんやガーキンさん達を」
悟飯に促され、バーダックも頷く。
倒れ伏したトランクスとガーキンを悟飯とバーダックがそれぞれ助け起こしながら、場を離れようと立ち上がる。
「ま、待ってくれ。ターニッブ一人じゃ、あの一星龍って野郎は…っ!」
息も絶え絶えになりながら必死にすがるガーキンの言葉に、バーダックは淡々と答えた。
「真・超サイヤ人になったターニッブは、簡単に負けやしねえよ。破壊神ビルスにだってケンカ売れるレベルなんだ。たとえ、あの一星龍って野郎がとんでもねえ奴だとしても、負けねえよ」
その瞳には絶対の確信があった。
離れていく戦士達を余裕の表情で見送る一星龍。
それを静かに見つめるターニッブ。
一星龍はターニッブに向き直ると構える。
「フン。真・超サイヤ人…か。惑星の意思が恐れた、お前の力を見せてもらおう! もっとも、時間切れと同時にお前は、この世界より消える訳だがな……!」
「……」
静かに構えるターニッブを一星龍は面白そうに見やって両手を広げる。
「気付いていたか。その上で真・超サイヤ人に変身するとはな。変身が許されている時間内にお前が俺を倒せると思っているのか!?」
「…これは、倒すための力じゃない」
「ん」
赤いグローブを握り締めて、拳を掲げて力強くターニッブは叫ぶ。
「進むための力だ!!」
「…進むための力だと? くだらん、お前達に用意されているのは滅びという運命のみだ……!!」
「たとえそうだとしても俺は諦めない。真の格闘家への道を突き進む!!」
黄金と蒼黒の炎のようなオーラを身に纏いながら、両者は天を駆ける。
勝つのは真の強さを求めるサイヤ人か。
それとも、人々の欲望の果てに生み出された邪悪龍の長か。
雌雄を決するバトルが幕を開けた。
ーーーーーー
一方、超17号を倒した孫悟空・デュオはポタラの効果が切れて、ゼノとブラックの二人に分かれていた。
二人は黒髪の状態で、指一本動かすことさえ苦労するほどに疲弊していた。
「やったわね、ゼノ君! あんな、とんでもないのを倒しちゃうんだもの!!」
ヤジロベーの薬を身体に塗られながら、ゼノはブルマの言葉に頷く。
「まさか、私にもアレほどの力になるとは思わなかった。アレがポタラの力か……」
淡々とした口調でありながら、自分の掌を見下ろし頷くゼノ。
隣では同じく治療待ちして座り込んでいるブラックが肩で息を切らしながら、傷だらけの自らの肉体を見下ろしている。
「…あ、あの!」
そんな彼の下にハルとマキという幼い兄妹が、水に濡れたタオルを差し出してきた。
「……何のつもりだ、人間の子ども達よ?」
静かに問いかけるブラックの表情は、邪悪な笑みを浮かべるでもなく淡々としている。
「私は、お前達を裁くために存在する神だ。今更、ご機嫌取りなどしたところで結果は何も変わりはしないぞ」
その言葉にザンギャが瞳を鋭く細めて構えようとするのをプリカが横から止めた。
「どういうつもり?」
「少し、様子を窺いましょう」
「…地球人の兄妹が悪い神様に殺されなけりゃ良いけど」
「おそらく、それは無いかと思います。以前のブラック様と今の彼は違うように感じますから」
淡々としかし、自信ありげに話すプリカにザンギャがジッとブラックを見やる。
「…だと良いけれど。手遅れになっても知らないわよ」
「……」
ジッとプリカはブラックを、そして静かにそちらを窺うゼノを見つめた。
ゼノは何も言わずにブラックと幼い兄妹を見つめている。
そんな彼らの前でブラックは残忍で冷酷な笑みを浮かべて告げた。
「私は、貴様らの罪深い親を殺してやった」
その残忍な笑い顔と冷たい言葉にマキは脅えて震え始める。
そんな妹の手を取り、兄は毅然とした態度でブラックの黒い瞳を強く見つめる。
「…憎かろう? 腹立だしいだろう……?」
そんなハルを見つめて、邪悪な魔法使いが誑かすようにブラックは囁きかける。
「醜い憎悪の顔を見せてみるがいい。神に逆らう罪深き人間の子よ」
ザンギャが鋭い目付きになってブラックに攻撃を仕掛けようとする寸前に、ハルが応えた。
「俺は、お前と同じじゃない!!」
「…何だと?」
「俺もマキも弱ってる人間に向かって何かするほど、弱くない! 俺の父さんも母さんもお前みたいに弱くない!!」
茫然と目を見開くブラックにハルは強く言う。
その叫びにブラックは一瞬、気圧されたかのような表情を浮かべるが、すぐに気を取り直して笑いかける。
「く、ククク、これは傑作だ。たかが、非力な人間の子どもが、神たる私を弱いというか!!」
その笑みのまま、ブラックはハルを見つめながら立ち上がり、近付いた。
「お兄ちゃん!!」
マキが悲鳴をあげる中、ブラックはハルを見下ろして手をかざす。
だが、ハルは震える体を押さえつけて気丈にブラックを睨み上げてきた。
ゼノがヤジロベーをそっと離しながら拳を握り、ザンギャは掌をブラックに向けて赤い気弾を練り上げる。
だが、ブラックは周りの存在を置き物のように扱いながらハルを見つめる。
そしてーー
「……フン」
差し出された濡れタオルを掴んで自分の顔を拭き始めたのである。
この光景にザンギャは面白くなさそうに構えを解き、プリカはホッと一息をつく。
ブラックは何も言わずにハルから背を向け、廃墟の壁に向かって歩き去って行った。
ブラックが去ったことで、マキがハルに飛びかかる。
「ヤダよ、お兄ちゃんマキを一人にしないでよ!!」
「…あ、ご、ごめん。マキ」
膝をガクガク揺らしながら、ハルは尻餅をつこうとして背中をゼノに支えられていた。
「ゼ、ノ、にいちゃん」
「…立派だった。お前の言うとおりだ、お前は強い。だが二度とこんな無茶はするな」
ハルと泣き叫ぶマキを抱き締めながら、ゼノは告げる。
「お前達こそが、私の希望なんだ。私が守りたいものなんだ。忘れないでくれ」
ゼノの震えるような声に、ハルも涙を流していた。
彼らから離れて座ったブラックの下にヤジロベーが近寄ってきた。
「…何のつもりだ、ヤジロベー」
「おみゃあも、傷を治さねえとな」
どっこらせ、と座りながらヤジロベーは続ける。
「なあ、孫。おみゃあ、なんでブラックなんかに力貸してんでしょー?」
その言葉にブラックは心底嫌そうな顔を見せる。
「その呼び方はやめろ。私は、ザマスだ。ブラックでも構わんが、孫悟空とは呼ぶな」
「…けんど、おみゃあは最初に名乗ったでねが? 孫悟空だってな。人間を皆殺しにするときに」
ヤジロベーの問いかけにブラックは睨み返した後、告げる。
「だったら、なんだ?」
「今のおみゃあから、孫悟空を感じんだぎゃあ。あん時は全く感じなかったんに。なんででしょー?」
すり潰した薬草を塗り薬にして、ヤジロベーはブラックの傷に塗りつけていく。
それだけで肩で息をしていたブラックの呼吸が正常に戻っていった。
「…流石はカリン様の薬、か」
「そうゆうこっだ。やっぱ、おみゃあ孫だべ」
「……間違えるな。私はザマス。界王にして罪深き人間を滅ぼす存在だ」
それだけを告げ、ブラックは自分の内なる世界に目を向ける。
ーーーーーー
白い世界に、二人の心がある。
ただし片方は死者の魂の為、時間の経過と共に朧気になっていってるが。
「…何のつもりだ、孫悟空。貴様の、人間の語る正義など私に何の影響もないぞ」
ブラックは目の前にある人物に声をかけた。
すると、朧気な肉体は形を作り、山吹色の道着を着た男に変わる。
「……ザマス。オメエが人間に見たんは、こういう事か」
神妙な顔になる孫悟空にザマスーー否、ブラックは笑いかける。
「そうだ。自分達がどれだけ、罪深い存在か、理解したかどれだけ導いても、世界を食い尽くすしか能の無い人間ども……!」
孫悟空には、ザマスの見た記憶が流れている。
そして、ブラックにも孫悟空の記憶が流れてきていた。
「…なるほどな。オメエの言うことも、間違っちゃいねえな。確かに、人間はやり過ぎだ。オラ達も、ドラゴンボールに頼って地球にゃ大分無理なことして来たかんな……!」
「己の罪を認めるだけの知能はあったか。ならば、私に全てを寄越せ! 貴様の魂も心も記憶も肉体も、全て私に差し出すのだ!!」
真・超サイヤ人の力があれば、自分は更なる高みに至るとブラックは確信していた。
目の前の屈強なサイヤ人の魂を取り込めば、自分は真・超サイヤ人へと自在になれる。
笑うブラックに悟空は静かな表情で告げた。
「けどよ。オメエのしてる事が正しいたぁ、オラには思えねえ。オメエは、罪もねえ人々を殺した。チチや悟天も。そして、界王神様達や神様達を皆殺しにして人間を殺してる。そんなオメエのやり方が正しいとは、オラ思えねえ」
「…罪もない人間? この私の記憶と心を覗いたのに、まだ分からないのか? 罪無き人間など、居ないということに……!」
叫ぶブラックとは対照的に悟空は静かな表情で答える。
「じゃあ、人間が存在することの何が罪なんだ?」
「全てだ! 人間が居ることで世界は汚れる。その汚れは人間さえ居なければ起こらない。人間は言葉を語り、知能を持ち、文明を持つに至って尚、世界を汚すことしかできぬ。存在することこそが、罪なのだ……!」
叫ぶブラックに悟空は何も言わない。
ブラックの目には、ある光景が浮かんでくる。
裸の尻尾のある赤ん坊が球型の宇宙船に乗せられ、地球に放たれる光景。
地球で赤ん坊が穏やかな老人に拾われる光景。
亀の甲羅を背負って修行する光景。
孫悟空そのものの感情と記憶がブラックーー否、ザマスに流れてくる。
「……だから、どうした? 人間にも正義と悪があると言うのか? 罪無き人間が、ほとんどだと? 笑わせるな」
「なら、何でオメエは泣いてる?」
「……っ」
目を見開くブラックの前に、孫悟空は静かな表情のまま告げた。
「ザマス様。オメエは、正義感が強過ぎんだ。でもよ、神様だって間違えんだぜ……!」
「私が、間違えているだと? 人間が神に向かって誤ちを指摘するだと? 奢るのもいい加減にしろ!!」
「なら、何でオメエは此処に居るんだ? オラの体を乗っ取ってまでして、別の世界に来て。何で神を皆殺しにする必要があった?」
「神が間違っているからだ! 人間を許す神の罪を贖うためだ! 私が唯一の神となり世界を救うために、必要だったんだ!!」
「…そんだけ自分が正しいって思ってんのか。ならよ、アンタが正しいなら。どうして誰もアンタの味方にならねえんだ?」
孫悟空の問いかけにブラックは固まる。
ニヤリと笑ってブラックは告げた。
「何を言い出すかと思えば。神々が誤ちを犯したのだ。誤ちを犯す愚かな神の味方など私には不要!!」
「必要か、どうかじゃねえよ。アンタが自分の正義が正しいって思うんなら、何で全ての神に問いかけずに殺したんだ? 分かってたんだろ、賛成されねえって」
「…フン、誤りの存在である神々の賛同など不要だっただけのことよ」
「神様なのに、他の神様達の言葉は聞かねえんだな。アンタは」
悟ったような悟空の言葉に、イラついたブラックは返す。
「何が言いたいのだ、孫悟空」
「オメエが間違っているのを教えてくれた奴がいる。ゴワス様だ。けど、オメエは自分の意見しか聞いてねえ。昔、オラもやらかしてピッコロに叱られたけんどよ。アンタはそれを知ろうともしねえんだな」
ブラックは瞳を細めて孫悟空に問いかけた。
「知ったから、何になる。間違いを犯す連中の考えなど知る必要が何処にある?」
「何で、神様達や人間が間違えるんかをアンタは考えねえ。アンタは自分を基準にしてっから見えねえんだ」
悟空の言葉にブラックは瞳を細めた後、告げる。
「正義を貫くことに変わりはない。誰の、どんな考えを知ったところで、だ……!」
「それじゃ、誰も救えねえ。良いとこ、救えんのは自分だけだ。世界なんて救えやしねえ」
「なんだと!? 私の何が違うという!! ゼノのように私を惑わすか、孫悟空!!」
怒りの表情になるブラックに対し、悟空は告げた。
「悪を倒せば平和になる。確かにそうかもしれねえ。でもよ、アンタが一人で管理する世界は滅ぶぞ」
「……なぜ、そう言い切れる」
問いかけに悟空は淡々と返した。
「簡単だ。アンタはあくまで北の界王様だ。界王神になっても、世界そのものを見るにゃいっぱい神様が居るんだ。アンタ、それを皆殺しにしちまった。アンタ一人で全宇宙の星々を管理できんのか?」
「……」
何も言わないブラックに悟空は淡々と続ける。
「な? 自分だけで出来るこたぁ、限られんだろ?」
「だから、他の神々に意見を聞けと? 誤った意見しか持たない神々に?」
ブラックの問いかけに悟空はニヤリと笑って返す。
ブラックにはセルと悟飯が戦うとき、ピッコロに悟空が叱られる光景があった。
「これしか、ねえんだ。悟飯の中に眠ってるパワーを引き出すためには悟飯が怒るしかねえ…!!」
記憶の中、悟空が苦渋の表情で告げると。
ただ一人だけ、彼に異論を唱える者が居た。
彼の終生のライバル、ピッコロだ。
「悟空、貴様は間違ってる。その話、悟飯にちゃんとしたのか? 二人で話し合ったのか!?」
ピッコロは続ける。
今、悟飯が感じているのは怒りなんかじゃない。
どうして父さんは助けてくれないんだろう、僕の命よりもフェアな戦いの方が大事なのかと。
「忘れるな、アイツはまだ子どもだ!!」
ブラックの視界が再び白い世界の悟空に向けられる。
「君にとって、強敵との戦いは一対一。下手な怪我を負った相手には本気になれない。息子が遠慮なく本気で戦うためにセルに仙豆を与え、息子が容赦なくセルを倒すために敢えてセルを挑発した。だが、悟飯は君の期待以上の才能はあったが、思っていたような戦士ではなかった、か……」
ブラックは、神妙な表情で悟空を見つめる。
「…ああ。オラは、ピッコロに言われるまで気づけなかった。悟飯が自分を超えてくれたって喜んで悟飯の気持ちを気づけなかった。なぁ、ザマス様。自分の気持ちだけで出来る事は、限界あんぜ。だからよ、間違いを正してくれる奴も要るんだよ」
そう告げた悟空は明るく笑って告げる。
「ゼノを見た時にオラ、感じたんだ。アンタとゼノの違いは他人を認めれっかどうか、だってな。神様ならよ、許す事も覚えてくれよ、ブラック」
それだけを告げて、孫悟空は白い世界に消えていく。
自分の感性や記憶や想い、戦いの記憶の全てをブラックに吸収されていく。
白い世界に一人残されたブラックは、静かに顔を上げた。
ーーーーーー
目の前には変わらず自分を治療するヤジロベーが居た。
彼の向こうからハルとマキの手を取りながらこちらを向いているゼノに目を向け、ブラックは邪悪に笑った。
「せいぜい足掻け、人間ども。その存在価値を神(私)に許して欲しくばな」
ブラックの言葉にゼノが静かに瞳を鋭く細めていた。
次回は、明日の午前7時です。お楽しみに(*^^*)