彼の純粋な闘志と強さを前に、絶対を名乗る神は一人の戦士としての魂を揺さぶられるのだった。
ターニッブの右正拳突きが閃光の如く走った。
両腕を交差させて受けたザマスの体が揺れる。
「ターニッブさん……! 凄い攻撃力だ!!」
「なんという鈍い拳打の音……。界王神様、やはり彼ならば!」
「ええ! ターニッブさんなら、ザマスを倒せる!」
喜ぶ第7宇宙の界王神シンと付き人のキビトだが、隣の厳つい顔の第10宇宙の界王神ゴワスは深刻な表情を変えない。
「確かに。ターニッブ殿の力はザマスを追いつめているように見える。ーーしかし」
ゴワスの言葉を肯定するように、金髪を靡かせて超17号が口を開いた。
「フン、めでたい奴等だ」
「なっ!? なんですって、人造人間!」
若き界王神シンが睨み付けると、超17号は冷酷な笑みを浮かべて返す。
「めでたいと言ったのだ。まさかあれがザマスの全力だと思っているのか?」
すぐさまキビトが反論した。
「デタラメを言うな! ザマスの力は確かに強い! だが真・超サイヤ人となったターニッブ殿は、そのザマスのレベルに追いついている!! 気のレベルが互角ならば、あとは純粋な武の技がものを言う! ザマスにターニッブ殿を跳ね返せるだけの格闘センスがあるわけない!!」
「当たり前です! ターニッブさんは、悟空さんと互角だったんですから。ザマスに悟空さんを上回るだけの格闘技のセンスがあるわけがない!!」
キビトの意見にシンも賛同して追い討ちをかける。
しかし、超17号は余裕の表情を崩さない。
「まあ見ていろ。たしかにザマスだけのセンスならば、ターニッブには勝てまい。だがヤツは『世界の意志』と融合し、絶対の神となった。世界に存在するすべての可能性、センス、それらを取り込んだということだ。ーー勝てると思うか?」
強烈な炸裂音とともにザマスの左ストレートがまともに入り、ターニッブの首が後方に仰け反る。
更に鈍い音が響く。
見れば、ターニッブの体はくの字に折れていた。
ザマスの右ボディブローがターニッブの腹に深く突き刺さっている。
前のめりになりながら、後方に引き下げられるターニッブ。
「絶対の神となった我を相手によくぞ、ここまで戦った。だが、これで終わりだ。永久に眠れ!!」
ぱっと閃光が空に閃くや、ザマスの気が急速に右拳に集約された。
界王神たちの背筋に悪寒が走った瞬間、それはターニッブの顔面に向けて放たれている。
キビトとシンが同時に叫ぶ。
「いかん! あの一撃は、ザマスの全霊の拳!!」
「まともに受ければ、ターニッブさんといえどもひとたまりもない!!」
ターニッブの眼前に迫る拳。
だがザマスの目には、ターニッブの瞳が映っている。
(この男……! まだっ!?)
紙一重で拳の下をかいくぐられる。
「おお! あれは、悟空さんの龍拳を破ったーーっ!」
強烈な右ボディアッパーがザマスの鳩尾を捉える。
ザマスの目が見開かれた。
(真・昇龍拳……っ!)
その技の正体を見破ったときには既に、ザマスは天高く舞い上げられていた。
「おお……! なんという!!」
「ザマスの全身全霊の一撃を、紙一重でかわしつつ全力で拳を叩き込むなんて!?」
ゴワスが感嘆の意を込めて叫べば、キビトが興奮に拳を握り締めている。
彼らから離れた場所では、背中から地面に叩き落とされるザマス。
彼の目の前にターニッブが着地した。
「ほぅ……。合体したザマスからダウンを取るか。流石だな、ターニッブ。だがーー」
関心したように眉を上げる超17号だが、すぐに冷たい笑みを浮かべる。
「それも、ここまでだ」
超17号の発言に、シンとキビトが目を見開く。
「なにを!?」
「あの一撃を喰らって、立てるモノなど!!」
超17号の言葉を肯定するように、ゆっくりと仰向けに倒れていたザマスが立ち上がった。
目を見開く神々を他所にザマスは笑う。
「心地よい痛みだ……。見事としか言いようがない。さすがだぞ、真・超サイヤ人。残念だーーこの楽しいひと時を終わらせねばならんとはな」
ダメージを受けていない。
その事実にシン達は絶句していた。
動揺する神達の中、ザマスと直接対峙しているターニッブは淡々と拳を握り、構えを取っている。
「まだ、立ち上がるのかーー!」
何処か、相手を讃えるような。
立ち上がった相手に喜びを現すような。
感情のこもった声でターニッブが呟く。
その声に笑みを返しながら、ザマスが告げた。
「真・超サイヤ人の力は存分に、この身で味わった」
勝ち誇るかのように笑みを浮かべ、手を広げて気を高めるザマスにシンが目を見開いた。
「まさか、ザマスは!? 奴の狙いは!!」
ザマスの顔の右半分を隠す長い前髪と、天に逆立った白髪が黄金に燃え上がる。
ザマスとターニッブの間に天から“声”が落ちてくる。
ーー 我が志(こころ)、サイヤの神道(みち)を求む(ん)。我、無量劫(むりょうこう)に至りて欲深きを離れ、正(まさ)に念ず。志(こころ)清め、真行(しんぎょう)を修む(ん)。
その声は老若男女のいずれにも聞こえるが、逆にいずれにも聞こえない。
一つの声のようにも、多くの声が重なったようにも聞こえる。
銀色に黒の瞳孔が現れた瞳は翡翠へと変化する。
ーー 天! 我をサイヤの神と為(な)し。
祝詞を唱える声は神々しくもあるが、同時に禍々しく。
世界の終わりを嘆くように。
憂うようにーー喜ぶように。
声高に叫んでいる。
顔立ちと肌の色、耳の形がターニッブや悟空、ベジータやブロリーのようなサイヤ人の姿に変化していた。
ーー 我! 真なるサイヤの神なり!!
シンが光から現れたザマスの姿を見て、我知らずに震え出す。
「あれは、この世界の全王様を弾いた姿! 神の魂と力を持つ真・超サイヤ人か!!」
白金色の炎のようなオーラを身に纏い、無駄なく引き締まった肉体と2メートルを越える長身となった、真なるサイヤ人の神が姿を現した。
「さて、形勢逆転だな。ターニッブよ」
「その姿は……」
翡翠に黒の瞳孔が現れた瞳を鋭く細めながら、ターニッブは自分達サイヤ人によく似た姿・顔立ちとなった神、ザマスを見つめる。
「我が、最も恐怖を感じた真・超サイヤ人。貴様らと戦い、その可能性を取り込むことで私は、存在そのものの次元を引き上げることが出来た…」
己の肉体を見下ろし、拳を握りしめてザマスは語る。
「全王をも弾いた今の私に、人間であるお前が到達することはない。それが人たるお前の限界だ。私を倒したいのならば、人を捨てーー人を超えるのだな」
不敵な笑みを浮かべてザマスは続ける。
「我が最大なる怨敵ーー拳を極めし者。初代サイヤ王リューベのように」
間髪入れず、ターニッブが声を上げた。
「俺は、人を捨てたいとは思わない」
「……何?」
訝しむザマスに、ターニッブは静かに拳を握り語る。
「どんなに強大な力を振るおうとも、俺は人で在り続ける。この拳を振るい、戦いを通して出来た友の為に。そしてーーまだ見ぬ強い奴に出会う為に!!」
足下から青い風が迸って渦巻き、拳に纏わり付く。
黄金の気と青い波動が摩擦して電刃へと変わる。
ターニッブの言葉にザマスは瞳を見開いて、何処か熱病に浮かされたように語りかける。
「…私が唯一の神であることに拘ったように。ターニッブよ、貴様もまた人であることに拘るか。ザマスが世界を浄化するが故に神であったことに拘ったように。貴様はただ、強きものと出会うが為に人であることに拘ると」
「それが、俺の求めるもの。真の格闘家への道だ!!」
轟音と共にターニッブが地面を大きく踏み込んで強く蹴りつけ、一瞬でザマスの目の前に現れると右正拳突きを放った。
ザマスは左掌を無造作に顔の前に出して放たれた拳を電刃ごと、掴み止める。
睨み合う黒い瞳孔が現れた翡翠眼。
「なるほど。貴様は、孫悟空とは違うようだ」
静かにザマスは呟く。
その静けさは、導火線に火が付いた爆弾のようだ。
「貴様の存在は、私(ザマス)という神を根底より否定する。無礼や非礼などという言葉では表せぬ! 貴様の在り方そのものが、私は許せん!!!」
人は神を崇拝するもの。
だが、目の前の男は神に頼ることなく、拝むこともなく拳の道を進む。
「それだけの力を自己研鑽のみに使うーー。貴様のような利己的な人間こそ、私(神)が排除すべき存在だ!!」
掴み止めた拳を弾いて、ターニッブを後方に吹き飛ばすザマス。
ターニッブは空中で身を翻して見事に着地した。
怒りの形相に変わっているザマスを見上げ、拳を握り静かに語る。
「確かにな。俺は強さを求め、拳を振るう。それが利己的だと言うのなら、その通りだ」
「己の罪を認める程度の知能はある、ということか? ならば神の裁きを大人しく受けるがいい!!」
ザマスは膝を曲げて片足だけで立ち、爪先を伸ばして地面に辛うじて付くか付かないかの姿勢を取ると、いきなりターニッブの背後に音も立てずに移動する。
まるで亡霊が移動するように、陽炎が揺らめくように。
「な、なんだ? あの動きは!?」
その運足法を初めて見るシンやキビト、ゴワスが知る由はないが。
この動きこそは悟空やベジータ、ビルスにさえも見切る事を許さなかった鬼神の運足法。
阿修羅閃空ーーと惑星サイヤの戦士達は呼んでいる。
死角に回り込んだザマスは、長身となった己の体格を活かして右拳をターニッブの後頭部に打ち下ろした。
シン達が叫ぶ間も無く衝撃が弾けて爆発する。
「な、何という動きだ。あれだけの高速移動をしながら予備動作が一切なかった」
強烈な右拳の打ち下ろしは、ターニッブの裏拳で止められる。
ターニッブが静かに瞳を細めて呟いた。
「阿修羅閃空、かーー」
「よくぞ避けたーー。だが!!」
右脚を中段回し蹴りの初動で放ち、軸の左脚一本で跳び上がりながら、中段蹴りの軌道から相手のアゴを狙って外回し蹴りを放つ。
まるで軸足をコンパスにして、空中で円を描くように廻し蹴りを放つザマス。
咄嗟にターニッブは右拳を合わせて、ブロッキング(心眼)で受け流すも、瞳は鋭く細まる。
薄紅色の光刃が、ザマスの蹴りの軌道から発生しているからだ。
(この蹴りーー。先の手刀に使っていた気の刃を足先に纏わらせて放っているのか)
ニヤリとザマスは笑いながら、次々と気の刃を足先に纏わらせて蹴りのフォームから斬撃を繰り出して来る。
2メートルを越える長身となったザマスは、スラリと伸びた長い脚を鞭のようにしならせ、或いは槍のように突き出しながら、ターニッブに襲いかかった。
「我が“裁きの刃”を受けよ、ターニッブ!!」
逆袈裟に右の後ろ回し蹴りを放つや、左中段後ろ回し蹴り、右蹴り上げから左の上、中、下段に連続回し蹴りが放たれる。
ターニッブは、放たれた右後ろ回し蹴りを咄嗟に半歩退いて左に見切り、続く左中段回し蹴りを右拳で受ける。
ザマスの薄紅色の斬撃とターニッブの裏拳に纏わる青い火花が、飛び散る。
アゴを狙って放たれた右蹴り上げを身を翻して避けながら、ターニッブは跳び上がった。
「真空ーー!!」
青白い波動の風が、ターニッブを中心に螺旋を描く。
上、中、下段に放たれた連続左回し蹴りに対し、ターニッブは飛び後ろ回し蹴りを放ちながら叫んだ。
「竜巻ぃい、旋風脚ぅうう!!!」
青白い波動の竜巻が発生し、ターニッブを飲み込む。
ザマスも退かず、連続回し蹴りを放ち続ける。
互いの蹴りがぶつかり合って相殺。
回転数を上げて空宙でコマのように周りながら蹴りを放つターニッブに対し、ザマスも左右の足を使い上、中、下段に蹴り分けながら放つ。
刹那の拍子に幾百の蹴打を交わらせる両者。
「うぉおおおっ!!」
猛々しく叫ぶターニッブに対し、ザマスも負けじと吠える。
「終わりだぁ!!」
一際、強烈な蹴りを互いに放ちながら、両者の技は同時に止まる。
完全に相殺された両者の技の衝撃は、互いを中心に反対側へと吹き飛ばした。
咄嗟に両足と左手を地面について引っ掻きながら止まるターニッブに対し、ザマスは悠然と宙に浮いて止まりながら構える。
両者語ることもなく、ザマスは顔の右に剣指を掲げて、太陽のような赤い光の球を作り上げ。
ターニッブは腰だめに両手をたわめて、青白い光球を練り上げる。
「聖なる逆鱗!!」
ザマスが放ったのは、全てを飲み込むような巨大な光の球ではなく、人の頭程度に圧縮された光弾だった。
それも圧倒的なスピードで放たれている。
「い、いかん! ザマスめ、先程よりも強力なエネルギーをアレほどのサイズに圧縮出来るというのか!?」
ゴワスの叫びを聞き流しながら、ターニッブは金色の雷光を両腕から迸らせ、両手首を上下に合わせて掌を前方に突き出した。
「雷光ーー!!」
放たれた稲妻の如き光は、全てを撃ち抜くほどに速く鋭い一撃。
触れ合う二つの光は、爆発を起こすことなく光と共に消滅して消えて行った。
「見事ーー! だが、全てを無効化できるか!?」
言うと同時、ザマスは掌をターニッブに向けて次々と掌サイズに圧縮した聖なる逆鱗を、サイドスローの要領で放ってきた。
気弾はジャイロ回転しながら加速され、貫通力を上げてターニッブに襲いかかる。
「あ、アレほどの強力なエネルギーを連続で。溜めることなく放てると言うのか!?」
「知らないのか? 真・超サイヤ人はエネルギーが無限に湧いて来るんだ。大技をどれだけ連発しても消耗などしないさ。もっとも、変身している間だけの話だがな」
驚くシンに向かって、超17号が淡々と告げる。
雷光波動拳でも相殺が間に合わないと悟ったターニッブは再び両脚を開いて膝を軽く曲げ、中腰の姿勢で右裏拳を前に構える。
ーー心眼。
青い波動を纏う拳と紅い灼熱の光弾がぶつかる。
その際に光の弾は一気に巨大になり、己の威力を誇示するように周りに力を示しながら消えていく。
シンが拳を握ってザマスの技を無効化したターニッブに、歓喜の声を上げようとする。
その前にザマスがターニッブの眼前に踏み込んでいる。
「くっーー!」
咄嗟に左正拳突きをザマスに放つターニッブだが、右手刀で拳を脇に逸らされ、強烈な左拳を腹に叩き込まれた。
「ぐぁっ!?」
鈍い音と衝撃が響く中、ターニッブの動きが止まり、ザマスがニヤリと笑う。
「良くぞ、絶対の神たる我を相手にここまで戦った。褒美だ、ターニッブ。真なる超サイヤ人の技で貴様を葬ってやろう!!」
ーー 一瞬千撃。
ザマスがターニッブの道着の襟首を掴んだ瞬間、青白い光の波動が爆発し、ドーム状に広がりながら凄まじい打撃音を立て炸裂した。
「た、ターニッブさんーー!!!」
シンの絶叫が響く中、光が融けた爆心地には、黄金の髪を天に向かって逆立たせた2メートルを越える長身の超サイヤ人・ザマスが立っている。
彼の足下には黒髪に戻ったターニッブが、前のめりに倒れていた。
「…なるほど、コレが真なるサイヤ人の技と力か。感謝するぞ、ターニッブよ。貴様の強さのおかげで、我は絶対の高みへと上り詰めた」
惑星サイヤの記憶を持つザマスは、波動の奥義をも簡単に使いこなす。
かつて、サイヤ王ジュードの肉体を操ったように。
今のザマスの身体能力は、真・超ベジットに匹敵する。その上惑星サイヤの王家の技はもちろん、あらゆる技を使いこなせる。
「これぞ、神! 世にある全ての技を使いこなし、極めた私に敵う者など、存在しないのだ!!」
身に纏う炎のようなオーラを噴き立たせて、ザマスは高らかに笑っていた。
目を見開き、呆然とするシンやキビトに対し。
ゴワスは複雑な表情で、高笑うザマスの姿を何も言わずに見つめている。
「…とどめを刺さないのか、ザマス?」
高笑いが穏やかに収まって来るのを待ち、超17号が問いかけた。
金の長い髪を靡かせながら、超17号が左手を倒れているターニッブに向けてかざす。
「サイヤ人のしぶとさを知らない訳ないだろう? お前がやらないなら、俺がとどめを刺してやるが……」
左掌の中には赤黒い光の球が浮かび上がっている。
超17号は何気なく構えているが、放たれれば頑強な界王神界とて無事では済まないほどの力が溜まっている。
シンやキビト達では、止められないほどに。
焦るシン達二人を置いて、ゴワスは何も言わずにザマスを見つめる。
ザマスは穏やかな表情で口を開いた。
「良いーー。放っておけ」
これにシン達が驚愕に目を見開いた。
「……理由を聞かせろ」
超17号が冷たい声を上げながら、気を練るのをやめずに問いかける。
「一星龍に怒られる」
冗談めかして笑うザマスに、超17号は瞳を鋭く変える。
「コイツは、孫悟空やベジータ達と同等か。それ以上に厄介だぞ。一星龍の個人的感傷に付き合っている場合か?」
「……どのみち、世界は全王から私の手に落ちた。真・超サイヤ人となったターニッブを完膚なきまでに倒した私に未だ刃向かう者が居るとすれば、過去より来たサイヤ人達だけだ。其奴らなど、私の敵になると思うか?」
「この男は危険だと言ってるんだ!! 話を逸らすな、ザマス!!」
真剣な表情で告げる超17号に対し、ザマスも笑みを消して超17号を見つめる。
「……まさかと思うが。コイツにとどめを刺さないのは、一星龍と同じくコイツの拳が理由か?」
問いかける超17号に、ザマスは翡翠に黒の瞳孔が現れた瞳でターニッブを見下ろした。
「…風に聞く必殺の拳。リューベを倒し、一星龍が求めて止まぬ拳が、この程度で終わるとは思えんのだ」
その、ザマスの声に反応するかのように。
うつ伏せに倒れ伏したターニッブの左手が固く握り締められた。
「…ザマス!!」
超17号が反応して叫ぶと同時、溜めていた気弾をターニッブに向けて放つ。
気弾は、倒れていたターニッブに直撃して爆発する。
「ターニッブさん!!」
シン達が叫ぶ中、煙が天へと舞い上がる。
瞬間移動さえも間に合わないタイミングと弾速に、シンとキビトも超17号を睨みつける。
気弾を放った超17号は、冷たい双眸を険しく変えて睨みつけている。
「…指先一本にでも闘志を示せるのならば、格闘家にとって真の敗北はない」
爆煙の向こうから、静かに透る熱い声が届く。
煙を吹き飛ばして、腰の黒帯を結び直して黒髪黒目のサイヤ人が真っ直ぐにこちらを見ている。
その姿、その眼差しに、界王神達はおろか。
気弾を放った超17号でさえも、目を見開いて固まった。
「…そこまで追い込まれて尚、立ち上がるか」
敵も味方も問わず威風堂々たる立ち姿に皆が固まる中、ザマスは不敵な笑みを立ち上がってきたサイヤ人に向けて浮かべた。
「今の私は、全ての技を使える。貴様の風の拳とて、私には無意味だ。リューベをも超えた私の拳に、それでも抗うか?」
ターニッブが両の拳を握り、腰を落として構える。
「…全ての技を修めることと、拳を極めることは違うはずだ!!」
笑うザマスにターニッブは拳を握り、告げる。
「お前が全ての技を修めたと言うのならば、俺はこの拳を極めて放つのみだ!!」
握り締めた拳を静かに見据えた後、ザマスは微笑む。
「ならば、その全霊の拳を私に放つが良い!! 貴様の拳を喰らい、私は更なる高みへと至るのみだ!!」
両手を広げ打ってこいと手招くザマスに、ターニッブも腰を落として拳を握る。
(超サイヤ人に変身しないーー? いや、出来ないのか。無理もない)
超17号が瞳を細めながら、冷たく瞳を輝かせる。
ターニッブは、平静を装っているだけだ。
満身創痍の肉体、尽きた気力、隠し切れない息の乱れ。
あきらかに体力の限界だ。
(真・超サイヤ人の状態で一星龍とザマスの二人を相手に、合わせて既に一時間以上は戦っていた。体力も気力もあるまい。考えなしで全力で強敵と連戦した結果が響いてきたか)
ザマスの勝利は、もはや盤石だ。
だが、ターニッブの黒い瞳は恐怖に怯えるでなく。
静かにーーだが、確かな闘志が燃えている。
「その気迫ーー。それでこそ“真の格闘家”だ。ターニッブ!!」
その黒瞳に向けてザマスが不敵な笑みを浮かべているのを、超17号は静かに思案する。
(今までのザマスならば、ターニッブの立ち上がる姿を見て苛立っていたはずだ。神の技を受けて尚、立ち上がる人間を不遜だと考えてーー)
ザマスの変化を知る超17号は、瞳を鋭く細めてターニッブを睨みつける。
(人間の欲望から生み出された一星龍だけじゃないーー。人間に絶望したザマス(神)をも変えると言うのか、ヤツの風の拳は)
怨霊の声が、聞こえない。
世界の理を恨んでいた声が、聞こえない。
世界の意思となった怨霊達の声が、本来ならば超17号には聞こえている。
ーー 留まること、許さぬ。ただひたすらに強さを極めよ。
人間を恨み、神々を憎み、この世に絶望していたはずの怨霊の声が。
世界を滅ぼそうとしていた邪悪龍が。
人間を排除しようとした絶対の神が。
(怨霊にとって、最も恐ろしい相手だ。恨みや辛みすらも忘れさせ、純粋に闘いで勝ちたいと思わせる相手など危険すぎるーー)
ザマスの勝利は揺るがない。
それでも、怨霊の恨みや怨嗟の声を浄化する風を、超17号は何よりも恐れている。
「ザマスーー!」
超17号の隣では、ゴワスが静かに目を見開いている。
強さを純粋に極めようとする彼の姿は、全王に向かって世界を滅ぼさせまいと必死に抗った姿と被っている。
己の欲望ではなく、世界の為に闘った、界王神として最も正しい姿に。
「人間を憎み、見下していたザマスが貴方の拳を受けたことで変わっていく。なんという、なんという人間なのだ。ターニッブ殿………!!」
恥も外聞もなく、神としての矜持すら投げ捨ててザマスは、ターニッブに勝とうとしている。
明らかに己より実力の低い男を侮蔑するのでもなく、見下すのでもなく。
一種の敬意を示すようにザマスは拳を握り、構える。
「ただ、己の拳を磨いて磨いて磨き抜いたーー愚直な拳を持つ男よ。私の全霊の拳にて屠ってやる」
ーー 休むこと、許さぬ。ただひたすらに強さを極めよ
亡霊の声は、怨嗟に非ず。
恐ろしい声ではあるが、怨嗟にあらず。
ただ、純粋なまでに強さへの渇望がザマスの裡から響いている。
「ーー俺は、ただの格闘家だ。一人の格闘家として、俺はお前と闘いたい。ザマス!!」
青い風が螺旋を描いてターニッブの足元から吹き上がる。
ザマスの内なる声が、ターニッブの波動を見て祝詞を唱え始めた。
ーー 調息 調心 練精化気 練気化神 練神得道 虚領頂勁 含胸拔背 鬆腰 虚実分明 沈肩墜肘 用意不用力 上下相随 相連不断 動中求靜 外家走形 内家走経絡 内練一口気 外練筋骨皮 抻筋抜骨 練到骨髄 知行合一 情景合一 天人合一
その声に合わさるように、ザマスの足元からもターニッブと同じく青い風が、螺旋を描いて噴き上がっていく。
「「陰陽極まって四象を生み、四象極まって八卦を生ず。剛に極まって柔に至り。柔に極まって剛が生ず」」
同時、ターニッブとザマスが同じ言葉を重ねて構えを取った。
「ターニッブよ、貴様は拳の先に何を見ている!?」
「ーー確かめてみろ!!」
再び黄金の炎を身に纏い、ターニッブが真・超サイヤ人に至る。
不屈にして無限の闘気を身に纏う男を前に、ザマスは内心で震えていた。
(ターニッブ。絶対の神であろうとする私が、貴様の強さに震え。貴様の強さを楽しんでいるーー! 一星龍、孫悟空よ。今ならば、お前達がこの男との闘いを望んだ理由が分かるぞ)
翡翠に黒の瞳孔が現れた瞳を見開いて、ザマスは己と同じ真・超サイヤ人に向かって構えを取る。
「幾千幾百の奥義をもって貴様に挑んだとしても、そんなものは極めた一撃に敵うべくもない。ならば、神としての御業を貴様に叩きつけてやろう!!」
言うとザマスは両手を大きく広げ、上下に構えてから円を描くように腕を回した後、両手を前方に突き出して青白い光の波動を放った。
「激烈! 神王砲!!」
放たれた青色の光線は、かめはめ波や波動拳と似て非なる、神の気を凝縮した一撃。
その一撃はターニッブの脇に放たれ、神域の空を一瞬で貫いた。
「あれは、界王神にのみ使うことが許された究極の神技!! ザマスめ、界王神の技まで使って人間を滅ぼすと言うのか!!」
シンが思わず叫ぶも、ゴワスが首を横に振る。
「いや、アレこそは私がザマスに教え。純粋に世界を守らんとして強さを極めようとした一撃………!! ザマスよ、神としての矜持を取り戻してくれたのか!?」
ザマスは笑う。
ターニッブは静かに放たれた光の一撃を見つめた後、爽やかな笑みを浮かべて波動を練る。
世界の意思としてーー絶対の神として得た技の全てを捨てて、純粋に己が学んだ武の技を見せる。
これは、その意思表示だ。
「私の武闘家としての誇りを呼び起こした責任を取ってもらうぞ、ターニッブ!!」
その言葉に応えるように、波動の奥義をもってターニッブは両手を前方に突き出して放った。
ーー 真空波動拳!!
先ほどのザマスの一撃に勝るとも劣らない青い光線が、ザマスの目の前を横切り、神域を打ち貫いた。
ビリビリと余波を肌で感じ、ザマスは心地よさげに笑みを浮かべている。
ターニッブは、ただ拳を握り締めて、正拳中段突きの構えを取った。
「この拳で、受けて立とう!!」
その言葉に呼応するようにザマスも拳を握り、ターニッブに向けて駆ける。
界王神界という神域に。
凄まじい光の衝撃と音が響く中ーー。
三度、両者の拳がぶつかり合った。
絶対の神ーー正義とは何かを求め続ける男と。
真の格闘家とは何か、と強さを極め続ける男。
両者は、互いの在り方を確認するかのように、拳と蹴りを身体で受け止めながら返していく。
どちらの一撃が強いのか、重いのか?
どちらがより相手の一撃に耐えられるのか?
二人の男の意地をかけた闘いが、宇宙の果て。
神々が住まう神域で。
始まった。
次回は、明日の午前7時です。
よろしくお願いいたします(≧▽≦)