かつて惑星サイヤに象られた、その力は。
希望の象徴として絶対神ザマスの前に立ちはだかるのだった。
現代ーー精神と時の部屋にて。
どこまでも広がる白い世界で、強烈な轟音と光の衝撃波が吹きすさぶ。
「うぉりゃぁあああっ!!」
「ーー滅殺ぁああつっ!!」
二人の黄金の炎を身に纏う超サイヤ人がぶつかり合っていた。
右の拳をぶつけ合い、押し合う。
純粋なパワーとパワーを比べ合うように、譲らない両者。
周囲に黄金の火花が散り、異界の天が割れ白い大地を砕く。
交互に拳を繰り出し、弾け飛ぶ互いの首。
距離が生まれた両者は同時に腰だめに左右の手に光をそれぞれ生み出して、両手を合わせて一つに重ねて光を圧縮。
「10倍ーーかめはめ波ぁあああ!!!」
神の気を吸収し、究極のサイヤパワーで倍化させて放つ真紅の光。
「ーー滅殺! 豪波動ぉおお!!」
対するは、惑星の意思と殺し合い続けて練られた、純粋な殺意と闘志による紫暗の波動。
互いに同じ構えで両手を突き出し、真紅と紫暗の光をぶつけ合う。
両者の究極の一撃は、全くの互角。
だがーーリューベは、それほどの一撃を放ったにも関わらず、次の瞬間には阿修羅閃空で悟空の背後に回り込んでいる。
悟空は10倍かめはめ波を放った構えを解いていない。
通常、強力な一撃を放てば否が応でも体が硬直するものだ。
リューベには、それがない。
攻撃を放つ前と放った後、その予備動作がほとんど通常攻撃と変わらない。
振り下ろされる拳を、しかし真・超サイヤ人の孫悟空は振り返ること無く裏拳で受け止める。
「ーーやりおるわ」
「言ったろ? 俺は負けるわけにゃ行かねえんだ」
静かに交わされる会話に反比例するように、激しい両者の纏う炎と翡翠に黒の瞳孔が現れた瞳。
睨み合いは一瞬。
即座に拳と蹴りを繰り出し合って動き始める両者。
「流石だ、孫。あのリューベの動きに食らいつき始めているーー!」
「ああ、だがカカロットのセンスをもってしても。食らいつくので精一杯か」
「リューベ。流石はターニッブをして“拳を極めし者”と言わしめた漢……!!」
ピッコロ、ブロリー、ベジータがゆっくりと身を起こし、互いに見合いながら頷く。
このまま一対一を続けていては、埒が明かない。
「どうやら考えていることは同じようだな、ベジータ。ブロリー」
「フンーー。勝負はカカロットが“真の一撃”を放つ時だ」
「よしーーやるか! ピッコロ! ブロリー!!」
ベジータを真ん中に、ピッコロとブロリーの長身二人が同時に気を高める。
三人の気が再び無限とも思える気を高めていく。
「ベジータさん、ピッコロさん、ブロリーさん!」
デンデが三人の意図に気付き、目を見開く。
首を後方に仰け反らせながら吹き飛ぶ悟空も三人の意図を感じ、微かに瞳を細めた。
(すまねえ、三人とも)
悟空は打ち合うのを止め、腰だめに右拳を置いて構える。
「なら、俺も!! ーーーハアアアアッ!!」
悟空も黄金の炎を高めて、気を無限に上昇させていく。
その気を一点に。
右の拳に集中していく。
「なんという強き者たちだ。これほどまでに己の力を高めることが出来る人間が、居るとは」
「ーー全王様が一目置かれる理由、ようやく分かった。これが第七宇宙の戦士達か」
左右の付き人が細い目を見開きながら震える。
「凄いーー! 凄い、凄い!! みんな、すごぉおおい!!!」
無邪気に目を見開いて、四人の力に興奮して跳び上がる全王。
そんな彼らを置いて、四人は更に気を高めていく。
「…ぐ、ぅ。セルさんーー!」
「気が付いたか、フリーザ」
ゆっくりと身を起こしたのは白い肌に戻ったフリーザ。
その傍らで声をかけたのは緑色の人造人間セル。
自らの躰を見下ろせば、傷が回復している。
「ありがとうございます、ブウさん」
セルの傍らに居る桃色の魔人ブウに告げる。
ブウは肩をすくめながら応えた。
「大したことはない。それにしても孫悟空だけでなく、ベジータやピッコロ達まで同じレベルとはな。見事なものだ」
「……彼ら四人ほどの力を持ってしても、あのリューベという漢を倒すには死力を尽くすしかない、と」
「さて、貴様らの全力が届くか、否か。手並み拝見と行こうじゃないか。孫悟空、ベジータ、ピッコロ、そしてブロリー」
フリーザとセルがそれぞれ告げながら、ジッと“拳を極めし者”という名の鬼を見つめる。
当然、対峙するリューベも気付いている。
「ーーうぬらが真なる一撃。我に届くか? 征(ゆ)くぞ!!」
左右の拳を腰に置いて、腰だめに構える。
再び両手が突き出された時、究極の殺意と黄金の気を纏った波動拳が放たれた。
「滅殺! 豪波動ぉおお!!」
悟空の全力の10倍かめはめ波と互角の一撃を、軽々と放ってくるリューベ。
瞬間、悟空の目の前に2メートルを越える二人の戦士がリューベと対峙する。
「うぉおおお! オメガ・ディストラクションッ!!」
かめはめ波の構えを取りながら、己の究極の気を深緑の光に変えて放つブロリー。
深緑と紫暗の光線は、全てを消し飛ばすほどの威力を持って互いにぶつかり合う、瞬間。
「うぉおおおおっ! グォオオオオッ!!」
ブロリーの咆哮に応えるように、彼の背後に3メートルを越える身の丈に赤い体毛の生えた黒髪の超サイヤ人が、幻影のように一瞬だけ現れて消える。
先の悟空のように究極のサイヤパワーの倍化の力を引き出し、ブロリーの光が一気に桁を超える。
相殺。
「なんと! あの滅殺の波動を、正面から打ち砕くとは!!」
「いや、まだだ! まだ第7宇宙の戦士達の攻撃は続くぞ!!」
左の付き人が叫べば、右の付き人が叫ぶ。
それに応えるように黄金の光を胸の前に置いた両手に圧縮しながら、ピッコロが叫ぶ。
「くたばれーー! 激烈! 神魔光砲ぉおおおおっ!!!」
それは一言で言えば、激烈光弾の威力を持った魔貫光殺砲。
ピッコロの究極の一撃。
かめはめ波を超える為に編み出された、二つの技を重ね合わせて作られた全霊の光線は、先のブロリーの一撃に勝るとも劣らない。
いかな技の隙がないリューベと言えど、避ける以外に術はなかった。
眼前に迫る光を前に左右に乱反射するように自身の像が分裂し、薄く消えていくリューベ。
「来るぞ、ベジィタァアアアア!!」
ピッコロの叫びに応えるように、彼の背後から黄金の炎を身に纏った戦士が跳び上がる。
ベジータが向かう先には、ゆっくりと左右から像が焦点を合わせるように形を実体化させるリューベの姿が。
「我が一撃。禊を破ると言うか!!」
振り下ろされる手刀は、ビルスをして脅威を覚えさせたほどの一撃。
「だが、その一撃は落雷の如き降下と同時に振り下ろしてこそ成し得る技! 上空で捉えれば防げぬ道理はないはずだ!!」
手刀に向かってベジータは両手を合わせて白刃取りを敢行する。
光が霧散して強烈な衝撃波と共に振り落ちる両者。
落雷のような音が地面に降り注ぐ。
戦士達が固唾を飲んで見守る中、地面に片膝をついたベジータが、己の額に触れる寸前でリューベの手刀を止めていた。
「取ったぞ、リューベ!!」
「!!」
冷徹な鬼の瞳が驚愕に見開かれる。
「ファイナルシャインーーアタァアアック!!!」
至近距離で放たれたのは、ベジータ最強の青緑の光線技。
白刃取りの姿勢のまま気を爆発させて放つ、超サイヤ人4の倍化の力を合わせた一撃。
リューベは咄嗟に阿修羅閃空を使い、ベジータの脇に高速移動で避ける。
反応したリューベを褒めるべきか、失敗すれば死を免れない一撃を白刃取りしたベジータを褒めるべきか。
「「カカロットォオオオオオオ!!」」
「孫! 悟空ぅううううううっ!!」
ベジータ、ブロリー、ピッコロが同時に悟空の名を叫ぶ。
孫悟空の翡翠に黒の瞳孔が現れた瞳は、静かに阿修羅閃空を終えたリューベを睨みつけていた。
「「「決めろぉおおおっ!!!」」」
三人の声に応えるように、悟空の瞳がカッと見開かれる。
「俺の拳にーー全てを、賭けるぅううう!!!」
黄金の炎が猛り狂って天に昇り、黄金の龍が姿を見せると同時、悟空が大地を蹴る。
「行くぞ、リューベェエエエエ!!」
黄金の龍が巨大な顎を開いて、リューベと言う鬼に襲い掛かった。
「龍ぅう拳ぇえん!! 爆発ぁああつっ!!!」
叫びと共に空で拳を繰り出しながら体当たりしてくる悟空に対し、リューベもまた天を掴むように右手を突き出した。
突き出された手は掌をゆっくりと握り、拳を作って振り下ろす。
「ならば、惑星(ほし)をも断つ我が真なる拳を受けよ! 金剛國裂斬!!」
両者の拳が、互いに向かって突き出された。
白い世界の中。
互いの拳の衝突点を中心に、もっと白い光が生まれて塗り替えていく。
誰もが目を開けていられないほどの光を放ちながら、音の消えた世界でデンデには幻のように見えていた。
濃紺の空手着を着た黄金の髪の拳士が、白い光の球から吹き飛ばされて地面に背中から叩きつけられるのを。
光が消えて、音が戻り、世界が元通りに戻る。
片膝をつき、黄金の炎が掻き消えて黒髪に戻る三人のサイヤ人。
肩で息をしながら前のめりになって立っているのもやっとのナメック星人。
彼らの前に、確かに大の字になって仰向けに倒れている鬼が居た。
「ーーオラ達のパワーが、勝った…!」
その言葉に、残りの三人もニヤリと笑ってみせた。
デンデが付き人を見ると頷き、結界の一部を解く。
そこから四人の戦士に向かってデンデは駆け寄っていった。
その光景を見ながら全王がニコニコと笑って呟いたーー。
「やっぱり、この世界を変えれるのは悟空達なのねーー」
何処か、期待するような声で全王は白い世界の空に向かって。
ーーーー
未来世界。
廃墟の東の都で、レジスタンスと合流したバーダックと孫悟飯。
トランクスとガーキンは、メンバーと共に地下の施設で作戦を立てていた。
「やれやれ……。この俺が裏方とはな」
ぼやくバーダックに悟飯が静かに首を横に振る。
「せっかく戦力が揃っているんです。ターニッブやターレス、ゼノさん達に任せて作戦を練りましょう」
悟飯の発言にトランクスが首をひねる。
「具体的には、どうするんですか?」
「戦力を一つにまとめて、一気に叩き潰すってのはダメなのか?」
ガーキンも不思議に思い問いかけると、悟飯が鋭い瞳で一人一人に目を合わせながら告げる。
「ドラゴンボールが無い以上、失敗は許されません。ここは、慎重になり過ぎるくらいが丁度良いと思いますよ」
そう告げた後、悟飯は状況を確認するようにメモを机の上に広げて説明を始めた。
「現在、界王神界でターニッブがザマスと戦っています。他に北の都で、ベビーに一星龍がターレスやゼノさん達と交戦している……。遠く離れた界王神界に僕達は行けないから、援護できるのはターレス達の方だけど、ターレスは能力だけを言えば父さんやベジータさんよりも上です。おまけにゼノさんとブラックは真・超サイヤ人に変身できる」
「戦力が拮抗しているなら、助太刀して一気に叩くべきじゃないのか?」
「思い出してください、ベビーの分身のことを。奴らはターレスに倒されているにも関わらず、時間をかければ復活しています。つまり、どれだけ此処で奴らを倒しても復活されて終いなんです。反対に僕らは生身の人間です。傷を負えば回復するのに時間がかかるし死ねばそれまでです」
ガーキンはなるほど、と頷きながら応える。
「惑星サイヤの意志ーーいや、今は世界の意志か。そいつが作り出した戦士達をいくら倒しても、復活されちまうってわけだ。プリカ姫なら姿を封印できるだろうが、それだって何人も出来るわけじゃねえ」
「つまり、ザマスを倒さない限り、ベビーや一星龍達は何度でも復活するっていうことですね」
トランクスの補足にバーダックもフン、と頷く。
「そういや、惑星サイヤの時もフリーザ達は時間を置けば復活してやがったな。今はターレスの仲間みたいだが……」
そう返した後、バーダックは悟飯に向き直る。
「だがよ、実際どうするつもりだ? その何とかって場所には俺たちには行くことができねえんだろ? ターニッブがザマスに勝つのを祈ってるか?」
「もう一つ、ザマスをおびき出す方法があります」
「? どういうこった?」
「コレです」
悟飯は右掌を上に向けると青い光の球を浮かび上がらせる。
それは現代の世界の全王からもらった“全てを消滅させる力”であった。
「コイツは全王様の力そのもの。ザマスはおそらく、世界を消せる全王様を恐れていたはず。この力を見せつけることが出来れば、ザマスは否が応でも来ざるを得ない」
いったん言葉を切り、静かに悟飯は前を向く。
「それこそ、本当に世界を消してしまうほどの力を解放すれば……」
その言葉に誰もが息を飲んでいる。
ガーキンを向いて悟飯は告げた。
「プリカさんなら、この世界の地球の人々を現代の惑星サイヤへと避難させることが出来るんですよね?」
「そ、それは可能だけどよ……。ホントに世界を消しちまうつもりなのか?」
思わずと言わんばかりにガーキンが問いかけると、悟飯は静かな瞳で告げた。
「俺だって、やらないで済むならソレで良いんですけどね。だけど、それくらいでなければザマスは多分動かない。ターニッブとの戦いで、アイツが本当に変わってきているのなら、必ず世界を護ろうとするはずです……。そいつに賭けるしか、ない!」
強い瞳で悟飯は言い切った。
世界を消すつもりで力を解放し、ザマスがそれを阻止しようと悟飯の前に現れる一瞬。
その無防備な瞬間に力を叩き込めば、ザマスを消すことは可能だ。
「……だけど、既に世界は“この世界の全王様”に消されている。ザマスを消しても、無の世界が広がるだけになるはずです」
悟飯の言葉に皆が呆気にとられる。
バーダックでさえも呆然と悟飯を見つめた。
「なんだ、そりゃ? つまりザマスをぶっ倒しても世界は救われねえってことか?」
「ええ。おそらく」
言いながら悟飯は消滅の光球を見つめる。
「全王様と同じこの力、先程遙か遠いところで感じました。多分、この世界の全王様がザマスごと世界を消されようとしたのだと思います」
「でもよ。それなら何で俺たちは平気なんだ?」
「ザマスでしょう。僕もある程度は、世界の意志について聞いています。可能性を取り込む力と、特異点を作り出す力」
ガーキンに応えながら悟飯は推理していく。
「おそらく、今の地球を含めた全ての宇宙はザマスの力によって維持されている仮初めの世界です」
「悟飯さん、それじゃ? この世界はーー!?」
目を見開くトランクスから目を逸らさず、悟飯ははっきりと告げた。
「残念ですが、この世界は全王様が消去し、ザマスが作り替えた世界です。ザマスを倒せば、おそらく世界は消える」
「……だから、世界を消しちまう力を解放しようって話をしたのか。お前らしかねぇって思ったが」
「お祖父さん。僕だって他に手があるのなら、そっちを選びたい。でももう、手遅れなんです」
ハッキリと告げる悟飯に、バーダックが瞳を鋭く細める。
ガーキンが苦虫を噛み潰したような表情に変わり、トランクスがうなだれ、マイ達が呆然とする中、バーダックが静かに口を開く。
「……一星龍って野郎の胸にあった球、カカロットの家で見た覚えがある。ドラゴンボールってヤツじゃねえのか?」
「!? ドラゴンボール!! 本当なんですか、バーダックさん、悟飯さん!!」
バーダックの言葉にトランクスが悟飯をすがるように見つめる。
悟飯は祖父の黒瞳をジッと見つめた後、苦虫を噛んだような表情で告げた。
「そのドラゴンボールはザマスの理で生み出された一星龍のもの。ドラゴンボールは、作り出したものが居なければただの石ころになってしまう」
「ザマスを倒す前に、一星龍を倒してドラゴンボールを使うってな、どうだ?」
「危険な賭けです。一星龍は、超サイヤ人4の父さんやベジータさんでさえも苦戦を強いられた相手。今の僕たちでも確実に倒せるとは言い切れません。単純な実力ならザマスよりも強いはずです」
ターレスとの戦いを感じ取りながら、悟飯は淡々と現状を告げていく。
ドラゴンボールを使うのなら、一星龍を倒した上で世界の理で復活される前に使用しなければならない。
使用する時間に制限があり、失敗しようが成功しようが確実に一星龍は復活する。
また、ドラゴンボールには叶えられる願いに制限がある。
邪悪龍を倒して復活した神龍は、願いを叶えるのに制限はなかったが、今回も同じとは限らない。
要は不確定要素が多すぎる。
反対にザマスをおびき出す作戦に関して言えば、悟飯は確信を持っていた。
全王を相手にザマスは世界を護るために自分の力を引き上げ、本来ならば消去された世界を消される前と変わらない姿で維持している。
つまり、ザマスは世界を滅ぼされることをよし、とはしない。
「…どっちも賭けだな。だが、ザマスをおびき出す方が確率は高い、か」
「ええ。俺達には勾玉があるし、未来世界の生き残った人々は俺達の世界に避難できる。ザマスを倒すという目的を達成するだけなら、簡単です」
そう言った後、悟飯は静かに瞳を細める。
「その後、も色々と問題は山積みですが。ザマスを野放しには出来ない。生と死の境を越えてしまった世界はやがて、他の次元の境にまで影響を及ぼします。ザマスの意志に関わらずーー」
「チッ、とんだ疫病神だな」
吐き捨てるバーダックの言葉が、皆の思いを代弁していた。
「この期に及んで、まだ何か企んでいるの? トランクス」
声に気付いてトランクス達が振り返ると、そこにはブラックを戦力に加入することで袂を分かった母・ブルマの姿がある。
「母さん!? どうして、此処に!!」
思わず近寄ろうとするトランクスを悟飯が止める。
バーダックも、ガーキンやレジスタンスのメンバーを下がらせようとする。
「? どうしたんだ、悟飯。バーダック」
「ブルマさん、ですよ? どうして、そんなに警戒してるんですか?」
ガーキンとマイの言葉に悟飯はブルマを見つめた。
「トランクスさん、マイさん。貴方達の知ってるブルマさんは。こんなに化粧をしたり、髪型をブルネットに纏めたり、宝石を身に纏うようなお洒落をしていましたか? 俺の世界のブルマさんなら、分かるんですけどね」
「ついでに言うと、俺たちの世界のブルマよりも歳が老けてんな。テメエ」
悟飯は知っている。
目の前のブルマが、この時代のブルマではないことに。
これは世界の意志を持つ者の力によって現界させられた紛い物の存在。
一星龍と同じ世界から可能性として招かれたブルマである。
「気づいたか。そのとおり、このブルマは俺がツフル人として生まれ変わらせてやった時のものだ」
銀髪のリーゼントをした巨漢がブルマの背後に立っている。
「コイツは、ベビー!? それじゃ、この母さんはベビーの世界のーー!!」
全てを察したようなトランクスに向かって、ブルマはニヤリと邪悪に笑った。
「そうよ、トランクス。悪い子ね、ベビー様の支配に刃向かおうなんて」
そう言いながら、ブルマはゆっくりとマイを見た後、後ろにいるレジスタンスや避難民たちを見つめる。
「ねえ、貴方達。これ以上に犠牲者を増やしたくはないでしょ? 違う世界とは言え、私の息子を助けてくれたみたいだから。ベビー様の恩情で偉大なるツフルの民にしてあげてもいいわよ」
冷酷で残忍な笑みを浮かべるブルマは、とても自分の知っているブルマとは思えない。
それでも、その言葉の端々から自分への愛情を感じ、トランクスは戸惑いに揺れた。
「どうして…? 母さんが、そんなことを言う訳ない!! でも、でも、どうして母さん………!!」
「私は生まれ変わったのよ。下等な地球人から偉大なベビー様の民ーーツフル人としてね」
笑いながらブルマは自分の背後に現れたリーゼントの男ーーベビーを見据える。
ベビーもニヤリと笑みを返した後、トランクスに告げた。
「どうだ、トランクス? ツフル人として俺の支配を受けるのであれば、貴様らを全員生かしておいてやる。俺の支配の下、平穏無事な生活を約束してやろう。もっとも、戦闘力のある貴様は俺の兵士になってもらうがな」
「………!!」
その言葉に、トランクスだけではない。
戦いと殺戮に疲れ切っていた地球人の生き残りのほとんどが、希望を見出したように。
神に縋る様にベビーを見つめる。
「だ、騙されちゃいけないよ、みんな!!」
マイが必死に叫ぶも、それを遮るようにブルマが続ける。
「本当よ、トランクス。ベビー様は、現実に私たちを支配し。孫悟空に邪魔されるまでは、私達はツフル人として平穏無事な生活を送ることが出来たわ」
ブルマはウットリとした表情で告げる。
「あの時は、サイヤ人どもに邪魔されたけれど。今度こそ、ベビー様は全宇宙ツフル化計画を実行される。貴方も手伝いなさい。この世界の私も、いずれ気高く崇高な王・ベビー様の支配を受けると思うわ」
悟飯が何かを言おうとするのをバーダックが止める。
これに悟飯も静かに頷き、何も言わずに状況を見届ける。
この世界の戦士・トランクスがどのように応えるのかを見定めるために。
「母さん………!! ベビー、貴様!! 母さんを………!!」
「………フン。ツフル人に作り変えられたのが不満か? しかし、無碍に死ぬよりはマシだろう? 貴様らの未来は二つに一つしかない」
「………!!」
「ザマスの造った世界で俺の奴隷として生きるか、それとも刃向かって死ぬかだ」
言い切られた言葉に、絶望した人々は静かに声を上げ始めた。
「お、俺はアンタの奴隷ーーいや、貴方の民になることを誓う!!」
「わ、私も!!」
次々と声を上げる避難民達に、レジスタンスの面々が苦渋の表情に変わる。
そう、誰もがブラックやザマスとの闘いを望んでいるのではない。
平穏無事な生活を望んでいるだけなのだ。
黙り込んだ避難民たちやレジスタンスの面々に向けて世界国王がベビーに変わるだけだと、彼らは口々に告げる。
ベビーの支配を受けるべきだと。
残り少ない生き残った人々の間でさえ、そのような言い争いが始まった。
「………! みんな、落ち着いて!! あのブルマさんは私たちの知ってるブルマさんとは違うのよ!! それに、ブラックやザマスの仲間だったベビーって奴を信じられるの!?」
「こっちのブルマさんだって、人間を皆殺しにしたブラックを庇ったじゃない!!」
「それは………!!」
「何が違うのよ!? アイツはアタシ達をまだ殺すつもりなのに。どうしてアタシ達が生き残る選択肢をくれた方を信じられないとか、惑わせるの!?」
マイに向かって真っ向から告げる若い女。
限界なのだ。
彼らとて、限界なのだ。
当たり前だろう。
地下で太陽の陽を浴びることなく、次々と殺されていく家族や人間を見て来たのだ。
そんな彼らが、支配の下とは言え平和な生活を暮らせると言われれば。
たとえ信じられなくても信じたいと願うのは当たり前だろう。
そこまで考えた上で、悟飯は怒りに満ちた表情でベビーを睨みつけた。
「お前は、何処まで卑劣なんだ………!!」
「………ツフル人だと? こんな腐った性根の野郎がベリー達の子孫だってのか? ふざけてやがる」
隣でバーダックも静かに拳を握り締めていた。
ーーーー
地球より遥か遠き神の地にて。
強烈な拳と蹴りをぶつけ合いながら、空から大地へと移動するターニッブとザマス。
同時に着地すると、拳と手刀を振りかぶってぶつけ合う。
「風の拳・不滅!!」
「裁きの刃・絶!!」
正拳突きと貫手突きが中央でぶつかり、青白い光と薄紅の光が両者を照らしながら黄金の炎が燃え滾る。
同じ翡翠に黒の瞳孔が現れた瞳で睨み合いながら下がった両者は、右の廻し蹴りを同時に出して中央でぶつけ合って相殺。
軸脚のみでバックステップして離れるや否や、互いに気を練る。
「真空ぅうう!! 波動ぉおお拳ぇええええんっ!!!」
前に一歩踏み込みながら、右腰に置いていた両手を前方に突き出して青白い光線を放つ。
「激烈!! 神ぃいん王ぉお砲ぅうぉおおおおっ!!!」
対峙するザマスもまた、世界をかき混ぜるように両手を大きく広げて回しながら前方に突き出して、青白い光線を放ってきた。
両者の酷似した一撃は互いの中央でぶつかり合い、押し合う。
だが両者の光は根本的に違う。
純粋な波動の一撃と、絶対の神気の一撃。
「どうした、ターニッブ!? 貴様の語る強さとは、この程度か!!」
「……流石だな、ザマス。この波動には絶対の神と名乗るに相応しい力と誇り、そして意思が込められているのを感じる。だが、それでも俺の心は折れはしない!!」
「ならば見せろ! 貴様の真の一撃をぉおおお!!」
互いに向かって吠える両者の声は、互いを鼓舞し高め合うかのように熱い。
ターニッブが静かに呟いた。
「練気、電刃ーー!!」
「ぬぅ!?」
波動拳を放つターニッブの両手から雷が噴き上がり始める。
ターニッブ自身が鍛えた波動ーー青白い光。
そして彼がその身に宿す黄金の炎ーー真・超サイヤ人。
二つの相反する力を融合させるのでなく、敢えて反発させることで摩擦を生じさせ、雷光が生じる。
「行くぞ、ザマス! 電刃ーー波動ぉおお拳ぇええええんっ!!」
更にもう一歩、後方に退いていた左脚を前に出していた右脚の前に踏み込ませて放つ。
瞬間、電刃がザマスの放った光を霧散ーー消滅させる。
「なんだと!?」
眼前に迫る波動拳に向かってザマスは高速で思考する。
(風の拳・心眼を波動拳で行ったというのか? 相手の攻撃を無効化して己の攻撃を叩き込む。これは、まさしくヤツの一撃必殺!!)
咄嗟に両腕をクロスして受け止めるザマスだがーー。
波動拳はザマスのガードを無視して、まともに肉体を打ち貫いて後方へと跳んでいく。
「ザマスの受けを無効化しただと!?」
超17号が目を見開く中、ターニッブが更にザマスの目前に踏み込んでいる。
棒立ちしているザマスは、動けないように見える。
「何をしている、ザマス! 迎撃しろぉお!!!」
叫ぶ超17号の声を聴きながら、見開いた瞳でザマスはターニッブを見据えている。
(これがーー電刃波動拳ーー! 相手の攻撃や防御を無効化し、その行動の一切を縛り付けると!?)
見事だと感じる反面、激情がザマスの胸を焼き尽くす。
「神たる私の動きを人間が封じるだと!? 思い上がるな、タァアアアニッブゥウウウウウ!!」
黄金の炎が己を縛り付けていた雷の鎖を断ち切り、ザマスが右拳を振り上げる。
「電刃の戒めを破るかーー! 流石だな! ならば行くぞ!!」
破られたことに寧ろ笑みを浮かべて、ターニッブは拳を繰り出す。
「真・昇龍拳ぇええええん!!」
「勝つのはーー私だぁあああ!!」
振り上がる拳と振り下ろされる拳。
両者の腕が交差し、互いの顔面に向かって放たれる。
「ザマスの方が速い! 終わりだ、ターニッブ!!」
「いいや! ターニッブさんの拳が、届く!!」
超17号、シンの声が響く中、鈍い音と共にザマスとターニッブ。
両者の首が仰け反る。
地面に背中から叩きつけられ、バウンドして後方に吹き飛ぶターニッブ。
拳を振り下ろしながら、後方に大きく仰け反って後ずさるザマス。
「……ここまでやって、相打ちとは。つくづく、気に入らん男だ」
倒れ伏したターニッブを見下ろしながら、仰け反った体を戻して仁王立ちになるザマス。
静かにザマスは、翡翠に黒の瞳孔が現れた瞳を細めてターニッブを見やる。
ゆっくりと立ち上がるターニッブは、黒髪黒目のサイヤ人に戻っていた。
「………見事に、負けてしまったな」
肩で息をしながら言うと、ターニッブはゆっくりと地面に片膝をついて崩れる。
その姿を静かに見据え、ザマスはーー不快そうに表情を歪ませている。
「負けた、だと? その闘志ーーまだ、尽きてはいまい」
「…ザマス」
「指先一本にでも闘志を灯せるならば、貴様にとって真の敗北ではないのだろう? 失望させるな!!」
黄金の炎が猛り、白金色の雷がザマスの身に纏う。
だがターニッブは動けない。
己の未熟をターニッブは痛感していた。
目の前の相手が己を欲していると言うのに、ここ一番で動けない弱さを。
ザマスの表情が激情から悲し気に変化した、その時。
「「ターニッブ。貴様の出番は終わりだ」」
絶望したシン達、勝利を確信した超17号の耳に声が届く。
そして闘い抜いた二人の戦士の間に。
紺色の道着、両耳に琥珀色のイヤリングをした、逆立った黒髪の男が立っていた。
目を見開くターニッブの前に、かつて対峙し戦った究極の合体サイヤ人が、彼を守るように背を向けている。
「ーーお前は、ベジット!?」
あまり表情の変わらないターニッブが、この時ばかりは目を大きく見開いて止まっている。
そんな彼に振り返ってベジットはニッと笑いかけると、ザマスに向き直る。
「過去の世界から来たかーー。しかし、私の理を抜けるために基本戦闘力の高い合体を選ぶとはな」
ニヤリと笑うザマスに向かって、ベジットも余裕の表情で返す。
「「悪いな、ザマス。ターニッブを“負け”させるつもりは、ない。この男は”孫悟空(カカロット)が倒す者”だ」」
言いながら、ベジットは黄金の炎をその身に纏う。
逆立った髪が黄金に燃え上がり、青白い雷がスパークとなってベジットの周りを飛び交う。
真・超サイヤ人ーーベジット顕現。
「………ならば貴様がターニッブに代わり、私の渇きを癒すと言うのか? 孫悟空」
「「ああーー。貴様と言う疫病神を叩き潰して、とっととトランクスの世界を開放させてもらう」」
「大きく出たなーー」
翡翠に黒の瞳孔が現れた瞳で互いを睨み合う両者。
ベジットが一気に踏み込む。
火花が両者の間で無数に飛び散った後、一際強烈な音と共に右ストレートが互いに放たれて、相殺する。
「なるほどーー。流石にターニッブより強い、か」
翡翠に黒の瞳孔が現れた瞳を細めるザマスに、ベジットは興奮を隠そうともしない笑みを浮かべて告げる。
「「そういうこった。そろそろ決めようぜ、ザマスーー」」
「ーー?」
「「真の最強ってヤツをーー!!」」
燃え滾る瞳でベジットはザマスに向かって拳を繰り出した。
それを軽く掴み、ザマスも拳を返す。
こちらをベジットは簡単に見切って避ける。
会話もそこそこに、両者は互いに向かって襲い掛かった。
次回は、明日の午前7時です。
よろしくお願いいたします(≧▽≦)