ドラゴンボールZ 真・超サイヤ人   作:カンナム

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踏みにじられた弱者の願い。

子を奪われた親の怒りと嘆き。

親を失った子の叫び。

それらを踏みにじる悪を前に、正義の炎を胸の内に燃やして男は立ち上がる。


願いを胸に 怒れ、孫悟飯!!

 黄金に輝く逆立つ髪。

 

 翡翠に黒の瞳孔が現れた瞳。

 

 そしてーー黄金のオーラを纏う山吹色の道着を着た孫悟飯は宙に、浮いたまま見下ろしている。

 

 地鳴りを上げて仰向けに倒れたのは100メートルに届く程に巨大なーー人間とほとんど同じ骨格をした異形。

 

「す、凄い。悟飯さん、あんなバケモノを相手に!」

 

 青い髪の青年トランクスが思わず拳を握って感嘆の声を上げる横で、真紅の道着を着たサイヤ人ガーキンも頷く。

 

「あんな巨体で姿をかき消すような理不尽なバケモン相手に一方的に打ち勝つなんて。信じられん」

 

 歴戦の勇士である彼らでも、ヒルデガーンと呼ばれたバケモノを相手にするには分が悪い。

 

 それほどの強敵だ。

 

 悟飯は片手を無造作にヒルデガーンにかざすと、気功波を放つ。

 

 金色の気弾は倒れているヒルデガーンの顔を目掛けて放たれるが、巨体に当たる瞬間に煙のように姿を消す。

 

「グガァアッ!!」

 

 現れたのは悟飯の頭上で、巨大な拳を振り下ろしながら落下してくる。

 

「もう一度だけ言う」

 

 悟飯は振り下ろされる巨大な拳を左に体をかわして避け、自分の右側に来た頭骸骨に似た顔に淡々と告げた。

 

「さっさと本気を出せ。その程度じゃ勝負にもならない」

 

 強烈な裏拳を横面に見舞い、仰け反るヒルデガーンの顔を更に右回し蹴りで遥か上空に蹴り上げる。

 

 悟飯はオーラを纏ってジェット機のように気流を残しながら更に追いかけ、吹き飛ばしたヒルデガーンの頭上を取ると右の手刀を振り下ろした。

 

 地面に激突する寸前でヒルデガーンは四つん這いになるように両手両足で着地すると、上空で自分を叩きつけた悟飯を睨み上げようと顔を上に向ける。

 

「……こっちだ」

 

 静かで低い悟飯の声が背後から聞こえ、ヒルデガーンは異形の顔を驚愕に歪めて振り返る。

 

 自分を見下ろす冷徹な翡翠に黒の瞳孔が現れた瞳があった。

 

「ウスノロ……!」

 

 微かな怒りと共に放たれた言葉の意味を理解出来たかは分からないが、ヒルデガーンは明らかに怒りの形相に変わると右拳を繰り出す。

 

「グガァアアアッ!!」

 

 紙一重で避けると悟飯は一気にパワーを引き上げて突進、ヒルデガーンの顎を殴り上げて、地面から巨体を引っこ抜くように浮かせると無数の拳と蹴りを全身に叩き込んで行く。

 

「グ! ガ? アァアアア!?」

 

 悲鳴を上げながら全身にクレーターのような打撃痕を植え付けられていくヒルデガーン。

 

 情け容赦は一切なく、眉一つ動かさずに悟飯はヒルデガーンを攻める。

 

 苛烈かつ緻密に。

 

 相手の希望や選択肢を全て塗り潰すように拳と蹴りを叩き込んでいく。

 

 非情とも言える攻めにガーキンは思わず声を上げた。

 

「……なあ、トランクス? お前の先生、怖くねえか?」

 

「悟飯さんは、悪党に容赦しませんから」

 

「あ。アレがフツーなんだね、君達」

 

 引き気味に、即答したトランクスを見ながら呟く。

 

 彼は知らないが、トランクスという青年は悟空の心臓病を治すために未来から来た時、今の悟飯と同じように全く情け容赦なくフリーザとコルド親子を倒しているのだ。

 

 悪党に容赦しない。

 

 正にその言葉の通りである。

 

「トランクス!!」

 

 悟飯の戦いを見ていると自分を呼ぶ声に振り返れば、先程ベビーが生み出した存在とは違うーー間違いなく自分の母がターレス達と共に現れた。

 

「母さん、プリカさん! ハル、マキ!!」

 

 四人の無事を確認して、トランクスの表情が明るく変わる。

 

 ガーキンはプリカに向かい頭を下げた後、ザンギャとヤジロベーを従えるように立つ褐色のサイヤ人ターレスに声をかけた。

 

「よぉ、お疲れさん!」

 

「ーー全くだ。サイヤ人の俺が、人助けなんぞ。二度としたくねえもんだ」

 

「人助けも悪かないと思うぜ? 礼を言われたら嬉しいだろ?」

 

「ふざけるな。そんなもん言われても、俺には一銭の得にもならねえんだよ」

 

「そんなもんかねぇ?」

 

 呆れたようなガーキンの言葉に、ターレスが笑い返す。

 

「覚えておけ、戦闘民族サイヤ人は欲しいものは力で手に入れるんだ。文明も科学も、酒も食い物も、全てを弱者から略奪して来た。無償の行為なんぞ、サイヤ人としては最も唾棄すべきものだ」

 

「野蛮なこって。他人と助け合ったり、自分でものを作り出すことをせずに奪うだけだから、お前らの星は滅びんのも早かったんだろうなぁ」

 

 自分の惑星サイヤには、農耕する者達もいる。

 

 街や服を自分達で作る技術もある。

 

 他者から奪う必要など感じないほどに物には恵まれているし、互いに互いを助け合う協力体制にある。

 

 わざわざ奪う労力を考えれば作った方が効率も生産性も良いのだが、惑星ベジータのサイヤ人は違うらしい。

 

「星が滅びたなら、新しい豊かな星を奪えばいいのさ」

 

「はた迷惑極まりねえ」

 

 ウンザリとした表情になりながら呟くガーキンにターレスが口の端を歪めて笑い返した後、こちらに近づいてくる赤いバンダナに左頬に擦り傷をした自分と同じ顔の男、バーダックを見る。

 

「……だろ? センパイ」

 

「下らねえ。弱い奴から奪うだのに興味はねえな。強い野郎が居りゃ殴り倒しに行くが、な」

 

 茶化すような口調のターレスにバーダックは、見咎めることもなく淡々と言葉を返す。

 

「……クク、自由気ままに己のやりたい事をやる。正にサイヤ人てヤツだ」

 

 ターレスが、バーダックの答えに満足したように笑うのを、ガーキンが呆れたように見ている。

 

「惑星ベジータのサイヤ人は、地球人とのハーフ(息子)も含めてどいつもこいつも過激すぎるぜ」

 

 惑星サイヤの一般的な見識のサイヤ人を代表して、ガーキンはひとりごちた。

 

 そんな彼らを他所にヒルデガーンは恐怖に震えていた。

 

 圧倒的な力を持ったエサがいると喜んでいたのは最初だけだ。

 

 自分の力など何一つ通じないと言わんばかりに、全てを封殺されている。

 

 強烈なアッパーで巨大な顎を殴り飛ばし、巨体を上空へ吹き飛ばす悟飯。

 

「ガァアアアアアァツ!!」

 

 怒りによる叫びか、恐怖による悲鳴かを上げるヒルデガーンは吹き飛ばされた上空で渦を巻いて煙のように姿を消していく。

 

「ーーつまらない真似を」

 

 悟飯が静かに呟くと、冷徹でありながらも燃える黒の瞳孔が現れた翡翠眼を自分の背後に向けて睨みつけた。

 

「そこだ!!」

 

 右手を振り返りざまにかざして金色の光弾を放つ。

 

 煙状態から実体化したヒルデガーンが口から火を吐こうと息を吸った瞬間。

 

「ガァアアアアッ!?」

 

 目の前に光弾が迫り、鳩尾の辺りに当たると一気に後方へと巨体を運んでいき、ビル群の群れに叩き込むと爆発する。

 

 立ち昇る煙を静かに悟飯は睨みつける。

 

「ようやくか、化け物」

 

 呟く悟飯の声に応えるようにヒルデガーンは茶褐色の繭のようなものに身を包み、抜け殻のように脱皮する。

 

 背中に翼の生えた金色の髑髏のような顔を持つ魔人へと。

 

 魔人は黄金の戦士を睨みつけると牙を剥き出しにして吠え、上空へと跳び上がりながら一瞬で目の前に迫る。

 

「! コイツは、一気に気が上がりやがった!?」

 

 ガーキンが叫ぶ横でトランクスも目を見開く。

 

「パワーもスピードも桁違いに上がってる!? 悟飯さん!!」

 

 巨大な拳が悟飯に振り下ろされ、衝撃波が廃墟のビル街を崩していく。

 

 しかしーー拳は宙で止まっていた。

 

「「「「!!!?」」」」 

 

 魔人もトランクス達も目を見開いて固まっている。

 

 まるで時間が止まったようだった。

 

「ーーそれで終わりか?」

 

 冷徹にして低い声が辺りに響く。

 

「ガ? ガガァ?」

 

 左腕を突き出してこちらの拳を簡単に止めている悟飯と目が合い、魔人は冷や汗をかきながら巨体を一歩、後方に下げる。

 

 その表情はまさしく恐怖だった。

 

「無関係な人々を襲い、その命を貪り喰らうだけの存在が。それだけの人を犠牲にして得た力が、こんなものか?」

 

 悟飯はヒルデガーンに、淡々と静かな怒りのこもった声を向けている。

 

 ターレスが頬に冷汗を一つかいてバーダックに告げた。

 

「なあ、バーダック? アンタの孫、いつからあんなにおっかなくなりやがった……?」

 

「知ってんだろ? 俺の血を引く男の中で、最も怒らせちゃいけねえのが悟飯なのさ」

 

 誇らしげに、静かながらも口許に興奮を隠しきれない笑みを浮かべてバーダックは笑う。

 

 他者を否応なく屈服させる冷徹にして苛烈な悟飯を見て、バーダックの血が騒いでいる。

 

「勿体ねぇ。アレほどの力と器を、地球なんぞで腐らせるとは」

 

 ターレスが惜しむように悟飯を見て呟く。

 

 それほどまでに今の悟飯は、強い。

 

「お、おっかねぇでしょ~! あ、あぎゃあなおっかねえ顔をするんだぎゃかぁ? 孫の息子!?」

 

「ーーな、何故かしら。見てるだけで寒気がするわ。自分に殺気を向けられてるわけでもないのに」

 

 ヤジロベーとザンギャの言葉にブルマが頷く。

 

「私の知ってる悟飯君よりも強くて、怖くてーーそして”何とかしてくれる”って思わせてくれる。まるで、孫君のように」

 

「頼もしいですよーー! 悟飯さん!!」

 

 トランクスが懐かしそうに、嬉しそうに笑う。

 

 どれだけ強大な悪でも、この力の前には赤子も同然だ。

 

 そう思わせてくれるほどに孫悟飯は強い。

 

「ぐ、グガァアアアアッ!!」

 

 額に皺を寄せ、怒りに震わせるヒルデガーンを見つめて悟飯は告げる。

 

「小さいな、お前」

 

 左の巨拳を右腕を曲げて受け止める。

 

 衝撃波が悟飯の背を抜けてビル街を揺らすも、孫悟飯は微動だにしない。

 

「いったい幾つの人を犠牲にして、その程度の力なんだ?」

 

「!! グガァアアアアアッ!!!!」

 

 震える歯を食いしばり、魔人は最後の咆哮を上げると、悟飯から距離を取るように大きく後ろに跳躍して羽を広げ、そのまま天高く舞い上がって離脱しようとする。

 

「! ヒルデガーンが逃げるぞ、悟飯!!」

 

 ガーキンが思わず叫ぶも悟飯は淡々と見上げゆっくりと、腰に拳を置いて消えた。

 

「……合格だ。それでこそ、カカロットや俺の血を受け継ぐ男だ。悟飯」

 

 満足そうに笑うバーダックの遥か上空で、鈍い打撃音が響き渡ると同時に悲鳴。

 

「グガァアアアアアアアッ!!?」

 

 地球人たちが不安げに見守る中、少し離れた場所に叩きつけられる金色の巨大な異形。

 

 空洞の両目に紅に光る瞳が現れ見開かれる。

 

「ーーもういいよ。人を不幸にするためだけに生み出された力がその程度なら、お前はもう消えていい」

 

 逃げられない。

 

 殺される。

 

 やらなければ殺される。

 

 そんなことを今更ながらに魔人は理解する。

 

 だから己の全力をこめて黄金の戦士に向かってぶつける。

 

「グガァアアアアッ!!!」

 

 大きな顎を開き、蒼い光の球を生み出す。

 

「! 来るぞ、小僧!!」

 

「へっーー決めちまえ、悟飯」

 

 ターレスとバーダックの言葉に応えるように、悟飯は両手を大きく広げて円を描くように回しながら右手と左手を相手に向けて開き、上下に手首を合わせて体をひねって右腰に置いてたわめる。

 

 蒼穹の輝きが悟飯の両手から篭れ、静かに瞳を閉じる。

 

ーー 終わらせよう。相棒

 

 その内なる声に悟飯は冷徹な瞳のまま、穏やかに口許を緩ませる。

 

 そしてーー赤い体毛を持った剥き出しの上半身に長く黒い髪、金色の瞳の孫悟飯が彼の背後に幻影のように一瞬現れた。

 

「コイツは!? 小僧にもあるのか!? 超サイヤ人4の可能性が!!?」

 

 ターレスが驚くその力は、真・超サイヤ人とは根本的に違う。

 

 強靭な肉体と野性的なまでの大猿の闘争本能に反応速度を兼ね備えた、正に究極のサイヤ人。

 

 それを引き出した。

 

「究極(アルティメット)ーー!」

 

 呟く悟飯の手の中の光は、父親や祖父と似て非なる真紅に変化する。

 

 究極のサイヤパワーを倍化の力で引き上げて、もはやヒルデガーンなど敵では無いほどに力を高める。

 

「か…! め…! は…! め…!」

 

 魔人が最期の足掻きとばかりに口から魔光線を放つ。

 

 強大にして巨大な光線は、悟飯どころか背後にいる地球人や仲間たちを全て飲み込むほどのもの。

 

 だが、彼の仲間たちは誰一人、逃げようとさえしない。

 

「波ぁあああああああっ!!!」

 

 両手を突き出し、悟飯は極大の一撃を放つ。

 

 青と赤の光が真っ向からぶつかり合い、一瞬だけ押し合う。

 

 が、その一瞬が過ぎれば魔人の放った光は一方的に蹴散らされた。

 

「!!!!!」

 

 目を見開き、悲鳴を上げる暇もなく、魔人は悟飯の放った紅い光に飲み込まれていく。

 

 巨体は、その邪悪な気配とともに完全に光の中へと消えて行った。

 

 その力の余波で、廃墟のビル群が軒並み崩れ落ちていく。

 

「チッ!」

 

「ハァッ!」

 

 ターレスが舌打ちし、バーダックが気合を入れて真・超サイヤ人に変身すると己の気をドーム状のバリアに変化させて、地球人達を含めた仲間を守る。

 

 咄嗟に二人が変身しなければ守れないほどの力を悟飯は放ったのだ。

 

 ガーキンが思わずぼやく。

 

「俺達まで殺す気か、あんにゃろめ」

 

「ーーす、凄い。さすが、悟飯さん!!」

 

「もう、トランクスったら」

 

 手放しで喜ぶトランクスを微妙な表情でブルマが見る。

 

 ガーキンはこちらに向かって歩いてくる、黒髪に戻った山吹色の道着の青年を見つめる。

 

 その表情は先程までの鋭い戦士の顔ではなく、孫悟空と同じドジで明るい雰囲気を放っている。

 

 同じく黄金から黒髪に戻ったターレスが、自分の両腕を組んだ状態で叱りつける。

 

「何やってんだ、小僧!」

 

「へへっ。……すみません」

 

「やれやれ……!」

 

 悟飯は頭をかきながら謝罪の言葉を上げる横で、肩を竦めて力を納めながら嬉し気に笑うバーダック。

 

 プリカはその光景を見ながら天を見上げる。

 

「これが、孫悟空さんの仲間。これが、あらゆる絶望を軒並み倒してきた希望の象徴。真・超サイヤ人の力もきっと彼らにとっては、おまけのようなものなのかもしれません」

 

 彼女の声は、ここより遥か彼方にある神域に向けて放たれている。

 

「ひとの可能性を見て。人の想いを知って、貴方は変わっていった。サイヤーーそして、ザマス様」

 

 譲れないと叫ぶ絶対の神を名乗った男に、プリカは悲しそうに告げる。

 

「今の貴方ならば、違う未来も手に入るのに。どうして、その道をーー!」

 

 そんな彼女をマキが幼い顔を上げて心配げに見つめてくる。

 

 それに首を横に振って笑みを浮かべて安心させようとするプリカ。

 

ーー あ~、テステス! 聞こえる、悟飯君。ターレス、バーダック?

 

 圧倒的な勝利を収めた悟飯たちの下に突如、幼くも闊達な少女の声が聞こえる。

 

 テレパシーのようなもので、悟飯達の胸に響かせている。

 

「時の界王神様ーー!」

 

ーー 正解~! さすが、悟飯君よね!!

 

 上機嫌な時の界王神の声に、バーダックが怪訝な声を上げる。

 

「どうしたよ? この世界にゃ干渉出来ないんじゃなかったのか?」

 

ーー ほころびが生まれたのよ。ベジットとザマスのパワーもそうだけれど。さっきの悟飯君の一撃でとどめになったわね

 

「ああ、なるほど」

 

 ザマスの編んだ世界の理は、最早何の意味もなさないほどにボロボロだというのだ。

 

 時の界王神は、そのまま告げる。

 

ーー ホントに凄いわね。私でさえ介入できなかった世界の理を、ここまで完膚なきまでに叩き潰すなんて。あなた達、規格外すぎるわよ

 

「……神でも俺達サイヤ人の可能性までは測れないってわけか? 当然だな」

 

 これにターレスが上機嫌な笑みを浮かべる。

 

 ガーキンやプリカでさえ、声の主が分からず困惑する中、悟飯が問いかけた。

 

「時の界王神様。理が破れたのならば世界は間もなく崩壊するのでは?」

 

ーー ああ! そうだった! あなた達を転送したいんだけど、さすがに地球だけならともかく。他の宇宙の生命体も全て回収ってなると一筋縄じゃ行かないのよ! その程度の綻びじゃ、転送できないの

 

「……全王様の力なら、その綻びから完全に理を崩壊させられる」

 

ーー そうよ。世界を完全に消去するくらいのパワーで放って頂戴。同時に私が全ての命をこちらへ移すわ

 

 悟飯たちの頭に、彼女の管理する都が映し出される。

 

 空は真っ暗になり金色の輝きを纏う緑色の龍が浮かんでいる。

 

「これはーー神龍(シェンロン)!? ドラゴンボールなの!!?」

 

 地球のドラゴンボールに瓜二つの神龍が空に浮かんでいる。

 

ーー そういうこと! 悟飯君が全王様の力ーー全王玉を使ってザマスの理を消したら、全ての命をこちらに転送するから。安心して!!

 

 ブルマの叫びに、映像の時の界王神がウインクしてくる。

 

 ターレスがニヤリと笑う。

 

「これが、あらゆる願いが叶うというドラゴンボール。かつてフリーザが欲しがったものか。なるほど、確かにイイもんだなぁ」

 

「そういう不穏なセリフを今は吐くなよ」

 

 ガーキンが溜め息交じりに呟く。

 

 トランクスが悟飯を見つめる。

 

「悟飯さんーー!」

 

 悟飯は地球人たち一人一人の顔を確かめた後、トランクス、ガーキン、マイ、プリカ、ブルマ、ターレス、バーダックを見つめ返す。

 

 全員が力強い瞳で見返してきた。

 

「やります。時の界王神様、お願いします!!」

 

ーー 了解~!!

 

 自分の胸の前にボールを抱えるように手をかざす悟飯。

 

 彼の胸の中から、蒼銀の輝きを放つ光球が現れる。

 

 その力は、何の気なしに全てを消してしまえる力だ。

 

ーー き、気を付けてね? 全王玉を使いこなすには、相当な精神力が必要だから

 

「分かりました」

 

 それだけを応えると、悟飯は輝く全王玉を両手持ちから右片手に持ち換える。

 

 そして頭上に掲げた。

 

「ーーごめんな、もう一人の俺。君やトランクスさん達の世界を守れなかった」

 

 右手を頭上に掲げて、掌の上に浮かぶ全王玉を見つめる。

 

 これを握り締めれば世界は消える。

 

ーー 精一杯、やったさ。何より、君が居なかったら俺も戦えなかった。君に礼を言うことはあれ、責めるなんて。まして君が詫びなければならないことなんか、ない。

 

「君がそう言ってくれるのは分かっていた。でも、でもさ。もうホントにどうしようもないって分かってるけど。それでもーー! それでも、此処は! この世界は!!」

 

 震えている。

 

 世界を消すと言う重みに。

 

 頭では分かっているのだ。

 

 もはや救うことはできない、と。

 

 元通りに戻ることなどない、と。

 

 それでも、それでも「悟飯」にとっては“この世界”は父親や母親と共に育った世界であり、守るために命を落とした世界でもある。

 

ーー お互い思うところはある。だけど、今しなければいけないことを忘れちゃダメだ。

 

 迷う悟飯に未来世界の悟飯が告げた。

 

 これに心底、悔し気に悲し気に、悟飯は天を睨み上げて叫ぶ。

 

「時の界王神様、後は頼みます!!」

 

 拳を握り締めた瞬間、全王玉が光を増して世界に満ちていく。

 

 瞬間、時の界王神の声が響いた。

 

ーー 未来世界の全ての星々と生命を、私の造り上げた新たな“時の世界”に移し替えて!!

 

 光に全てが飲み込まれると同時、悟飯は自分達が立っている地球ごと何処かに飛ばされるのを感じていた。

 

ーーーー

 

 既に世界の理は、そのほとんどを破壊され。

 

 神々が住む界王神界でさえも、原形を留めることが難しくなっていた。

 

 それほどのパワーとパワーがぶつかり合い、爆発している。

 

 強大な爆発を二つ起こして、ベジットとザマスの姿が視界から消える。

 

 それを見上げながらゴワスが周囲の気配を感じて、声を上げる。

 

「こ、これは!? 世界が!?」

 

 自分たちも含めた世界そのものが、何処かに引っ張られている。

 

 崩壊する時空から別の時空へと。

 

「悟飯さん達が、やってくれた!! ゴワス様!!」

 

 シンが笑みを浮かべてこちらの勝利を確信する。

 

 崩壊するザマスの世界から脱出できると、心から笑みを浮かべている。

 

 ターニッブは、それを見ながら静かに自分の前に横たわる長身の男ーー超17号を見つめ、それから目を左に移動させる。

 

 そこにはボロボロになった白き龍人・一星龍が横たわっていた。

 

「ザマス…。お前は、自分ひとりだけで世界を終わらせた罪を償おうというのか」

 

 その言葉にゴワスがターニッブを見つめた後、声を上げた。

 

「やはりーーザマスは」

 

ーー 聞こえる~!? 界王神界のみんな!?

 

 場違いなほどに明るい声が響き渡り、シンが反応する。

 

「この声はーー時の界王神様!!」

 

ーー そういうこと! シン君、ゴワスさん。ひっさしぶりぃ~! って無駄話をしてる場合じゃなかったわ。いい、あなた達? 今。私の世界のドラゴンボールで、全ての星々や命をこちらに移動させているの! だから、あまり動かずにジッとしていてちょうだいね!!

 

 時の界王神の言葉に、シンが声を上げる。

 

「待ってください、時の界王神様! それでは、悟空さん達は!!」

 

ーー だぁかぁら~、悟空君たちにも伝えてよ!! 闘ってないで一旦、手を止めてって!!

 

 時の界王神の言葉にシンが目を見開いて、煙舞う上空を見つめる。

 

 無の世界になりつつある証か、世界は地も空も星もーー何もない混ざった世界。

 

 光も闇もない空間となっていた。

 

 煙が晴れ、濃紺の道着に山吹色の帯をした黄金の戦士から黒髪黒目に戻った男・ベジットが現れる。

 

「「ク、クク、たまんねぇなぁ!!」」

 

 全身に見るからに重い傷を負い、肩で息をしながらも、興奮冷めやらぬといった表情で自分の向かいを睨みつけている。

 

 対峙する相手ーーザマスもまたボロボロになった全身を晒す。緑色の肌に、逆立つ銀の髪に戻った己を見下ろしながら。

 

「……コレが、あなた方の力か、孫悟空にベジータ。いやベジットよ」

 

 2メートルを越える身長も、黄金に輝く髪も、サイヤ人だった肉体も。

 

 今は元の合体ザマスの姿に戻っていた。

 

 不死身の特性で服や肉体を再生しながらも、汗を頰にかいて讃えるような笑みを浮かべている。

 

「真・超サイヤ人の力はお互いに使い切った。我々の肉体や魂は、もはや限界だ」

 

「「………フ」」

 

 ベジットもまた相手に向き直り、不敵に構える。

 

 互いに右手刀を作りベジットは金色の、ザマスは薄紅色の光刃を生み出す。

 

「ならば、決着は互いの刃で決めるのみ!!」

 

「「上等…!!」」

 

 互いに距離を一気に詰め、ザマスが頭上から真っ直ぐに振り下ろしを放ってくる。

 

 紙一重で後方に背を反らし避けるベジット。

 

 ベジット返しの刃は右からの横薙ぎ。

 

 火花を散らして顔の横に置いて縦に構えた光刃で受けるザマス。

 

 両者、そのまま鍔迫り合いの姿勢に変わる。

 

 歯を食いしばって互いに刃を押し合い、睨み合うベジットとザマス。

 

「ぬうっ!!」

 

「「……はぁっ!!」」

 

 一瞬の拮抗をした後、ベジットが金色に輝く。

 

「な!?」

 

 力を使い切ったはずのベジットが超サイヤ人に変身したことに驚愕するザマス。

 

 これだけ追い詰められ、肉体的な余裕を無くそうとも変わらずに笑みを浮かべて、超ベジットは翡翠の瞳で告げた。

 

「「…コレが、サイヤ人の底力だ」」

 

 ザマスの刃が半ばからへし折れ、ベジットの刃が袈裟懸けに振り切られた。

 

 両者、すれ違って止まる。

 

「……見事だ」

 

 胸から鮮血を吹き出し、仰け反りながら界王神界の地面に向けて崩折れ、ゆっくりと仰向けに倒れるザマス。

 

 そんな彼を見下ろして超ベジットは呟いた。

 

「「俺の、勝ちだ……!!」」

 

 その小さな呟きに込められた万感の思いを察して、ターニッブが爽やかに微笑む。

 

「流石だな、ベジット!」

 

 全王をも弾いた絶対の神を相手に、真っ向勝負で下したベジット。

 

 彼の強さは、人々に強く焼きついていた。




次回は、明日の午前7時です。

よろしくお願いいたします。
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