一人の男としての意地を通す。
それを道化と笑うならば、生き様を見てから笑うがいい。
悟空とゼノ、ブラックとザマスの四人の前に現れた3メートルを越える身の丈のサイヤ人。
巨漢のサイヤ人にブラックがゼノと悟空に向かって告げる。
「……そのサイヤ人は、貴様らにくれてやる。俺の狙いはザマス。ただ、一柱(ひとり)だ」
ザマスもコレに頷き、サイヤ人からブラックに向き直って両手を広げて構える。
「良かろう、ブラック。来るがいいーー!」
ザマスとブラックの様子を伺っていたゼノと悟空は、互いに頷き合うとゴワスを背に庇ったままマスクを付けた謎のサイヤ人に構えた。
「フン、下郎の分際で俺を無視して自分達だけで闘えると思っているのか? 雑魚ども!!」
サイヤ人は、ゼノ達を一瞥した後にブラックとザマスを睨みつける。
「貴様達、全員! このカンバーの獲物よ!! 一人足りとて俺からは逃げられんぞ!!」
赤黒い炎のようなオーラを身に纏い、サイヤ人ーーカンバーは、自分を無視して闘おうとするザマスとブラックに向かってその場で軽く空を撫でる。
すると黒いオーラで象られた巨大な鋭い爪がザマスとブラックを再び襲った。
しかし、コレをにべもなく第三者が放った白い光が消してしまう。
「……何ぃ!?」
ソレは、力の大小に関係なく全てを消してしまう力。
全知全能の神々の長が放つ光ーー。
「ぜ、全王様ーーっ!」
ゼノと悟空の二人に庇われながら、ゴワスは目を見開いてザマスとブラックを救った主に呼びかける。
幼く無邪気な雰囲気と、全知全能の力を持った小さな子供のような見た目の彼に。
全王はゴワスに目を向けた後、二人の悟空に笑みを浮かべてからザマスとブラックに顔を向けた。
カンバーなど、目にも写していない。
「ねえ、ザマス? 君はホントに世界を救うつもりなの? 自分が殺した者たちを自分の存在と引き換えに復活させるつもりなの?」
ブラックもゼノも悟空もゴワスも、その幼い子どものような声に固まる。
ザマスが表情を消して睨みつけるように全王を見つめると、彼の両脇には長身の付き人に代わって、第7宇宙の破壊神ビルスと天使ウイスを連れていた、
ジッと全王はザマスを見つめ返している。
「……全王、か。しかし、私が神の社ごと世界から拒絶した「あの全王」ではないな」
この世界のビルスは既に死んでいる。
ならば、此処にいるビルスやウイスは過去の世界の存在であろう。
彼らを連れている全王も。
「……全王様が。何故、このような場所に?」
ブラックが思わず、という風に声をかけると、全王は彼を無表情で見つめた。
「…キミ、悟空を殺したザマスだよね。運が良かったね。僕が来る前に悟空を蘇らせてなかったら消してたよ」
「……この期に及んで。貴方が、全てを放置しなければ俺が孫悟空に会うことも! 神や人間を滅ぼすこともなかったのだぞ!!」
叫び返す真・超サイヤ人ゴクウブラックに、全王は淡々と言葉を返す。
「この世界の僕に言われなかった? 君は、神としてバランスが保てていない。君の正義は一過性で狭い視野の中でしか通じないよ。だから、ほかの神達にも賛同されなかったの」
言いながら全王はブラック、ゼノ、ザマスを見つめていって笑う。
「でも、ザマス。君たちは、変わったね。僕、神にも色んな可能性があるってはじめて知ったのね」
それは人間に近い心を持つが故か。
本来、神は生まれた時点から魂が変化することはない。
経験を積み重ねて、仕事の効率や見識の幅などは変わるであろうが、基本的な考え方や行動が変わることはない。
だが、ザマスという神は違った。
三柱(さんにん)のザマスは、それぞれ全く違う道を歩き示した。
「でも三人とも世界を救おうとしてるのは、変わらないんだね。ゼノは悟空と一緒になる前、ザマスの時と比べても、あまり性格が変わってないけど。ブラック、ザマス。君たちは変わった。ねぇ? いったい何が君たち二人を変えたの?」
本当に純粋な疑問だと全王は、二人に問いかけた。
「なんだ、貴様? そんな下らん事を聞くために、この俺の邪魔をする気か?」
呑気な全王の問いかけを遮るように、赤黒く禍々しい神の気に似たモノを纏ったサイヤ人カンバーが、獣が唸るような声で告げる。
その前に破壊神ビルスが立った。
「ーー辞めときなよ。ザマスと違ってお前じゃ、全王様の機嫌を損なうくらいしか出来ない。この歴史にさえ無関係なんだ。さっさと消えろ」
「誰に命じている!? 貴様ぁ…!!」
「分からないか? “お前”だよ」
淡々とした声に含まれた苛立ちに、ウイスが眉を微かに上げてビルスを見る。
瞬間、カンバーが高速移動で姿を消すとビルスの目の前に現れる。
巨大な左拳が振り下ろされるのを、ビルスが右掌を顔の前に上げて掴み止めた。
「ほう? 貴様も、俺の拳を掴むか。いいぞ。もっと俺を楽しませろ!!」
「身の程を弁えない礼儀知らずめ。僕は君のような奴が一番嫌いなんだ」
ビルスは鋭い瞳で睨みつけて、紫色の神気を全身から奮い立たせる。
「他人の覚悟や信念を台無しにして場をかき乱すヤツは、僕にアッサリと破壊されても仕方ないよね?」
「やってみろ! 出来るものならーーなぁ!!」
ビルスの右ストレートを左腕でガードし、即座に拳と蹴りを返すカンバー。
巨体に似合わぬ速度と手数、身のこなしにビルスが目を見開いた。
(コイツ!?)
巨大な拳を片手で掴み止めるビルスにカンバーが吠える。
「面白いーー! 貴様も強いな…っ!! いいぞ!! この歴史は、最高だぁあああっ!!!」
牙を剥き出しにして、怒りの表情に変わったビルスの拳をカンバーは凄絶な笑みを浮かべて簡単に受け止め、拳を返してくる。
これにビルスの細い目が怒りによって見開かれた。
「ザマスやブラック達の戦いに割って入るだけの力はあるようだ。認めよう、お前の力は人間の身には過ぎたものだと。だがーー!」
その怒りは、此処に至るまで事態を収拾できなかった破壊神としてのものか?
それとも、別の歴史からやってきた乱入者に対するビルス個人としてのものか?
本人にすら分かっていないのかもしれない。それでも、確かにビルスの胸の奥に怒りの炎が生まれていた。
「ザマス達(神)の覚悟も、悟空達(人間)の勇気も台無しにしてくれた貴様だけはーー! 生きてこの場を帰れると思うなよっ!!」
轟音が無の世界に響き、衝撃波が空間を揺らしていく。
「覚悟? 勇気? 下らん!!」
その怒りの拳を受けてカンバーが笑みを深める。
本気の破壊神の拳を受けて嘲り笑っていられるだけの余裕が、この大男にはあるのだ。
「戦いにおいて必要なモノは力。ただ、それだけよ!! 闘う場において覚悟だの何だのと余計なモノを口にする時点で見当外れも良い所だ!!」
「…お前の言葉にも一理ある。だが、今この場においては看過できない発言だ」
「知ったことか!! 俺は俺の我を、どのような時と場であろうと通すだけよっ!! それこそが強者(つわもの)の証!!!」
「自分の強さを示す為だけに、わざわざ覚悟の決まった連中の戦いに泥を塗ったのか? ーー完全に、キレたぞぉおおおおおおっ!!!」
天井知らずに気を高めるビルスを見て、カンバーも己の纏う禍々しい気を上げていく。
二人の光は空間に線を引き、拳や蹴りがぶつかり合う度に光の波紋が生まれる。
これにウイスが瞳を細めていた。
(悟空さん達との修行でビルス様自身も相当な戦闘力になっているというのに。本気になったビルス様と黒髪の状態で打ち合える。このサイヤ人はーー一体?)
派手な打ち合いを演じながら、ぶつかるビルスとカンバーをおいて全王はジッとブラックとザマスを見つめる。
「ウイス。ーー悟空達とゴワスをお願いするのね」
「……分かりました、全王様」
全王に恭しく礼をした後、ゴワスと二人の悟空の前にウイスは移動する。
「ウイス殿ーー!」
「ーーウイスさん」
ゼノと悟空に笑みを返し、ウイスはゴワスを見つめた。
「ゴワス様。申し訳ありませんが全王様より“これ以上は此処に留まるな”とのお達しがあります。わたくしと来ていただきますよ」
「ーーウイス様。どうか、この老いぼれ界王神を哀れとお思い下さるならば。私に最後までザマスの結末を見届けさせていただきたい!」
必死に頼み込むゴワスにウイスは微かに瞳を細めた後、瞳を閉じて杖をかざした。
「ーー申し訳ありません。ゴワス様」
「なーー!?」
ゴワスの肉体を転移の光が包み込む。
目を見開いたゴワスは、全王と向き合うゴクウブラックと合体ザマスに手を伸ばした。
「ザマスゥウウッ!!」
ゴワスの絶叫が響く中、二柱のザマスは全王から目を離さない。
ドラゴンボールが作り出した次元移動の道を強制的に通らされたゴワスを見て、ゼノと悟空はこちらに体を向けるウイスに構えを取る。
「な、なんでだよ! 全ちゃん!! ウイスさん!!」
「オレ達まで。いや、ザマスであるオレまで飛ばすってのか? ちょっと認められねえな」
水銀のオーラと赤の混じった金のオーラを纏う悟空とゼノ。
これにウイスは微笑みながら呟いた。
「ーーすみませんね。悟空さん」
その言葉は、本気で申し訳なく思っているようなーーいつも中立なウイスにしては珍しい声音だった。
だが同時に本気であることを理解した悟空は鋭く目を細める。
「こりゃ、ヤベエな…!」
「ーー流石にな」
ゼノも頷く。
頬に冷汗を流す。
そんな二人の下に、自分達と同じ声が届いた。
ーーだらしがねえぞ、そっちのオラ! ゼノ!!ーー
悟空とゼノ、ウイスが思わず目を見開いて空を見上げる。
ーーーー
刻蔵庫の中から巻物に映し出された二人の自分に向かって、孫悟空は声を張り上げた。
「諦めんな!! 諦めるなんてオラなら、孫悟空なら絶対にしねえぞ!! 絶対に! ブラックとザマスを連れて全員で生きて帰って来い!!!」
「カカロットの言うとおりだ! おい、そっちのカカロット! ゼノ! 必ずそいつらを生かしたまま時の巣って所まで連れて来い!!!」
「…たとえ指先一本にでも闘志を灯せれば、格闘家にとって真の敗北はない!! 悟空!! ゼノ!! 最後まであきらめるな!! 俺たちが見守っているぞ、友よ!!!」
これにベジータとターニッブが続く。
彼ら三人のサイヤ人の声が、時を次元を越えて別次元の悟空とゼノ達に届いていた。
ーーーー
超サイヤ人4になったゼノが、静かに空に向かって笑みを返す。
「ーー分かってる!!」
「絶対に、これ以上は誰も死なせねえ!!」
隣で孫悟空もウイスに鋭い笑みを向けた。
「時空や次元を越えて届く声。時を管理する巻物ーー。なるほど、時の界王神様の入れ知恵ですね」
ウイスが持っていた杖を消して二人の孫悟空に対し拳を握り、構えを取る。
「行くぞぉ!!」
「おおっ!!」
二人の悟空が叫び合い、ウイスに向かって殴りかかった。
左右に別れて拳と蹴りのラッシュを繰り出すもウイスの長い両腕と両膝に完全に防がれ、捌かれる。
「つぅおりゃぁああ!!」
「だりゃぁあああ!!」
しばらく連打を繰り出した後ゼノが顔面を、悟空がボディを狙って右ストレートを打ち貫く。
「ーー甘いですよ」
それをウイスは淡々と左手を顔の前に、右手を腹の前に置いて発生する衝撃波も無関係に止めてしまう。
(超サイヤ人4でも攻撃が遅いか! ヤツの反応速度を超えなきゃ、勝機は無い!!)
(ウイスさんの“動き”を超えるのは無理だ。だったら動きもねじ伏せる一撃をぶち込むしか無ぇ!!)
一瞬で思考を交差する二人の悟空。
悟空ゼノが叫んだ。
「力(りき)を溜めろ! オレが時間を稼ぐ!!」
「分かった。頼んだぜ、もう1人のオラ!!」
腰だめに右拳を置いて気を高めていく。
ーー 狙うんは一撃。オラの全てをこの拳に ーー
「賭けるーー! 20倍界王拳だぁあああああっ!!」
蒼銀のオーラが炎のように猛り、赤いオーラが生まれる。
一気に悟空のパワーが限界突破する。
それでも、まだ悟空はパワーを解放しない。
(なるほど。龍気を限界まで溜めた右拳に界王拳と超サイヤ人ブルーの力を上乗せして放つつもりですか)
淡々とした冷徹な瞳でウイスは悟空を見た後、自分に突っ込んでくる超サイヤ人4のゼノを見据える。
踏み込みの鋭さ、拳の速度と強さに反応速度。
全てが超サイヤ人ブルーの孫悟空よりも上だ。
(流石、ビルス様を相手に互角以上に戦える超サイヤ人4--! ザマスという神の視点も取り込んだことで野性と理性が兼ね合わさった素晴らしい動きをしている。ですがーー)
「あなたでは、超サイヤ人4を使いこなせないのではありませんか、ゼノさん? 悟空さんのそれに比べて些かパワーが足りない気がしますが?」
「フ、オレのフルパワー試してみるかい?」
両者の腕が交差するようにぶつかり、互いに押し合う。
ウイスの瞳が見開かれた。
「これは!?」
純粋なサイヤパワーが噴き上がり、ゼノのパワーを一気に引き上げる。
強大な力を前に、天使のウイスが後方に仰け反った。
「超サイヤ人4を舐めんなよ。ーー天使さまよぉ!!」
目を見開くウイスに、強烈なラッシュを畳みかける。
まるで両腕が意志を持っているかのように動いて拳と蹴りを捌いていくウイスだがーー。
「わたしの腕が、痺れる!?」
反応速度が、パワーが、闘えば闘うほどに引き上げられていく。
ウイスの反応速度を超えようと言わぬばかりに、超サイヤ人4の纏うオーラから黄金の大猿の幻影がウイスの目の前で牙を剥いている。
「ーーこれが、超サイヤ人4!!」
純粋な戦闘力で神や天使の域にまで達する能力。
正に戦闘民族そのものの力を発揮する超サイヤ人4を前に、ウイスが瞳を細めて笑みを浮かべた。
「確かにーー。この力は素晴らしいですねぇ。貴方は界王神よりも破壊神向きだと思いますよ?」
「ーー止してくれ。どっちも柄じゃねえよ」
捌き切れなくなってきている。
ゼノの拳がウイスの頬に微かに触れ始めているのだ。
(何万年ぶりでしょうねぇ? 私が顔に触れられるなんてーー!)
笑みは崩れない。
「ですがーー、それでも私には勝てませんよ?」
それくらいは出来るだろう、と既に動きやパワーを予想され始めている。
これではウイスを超えられない。
ウイスを本気で驚かせるほどでなければ、この勝負は負ける。
「頼むぜーー! そっちの俺よぉ」
強烈な炸裂音と共に拳が弾かれ、カウンターのフックを食らって仰け反りながらゼノは思う。
超サイヤ人4の底を見抜かれた時、ゼノは負ける。
その前に超サイヤ人ブルーの悟空が龍拳を放てるか。
その一撃がウイスに届くのか、それともーー。
これは、そう言う勝負だ。
ーーーー
破壊神ビルスとサイヤ人カンバー。
天使ウイスと超サイヤ人4孫悟空・ゼノと超サイヤ人ブルー孫悟空。
彼らの激闘を背後に全王は静かに二人ーーブラックとザマスを見つめている。
「君たちが、本当に自分を犠牲にして世界を救うっていうのなら見せてほしいのね」
「ーー何をだ?」
ザマスの問いかけに全王は光の球を作り上げると自分の頭上に掲げる。
光の球の中には、金色の光を纏う龍がこちらを覗き見ていた。
「ーードラゴンボールだと?」
ブラックが目を見開く中、全王は問いかける。
「ザマス。君の命を使えば、ドラゴンボールは一度だけ超ドラゴンボールを超える力を手に入れるのね。君の命と引き換えに君たちが奪った命全てを甦らせることが出来るのね」
その言葉にザマスはニヤリと笑みを浮かべて神龍を見据える。
「本当か?」
「ちょっと、ザマス! 全王様に向かって失礼にも程があるわよ!!」
神龍の下には時の界王神クロノアが立っており、ザマスに向かって文句を告げるも、彼は大して興味を引かれることなく神龍を見据える。
ーー 本当だ。世界の意思と融合した絶対の神よ。お前の魂の消滅と引き換えに世界をあるべき姿に戻すことができる ーー
その言葉にザマスはこれ以上ない笑みを浮かべた。
「ならば、グズグズしている暇はあるまい。さっさとやれ」
「……!」
ブラックが目を見開いてザマスを振り返るも、彼は既にブラックすら見ていない。
全王は静かにザマスを見返す。
「ーーいいの? 君は選べるよ? 選んで良いんだよ?」
「くどいぞ、全王!! 私の魂も命も、私が決める!! 余計な言葉は無用だ!!」
怒りに身を震わせるザマスに全王は黙って彼を見つめる。
「どうして? 人間や神の過ちは君の言うとおり。本当のことなのね。それを、どうして君は自分だけで償おうとしているの?」
「…下らないことを。私が絶対の神ーーザマスだからだ!! 我が罪は我だけのモノ! 誰にもこの役目は渡さんし、巻き込ませはせん!!」
その言葉に向かってブラックが叫んだ。
「違うーー!! それは、俺の罪だ!! 俺が、あがなうべき罪なのだ!!!」
真超サイヤ人から超サイヤ人ロゼに戻りながらブラックはザマスを睨みつける。
「許さんぞ、貴様ーー! 俺の罪を勝手に被るなどーー! 俺は絶対に認めん!!」
「貴様こそ。我の罪は我のモノだ。貴様などにやるものかよ!」
全王は二人のザマスに向かって告げた。
「分かったのね」
そう言うと全王は時の界王神に向かって告げる。
「クロノア、お願いね」
「ーー分かりました。ザマスーーいいのね?」
これにザマスは神龍に向かって叫んだ。
「我が魂と命を持って“ザマスが殺し、或いは破壊したもの”を甦らせるのだ!!」
瞬間、神龍の赤い目が輝きを増して告げる。
ーー 承知した。世界の意思の代弁者にして絶対の神よ。其方の願いを叶えよう ーー
ザマスの全身が神龍の光に包まれる。
これにザマスは瞳を閉じ、静かに世界へと想いを馳せていった。
次に全王はもう一つの光の球を生み出して別の景色をその中に映し出す。
それは未来トランクスの世界の地球だった。
映し出されたのはハルとマキ兄妹を中心とした地球人数十人。
「え? な、何? ブラック? ゼノ兄ちゃん?」
少年はこちらに気付き、表情を驚きに変える。
地球人たちも全員がブラックの方を向いて驚きに表情を歪める。
こちらの映像が見られていることに全王はウンと一つ頷いて、激闘を繰り広げるビルスに声を上げた。
「ビルス、もういいのね」
強烈な炸裂音を響かせてカンバーの拳を掴み止め、睨みつけたままビルスは口を開く。
「! ですがーー!!」
口応えをしようとするビルスを遮って全王は続ける。
「ねぇ? そのサイヤ人は悟空達より強いの?」
「……真・超サイヤ人抜きで考えれば、おそらく」
拳を弾き飛ばし、カンバーから距離を取ってビルスは答える。
ビルスもカンバーも、まだまだ実力を隠している。
それでも感覚で見ればカンバーの力は、孫悟空やベジータ以上だとビルスは感じていた。
「ねえブラック。君は、悟空に勝ちたいんだよね?」
「ーー何を?」
全王は淡々とした表情でブラックに告げた。
「そのサイヤ人に君が一人で勝ったら、君は悟空よりも強いって認められるかもしれないよ?」
眉を上げブラックはカンバーを睨み据える。
対するカンバーはマスクの下で侮蔑の笑みを浮かべ煌々と光る赤い瞳で告げた。
「誰でも構わんぞ? この俺の相手が務まるのならーーだが」
3メートルを越える巨躯と岩のような筋肉を持ったサイヤ人に向かって、ブラックは拳を握り締めた。
「ーーフン、いいだろう。神の力を思い知るがいい、人間ども! このサイヤ人を殺せば、次は貴様らの番だ。人間ゼロ計画は、これで完成する!!」
地球でこちらを見ている殺し損ねた人間たちに向かって邪悪な笑みを浮かべブラックは告げると、カンバーに向かって殴りかかった。
カンバーは簡単に右ストレートを掴み止めると、瞳孔の開いた赤い瞳で睨みつける。
「貴様ーー! 先程の力はどうした? この俺を相手に手加減しているのか!?」
ブラックは軽く手を捻られて投げられ、体が横に一回転すると脇腹に痛烈な膝蹴りが入る。
「うぐぉ!?」
「この程度の力で、俺を殺すだと? 笑わせるなよ、下郎!!」
赤黒い気を右拳に纏わせてまともにブラックの顔面を射抜く。
「ぐわぁああっ!!」
赤黒い光に吹き飛ばされながら悲鳴を上げるブラック。
それを見下ろしてカンバーは笑った。
「ガハハハハハ! 似合いだぞ!!」
吹き飛ばされながらも、後方で光の波動から脇に逃れて回転しながら姿勢を舞空術で整えて構えるブラック。
「お、おのれーー!」
「フン! その程度の力で俺に勝てると思っていたとは。失望したぞ!!」
赤黒い強烈な気を纏ってカンバーの髪が金色に変わる。
赤い瞳は瞳孔が開いた翡翠に変わり、眉が縮毛して眼窩上隆起になり、金色のスパークが赤黒い炎のようなオーラに纏わった。
「貴様のような弱者は消えてしまえ!!」
悟空の言い方ならば、カンバーが変身した姿は超サイヤ人3という。
黒髪の時から更に桁外れのパワーを引き出している。
だが人間ごときに見下され、ブラックは怒りに震えた。
「ふざけるな。貴様などにこの俺が負けるものかぁ!!」
薄紅色のオーラを纏い、ブラックは高速移動でカンバーの前に現れると右拳を繰り出す。
額でまともに受けるカンバー。
鈍い音と光、衝撃波が弾ける中、微動だにせずにカンバーはブラックを睨みつけた。
「な!?」
「それで終わりか? さっきの黄金に何故変わらぬ? 本気を出せ!!」
強烈な拳の一撃を顔に受け、意識が半分飛ぶブラック。
更に左ボディが追撃で刺さり、くの字に身体を曲げる。
「く、おぉお……っ!」
「どうした? このままでは死ぬぞ!?」
「…ふ、フン。この俺が、貴様如きに真・超サイヤ人になるまでもないわ…っ!」
「ふざけやがって。ならば後悔して死ぬがいい!!」
強烈な廻し蹴りを横面に食らって後方へ吹き飛ぶブラックに更に突進して追いつき、追撃の連打を全身に浴びせるカンバー。
一切の情け容赦ない攻撃に、瞬く間にブラックはボロ雑巾のようにされていく。
ダメージを受ければ受けるほどにパワーが上がるというブラックの特性は発動していない。
真・超サイヤ人に何度も変身したが故に、その能力が消えてしまっている。
「フンーー!」
ズタボロにされてもブラックは立ち上がり、カンバーに向かって闘いを挑んでいく。
ウイスを相手に拳を振るっていたゼノ。
気を高めていた悟空。
自身の魂を対価に神龍に願いを告げたザマスが、ブラックを見つめる。
「…全王様。いったい何を?」
ビルスが全王に問いかける中、全王は地球に目をやる。
ブラックが血反吐を吐きながら、吹き飛ばされる映像を見る地球人達を。
誰かが、呟いた。
「……いいぞ、やれ」
「ぶっ潰せ……」
そこからは、怨嗟の声が地球人たちの口から出る。
「だ、誰だか知らんが、そいつをぶち殺してくれ!!」
「もっと苦しめて!! 痛めつけて!!!」
「ザマァ見ろ、カスやろう! みんなの痛みを思い知れええ!!」
口汚く罵る彼らの表情は、怒り、悲しみ、憎しみがない交ぜになっている。
大切なものを奪われた怒りと悲しみ。
奪ったものへの憎しみ。
そしてーーソイツが痛めつけられる姿に喜び。
ーー 殺せ! 殺せ! 殺せ! 殺せ!
男も女もない、誰も彼もが怒り、叫び、告げる。
「み、みんな、どうしちゃったの?」
「…うん」
憎しみの咆哮を上げる中、ハルとマキは周りの大人たちの変化に恐怖し、震えていた。
ーーーー
刻蔵庫に居る悟空達にも、地球人たちの姿が映し出されている。
「み、みんなーー! どうして!?」
「…ハルとマキだけでも、界王神さまに頼んで一緒に連れてくるべきだった」
マイが困惑し、トランクスが顔を歪ませる中、ブルマはジッと地球人たちを見つめる。
「憎しみが原因だからって、一方的に傷付いてる者を見て喜ぶなんてーー! それじゃ、ブラックと変わらないじゃない!!」
ターニッブが静かに悟空を見つめれば、悟空は黙って地球人たちを見た後、一方的にやられているブラックに目をやる。
ブラックは地球人達に何も言わず、目も向けずにがむしゃらにカンバーに向かって行く。
どれだけ血塗れにされようと、何度弾き飛ばされようと即座に立ち上がり、殴りかかる。
まるでビデオの再生を見るように同じ光景を何度も、何度も繰り返す。
「……ブラック、オメエ」
「死ぬ気だなーー!」
悟空とベジータの言葉を聞いてターニッブは頷く。
「命を捨てて、意地を通すつもりだ」
彼らの言葉に、トランクスが目を見開いてブラックを見つめていた。
ーーーー
ゼノはウイスからカンバーに顔を向けようとして、ウイスから話しかけられる。
「ゼノさん、悟空さん。あなた方の相手は私ですよ」
後ろの悟空もウイスからカンバーに顔を向けようとしていた。
「! ブラックを、このまま見殺しにしろってのか?」
「なんでだよ、ウイスさん!? アンタ天使なんだろ?」
ウイスは何も答えず、拳を握り構える。
ザマスも、全王もビルスも、闘うブラックと叫ぶ地球人たちを静かに見ている。
一際、巨大な爆発が発生し、ブラックは後方に吹き飛んでいた。
薄紅金色の髪がついに黒髪に戻る。
(…どいつもこいつも、俺では孫悟空を超えられないと言いやがる)
ブラックは意識を朦朧とさせながら立ち上がった。
人間達の怨嗟の声を聞きながら。
(フン、人間どもの怨嗟の声か。似合いだな、俺のような無様な神には。いや、温いくらいだな…)
人間をゼロにすれば世界は救われると信じていた。
世界が人間を生み出していたなど、考えたこともなかったのだ。
人間もまた生きる命。
その価値を変えたのは、世界の意思でももう一人のザマスでもない。
孫悟空を、チチを、悟天を殺した自分自身だ。
(既に俺には何もない。何一つ、ありはしない。守りたかった世界も、命も守れなかった。自分から壊していたのだ。クク、道化も良いところだ)
ズタボロにされた自分の身体を見下ろしてブラックは笑っている。
(それならば、それで構わぬ。その道化がーー偽物の俺が本物の貴様ら(孫悟空)に優ると、道化を演じ切った上で証明したら? これほどの意趣返しは、あるまい)
睨みつける。
既に黒髪黒目となり、死に体も同然の状態でありながらブラックはカンバーに殴りかかる。
「雑魚の癖に、まだ粘るか。死に損ないめが!!」
強烈な拳を腹に受け、左右の拳が交互にブラックの全身に叩きつけられる。
そんなブラックを全王は黙って見つめている。
「いい意地だ。少しだけ見直してやるよ、ブラック」
ビルスが淡々とした表情で呟く中、赤黒い気で作られた巨大な大猿のような右手がブラックの身体を人形のように掴み上げる。
「……トドメだ!!」
左手に全身に纏うエネルギーを凝縮し、放とうとするカンバー。
悟空達が目を見開く中、ブラックはニヤリと笑う。
赤い血がカンバーの目に咲いた。
カンバーの胸元に薄紅色の光刃が突き刺さっていた。
「…なんだと!?」
目を見開くカンバーを前にブラックは突き立てた刃を更に深く突き入れる。
「待っていたぞ、攻撃に意識を向けてガードを疎かにする瞬間をなぁ!!」
胸に血穴を開けているカンバーだが、怒りに目を見開き右手で自分を貫く刃を握り潰した。
「……キサマァァア!!」
背中まで貫いた一撃に、流石の巨漢も下がる。
正に起死回生の一撃だった。
「フ、神の刃は貴様にも効いたようだ」
自分を拘束する気で作られた巨大な手を薄紅色のオーラを纏って吹き飛ばし、三度ブラックは超サイヤ人ロゼに変身する。
「……許さんぞ、キサマァァアアッ!!!」
オーラを奮い立たせ、気を引き上げて出血を止めるカンバーにブラックもまた、拳を握る。
「最後だ。孫悟空よ、私よ。貴様らに真の神の力を見せつけてやる!!」
拳と拳が、再びぶつかり合った。
ブラック、最後の闘いが始まる。
次回は、明日の午前7時です。
よろしくお願いいたします。