閑話を挟んだ後、続くのはドラゴンボール超の映画ブロリー編です。
よろしくお願いいたします。
時の巣にて。
無の世界にいるゼノ達と同じく、悟空達はブラックを見送っていた。
「…ブラックの野郎。最後の最後でオラを超えやがった」
「ああ……」
静かな悟空の声にベジータが頷く。
「身勝手の極意なんて、現在(いま)のオラは知らねえ技だ。あっちのオラが使うん見て初めて知ったーー」
「……見事、だったな」
ターニッブも頷く。
トランクス、マイ、ブルマが見つめる中、孫悟空は刻蔵庫の屋根の向こうーー天空を見上げた。
「悔しいけどよ、オメエはオラより強え。けんど、魂まで消えちまうなんてーーそりゃねえだろ。これじゃ二度と闘えねえじゃねえか、ブラックよぉ…!!」
静かな悟空の言葉が刻蔵庫に響いた。
闘いが終わったゼノ達が、刻蔵庫に瞬間移動で来ようとしているのを巻き物で見ながら、ターニッブは黙祷するように瞳を閉じた。
ーーーー
トキトキ都の丘では、時の界王神クロノアと第7宇宙の界王神シン、その付き人のキビト。そしてーー第10宇宙の界王神ゴワスがブラックの最後を見届けていた。
「…ゴワス、さま」
シンが俯いたままのゴワスに声をかける。
「ブラックもザマスも、間違いなく私の弟子でした。ゼノのようになって欲しいと、おそらく彼らの師である別の世界の私も思っておったはずですーー」
声を震わせながらゴワスは告げる。
「何故なのでしょう? あれほどの悪事を働きながら、何故あやつはーーブラックは、あんなにも潔く逝けたのか」
「…さあ。悟空くんを超えるって事を本当に成し遂げたら、もう何も要らなかったのかもしれないわね」
消えていったブラックを想い、消えゆくザマスをゴワスは見つめた。
「コレが、お前の望みなのかーー。本当のお前の」
穏やかな表情で消えていくザマスに、先程のブラックを重ねてゴワスは涙した。
その姿を前にシンが声をかけようと手を出すのを、クロノアが首を横に振り制する。
「シン君、今はーーそっとしてあげましょう? 落ち着いたら、貴方達にはしてもらわなければならない事があるんだから」
「ーーはい、分かってます」
クロノアの真剣な言葉にシンは頷く。後始末が残っているのだから。
そう、思っていた矢先ーーザマスの命の光。
その粒子が、トキトキ都にまで溢れていた。
「ーーこ、コレって!?」
神龍は既に消えている。
ドラゴンボールの願いでザマスの肉体と魂を代価に全てを元通りにするーー。
それは既に叶えられているはず。
「じゃ、じゃあ、これは一体、なんなのよー!?」
トキトキ都から離れた丘の上で、時の界王神の絶叫が響いた。
ーートキトキ都の武舞台。
第7宇宙の地球に暮らす悟飯には馴染みの、天下一武道会と全く同じ会場が創設されている。
「なんだか、懐かしいな。武舞台から見える景色まで天下一武道会と完全に同じなんてーー」
微笑みながら、目の前で繰り広げられている特訓という名の祖父バーダックのしごきを見ている。
「……ガーキンよ、そろそろ奴を殺さねば俺たちの命はないと思わねえか?」
「奇遇だな、ターレス。俺もそろそろ、あのバンダナ野郎を泣かしたくなって来たぜ!!」
何故か特訓には、ターレスとガーキンの二人も強制的に参加させられていた。
「おいおい? テメエ等、まさか。こんな楽なしごきでダウンしてんじゃねえだろうな?」
二人へのバーダックのしごきは特に凄まじく、訓練に参加しているタイムパトローラー達が思わず引くほどだ。
「「くたばれ、バァアダックゥウウウッ!!!」」
「へっ。まだ叫ぶだけの元気があんじゃねえか。サボんじゃねえよ、怠け者どもがぁ!!」
悟飯は、限界が近いーーもしくは限界を過ぎた戦士達を止めるため、バーダックから武舞台の上にありながら監督をするよう言われている。
タイムパトローラー達の実力は素晴らしく。
技など、一度見ただけで簡単に模倣し歴戦の勇士のように使いこなしてくる。
サイヤ人や地球人、ナメック星人にフリーザ一族、魔人に人造人間。
誰も彼も、気の大きさは流石にバーダックや悟飯には勝てないが、戦闘センスは勝るとも劣らない。
「…僕も頑張らないとな。平和を守る為に、こんなに強い人達が居るんだから」
笑いながらも黒い目は熱い闘志を燃やしている。
きっと自分はーー誰にも負けない。
頼り甲斐のあるもう一人の自分が、この先も自分の中に居てくれるのだからーー。
「…え?」
そんな事を考えていた矢先、天から黄金の光が降り注いできた。よく見れば、光は細かい粒子が集まって天に満ちている。
「こ、コレは命の光? だ、だけどーー?」
細かい粒子が天から降り注ぐ。
真・超サイヤ人のバーダックとターレス、超サイヤ人のガーキンやタイムパトローラー達が動きを止める。
変化はすぐにあった。悟飯の首にかけていた首飾りの勾玉が光り始めたのだ。
「! こ、コレは!?」
目を見開く悟飯の前で、粒子は勾玉に吸い込まれていき、勾玉が光の粒子になって分解される。
勾玉の光は悟飯の前に一人の人間を象っていく。
同時に自分の中から何かが抜け落ちていくのが、悟飯には分かった。
勾玉が解かれて象ったのは生身の人間ーー自分と同じだけど違う存在。
自分の最高の相棒ーー。
山吹色の道着に「飯」のマークを付け、二の腕まである紺色のインナーを着た、左目に傷のある黒髪短髪の青年。
「もう一人の、僕!!」
「…相棒? お、俺は、一体?」
戸惑っている未来世界の悟飯を無視して、悟飯は彼に駆け寄り抱きしめた。
「…おめでとう、もう一人の僕!!」
蘇ったのだと、悟飯の言葉に心が理解していきーー未来世界の悟飯は瞳から一筋の涙を静かに流す。
「よく頑張ったな、悟飯」
その声に二人が振り返れば、此処に居るはずのない白いマントとターバンを巻いたナメック星人の師、ピッコロが立っている。
いや、ピッコロだけではない。
背の低い鼻のないスキンヘッド、悟飯と同じ山吹色の道着に紺色のインナーを着たクリリン。
悟飯より背が高く、現代の悟飯と同じように髪を逆立てた山吹色の道着のヤムチャ。
ヤムチャより更に背が高い三つ目のスキンヘッド、坊主の袈裟のように緑色の道着を着た天津飯と、少年のように背が低く白い肌のチャオズ。
Z戦士と呼ばれた地球の戦士達が勢揃いしている。
現代悟飯は、目を見開きながらピッコロ達を見て悟る。
「未来の世界の、みんなーー!?」
「……ああ、間違いない。みんなーー!!」
未来の悟飯が頷きながら、彼らに微笑むと彼らも静かに笑みを返してくれた。
「世界の意思ザマスが、俺達を蘇らせたんだ。時の界王神に仕え、タイムパトローラー達と共に戦えと言ってな」
「その言葉に頷いたら、みんなして此処に来ていたってわけだよ」
ピッコロが淡々とクールに、クリリンが明るく自分たちの現状を告げてくる。
「…ザマス、が?」
茫然とする二人の悟飯の横から、バーダックが声を上げてきた。
「あの野郎。世界を戻すだけでなく、過去に殺されたテメエ等も全員蘇らせたってのか? 何を考えてやがる」
訝しむバーダックにピッコロが応えた。
「ザマスは、自分の代わりに俺たちに戦えと言ってきやがった。歴史を壊す連中とーーな」
「!?」
二人の悟飯とバーダックが目を見開く中、タイムパトローラー達は静かに頷く。
青年サイヤ人のパトローラーが声をあげた。
「ミラ達が、現れたんですね?」
「……ああ。貴様等を育てて奴らと戦えと言われている」
ピッコロの言葉にタイムパトローラー達が闘志を燃やす中、バーダックが告げる。
「何が、どうなってそうなったんだ?」
「…説明しよう。俺達は、ザマスの力で見ていたからな。今回の一部始終を」
ピッコロの言葉にバーダック達は静かに向き直った。
ーーーー
地球に、宇宙に、世界にーー。
ザマスの身体を構成していた金の粒子が満ちていく。
破壊された街や村。
殺された神々や人間は、ザマスの光を浴びて再び生を得ていた。
「ハル! マキ!!」
「よく、頑張ったわね!!」
幼い兄妹を抱きしめる若い夫婦。子ども達は、泣き喚きながら父と母に抱き縋る。
そこら中で、嬉し涙を流して嗚咽する。再会に喜ぶ人間たち。
「こ、コレは? 私は、どうなったのだ?」
未来世界の第10宇宙の界王神ゴワスが目を覚まし、自分の胸の辺りを見つめる。
「い、一体、何が?」
他の宇宙でも訳も分からずに復活して狼狽える神々。
だが、此処で奇妙な事が起こる。
ザマスがドラゴンボールに願ったのは、ブラックを含めたザマスに殺された者達の復活である。
第7宇宙の地球にて、二人の神が目を覚ました。
一人は若き界王神ーー。もう一人は、彼の付き人。そう、第七宇宙の界王神シンと、その付き人であるキビトであった。
「わ、私は、一体ーー?」
「! 界王神様!!」
厳つい顔の自身の付き人を見て、シンは目を見開く。
「キビト? あなたは、ダーブラに殺されたのでは? 私も確か、バビディの動きを封じて力尽きてーー」
頭を押さえながら、シンは周りを見る。
闘いの跡は既に無くなりつつあり、自分達が倒れてから相当な時間が過ぎているのが分かる。
少なくとも、一日や二日ではない。
「私達は、一体ーー?」
「トランクス殿の気が感じられませんが、ダーブラは」
ダーブラは確実にバビディと共に倒されていた。
「何がーー?」
「はじめまして。別の世界の私」
混乱するシンとキビトの前に、自分達と同じ姿をした人物達が立っている。
まるで合わせ鏡のような二人だが、頭を横に振る目覚めたばかりのシンは、向こうのシンの指に指輪が嵌められていることに気付く。
「なるほど、時の指輪。貴方は過去の世界の私ーー。ですが」
「順を追って説明します。私は今、私の世界の全王様からの使いで時の界王神様に道を繋げていただき、此処にいるのです。貴方に、説明するためにーー」
真剣な表情の向こうのシンに、目覚めたばかりのシンは居住まいを正して問いかけた。
「どういうこと、ですか?」
場所は変わって、第10宇宙の界王神界。
こちらにも、過去の世界から来た自分と対峙するゴワスが居た。
「……なんと。それでは、ザマスが?」
「そうだ。私とは別の世界のゴワスの弟子だったザマスが全てを巻き起こした元凶。貴方を殺したのも、過去の世界で人間の肉体を奪ったザマスだ」
「そのザマスーーゴクウブラックと、私の弟子のザマスが人間と神々をーー」
青ざめるゴワスにもう一人のゴワスが頷く。
全てを語るために、彼は口を開いた。
ーーーー
全王の社に第7宇宙の破壊神ビルスと天使ウイスが、一人の神を連れて現れた。
社の管理人である青い肌の子どものような見た目の神ーー大神官が三人を見て、楽しそうに笑みを浮かべる。
「おや? コレはウイスさんにビルス様。面白い方をお連れですね」
「ええ。こちらでは、はじめまして。お父様、私の世界の全王様が、そちらの全王様とお話がしたいとのことで参らせていただきました」
「フフ、全王様のお頼みとあらば是非もありません。こちらへどうぞーー」
ウイスの言葉に頷きながら、大神官が全王に会釈する。
「ウン、ありがとね。大神官ーー」
全王がニコニコ笑いながら、こちらの世界の全王の間に歩いていく。
その背を追い、ゆっくりと歩こうとするウイスの横からビルスが声をかけてきた。
「な、なあウイス? 対面して、いきなり消滅を繰り出し合うとかないよな?」
「まあ、そうなってしまったら。その時はその時ですよ。お腹をくくりましょ? ビルス様」
「……なんだか、貧乏くじだよなぁ」
半目で溜め息混じりに愚痴をこぼすビルスに、ウイスが笑う。
「あら? 覚悟はお決まりですか?」
「よくはないが、仕方ないだろ。本来ならザマスの一件は僕達、神が解決しなけりゃいけない案件だ。立場がどうとか役目がどうとか、言い訳なら腐るほどあるが。それでも破壊神である僕が解決すべきだった。悟空たちやザマスたちに、全て持って行かれたけれどね」
「フフ、その後始末くらいしなければーーですか。しばらく見ない間に、すっかり神らしくなられて。ーーご立派ですよ、ビルス様」
「長い付き合いだが。はじめて、お前にまともに褒められた気がするよ。ウイス」
互いに笑いながら全王の後に続く二人。
彼らの覚悟もまた、決まっているようだ。
ーー全王の謁見の間にて。
大神官が少し楽しそうに声を上げる。
「全王さま、珍客が参られました」
「ーー? 誰? ザマス?」
玉座の全王が楽しそうに笑いながら続ける。
「彼、凄いのね。僕を飛ばすなんて、ホントに凄いのね。僕、もう一度会いたかったの〜」
楽しそうな玉座の全王の前には、同じ姿をした神・全王がゆっくりと歩きながら現れた。
「……? 大神官、コレ何?」
問いかける玉座の全王に、もう一人の全王が右手を上げて応える。
「やぁ!」
「…やぁ!」
無表情からすぐに楽しそうに笑って挨拶を返し、玉座の全王は問う。
「キミ、誰? 僕、キミと友達になりたいのね!」
「うん! 僕もキミと友達になりに来たのね!」
「ホント! 嬉しいな!!」
本当に楽しそうに全王同士は笑い合う。
「僕は過去の世界から来たのね。キミと二人で、ザマスの話をするために来たのねーー!」
「わぁ、知りたいのね! 僕、彼のこと気に入っちゃったのね!!」
すぐに意気投合して仲良く対面に座り、話し込む。ウイスが記録映像を流しながら。
「わあ、コレ何!? 僕、ザマスにこの姿に変身されて飛ばされたのね!!」
「真・超サイヤ人、なのね。悟空やターニッブっていうサイヤ人達が変身するのね!」
玉座の全王は興奮して頰を赤くし、対面の全王に質問攻めすると、対面の全王は得意げに笑いながら答える。
ウイスが自分の持つ杖から光を放ち、映像を映し出す。
場面はブラックになったザマスが自分の世界のゴワスを殺し、悟空の肉体を奪ってから始まる。
ブラックが未来世界のザマスを唆し、共犯者となって人間と神を皆殺しにしていく場面がウイスによって映し出される。
ブラックとなったザマス、世界の意思となったサイヤと融合した未来世界のザマス、そして未来世界の孫悟空と融合した現代のザマス。
三人のザマスの物語と、彼らを救おうと次元や時空を越えた人間達の物語。
罪を犯したことを認め、償う覚悟を決めた神の矜持。
命を捨てようとする神を救おうとする人間の勇気。
そして悪であった神の心さえも変えた、純粋な戦士達の拳。
全てが、未来世界の全知全能たる神々の王をして見たことのないものであった。
途中から未来世界の全王は何も言わなくなり、真剣な表情でウイスが映し出す映像にのめり込んでいる。
その様子をニコニコと笑いながら、現代の全王が見つめている。
ーーーー
話は少し遡る。
無の世界にて、ブラックは消えた。
最後の最後に己の意地と誇りを示して、孫悟空達に負けを認めさせてから。
その最期を見つめた後、もう一人のザマスーー世界の意思と融合したザマスの方を孫悟空・ゼノは見つめる。
「……お前も、そろそろか?」
「そうだな…」
瞳を閉じ、神の目で世界を見回してからザマスはゆっくりと視界を開いて、こちらに目を向ける。
「最後に、過去の世界の全王よ。何故、貴方は私やブラックに罪を償う機会を与えて下さったのだ?」
すでにザマスの肉体は胸元まで光の粒子となって解けている。
「君が、言ってることも正しかったからーーなのね」
その言葉にザマスは目を見開く。
「確かにーー君の視野は狭かったのね。自分だけの価値観で善悪を決めつけて、でもねザマス。君の見方も間違っていなかった。そして、君は認めたのね。自分の過ちを」
穏やかに笑う全王は、見た目こそ自分が飛ばした全王と同じだがーー。
「…全王様。貴方は、神が変わることを初めて知った、とおっしゃられた。ですがーー貴方も、私の知る全王とは、明らかに違います」
姿勢を正し、ザマスは神として節度ある礼をしながら、全王に語った。
「! ホント!? 嬉しいなぁ!! 僕にもいろんな可能性があるのかなぁ! そう考えると、楽しいのね!! 楽しいって思ったのね!!!」
これにとても嬉しそうに笑った後、全王はザマスに問いかけた。
「ねえ、最後にお願いしてもいい?」
「…なにか?」
「僕の世界にーー来ない? 君もブラックも、僕には必要だと思ったのね」
その言葉に、誰もがジッと息を呑んでザマスを見つめる。
だがーー。
「……重ね重ねのご温情に、感謝申し上げます。ですが、私は罪を犯した神です。人ならば罪を償い許されることがありましょう。ですが、万物を生み出し、導く神に過ちは許されない。そこに例外は、ない。だからこそ、神とは偉大なのです」
淡々として穏やかでありながらも、ザマスの意思は揺るがない。
「我が代わりならば、私と孫悟空が融合した魂を持つーーゼノが居ります。全王様が、何を持って私などをご所望かは存じ上げませんが、ゼノならば私などよりも遥かに良い答えを導き出すことでしょう」
ザマスの銀色の瞳はゼノを見つめている。
ゼノも何も言わずに、ジッとザマスの瞳を見返してきた。
「ねえーー世界の意思。君は、満足なの?」
いつの間にか、笑みを納めて全王の瞳はジッとザマスを見つめている。
ザマスの裡に融け込んだモノを。
「我等が望みは叶ったーー。それが“私たち”の答えです、全王様」
「………!!」
微笑みかけるザマスに、全王は表情をそのままに身体を震わせ始めた。
「消えちゃ、ヤなのね…! ザマス…!」
その言葉に、誰もが目を見開いて全王を見つめる。
全てを治めるが故に全ての滅びをありのままに受け入れる神の王が、震えている。
「見てほしいのね。見届けてほしいのね…! 世界を、僕を……っ!!!」
既にザマスは顔だけを残している。
消えゆく口を動かしてザマスは全王に一言だけ告げた。
「勿体なきお言葉。全王様、数々の非礼無礼を。そして、このまま消えゆく我が儘を。お詫び申し上げます」
それを最後にーーザマスは無の世界から魂ごと、完全に消滅した。
全ての世界の命を蘇らせてーー。
ブラックが来る前の状態に並行世界の全てを、戻したのだ。
「……全ちゃん」
悟空が遠慮がちに声をかけると、全王は悟空の胸に飛び込んだ。
「……悟空。なんだろうね? 僕の目から流れてるの。胸が…苦しいのね。悟空……。ゼノ…」
「全ちゃん!!」
強く抱きしめる悟空に全王は微笑みを口元に浮かべながら、雫を両の眼から溢れさせる。
悟空やゼノと同じく、彼の眼からも涙が流れている。
「僕、こんな気持ち、はじめてなのね。消えてほしくなかったのね。消したくなかったのね…!」
「全ちゃん。悲しかったら、泣いていいんだ! 楽しかったら、笑えばいいんだ!! ザマスの為にもよぉ!!」
「……。僕が、悲しい? そっか、これが“悲しい”なのね…。僕、はじめて知ったのね…! これが“悲しい”かぁ」
ビルスとウイスが目を背け、ゼノが全王の肩にそっと触れる。
二人の悟空の間に挟まれて、全王は目から涙を溢れさせて両目をきつく閉じると、口を大きく開いて嗚咽した。
「………わぁあああああんっ!!! やだよぉ、ザマスゥウウ!!!」
無の世界に全王の初めての哀しみが、感情が爆発した。
「…! 大した神(ヤツ)だよ、ザマス。お前は、間違いなく全王様を変えた…!」
「ええ…! 慈悲深く、少ぉ~し泣き虫で甘えん坊さんになってしまいましたかね?」
全てを知るが故に知らなかった感情を、全王は手に入れた。
それが全能には不必要なモノであったのかもしれない。
それでも全王は、産声を上げる赤子のように感情のままに泣いていた。
全王が泣きつかれて眠りに入った時、ウイスによって場に居る皆が刻蔵庫の悟空達の下へと移動を始める。
こうして、世界の意思ザマスとの長く、激しい戦いは終止符を打つのであった。
ーーーー
映像を見終えた全王が、向かいの全王を見つめる。
その瞳から涙を溢れさせている全王を。
「…僕、それを知らないのね。いいなぁ」
「うん。でもねぇ、とっても楽しくて嬉しいけれど。胸がずうっと締め付けられるのね」
「そうなんだ!」
「ウン…!」
羨ましそうに見ながら全王は、もう一人の全王に問いかける。
「どうしたらいい? どうしたら、それを知れるの?」
その問いかけに、過去の世界の全王はとても嬉しそうに涙を流しながら笑った。
「君が、みんなをーー命を愛したら。ーーきっと、分かるよ」
大神官が静かにウイスに声を上げる。
「ウイスさん。過去の世界の第7宇宙は、素晴らしい人間がいるようですね」
「ええ。素晴らしいヒト“たち”が、居りますよ」
「…過去の世界が、羨ましい」
「この世界も、きっと彼らのような方が居るはずです。ザマス様のようにーー」
ウイスの言葉に、大神官は静かにいつも浮かんでいる笑みを強くすると、頷いた。
「…ええ。そうでなければ、私たち神や天使は必要ありませんからね」
大神官の言葉に笑みを返し、ウイスは天を見上げる。
この世界もまた、自分達の世界のように変われると信じてーー。
ーーーー
刻蔵庫の前にて。
悟空達の前にゼノと悟空が瞬間移動で現れる。既にウイスによってボロボロだった肉体と衣服、体力は完全に治っていた。
「よ! スゲェ闘いだったな!!」
こちらはキビトによって全快した現代の悟空。彼の言葉にゼノともう一人の悟空は笑い返す。
「結局、ブラックもザマスも助けられなかったけれどな」
「おまけに、勝ち逃げされちまった」
寂しそうな笑みを浮かべる二人の悟空に、現代の悟空も頷く。
「だな。オラ達、全員揃ってブラックには負けちまった」
その言葉にベジータもターニッブも黙って頷く。
最後の最期で神の意地と信念を見せつけて消えたブラックとザマス。
彼らの生き様は、戦いに生きる戦闘民族サイヤ人の彼らにとっても鮮やかだったのだ。五人の純血のサイヤ人を前にトランクスは復活した世界を見つめ、消えて行った神を思い返す。
「…俺たちの未来は、ザマス様が繋げてくれた」
「そうだね。きっと、皆なら大丈夫だよ」
「ああ…!」
互いに頷き合うトランクスとマイの向こうには、ブルマが大泣きしながら青い戦闘服に身を包んだ逆立った黒髪の男に抱きついているのが見える。
未来世界のベジータとブルマのやり取りをチラリと見て、現代のベジータが笑みを少しだけ浮かべた。
現代の悟空は、もう一人の悟空に身勝手の極意について聞いたり、反対にもう一人の悟空がゼノと現代の悟空に超サイヤ人4や真・超サイヤ人について問いかけている。
悟空達三人は、自分同士と言うのもあってか、意気投合するのも早かった。
これから現代の悟空とベジータやターニッブは元の時代の第7宇宙へ、現代ザマスでもあるゼノはゴワスと第10宇宙へ共に帰ることになり、もう一人の悟空はブラックに殺された世界に戻ることになる。
ほんの少しの交流ではあるが、三人の悟空は目一杯互いに話を楽しんでいた。
元の世界へ戻れば、気軽に会うことは叶わないのだから。
プリカは、ターニッブを見上げる。
「何とか、なりましたね。本当に、ご苦労様でした。ターニッブ」
「…いえ。俺一人ではありません。此処に居る友達と此処には居ない友達がいたからこそ、成し遂げられた」
真っ直ぐに黒い目をプリカに向けて告げるターニッブに彼女も頷く。
互いに穏やかな笑みをもって見つめ合う。
プリカが、何か言葉を口にしようと開いた時、ターニッブが鋭く背後を振り返った。
同時に三人の悟空とベジータも、同じ方向に目を向ける。
「うぉおおおおっ!!」
咆哮が鳴り響き、刻蔵庫の緑色の空間が赤黒い気によって楕円形に開かれる。
空間を裂いて出てきたのは、足先まである長い黒髪に3メートルを越える巨体のサイヤ人。
「「「オメエは、カンバー!!?」」」
「ブラックに倒されたんじゃなかったのか!?」
「…なんという、気だ!!」
悟空達とベジータ、ターニッブが拳を握る中、カンバーは彼らを見下して高笑う。
「ガハハハッ! この俺から逃げられると思ったのか!!? 雑魚共が!!!」
再び髪が金色に染まり眉が縮毛し、眼窩上隆起が起こる。
凄まじい気の嵐に現代の悟空が拳を握る。
「…ちくしょう。此処じゃ刻蔵庫を巻きこんじまう!!」
「せっかく救った世界を、こんな奴に壊されてたまるか!!」
「絶対に、勝たなきゃなんねぇ!!」
ベジータも拳を握り、もう一人の悟空も構えを取る。
その時だった。
「混ざってーー閉じろぉおお!!」
第三者の声が響くと同時、カンバーの背後から紫色の光刀を持った銀髪を逆立てた青年が斬りつけた。
「!? なにぃい!?」
青年に斬られたカンバーは、一気に超サイヤ人3から黒髪状態に戻って、赤い気も霧散する。
「な!? ビルス様やウイスさんと同じ、破壊か!?」
悟空が叫ぶ中、黒髪となったカンバーは大きく戦闘力を下げながらも拳を握る。
「お、おのれぇえ!!」
青年に向き直ろうとしたカンバーの腹に、強烈な打撃音と共に右拳を打ちこむ、青い肌に銀髪、赤いフィットネススーツを着た男。
「グハァ!?」
「もう充分暴れただろう。眠れ」
意識を失ったカンバーを肩に担ぎあげ、男は青年に向き直る。
「さすが父さん! お見事!!」
「フン。調子のいい奴め」
そう言い合う二人にベジータが叫ぶ。
「何者だ!? 貴様ら!!」
「…この気、アブラやカタブラに似ている。魔族か」
ターニッブが目を鋭く細めると、眼鏡をかけた青年が逆立てた髪をサラサラのポニーテールに戻すと微笑みかけて来た。
「やあ! 僕の名前はフュー。はじめまして、孫悟空にベジータ。君達のことは、よく知っているよ!」
「………白い道着のサイヤ人。そうか、お前が義兄上やトワが言っていた…!」
男はターニッブを見下ろして、黒の瞳孔が拓いた真紅の瞳を細める。
「父さん。真・超サイヤ人ってのになれるそっちの孫悟空とベジータは、僕達の知ってる彼らの中でもトップクラスの実力だと思うよ! この中では一番強いんじゃないかな」
「…お前がそう言うなら、そうなのだろうな」
淡々と男は悟空とベジータを見つめた後、ターニッブに目をやる。
「………!」
「…フュー。この中で一番強いのは、お前の言った孫悟空とベジータかも知れんが。戦って一番楽しいのは、間違いなくコイツだ」
目を見開いて闘志に笑みを浮かべ、男は笑う。これにターニッブもプリカから離れて拳を握り、構えた。
男の笑みを見て、現代の悟空が不敵に口許を歪めた。
「誰だか知んねぇが。ターニッブはオラが倒すんだ。……邪魔すんなよ」
「ついでに、その肩に担いだカンバーとかいうサイヤ人も置いていってもらおう。ソイツは仇なんでな」
ゼノも腰を落として構える。
一触即発という空気になるも、刻蔵庫に繋ぐ門の方から時の界王神が駆け込んできた。
「やめなさぁあああい!! 此処で闘おうなんて、冗談じゃないわ!! 全宇宙の歴史を壊すつもり!!!」
これに心外だと目を開いておどけながら、フューが応える。
「そんなんじゃないよぉ。此処に来たのは、この問題児を回収に来ただけ。挨拶も済んだし、帰ろっか」
その言葉に男はジッとターニッブを見つめながら告げた。
「……名は?」
「俺は、ターニッブだ」
「そうか、俺はミラだ。また会おう」
それだけを述べ合うと、ミラはフューと共に場を去っていった。
「時の界王神様。今の連中は?」
問いかけるゼノに、時の界王神が息を整えながら応える。
「アレが、歴史を乱す魔族たち。魔王ダ―ブラの義弟ミラと息子のフューよ。まさか、あんな訳の分からないサイヤ人まで自分たちの仲間に引き入れていたなんて!」
門の方から時の界王神を追いかけるように、第7宇宙の界王神シンと第10宇宙の界王神ゴワスが現れる。
二人もまた、異世界の自分に伝えると言う己の役目を終えてこの場に集結していた。
更にバーダックと孫悟飯、ターレスにガーキン、ザンギャと未来世界のヤジロベーも門から現れる。
彼らもまた、元の時代に戻る時間だと集められたのだ。
そんな自分たちを見送る、ピッコロやクリリンと言った未来世界のZ戦士達。彼らを見つめてもう一人の悟空が声を上げた。
「みんな、此処でタイムパトローラーになるんか?」
「正確には師匠として居てもらうことになったわ。ザマスから願いを叶えた私への返礼、てところかしらね」
「なるほどな。じゃあよ、時の界王神さま。たまにはオラも此処で師匠していいか!?」
「願ったりかなったり、だわ!!」
嬉しそうに手を叩き合う悟空と時の界王神を見つめて、現代の悟空が笑う。
「はは、なるほどなぁ。色んな歴史の達人とやり合えんなら、確かにこれ以上の修行はねえな!」
「ーーフン。ま、同じ人間が何人も居るのはややこしいからな。俺は遠慮する」
未来世界のブルマの隣に居る人間を見ながらベジータは淡々と声を上げ、悟空も頷く。
別れの時間が近づいてきた。
まず初めに悟空とベジータ、ターニッブとバーダック、ガーキンとプリカ、ターレスとザンギャ、未来世界のヤジロベーが飛ぶ。
「本当に、ありがとうございました。悟空さん、父さん!」
「どうか、お元気で!」
「さよなら、孫君! ベジータ!」
トランクス、マイ、ブルマの言葉にニヤリと笑みを返し、悟空達は消える。
そして次に、ブラックに殺された時空の孫悟空が元の世界に送られていく。
「またな!」
「うん、またね!」
時の界王神が応えながら、もう一人の悟空も元の世界に戻っていく。
最後に残された人間は、孫悟飯だけだった。
「……もう一人の僕」
彼の目の前には、生身の肉体を取り戻した未来世界の孫悟飯が居る。
彼もまたニッと笑って悟飯を見ている。
「ありがとう…!」
「…こちらこそ。ありがとう」
それだけを告げ合い、別の時空というより同じ魂を持った双子は別れの時に至る。
消えて行った現代の悟飯を見送って、未来世界の悟飯は笑う。
「育てるよ。君たちの未来を守るーー強い人を!」
悟飯の言葉に絶望の未来を闘い抜いた戦士達が笑っていた。
ーーーー
第10宇宙の界王神界。
ゴワスの見習い界王神として修行する日々に戻ったザマスーー孫悟空・ゼノは、いつものように界王神界に生えた巨大な神樹の下で茶を淹れていた。
「うん。いいお茶だ」
「ありがとうございます」
界王神見習いの服を着たゼノは、ザマスの肉体に己の躰を戻している。
その右手の人差し指に勾玉のような形をした紋ーー二つ巴の紋が刻まれた銀色の指輪が嵌められている。
「その姿だと、ゼノと呼ぶよりもザマスと呼んだ方がしっくり来るな」
「…そうですね。ゼノの姿に戻りましょうか?」
「いや、お前にとって孫悟空殿の姿は大切なモノであろう。それに私としても長年親しんだザマスの姿の方が話しやすい」
茶目っ気たっぷりに言うゴワスに笑みを返すザマス。
今、人差し指に嵌めている指輪は時の指輪ではなく、神のアイテムの一つ「変化自在の指輪」である。
この指輪を嵌めることで、孫悟空・ゼノの肉体を基のザマスのモノに見た目を変化させることが出来る。
「なぁ、ザマス?」
「はいーー?」
しばらく二人で向かい合いながら茶をたしなんでいると、ゴワスの方から声をかけて来た。
「ブラックの仇を、取りたいか?」
その言葉にーーザマスは表情を凍らせた。
ゴワスの眼は、ザマスの奥底に荒ぶる怒りの感情を見逃さなかった。
「………」
指輪が光り、ザマスの姿から赤い羽織を青い帯で巻いた黒い道着のサイヤ人に姿が変わる。
ゴワスは、ゆっくりと微笑んだ。
「ーー時の界王神様の下へ、行くか?」
申し訳なさそうにゼノは頭を下げる。
「謝罪は良い。ただ一つ、約束しなさい。必ずーー生きて帰ってくる、と」
その言葉に黒い瞳をゴワスの眼に向けて、ゼノは頷いた。
ーーーー
此処ではないどこか。
現在ではないいつか。
遥か遠い彼の地にて。
赤い羽織を着た黒い道着の黒髪のサイヤ人が、猛威を振るっていた。
弱き人々を救い、力なき者の盾となり、歴史を荒らす悪を前に神の力とサイヤの肉体を持って鉄槌を下す。
時を管理する界王神とは別の、しかし紛れもない正義を貫く正しい心の戦士。
「おのれ……! 何処までも我の邪魔をするか、孫悟空!!」
赤い髪を逆立て、界王神のようなイヤリングと天使のような杖を持った長身の男が叫ぶ。
彼の両脇には二人の、黒い仮面を着けたフリーザ軍の戦闘服を改造したものを着た戦士が居る。
片方は2メートルを優に超えるガタイの良いスキンヘッド、もう片方は180を越える長身にふくらはぎまである黒髪。
歴史を荒らすものに向けて、背中の赤い棍を鞘から引き抜き、正義のサイヤ人の黒い髪が逆立ち金色に瞳が翡翠眼へと変化した。
「…オレは孫悟空・ゼノ。貴様らを、倒す者だ!!」
薄紅色の光が棍から放たれて光の杖となり、ゼノの袈裟懸けが世界(ゼノバース)を斬り裂いたーー。
長い長い闘いの物語が終わりました。
此処から先は、また別の話になるでしょう。
本当に長かった(´・ω・)
此処までお付き合いいただきありがとうございました。
読み返しても長い作品だなぁと思います(;´・ω・)