惑星サイヤにある時の狭間。
修行を行うのは、二人のサイヤ人。
ブロリーとジュード。
彼らの前に現れたのは、黄金の炎を纏う真・超サイヤ人ーーリューベ。
強大な力を誇るサイヤの鬼にブロリーもまた己を悪魔と称し、真・超サイヤ人へと変身した。
「ぶ、ブロリー!」
「下がっていろ、ジュード。拳を極めし者ーー! コイツが相手なら申し分ない…!」
邪悪な笑みでリューベを見下ろすブロリーを、ジュードが冷汗をかきながら見ている。
圧倒的な力を持つサイヤの鬼神。
初代惑星サイヤの王にして真の超サイヤ人となった男ーー。
「……」
ゆっくりと拳を構えるリューベに、ブロリーも拳を握って腰を落とす。
一瞬の静寂。
黄金の炎を激しく燃やしてブロリーが叫んだ。
「うぉおおおおっ!!!」
一気に突っ込む。
巨体とは思えない超スピードに目を見張るジュードの前で、巨大な右拳がリューベに放たれた。
音を一瞬消すほどの衝撃波を放ちながら、ブロリーの巨拳がリューベの右腕に止められている。
「っ!!」
「ーー」
無言で睨み合う両者。
ブロリーの渾身の右ストレートを、リューベは簡単に止めて見せている。
「気に入らぬ……! その何の変哲も無い無表情、気に入らんぞぉおおお!!」
更に気を高めて炎を振りまくブロリー。
その力は際限なく高まっていく。
にもかかわらず、リューベの身体も表情もびくともしない。
「ーー真の一撃は、肉のみにて打つに非ず。殺意のみにて練るに非ず。魂(たま)を込め、意思を込めーー鍛え抜いた肉体にて放て!」
「ぬぅ!?」
「ーーとくと見よ!!」
返しの左正拳突きが、ブロリーの腹に放たれる。
即座に左腕を曲げてガードするも、ブロリーの巨体が宙に浮き、後方へ吹き飛んだ。すぐさま両足を地面に叩きつけて着地するブロリー。
「…やってくれたな、この鬼がぁあ!!」
「我求めしは、うぬの真なる拳。ただ、一撃のみ!!」
「ならば、受けてみろ! リュゥウウベェエエッ!!」
強烈な気を練り、ブロリーが右手に丸い光の球を作り出すと握り潰し、拳に纏わせる。
「コレが、俺の一撃だぁ!! ギガンティックーーディストラクション!!!」
「……我が求めに応じよ、他に類なき才を持つ者よ」
ブロリーの拳がリューベの右拳とぶつかった。
ーーーー
惑星フリーザNo.318。
ターレスはシャワーを浴び終えて戦闘服に着替え、ベッドで裸体にシーツだけを被って寝息を立てて横たわる緑色の肌の美女ーーザンギャを一瞥した後、フリーザの居る司令室へと足を運んだ。
空気の抜ける音と共に鉄の扉が開かれ、いつもの球体の椅子に座り、第一形態に戻っているフリーザは、山吹色の道着を上に着た桃色の魔人ブウと、黒い羽を持つ緑色の人造人間セルと共に居る。
「よぉ、フリーザ様。今後の事について話し合っておこうと思ってよ」
気安げに語り掛けるターレスに、フリーザが視線を向ける。
「ほう? それは丁度良い。実はドラゴンボールについて一つ面白い情報を得ましてね」
「ーー何? 早速ドラゴンボールか? 地球かナメック星か、どちらのを狙う? まあ、選択肢から言えばナメック星の方が確実だが」
侵略者のーー戦闘民族サイヤ人の血が騒ぐと唸るターレスだが、フリーザは素っ気なく告げる。
「ドラゴンボールに関しては、私の方で利用させていただきます」
「ーーなんだと?」
「私やセルさん。ブウさん、ギニュー特戦隊のみなさんも。既にあなたの支配下には無い。ならば、ここらでフリーザ軍の再建を図りたいと思ってましてね」
冷たい笑みを浮かべる真紅の瞳に向かって、ターレスも冷酷な笑みを返す。
「なるほど。軍の再建には、支配者であるこの俺が邪魔って訳か」
拳を握り、戦闘態勢に入ろうとするターレスだが、フリーザはにべもなく告げる。
「ええ、宇宙船なら適当に差し上げますので。ーーさっさと、あの目障りな女と出て行って貰えませんか?」
「…おいおい。宇宙の帝王たるアンタが闘いもせずに宇宙船を渡して出て行け、かよ? 何を企んでやがる? 面白そうなこと、考えてんだろ? フリーザ様よ。冷たい事言わずに俺も混ぜろや」
「あなた、ご自分がどのような人間なのか、ご存知ないのですか?」
「何?」
呆れたような溜め息を吐いてから問いかけてくるフリーザに、ターレスが訝しげに眉を上げる。
これにセルが応えた。
「単純な話だ。お前は私やブウのように誰かの命令を受けるのを嫌う」
「? ああ。それなら、お前やブウも俺と来るのか?」
当然、命令を嫌いなセルとブウも来るものだとターレスは思うのだが。
「いいや、私とセルは行かない」
「おい。俺だけ仲間外れってな、どういうーー!」
不快げなターレスに、フリーザが首を横に振り答えた。
「さっき、ご自分で仰ってたじゃありませんか。自分は支配者だとーー」
「……?」
「いいですか、ターレスさん。私はあくまでフリーザ軍の再建を図る為に行動しています。軍の規模は随分と縮小されてしまいましたが、それでも我が軍は10や20の人数ではありません」
フリーザの言葉に頷きながらターレスも気付く。
「なるほど。俺の軍団は、俺が作れって話か。確かに、アンタのように大規模な組織を組み立てて運用なんざ、俺には向いてねぇ」
「そ。更に言うなら、貴方は自分の意思で動かせる部下を持ちたいタイプです。私と同じくーーね」
「…話は分かったが、良いのか? 俺はアンタが大嫌いな超サイヤ人だぜ? 放っておいても、よ」
冷酷にして邪悪な笑みを浮かべるターレスに、フリーザも酷薄な笑みを返す。
「いずれ、孫悟空達と決着をつけねばなりません。その為にもーー今は、強い戦士が必要なんです。一人でも多く」
「なるほど。カカロットを倒す為の同盟か。ならば、是非もない。受けよう」
「分かっていただけて何より。そうそう、あの小太りな侍はウチで飼うことにしました。孫悟空の仲間ならば、利用価値はあるでしょうし、ね」
「戦闘力も1000を超えてやがったな。確かに、アンタなら上手いこと利用できるかもしれねぇ」
「…一番の理由はブウさんが、あの子豚をお気に入りだってことなんですがね」
心底疲れたような表情のフリーザに、ターレスが若干同情の色を浮かべた。
「ダチからの餞別だーー。有り難く船を頂戴するぜ、フリーザ様よ」
「ええ。貴方達への結納の品って事にしておいて下さい」
そう返すフリーザにターレスはニヤリと笑った後、告げた。
「ならば俺からもアンタに返礼をしておこう。…ギニューは居るか、フリーザ様」
「…? ええ。アプール、呼んできなさい」
しばらくして、緑色のスカウターを左眼に付けた孫悟空ーーもとい、ギニューが現れた。
「ギィニュゥウ! フリーザ様のお呼び出しに応じ、ただ今参りましたぁぁ!!」
「…ご苦労様です」
ハイテンションで礼をする孫悟空ーーもといギニューを見てフリーザは、やや引き気味に応えるとターレスに向き直る。
「それでーー? どうするつもりなんです?」
ターレスはフリーザに笑みだけを返すと、悟空の姿をしたギニューに歩み寄る。
「よぉ、ギニューさん。アンタに力をやるぜーー」
「なんだと? その力とやらは、いったい?」
それだけを告げてターレスは自分の掌から金色に光る球体を生み出し、ギニューの胸に放った。
光の球は、ゆっくりとギニューの胸に吸い込まれていくとギニュー(孫悟空)の肉体が、光の粒子を放ちながら変化する。
肩当ての付いたフリーザ軍の戦闘服に、紫色の肌と頭から左右に伸びた黒いツノ。180を上回る長身の男に。
「コレは、ギニューさんの元の姿? しかし、コレでは戦闘力が下がってしまうのでは?」
「ーー失礼ながら、フリーザ様。戦闘力は、そのままのようです。それにこれはーー!」
驚きながらも疑問を口にするフリーザとそれを遮るギニューに向かい、ターレスは続けた。
「クク、どーだい? アンタ用の新しい肉体は」
ターレスの問いかけにギニューは、ゆっくり自分の掌や腕を見た後、告げた。
「…なるほど。この身体はーー、惑星サイヤの可能性を取り込む力を基に作られているーーと?」
コレにフリーザが目を見開く。
「なんですって? ギニューさんに、様々な可能性を引き出す能力を?」
ターレスが肩を竦めながら告げる。
「真・超サイヤ人を極めちまったから、今更レベルの低い連中の可能性など必要なくてねーー。ギニューならば様々なヤツの肉体を使いこなせるだろうし、うってつけじゃないか?」
ニヤリと笑うターレスに、ギニューが精神を集中するかのように瞳を閉じる。
今度は、肩当ての付いた青のインナースーツに白を基調とした戦闘服、逆立った黒髪に鋭い目つき、小柄な体格ながら鍛え抜かれた肉体のサイヤ人に変化した。
「おや? その姿はーーベジータですか。ナメック星の頃のベジータの肉体を模しているのですね?」
「…引き出せる可能性が少々古いものですが、孫悟空のように鍛えれば本物のベジータにも匹敵するはず。私の可能性にベジータの肉体があったことには、驚いていますがーー!」
超サイヤ人に変身できるようになった孫悟空の肉体とは別に、サイヤ人の王子の肉体を手に入れた。
しかも元の姿に戻れるという、新たな力にギニューはニヤリと笑う。
「これは良い。もはや他人と体をチェンジする必要もない。強い相手の肉体を完璧に模倣するこの能力と、他人の肉体を完璧に使いこなす我が才能が合わされば無敵!」
ベジータの肉体から孫悟空に変化した後、元のギニューの肉体へと戻る。
どれもギニューがボディチェンジを使用(成功か失敗かは問わず)した時期の存在である。
「…むしろ下手にチェンジされて、その能力を誰かに使われることの方が問題ですね」
「礼を言うぞ、ターレスよ!! この肉体と能力があれば、俺はフリーザ様に更なる貢献ができる! よし、貴様に喜びのダンスを披露してやろう!!」
元の肉体に戻れた喜びか、ハイテンションで告げるギニューをターレスとフリーザが揃って首を横に振った。
「いや」
「結構です」
ターレスだけならいざ知らず、上司にも断られテンションを落ち着けるギニュー。
ブウとセルがこれにニヤリと笑った。
「コイツは、面白くなりそうだな」
「ああ。ギニューが、これほどまで強化できる可能性があるとはな」
退屈しのぎになると笑う二人にターレスが肩を竦めた後、フリーザを見つめた。
「コイツで貸し借り無し、だな? 次に会う時は、お互い協力関係を維持したいもんだーー!」
「ーーええ。それは、本当に」
冷酷な笑みを浮かべる二人の悪党に、セルとブウも満足気味に笑っていた。
ーーーー
圧倒的な力と力をぶつけ合う二人の真超サイヤ人。
リューベとブロリー。
「ーー天魔豪斬空!!」
「フンーー!」
跳び上がりながら右手をブロリーに突き出して、無数の波動拳を放ってくるリューベに対し、ブロリーも右手に緑色の気を練り上げるとサイドスローの要領で腕を振り、散弾のように無数の気弾を放つ。
「うぉおおおおおっ!!!」
雄叫びを上げるブロリーは、更に己の力を引き上げていく。
天変地異を簡単に起こす両者の砲撃に、ジュードが目を見開いたまま立ち尽くしていた。
「な、なんてーー戦いだ」
時の狭間と呼ばれる常世の空間でなければ、とっくの昔に星は消滅している。
それほどの力と力がぶつかり合っている。
気弾を気弾で相殺し、リューベの着地と同時にブロリーが突っ込む。
振りかぶる両者の拳。
まともに右と右がぶつかり合った衝撃で地面にひび割れ、大地が槍のように起こり、クレーター状に掘り起こしていく。
「ブロリー…! なんという、強さだ!!」
惑星サイヤに住むジュードからすれば、リューベは正に恐怖の象徴のようなもの。
それを相手に、ブロリーは互角に渡り合っている。
大地を踏みしめて、ガードもフットワークもない。
拳と拳を全力でぶつけ合う両者。
一撃打たれれば、一撃を返す。それを約束事のように繰り返す二人の真・超サイヤ人。
歯を食いしばり、凄まじい形相で笑みを浮かべて目を見開くブロリーに対し、鬼眼とも言うべき底光りのする黒の瞳孔が開いた翡翠眼で睨みつけるリューベ。
その表情ーー正しく悪魔と鬼。
(あのリューベと真っ向勝負をしている。あの鬼のようだった父を倒したリューベと…!)
ターニッブとリューベの戦いは、幻想的で感動さえも覚えるほどのものだった。
だが今のブロリーとリューベの戦いは、あの時の。
先代サイヤ王ヘイヤが殺された時を酷く思い起こさせる。
(あの時もそうだった。父は、リューベと俺たちが来るまで互角に渡り合っていた。そして圧倒的な力の差で負けた)
何をバカな。ブロリーの力は、あの時の王を遥かに上回っている。
事実、ブロリーの力はヘイヤのように劣ることはない。
アレから時間にしてまる半日は、殴り合っている。
それでもブロリーの気は、力は衰えない。
(素晴らしい力だ。あのリューベを前に此処まで真っ向から食らいつくサイヤ人など、居なかった。悟空やベジータやターニッブでも、此処まで鬼の拳に耐えられるとは思えん…!!)
常世たる時の狭間では時間の流れなどあって無いようなものだが、外界では高かった日が落ち、闇に包まれる時間帯である。
幾度目かの殴り合いで、ついに拳を受けたブロリーが後ろに下がった。
ジュードが目を見開く中、ブロリーの肩は大きく揺れている。
「ハァ、ハァ、ハァ……!」
気は落ちていないが、スタミナが切れ始めたか。
「ブロリー!!」
殺されてしまう。このまま、やり合えば確実に。
そう思ったジュードが前に出ようとした、その時。
「ハァ…! 気が、高まるぅう! 溢れるぅう!!」
ブロリーの身に纏うオーラが激しく燃え上がった。
「な、な、なんだって!?」
ジュードの狼狽えを無視して、ブロリーが天に雄叫びを上げた。
「ぅうぅ…っ! うぉおああああああッ!!!」
一気にフルパワーを引き出すブロリーの背後に、赤い体毛の生えた3メートルを越える長い黒髪の超サイヤ人が半透明で一瞬現れて、消えた。
瞬間、爆発的にブロリーの気が上がる。
「な、なんて奴だ…!!」
ジュードが思わず震える中、リューベを静かに真一文字に結んだ口を開いた。
「…良き哉。ブロリー、其方の名。我が拳に刻もうぞ」
翡翠に黒の瞳孔が浮かんだ目を見開き、凄絶な笑みを浮かべてブロリーはリューベを見る。
「リューベ、本気を出せ。その程度のパワーで、俺に勝てると思っているのか?」
「……フン。ならば、とくと見よ。我が滅殺の拳を!!」
「望む、ところだぁああ!!!」
更なる上を目指し、天井知らずに気を高めてブロリーとリューベは殴り合う。
その様を見つめながら、ジュードは静かに決意した。
「真・超サイヤ人ーー。この力が俺の中にも眠るというならば、俺は必ず目覚めて見せる。そして、使い熟してみせる。我が前にて戦う、彼らのように」
そんな決意を固めるジュード、高まる気をぶつけ合うブロリーとリューベを少し離れた場所から見下ろす影があった。
「うぅん、イイねぇ! これほどの力と力が、こんな何も無い場所でぶつかり合うなんて、勿体無いなぁ! どうせならボクの実験に付き合って貰おうかな、と」
影は腰から一振りの刀を抜くと、自分の脇の空間を斬りつける。斬閃が空間に境目を生み出し、そこから二人の3メートルを超える巨漢が姿を見せる。
その二人は、伝説の超サイヤ人に変身したブロリーの別形態だった。
先程、真・超サイヤ人のブロリーの背後に一瞬だけ現れた赤い体毛を持つ巨漢ーー超サイヤ人4のブロリー。ただし、その胸には闇色のドラゴンボールが埋め込まれ、顔には右眼の部分が剥き出しになった仮面を付けている。
その右手には、緑がかった金髪を超サイヤ人3のように腰まで伸ばしているものの、前髪と眉毛がそのまま残っている、神の気を纏うブロリー。
「真・超サイヤ人ーーブロリー。君は超サイヤ人4を強化させたブロリーダークと、神の気を纏って更にパワーアップしたブロリーゴッドの二人より、強いのかなぁ?」
丸眼鏡の淵を指で押し上げてから、影は不敵な笑みを浮かべて、リューベと殴り合う真・超サイヤ人のブロリーを見つめていた。