10分後 公国防衛隊本部
僕は会議室のドアをノックし、アンリがいることを確認して部屋に入る。
「アンリ、キリングの居場所が分かったとは本当か?」
「はい、エリック氏の話を聞いて名前と容姿に聞き覚えがあり調べたところ、元ジオニック社重役ルーベンス・キリング氏の子息であるヘルシオ・キリングだと断定しました。そこでルーベンス氏にヘルシオの居場所を聞いたところ、今はヘルシオの自宅にいて午後2時からのルーベンス氏主催のパーティーに参加するそうです」
「エリックの母親の居場所は掴めそうか?」
「今、ズム・シティ内をくまなく探させています。それと、ルーベンス氏の複数ある別荘にも捜索の範囲を広げており、発見は時間の問題かと思われます。ヘルシオの自宅には既に捜査員を20名ほど向かわせており、エリック氏の母親が見つかり次第突入させる手はずになっています」
「なるほど、分かった」
アンリの話に相づちを打った瞬間、ドアが勢いよく開きアンリの部下が入ってくる。
「エリック氏の母親が監禁されている場所が判明しました!」
「場所はどこだ?」
「ズム・シティ東側に位置する、ルーベンス氏の別荘の1つです」
「分かった」
アンリは会議室の端にある電話を手に取ると、施設内全体に向けて指令を出す。
〔監禁されている女性の居場所が判明した。これより我々は、女性の救出任務に向かう。万が一のためにA班は本部で待機。それ以外のBからF班は武器を携行し、2分後に車庫に集合せよ! 〕
そう告げるとアンリは電話を置き、こちらに振り返る。
「ドズル閣下も行かれますよね?」
僕も行くの? という顔をする時間があるわけもなく、僕は頷くしかなかった。あとで、ギレンに怒られるが仕方ないだろう。
「ああ、一緒に行かせてもらおう」
「では、私についてきてください。こちらです」
アンリはそそくさと歩いていき、僕はついていくしかなかった。
「これより我々は、女性の救出任務に向かう。相手も拳銃など火器を使用している可能性が高い。激しい銃撃戦が予想されるが、あくまでも、第一目標は女性の救出だ。皆、心してかかるように!」
「了解!」
車庫に集合した隊員たちは敬礼をして、各班専用の装甲車に乗り込んでいく。僕がアンリの装甲車に同乗して数分、準備が整った救出部隊はアンリの装甲車を先頭にして車庫を出ていった。別荘に向かう道中、アンリはヘルシオの自宅を監視している隊員に通信を入れる。
「こちらアンリだ。ヘルシオの様子はどうか?」
〔動きはありません。まだ、自宅内にいます。〕
「そうか、今我々はエリック氏の母親の監禁場所に向かっている。我々の監禁場所への突入と同時に、君たちもヘルシオの身柄を拘束してくれ」
〔承知しました。〕
通信機のスイッチを切ったアンリは、腰のホルスターに入っている拳銃を手に取り、なかに入っている銃弾を確認する。そして、確認を終えると僕に拳銃を手渡した。
「ドズル閣下、念のためにこれをお持ちください。ですが心配することはありません。念のためですから」
そんな笑顔で言われても困るし、もちろん銃なんて撃ったことないし……
「分かった。ありがとう」
僕は仕方なく拳銃を受け取り、腰の空いているホルダーにしまった。
「あと10分ほどで別荘に到着します。到着後、アンリ様とドズル閣下は、装甲車の後ろに隠れてください」
「分かった」
それから約10分、エリックの母親が監禁されていると思われる別荘に到着した。先ほど言われた通り、僕は装甲車の後ろに隠れた。アンリは、各班に指示を出している。
「B、C班は正面の入り口に、E、F班は裏口に回れ。D班は他の班が敵を引き付けている間に窓から侵入し女性を救出してくれ。D班以外は今から1分後に同時に突入し、敵をひきつけろ」
装甲車から降りた各班は拳銃を構え、すばやく配置につく。アンリはそれを確認すると、通信機を手に取る。
「こちらはまもなく突入する。そちらもヘルシオの身柄を拘束してくれ」
〔了解しました。これより身柄を拘束します。〕
通信機の向こうからの返事を確認すると、周波数を切り替える。
「5、4、3、2、1、突入!」
各班の隊員はアンリの合図と同時にドアを蹴破り、中に入っていった。
B班班長side
俺達が突入した途端、銃声が玄関全体に響き渡った。
「避けろ!」
咄嗟に近くにあった部屋に転がりこんだため銃弾は服をかすっただけで済んだが、後ろを進んでいた班員は銃弾を2発ほど防弾チョッキにくらい、その衝撃で後ろに倒れこんだ。B班の後から入ってきたC班はすぐに反撃を開始し、玄関で激しい銃撃戦が始まった。それとほぼ同時に、裏口からも拳銃の発射音が断続して響いてき始めた。俺は流れ弾が当たらないように倒れている班員を安全な所に運び、俺自身も玄関での銃撃戦に加わった。相手は八人ほどいたが、他の班の活躍によりすでに半分の四人にまで数を減らしており、制圧は時間の問題だった。銃撃が止んだタイミングで顔を出し、壁に隠れようとしていた一人の腕を撃ち抜いて無力化。続いて、反撃しようと壁から出てきたもう一人の腹部に向かって拳銃を発射し、腹部に銃弾を食らった相手は床に崩れ落ち倒れ込む。刹那、俺は壁の裏に隠れる。その直後、先程まで俺がいた場所を銃弾が通過していき、それを確認した俺はほっと息をついた。そして反撃とばかりにC班が拳銃を撃ち、敵二人は床に倒れたのだった。
数分後
防弾チョッキに備え付けられた通信機からアンリ様とD班の会話が聞こえてくる。
〔こちらD班、女性の身柄を保護しました。〕
〔了解した。別荘内に敵はいるか? 〕
〔別荘内の部屋をくまなく捜索しましたが、拘束した者達以外には見当たりませんでした。〕
〔そうか、分かった。〕
無事に任務は完了だ。
そういえば忘れていたが、倒れこんだ班員を起こしに行かなくては……
ドズルside
装甲車の後ろに隠れて待っていたら、十五分ほどで制圧は完了してしまった。さすが、仕事が早いね……
「ドズル閣下、無事にエリックの母親は保護しました。そして先程、ヘルシオの身柄を拘束したと連絡が入りました。これでもう大丈夫でしょう」
「結局、この銃は使わなかったな。返すぞ」
アンリがこちらに向かってくる。俺もアンリに近づこうと車の影から出て銃を返そうと、ホルダーに手をかけたその瞬間、
「うおおおお!!!」
装甲車の後ろから拳銃を構えて、敵の生き残りが走ってきた。僕は返すため手に持っていた拳銃を走ってくる奴の足に向け、人を撃つ恐怖で震える手を押さえながら発砲した。放たれた弾丸は見事に命中し、転ばせることに成功する。
「なにをやっている! すぐに確保しろ! ドズル閣下、お怪我はありませんか?」
「ああ、怪我はないから大丈夫だ」
倒れこんだ人物は駆け寄ってきた班員に確保され、足を引きずりながら連れていかれた。
これで、なんとか一件落着したかな……
一年戦争が終わった後の戦乱
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