「物量を過信する愚か者よ。力は力によって滅ぼされると知れ!」
先に降下していった部下達を追って、ペダルを強く踏み込み眼下に展開している連邦艦隊へ一気に接近していく。ミノフスキー粒子の散布によって、連邦軍お得意の対空火器管制システムは意味をなさず、貧弱な対空放火は容易く回避できた。右手にバズーカを構え、照準をサラミス級のブリッジへ定めると、僕は引き金を引いた。そのまま勢いを殺さず着弾と同時に艦隊の間を通り抜けると急旋回し、今度は下からエンジンを狙って2発を撃ち込む。数秒後、サラミスは破片を撒き散らしながら爆発した。
「巡洋艦1隻に3発か……もっと効率的にやらんと弾薬がいくつあっても足らんな」
装備しているバズーカの予備弾倉は3つ。ひとつの弾倉につき装填数は3発だから単純計算で撃沈できるサラミスはあと3隻……
(あとでもう少し武装ラックを増やしてもらおう)
次に狙うは前衛艦隊中央に位置する旗艦とおぼしきサラミス級。再びペダルにかけた足に力を込め、艦隊の間を縫うように抜けていく。
「狙うは弾薬庫とエンジンのみ!」
両手構えで狙いを定めると、船体側面のミサイル発射管周辺に向け引き金を引く。いくら弾速が遅いと言えど、艦船相手なら問題はない。弾はしっかりと命中し艦前方で大きな爆発を起こした。さらに後方のエンジンブロックへと弾をぶちこめば、あっという間に沈められる。その場を離れ、中衛艦隊へ向け機体を進めていると、一機のザクが接触回線で呼び掛けてくる。
[ドズル閣下、自分の予備弾倉を使ってください。]
「シャアか。お前は初陣だ。ここで戦果をあげないと何も始まらんぞ。しっかり暴れまわれ」
[すみません、配慮ありがとうございます。それでは失礼します。]
(いくら弾倉を変えながらで速度を落としていたとはいえ、このヅダに追い付けるとはな)
シャアの潜在能力に恐怖しつつ、僕は機体を駆り艦隊の間を抜けていく。
前衛艦隊より後方1キロ地点
バーミンガム級4番艦「ドラッグ」
連邦宇宙軍第4艦隊司令ジャミトフ・ハイマン大佐は、前方で繰り広げられている前衛艦隊の醜態を見て憤りを隠せなかった。それはブリッジにいる誰もが感じていた。だが直後に入ってきたコロンブス級壊滅の報を聞き、ジャミトフはかすかに笑みを浮かべ、それを見たブリッジ要員は恐怖するしかなかった。
「スペースノイド如きに勝てぬ奴らは、ゴミ以下だ。もう生きている価値はない。そのまま宇宙のゴミとなるがいい」
「……」
ブリッジが静まり返る中、彼は指示を出した。
「私が直接出る。エンジン全開並びに戦闘用意。ゴミを掃除する時間だ」
「はっ! ドラッグ、前に出ます」
「大艦巨砲主義の真髄であるバーミンガムの恐ろしさを見せつけてやろうではないか」
ゆっくりと前進を始めたドラッグは段々と加速し、前方の戦場へと進んでいく。
「マハラジャ司令、レーダーに反応ありました! 新型戦艦の一隻が動き出した模様です」
「分かった、そのまま警戒を続けてくれ。こちらの被害の状況は?」
「ムサイ4隻が撃沈され、少なからず被害を受けた艦は被弾したブロックをパージし、後続のムサイと交代しています」
「そうか、分かった。後はドズル閣下率いるMS隊がやってくれるだろう。我々は支援を主体に動く!」
「新型戦艦周辺より高熱反応! ……これは!」
その時、ワルキューレのブリッジが閃光に包まれた。数刻後、ブリッジを衝撃と爆発音が襲う。
「隣を航行していたムサイ強化型が轟沈! 敵艦主砲による攻撃と思われます……」
「マゼラン級と互角以上に戦えるように再設計された強化型が一撃で……」
ブリッジはざわめきに包まれる。
(あの船にはシリウス中佐が乗っておられたはずだ……しかし、これ以上被害が広がる前に射程外に後退するしかないか)
感情を押し殺し、マハラジャは素早く指示を出す。
「回避運動を開始! 砲撃は続けながら、敵艦の射程外へと後退する!」
MS隊による撹乱の効果でジオン艦隊への砲撃は弱まっていたものの、敵を目前に舷側を向けるのは普通なら自殺行為だ。だが、こちらの射程外な以上、後退して砲撃を躱すしかない。マハラジャは唇を噛むしかなかった。
連邦前衛艦隊の間を抜けていた僕は、太い桃色の閃光を視界の左端に捉え足を止めた。
「今の砲撃、バーミンガム級からか! あんなもの乱発されたら、艦隊なんて全滅だぞ!」
その時悪寒を感じ、身震いが止まらなくなる。
「なんだこの感じ……!」
直感的にシリウスさんの事が頭をよぎり、後方のジオン艦隊を振り向くと、一隻のムサイが爆発するのが見えた。
「強化型ムサイ。やはりシリウスさんの艦か!」
この艦隊に配備されている強化型ムサイは宇宙軍参謀を務める彼だけに与えられている。唯一の艦が撃沈されたということはそういうことだろう。僕は怒りと憎しみが渦を巻くのを感じながら、閃光を発した主に向けて急速に機体を進める。
「バーミンガム級、ここで沈めなかったら必ず災いとなるだろう。この場で地獄を見せてくれるわ!」
バズーカを舷側に向け引き金を引く。放たれた弾頭はまっすぐ進んでいきバーミンガム級の前方側面に連続して直撃した。だが完全に装甲を剥がすことは出来ず、たいした被害は受けていなそうだ。対空砲火を避け、弾倉を変えながら艦艇の上側から主砲3基に狙いを定めて、引き金を引いた。放った弾頭はすべて命中したが、破壊できたのは2基のみ。
「新造戦艦だけあって本当に硬い! だが」
通信機になにか通信が入ってきている。怒りで周りが見えなくなっていたが、この通信のおかげで冷静になることが出来た。
[第4艦隊司令、ジャミトフだ。くだらない戦闘はやめて投降せよ。貴様らスペースノイド如きが我々地球連邦に勝てるわけがなかろう]
スペースノイド如きか。スペースノイドを軽視する奴にはテコ入れが必要だな。
「こちらはジオン軍総司令、ドズル・ザビである。貴官らの指示に従うつもりはない。その固まりきった思想ごと叩き斬ってくれるわ!」
弾薬切れのバズーカを捨てて、バックパックに取り付けてある大型ヒートホークに持ち替える。身の丈と同じ大きさのこの大斧には推進機が付いていて、ラースによるとズダの推力と合わせれば絶大な破壊力を手にするらしい。バーミンガムの船体を踏み台にして一気に艦橋構造物へと近づいた僕は、両手でヒートホークを振りかぶった。推進機を起動し、下部にある艦橋めがけて横薙ぎに一閃する。続けて大きく上に振りかぶり、司令艦橋めがけ唐竹割りのように振り下ろす。そのまま艦橋構造物の根本辺りまで刃は進み、やがて止まった。破孔からヒートホークを抜き、一度船体から距離を取る。指令系統が完全に沈黙したことで、艦全体の動きも止まったみたいだ。
[ドズル様!]
「ゲラートか、どうした?」
[前衛艦隊があらかた片付いたので中衛艦隊へと向かっていたところ、戦闘をしているドズル様を見かけたので駆けつけた次第です。]
「ちょうど良かった。部下たちにバーミンガムには5機以上で対処することを徹底してくれ。装甲が硬い上に火力も高い。俺が行動不能にさせるから、そこを叩いてくれ。頼んだぞ」
[承知しました。]
「それと、俺が今行動不能にさせたこいつは、曳航して本国の開発局に持っていく。だからこれ以上損傷させないように頼む」
[分かりました]
その時、船体の下部から脱出艇が2機出現する。彼らは中衛艦隊の方へ向かって進もうとしていたようだ。ナントカっていう司令も艦橋ごと斬ったし、僕は見逃すつもりでいたのだが隣にいたゲラート君が、マシンガンの銃口を向けあっという間に撃破してしまった。
「…さて本隊の討伐へと向かうか。ヘンリーとシュタイナーにもさっきのことを伝えといてくれ」
[了解です。]
「ティアンム提督、ドラッグが撃沈されました。我が艦隊損耗率は6割を突破。ジオンはそのままこちらへとやってきます……いや一機だけ異様に速い!? 先頭のマゼラン級の防衛システムが追い付きません!」
「なんとしても落とせ! 中核まで侵入させるな!」
「だめです、2隻やられました! 奴はあと10秒ほどでここまで……」
「くっ、仕方ない。撤退の準備だ。砲撃をしながら転進する。この状況では勝ち目はない。損害を出来るだけ抑えて反抗の時を狙う。全艦に通達を!」
艦隊の中心で一際目立つ艦……あれがタイタンか。ティアンムはレビル派だ。無理に殺る必要はない。狙うは両翼のバーミンガムのみ
「悪いがバズーカが弾切れだ。一撃で行動不能にさせてもらう」
1隻目はすれ違いざまに艦橋を一閃する。ヅダのスピードとヒートホークの推進機が合わさり、艦橋構造物の上部ごと刎ね飛ばす。そのまま大きく弧を描きタイタンの右へと反転した僕の機体は、後方からもう1隻の船体を切りつける。相手の弾幕は厚いが、なにか違和感がある。何かを狙っているような周囲からの砲撃を掻い潜りつつ、一度連邦艦隊の上部へと抜け下を見ると、各艦が左に舵を切り始めていた。
「退却か。前衛艦隊は半数が沈み、後衛艦隊はほぼ壊滅状態。適切な判断だ。ではプランBへと移るとしよう」
プランB それは連邦が撤退を開始した際に発動されるもう一つの作戦であり、撃沈優先のプランAと違い継戦能力を奪うことを優先する。少しでもルナツー攻略部隊の負担を減らすため、主力である中衛艦隊の武装を集中して破壊するのだ。そして深追いはせずある程度でこちらも引くことになっている。
すでに各隊長は部下に指示を出したようだ。散らばっていた200機が集結しつつある。一方の連邦艦隊は対空砲火を続けながら、2/3程が回頭を終え速力を最大にしてこの場を離脱しようとしていた。僕は対空機銃を優先して壊そうと、降下を開始する。自分自身の成果はどうでもいいが、ここもルナツー攻略部隊にも初陣である新兵しかいない。濃密な対空砲火の中で全てを避けながら、目標を達成するのは難しいだろう。彼らの危険は少しでも排除しておかなければ.
「連邦に新兵を殺させる訳にはいかないんでな、やらせて貰う!」
ザクマシンガンを右手に持ち、マゼラン級の対空機銃に照準を合わせる。連続して引き金を引き、複数の機銃を一気に潰していく。
30分程経過し周りの状況を確認した僕は、照明弾をあげ攻撃を止める合図を出す。それを確認した新兵達は反転し、ドロスやジオン艦隊の方角へと戻っていく。僕もそれに続き、ワルキューレへの帰途についた。
「モビルスーツ撤退していきます。我々の損耗率は80%を突破しました。追撃はないようですが、一応警戒しておきます」
タイタンのブリッジ内はあちこちで火花が散り、船内では火災が複数確認されていた。ティアンム自身も負傷し、部下に支えられている状況だ。
「ジオンめ……ルナツーに戻り修理が終わったら、必ず部下の仇を取る。待っていろ」
彼らはまだ知らない。帰るはずだったルナツーが戦場になっているということを……
「着艦する、格納庫を開けてくれ」
ワルキューレの格納庫へと帰投した僕は早足でブリッジへと向かった。一歩踏み入れると、ブリッジ内はとても戦闘に勝利したとは思えないほど重い空気に包まれていた。
「マハラジャ、艦隊の指揮ご苦労だった」
「お帰りなさいませ、ドズル様」
顔には出していないが、彼も心に傷を負っているはずだ。目の前で味方の船が四散した、それだけで新兵や戦闘を経験したことがない者にとっては精神に異常をきたしてもおかしくないだろう。
「皆も落ち込むな。戦場に死は付きものだ。散っていった同胞や連邦の勇敢な兵士に対し黙祷を捧げる。黙祷!」
ブリッジ内の全員が前方の戦場へ黙祷を行う。
僕だってドズルに憑依してから会ったことはないとはいえ、ドズル自身は親密な関係を築いていた。それに起因するかは分からないが、家族を失った気持ちだ。それでも指揮官として動揺するわけにはいかない。
「こちらの被害を早急に確認し、修理が終わり次第ルナツーに向かう。それまで戦闘要員は休息をとれ」
「ドズル様、この後はルナツー攻略部隊と合流するのですか?」
「そうだ、兄上にはルナツー攻略が終わった後の作戦がもう決まっているらしい。ガルマもその時のために準備している。ただ、俺達がつく頃には戦闘は終わっているはずだ。万一戦闘が継続していても俺一人で出る。マハラジャ達は後方で戦闘が終わるのを待て。それまでは君もゆっくり休んでくれ」
「分かりました」
僕も少し休むとしよう。さすがにあれだけのGが掛かると少しきつい。これからは少し自制しよう。まだまだ忙しい時は続くぞ。
一年戦争が終わった後の戦乱
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