「各機動きを止めるな! 的になるぞ」
1号機を囲んでいるのはジオン軍の中でも上位に入る練度を誇る第41機甲中隊だ。そのうちの1機が不意打ちとはいえ即座に落とされたことはランバ・ラルをも動揺させた。それでも数コンマのうちに思考を切り替え、指示を出す。自身もバルカンで1号機を牽制しながら、足を止めることはしない。中隊のメンバーも1号機を逃がさぬよう上手く立ち回っている。そんな中、中隊の隊長から通信が入る。
[大佐はお下がり下さい。コンスコン司令より死守の命令が出ています。私たちはここで足止めしますので]
「しかし……!」
[連邦製のMSを持ち帰れば我が軍の技術はさらに向上するでしょう。それをみすみす潰す訳にはいきません。]
「分かった。だが少佐も無理はしないでくれ。君たちを失うことは何にも替えがたいことだ」
[それはどうか分かりませんが、命令は完遂して見せますよ。……今です! 抜けてください]
全機で一気に弾幕を張り1号機の動きを封じる。その間にランバ・ラルは全速力でルナツーを目指し、宙域を離れた。
テム・レイside
「そんな数で私を止めるつもりか! 生憎息子という不安要素がない今、私を止めるのは不可能だよ」
私は近くにいたザク3機をビームライフルで続けて撃破する。だが残りのザクは怯む様子もなく攻撃の手を緩めようとはしない。
「私の邪魔をするな!」
スラスターを一気に吹かしザクとの距離を詰め、左手のビームサーベルで一閃する。爆発する寸前のザクを足場として飛ぶことで推進材を節約し、近くで隊列をなしていたザクも袈裟斬りで葬る。その時、ロックオンを知らせるアラームが鳴った。
[それ以上は許さんぞ! 部下の仇取らせてもらう]
ザクの隊長機は部下を失い焦ったのだろう。本来なら遅れないであろうロックオンから射撃までが1秒遅れた。その1秒は私が回避を行うのには十分すぎる時間だった。回避と同時にライフルの照準を合わせるとそのまま引き金を引く。そして無慈悲にもその一撃はザクのコックピットを正確に貫いた。私が隊長機を撃破する光景を見ていた他のザクは踵を返し、撤退していく。ビームライフルで射撃を行い複数機を葬ったものの残りには逃げられてしまった。
「散々邪魔しておいて撤退とは、逃がす理由はないだ……ゴハッ。ちっ、時間切れか」
ヘルメット内に漂う血の塊を視認し、私は追撃を諦めた。仕方なくアルビオンを目指してサイド7へと戻る。
[1号機着艦! 物資の搬入を再開せよ]
1号機がアルビオンへ着艦すると、クルーは中断していた積込作業を再開する。しかし彼らは気づかなかった。帰投した1号機のツインアイが不気味な赤から黄色へと戻っていることに……
「テム・レイ少佐、入ります」
私はバスクに呼び出され、士官室へと赴いた。机に座るバスクは明らかに苛立ちを顔に表している。
「貴様、私の命令を無視した挙げ句軍の機密を無断で持ち出すとは良い度胸をしているな」
「はっ、申し訳ありません。しかしながらあそこでみすみすとガンダムを逃すことは私には出来ませんでした」
「結果的には逃がしているわけだが……よくここに帰ってこれたな」
彼は椅子から立ち上がりゆっくりとこちらに近づいてきた。
「これはV作戦のために作られた母艦です。戻ってこないほうがおかしいでしょう」
「それもそうだな。だが貴様は軍人としてあるまじき行為を働いた。その報いは受けてもらうぞ」
そう言うと同時にバスクは私に平手打ちを見舞った。
「これは貴様のふざけた精神の修正だ。しばらくは独房で過ごしてもらう事になるだろう。連れていけ」
その言葉と同時に腹心が腕を拘束し、私は引きずられるように連行された。
ルナツー
ランバ・ラルは無事にハモンらと合流し、ルナツーに帰還した。件の2号機とガンキャノンは連邦の回収を防ぐため直ぐに本国へと輸送されていったという。今は休息を取る暇も無いままコンスコン中将に報告を行っている。
「ランバ・ラル、ご苦労であった。さすがは青い巨星だ」
「お褒めに預かり光栄であります。して、第41機甲中隊はどうなりましたか?」
「帰還したのは2機のみであったと聞いている。他の13機は奴に殺られたのだろう。隊長機も未帰還だ」
「そうですか……連邦のMS3機と引き換えに彼らを失う事は耐え難い事であります」
「貴殿が案ずることではない。戦争とはそういうものだ。ああそれとゆっくり休息を取って欲しいところではあるのだが、どうも最近連邦軍の動きがきな臭いらしく1日の休息の後オデッサに降りてくれと総司令から直々に命令が出ている」
「承知いたしました」
ラルは司令に敬礼し部屋を出た。そのまま司令部を出て居住区へと向かう。目的はアムロだ。彼の為に用意された部屋に着くとノックし、扉を開ける。
「失礼するよ、アムロ君。少々話があってね」
「ラルさん、どうかされましたか?」
椅子に座りアムロと向かい合うと話を切り出す。
「明後日にはオデッサに降りることになった。アムロ君にも着いてきて欲しいんだ。何故かは分からないがドズル閣下はえらく君の事を気にしていてね」
「分かりました。僕はどこまでも貴方に着いていきますよ、命の恩人ですから」
そう言うアムロの目は憧れの眼差しであった。
「お父さんに刃を向けることになるぞ。それでもいいのか?」
「父はガンダム……いえ1号機に取り憑かれています。僕は1号機を破壊し父を救いたいです」
「分かった。では閣下に進言しよう。明後日からアムロ君は軍人だ。今日と明日はゆっくり休んでくれ」
ラルはアムロの潜在能力に勘づいていた。そしてこのラルの判断が後に明暗を分けることになる。
2日後
ランバ・ラル隊はアムロを連れてオデッサへと降下した。それとほぼ時を同じくして、サイド7からアルビオンが出港する。
「本部より通信が来ています。モニターに出します」
通信士が操作を行い、ブリッジの通信モニターに映像が表示された。
[バスク、予定より大幅に出港が遅れたようであるが何か問題でもあったのか? ]
「コリニー大将、申し訳ありません。サイド7でジオン特殊部隊の襲撃を受けガンダム2号機以下MS3機を奪取されました。出港が遅れたのは艦の修理と搬入作業に時間が掛かってしまったからであります」
その言葉を聞いて、画面越しのコリニーはあからさまに不機嫌になった。バスクは自分の額を流れる冷たい汗を感じた。
[お前ともあろう男が失敗するとはな。]
「しかしガンダム1号機はジオンを追撃し、13機の新型ザクを単独で撃破致しました。成果は十分かと」
[ふん、それで今の戦力は? ]
「ガンダム1号機、ガンキャノン4機、ガンタンク2機であります。ですが1号機に関しましては正規パイロットがジオンの襲撃によって操縦不能なほどの大怪我となり、臨時にメカニックであるテム・レイ少佐が操縦していました。現在は規律違反のため独房に拘束しております」
[ではすぐに拘束を解きたまえ。ガンダムを操縦できるのは彼だけなのだろう? ]
「お言葉ですが彼はメカニックです。軍の機密を動かした以上、適当な処置と存じますが」
バスクは自分の意に沿わなかったテムをどうしても独房から出したくなかったのだ。
[貴様は私の意見に従っておれば良い。それとも最前線の戦車隊にでも左遷してやろうか? ]
「も、申し訳ありません。ではこれよりガンダムのパイロットはテム・レイ少佐と致します」
[あと少しでトラッシュ作戦も開始される。早くジャブローに戻ってこい]
バスクは歯ぎしりするしかなかった。通信が終了した後、持っていた指揮棒を床へと叩きつける。
「大気圏への突入準備だ。さっさと動け」
アルビオンはジャブロー降下コースへと入った。だがそこまでの道のりがジオンの制宙圏であることを彼らは甘く見ていたのだ。
一年戦争が終わった後の戦乱
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