連邦製MSの奪取作戦の一連の報告を聞いた宇宙軍司令マハラジャは、母艦を逃がさないために直ぐに展開できる位置にいたパトロール艦隊のチベ級5隻、ムサイ級8隻、MS30機余りを予想進路上に先回りさせた。敵艦1隻に対して過剰過ぎる戦力であると反対する者もいたが、先の被害報告から妥当であると最終判断を下した。
その頃、アルビオンは戦闘配備状態のまま大気圏降下を目指していた。このまま順調に進めば真っ直ぐジャブローに降りることが出来る。だが艦内の空気はとても重いものだった。
「ジオンがいつ仕掛けてくるか分からない。レーダー手、警戒を怠るな。MSはスタンバイさせておくように。テム少佐は前線を1人で張ってもらう。他のMSはアルビオンから離れないように。ガンダム以外はこの艦の護衛だからな」
コリニー大将から言われてしまってはテムを邪険に扱う事が出来ず、バスクは苦虫を噛む思いで指示を出している。そして彼の言葉通り、ジオンはすぐそこまで迫ってきていた。数分後には、最新鋭のレーダーが熱源反応を捉える。
「3時、11時方向に感あり! これは……チベ級2、ムサイ級3! 11時方向からはチベ級3、ムサイ級5が接近してきています!」
「ちっ、害虫どもが! MS隊を全機発進だ、先ほどの指示通りに行動させろ。大気圏まではあと少しだ、なんとしても撃破して貰わなければ困る!」
「了解!」
「MS発進後、10秒間の艦砲射撃を行う。準備しておけ」
バスクは的確に指示を出し、艦窓に映る地球を見つめる。
艦内が一気に慌ただしくなる中、既にコックピットで待機していたテムはブリッジからの通信に困惑するしかなかった。
[少佐……ガンダムは単独で敵の撃破との命令が出てます。さらにアルビオンは10分後には大気圏降下を開始します。それまでには戻ってきてください! ]
「君、何かの手違いではないのかね? 敵の数は聞いたが、さすがに遂行不能と思うんだがね。それに10分で戻れなど不可能に近い」
[バスク艦長は先の通りおっしゃっています。ご武運を! ]
そして一方的に通信は切られた。
「ヤツはまだ根に持っているのか……まあいい、息子の実力を皆の前で示すのにいい機会だ」
テムは一本の注射器を取り出し、腕に刺す。中の液体を全て注入し終えると、注射器を抜き操縦桿を握る。
「1号機出るぞ!」
アルビオンのカタパルトから勢いよく飛び出した1号機は、右舷から接近してくるジオン艦隊に向かっていく。その時、ツインアイが黄色から赤に変わった。
「新造艦がMSを射出! 数は5、そのうち4機は新造艦に張り付いています。もう1機はまっすぐこちらに向かってきているようですがドレン大尉、いかがなさいますか?」
「あれが噂のMSか。新造艦はトクメル隊に任せて、我々はあれを叩く。MS隊全機発進させろ! 絶対に地上に降ろしてはならんぞ」
ドレンの指示で、スタンバイしていたMS16機が各艦の格納庫から出撃する。
[アルマン君、君は我が隊にとっての宝だ。出来るだけ後方での支援に徹してくれるとありがたい]
母艦の前面に展開したアルマンは、静寂に包まれるコックピットの中で、出撃時に隊長から言われた言葉を思い出していた。ルウムでの初陣を終えた彼は中尉に昇進、その後パトロール艦隊に配属となった。エースパイロットとして配属された彼にはロールアウトしたばかりのゲルググが与えられている。様々なプレッシャーに耐えてきた彼は精神的にも確実に成長していた。
[相手は41中隊を壊滅させた野郎だ。ジオン宇宙軍の名に懸けて絶対に落とせ! ]
数分後、1号機を捉えたMS隊は散開して迎撃体制を整える。だが1号機が照準を合わせていたのはMS隊ではなかった。奴の銃口から放たれた複数のビームはMS隊を通り過ぎ、1隻のムサイの艦橋とエンジンを正確に貫いたのだ。爆散こそ免れたもののムサイ級は航行不能に陥いることになった。そして奴の銃口がアルマンに向けられる。
「あの距離からの正確な射撃.くそっ!」
こちらに向けて放たれたビームを間一髪の所で躱し、試作型ビームライフルで応戦する。だがその一撃をいとも容易く躱した1号機はさらにジオン艦隊との距離を縮め、牽制の為に近づいたザクのコックピットを正確に撃ち抜いた。それから数分が経ち、1機、また1機とジオンMS隊は数を減らしていく。アルマンも必死に射撃しているが、1号機はビームの軌道を分かっているような動きで避けてしまう。戦友が次々と宇宙に散っていく中、1号機の動きに疑問を感じたアルマンは頭の中で仮説を組み立てた。
(未来予知でも出来るのか? いやそんな奴いるはずがない。奴がもしシステムで予測してるとするならば……)
仮説を検証するため1号機に銃口を向ける。だが引き金を引く直前に照準を機体の右側にずらした。そして1秒も経たぬうちに放たれたビームは、奴の左肩の装甲を溶かす結果になる。その結果を受けアルマンは確信した。
(奴は殺気を検知して攻撃を行う。また向けられた武器の弾道予測線を表示する。そしてパイロットはそのデータをもとに避けている……)
だがそれが分かった所で1号機を仕留められるわけではなかった。奴はアルマンを優先目標と認定し、ビームサーベルを抜きながら一気に加速したのだ。一歩遅れてアルマンも回避行動を取るが、1号機の方は既にビームサーベルを振り抜いていた。後ろに下がることで胴体を切り裂かれる事はなかったものの右腕を損失しバランスを崩した所へ、さらに蹴りによる追撃が飛ぶ。激しくコックピットを揺らされ、モニターに強く頭を打ち付けたアルマンの意識は闇の中へと消えていった。
「時間がないな……やむを得ん」
目の前で沈黙したゲルググに止めを刺そうとしたテムであったが、タイムリミットを確認し機体の方向を変えた。目指すは艦隊旗艦であるチベ級。周りを護衛のザク達に固められてはいるが、突破は容易い。寸分違わず胸部を射抜きつつ、対空砲火を掻い潜りながらチベの上へと位置取る。だがその時、1号機の背後から急接近する影があった。
[これ以上味方を殺らせるものか! 化け物め、落ちろ! ]
その影の主である隊長機はぎりぎりまで接近し、ヒートホークを1号機目掛けて振り下ろす。意識外からの渾身の一撃は1号機を確実に捉えたと思った。だが1号機は右腕を体とザクとの間に入れ、犠牲にすることでその一撃を受け止めたのだ。予期せぬ結果に驚いた隊長であったが、思考をすぐに切り替え1号機と距離を置く。しかし、それは逆に致命的な動きとなってしまった。1号機のシステムは瞬時に隊長機の行動を演算し最適解を表示する。テムはそれを確認し振り向き様に射撃、隊長機を一撃で撃破した。これで1号機を襲う脅威は無くなり、テムは改めてチベ級へと照準を合わせる。
「MS隊ほぼ壊滅しました。ビーコン反応があるのはアルマン機のみですが、通信に応答はありません」
オペレーターが淡々と告げる。死の瞬間が刻一刻と迫る中にも関わらず、旗艦のブリッジ内はとても落ち着いていた。
「そうか。あと少し時間を稼げればルナツーからの増援も到着しただろうにな。残念だ。別動隊には撤退の信号弾を上げろ」
ドレンが話を終えた直後、ブリッジは桃色の閃光に包まれた。間一髪信号弾は上がったものの、船体の弱点を射抜かれチベ級は四散する。それから間を置かず僚艦4隻も全て撃沈され、ドレン率いる第13パトロール隊の本隊は壊滅した。気絶しているアルマンだけを残して……
一方、別動隊の襲撃を受けているアルビオンは劣勢を強いられていた。キャノンとタンクが1機ずつ撃墜、アルビオン自体も少なくない損害を被っている。それでも撃沈まで至らないのは単に艦の性能であろう。相対している別動隊のMSも3割を損失しているのが、アルビオンの迎撃力の高さを物語っている。
「左舷エンジン付近に直撃弾! 出力11%低下なれど、降下には支障ありません」
「被弾した箇所の隔壁は閉鎖しろ。なんとしても降下軌道までたどり着くのだ!」
バスクの言葉には怒気が含まれている。自分の采配ミスにより、責任を取らされることを恐れているのだ。降下軌道に到達するまでは残り2分。その時、3時方向で信号弾が上がった。それを確認したジオンのMS隊は踵を返し、撤退していく。
「1号機が帰投します。ジオンは全機撤退しました。付近に反応はありません」
「なんとか凌いだようだな。1号機を収容しだい、大気圏に突入する」
アルビオンは無事にジオンの制宙圏を突破し、ジャブローへの突入コースへと入った。サイド7からジャブローまでの1号機の戦闘記録はすぐに他のMSへとフィードバックされ、連邦の反撃の礎となるだろう。
その頃、地球軌道ではルナツーからの増援部隊が宇宙空間に漂うゲルググを発見。他の生存者と共に救出され、ルナツーへと運ばれることになった。そして1ヶ月後、ジオンに遅れを取り続けていた連邦軍はある作戦を発動する。
サイド7から地球突入までの1号機の戦果
チベ級2隻 撃沈
ムサイ級3隻 撃沈
ザク高機動型 26機 撃墜
一年戦争が終わった後の戦乱
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