ペキン撤退から3日、連邦軍内部で大きな動きがあった。囚われの身であったレビル将軍の解放とレビル派全員の軍籍復帰だ。この唐突な決定に軍内部から驚きの声が上がる。
「オデッサを落とせるなら良し。落とせなくてもレビル共が死ねばなお良しだ。そう思うだろう?」
オデッサ攻略会議でコリニーはこのように発言した。
「レビル派閥は頭数だけは多い。連邦の主力はベルファストからのレビルだと思わせて、ペキンとエデンからの侵攻が本命とはコリニー大将も人が悪いですな」
「ワイアット君の切り札があってこそだ。子供達の調整はどうなっているのかね?」
ワイアットは紅茶を飲みながら、質問に答える。
「完璧に調整出来たのは4人のみです。他の者は過剰投与で廃棄処分となりました」
「4人もいればジオンを潰すなど簡単なことだ。それにアルビオンも最前線に投入する。「死神」など投入しなくてもジオンが可哀想であるな」
そして醜い笑みを浮かべる。
「万が一の際は、「死神」を投入しレビルを抹殺させるということでよろしいですな? 彼女はペキンでの実績がありますし」
「あくまでもジオンの攻撃だ。そこはぬかるな」
一方、レビルは上層部の思惑に気づいていた。自分達が完全な捨て駒であること……それでも部下達を食わせるには軍に従うしかない。だがベルファストへと移動する直前、ジオンのスパイが接触を試みた。
「わざわざ敵の本拠地に乗り込んで来るとはな。何の用だ?」
「ギレン様からの伝言を預かっております。[ジオンは貴方達全員を受け入れる準備がある]と」
「ほう、ルナツーでのギレン殿の話が本当になるとは……しかし、部下の意見なしには決められん」
開戦直後、ルナツー艦隊はほぼ壊滅状態となった。その相手からの提案となれば反対意見が出るのは当然のこと。それでも魅力的な話に変わりはない……どうするのが正しいことなのか考えあぐねているようだ。
「この話に乗っかるとして、ジオンにとって利益になるのかね」
「我々は東西に戦力を分散させなくて済みます。それにギレン様からの伝言はもうひとつございます。[受け入れの見返りとしてベルファスト基地の配置と様々な情報]を求めております」
「さすがはギレン殿だな。わかった、こちらで検討させてもらう」
「猶予はオデッサ攻略が始まる1日前です。吉報を期待しています」
スパイは音を立てず、部屋から消えた。レビルはすぐにティアンムや高官を会議のため召集した。その会議は議論が加熱し、短時間で決められるようなものではなかった。会議は1度お開きとなり、ベルファストへの移動準備に入る。
そして数時間後、レビル率いる約40万の兵力がジャブローを出発した。
オデッサ基地・司令部
オデッサ防衛戦開始予想時刻まであと48時間。様々な情報を掴んでいた僕は連日に渡り指揮権を持つ者を集め、対策を協議していた。
「連邦軍のMSには相手の行動を予測し回避及び攻撃を行うシステムが搭載されている。そして先日ペキンに現れた通称[死神]。こいつに搭載されている[ハデス]なる詳細不明のシステムによって、トップ大尉は討たれた。その[死神]と同型が計4機、今回の作戦に投入されると予測される。今回の戦闘は苛烈になるだろう」
ペキンでの一件はジオンに衝撃をもたらした。それまで後手後手だった連邦軍が我々と対等以上のMSを量産しているという事実を突きつけられたからだ。
「トップ大尉からの情報では[ハデス]を起動した奴は機体性能が跳ね上がったそうです。一般兵では到底太刀打ち出来ないと思われます」
ユーリの言う通りだ。たとえベテランだとしても上澄みである少数しか奴には対抗出来ないだろう。
「そうだな。そのためにガトーとマツナガ、シャア、ランバ・ラルの4人を[死神]対策として温存、出現報告が入り次第最短距離で向かわせる」
この3人なら負けることはあるまい。そして目的は……
「今回の作戦、[死神]達については撃破ではなく捕獲だ」
その言葉を聞いた瞬間、会議室内が騒がしくなる。それもそのはずだ。奴はペキン基地を壊滅に追い込んでいる。憎き敵を生かせと言われたら、不満が出るのも無理はない
「俺だってペキンを蹂躙した奴を捻り潰したいと思っていた。だが状況が複雑過ぎる。あの機体を駆るのは年端もいかない少年少女達ということが先日分かった。地球各地で誘拐された彼らはオーガスタ基地で薬漬けにされ、モルモットとして実験台にされている」
非人道的行為を見過ごすことは断じて出来ない。それは同じ思いのようで、皆も顔を歪めている。
「[死神]を運用しているのは地上軍司令グリーン・ワイアット大将、そしてそれを統括しているのが現連邦軍トップのジーン・コリニー大将だ。連邦軍腐敗の原因であるこいつらを叩かなければ、戦争に終わりはないだろう。そしてオデッサ攻略は連邦地上軍にとって総力戦だ。必ずやワイアットは出てくる。今回の目標は侵攻部隊の壊滅とワイアットの殺害、そしてペキン奪還、ベルファストの攻略だ」
地上軍はほぼ全ての戦力を投入しているはずだ。そのため数少ない連邦軍基地は手薄になっている。窮地こそ最大のチャンスと捉え、ジャブロー攻略への最後の1手を打つのだ。
「ベルファストについてはガルマが指揮を取り、オデッサ防衛戦と連動して動く。ペキンは侵攻する連邦軍を撃破した部隊から順次奪還を開始する」
「戦力配置はどのように?」
「ペキンルートはサイクロプス隊、マドラス・エデンルートにはフェンリル隊を伏兵として配置している。敵の侵攻が確認でき次第ユーリ率いる本隊を2つに分け対応する。ベルファス卜からの侵攻は俺が残りの部隊を率いて対応する。予想では連邦の戦力はこちらのほぼ倍だが、臆することはない。地の利はこちらにある上、練度は比較にならないほど高い」
オデッサ地域は平地が多いため見渡しやすい。連邦から見れば簡単に侵攻できるように見えるだろうがこちらも同じだ。そして侵攻を見据え、秘策も用意してある。
「防衛作戦開始まで残り48時間を切っている。今のうちに休息を取り、戦闘に備えてほしい。以上だ」
同日夜、ギレンから連絡が入った。
「そうか、レビル殿は決断なされたか」
[ああ、徹底抗戦を主張する者もいたそうだが最終的には合意出来たそうだ。戦闘には参加出来ないが、補給品などは支援してくれる]
ベルファストルートに主力部隊を置かなくてよいとなれば、8割程は東に戦力を回せる。それは数の不利を少なくし、果ては勝利へと繋がるだろう。
「ベルファスト攻略の方はどうなりそうだ?」
[レビル殿からベルファストの戦力配置及び基地の情報が送られてきた。既にガルマには共有済みだ。こっちはガルマに任せていい]
「そうか。今回連邦を退ければ、勝利への大きな1歩となるだろう。必ずや連邦を撃ち破る」
力強く拳を握りこみ、ペンを折ってしまった。死んでいった者達のためにも勝利しないといけないのだ。
[ドズルよ……あまり無茶はしてくれるなよ。連邦には後がない、どんな戦い方をしてくるのか分からんぞ]
「ああ、分かっている。兄貴、そう心配するな」
笑みを浮かべ、通信を切る。連邦のやり方は知っているつもりだ……最悪は想定している。
そして迎えた侵攻予想時刻、オデッサの東において潜伏中の2つの部隊より通信が入った。
[ペキンより連邦軍の主力と思われる部隊を捕捉! 予想より数が多い模様。前衛にはサイド7より脱出した部隊を確認]
[マドラスより侵攻中の部隊を捕捉、こちらも予想の1.5倍はいるものと思われます]
報告を聞いた僕は全部隊に指示を出す。
「全部隊に告ぐ。連邦軍の侵攻が確認された。これより全力で奴らを阻止せよ」
大戦の行く末を決定させる一戦が幕を開ける
一年戦争が終わった後の戦乱
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