[フェンリル隊から敵部隊の位置データ来ました! ]
オペレーターからそう通信が入る。
「分かりやすくまとめてある。良い仕事だ」
機体へと流れ込んできた情報に目を通し、男は語った。腹ごしらえのパンを噛りながら、片手で座標入力を終える。
「お前ら、初めての大仕事だ。気合い入れろよ」
その言葉と共にMSの背部から折りたたんであったカノン砲が展開される。隊長機の周りには同型機が50機配置されており各々が砲撃態勢に入った。
「砲撃.開始!」
号令と共に、砲口が激しく火を噴いた。勢いよく放たれた弾丸は敵部隊目指して、空を翔けていく。男は指でリズムを取りながら着弾までの時間を数える。
「5.4.3.2.1.ドーン!!」
[砲弾、敵部隊へ全て命中を確認。次の位置座標を転送します]
男が数え終わると同時、オペレーターから通信が入った。直ぐに座標を入力し、発射態勢に入る。煙を排出し終えると次弾を装填し、直ぐに再び砲口が火を噴く。
[全弾命中を確認、敵部隊左右に展開し始めました。順次座標の更新を行います]
ヨーロッパのジオン勢力圏から東に100キロほどの高台、そこにはアンリが束ねる遊撃軍の砲撃大隊が陣を構えている。大隊を構成しているのはソロモン製長距離砲撃用MSザメルだ。ギニアス主導で様々な機体及びパイロットデータを元に開発され、680mm口径にも関わらず抜群の命中精度を誇っていた。脚部にはホバーが取り付けられ、迅速な作戦行動が行えるようになっている。そんな機体を駆る彼らの役割はフェンリル隊と連携した敵の足止めと戦力の把握である。
「オペレーター、索敵データは随時司令部と共有出来ているか?」
[はい、既にユーリ中将の部隊が動き始めたそうです]
「なら若い狼も動き出す頃か。だが奴らだけに任せるのは荷が重すぎる、こちらも最大限の支援を行うぞ。各自、場所を移動しながら砲撃を続行だ」
彼らはその巨体に似つかぬ速度で次の砲撃地点へと移動を開始した。
時を同じくして、マドラス・エデン方面から侵攻していた連邦部隊は混乱の中にあった。敵は見えないのに、味方は撃破される。兵たちの恐怖心は想像に容易い。
「敵の位置はまだ割り出せんのか! こちらはビッグトレーだけでも2両もやられてるんだぞ」
ライヤー少将が声を荒らげる。正確無比な砲撃により、部隊は少なくない被害を受けていた。だがこちらは一向に敵を補足できないのだ。彼には苛立ちだけが溜まって行く。
「それが.先ほどから哨戒機による捜索を行っておりますが見つかる気配はありません。長距離からの砲撃と考えられますが、いかがしますか?」
部下の問いに、彼は地形図を睨みながら答えた。
「戦車隊をここで展開、航空隊と共にこのまま前進させろ。MS輸送部隊は右手にある渓谷に沿って一列で進ませる。ミノフスキー粒子と煙幕を張れ」
その決断に、ブリッジ要員からは懸念の声が上がった。まだ目標のオデッサからは距離がある。ここで戦車を展開すれば、見殺しにするようなものだからだ。
「しかし、敵が見えない以上安易に部隊を分けては.」
「黙れ、所詮戦車や航空機など時代遅れの産物だ。囮にするくらいがちょうどいい。命令に従えぬというならここで処分してもいいが、どうする?」
そう言うと、反対意見を出した若者に銃を向けた。その顔には笑みが浮かんでいる。
「…分かりました。すぐに指示を出します」
「それでいいのだ、貴様らは憎きジオンのゴミ共を一掃し、ジャブローのモグラに泡を吹かせるための道具に過ぎん」
数分後、雨のような砲撃に晒される中連邦部隊は煙幕の中へと姿を消した。
一方、ペキンを出発したワイアット率いる攻略部隊はサイクロプス隊の仕掛けた巧妙な罠によって侵攻を妨げられていた。煙幕にダミーデコイ、チャフなど少数精鋭ならではの方法で翻弄する様はまさにベテランのゲリラ上がりといったところだろう。さらにはワイアットが長距離狙撃を警戒し、低空飛行をしていたことが仇となった。
「ワイアット大将、敵の対処はいかが致しますか?」
部下に意見を求められたワイアットは紅茶を置き、腕を組んで考える。
「この陰湿な罠の配置からして恐らくは少数の部隊だろう。放置しても問題はないが、後々尾を引くことを考えると今のうちに潰しておくべきだ。第1~第6小隊を出撃させ、敵を殲滅させよ。我々は速度を1/3に落とし、待機する」
ワイアットの言葉を聞いて、艦長は指示を出した。
「承知致しました。[こちら旗艦アルビオン、第1~6MS小隊は直ちに出撃し、潜伏している敵を殲滅せよ]」
数分後にはペガサス級から続々とMSが降下を開始する。だがその直後、予期していたかのように地上から複数の弾頭が放たれた。それは降下中のMSに向けて正確に飛んで行き、MSの降下進路と重なるところで命中する。後を追うように次々と飛んでくる弾頭に対し、十分な迎撃もできず蹂躙されていくMSのパイロットは恐怖心に包まれていただろう。アルビオンのブリッジからも惨劇は見えている。
「出撃した小隊、全滅です!敵は無誘導の弾頭を正確に当てた模様」
「ふむ、想像の数倍厄介らしい。彼らは艦船には一切手を出さず、時間稼ぎに徹している。全力で潰されるのが分かっているからだ。さてどうしたものか...」
ワイアットは考えを巡らせる。ここで時間を使えば、オデッサ基地から離れたところで主力とぶつかる可能性がある。それは一番避けなければいけない。
「幸いもう少し飛べば平地だ。そこまで最大船速で抜けよう」
部隊が船速を上げた。数分も飛べば罠など設置できない平地へと出られる。だがワイアットの行動はサイクロプス隊のシュタイナーにとっては予測の範疇だった。不敵な笑みを浮かべ、連邦の船団を見送った。
「おいおい、どうなってんだ! 雑魚しかいねぇぞ」
熱源レーダーの反応を見て、そう声を上げたのはマット中尉である。フェンリル隊は連邦の索敵網に引っかかることがないように一定の距離を保っていた。しかしそれが仇となり、煙幕に隠れた本隊を見失ったのだ。
「落ち着け、マッド中尉。ニッキ、貴様はこの状況をどう見る?」
「あれだけの大部隊が突然姿を消すなんて到底考えられません。ミノフスキー粒子が散布されている点からみても連邦が何かを仕掛けたのは明白です。付近の地形から察するに、渓谷辺りが怪しいのでは」
想像していたよりしっかりとした返答にル・ローア大尉は面食らった。
「新入りのくせになかなか洞察力がある。だがまずは目の前の敵を片付けるぞ。戦車や航空機といえど数がいるとなれば驚異だ。各自、熱探知を使いつつ攻撃せよ。だが間違っても撃破してはならんぞ」
部下に命令すると同時、ローア大尉は愛機のグフと共に崖を滑り降りる。それに続いて他のメンバーも崖を下り、武器を構える。刹那、銃口から弾丸が連続して発射された。それはいとも容易く戦車の装甲を貫いていく。煙幕の中といえどフェンリル隊の連携が崩れることはない。一方の連邦軍は背後からの攻撃に面食らってしまう形となった。それでも必死に抵抗を試みる戦車部隊であったが、数では勝っていても性能差を埋めることはできない。
「そんなぬるい攻撃当たらねぇなぁ!」
マッド中尉が強引に愛機の姿勢を反らした。直後、61式の砲撃が頭上を通り抜ける。直ぐにお返しとばかりにマシンガンを浴びせる。この時点で戦車隊は全体の3割に当たる150両以上を喪失していた。辺りに破損した車両が増え続けている中、ニッキはローア大尉に話しかける。
「煙幕の中とはいえ、やけに反撃が少ないと感じませんか?」
「当然だろう。戦車隊や航空機は航続距離が短い。それがオデッサからこうも離れた場所で降ろされたとなれば、兵士たちも察するだろう。[
その言葉にニッキは驚く。彼は連邦が部隊を分けた理由は自分たちの尾行が露呈したからと思っていた。だが現実は違ったのだ。
「こちらは戦闘開始直後から降伏せよとの通信を出している。だがそれに応じないのは軍人としてのプライドが邪魔をしているからかもしれんな」
「えっ」
ニッキは言葉を失った。戦闘開始時の大尉の発言の真意をやっと理解したからだ。
「先ほどから61式を撃破ではなく損壊させ、兵を脱出させているのは保護のためですか?」
「その通りだが、まさか少尉は俺の事を殺戮マシーンかなにかと誤解していないよな?」
「いえ、そのようなことは...」
「この戦争、倒すべきは連邦軍全体ではない。敵を見誤れば早死するぞ」
通信機越しではあるが、ニッキは大尉の声に覚悟を感じ取る。
「りょ、了解です」
その時、ニッキの耳がわずかな音の変化を捉える。それは一瞬だったが、彼に懸念を与えるには十分だった。
「この音は...各員、上に注意を!」
ニッキが通信を入れた直後、頭上から爆弾が落ちてくる。味方の犠牲を気にしない一部の爆撃機が無差別攻撃を開始したのだ。仕方なくフェンリル隊は散開し、降り注ぐ爆弾を避けていった。いとも簡単に避けられた爆弾は目標を失い地上へと到達し炸裂する。だが、ジオン憎しと投下した爆弾はフェンリル隊に有利に働いてしまう結果となる。爆風が溜まっていた煙幕を一緒に吹き飛ばし始めたからだ。数分が過ぎた頃には煙幕が散り、視界は抜群になっていた。
「索敵の障害はなくなった。シャルロッテ、敵本隊の予想進路を砲撃部隊へ送ってくれ。それとユーリ中将の本隊にもだ」
状況を見て、ローア大尉は隊司令車両にいるオペレーターに指示を出した。
「分かりました。渓谷の地図と予想進路を送信します」
戦車や戦闘機の航続距離は短い。ある程度の損害をもたらした以上脅威にならないと判断し、撤退の命令を出す。
「我々はこのままマドラス基地へと向かう。各個に離脱、ザンジバルへと向かえ」
「「了解」」
一年戦争が終わった後の戦乱
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