元プロバレー選手は、本気でバレーをしない! 作:turara
「今日、高校生が来るらしいぜ。」
そう話すのは、大学生3年生の佐竹という人物だ。彼は、なかなか上手いアタッカーである。高身長で、動きも柔軟である。俺とは仲が良く、休憩時間良く一緒に話している。
「へー。そうなんだ。」
「めっちゃ上手いらしいよ。あの強豪校、青葉城西のセッターらしい。」
俺は、ドキリとする。青葉城西のセッターと言えば、うちのクラスメイトの及川だろう。同じクラスメイトとは言え、あまり仲がいいわけでもない。俺はどちらかと言えば、教室の隅で窓を眺めている奴なので、なかなか系統が違う。彼は、クラスの中心的存在だ。その容姿からしてもクラスの人気者なのは頷ける。
恐らく、フードをしてマスクをつけてれば、ばれることもないだろうが色々心配である。
ただ、決して苦手というわけではない。関わることが少ないと言うだけで、むしろ俺は好感を持っている。バレー好きに悪い奴はいないからだ。
「でも何で?」
「さあ。社会人チームに坂出さんているだろ。あの人の知り合いらしい。」
「ふーん。」
俺は、サポーターを付けたりシューズをはいたりと準備しながら佐竹と話す。
準備が終わり、コートをたてていると及川らしき人物と坂出さんが体育館に入ってきた。
俺は、無意識にフードを深くかぶる。
及川は、セッターとしての技術は飛び抜けている。恐らく社会人チームにはいるから俺と同じチームになるかもしれない。
俺は、避けた方がいいか。と思いながらも、一緒のチームで彼のトスをうってみたいという欲望もあった。背が小さいがアタッカーとして、セッターという存在は特別である。良いセッターの球に惹かれないアタッカーはいない。
俺は、余ったところに適当にはいるか。と流れに任そうと計画していると、少し声がかかる。坂出さんだった。コイコイと手招きをしている。恐らく及川に俺を紹介するつもりなのだろう。
俺は、どうしようかと思いながらも渋々坂出さんの方へ近づく。
「田中君。」
そう呼ぶ坂出さんの横には及川がいた。及川は、俺のほうをにこやかな笑顔で見ている。少し興味深そうな目でもあった。
「やあ。田中君。今日、社会人チームとして入る及川君だ。多分君たち同じチームじゃないかなと思ってね。」
坂出さんは俺にそう紹介する。
俺は坂出さんのほうから目線をはずし、改めて及川をみた。
「どうも。田中です。」
ぺこりと頭を下げ、俺はそう簡単に挨拶する。
無愛想な俺とは逆に、及川は人懐っこい笑顔で俺に手をさしのべる。
「青葉城西高校の及川です。今日はよろしくお願いしますね。」
差し出された手に、俺も慌てて手を出す。彼の手はバレー部特有の固くしっかりとしていた。
「彼は、俺たちのチームのエースなんだ。めちゃくちゃうまいんだぞ。」
坂出さんは、そう及川に紹介する。そして俺の背中をバンバンとたたく。
「坂出さん。ハードルあげないでください。」
俺は調子の良いことを言う坂出さんにそう注意をする。過度な期待は迷惑である。
「へー。ポジションはどこになるんです?」
及川はそう興味深そうに聞く。坂出は俺のことをエースといったが、まさか本当に前衛のレフトだとは思わなかったのだろう。俺の背は全くアタッカーには見えないからである。
「一応、前衛レフト。アタッカーですよ。」
俺は、セッターとしてがっかりさせるのではないかと思ったがそんな事はないようだった。
及川は最初は、意外そうな目をしたが、すぐに挑戦的な目になった。どうやら面白がっているようだ。
「へえ、いいですね。知っているかは分かりませんが、俺、セッターなんです。」
俺は、知ってるよ。と思う。しかし及川は、俺の身長を見ても、ちゃんとアタッカーとして見てくれているようで少しうれしく思った。俺を知らない奴は、俺がアタッカーだというと、無理だろう。という顔をしてくるからである。
「俺の身長で、変に思わないのです?」
俺は、思わず及川にそう問う。しかし、及川は、全く偏見を持っていないようだった。さも当然のように即答する。
「思いませんよ。俺の身近にも、身長の低い怪物アタッカーがいるんで。」
俺は、少しうらやましく思う。及川をここまで言わせるアタッカーがいるからである。そして、その彼はどうやら俺と同じく身長が低いようだ。
「良かったです。俺の身長だとそう思われることが多いので。」
そう言うと坂出さんは、自慢気に答える。
「そうだよなあ。それで試合が始まった瞬間、田中君の凄さにみんな驚くんだよ。」
「だからやめてください。坂出さん。なんどいったら分かるんです?」
俺はうんざりしながらそう怒る。何故かここの人達は、俺のことをさも自分のことのように自慢気に紹介するのだ。紹介されるこっちのみにもなってほしいもにである。
「いやー。駄目だね。つい自慢したくなるね。」
坂出は、「ははは」と笑いながら頭をかく。
俺はそれを白い目で見つめた。
及川も愛想笑い程度に笑う。そして改めて、俺の方を見て質問する。かなり核心をつく質問にドキリとする。
「暑くないんです?そのフード。」
俺は、なんて答えようか迷っていると、坂出さんが代わりに答える。
「田中君は、一年中その格好なんだよ。僕たちもなに聞いても答えてくれなくてね。」
俺は、頷く。及川は、理解出来ていないようだったが、触れてはいけないことのような雰囲気を感じ取りそのまま引き下がる。こういうところは、流石にコミュ力が高いなと感じる。時々、不躾にしつこく聞いてくる奴もいるからである。
「それよりなんでここでバレーしに?」
及川は、俺に答える。
「坂出さんが紹介してくれたんです。なかなかレベルの高い試合するときいて、大学のバレーも経験してみようと思ったんです。」
「へー。そうなんだ。」
何だかんだ話しながら準備をしていると、そのうち準備も終わってしまう。メンバーもだいぶん集まってきた。どうやら、試合を始めるようである。
「今日はよろしく。」
いつの間にか敬語もとれてしまい、俺は及川にそう声をかける。俺は、及川が気に入ってしまったみたいだ。