元プロバレー選手は、本気でバレーをしない!   作:turara

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珍しい

 俺は、大学生チームの一人と交代し、真ん中に入った。

 

 俺は首を回す。そして軽く屈伸し、少しジャンプする。

 

 今日は体が軽い。

 

 俺は自分でもテンションがあがっているのがわかった。そして、アタックをうつより、及川のサーブをカットしたいという気持ちが上回っている自分に少し驚く。恐らく、誰も出来ないことをやって見せたいという欲求が強いのだと思う。

 

 かつての俺も、アタッカーとして誇りを持っていたのは、誰にでもとることの出来ないスーパーアタックを決めたときの瞬間が忘れられないからである。

 

 結局、俺は何らかの形で、他人を認めさせたいのかもしれない。それがかつてはアタックであり、俺の誇りだった。

 

 思ったより単純な思考回路に自分でも苦笑する。

 

 俺は、コートに入り、軽くボールをさわる。手にすいついてくる感じが何ともいえず心地よかった。

 

 コートの中には、後からきた大学生が次の試合を待っている。さっきの試合に入れなかった分、やる気がすごい。彼らも物珍しい高校生に興味があるようだった。

 

 

 「やっぱり、強豪校の主将とあってつえーな。」

 

 「だな。でも、このまま負けるわけにはいかねーよ。」

 

 

 大学生はそう話す。しかし、大学生も高校生に易々と負けてられないようでやる気を見せている。俺は、コートで話している数人に声をかける。

 

 「俺、守護に回るから攻撃に専念していいよ。」

 

 俺はフードの端をさわりながらそういう。大学生は、いつも俺がうつといって聞かない田中がこういうことを言うのは珍しいと少し面食らう。

 

 

 「へー。珍しいな。田中がそんなこと言うなんて。」

 

 俺は、少し照れ、フードを深くかぶる。

 

 「別に。珍しくねーだろ。」

 

 

 そう、そっぽを向く俺をおもしろく思ったのか、ここぞとばかりにからかってくる。

 

 

 「いや、珍しいって。いつも、『俺うつ俺うつ』っていって聞かねえのは誰だよ?」

 

 

 「いってねーよ。いつもカットだってちゃんとしてんだろ。」

 

 俺が少し不機嫌になったのを感じ取ったのか、もう一人の大学生が苦笑しながら言う。

 

 「まあでも、田中が守備に入ったら正直怖いものなしだな。」

 

 

 そいつは、俺の頭を叩く。背が低い分、俺はこうやって体を触られやすいみたいだ。社会人チームの人にしても、俺をいくつだと思っているのか。

 

 

 「てことは、田中リベロにはいんの?」

 

 「・・・ああ。」

 

 ほかのメンバーは驚愕する。まさか、守護にまわるとは言え、アタックをうつことが出来ないリベロになるとは思っていなかったからだ。

 

 田中は、これまで一度もリベロにはいったことがない。頑なにアタックに拘る田中がこんなことを言うなんて、本当にあり得ないことだ。ほかのメンバーは、田中がリベロという概念を持っていたことにすら驚く。

 

 「本当に、リベロはいんのか?てか、動きわかんの?」

 

 メンバーは、困惑気味にそうきく。

 

 俺は、失礼な奴らだとつんけんして答える。

 

 「当たり前だろ。リベロぐらいやったことあるよ。」

 

 メンバーは、怪しげな目で俺を見つめる。

 

 田中が、カットに秀でてることは、普段のプレーからよくわかる。どれだけいいコースを決めても、わかっていたかのように簡単にとってしまう。サーブカットも田中にうつと大体Aカットされるのが目に見えている。

 

 正直、アタックうつよりカットに専念してくれと何度思ったことか数え切れない。田中は、アタックに拘っているようだが、圧倒的カットのセンスに溢れているのは誰の目で見ても明らかだった。

 

 だからこそ、今回の田中の発言には困惑したし、どうなるのかという期待も勿論あった。

 

 天才的なカット力を持つ田中にバックを完全に任せるなんて、鬼に金棒だろう。攻撃するがわからしたら、バックに絶対返してくるトランポリンがあるようなものだ。

 

 ほかのメンバーは、思わぬ展開に興奮を隠しきれない。「田中がリベロだー!」とテンションがあがっている。

 

 

 

 俺は、大袈裟だな。と少し照れる。そして、そこまで俺に守護へまわってほしかったのかと呆れた。

 

 「まあ、だからバック安心して。」

 

 俺は、ぼそりとそういい、バックへ戻る。他のメンバーは、田中のその言葉ほど安心できるものはないと心の中で強く思う。

 

 大抵、田中と戦うときは、力のバランス上、大学生チームの敵になることが多い。相手チーム最大勢力の敵が自分の見方に、そして、カットにまわるという発言を聞き、彼らはテンションがあがりっぱなしである。

 

 

 「田中が守護か・・・。こんな日が来るなんてな。」

 

 一番、年上の大学4年生は涙ぐましく俺を見ている。

 

 俺は、正直いたたまれなかった。ただ、リベロにまわるといっただけで、この大袈裟な反応は何だと苛つく。

 

 

 「見てんじゃねー!」

 

 俺は、物珍しげにみるメンバーにそう一喝する。するとメンバーも笑いながら、それぞれのポジションへ散らばっていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


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