元プロバレー選手は、本気でバレーをしない! 作:turara
授業のチャイムが鳴る。俺は、けだるげに体を起こし次の授業に目を配る。次の授業は・・・・・「体育」だった。
体育の授業で何をしているのか。それはずばり「バレーボール」である。これは、俺にとって嬉しいことか、都合の悪いことかと聞かれれば、40対60で都合の悪いことに分類されるだろう。めんどくさい授業を受けなくてもよいが、そのめんどうな授業に匹敵するほどのめんどくさい事案が追加されるからである。
及川徹、岩泉一などというバレー部のやつと一緒にバレーをしなければならない。これは、大きな問題だった。
バレーボールの授業は約三か月間。授業が始まった当初、俺には二つの選択肢が用意されていた。手を抜いて、俺がバレー経験者だと悟られないようにする。または、普通に、俺の実力を隠さずバレーをする。この二つである。どちらを選んでも面倒になることは、手にとるようにわかる。
しかし俺が、何のために姿を隠して大学でバレーをやっているのか。そのことを考えれば容易に出る結論だ。もし、実力がばれてしまえば俺は、バレー部から熱烈な歓迎を受けるに違いない。これは、うぬぼれでも何でもない。冷静に次何が起こるかということをあらかじめ考えておかないと、のちに困るのは自分である。とにかく、あえて自分から晒すようなことは避けたほうがいいだろう。
というわけで、俺は渋々、体育館へと訪れた。クラスメートは、よほどの運動音痴でない限り、バレーを楽しんでいるだろうし、俺だけ背負わなくてもよい心身的負担がある分うんざりする。みんな、嬉々として、バレーコートを立てていた。
「ずいぶんやる気なさそうだな。」
そう声をかけてきたのは、俺の親友の松村だ。こいつは陸上部で、なにかと面倒見のいいやつである。
「別に。そうでもないけど。」
俺の不貞腐れた態度を何か敏感に感じ取っていたようである。俺は、うまく隠していたつもりだったのでどきりとする。
「お前、運動神経悪くなかったよな。つーか、陸上部の俺相手に100mをガチで勝とうとする奴なんてお前ぐらいだけどな。」
俺は、ネットのひもを結びながら「ふんっ」と鼻を鳴らす。
「いや、あれはお前が挑発してくるからだろ。」
そうつっかかると、松村は、笑いながら言う。
「いやだって、お前が本気で体育してるとこ見たことなかったからな。というか、陸上部のコーチと話してたんだ。なかなかいい筋肉のつき方してるなって。コーチが、『あれは走らせれば中々早いぞ』っていてた。」
俺は、松村の言葉に反応しさっと足の筋肉を見る。そして、俺は眉をひそめた。夏でさえ足を隠せって俺に要求するのか。どれだけ不自由なんだ。
「・・・・くそ。もう絶対、次からは長ズボンにしてやる。」
松村はそんな俺の様子を見て、面白がっているようだ。いろいろとからかってくる。
「なんで?いいじゃん。体育で活躍すれば女の子にもてるかもよ。」
「別に、もてたいとか思わないし。」
というか、この身長では相手にされないだろう。キスするとき、相手と程同じ身長なんて嫌すぎる。
「でも、お前って意外と人気あるよな。身長小さくて可愛いって言われてたけど。」
松村は、俺を励ますつもりで言ったようだが、それは逆効果である。可愛いなんて言われてうれしいと思う男子がいるのか。いるわけがないだろう。
「可愛い?俺がそれで喜ぶと思ってんのか?」
そう睨みつくと、松村は、「悪い悪い。」となんの悪げもなく言う。思うが、俺のことをからかって面白がる奴が多すぎではないだろうか。全部、この身長が悪いに違ない。ちびというのは、何かと舐められやすい存在だ。やっぱり恨んでも恨み切れないのがこの身長である。
無事コートを立て終わり、松村と話していると、先生から号令がかかる。俺は、足取り重く集合した。
「じゃあ、とりあえず二人組を組んでパスな。3分ずつで、トス、アンダー、最後は軽くアタック混ぜながら適当に体あっためて。ペアは自由って言いたいけど、毎回おんなじだとつまらんしな。あんまり絡んだことのない奴とペアになって。じゃあ、始め。」
先生にそう言われ、みんなバラバラに動き出す。俺は、どうしようか。とあたりを見回す。大体松村と組んでいたので、今回はそういうわけにはいかない。
田中誘うか。
俺がそう思い、田中の姿を探していると、不意に後ろから声をかけられた。なかなか、聞き覚えのある声に嫌な予感を感じながら振り返る。
案の定、及川だった。
「一緒にやらない?まだ、組んだことないよね。」
及川は、相変わらずの笑顔で俺に言う。
「・・・・まあ。」
俺は、冷静さを装い、頭をフル回転させた。ここで断るべきか否か。松村相手でさえ本気を出していなかったことがばれていたのである。バレー部の及川にばれず、初心者のふりをすることができるのか。・・・・・無理である。きっと無理だろう。
悶々と悩んでいると、及川は、俺が承諾したと思い込みボールを取りに行ってしまった。
「ちょっと待っ。」
冷や汗で、どうしたものかと焦る。ふと目を向けると田中の姿があった。田中は、俺を見て、なんだ?という顔をした。
俺は、慌てて田中のほうへ近寄る。
「田中。お前はボッチでかわいそうだな。俺のペアに入れてやるよ。」
田中の背中をさすると、田中は怪訝な顔をする。
「誰がボッチだ。普通にペア決まってるんだけど。てか、お前も決まってんだろ。」
田中は俺を誘おうとして、及川に俺が誘われているのを見ていたらしい。
「三人のほうが面白いだろ?」
必死にそう訴えると、田中のペアがボールをもってこちらに近寄ってくる。
「あれ、田中と組みたい感じ?」
田中のペアが、俺に気を使ってそう聞くと、田中はぺっと俺を追い払う。
「別に。やろーぜ。」
「おい」
俺の制止も聞かずに田中は、すたすたといってしまった。
・・・やるしかないのか。
俺は、緊張の面持ちで、及川のほうへ目線を配った。