EXCITE 〜ソード・ライダー・オンライン〜 作:春風駘蕩
「うわあああ⁉︎」
「きゃああ⁉︎」
宙を舞ったユウキとアスナが、樹々をへし折りながら地面に落下する。
強烈な一撃を受け、二人の胸のHPバーが大きく減少し、危険を示すオレンジに達してしまう。
シノンは唖然としながら、吹き飛ばされた二人と、彼女達を撃った敵―――鋼色の装甲に身を包んだ、ロボットのような異形の兵士を見上げる。
「何よあいつ…⁉ あれ……フクロウじゃなかったの…⁉」
『クックっクック…! ようやく出て来れたぞ……』
右腕と合体した銃をさすり、フクロウの姿から変化した異形の兵がそう呟き、金属音を響かせて歩き出す。
その進行方向上に転がったユウキは、姿を現した敵に目を見開き、慌てて体を起こして身構える。
「あれは…! たしか、バンバンシューティングの敵キャラ……リボル隊長…! 今度はシューティングゲームか……!」
『さぁ……戦争を始めようか、ふんっ‼』
愉しげに告げると、異形の兵は右腕を構え、凄まじい連射で銃弾を発射しユウキ達を襲う。
ユウキとアスナはすぐさま左右に飛び退き、銃弾の嵐を躱す。そして走り出し、双方向から異形の兵に向かう。
だが、異形の兵は一切怯む事なく、それぞれに同じ数だけ発砲し、二人が攻撃できる一定範囲への侵入を許さない。
「うわわわわわわ⁉︎」
「くっ…近づけない!」
『我が銃に隙などない! 諦めて蜂の巣になるがいい!』
異形の兵は高々と嗤いながら、右腕の銃口から火花を散らし、教団を次々に撃ち出す。
何とか接近しようと、樹々を盾に身を隠すユウキとアスナだが、異形の兵の感知能力は凄まじく、武器を振る隙さえ与えてはくれない。
その上、樹々は次々に破壊され、見る見るうちに隠れる場所がなくなっていった。
「ユウキ! アスナ!」
「ほらほら……お友達が危ないぜ、ハッハッハ!」
攻撃を避け、逃げ回る事しかできない二人を案じる声を上げるシノン。
そんな彼女を嘲笑い、戦いの様子を愉しげに眺めるPohのいやらしい声が、戦闘中の二人にも届き冷静さを失わせる。
このまま、全員されるがまでしかいられないのか、とシノンの表情が曇ったその時だった。
「―――脇がガラ空きだぜ、レッドプレイヤー」
不意に、シノンの背後で聞きなれた声が響き、続いて突然Pohが真横に跳び退る。
はっと目を見開き、振り向けば、草叢から飛び出したキリトが剣を振るい、Pohに襲い掛かる姿が目に映った。
「キ、キリト…⁉︎」
「悪い…! 遅くなった」
困惑するシノンを背に庇い、キリトは不敵に笑ってから、再び剣を構える。
キリトの間合いから離れたPohはちっと舌打ちをこぼし、キリトを見やってなおも口角を上げる。
しかし、フードの下から覗く目は憎々し気に歪んでおり、不意を打たれた事への焦りと悔しさが滲んで表れていた。
「チッ…! 不意打ちとはやるじゃねぇか、ぶっ飛ばされたのはわざとか?」
「ああ…! 油断してくれると思ってな! ありがとよ‼」
「ほざけ‼︎」
激昂の声を上げ、Pohが鉈を振りかざしてキリトに迫る。
キリトは迷わず前に出て、剣で鉈を受け止め鍔迫り合いに持ち込む。何度も刃を合わせ、火花を散らし、狂人をその場に留めさせる。
衝撃に顔をしかめながら、ぶつかり合う刃を間に挟み、目の前の男を鋭く睨みつける。
「俺にはお前の考えが理解できないよ、Poh…! 人を殺して何が楽しい…! 人の命を危険に晒させて何が面白い! こんな世界に閉じ込められて……お前はおかしくなったのか……⁉︎」
「……考えがガキ臭いんだよ、Boy.」
普通ならば考えられない凶行、至らないはずの思考、目の前にいるのが本当に人間なのかと疑うほどに、キリトの理解が及ばない。
そんな彼に向けて、鉈を押し付けたまま、Pohはにたりと深く笑みを浮かべ、はっきりと告げてみせる。
「俺は元から
「⁉︎」
ぎょっと目を見開き、言葉の意味を受け止めかねるキリト。
彼の手が緩み、危うく鉈が彼の顔面を掠りかけ、慌てて剣を盾に持ち直そうとした刹那。
バンッ、と彼らの足元に銃弾が炸裂し、激しい爆発が生じた。
『無視するなよ……お前も的だって事を忘れるな!』
「ぐはっ…!」
「あぐっ⁉︎」
爆発を間近に受け、キリトとシノンが一緒くたに吹き飛ばされる。ゴロゴロと地面を転がり、HPを削られながら、樹の幹に激突して彼らはようやく止まる。
Pohもまたその衝撃を受け、体勢を崩していたが、大した傷を受ける事なく、その場に留まっていた。
「ちっ、あのデカブツめ……俺を巻き込んでんじゃねぇよ」
哄笑をあげ、好き勝手に銃弾を撃ちまくる異形の兵に向け、Pohは忌々しげに顔を歪める。
だがすぐに不気味な笑顔に戻ると、直撃を避けようと奮闘するユウキとアスナ、頭上を飛ぶ銃弾に身を伏せるキリトとシノンを見やる。
「まぁいい……せいぜいそいつらで遊んでいてくれよ。ハッハッハッハッハ!」
「お前…! 待て……!」
凶弾に狙われる少年少女達を置き去りに、闇の中に消えていくPohにキリトが声を上げるが、目の前に銃弾が炸裂し、また吹き飛ばされる。
呻きながら顔を上げ、狂人の姿を探すも、既に跡形もなく悔しさに拳を地面に叩きつけるばかり。
そんな彼に、異形の兵による銃弾の嵐は容赦なく襲い掛かった。
「くぅっ…!」
「シノン! この……どけよお前‼︎」
何とか助けに行こうと藻掻くユウキとアスナだが、敵は森の中に身を潜め、姿を見せず近付く事も許さない。
真向からの戦闘を拒絶する戦い方に翻弄され、身を守る事だけで精一杯になってしまっていた。
『フハハ…! 哀れ、実に哀れ! せめて痛みなく、あの世へ送ってやろう!』
「…ただでやられてなんて、やらないんだから…!」
爆風を腕で防ぎ、耳障りな嘲笑に顔をしかめさせていたシノンは、物陰に身を潜めて憎々し気に呟く。
せめて少しでも、一矢報いる方法があれば、と最近物を入れたばかりのアイテムボックスの中を探る。
破砕音と衝撃に震えながら、トラウマに苛まれながら、必死の思いで文字を流し見ていた彼女は、やがてあるものを発見する。
「……コレって」
見つけたのは、なんとなく武器の名前とわかる名前が並ぶ中、違和感を覚える名称を持った二つのアイテム。
すがる思いでそれらを実体化させ、手にしてみた途端、暗くなりかけていたシノンの視界が、ぱっと青天のように晴れた気になった。
「シノン! 早く逃げろ! …シノン?」
「……相変わらず意味がわからない世界だけど、たった一つだけわかることがあるわ」
同じく気を盾に身を潜めていたキリトが声を上げ、様子の変わったシノンに困惑の声を上げる。
シノンはまるで、何かに背中を押されるように立ち上がり、盾にしていた木の影から姿を晒す。
そして―――手にしたベルトを腰に巻き、紺色のガシャットを片手に構えた。
「え…ガ、ガシャット⁉」
「私は―――これなら怖くない」
【バンバンシューティング!】
銃のように持ったガシャットのボタンを押した途端、響き渡る電子音声。
シノンはそれをくるりと回し、持ち手を上にすると、今も尚銃を乱射する異形の兵を見据える。
そして誰に教えられたわけでもなく、その言葉を口にした。
「変身」
【レッツゲーム! メッチャゲーム! ムッチャゲーム! ワッチャネーム! I’m a 仮面ライダー!】
周囲に浮かび上がる幾つものスクリーン。
シノンはそのうちの一つを手で押し、巨大化したそれと身を重ねる。
あっと言う間にシノンの全身は、白い装甲に身を包んだライトイエローの前髪が目立つ、ゆるキャラのような姿に変化した。
「なっ…ええええ!?」
思わぬ事態に、ユウキが何度もシノンを見ては目を擦る事を繰り返し、遂には盛大に混乱した声を上げる。
アスナやキリトも同じく絶句し、世界観を凌駕した姿を見せるシノンを凝視し、固まってしまう。
「ミッション…スタート」
周囲から向けられる視線を丸ごと無視し、シノンは片手を掲げて告げる。
その途端、シノンの周囲を光の塊が回り始め、彼女がそれを掴んだ途端、藍色の銃へと変化した。
【ガシャコンマグナム!】
「…不思議ね。持っても動悸が激しくなったりしないし、何より―――手に馴染むわ」
銃を何処か不思議そうに見つめ、表面を撫でて触り心地を確かめていたシノンは、突如表情を引き締め、異形の兵に向けて引き金を引く。
放たれた銃弾が森の中を進み、慌てて身を翻した異形の兵の真横を抜けて、樹々を粉砕する。
倒れていく気の残骸を見やり、異形の兵が苛立たしげに声を漏らす。
『虚仮脅しが……図に乗るな!』
「うるさいのよ…! その口閉じてあげるわ!」
【バ・キューン!】
今度はほぼ同時に銃弾が放たれ、互いに跳び退ってそれを躱す。
一人と一体が走り出し、それぞれで障害物に身を潜めながら森の中を走り回り、発砲し合う。
一進一退の銃撃戦に思われたが、シノンは相手の狙撃を全て躱し、己の銃弾を何発も異形の兵に食らわせていく。
何度も攻撃を受け、異形の兵も次第に焦りを見せ始めた。
『こ、このっ……小娘の分際で! なめるなといっている!』
「くらいなさい……はぁぁぁ!」
焦った異形の兵が障害物の陰を飛び出し、右腕の銃を構えたその瞬間。
シノンは彼よりも早く前に飛び出し、自身を砲弾に換えて、異形の兵の懐に突っ込んでいく。
シノンの砲弾が炸裂し、異形の兵は火花を散らし、その場から大きく吹き飛ばされた。
「うっわ、すっご…!」
「倒したのか…⁉」
『…! この程度で……倒れるものか…!』
驚愕の目を向けるユウキとキリトの前で、俺薪の破片を払い除け、異形の兵はしぶとく立ち上がる。
自身に傷をつけたシノンに対し、凄まじい怒気を燃やし、ばらばらと薬きょうを撒き散らしていきり立つ。
それを冷めた目で眺めていたシノンが、口元をにやりと歪め、鼻を鳴らしてみせた。
「上等よ…! あんたのほうこそ、蜂の巣にしてあげるわ……第弐戦術」
【ガッチャーン! LEVEL UP! ババンバン! バンババン! バンバンシューティング!】
ベルトのレバーをひっくり返し、電子音声を響かせる。
すると、シノンの全身を覆っていた白い装甲が弾け飛び、第弐の姿が露わになる。
藍色の生地にライトイエローの迷彩柄が刻まれた衣服を身に纏う、ゴーグルをつけた傭兵に似た姿。
身軽な姿へと変貌を果たしたシノンは、再び始まる銃撃の寸前、銃に備わったボタンの片方を押す。
「頭がガラ空きよ…!」
【ズ・キューン!】
すると、銃の前身が蓋のように展開し、ライフルへ変形する。
形を変えた銃を両手で構え、シノンは異形の兵の頭部に照準を定め、彼が発砲するよりも前に引き金を引く。
放たれた銃弾は異形の兵の眉間に刺さり、彼の銃弾はあらぬ方向へと飛び散ってしまった。
『くっ、調子にのるなよ、小娘…!』
憎々しげに吐き捨てた異形の兵の姿が、みるみる透明になっていく。
完全に姿を消した異形の兵に、ユウキ達がハッと息を呑み、辺りを見渡すも、敵は完全に痕跡を消してしまっていた。
「姿が消えた…⁉︎ ステルスか!」
「無駄な努力ね、見えなくたって……私には丸わかりなのよ」
何処から向かって来るのか、と武器を手に身構えるユウキ達に、シノンが呆れた口調で呟き、額のゴーグルを目に被せる。
あらゆる光を捕らえる高度なゴーグルは、光を湾曲させ、姿を消した異形の兵の姿を正確にとらえ、居場所をシノンに伝える。
シノンはにやりと不敵に笑い、敵の位置を見据えたまま、ベルトからガシャットを抜き取り、銃に差し込む。
【ガシャット! バンバン・クリティカルフィニッシュ!】
シノンの中にエネルギーが蓄積し、銃口から光が溢れ出す。
バチバチとカートゥーンチックな雷光が迸り、暗い森の中を照らし出し、ずしりと重い銃が構え直され、そして。
容赦なく引き金が引かれ、放たれた必殺の銃弾が、闇に身を潜める異形の兵士の胸を真っ直ぐに貫いた。
『ぐあああああああああああああああ‼︎』
異形の兵の胸に大きな穴が刻まれ、そこを中心に装甲に罅が広がっていく。やがて装甲の隙間から光が漏れ出し、バキバキと嫌な音が鳴り始めたと思うと。
次の瞬間、異形の兵は断末魔の悲鳴をあげ、真っ赤な炎を噴き上げて爆発四散する。
闇を照らす大きな光の中、ユウキ達は困惑の表情のまま、ホッと安堵の息を吐き、しかしやはりシノンをじっと凝視する。
「ミッション……コンプリート」
仕留めて木の最期を見届けたシノンは、そう満足げに呟き、炎に背を向けて佇んだのだった。
「結局……Pohは逃げちゃったね」
「あいつが何者だったのか……そしてどうやってあれを操っていたのか、まるでわからない事だらけだ」
夜が明けたフィールドを、ユウキ達が一塊になって歩いていく。
丸一晩かかってしまった騒動を終え、大きな謎を残したまま宿への帰路に就きながら、姿を消した狂人の事を思い浮かべる。
あの男の目的は、いまだにわからない。しかしこれだけで終わるとはとても思えず、何故か再び退治するような気がして、落ち着かないでいた。
「にしても凄かったよね〜、シノンの変身! 人が変わったみたいだったよ」
「ホント、誰かさんみたいにね」
「そーそー……ん? それは一体どういう意味かな?」
感心した声を漏らすユウキにぼそりと呟いたアスナに、一瞬固まったユウキからじろりと胡乱気な目が向けられる。
二人のやり取りに苦笑を浮かべていたシノンは、しばらくして自分のアイテムメニューの中に表示された二つのアイテムを見下ろし、眉を顰める。
ユウキとアスナ、二人の下に表れたアイテムと全く同じアイテムは、文字欄の中でも異様な存在感を放っていた。
「これは結局、なんなのかしら?」
「さぁね。ボクやアスナもそれを持ってるけど、誰かから送られてきたものだって事しかわからないんだ。差出人へ不明のまま」
「…あなたたち、よくそんなもの使い続けているわね」
得体の知れない代物を躊躇いなく使い続けている二人に、シノンは思わず戦慄の目を向ける。
これがあったおかげで助かったのは事実だが、疑わずにはいられない自分がおかしいのかとも思ってしまうが、キリトの表情を見る限りそうではないらしい。
「ボスキャラ達に起こる異変……謎のアイテム……PK……これも全部、茅場晶彦の目論見なんだろうか」
「この世界に来たばかりの私には、到底想像もつかないわね。でも―――」
危険が蔓延る世界。それはゲームのシステムだけではなく、巻き込まれた人間にも含まれている事がよくわかった。
明日への希望など、まだ全く持てないままであるが、シノンの表情は何処か明るく、気楽そうに見えた。
「これがあれば多分…やっていけると思う。ホント、どうしてそう思うのかはわからないんだけどね」
ふっ、と微笑み、シノンが三人に向かい合う。
これまでの不安さが薄れた、何となくではあるが信頼を得た表情で、自身を助け、導いてくれた彼女達を見つめる。
「世話になっちゃったわね。この借りはいつか必ず返すわ……じゃあね」
「! え、どこ行くの⁉」
「もうこれ、何故だか使えなくなっちゃってるもの。また使えるようになるまで、これに頼り切らないようにレベル上げでもしてくるわ」
アイテムメニューを指差し、苦笑を浮かべるシノンに驚きつつ、ユウキは肩を竦め、安堵の顔を見せる。
ずっと傍で付きっきりになる事も考えたが、彼女の様子を見る限り大丈夫そうだ。少なくとも、絶望して自ら命を絶つ様な精神状態には陥っていない。
その事に心の底から安心しつつ、ユウキは心配の眼差しをシノンに向け、尋ねる。
「一緒に行かなくて大丈夫?」
「…大丈夫よ。そうね、そのうち―――あなた達よりも強くなってみようかしら?」
「……シノン、ほんとに変わったね」
「あなた達のおかげよ。…じゃあ、またいつか、どこかで会いましょう」
わざと不敵に答え、案じるユウキ達を宥めたシノンが背を向け、街に向かって歩き出す。
その背が見えなくなるまで、大きく手を振り見送り続ける。
近いうちにまた会えると確信しながら、ユウキ達は新たな友人の門出を祝うのだった。
―――ある少年を除いて。
「……変われていないのは、俺だけか」
そんな呟きを残し、ただ一人キリトは、何も出来ずに終わった自身の手を見下ろしていた。