EXCITE 〜ソード・ライダー・オンライン〜   作:春風駘蕩

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‐7‐ I’m a 仮面ライダー!

 ポリゴンのかけらとなって砕けたディアベル。

 人が一人命を落としたという事実は、それを目の当たりにしていた他のプレイヤーたちにも、大きな衝撃を与えていた。

 

「う……嘘だろ?」

「リーダーが……死んだ⁉︎」

 

 呆然と呟く声が上がる中、ザザッとノイズを走らせたコボルトロードがギラリと目を光らせる。

 新たな獲物を探したモンスターは、大きく口を開き凄まじい咆哮を放った。

 

「グルォォォァァァァァァ‼︎」

「う、うわぁぁぁ‼︎」

「た、助けて‼︎」

 

 コボルトロードの放つ威圧に、ただ一人応戦するユウキを除くほぼ全員が恐怖する。

 もはや彼らには、目の前いる異形はただの敵キャラと思えない。自分たちの命を奪う、本物のモンスターとしか認識できなくなっていた。

 

「なんで……なんでや、ディアベルはん。リーダーのアンタがなんで最初に」

 

 キバオウはただ呆然と立ち尽くし、あっけなくこの世を去ったディアベルのいた場所を見つめ続ける。

 その時、喪失感に苛まれていた彼の肩を掴む者がいた。

 

「へたっている場合じゃないだろ‼︎」

「な……なんやと?」

 

 我に返り、きっと睨み返してくるキバオウに、キリトは厳しい表情で告げる。

 キリトとて、まだ完全に立ち直ったわけではない。だが彼は、ディアベルから託された彼は立ち止まっているわけにはいかなかった。

 

「E隊リーダーのアンタが腑抜けていたら仲間が死ぬぞ! いいか、センチネルは湧き出る。そいつらはアンタ達が対処するんだ!」

「……なら、ジブンはどうすんねん、一人とっとと逃げようちゅうんか?」

「そんなわけあるか……決まっているだろ? ボスのラストアタックを取りに行くのさ」

 

 訝しげに睨みつけるキバオウに背を向け、キリトは再び剣を握りしめる。

 気づけば、へたり込むプレイヤー達の元に新たに現れたコボルト達が襲いかかろうとしている。

 キリトは自分自身を落ち着かせ、この状況に最適な解を導き出した。

 

「全員! 出口方向に下がれ! ボスを囲まなければ、範囲攻撃は来ない!」

 

 ユウキが縦横無尽に飛び回り、コボルトロードの注意を惹きつけている間に、キリトは一人でも多く生き残らせるために喝を入れる。

 コボルトロードの野太刀を躱したユウキが、そこへ飛び退ってきた。

 

「ボクもいくよ、キリト!」

「私のこと、忘れてるんじゃないでしょうね?」

 

 不敵に笑うユウキと同じように、アスナが少しだけ不満げにキリトに問う。

 他に動けるプレイヤーはいないが、キリトは心強さに胸を熱くし、フッと笑みを返した。

 

「手順はセンチネルと同じだ!」

「よっしゃ!」

「ええ!」

 

 小さく頷きあい、ユウキ達は一斉に異なった方向へ走り出す。

 最も早くコボルトロードの足元へたどり着いたユウキは、振るわれる野太刀に全力でスキルをぶつけまくった。

 

「いやあああ‼︎」

 

 攻撃が攻撃となる前に、剣をぶつけることでユウキはコボルトロードの斬撃を無効化させる。

 剣の激突により攻撃を逸らされ、体勢を崩したコボルトロードに今度はキリトが突進した。

 

「スイッチ!」

「はぁぁぁ‼︎」

 

 キリトがコボルトロードの野太刀を抑え込み、アスナの刺突のための道を作る。

 二人の動作の間に目立ったタイムラグはなく、思わずユウキが唸るほどに見事な息の合わせようを見せていた。

 

「あの三人、ただもんじゃねえぞ!」

「それに、あのチビの方! ボスのソードスキル、全部キャンセルしてやがる!」

 

 ユウキの異常なほどの剣技と、キリトとアスナのコンビネーションによって、みるみるうちにコボルトロードのHPが削られていく。

 必死にコボルトの相手をするプレイヤー達の間に、少しずつ希望の光が見え始めた。

 その時だった。

 

「……何だ?」

 

 コボルトを斬り伏せたエギルが、視界の端に映った違和感に眉間にしわを寄せる。

 異常を感じたのは彼だけではなく、どうにか自分の身を守ることに専念していたプレイヤー達も、コボルトロードに起こり始めた異変に戸惑いの声を上げ始めた。

 

「グオオオ}#>|;_#%>^^<|>>^‼︎」

 

 自分を攻撃するキリト達を重点的に攻撃していたコボルトロードが、さらに強まったノイズとともに奇妙な反応を見せ始めた。

 意思のないはずのボスモンスターが、自身の異常に苦しむかのように体を悶えさせ始めたのだ。

 

「な…何だ⁉︎」

「ちょっと……これってゲームの仕様とかじゃないの⁉︎」

 

 キリトがこぼした困惑の声に、アスナは目を見開いて聞き返す。

 βテスターでさえ知らない異変に誰もが立ち尽くす中、コボルトロードはいよいよその異変を外見に表し始めた。

 

「|}^!,{.]%‘+“#^<{;<^>;{^*$>}<<”“‼︎」

 

 コボルトロードの体表に、いくつものオレンジ色の腫れのようなものが吹き出し、全身に広がっていく。

 ぶくぶくと全身を焼けただれたように変形させるその姿は、ガン細胞を思わせるおぞましい光景を作り出していった。

 

「何アレ⁉︎」

 

 ユウキが驚愕で声をあげると、異形となったコボルトロードは異様に膨れ上がった腕を振り回し、胞子のような何かをばらまく。

 空中に四散したそれはコボルトやプレイヤー達に張り付き、次の瞬間コボルトロードと同じように腫瘍となってまとわりつき始めた。

 

「うわ…うわあああ‼︎」

「な、なんだよこれ⁉︎ 体が…⁉︎」

 

 放たれた胞子は、毒や麻痺のようにHPや行動制限をかける状態異常とも異なる、プレイヤー自体に感染していく。

 プレイヤーという情報の塊に対し取りつき、破壊していくその光景はまさに、仮想空間内のパンデミックであった。

 

「どんどん増えてる……まるでウィルスみたいに」

「こんな変化、ありえないぞ⁉︎ どんなクソゲーだよクソッタレ‼︎」

 

 敵も味方も関係なく、コボルトロードが放つウィルスによって次々に命が脅かされていく。

 加えて、ただのプログラムのはずのコボルトロードが、苦悶の咆哮を放ち滅茶苦茶にあたりに攻撃を始めた。

 

「攻撃パターンまで変化してる…! どうなってるんだ…⁉︎」

 

 キリトとユウキ、アスナが開きかけた希望が、全くの予想外の展開によって塗りつぶされていく。

 感染したプレイヤーも、まだそうなっていないプレイヤーも、今度は自分に降りかかった死の予感で恐怖に脅かされていた。

 

「いやだ……いやだぁぁぁ‼︎」

「死にたくない…死にたくないよ‼︎」

 

 ゲームの中で病に苦しむという、理解の及ばない現象に誰もが立ち上がる勇気を失ってしまう。

 呆然と立ち尽くし、言葉を失っていたアスナは、悲痛な表情で歯をくいしばるとキッとコボルトロードを睨みつけた。

 

「くっ…!」

「アスナ!」

 

 明らかな元凶であるコボルトロードに突撃しようとするアスナだったが、突如彼女も苦痛の顔で膝をついた。

 いつの間にか彼女の肩にもウィルスが張り付き、徐々に彼女の体を侵し始めていたのだ。

 

(どうすればいい…! 一体どうしたら…‼︎)

 

 あちこちで上がる悲鳴と絶叫、そして異形となり予測不能の反応を見せ続ける敵モンスター。

 どこからどうやって対処すればいいのか、ユウキは険しい形相で考え込む。

 その時、ユウキはふとあるアイテムの存在を思い出した。

 

「そうだ…これは…?」

 

 攻略に赴く前、いつの間にかプレゼントとして自分のアイテムボックスにおかれていた、差出人のない閲覧できなかったアイテム。

 ユウキが自分のメニューを開いて中を確認すると、件のアイテムが名前を表示していた。

 

「…⁉︎ このアイテム……使えるようになってる」

 

 何の前触れもない、いつの間にか閲覧可能になっていたそれを、ユウキは恐る恐る調べる。

〈Gamer driver〉、〈Gashat〉と表記されたそれを、ユウキは目を丸くしながら凝視した。

 

(解放する条件を満たした……? なんで、いつの間に…? それに、まるでこういう展開を待っていたみたいな……そんなの都合のいいゲーム展開みたいな…)

 

 異常事態が起きたと思えば、誰からのものかもわからないアイテムが、「待っていましたさぁ使え」とばかりに鎮座している。

 明らかに怪しさしか感じないユウキだったが、あたりから聞こえてくる悲鳴に首を振り、覚悟を決めてコボルトロードを睨みつけた。

 

「考えてる暇なんてない! これにもし、この状況をひっくり返せるの可能性が宿っているんなら、乗らない手はないっての!」

 

 迷いは一瞬、ユウキはすぐさまアイテム欄から件のアイテムをオブジェクト化し、自分の手元に呼び出す。

 そして現れたのは、淡い緑の箱状のものに、ピンク色のレバーがついた奇妙なもの。

 それに加えて、短剣のおもちゃのような形状のゲームカセットに似たアイテムだった。

 

「ゲーム機…いや、ベルト?」

 

 なんとなく、箱状のアイテムは体に巻くようにできているように思ったユウキが、訝しげに自分の腰の前に当てる。

 すると、アイテムの左側から金属の帯が射出され、ぐるりとユウキの背中を回って反対側に装着された。

 ベルトとなったそれを不思議そうに見下ろし、ユウキは次にカセット型のアイテムのボタンを押してみた。

 

マイティアクションX!

 

 マゼンタの光を放ったアイテムから聞き覚えのない音声が響いた瞬間。

 

 ユウキの全身を、奇妙な鼓動が駆け抜けた。

 

 ユウキの目が突如赤く光り、風もないのに彼女の前髪がふわりと浮き上がる。

 周囲に電子的な波紋が広がると、同時にチョコレート色のブロックがいくつも現れ、あちこちに配置されていく。

 未知の衝動に目を見開いたユウキは、やがてニヤリと口元に不敵な笑みを浮かべた。

 

「プレイヤーの運命は……オレが変える! 変身!」

ガシャット!

 

 なぜかユウキは、それをどうやって使うのかを完全に理解していた。

 カセットの持ち手を上にし、ベルトの左側にある二つの穴のうち右側に入れる。

 すると、ユウキの周囲に色とりどりのキャラクターのセレクトメニューが現れ、ユウキはその一つを手のひらで押した。

 

レッツゲーム! メッチャゲーム! ムッチャゲーム! ワッチャネーム⁉︎

 

 押されたメニューが回転しながら巨大化し、人形を写したスクリーンになると、それはユウキに向かって重なっていく。

 ユウキの小さな体がスクリーンを通り抜けると、ユウキの全身が光に包まれ、新たな装甲が身に纏われる。

 

I’m a 仮面ライダー!

 

 白く機械的な手足に、胸に備わるHPゲージ、そしてマゼンタカラーの逆立った髪を持つゴーグルの顔。

 ゆるキャラのごとき奇妙な戦士が、どんと仁王立ちしてそこに現れていた。

 

「「「「「……………………は?」」」」」

 

 ウィルスに侵されていたプレイヤーも、まだそうでないプレイヤーも、誰もが突然現れた場違いな存在に目を点にする。

 キリトもキバオウもエギルも、戦闘中であることも忘れて、変わり果てたユウキを呆然と凝視している。

 

「…かわいい」

 

 そんな中で唯一、頬を赤くして呟くアスナのことに、誰も気づかなかった。

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