EXCITE 〜ソード・ライダー・オンライン〜   作:春風駘蕩

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‐8‐ I’m a 仮面ライダー!②

 しんと静まり返ったフロアで、ユウキはキョロキョロと辺りを見渡す。

 なにやら騒がしい音とともに、自分の体が何かに包まれた気がしたが、残念なことに手鏡もないいまは自分の姿を確認することもできない。

 

「…ん? え⁉︎ アレ⁉︎ なっ、なんじゃこりゃあああああああ⁉︎」

 

 ややあってから、自分の手や足元を見て、そして全身が奇妙な鎧?に包まれていることに気がつき、ユウキは絶叫した。

 何かものすごいアイテムでも出てくるのかと思えば、全く予想しない展開で完全に平静を失っていた。

 

「ユウキ……お前なんだよ、その着ぐるみは」

「いや、オレにだって何が何だか……あ」

 

 じとりと呆れた視線を向けてくるキリトに、ユウキは慌てて自分も予想外であったことを弁明する。

 しかし詳しい話をする暇もなく、コボルトロードがユウキとキリトの方へと突っ込んできた。

 

「うおっ⁉︎」

「あわわわわわ⁉︎」

 

 キリトはすぐさま跳びのき、ユウキは樽のような体型からは想像もつかない俊敏さで跳躍し、コボルトロードを躱す。

 コボルトロードは標的をユウキに定めたのか、異様に膨れ上がった腕を槌のように振り回し、執拗に彼女を追い立て始めた。

 

「ひやっ⁉︎ ほぁっ‼︎ わひゃあ⁉︎」

 

 狙われるユウキは、生身の時よりもはるかに機敏な動きで飛び回り、コボルトロードを翻弄する。

 声こそ危なっかしい響きであったが、ユウキにコボルトロードの魔の手が届く気配は微塵も見られなかった。

 

「…………あれ? これイケる?」

 

 逃げ回るだけだったユウキは、鎧が思った以上に動きやすいことに気づいて目を瞬かせる。

 そして少しだけ覚悟を決めると、周囲の壁や突起物を足場にしてコボルトロードに挑みかかった。

 

「ほっ、はっ、とぅっ!」

 

 先ほどのような、敵の攻撃を引きつけたりキャンセルさせたりするのではなく、向かってくる攻撃を紙一重でかわして反撃の蹴りを放つ。

 その戦法は、彼女が戦い方のモデルにしている2Dアクションゲーム『マイティアクション』と全く同じものであった。

 

「どりゃああああ‼︎」

 

 空中に配置されたブロックを足場に勢いをつけると、ユウキは真下のコボルトロードの脳天を踏みつける。

 べこっと一瞬平たくなったコボルトロードは、明らかにダメージを受けている反応を見せていた。

 

「やりぃ!」

 

 手応えを感じたユウキが拳を突き上げると、それを見ていた他のプレイヤーたちの表情も徐々に明るさを取り戻していく。

 なにが起こっているかはわからない。ただ、少なくともいい方向に向かっていることは感じ取れていた。

 

「す、すごい…」

「あいつ……なんか性格変わってないか?」

 

 アスナはただ純粋にユウキの戦いに、キリトはいつの以上のハイテンションを見せるユウキに言葉をなくす。

 立ち尽くす今の彼らに、戦いに介入する余裕はほぼなかった。

 

「いいじゃんいいじゃん! このまま一気に決めちゃうぜぇ‼︎」

ガシャコンブレイカー!

 

 調子に乗り始めたユウキの周りに、突如光がともり新たなアイテムが現れる。

 二つのボタンがついた、オモチャのようなハンマーを掴むと、ユウキは近くにあったブロックを叩き割った。

 

高速化!

 

 すると、砕けたブロックの中にあった、メダルのようなアイテムがユウキの体に吸い込まれ、ユウキのステータスの一部を一時的に上昇させた。

 

「ひゃっほう! アイテムゲットだぜ!」

 

 ゲーム内のすばやさを意味するAGIが急上昇し、ユウキはコボルトロードに向かって目にも留まらぬ疾走を開始する。

 凄まじい速度で迫ったユウキが手にしたハンマーで何度も殴られ、コボルトロードは衝撃で大きくよろめいた。

 

「おっとっと⁉︎」

 

 一方、コボルトロードに攻撃を加えたタイミングで高速化の効果が切れたらしく、通常速度になったユウキがたたらを踏む。

 そこへ衝撃から立ち直ったコボルトロードが、ギラリと目を光らせて片腕を振り上げた。

 

「{#<%”?;%*+“{%’*‼︎」

「ヤバ……!」

 

 攻撃直後の硬直の瞬間を狙われ、ユウキは顔を引きつらせて目を見開く。

 しかしコボルトロードの拳が、無防備な少女を狙い放たれようとした時、それを横から弾く二人の剣士の姿があった。

 

「大丈夫…⁉︎」

「一人で戦うなよ、ユウキ!」

 

 体にノイズを走らせたアスナとキリトが、目を丸くするユウキをかばうようにコボルトロードと相対する。

 再びコボルトロードが腕を振り上げた時、その腹に更に思い攻撃が加えられた。

 

「うぉおおおおおおおおお!」

「わっ⁉︎」

 

 横から割って入った巨漢のプレイヤーと盾役たちにより、コボルトロードが思い切り弾かれ、唸り声を上げながら後ずさる。

 驚きで声をあげるユウキを背にし、エギルは不敵な笑みを浮かべた。

 

「あんたらが奴をどうにかするまで、俺達が支える。ダメージディーラーにいつまでもタンクやられちゃ、立場ないからな」

 

 ユウキがその言葉に呆然としていると、それまで聞こえていなかった閧の声が耳に届いた。

 目を向ければ、恐怖ですくみあがっていたプレイヤーたちの何人かが、再び剣を持ってコボルト達に立ち向かっていた。

 

「おらあ‼︎ やったらんかいお前らぁ‼︎」

「「「うおおおおおおおおおお‼︎」」」

 

 キバオウを筆頭に、コボルトロードに攻撃が加えられ、ターゲットがユウキから彼らに替わる。

 ユウキは頼もしさに笑みを浮かべ、ハンマーを構え直した。

 

「よし…! じゃあいくよ‼︎」

 

 エギルや盾役達が押さえている間に、ユウキはもう一度コボルトロードに向かって駆け出した。

 走るユウキの前に立ったキリトが、アニールブレードを跳躍したユウキの足場にし、思いっきり跳ね上げた。

 

「やああああ‼︎」

 

 空中に飛び出したユウキが、真下のコボルトロードの脳天に向けて勢いよくハンマーを振り下ろす。

 バコンッ!とコボルトロードの頭が凹み、苦悶の咆哮を放ちながら後ずさった。

 

「イェイ!」

 

 スタッと華麗に着地したユウキが、背後のキリト達にVサインを見せる。

 見事な着地であったが、どう見てもゆるキャラが愛嬌を振りまいているようにしか見えず、キリトは複雑な心境で笑みを返した。

 

「おい! あれ見ろ!」

 

 その時、沈黙したコボルトロードを監視していたプレイヤーの一人が、ボスに起きた異変に声をあげる。

 コボルトロードの全身に発生していた腫瘍が形を変えて、青い仮装のようなものを形成し始めたのだ。

 そして現れたシルエットに、キリトは大きく目を見開いて驚愕をあらわにした。

 

「…あれは、まさかソルティ伯爵…⁉︎」

 

 青く染まった体に、黒いハットとマントを纏ったその格好は、キリトが現実世界で何度か見たことのあるキャラクターのもの。

 まるでファンタジーのキャラクターがゲームのキャラクターの装いをしているかのような違和感が、キリト達に戸惑いを抱かせた。

 

「あなた、あれを知ってるの⁉︎」

「あ、ああ…マイティアクションXに出てくるボスキャラだ……ってなんで別のゲームのキャラのコスプレしてるんだよ、あのボスキャラは⁉︎」

 

 ゲームに詳しくないアスナが問いかけるが、キリトにもなぜ敵があのような格好になったのか検討もつかない。

 絶句するプレイヤー達に向けて、豹変したコボルトロードは、何処と無くナメクジに似た目を向けて口元を歪めた。

 

『レベル1のお前など、相手にもならん…!』

「⁉︎ 喋った…⁉︎」

 

 単なる敵キャラでしかないはずのコボルトロード…否、ソルティ伯爵が意思を持っているかのように口を聞いたことで、プレイヤー達はより一層混乱する。

 そんな彼らにソルティ伯爵は、奇妙な左腕の籠手を構えて嘲笑の声を上げた。

 

『フフフフ…』

「ふぅ〜ん…なんだかよくわかんないけど、あいつを倒せば万事解決しそうだね。よし…じゃあ本気出すか!」

 

 明らかに敵が強化されたことにも構わず、ユウキは不敵な態度を崩さない。

 そして彼女は、ビシッと左腕を斜め上に向け、右手でベルトのレバーをつかみ、反対側へと勢いよく倒した。

 その直後、ユウキはさらなる変身をその場にいた全員に見せつけた。

 

「大、変、身!」

ガッチャーン! レベルアップ!

 

 最初の変身の時と少し異なるスクリーンが出現し、ユウキの体と重なる。

 するとユウキが力強く跳躍し、ブロックを足場にしながら宙に舞うと、纏っていた装甲が弾け飛んだ。

 

マイティジャンプ! マイティキック! マイティ・マイティアクションX‼︎

 

 重い装甲を脱ぎ捨てたユウキが、くるくると宙を舞って着地する。

 マゼンタカラーのインナーに、HPゲージとボタンを備えた胸当とメカニカルな四肢のアーマー。

 黒いラインの入った腰布を翻し、ユウキは右手を胸の前に、左手を後ろに伸ばして膝をつく。

 そして、アニメチックな目の入ったゴーグルを光らせ、顔をあげたユウキが片手を掲げて立ち上がった。

 

「ノーコンティニューで……クリアしてやるぜ!」

 

 勇ましく宣言したその姿は、まさに彼女が戦いのお手本としていたアクションゲームのキャラクター、マイティに酷似していた。

 

『しょっぱいことをしてくれる…!」

 

 身軽になったユウキを目の当たりにし、ソルティ伯爵は片手を掲げる。すると、あたりで他のプレイヤー達を相手にしていたコボルト達がユウキの方に顔を向けた。

 腫瘍に侵されていたコボルト達は、その顔をオレンジ色の気味の悪い形状に変えると、一斉にユウキに向かってなだれ込んで行った。

 

『フハハハハ‼︎』

 

 嘲笑の声をあげるソルティ伯爵を睨みつけ、ユウキはもう一度ハンマーを構える。

 そして向かってくるコボルト達を、片っ端から殴り倒していった。

 

「どりゃあああ‼︎」

 

 他のプレイヤーには目もくれず、ユウキを一番の脅威と認めた彼らは、おびただしい数でユウキに襲いかかる。

 しかしユウキはそれを物ともせず、全身走行時よりも格段に上がった機動力で、コボルト達を圧倒していった。

 

ジャ・キーン!

「いっくぜぇ!」

 

 ユウキはハンマーに備わったボタンの片方を押し、ハンマーから刃を突出させる。

 一振りの剣へと形を変えた得物で、ユウキは迫り来るコボルト達を次から次へと薙ぎ倒していった。

 

「やああああ‼︎」

 

 最後の一体を斬り捨てると、コボルト達はバタバタと倒れこみ、炎を噴き上げて爆散していった。

 ポリゴンのかけらさえも消滅し、跡形もなくなったところで、怒り心頭といった様子のソルティ伯爵が駆け出した。

 

『ぐぬぅぅぅ…! おのれ!』

 

 ソルティ伯爵の籠手が雷電を纏い、ユウキを狙って突き出される。

 ユウキはまるで攻撃を予測していたように軽々とそれを躱し、反対に懐に入って巨体の腹を思い切り斬りつけた。

 

「せいっ!」

『ぐぬぅっ!』

 

 ソルティ伯爵は続けて何度もユウキに雷電を浴びせかけようとするが、ユウキは縦横無尽に周囲を飛び回り、容易にソルティ伯爵を近づかせない。

 ソルティ伯爵はまともな一撃一つ入れられず、ユウキから食らった斬撃により大きく後退させられたのだった。

 

『ぐはぁっ⁉︎』

「さぁ、フィニッシュは必殺技で決まりだ!」

ガシャット! キメワザ!

 

 膝をつくソルティ伯爵をひと睨みし、ユウキはベルトのカセットを引き抜くとフッと息を吹きかける。

 それをベルトの右側に装着されたスロットに差し込むと、ユウキの右脚にアニメチックな電流のエフェクトが発生し始めた。

 

マイティ・クリティカルストライク‼︎

 

 高密度のエネルギーを纏い、ユウキはグリグリと足首を回して準備を整える。

 トントンと軽く跳ねると、ユウキは不敵な笑みを浮かべたまま、力強く空中に飛び出した。

 

「いやああああああああああ‼︎」

 

 立ち上がろうともがくソルティ伯爵に、ユウキの強烈な飛び蹴りが炸裂する。

 一発だけではなく、二発三発と猛烈な勢いで蹴りを食らわされ、ソルティ伯爵は火花を散らしながらそれを受け止めるばかりであった。

 

『ぐあああああああああああ‼︎』

会心の一発ぅ‼︎

 

 断末魔の叫びをあげたソルティ伯爵が、次の瞬間爆炎に包まれて体を四散させる。

 その姿が消えると、後に残されたのは元の姿に戻ったコボルトロードが一体のみであった。

 

「キリト! ラスト一発、叩きこめぇ‼︎」

 

 着地したユウキに呼ばれ、目を奪われていたキリトはハッと我に返る。

 コボルトロードは、フロアボスはまだ倒されてはいない。まだ第一層の攻略は、ディアベルの悲願は果たされてはいないのだ。

 

「う……ぅおおおおおおお‼︎」

 

 覚悟を決め、雄叫びをあげたキリトが剣を振り上げ、硬直状態にあるコボルトロードに向かって突撃を開始する。

 振るわれた斬撃が、コボルトロードの体に深い裂傷のエフェクトを刻むと、コボルトロードは一瞬その体を膨れ上がらせ、ポリゴンのかけらとなって砕け散った。

 

【GAME CLEAR】

【Congratulations】

 

 そして、フロアボスの最後の悲鳴が響き渡る迷宮最奥に、二つのアナウンスが表示されたのだった。

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