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――聖グロリアーナ女学院――
好子「ねえ、急にスカウトに行こうだなんて言ったけど、聖グロのチームで戦車道やってる人を引き抜くなんて無茶だと思うよ」
しほ「目星は付いてる。チームに所属していないが、砲撃の名手になり得る人物だ」
好子「砲撃の名手・・・そんなすごそうな人ならなんで戦車道やってないの・・・?」
しほ「いたぞ。あれだ」
百合「ふんふんふふ~ん♪」スキップスキップ♪
好子「お弁当持ってスキップしてるあの子?」
しほ「名を五十鈴百合。我々と同じ一年生だ。元々は華道の家元の人間だが、思春期特有の反抗期故、華道を嫌い、親に反発して家を飛び出したそうだ」
好子「どうしてそんなことまで知ってるの?」
しほ「ツテで情報を集めたんだ。彼女は親や華道への反発のために、あえて茶道をやってみようと、聖グロリアーナに入学したという」
好子「茶の種類が違うと思う」
しほ「ああ。本人も入学してから気付いたらしい。今まで華道一筋な生活だったせいか、高校進学以降は色々なことに挑戦しているそうだ」
しほ「弓道、クレー射撃、ダーツ・・・数々の体験入部で叩き出した記録は全国レベルに匹敵し、各部から勧誘されているが、本人は自由に色々やりたいとフリーでいる」
好子「なにそのゴルゴ13みたいな子・・・で、その子に砲手をやってもらおうって訳だね」
しほ「上手くいけばな。話をしてくる」
しほ「五十鈴百合」ザッ
百合「あら、ごきげんようでございますわ」ペコ
しほ「私は黒森峰の一年生、西住まほ。あなたに話があって来た」
百合「あら?ごきげんようでござんす・・・でしたっけ?ごきげんようでごじゃる・・・だったかしら?」ハテ
しほ「突然だが、私は今、戦車道チームを組織している。あなたの噂を聞き付け、はるばるこの学園艦まで来た」
百合「ごめんなさい。私、せいぐろの生徒らしいお嬢様言葉というのがまだ上手く話せなくて、聞きづらいでしょう?」
しほ「私と一緒に戦車に乗ってほしい。乗るか、乗らないか?」
百合「それで、わたくしに一体どういうご要件ですか?」
好子「ちょっと待って。二人とも一方通行すぎ」
しほ「・・・」
好子「ちょっと代わって。私が話すから」グイ
しほ「むう」
百合「ごきげんようでござる。あら?ごきげんようでありんす・・・ごきげんようで・・・」エート
好子「五十鈴さん、私の目を見て」ガシッ
百合「わ、はい、なんでしょう」
好子「私は秋山好子。一緒に戦車道をやってくれる人を探してるの」
百合「あら」
好子「あなたなら一緒にやれそうって思って誘いにきたの。それで、こっちは西住しほちゃん。私の友達」
しほ「えっ」
好子「なに?友達でしょ?私達」
しほ「・・・その・・・えと・・・ああ」
百合「まあ、戦車道?お母様が大嫌いな鉄と油まみれのきったねぇ泥んこ競技ですね」
好子「お淑やかな人だと思ったけど口は悪いね」
しほ「戦車道を馬鹿にしたらひどいぞ」メラメラ
好子「あのね、百合さんは射撃の名手だって聞いたんだ。弓道部でもクレー射撃部でもダーツ部でもすごく上手だったって」
百合「はい!わたくし当てるの得意なんです。私の手から放たれたものが、目指した目標をスパンと射抜く様がとてもとても気持ちがよくて・・・」ウットリ
好子「それじゃあ、私達と一緒に戦車道やってみる気はない?きっと楽しいよ。大砲も撃てるし」
百合「戦車道・・・きっとウチの親は大反対します。家を飛び出し華道を捨て、あろうことか戦車道などやれば勘当されるのは必至・・・五十鈴流から永久追放されるやも・・・」
しほ「・・・」
好子「・・・」ゴクリ
百合「私、戦車道やります!」
好子「やったぁ!」
しほ「本当か」
百合「はい!泥んこまみれの戦車で暴れ回りたいです!こ~んな感じで。ぎゃごごごご!どーん!ぴゅーんぴゅぴゅーん!ぶしゅー!どっかーん!・・・嗚呼、胸が躍ります!」ウットリ
好子「とんでもないヒネくれ者だけど友達が増えたよ!やったねしほちゃん!」ピョンピョンブンブン
しほ「・・・う、うむ」ユサブラレ
好子「これからよろしくね百合ちゃん!」ギュ
百合「はい、こちらこそよろしくしてございませ」ギュ
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沙織「――・・・まさか華のお母さんまで・・・」
華「びっくりして空いた口がふさがりません・・・まさかお母様が・・・」
麻子「世間狭すぎ」
優花里「でもおかしくないですか?五十鈴殿のお母さん、あんなに戦車道を嫌ってるのに」
好子「高校時分の百合ちゃんはとにかく実家に反発してて華道が嫌いだったけど、大人になるにつれて考え方も穏やかになっていったの」
好子「反抗期が終わってからちゃんと華道を修めて、五十鈴流を継いだのよ。皆もあるでしょ?一時自分じゃないくらい変な思考になってた時期って」
麻子「黒歴史というやつか」
沙織「華道アンチがいきすぎて戦車道に・・・って、納得できるかぁ!」
みほ「それで、華さんのお母さんを含めた3人はその後どうしたんですか?また新しい仲間を探しに行ったんですか?」
好子「いいえ、しほちゃんは3人いれば戦えるって言って、私達だけで活動を始めることにしたの」
好子「私も百合ちゃんも戦車道未経験だし、少しでも早く慣れておかないとってね。でもその前に大きな大きな問題があった・・・戦車を手に入れなきゃダメだったのよ」
優花里「そっか。戦車も無いのに戦車道はできないもんね」
沙織「でも戦車を手に入れるってどうやって・・・」
好子「盗むの」
沙織「え”っ」
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――戦車喫茶〈ルクレール〉――
好子「戦車を盗む!?」ガタ
しほ「人聞きが悪いぞ秋山。それと、店の中で大声を上げるな」
百合「わたくし泥棒ってやったことないのでわくわくします」ワクワク
しほ「正確には泥棒ではない。使われていない戦車を使うんだ。黒森峰にはたくさん戦車があるが、修理を待ったまま倉庫で眠っている戦車もある。それを盗む」
好子「ほらほらほら!盗むって正確に言ってるよ!」
百合「でも使われていないものなら誰にも迷惑をおかけにならないのでは?」
しほ「その通り。戦車が買えるような大金などないしな。私のおこづかいは月500円だからな」
好子「しほちゃんの家って西住流の家元なんでしょ!?戦車くらい貸してもらえないの!?」
しほ「これは私達の戦車道だ。家の力を借りたくない」
百合「ではわたくしがウチから大金をかっぱらってきましょう!きっと両親ともども怒り心頭まっさかさま!」ガタ
好子「百合ちゃんは何もしないで」
しほ「秋山、他に手があるか?戦車が無いことには、戦車道など出来ないぞ」
好子「・・・・・・はあ、わかったよ。使われてない戦車なら大丈夫かな・・・」
しほ「よし、これで全会一致だな。この珈琲を飲み終えたらすぐに黒森峰に向かおう。今からなら夜には着く」ズズ・・・
好子「はあ・・・手持ちの少ない女子高生にゃ、コーヒー一杯が関の山だね」ズズ
百合「この喫茶店、小さいけれど戦車を連想させる内装が素敵ですね。窓辺から見えるマロニエの木がまた風情があって・・・」
好子「へ~、あの木、マロニエって言うんだ。さすがは華道の家元さん」
百合「ハッ!・・・い、いえ、華道なんて大っきらいです!マロニエさん!あっちに行ってください!シッシッ!」
しほ「無茶苦茶を言うな」
好子「しほちゃんが言わないで」
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――黒森峰女学園――
コソコソコソ・・・
百合「抜き足さし足忍び足♪お酒を飲んだら千鳥足♪」スキップスキップ
好子「百合ちゃん静かにしてよ!」シーッ
百合「あら、ごめんなさいませ。ついウキウキしちゃいまして」テヘ
好子「変わり者にしても度が越えてるよ・・・」
しほ「この倉庫だ。見回りが来る時間は把握しているが、手早く済ませるぞ」ギイーッ・・・
パンター<・・・ ティーガーⅡ<・・・ マウス<・・・
好子「わぁ・・・戦車がいっぱい・・・これ全部修理する戦車なのか・・・」
百合「鉄の塊がたくさんですね。生け花の花器にいいかも・・・ッハ!か、華道のことなんて考えてございませんよ!」
しほ「あった。これだ。この戦車を私達で使おう」
好子「これって・・・」
ティーガーⅠ<・・・・・・
しほ「Panzerkampfwagen Tiger Ausf.E・・・ティーガー戦車E型・・・鋼鉄の虎だ」
百合「なんだか泥だらけですね。この虎さん」
好子「ほ、ほんとに使っていいのかな?こんな立派な戦車・・・」
しほ「修理待ちの戦車は新しい車輌から優先的に修理される。旧型は修理してもすぐ壊れやすく効率が悪いからな。次から次に修理待ちの戦車が増えるから、古い物はいつまでも放置されている」
しほ「このティーガーは昔から使われていたもので、同型の新しいティーガーがいくつも入って来たものだから、こいつの修理は後に後にと回されているんだ」
百合「ご年配さんなんですね」
好子「と、とにかく早くかっぱらってとんずらしちゃおう!誰か来たら大変だよ!」
しほ「よし、皆、乗るぞ」パカ
好子「・・・これが戦車の中・・・」
百合「なんだか鉄と油のニオイがいっぱいで・・・不思議な感覚です」
しほ「車内を満喫するのは落ち着いてからにしろ。出発するぞ。エンジン点火」カチン
ティーガーⅠ<・・・・・・
しほ「・・・・・・エンジン点火」カチ
ティーガーⅠ<・・・・・・
しほ「・・・あれ」カチ カチ カチ
しほ「あっ、そうか。故障してるから動かないんだった」
好子「しほちゃん」
~ソレカラドシタノ~
しほ「他の戦車から使えそうな部品を拝借した。今はエンジンさえ何とかなればいい。すぐに出発したいが、エンジンが温まるまで少しかかるぞ」
好子「なんにしても早くしてしほちゃん。誰かに見つかる前に――」
百合「しっ・・・誰か来ます」
黒森峰生徒「ふわあぁ~・・・夜の見回りってホントいやだな~・・・何もなかったら面倒なだけだし、何かあったら大変だし・・・」ポテポテ
好子「どどどどどどうしよう!捕まっちゃうよ!逮捕されちゃうよ!裁判だよ!刑務所だよ~!」
しほ「落ち着け。車内で静かにしていれば気付かれやしない。音を立てずにやりすごすんだ」
ティーガーⅠ<・・・ヴオロロロォン!
しほ「あっ、エンジンかかった」
好子「しほちゃぁん!」
黒森峰生徒「な、なに!?なんの音!?倉庫の中から・・・」バッ
ティーガーⅠ<ドッドッドッドッド・・・
好子「どうするの!?バレちゃったよ!?土下座で勘弁してもらえるかな!?」
百合「ここはワイロをお渡しして・・・」
しほ「強行突破しかない。戦車前進」ガッ
ティーガーⅠ<ギャラギャラギャラギャラギャラ!
黒森峰生徒「わー!」
ティーガーⅠ<グオォン!ギャラギャラギャラ・・・!
黒森峰生徒「あわわ・・・ティーガーが・・・ティーガーが・・・」ワナワナ
黒森峰生徒「ティーガーが自我を持って脱走しちゃったよ~!機械の反乱がはじまった~!今日が審判の日〜!」ヒエー
しほ「どうやらバレていないようだ」
好子「変わった子で助かった・・・」
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――西住邸・戦車整備倉庫(片隅)――
好子「ふうっ・・・こっちは終わったよ、しほちゃん」フーッ
百合「わたくしもお任せされていたお仕事終わりました~。がんばりましたっ」フンス
しほ「ああ、助かった。急ごしらえだが、これなら戦うこともできる」
好子「戦車道流派の本家なんだから、お抱えの整備士の人とかいないの?やってもらったほうがいいんじゃ・・・」
しほ「私達の戦車だ。私達で整備しないでどうする。それに、前も言ったように家の力は借りたくない」
好子「言いたい事はわかるけど、これから本気でやるんだったら、ちゃんとした整備士も必要だと思うよ。しほちゃんだって最低限の整備しかできないんだから」
しほ「むう・・・そうだな」
百合「でもわたくし達だけで戦車をいじるのって、なんだかとっても楽しかったです。今までやったことのない経験でわくわくしました」ニッコリ
好子「たしかに楽しかったね。それでしほちゃん、練習はどこでするの?いつ始める?私、今ちょっと気分高まってるから今からでもいいよ」フンスフンス
百合「わたくしもやる気に満ち溢れてます!これから何をなさるんですか?」フンスノス!
しほ「我々は今から二時間後、試合をする。相手は聖グロリアーナだ」
好子&百合『えっ』