『 魚 安 駅 ( B10F :
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……俺……
海溝について詳しくない俺でも。
そう。
これより以深は、
……更に付け加えよう。
ここは、『
なので、俺は、ぼんやりと、予想していた。
「恐らく、地下11階の看板は、『マリアナ海溝』になる。
それに、『魚安駅』に因んで『魚偏』に『安』と書く、例の深海魚のイラストが、ラストを飾る形で描かれているんだろうな」
と。
しかし、俺の予想したそれは、実際は地下10階の看板であった。
多くの
この看板を見れば、明らかだ。
そして、多くの人達は、この看板を、見なかったのだろう。
薄暗い中の、解りにくい場所。
それなりに疑って探索しなければ、まず見つからないはずだ。
そして、この看板に書かれていることを、俺なりに翻訳すると、つまり、こうなる。
『人間が到達していいのは、
「こひつじ~、まだ~?」
俺は我に返り、『5番』の階段へと視線を移す。
「はやく、おいで~」
地下11階……
「あ、あかりちゃん、もうちょっと、待っててー!」
そう答えながら、俺は、ようやく、最後の最後の、今更になって。
……どうする?
どうすればいい?
俺は、どこに進めばいい?
少し考えたが、ここは海底である。
いや、普通に戻っても、また最初からやり直しになるだけだろう。
じゃあ、どうすれば……。
……
「こひつじ~、はやくきてよ~!
地の底から聞こえてくる少女の声には、少しだけ苛立ちが混じっていた。
「分かった、もう行くよ!」
そう言うと、俺は。
『5番』の階段を。
……
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『5番』の階段を上った先には。
『 魚 安 駅 ( B9F : トンガ海溝 : -10882m )』
の文字が、あった。
以前俺は、簡単な検証を行い、いくつかのことを確認している。
即ち、正しくない階段を使うと、謎の力で強制的に1階に到達するが。
正しい階段を使うと、一般的な物理法則通りの結果になる、と言うものだ。
地下9階から地下10階に下りてきた階段は『3番』。
そして今、地下10階から地下9階に上ってきた階段は『5番』。
通常であれば、1階に戻されることになる。
こんな検証、間違っていればまた多大な労力を払わなくてはいけないので、そうそう誰もやろうとは思わないだろう。
無事に地下9階にたどり着いたということは、これで正解……つまり、やはり、このまま円周率の通りに上層階へと上っていけば、正解ということ、なのだろう。
……ああ、そうか。
円周率を階段の番号に使っているのも。
『
……いや、ヒントを出す意味なんて、ないか。
まあ、もう、そんなことは、どうでも良い。
俺は、スマホで写真を撮っていた『円周率記憶法』の画像を確認しながら、全力疾走で階段を駆け上がった。
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円周率を確認しながら、速度を落とさずに階段を駆け上る。
『3→1→4→1→5→9→2→6→5→3↓
4←8←3←2←3←9←7←9←8←5』
流石に駆け上がりはキツいが、今はそんなことを言っている暇はない。
『 魚 安 駅 ( B8F : フィリピン海溝 : -10057m )』
『 魚 安 駅 ( B7F : ケルマデック海溝 : -10047m )』
階段を駆け上りながら、酸欠状態の頭で考える。
すなわち、『ひさげ あかり』ちゃんの、
改札口の白骨死体について、まるで知らなかったような最初の怯え方は、不自然だ。
彼女は俺が目覚めるより先に起きていたと言う。
であるならば、改札口にも向かわずに地下1階に降りる階段を探していたなんて、小学校低学年ということを差し引いても意味不明である。
『 魚 安 駅 ( B6F : 伊豆・小笠原海溝 : -9780m )』
『 魚 安 駅 ( B5F : 千島・カムチャツカ海溝 : -9550m )』
更に言えば、改札口の白骨死体も、他の階層のミイラも、全員、大人の体格であった。
残されていた遺品は、スーツやカバンなど、全て仕事用の物ばかり。
子供を思わせる白骨や衣服などはなかった。
『 魚 安 駅 ( B4F : ヤップ海溝 : -8946m )』
『 魚 安 駅 ( B3F : プエルトリコ海溝 : -8605m )』
即ち、この駅に連れてこられるのは。
『 魚 安 駅 ( B2F : サウスサンドウィッチ海溝 : -8428m )』
『 魚 安 駅 ( B1F : ペルー・チリ海溝 : -8065m )』
そして、なんと言っても、一番の違和感は。
到達してはいけない地下11階に、
そして、
……恐らく、彼女は、この怪異と、グルであるか、もしくは……。
『 魚 安 駅 ( 1F : 日本海溝 : -8046m )』
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「ハァ……ハァ……」
なんとか地上まで辿り着いた俺は、息を切らせながら、改札口に向かう。
改札口には、先ほどの白骨は何故か無くなっており。
その代わりとでも言うように、シャッターが開け放たれ、眩しい外の景色が、見えていた。
間違いなく、ゴールだ!
俺は、息を整えながらも、出口へと向かおうとする。
「……
驚きで振り返ると、
頬を膨らませた、ひさげ あかりちゃんが、いた。
「はやく、したに、おりよう!」
少女は一転、笑みを浮かべる。
老若男女問わず、皆を幸せにする笑顔。
先ほどまでは、微笑ましく、愛でるべき、守るべき対象であった少女は。
「……ねえ、ねえ、あかりちゃん。
「……ん?
よく、わかんない?」
難しいことなど、何も解らないとでも言いたげなその表情に、俺は……。
……ん?
難しいことなど、何も解らない?
……あっ!
「……あかりちゃんは、もしかして……
「……え?」
俺の声に、少女は戸惑う。
「今、気付いたんだ。
あの、『円周率を覚えている人』が書いてくれた『円周率の覚え方』。
あれのお蔭で俺はここまで辿り着けた、わけだけど。
よくよく考えると、あんなもの、紙に書き起こす意味なんて、なかったと思うんだ。
「……どういう、こと?」
少女は、理解できない話を聞かされているかのように、不思議そうな顔を浮かべた。
「
……
「えっ」
少女は、青い顔をして、戸惑っている。
そんな、少女に向かって。
「……
……
あかりちゃんは、傷ついたような顔をして、怯んだ。
俺はそのタイミングを逃さずに、ダッシュでゴールへと駆け込む。
「
少女は、俺に向かって、手を伸ばしながら、泣いて叫ぶ。
「
少女の声に思わず振り返ると。
彼女は瞳に涙をいっぱいに浮かべて、とても悲しそうに、顔をくしゃくしゃにして、泣いている。
抱えきれない罪悪感とともに、それでも俺は、改札口を飛び越えて、外へと向かう。
出口の光に包まれながら。
俺は確かに、最後に、少女の悲痛な叫び声を、聞いたのであった。
「